主文
1 処分行政庁が原告P1に対して平成17年2月23日付けでした原告P2の保育園入園を承諾しない旨の処分を取り消す。
2 処分行政庁が原告P1に対して平成17年3月23日付けでした原告P2の保育園入園を承諾しない旨の処分を取り消す。
3 処分行政庁は,原告P1に対し,原告P2につき,P3保育園,P4保育園,P5保育園,P6保育園又はP7保育園のうち,いずれかの保育園への入園を承諾せよ。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの連帯負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項から第3項までと同旨。
2 被告は,原告らに対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成17年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 第2 事案の概要本件は,原告P1が,処分行政庁に対し,●等のための●手術を受けてカ ニューレ(のどに開けた穴に常時装着して気管への空気の通り道を確保する 器具)を装着している長女の原告P2につき,保育園への入園申込みをした ところ,処分行政庁が,原告P2について適切な保育を確保することは困難 であるとして,2度にわたって保育園入園を承諾しない旨の処分をしたため,原告P1が,被告に対し,原告P1には児童福祉法24条1項本文所定の 「児童の保育に欠ける」事由があり,かつ,原告P2はたんやだ液(以下 「たん等」という。)の吸引が適切に行われれば,保育園に通園することが できることを理由に,上記不承諾処分は違法である旨主張して,被告に対し, 上記不承諾処分の取消し及び保育園入園の承諾の義務付けを求めるとともに, 原告P2,原告P1及び同原告の妻で原告P2の母である原告P8が,被告 に対し,上記入園申込み等をめぐる被告の公務員の対応等が児童福祉法及び 行政手続法等に反し国家賠償法上も違法なものであり,これにより損害を被 った旨主張して,国家賠償として各自100万円及びこれに対する不法行為 の後である平成17年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の各支払を求める事案である。1 関係法令の定め
(1) 児童福祉法24条1項は,「市町村は,保護者の労働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により,その監護すべき乳児,幼児 又は第三十九条第二項に規定する児童の保育に欠けるところがある場合にお いて,保護者から申込みがあつたときは,それらの児童を保育所において保 育しなければならない。ただし,付近に保育所がない等やむを得ない事由が あるときは,その他の適切な保護をしなければならない。」と規定している。(2) 児童福祉法39条1項は,「保育所は,日日保護者の委託を受けて,保育 に欠けるその乳児又は幼児を保育することを目的とする施設とする。」と規 定している。(3) 児童福祉法43条の3は,「肢体不自由児施設は,上肢,下肢又は体幹の機能の障害(以下「肢体不自由」という。)のある児童を治療するとともに, 独立自活に必要な知識技能を与えることを目的とする施設とする。」と規定 している。(4) 児童福祉法施行令27条は,柱書で「法第24条第1項の規定による保育 の実施は,児童の保護者のいずれもが次の各号のいずれかに該当することに より当該児童を保育することができないと認められる場合であって,かつ, 同居の親族その他の者が当該児童を保育することができないと認められる場 合に行うものとする。」と規定し,その1号で「昼間労働することを常態と していること。」と,その4号で「同居の親族を常時介護していること。」 とそれぞれ規定している。(5) 東大和市保育の実施に関する条例2条は,柱書で「保育の実施は,児童の 保護者のいずれもが次の各号のいずれかに該当することにより,当該児童を 保育することができないと認められる場合であって,かつ,同居の親族その 他の者が当該児童を保育することができないと認められた場合に行うものと する。」と規定し,その1号で「居宅外で労働することを常態としているこ と。」と,その2号で「居宅内で当該児童と離れて日常の家事以外の労働を 常態としていること。」と,その5号で「長期にわたり疾病の状態にあり, 又は精神若しくは身体に障害を有する同居の親族を常時介護しているこ と。」とそれぞれ規定している。(6) 東大和市立P9条例1条は,「この条例は,心身に障害がある就学前の児 童(中略)に対し,自立を助長するために必要な指導及び訓練を行うため, 東大和市立P9(中略)を設置し,その管理及び運営について必要な事項を定めるものとする。」と規定している。
(7) 東大和市立P9条例3条は,柱書で「学園に,次の施設を設ける。」と規定し,その1号で「肢体不自由児通園施設」と,その2号で「知的障害児通 園施設」とそれぞれ規定している。
2 前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により 容易に認めることができる事実等は,その旨付記した。その余の事実は,当事 者間に争いがない。(1) 当事者等
ア 原告P2は,平成▲年▲月▲日,父である原告P1及び母である原告P8の長女として出生した。原告P2は,(略)のため,同▲年▲月▲日, ●手術を受け,以後,空気の通り道を確保するため,カニューレを常時の どに装着し挿入して現在に至っている。(略)。イ 原告P1は,印刷加工等を目的とする株式会社の代表者である。ウ 原告P8は,原告P1の妻であり,上記会社に勤め,その経理事務等を担当する者である。
 (2) P9への入園申込み
ア 原告P1は,東京都知事に対し,平成15年5月16日,東大和市立P 9に原告P2を入園させるため,肢体不自由児通園施設入園申請書を提出 した。この申請に係る入園が承諾されたため,原告P2は,同年6月1日 からP9に通園していた。(乙1,2)イ P9は,心身に障害のある就学前の児童に対し,自立を助長するために必要な指導や訓練等の早期療育を行い,児童の福祉増進を図ることを目的とした施設である。(乙9) (3) 保育園への入園申込み
ア 原告P1は,処分行政庁に対し,平成16年3月2日,原告P2の平成 16年度保育園入園申込書を提出して,保育園入園申込みをした。イ 処分行政庁は,原告P1に対し,平成16年3月8日,入園申込書を受 理しない旨を電話で通告し,その後,入園申込書一式を原告P1に返却し た。ウ 原告P1は,処分行政庁に対し,平成17年1月20日,希望保育園を 社会福祉法人P4保育園として,平成17年度の保育園入園申込みを行っ た。エ 処分行政庁は,原告P1に対し,平成17年2月23日,上記申込みに 係る保育園入園を承諾しない旨の処分をし,これを通知した。オ 原告P1は,処分行政庁に対し,平成17年3月4日,希望保育園をP 3保育園,P4保育園,P5保育園,P6保育園又はP7保育園として, 保育園入園申込みの変更届を提出した。カ 処分行政庁は,原告P1に対し,平成17年3月23日,上記変更届に よる保育園入園を承諾しない旨の処分をし,これを通知した。(4) 審査請求
ア 原告P1は,東大和市長に対し,平成17年4月21日,前記(3)エ及びカの各不承諾処分(以下「本件各処分」という。)に対する審査請求 (以下「本件審査請求」という。)を行った。イ 東大和市長は,原告P1に対し,平成17年8月12日,本件審査請求 を棄却するとの裁決をし,これを原告P1に通知した。(5) 訴えの提起及び仮の義務付けの申立て 原告らは,平成17年▲月▲日,本件訴えを提起するとともに,同日,行政事件訴訟法37条の5に基づき,処分行政庁が原告P2の保育園入園を仮 に承諾すべき旨を命ずることを求める申立て(以下「本件申立て」とい う。)をした(東京地方裁判所平成17年(行ク)第277号仮の義務付け 申立事件)。(当裁判所に顕著な事実)(6) 仮の義務付けの決定 当裁判所は,平成18年1月25日,本件申立てに理由があるものと認め,処分行政庁が原告P2につき,P3保育園,P4保育園,P5保育園,P6 保育園又はP7保育園のうちのいずれかの保育園への入園を仮に承諾すべき 旨を命ずる決定(以下「本件決定」という。)をし,本件決定は,同年2月 3日,確定した。(当裁判所に顕著な事実)(7) 処分行政庁による仮の保育園入園承諾 処分行政庁は,平成18年2月2日,原告P2につきP3保育園への入園を仮に承諾し,その旨原告P1に通知した。原告P2は,同月10日からP 3保育園へ通園している。(乙15,弁論の全趣旨)
3 争点
本件の争点は,次のとおりである。
(1) 処分行政庁が原告P2の保育園入園を承諾しなかったことが,児童福祉法24条1項ただし書にいう「やむを得ない事情」の有無の判断において裁量権の逸脱又は濫用があるものとして,違法であるか。
(2) 原告P1の入園申込みをめぐる被告の職員の対応等について,国家賠償責 任が認められるか。
4 争点に関する当事者の主張の要旨
 別紙のとおり。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実 前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨(各事実の後に付記する。)によると,以下の事実を認めることができる。
 (1) 原告らの状況ア 原告P2は,平成▲年▲月▲日,父である原告P1及び母である原告P 8の長女として在胎●週●日,体重●グラムで出生したが,●のため,● がされ,●の投与を受けた。その後,●は改善したが,原告P2は,(略)等のため,同▲年▲月▲ 日,●手術を受け,以後,カニューレをのどに装着し挿入して現在に至っ ている。(略)。その結果,原告P2においては,気管内にたまるたん等を定期的に除 去することが必要となっており,多ければ1時間に1回程度,通常は2, 3時間に1回程度,風邪気味などであれば30分に1回程度の間隔で, 1回につきおよそ1分間程度,吸引器を用いてたん等の吸引を行ってい る。また,誤えんを避けるために水分にとろみをつけることも必要とな っている。(前記前提事実,甲1の1,弁論の全趣旨)イ 原告P1は,印刷加工等を目的とする株式会社の代表取締役であり, 同社は東京都小平市に所在する。同原告の妻の原告P8も同社に勤務し て経理事務等を手伝っている。また,原告らと同居している原告P8の 母P10(昭和▲年▲月▲日生まれ)は,●,●,●等を患い,月1回 の割合で通院しており,原告P8は,P10の付添い及び日常生活での 看護を行っている。また,原告P1の父P11も,●等にり患しており, 同人の通院等の介護も時折原告P8が行っている。(前記前提事実,甲 2の1,弁論の全趣旨)(2) P9への入園申込み
ア 原告P1は,東京都知事に対し,平成15年5月16日,原告P2をP9に入園させるため,肢体不自由児通園施設入園申請書を提出した。この 申請に係る入園が,入園期間を同年6月1日から同▲年▲月▲日までとし て承諾されたため,原告P2は,同15年6月1日からP9に通園してい た。(前記前提事実,乙1,2)イ 上記申請の際に提出された,原告P2の主治医である社会福祉法人P1 2病院・P13小児科P14医師作成に係る原告P2に関する平成15年 5月15日付け療育意見書には,次のような記載があった。(乙3,弁論 の全趣旨)(ア) 「身体障害者手帳」の欄には,「(略)」と,「障害名」の欄には, 「(略)」と,「障害の原因となった病名」の欄には,「(略)」との 記載があった。(イ) 「現病歴(これまでの経過)」の欄には,「(略)」との記載があった。
(ウ) 「身体の状況」の欄には,「(略)」との記載があった。
(エ) 「知的発達遅滞」の欄には,「(略)」と,「合併症」の欄には「(略)」と,「生活」の欄には,「(略)」との記載があった。
(オ) 「療育方針」の欄には,「(略)。●を受け,唾液の気管への流入も あるため排痰を充分に行い,呼吸状態を安定させる必要がある。」との記載があった。
(カ) 「療育見込期間」の欄には,「平成15年6月1日~平成▲年▲月▲日」との記載があった。
(キ) 上記意見書の末尾には,「上記のとおり,肢体不自由児通園施設での療育が適当と判断します。」との記載があった。
ウ(ア) P9は,昭和47年10月1日に開設され,被告が設置運営を行う施設であり,心身に障害のある零歳から就学前の乳幼児に対し,自立を助 長するために必要な指導及び訓練等,早期療育を行い,児童の福祉増進 を図ることを目的としている。P9の定員は,肢体不自由児が15名, 知的障害児(ただし,東大和市に住所を有する児童)が15名である。
 児童らは,午前10時に登園して「自由あそび」をし,午前10時半か ら「おあつまり」や「グループ活動」を行い,正午には給食を食べ,午 後1時から睡眠や「自由あそび」をして,午後2時半に降園することに なっている。P9では,小児科医,整形外科医,神経科医による身体的 及び精神的な健康管理を行っており,また,理学療法士,作業療法士, 言語療法士,音楽療法士,心理相談員による専門の指導を行っている。(甲8の1,8の2,乙9,前記前提事実)
(イ) P9においては,平成17年度は,主任保育士1名,保育士8名(そのうち2名は臨時職員),看護師3名(そのうち2名は臨時職員)が3 グループ20名の園児を担当しており,臨時職員である2名の看護師の うち1名が日替わりで常時原告P2に対応し,正規職員である1名の看 護師が,全園児の健康管理,医師及び訓練士との調整事務のほか,原告 P2に対応している看護師及び他の職員の休暇の補充要員の役割を果た していた。(乙8)エ 原告P2は,平成17年4月は10日間,同年5月は14日間,同年6 月は16日間P9へ通園した。原告P2のP9におけるたん等の吸引は, おおむね1時間に1回程度,1日平均5回から6回行われていた。例えば, 同年5月9日には,10時50分,11時45分,13時05分,13時 50分にそれぞれ吸引が行われた。P9入園後,原告P2は,医師の療育 意見書に基づく理学療法士による理学療法を受け,身体機能向上に一定の 成果が上がった。(甲4の4,乙5,弁論の全趣旨)オ 原告P2は,平成▲年▲月▲日,衣類を着替える際に介助を拒否したが, その後徐々にぜん嗚が激しくなり,呼吸が困難となり,(略),●の状態 となった。そこで,看護師らが合同で吸引を実施したところ,ぜん嗚が軽 減し,●も消失した。(乙5,10)(3) 保育園の看護師の配置状況 原告P1の入園申込みに係る各保育園(P3保育園,P4保育園,P5保育園,P6保育園,P7保育園)には,看護師が各1名配置されている(前記の仮の入園承諾後は,P3保育園に看護師が1名増員されている。)。な お,平成16年5月17日現在で,全国に約2万箇所ある保育所のうち約4 400箇所に看護師が配置されている。本件要綱は,看護師は「保育士との協力のもとに零歳児の異常の発見,特 に登所時における健康観察を通じての異常の有無の確認及び医師との連絡を 行うほか,健康診断,予防接種の計画及びその実施に対する協力等保健活動 に従事するものとする。」と規定している。また,国が定める児童福祉施設 最低基準(昭和23年厚生省令第63号)33条は,職員について規定して いるところ,保育園における看護師の配置の義務を定めていない。原告P1 の入園申込みに係る前記各保育園には,それぞれ約100名から180名の 園児が通園しており,看護師は,園児全体の看護に当たっている。(甲12, 乙7,12,弁論の全趣旨)(4) 平成16年当時の原告P2の状況
ア 原告P2の平成16年度保育園入園申込書に添付されたP15小児科のP16医師作成の原告P2に係る平成16年2月18日付け診断書に は,以下のような記載があった。(甲1の1,2の1)「病名 ●・●・・・(中略)・・・発達に関しては,定頚6カ月,坐位は1 歳,一人立ちは1歳4カ月,一人歩きは1歳6カ月で可能となっており ます。また,言葉も2歳時ころから,出るようになり,現在は●の使用 も可能となっております。現在,遠城寺式乳幼児分析発達検査表にて, 移動運動●歳●カ月,手の運動●歳,基本的習慣●歳,対人関係●歳● カ月,発語●歳●カ月,言語理解●歳●カ月と良好な発達も認めております。患児は●の児ではありますが,保育園の看護士さんの協力(吸引 等)も得られる状態であり,普通保育園,学級の進むことが,より患児 の成長発達を促し,また患児もそれに対応する能力があると思われます。
 患児が普通保育園,学級に進むことは,東京都心身障害教育改善検討委 員会の最終報告の,今後の東京都の特別支援教育の展開に向けた改善の 方向(第2章)の理念に合致すると思われます。」イ P14医師の作成した平成16年3月4日付け診療情報提供書には, 「傷病名」欄に「(略)」との記載があり,「紹介内容」欄に以下のよ うな記載があった。(甲1の2) 「現在は身体的には呼吸の問題を除き急速な伸びが見られ知的にも順調 に発達しておられます。よって健常児との統合保育が児にとっての発達 に極めて有効かつ必要だと考えます。一方気管からの分泌物,唾液の気 管への流入,誤嚥の可能性などがあり気管内吸引などの医療的ケアが必 要な状況です。気管内吸引は適切な指導を受けた職員が決められた手順 で行えば安全に行える手技であります。また気管カニューレが抜けた場 合も気切孔がすぐには閉じることはなく,これも手技を習得すれば安全 に行うことができます。当院では職員の方へのご指導もお引き受けいた しますし,急変時の対応あるいはご相談にも随時応じていける体制をと る予定ですのでご配慮のほどよろしくお願いいたします。」ウ 原告P2は,P9入園時である平成15年6月1日には身体障害者手 帳●級であったものが,同16年3月4日には身体障害者手帳●級にな った。(甲4の4)エ P14医師が東大和市長にあてて作成した原告P2に関する平成16 年5月17日付け診療情報提供書には,「傷病名」欄に「(略)」との 記載があり,「紹介内容」欄には以下のような記載があった。(甲1の 3) 「原告P1殿が貴市に提出された陳情書の添付資料「危険を伴う『たん の吸引行為』について原告P2殿の主治医として,たんの吸引に際して 引きおこされる恐れのある危害の内容に従って見解を述べさせていただ きたく思います。・・・(中略)・・・【口腔鼻腔内吸引】 ○長時間の吸引が行われると低酸素血症を引き起こす恐れがある。 ・通常は1回の吸引は約10~15秒以内で終了します。吸引時間を定 めてそれを厳守すれば回避可能です。・・・(中略)・・・
【カニューレ内部までの気管内吸引】 ○清潔保持が徹底されないと感染症に罹患する恐れがある。
 ・吸引前に手洗いの励行や清潔操作を厳守することにより回避可能です。 ○長時間の吸引が行われると低酸素血症,肺胞の虚脱,無気肺を引きお こす恐れがある。 ・口腔鼻腔内吸引と同様の理由で回避可能です。
 【カニューレ下端より肺側の気管内吸引】
○吸引によって刺激され,咳そう反射(残存している場合)がおこり, カニューレの位置の移動や抜去による出血,気管切開孔の閉塞の危険性がある。
 ・通常気管内吸引は気管カニューレの先端より先にはチューブを挿入せ ずに吸引いたします。その場合にはこのようなことはおこりません。し かし,もう少し深くチューブを挿入して吸引をしないと十分に排痰でき ない方もいらっしゃいます。その際には医師の指示に従い吸引チューブ の挿入長や,挿入時間などを厳守して家庭で安全に行っている手順に従 って行うことにより十分回避可能です。万が一カニューレが抜去された 際には児の場合は気管切開孔がすぐには自然閉鎖しないため,その際の 対応をきちんと習得していれば十分に対応可能と考えます。 ○清潔保持が徹底されないと感染症に罹患する恐れがある。 ・カニューレ内部までの気管内吸引と同様の理由で回避可能です。 ○気管分岐部の粘膜を傷つけ,出血をおこす恐れがある。 ・通常の医療行為においても気管分岐部以下までチューブを挿入して吸 引することは例外的な場合を除いてありません。よってこのような吸引 は家族にも認めることはありません。チューブの挿入長を制限していれ ばおこりえない事故です。 ○長時間あるいは高い吸引圧での吸引が行われると,抹消部の空気まで 吸引されて低酸素血症,肺胞の虚脱,無気肺を引きおこす可能性がある。 ・口腔鼻腔内吸引と同様の理由および適切な吸引時間を設定することで 回避可能です。 ○迷走神経そうを刺激することにより,呼吸停止や心停止を引き起こす 恐れがある。・気管内吸引が刺激になり呼吸状態が悪くなる方もいらっしゃいますが, その方の場合には日頃からそのような症状が既に見られていることが多 く,そのような方の場合には保育園の職員に医療的ケアを依頼すること は難しいと思います。しかし日頃から安定的に気管内吸引が行われてい る方に急に上記のような症状が出現するということは可能性としてはあ りえますが,日常診療を行っている経験上その可能性は極めて低いと思 われます。もしおこるとすると体調不良であったり呼吸器感染症に罹患 していたりする場合が考えられますが,その際には園をお休みしたり家 族にお迎えに来ていただいたりして対応することになると思います。 ○気管粘膜を傷つけ,粘膜のびらんや気管拡張を招き,気管食道ろうや 大血管穿破による動脈の大量出血により失血死を引きおこす恐れがある。 ・これは気管内吸引を行っている方には十分に注意していてもおきうる 合併症です。特にチューブを深くまで挿入して頻回に吸引する方や気管 内に肉芽を形成しやすい方などに多く見られる合併症です。そうでない 方は日頃から気管内からの出血や肉芽の形成に気をつけ医師の定期的な 診察を受けていれば十分に回避可能です。このような合併症をおこさな いためにもできるだけ吸引チューブの挿入長が短くて済むように調整し ていく必要があります。保育園職員は医師の指示に従い家族のアドバイ スを受けながら吸引を行えば事故は最小限に防げます。上記の危害の内容はあくまで可能性について述べられているものであ って,すべて十分に回避可能であったり仮におこったとしても適切な対 応をしている場合には責任を問えない不可抗力に属する内容と考えます。…(以下略)…」
オ P17耳鼻咽喉科P18医師作成に係る平成16年11月22日付け診断書には,「診断名」の欄に「(略)」との記載があり,附記として 以下のような診断内容の記載があった。(甲1の4) 「●を使用しており,発声も可能で,言語によるコミニュケーションも 問題がない。発達も少し遅れてはいたが,現在は精神発達,運動発達に 問題がない。これからの成長のためには他の子ども達とのコミニュケー ションにより,精神面の発達,身体面の発達がさらに伸びていくことが 期待できる。保育園での経験が児にとって,さらに豊かな人格形成につ ながると期待する。カニューレの管理は母親の管理が上手で脱落防止の テープをカニューレホルダーの上からがっちりとカニューレを固定して おり,脱落することはない。吸引を必要とする可能性があるが,●を使 用しているので,痰は口の方向に出すことが可能である。医学的にも安 全な状態になっている。」カ P17呼吸器科P19医師作成に係る平成16年11月22日付け診 断書には,「診断名」の欄に「●による●障害」との記載があり,附記 として以下のような診断内容の記載があった。(甲1の5)「●を現在まで続けているが,母親は●とその管理についての十分な知識 を有しており,平素の在宅管理に問題を認めない。現在●歳となり,知的 発達にとって重要な時期にあると考えられる。特に同年齢の健常児との共 同生活を行える保育園への通園は,このような知的発達にとって必要不可 欠なものと考えられる。●における吸引については,いまや在宅で広く行われているものであり,医療に関する知識を有する看護師であれば,安全 かつ有効に行うことが出来ると考えられる。またカニューレの事故抜去に ついては,母親が固定法を工夫するなど事故防止に努めており,現在の固 定法で十分に事故抜去を防止できるものと考える。これらの状況にかんが みて,本児が保育園に通園できることが望ましく,可能な限りのご配慮を お願いします。」(5) 平成17年当時の原告P2の状況
ア 原告P2の主治医であるP12病院・P13小児科P20医師作成に係る平成17年9月28日付け診療情報提供書には,「傷病名」欄に 「(略)」との記載があり,「紹介内容欄」には以下のような記載があ った。(甲1の6)「(略)
この2年間における画像所見の改善,知的な伸びは大きく,身体的に は●を除いてほとんど問題ない状況となっております。よって今後の本 児の発達を考えた時,健常児との統合保育は極めて重要であり,その権 利は十分に保障されるべきと考えます。」イ 原告P2は,平成17年11月の時点では,たん等の吸引の必要があ る場合に,自ら申し出るだけでなく,自分自身でチューブの挿入及び吸 引を行うことも可能となっている。また,原告P2は成長に伴い既に鼻 と口からの呼吸も一部可能となっており,成長に伴って完全な自己呼吸 が可能となり,カニューレの装着が不要となる可能性もある。(甲15, 20,22,23,弁論の全趣旨)(6) 保育園への入園申込み
ア 原告P1は,P9の関係者から,原告P2の兄や妹の通う保育園に入園をしてみてはどうかとの助言を受けたことから,処分行政庁に対し, 平成16年3月2日,平成16年度保育園入園申込書を提出して,入園 申込みをした。(前記前提事実,弁論の全趣旨)イ 処分行政庁は,原告P1に対し,平成16年3月8日,入園申込書を 受理しない旨を電話で通告し,その後,入園申込書一式を原告P1に返 却した。原告P1は,これ以後も,原告P2を保育園に入園させようと 処分行政庁や東大和市と折衝するなど様々な行動を続けたが,入園につ いての承諾は得られなかった。(前記前提事実,弁論の全趣旨)ウ 原告P1は,処分行政庁に対し,平成17年1月20日,希望保育園 をP4保育園として,平成17年度の保育園入園申込みを行った。(前 記前提事実)エ 処分行政庁は,原告P1に対し,平成17年2月23日,上記申込み に係る保育園入園について,入園の承諾をすることができない旨の処分 をし,これを通知した。その通知書に記載された不承諾の理由は,以下 のとおりであった。(前記前提事実,甲3の1) 「原告P2様の保育園入園申請につきましては,●をされ,たんの吸引 措置が必要な健康状態であるところから,申請があった認可保育園にお いて通常の集団保育を行うことに支障が無いかどうかを含め,検討を行 ってまいりました。この結果,原告P2様が申請された保育園に入園した場合,市として児童福祉法第24条における適切な保育を確保することが困難との判断をいたしました。」
オ 原告P1は,処分行政庁に対し,平成17年3月4日,希望保育園をP3保育園,P4保育園,P5保育園,P6保育園又はP7保育園として,保育園入園申込みの変更届を行った。(前記前提事実)
カ 処分行政庁は,原告P1に対し,平成17年3月23日,上記変更届 に係る保育園入園について,入園を承諾することはできない旨の処分を し,これを通知した。その通知書に記載された不承諾の理由は,以下のとおりであった。(前記前提事実,甲3の2) 「原告P2様の保育園入園申請につきましては,●をされ,たんの吸引 措置が必要な健康状態であるところから,平成17年1月20日付で申 請があったことに伴い,通常の集団保育を行うことに支障が無いかどう かを含め検討を行なった結果,入園は困難と判断した経過があります。今回の変更届に基く申請については,過去の経過も踏まえ,入園の適 否について検討した結果,原告P2様が申請された保育園に入園した場 合,市として児童福祉法第24条における適切な保育を確保することが 困難との判断をいたしました。」(7) 仮の保育園入園承諾及びその後の状況
ア 処分行政庁は,当裁判所が平成18年1月25日に本件決定をしたことから,同年2月2日,原告P2につきP3保育園への入園を仮に承諾し, その旨を原告P1に通知した。原告P2は,同月10日からP3保育園へ 通園している。(前記前提事実)イ 原告P2は,P3保育園へ入園後,1日当たり4回から7回の吸引を行 っており,風邪をひいていた平成18年2月20日には9回の吸引を行っ た。また,原告P2は,同月16日にはカニューレ挿入部の痛みを訴えた こともあったが,P3保育園での生活をおおむね順調に送っている。(甲 13ないし15,17,乙16ないし18)(8) カニューレの装着状況 原告P2のカニューレの装着状況は,以下のとおりである。(甲20,弁論の全趣旨)
ア カニューレを装着するひもを堅結びにして,そのひもの端を更に粘着力のある布テープで巻く。
イ その上から中心部分にボタンホール及び両端にマジックテープの付いたバンドをする。その際,ボタンホールの穴からカニューレのチューブの先を出し,両端のマジックテープを留める。
ウ その上から人口鼻をカニューレにかぶせ,マジックテープの重なり部分 を更に粘着力のある布テープで留める。
エ 最後に,その上にバンダナをエプロンのように付ける。
2 争点(1)について
(1)ア 児童福祉法24条1項本文は,市町村は,保護者の労働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により,その監護すべき乳児, 幼児又は同法39条2項に規定する児童の保護に欠けるところがある場合 において,保護者から申込みがあったときは,それらの児童を保育所にお いて保育しなければならない旨規定しており,また,同法施行令27条柱書は,同法24条1項の規定による保育の実施は,児童の保護者のいずれ もが次の各号のいずれかに該当することにより当該児童を保育することが できないと認められる場合であって,かつ,同居の親族その他の者が当該 児童を保育することができないと認められる場合に行うものとする旨規定 し,その1号で「昼間労働することを常態としていること。」と,その4 号で「同居の親族を常時介護していること。」とそれぞれ規定しており, さらに,東大和市保育の実施に関する条例2条柱書は,「保育の実施は, 児童の保護者のいずれもが次の各号のいずれかに該当することにより,当 該児童を保育することができないと認められる場合であって,かつ,同居 の親族その他の者が当該児童を保育することができないと認められた場合 に行うものとする。」と規定し,その1号で「居宅外で労働することを常 態としていること。」と,その2号で「居宅内で当該児童と離れて日常の 家事以外の労働を常態としていること。」と,その5号で「長期にわたり 疾病の状態にあり,又は精神若しくは身体に障害を有する同居の親族を常 時介護していること。」とそれぞれ規定している。イ そして,前記前提事実のとおり,原告P1は,株式会社の代表者であり, 原告P1の居宅外で労働することを常態としており,また,妻の原告P8 は,同社に勤務して経理事務を手伝いつつ,病気の母の看護をするととも に,原告P1の父の介護もしていることが認められるから,原告P1及び 原告P8は,居宅外で労働することを常態としており,また,原告P8は 同居の親族の常時介護もしているため,結局,いずれも原告P2を保育す ることができないと認められる場合であって,かつ,同居の親族その他の者が原告P2を保育することができない場合に該当するということができ る。以上のことからすると,原告P1の監護すべき児童である原告P2の 保育に欠けるところがあるというべきであるから,児童福祉法24条1項 本文所定の保育所の入所要件を満たしているということができる。(2)ア 児童福祉法24条1項ただし書は,同項本文の入所要件に該当する場合 であっても,付近に保育所がない等やむを得ない事由があるときは,保育 所への入所以外の適切な保護をすべき旨規定している。イ ところで,児童福祉法1条1項は,「すべて国民は,児童が心身ともに 健やかに生まれ,且つ,育成されるよう努めなければならない。」と規定 し,また,同法2条は,「国及び地方公共団体は,児童の保護者とともに, 児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」と規定して,児童の健 やかなる育成の重要性を強調している。そうすると,同法24条1項に基 づいて,児童の保育に欠けるところのある保護者から申込みがあったとき は,市町村は,当該児童を保育所において保育する際に,当該児童が心身 ともに健やかに育成する上で真にふさわしい保育を行う責務を負うものと いうべきであり,このことは,当該児童が障害を有する場合であっても変 わりはない。そして,真にふさわしい保育を行う上では,障害者であるか らといって一律に保育所における保育を認めないことは許されず,障害の 程度を考慮し,当該児童が,保育所に通う障害のない児童と身体的,精神 的状態及び発達の点で同視することができ,保育所での保育が可能な場合 には,保育所での保育を実施すべきである。したがって,障害のある児童であっても,その障害の程度及び内容に照らし,保育所に通う障害のない児童と身体的,精神的状態及び発育の点で 同視することができ,保育所での保育が可能な場合であるにもかかわらず, 処分行政庁が,児童福祉法24条1項ただし書にいう「やむを得ない事 由」があるとして,当該児童に対し,保育所における保育を承諾しなかっ た場合には,そのような不承諾処分は,考慮すべき事項を適切に考慮しな かったという点において,処分行政庁の裁量の範囲を超え,又は裁量権を 濫用したものというべきであって,違法であると解するのが相当である。ウ そこで,原告P2が,その障害の程度及び内容に照らし,保育所に通う 障害のない児童と,身体的,精神的状態及び発達の点で同視することがで き,保育所での保育が可能か否かについて検討するに,前記のとおり,以 下の事実が認められる。(ア) 原告P2は,平成15年5月ころには,●障害(●障害,●障害), ●障害等を有し,●級の身体障害者手帳を有していた。しかし,その後, 心身の健全な発育と障害の改善がみられ,1カニューレをのどに装着し て挿入しているため,気管内にたまるたん等を定期的に除去する必要が あり,30分に1回から2,3時間に1回程度の間隔で,1回につきお よそ1分間程度,吸引器を用いてたん等を吸引する必要があること,及 び2●障害による誤えんを避けるため,水分にとろみをつけることが必 要となっているという障害が残っている程度で,身体障害者手帳も,P 9へ入園した平成15年6月1日には●級であったものが,同16年3 月4日には●級となっている。(イ) 原告P2の身体的機能は年々回復してきており,上記(ア)の1たん等の吸引及び2の誤えんへの注意の点を除いては,本件各処分の当時は,障 害のない児童とほとんど変わらない身体的機能を有するようになってき ている。原告P2がP9に入園する際の資料であったP14医師の平成 15年5月15日付け療育意見書(乙3。原告P2の●歳●か月当時) において指摘されたような,(略),肢体不自由児通園施設での療育の 相当性,療育見込期間については,その後の診断書,診療情報提供書等 では見当たらず,精神的発達,運動発達にも問題がなくなり,かえって, 保育園に入園し,障害のない児童との集団保育をすることが勧められて いる。また,原告P2は,成長に伴い既に鼻と口からの呼吸も一部可能 となっており,今後,成長に伴って完全な自己呼吸が可能となり,カニ ューレの装着が不要となる可能性もあるとされている。(ウ) たん等の吸引に関しても,P14医師作成に係る平成16年3月4日 付け診療情報提供書(甲1の2)及び同年5月17日付け診療情報提供 書(甲1の3)並びにP19医師作成に係る同年11月22日付け診断 書(甲1の5)によると,たん等の吸引行為には各種の危険が伴うが, いずれも回避可能であるか,あるいは,その事故が起こる可能性が極め て低いものであり,在宅でも広く行われているものであって,原告P2 のような症状の安定した健康状態に近い患者の場合には,医療に関する 知識を有する看護師であれば,安全かつ有効に行うことができるもので あって,殊に原告P2の場合にあっては,医師による保育園職員への指 導や危急時の対応も可能であったと認めることができる。(エ) カニューレの脱落ないし抜去事故については,P21病院小児系病棟における重大な事故の発生例が報告されている(乙11)が,当該事故 は,当時1歳6か月の入院中の幼児の例であり,本件各処分当時,●歳 ●であって,知的機能,運動機能ともに順調に成長しつつあった原告P 2の場合に参考となるものではない。また,原告P2のカニューレは, ひもやバンド等により容易に脱落しないよう固定されているところ,P 18医師作成に係る平成16年11月22日付け診断書(甲1の4), P19医師作成に係る同日付け診断書(甲1の5),P20医師の陳述 書(甲19)及びP16医師の陳述書(甲23)によると,その固定法 で十分に事故抜去を防止することができると認めることができたもので ある。また,万一,事故抜去が生じたり,たん等の吸引の遅れ等が生じ たとしても,原告P2の年齢,精神発達,運動発達の状況,看護師等の 存在,さらには,主治医の協力等を考えると,それが重大事故に発展す る可能性は極めて乏しかったというべきである。(オ) 誤えんに対する注意については,保育士によっても可能であったこと が明らかである。(カ) 原告P1の希望する保育園には,いずれも看護師1名が配置されてい た。(3) 以上の事実関係によれば,原告P2は,平成15年当時は,種々の●障害 等を有していたものの,成長につれてこれが改善され,本件各処分当時は, 呼吸の点を除いては,知的及び精神的機能,運動機能等に特段の障害はなく, 近い将来,カニューレの不要な児童として生活する可能性もあり,医師の多 くも,原告P2について障害のない児童との集団保育を望ましいとしているものであって,たん等の吸引については,医師の適切な指導を受けた看護師 等が行えば,吸引に伴う危険は回避することができ,カニューレの脱落等に ついても,十分防止することができたということができる。したがって,本件各処分当時,原告P2については,たん等の吸引と誤 えんへの注意の点について格別の配慮を要するものではあったが,保育所 に通う障害のない児童と,身体的,精神的状態及び発達の点で同視するこ とができるものであって,保育所での保育が可能であったと認めるべきで ある。そうであるとすると,原告P2の保育所での保育が困難であって,児童 福祉法24条1項ただし書にいう「やむを得ない事由」があると判断した 処分行政庁の判断は,上記事情を考慮すべきであるにもかかわらず考慮し なかったという点において,裁量の範囲を超え,又はその裁量権を濫用し たものというべきである。したがって,原告P2の保育所入所を承諾しな かった本件各処分は,違法であるといわざるを得ない。(4)ア(ア) これに対し,被告は,現在,各保育園に勤務する看護師は,零歳児保 育特別対策事業を実施するために配置されたものであり,たん等の吸引 などの医療行為を必要とする特定の児童のために配置されたものではな い旨主張する。(イ) しかしながら,被告の主張する本件要綱は,その1条で,「この要綱 は,・・・(中略)・・・区市町村が,児童福祉法(以下「法」という。)第 24条の規定に基づき保育を実施する児童の在籍する保育所について, その児童の処遇の改善及び保育所の運営の充実を図るため支出した費用に関し,東京都が地方自治法第232条の2の規定に基づき,補助する 事業を規定し,もって児童の福祉の増進を図ることを目的とする。」と 規定しており,本件要綱が東京都の補助すべき事業の対象を定めるもの にすぎないことは明らかである。そうすると,本件要綱3条柱書で「区 市町村が,法第24条の規定に基づき法第39条に規定する保育所にお いて保育を行う児童を対象として行う次に掲げる事業を対象とする。」 と定め,同条1項表題で「零歳児保育特別対策事業」と,同項(1)-A 号で「零歳児保育を推進するため,次の各号の要件を満たす公立保育所 及び社会福祉法人等立保育所の運営の充実を図るために行う事業をい う。」と定め,さらに,同号の中の(カ)において,「保健師又は助産 師若しくは看護師(以下「保健師等」という。)を1名配置すること。
 ・・・(中略)・・・保健師等は,保育士との協力のもとに零歳児の異常の発 見,特に登所時における健康観察を通じての異常の有無の確認及び医師 との連絡を行うほか,健康診断,予防接種の計画及びその実施に対する 協力等保健活動に従事するものとする。」とそれぞれ定めているものの, これらの規定は,補助対象事業を定めているものであり,実際に保育所 に配置された看護師が,零歳児に対する健康観察等のほか,たん等の吸 引等の医療行為を必要とする特定の児童のためにも働くことを妨げるも のではないというべきである。その他,本件全証拠を精査してみても,看護師がたん等の吸引等の医 療行為を必要とする特定の児童のために働くことを妨げる根拠は見当た らない。逆に,衆議院第159回通常国会における決算行政監視委員会第3分科会の平成17年5月17日付け議事録(甲12)によれば,同 日の審議において,P22議員が,原告P2を想定した●の児童に関す る保育所入所の可能性に関する質問をしたのに対し,政府参考人である P23厚生労働省雇用均等・児童家庭局長(当時)は,「たんの吸引と いうことが,これが医療行為とされておりますことから,保育所に看護 師が配置されておるかどうかということが決め手になるわけでございま す。現在全国に2万カ所ございます保育所のうち,看護師が配置されて おるのが4千4百カ所程度でございます。・・・(中略)・・・こういったと ころでは状況によっては受け入れが可能ではないかと思います」と回答 していることが認められ,この回答も,看護師がこうした職務も行い得 ることを示すものと評価することができる。以上によれば,被告の前記(ア)の主張を採用することはできない。 イ(ア) また,被告は,東大和市内の各保育園には,約100名から180名 の園児が通園しており,そのような状況の下で,各保育園に配置された 1名の看護師は,園全体としての看護行為に当たらなければならず,実 際問題として,1人の園児に対し,付きっきりで看護することができる 態勢にはないとして,P9の方が適切な対応をすることができる旨主張する。
(イ) しかしながら,本件各処分当時,原告P2について必要であった特別な世話の内容は,130分ないし2,3時間に1回,1分間程度行われ るたん等の吸引行為と2誤えんを防ぐために水分にとろみをつけること であった。そして,これら以外の点については,仮に,被告が主張するように,原告P2は体力的に疲れやすく,散歩等の際にも5分から10 分ごとに休憩を必要とすることなどがあったとしても,保育士のみでも 十分対応することができるはずのものであった。しかも,原告P2の年 齢や,精神面,運動面の発達状況,さらには,原告P2が,既に平成1 7年11月の段階では,自分自身で吸引行為を行うことができるように までなっていることも考え合わせると,本件各処分当時においても,看 護師が原告P2の世話に付きっきりになる必要があったとはいえず,看 護師にとって過大な手間となるということまではできない。(ウ) この点につき,P3保育園の准看護師であるP24の陳述書(乙1 8)には,園外活動時に吸引セット等を持参しなければならないこと, 及び吸引のための場所の選択が困難であること等についての記載がある が,これらの事情をもってしても,直ちに上記認定を左右するものでは ない。(エ) したがって,被告の前記(ア)の主張を採用することはできない。ウ 被告は,P14医師作成に係る平成15年5月15日付けの療育意見書 (乙3)において,理学治療等の必要性が記載され,療育見込期間も平成 ▲年▲月▲日までとされていることを主張するが,この診断は,幼児の発 達の速さに照らせば,相当程度過去のことであり,既に認定判断した原告P2の発達状況等からすると,本件各処分の当時に妥当するものではない。
 エ 被告は,原告P2が,平成▲年▲月▲日に,●状態になったことを指摘するが,これは,結局事なきを得た出来事である。
オ このほか,同一保育中の他の園児とのけんか,悪ふざけなどにより起こり得るカニューレ脱落事故等についても,カニューレの固定法の工夫等に より防止することが可能であり,万が一事故が起こった場合でも,適切な 処置がなされれば,大事に至ることはないと考えられる点については,前 記認定判断のとおりである。(5) 以上によると,本件各処分は,処分行政庁がその裁量権を逸脱し,又は濫 用してしたものとして違法であり,取消しを免れないというべきである。3 保育園入園の承諾の義務付けについて 以上によると,原告P1がした原告P2の保育園入園申込みを不承諾とした本件各処分は取り消されるべきものであり,保育園入園の承諾の義務付けと共 に併合提起された本件各処分の取消しの訴えに係る請求には理由があると認め られ,また,処分行政庁がP3保育園,P4保育園,P5保育園,P6保育園 又はP7保育園のうちいずれかの保育園への入園を承諾しないことは,処分行 政庁の裁量権の範囲を超え,又はその濫用となると認められる。したがって,行政事件訴訟法37条の3第5項の規定に基づき,処分行政庁 に対し,原告P2につきP3保育園,P4保育園,P5保育園,P6保育園又 はP7保育園のうちいずれかの保育園への入園を承諾すべき旨を命ずる判決を するのが相当であるというべきである。4 争点(2)について
(1)ア 原告らは,被告の担当者は違法に原告P2の保育園入園を拒否し,P9への登園を勧めるばかりであったから,その行為は国家賠償法上違法である旨主張する。
イ 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を 加えたときは,国又は公共団体がこれを賠償する責任がある旨規定してい るところ,同項にいう「違法」とは,公務員が個別の国民に対して負担す る職務上の法的義務違背をいうものと解されている(最高裁昭和53年 (オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号 1512頁参照)。ウ 被告の担当者の前記アの行為のうち平成16年度保育園入園申込書の提 出の際に行われたものについては,前記認定の平成16年当時の原告P2 の状況に照らせば,処分行政庁が原告P1から提出された平成16年度保 育園入園申込書について原告P2の保育園入園を承諾しなかったことをも って,処分行政庁が裁量権を逸脱し,又は濫用したものとは直ちに認め難 いというべきであるから,被告の担当者の前記アの行為が職務上の法的義 務に違背するもので国家賠償法上違法であるということはできない。エ 被告の担当者の前記アの行為のうち平成17年度保育園入園申込書の提 出の際に行われたものについては,同入園申込みに対してされた本件各処 分が児童福祉法上違法であると認められることは前記のとおりである。し かしながら,他方,1前記認定のとおり,原告P2が本件各処分当時に定 期的にたん等の吸引が必要な状況にあり,たん等の吸引は医療行為とされ ていたこと,2P9では小児科医等による身体的及び精神的な健康管理を 行っており,原告P2の健康管理の面では保育所よりも手厚い措置が可能 であると考えられたこと,3本件全証拠を精査しても,本件各処分当時, 原告P2に係る事案以外にカニューレを装着した児童の保育所入所の諾否が争われた事案があったことをうかがうことはできないことなどを勘案す ると,被告の担当者の前記アの行為が直ちに原告らに対して負担する職務 上の法的義務に違背するものであったとまでいうことはできない。オ したがって,被告の担当者の前記アの行為が国家賠償法上違法であると いうことはできない。(2)ア 原告らは,被告の担当者が平成16年度保育園入園申込書を申込みのわ ずか6日後に原告P1に返戻したことは,行政手続法7条に違反するもの であり,また,その判断はずさんである旨主張する。イ しかし,前述したとおり,処分行政庁が原告P1から提出された平成1 6年度保育園入園申込書について原告P2の保育園入園を承諾しなかった ことをもって,処分行政庁が裁量権を逸脱し,又は濫用したものとは認め 難いから,被告の担当者の上記イの行為が国家賠償法上違法であるという ことはできない。(3)ア 原告らは,平成16年度保育園入園申込書を返戻する際,その理由が記 載された平成16年3月24日付け文書(甲2の2)を渡されたところ, 当該文書の中に「他の園児への影響」という記載があり,原告らに多大の 精神的苦痛を与えた旨主張する。イ しかし,証拠(甲2の2)によると,上記記載は,保育園において医療 行為を行うことが「現行の中では保育園としての機能を超えることとなり, 他の園児への影響や保育園に対する負担も考慮しなければなりません。」 というものであることが認められるところ,前記認定の平成16年の原告 P2の状況に照らし,被告の担当者が「他の園児への影響」を考慮することは当然のことというべきであるから,当該記載をしたこと自体が原告ら に対して負担する職務上の法的義務に違背し,国家賠償法上違法であると いうことはできない。(4)ア 原告らは,被告の担当者が平成17年度保育園入園申込書の提出した際 にも当初申込書を受理しないとの態度を示し,原告らに必要以上の精神的 苦痛を与えた旨主張する。イ しかし,前述したところからすれば,仮に,被告の担当者が平成17年 度保育園入園申込書を受理しないとの態度を示したという事実であったと しても,そのことが直ちに国家賠償法上違法であるということまではでき ない。(5)ア 原告らは,処分行政庁は原告P2の現状について具体的に調査をして把 握したという形跡はなく,一般的抽象的に常時医療行為が必要であるとし て入園を拒否している点において国家賠償法上違法である旨主張する。イ しかし,前述したところによれば,処分行政庁が原告P1から提出され た平成17年度保育園入園申込書について原告P2の保育園入園を承諾し なかったことは,児童福祉法上違法であると認められるものの,そのこと を理由に処分行政庁による入園の拒否が国家賠償法上違法であるというこ とまではできない。(6)ア 原告らは,児童福祉法24条1項ただし書がやむを得ない事由があると きは「適切な保護」をしなければならない旨規定しているところ,1P9 側の諸事情又は原告P2の年齢という理由により保育が実施されない,2 定期的な延長保育が受けられない,3保護者の付添いを条件とする保育しか受けられないなどの点において,P9への通所によって適切な代替措置を尽くしたとはいえず,国家賠償法上違法である旨主張する。
イ しかし,前記認定事実によると,原告P2は健常者である児童と全く変 わらないにもかかわらず,療育施設であるP9に入所したわけではなく, 相応の障害を持つ児童としてP9に入所したのであるから,仮に原告P2 のP9への入所中に上記アの1から3まで等の不利益を被ったとしても, そのことはP9という療育施設の特殊性に起因するものとしてやむを得な いものと評価することができる。したがって,上記アの1から3まで等の 不利益をもって,原告P2のP9への通所につき国家賠償法上の違法があるということはできない。
(7) よって,国家賠償請求に係る原告らの主張を採用することはできないとい わざるを得ない。
第4 結論
以上によれば,原告P1の本件各処分の取消し及び保育園入園の承諾の義務 付けを求める請求はいずれも理由があるからこれらを認容し,原告らの国家賠 償請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとすべきであり,また, 訴訟費用の負担については,1原告P1の本件各処分の取消し及び保育園入園 の承諾の義務付けを求める請求は,同原告の入園申込みの実現を目的とするも のである一方,原告らの国家賠償請求は上記入園申込み等をめぐる被告の公務 員の対応等によって原告らが被った損害の賠償を目的とするものであること, 2上記入園申込みは原告P2のためにされたものであり,原告P1及び原告P 8は原告P2の父母であることなどを考慮すると,原告P1の本件各処分の取消し及び保育園入園の承諾の義務付けを求める請求に係る訴訟費用と原告らの 国家賠償請求に係る訴訟費用はこれを合算した上でその負担割合を決定するこ とが相当であり,また,原告らの負担すべき訴訟費用は原告らの連帯負担とす るのが相当であるというべきであるから,行政事件訴訟法7条,民訴法61条, 64条本文,65条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 杉 原 則 彦
裁判官 鈴 木 正 紀
裁判官 松 下 貴 彦
別紙
争点に関する当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)について (被告の主張)
ア 原告P2にとっては,P9における療育の方が,通常の保育園における 保育よりも適しており,原告P2のP9への入園は,児童福祉法24条1 項ただし書にいう「その他適切な保護」としての合理性を有しており,本 件各処分が同項に違反し違法であるということはできない。イ 原告P2にとって,P9における療育の方が適している理由は,以下の とおりである。(ア) ●障害を有する原告P2は,気管内に詰まったたん等をおおむね1時間に1回程度吸引することが必要な状態であり,P9及びP3保育園に おいて,医師の指示を受け,療養上の世話又は診療の補助行為として看 護師が吸引を行っている。たん等の吸引を行うことは,家族以外の者が行う場合は,医師法17 条所定の医業をなすことに当たり,医師の指示に基づき看護師等資格を 有する者が行う場合のみ可能であり,これ以外の者が行う場合には医師 法に抵触する違法な行為になる。(イ) 現在,原告P1の申請に係る各保育園には,各1名の看護士が配置さ れている。しかし,現在各保育園に配置されている看護師1名は,東京都保育所事業実施要綱(以下「本件要綱」という。)に定める零歳児保 育特別対策事業を実施するために配置したものである。本件要綱におい ては,看護師は,「保育士との協力のもとに零歳児の異常の発見,特に 登所時における健康観察を通じての異常の有無の確認及び医師との連絡 を行うほか,健康診断,予防接種の計画及びその実施に対する協力等保 健活動に従事するものとする。」とされている。このように,各保育園 に配置されている看護師は,たんの吸引等の医療行為を必要とする特定 の児童のために配置しているわけではない。なお,国が定める児童福祉 施設最低基準(昭和23年12月29日厚生省令第63号)33条に定 める職員の規定においても,医療行為を想定していないため,保育園に おける看護師の配置の義務は定めていない。そして,東大和市内の各保育園には,約100名から180名の園児 が通園している状況の下で,各保育園に配置された1名の看護師は,園 全体としての看護行為に当たらなければならず,1人の園児に対し,付 きっきりで看護することができる態勢ではない。(ウ) これに対し,P9では,園児20名に対し,看護師2名が常駐し,原 告P2に対しては,常時1名の看護師が常に状況を把握するなどして, 適切な対応をとっている。これにより,おおむね1時間に1回程度必要 となる原告P2のたん等の吸引行為に即対応することができ,水分補給 の際にとろみをつけることや,体力的に疲れやすいために散歩等の際に も5分から10分ごとに休憩を必要とすることなど,原告P2の健康状 態や介護の必要性に合った看護を行うことができる。(エ) 原告P1が,東京都知事に対し,平成15年5月6日,原告P2をP 9に入園させるため,肢体不自由児通園施設入園申請書を提出した際に 共に提出された同月15日付けのP12病院医師による療育意見書にお いても,理学治療,排たん等の措置の必要性が記載されており,療育見 込期間も平成▲年▲月▲日までとされている。(オ) 実際にも,原告P2は,平成▲年▲月▲日,戸外で遊んだ後,シャワ ーを浴び,着替えの最中に●状態となった。このときは,原告P2自身 からたん吸引の申告が全くなかったが,付添いの看護師が原告P2の様 子の変化をすぐ発見し,看護師2名で対応し,吸引をして●を消滅させ た事実がある。ウ 原告らは,原告P2のために専任の看護婦を配置する必要性はない旨主 張する。しかし,保育士は1人1人の園児全員にくまなく目を配ることはできず, 原告P2の転倒や他の園児との接触事故等が発生し,カニューレが抜管し た場合には,保育士が適切に対応することは困難である。また,原告P2のたん等の吸引は,体調によって回数が変わるのであり, また,原告P2にたん等の吸引時期を判断させることは適切でないから, このような体調を常時把握し,適切な行為が行えるのは看護師であるが, 零歳児保育を担当している看護師が,原告P2の体調を常時把握すること は不可能である。エ なお,現在,被告は,原告P2につき仮の保育園入園承諾をし,P3保 育園において専任の看護師を配置して保育を行っている。もとより,医療行為を行いながら原告P2につき保育園での保育を行う ことは,原告P2のためにより適切であるといえるが,そのために看護師 1名を増員して配置することまで児童福祉法24条1項が要求していると 解することはできない。(原告らの主張)
ア 処分行政庁は,原告P2の保育に欠けるところがあるにもかかわらず,保育園への入園を不承諾とし,その理由として,●によりたんの吸引が必 要な健康状態であるために通常の集団保育が困難である旨主張する。しかし,たんの吸引については,「生活行為・生活援助行為」又は「医 療的な要素を持つ生活援助行為」であるとする見解も有力であるところ, 仮にたんの吸引が医療行為の範ちゅうに入るとしても,保育園に現在既に 配置されている看護師が主治医の指示を受けてたんの吸引を実施すれば足 りることであり何らの支障もない。現に,原告P2が通所していたP9で も,同園勤務の看護師等がこれを実施しているが,医師が常駐しているわ けではない。したがって,原告P2の保育の実施に当たり,保育園に現に配置されて いる看護師が主治医の指示を受けてたんの吸引を行うことは,たんの吸引 が医療行為であるかどうかとは無関係であり,いずれの立場を採ったとし ても実施可能であるから,処分行政庁は,いたずらにたんの吸引の医療行 為性を強調してかたくなに入園を拒否すべきではない。イ 処分行政庁は,保育園に現に配置されている看護師が主治医の指示を受 けてたんの吸引を実施すれば足りるとの原告らの主張に対し,保育園において看護師が日に数回特定の医療行為を行うことは想定外であって,たん の吸引への対応は困難であると主張する。しかし,たんの吸引は,既に一定の範囲で非医療識者による実施も認め られる行為であって,そもそも医療行為の範ちゅうには入らず,排せつ介 助などと同様の生活介助業務であるというべきである。また,たんの吸引は,原告P2の申出,明らかな呼吸音の変化又はある 程度時間がたったことなどをきっかけに,1回1分程度で行われ,その頻 度も3時間に1回程度である。これは,児童を排せつに誘導するような保 育の区切りの時間帯であって,その際に吸引行為を行うことは何ら保育の 妨げにもならない。さらに,原告P2は,現時点では,吸引の必要がある場合に自ら申し出 るだけでなく,自分自身でチューブの挿入及び吸引を行うことも可能であ る。そして,吸引器に電源を入れることや吸引チューブを消毒綿でふく行 為は,介助行為にすぎず,そもそも医療行為でないから,看護師の手をわ ずらわせることなく保育士が行うことに問題はなく,かつ,極めて容易で ある。したがって,原告P2について保育園でたんの吸引を実施するに際して は,それらをすべて看護師が実施したとしても看護業務の負担とならない ことはもちろんであるが,吸引器の電源や吸引チューブの消毒等の介助行 為を保育士にも分担してもらい,主治医の許可が得られた場合には原告P 2の自己吸引を看護師が介添えする方法等も取り入れることにより,なお 一層看護業務の負担とならない。したがって,現に保育園に配置されている看護師による対応は看護業務の負担となるので困難であるとの処分行政庁の主張に合理的理由はない。
ウ 被告は,カニューレの脱落が生命にかかわることであるから,安全確保の面から即時の対応が必要なため,医師や措置室等の人的物的態勢を整え る必要がある旨主張する。しかし,そもそもカニューレは簡単に脱落するものではなく,児童の行 動によっても容易には脱落しないよう医学的にみて安全な固定方法を採用 している。また,万一何らかの理由でカニューレが脱落したとしても,気切孔がす ぐに閉じることはなく,キシロカインゼリーをカニューレに付けて挿入す ればよいだけである。また,P12病院は,原告P2の急変時には対応す る態勢がある旨申し出ている。さらに,そもそも児童の急病又は突発的なけが等があれば,大至急応急 手当をし,病院に連れて行くというのが保育園の責務であり,原告P2の 場合もこれと何ら変わるところはない。むしろ,異常時の受入れ病院や対 処方法が事前に手順として決まっている点で,保育士の負担はかえって少 ない。しかも,原告P2が通園していたP9においても,医師が常駐している わけではなく,万一脱落事故が発生した場合に即時に医師が処置できるわ けではないから,やはり看護師が適切に挿入するか,速やかにP12病院 等の適切な病院へ搬送する必要がある。したがって,カニューレの脱落の危険及び脱落の際の処置については,P9に通園する場合と,通常の保育園に通園する場合とで何ら差異はなく,処分行政庁の主張に何ら合理的理由はない。
エ 被告は,あたかも保育所に配置されている看護師は零歳児保育にのみ従事することを目的とするように主張するが,本件要綱は,都が補助すべき 対象となる事業を定めるものであって,保育所に配置された看護師の職務 を制約するものではない。東京都が零歳児保育を充実させるため,保育所 に看護師を配置させることに対し,補助金を支出したとして,配置された 看護師は,すべての園児を対象としてその健康を維持すべく看護及び保健 の活動に従事するものである。オ 被告は,たん等の吸引を看護師等資格を有する者以外が行うことは違法 であると主張する。しかしながら,原告らは,非医療職者によるたん等の吸引実施を想定し, これを求めているのではなく,飽くまで原告P2本人又は看護師等資格を 有する者による医師の指示に基づくたん等の吸引の実施を想定しているの である。衆議院第159回通常国会における決算行政監視委員会第3分科会にお ける平成17年5月17日付け議事録によれば,P22議員による,原告 P2を想定した被告に居住する●の児童に関する保育所入所の可能性に関 する質問に対し,政府参考人であるP23厚生労働省雇用均等・児童家庭 局長(当時)は,「たんの吸引ということが,これが医療行為とされてお りますことから,保育所に看護師が配置されておるかどうかということが 決め手になるわけでございます。現在全国に2万カ所ございます保育所のうち,看護師が配置されておるのが4千4百カ所程度でございます。・・・ (中略)・・・こういったところでは状況によっては受け入れが可能ではな いかと思います(以降,省略)」と回答していることは,看護師がこのよ うな職務を行うことに何ら支障がないことを示している。カ 原告P1は,原告P2がP9で●状態となった際には,看護師が●を外 して吸引を行い,人工鼻に切り替えることで対応できた旨聞いており,万 が一の事態にも十分対応が可能であることは明らかである。このような万 が一の緊急時には,保育方針やあらかじめ打ち合わせておいた具体的手順 に従った対応を行うべきことは保育園でもP9でも同様であり,むしろ, 原告P2の場合には,非常時の受入れ病院,対処方法が事前に手順として 決まっている点で,保育士の負担はかえって少ないとさえいえる。専門医 らの診療情報提供書や診断書によれば,●における吸引はいまや在宅で広 く行われているものであり,適切な指導を受けた職員が決められた手順に 従えば安全に行うことができるものであること,原告P2の主治医が勤め る病院において職員への指導も引き受け,急変時の対応にも応じられる態 勢を取ることなどが記載されている。また,今では●歳の原告P2自身で も吸引行為ができるようになっている。こうした点を考えると,吸引行為 を医療行為であるとして過度に強調し,看護師等の人員の配置や整備上の 問題があるとして,受入れを拒否するような姿勢は望ましくない。キ 被告は,原告P2がP9に入園した当時の療育意見書に●及びこれに対 するトレーニングの必要性が指摘されていることを根拠としてP9での療 養の方が適切である旨主張する。しかしながら,上記療育意見書は平成15年5月15日付けであって, 今日の原告P2の状態を示すものではない。原告P2の●,●等は既に解 消され,療育の必要性は消滅しており,当該療育意見書を作成した医師自 身が,平成16年3月4日付けの診療情報提供書で,「健常児との統合保 育が児にとっての発達に極めて有効かつ必要」であるとの意見を述べてい るのであるから,何ら理由とはならない。ク 原告P2において他の一般の園児と異なる配慮が必要とされる内容は, 通常1時間から3時間に1回程度の吸引措置が必要である点と,誤えんを 防ぐために水分にとろみをつける必要がある点である。吸引は基本的に看護師が行うものとしても,原告P2は遅くとも平成1 7年11月当時において自分自身で行うことができるようになっており, 原告P2が行うたん等の吸引の補助ないし介助であれば,看護師であれば もちろんのこと,保育士においても十分に可能である。また,水分にとろ みをつける必要があることをもって,看護師が常時対応することを要求す るものでない。ケ なお,被告は,原告P2は,同年代の児童に比べ体力的に疲れやすいと 指摘するが,乳幼児は個々の発達に差異があるのが当然であって,看護師 が常時原告P2を看護することの理由とならないことは明らかである。(2) 争点(2)について (原告らの主張)
ア 被告の担当者は,違法に原告P2の保育園入園を拒否し,肢体不自由児 や知的障害児の療育施設であるP9への登園を勧めるばかりで,原告P2の保育園入所の権利を侵害した。
 そして,原告P2は,P9では同世代の健常児童との集団生活を体験することができなかったことから,集団生活の体験不足が既に損失となっている。
イ 被告の担当者は,原告P1が平成16年3月2日付けで提出した原告P2の平成16年度保育園入園申込みに対し,同月8日,申込みを受理しな い旨を電話で通告し,その後上記入園申込書一式も返却するなどして行政 手続法7条に反する違法な対応を行い,単なる入園拒否処分をはるかに超 える不法な混乱に原告らを陥れた。また,被告の担当者は,上記入園申込書一式を提出後わずか6日で受理 しないとしており,その判断はきわめてずさんである。ウ 被告の担当者は,上記入園申込書一式を返却する際,その理由の中で他 の園児への影響という極めて不適切な指摘をし,原告らに多大な精神的苦 痛を与えた。エ 被告の担当者は,平成17年度保育園入園申込書の提出に際しても,当 初,申込書を受理しないとの態度を示し,原告らに必要以上の精神的苦痛 を与えた。オ また,その判断過程においても,原告P2の現状につき具体的に調査を して把握したという形跡はなく,一般的抽象的に常時医療行為が必要とし て入園を拒否したのであるから,この点においても違法である。カ 児童福祉法24条1項ただし書は,仮にやむを得ない事由があるときは, その他の適切な保護をしなければならない旨規定しているところ,被告の職員は,原告P2につき保育園への入所は困難であるとして入所を拒否し ておきながら,漫然と療育施設であるP9への通所を勧めるばかりで,P 9において保育所に入所した場合と同程度の保育の実施をせず,例えば, 1グループ活動日等P9側の諸事情により少なくとも毎月1回はP9を休 まざるを得ない状況にあり,2年齢という理由により平成17年3月まで は毎月3回(水曜日)は保育の実施がなく,3定期的な延長保育の実施は P9から拒否され,4P9では保護者の付添いを条件として保育を実施す るなどしており,被告は適切な代替措置を尽くしていない。以上
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