判決
主文 被告人を懲役17年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
 理由
(罪となるへき事実) 被告人は,
第1(平成17年9月26日付け起訴状記載の公訴事実) 強姦の目的て,平成16年12月8日午前2時ころ,広島県福山市a町b丁目c番d号ef号室C(当時28歳)方に,無施錠の同女方4畳半南側窓から 侵入し,そのころ,同女方において,同女に対し,その肩口に背後から包丁様 のものを押し当てなから,「声を出すな。包丁を持っとる。声を出したらふち 殺すそ。」なとと言って脅迫し,同女の顔面にTシャツ様のものを被せるなと して,その反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫した。第2(平成17年12月19日付け起訴状記載の公訴事実) 窃盗及ひ強姦の目的て,平成17年5月29日午前2時ころ,広島県福山市g町h丁i番j号kl号室E(当時19歳)方に,無施錠の同室出入口から侵 入し,そのころ,同女方において,同女所有の現金3000円を財布内から抜 き取って窃取し,同室ヘット上て就寝中の同女に対し,その面前に包丁様のも のを突き付けなから,「騒いたら刺す。おとなしくしとけ。」なとと言って脅 迫し,頭から上半身にかけて毛布を被せるなとして,その反抗を抑圧した上, 強いて同女を姦淫した。第3(平成17年9月2日付け起訴状記載の公訴事実) 窃盗及ひ強姦の目的て,平成17年8月13日午前4時15分ころ,広島県福山市m町n丁目o番p号qr号室F(当時18歳)方に,同室南側窓の施錠を外 して侵入し,そのころ,同女方において,同女所有にかかる現金約7万1000円を財布内から抜き取って窃取し,同室2段ヘット上段て就寝中の同女の顔面に タオルを被せ,その首元に包丁を押し当てなから,「騒くな。大声出したら殺す そ。包丁を持っとるんと。」なとと言って脅迫し,その反抗を抑圧した上,強い て同女を姦淫し,その際,同女に経過観察約7日間を要する処女膜裂傷,会陰部 擦過傷の傷害を負わせた。第4(平成17年10月18日付け起訴状記載の公訴事実) 正当な理由かないのに,平成17年8月13日午前5時15分ころ,広島県福山市s町t丁目u番v号wG方に,同女方リヒンク兼寝室南側掃き出し窓の施錠を外して侵入した。
 (証拠の標目)
省略 (争点に対する判断)
判示第1事実について,被告人は捜査段階から一貫して黙秘を続け,弁護人は犯 行を否認しているのて,以下検討する。第1 ます,信用性の認められる判示第1事実の被害者(以下「被害者」とする。)供述を始めとする関係各証拠によれは,判示第1記載の日時場所態様ての 住居侵入,強姦の犯行か行われたこと,その犯人は被害者の口に複数回にわたり キスをしたこと及ひ強姦の際の犯人の言動から犯人は日本人男性1名てある可能 性か高いことか認められる。弁護人もこれを積極的に争うものてはない。第2 次に,被告人の犯人性について検討する。
 1 血液型鑑定及ひDNA型鑑定の結果について(1) 関係各証拠によれは,いすれも適切に採取保存された,被害者の口唇付 近から採取された付着物(以下「付着物」という。),被害者の口腔内容 物及ひた液並ひに被告人の血液を資料として血液型鑑定及ひDNA型鑑定 かなされたこと,前記血液型鑑定及ひDNA型鑑定はいすれも専門的な知 識及ひ経験を有する者により適切な方法て行われたことか認められる。また,付着物はた液てあると鑑定されているか,男性に由来するDNA型 (アメロケニン型)か含まれていることに鑑みると,付着物には複数人の た液か含まれていることも認められる。そして,付着物か就寝中深夜強姦 された被害者の口唇付近から被害当日に採取されており,犯人以外の者か 被害者の口唇付近にた液を接触させる機会かあったと認められない本件に おいては,それか被害者と犯人のた液てある蓋然性は極めて高い(なお, 当時被害者宅には被害者の息子かいたか,すてに乳児の域を脱している年 齢てあり,犯行前から就寝中てあったことに鑑みると,この子か被害者の 口唇付近に接触し,付着物の中にた液を混在させた可能性は極めて低 い。)。(2) そして,血液型鑑定の結果によると,付着物の血液型及ひ被害者の血液 型はA型(以上65号証)てあるのに対し,被告人の血液型はO型(50 号証)てあると鑑定されている。たたし,この種鑑定に専門的知見を有し 信用てきるH証人の証言(以下「H証言」という。)によれは,今回の血 液型鑑定において採用された血液型鑑定の手法は解離試験法てあり,この 手法においては,O型以外と判定された体液についてO型の体液か含まれ る可能性を排斥てきす,付着物の血液型かA型と鑑定され,B型ないしA B型の反応か現れていないことからすれは,付着物に含まれるた液の血液 型としてはA型のみの場合とA型とO型か混在している場合の2つの可能 性かあることか認められる。たとすれは,A型と鑑定された付着物の中に O型てある被告人のた液か含まれる可能性か否定されるわけてはなく,付 着物に含まれるた液の血液型に関する鑑定結果と被告人の血液型に関する 鑑定結果との間には必すしも矛盾かあるとはいえない。(3) 次いて,DNA型鑑定について検討するに,付着物,被害者(以上48 号証)及ひ被告人(50号証)のDNA型をそれそれ鑑定した結果,被害 者以外に由来するDNA型(以下「犯人のDNA型」という。)か1名の男性に由来する可能性は否定されないこと,犯人のDNA型の出現頻度は, 日本人男性1名に由来することを前提とし,この種鑑定て通常用いられて いる出現頻度表(以下「当該出現頻度表」という。)に基ついて計算する と約2754万人に1人てあること,DNA型鑑定の結果からは犯人のD NA型か被告人に由来するものてあるとしても矛盾しないものてあること (以上H証言及ひ52号証)か鑑定されている。このDNA型鑑定の結果,特に前記のとおり,被害者供述等と整合する 犯人像,即ち日本人男性1名か犯人てあるとの前提に則った当該出現頻度 表に基つき計算された犯人と同一のDNA型の出現頻度の希少性に鑑みる と,被告人と犯人との同一性か極めて強く推認されるところてある。2 さらに,被害者供述からは,犯人は身長約160センチメートルくらいの男 性て,声の感しから若い男性てはなく,強いタハコの臭いをさせていたことか 認められるか,この特徴は被告人と矛盾しない。また,本件において犯人は刃物様のものを被害者に示すなとして,抵抗し た場合刃物ての傷害ないし殺害を示唆していること,被害者の顔に布を被せた 後被害者を姦淫していることなとの態様か認められるか,この2点は判示第2, 3の被告人かなしたことに争いのない強姦ないし強姦致傷時の犯行態様とその 特徴的な点において類似しているものてある。3 以上のとおり,DNA型鑑定の結果から被告人と犯人の同一性か極めて強く 推認されることに加え,犯行態様の類似性や血液型鑑定の結果,被害者供述か ら認められる犯人と被告人の特徴か矛盾しないことに鑑みれは,被告人と犯人 の同一性は合理的な疑いを入れる余地かない程度をもって認められる。4 なお,弁護人は,DNA型鑑定かその性質上被告人と犯人の同一性を直接証 明することはてきないものてあるし,当該出現頻度表を作成するに際し調へら れたサンフル数か1200ないし約3200人てあることからすると,当該出 現頻度表に基つき計算された約2754万人に1人という出現頻度は犯人と被告人の同一性を強く推認させるものてはなく,その他の被告人と犯人の同一性 を証明する証拠かない本件ては被告人と犯人の同一性を認定するには合理的な 疑いか残る旨主張している。確かに,弁護人主張のとおり,DNA型鑑定はその性質上被告人と犯人の 同一性を直接証明するものとはなりえない。しかし,H証言によれは,当該出 現頻度表の基本となっている上記サンフル数はこの種鑑定て使用される文献の 母集団としては大きいものてあり,当該出現頻度表は専門家において信用性か 保証された文献に記載されているものてあるから,当該出現頻度表の信用性か 認められる。たとすれは,当該出現頻度表を利用して得られた上記第2の1 (3)記載のDNA型鑑定の分析結果は被告人と犯人の同一性を強く推認させる ものといえ,さらに,上記のとおりDNA型鑑定の結果に第2の1(2)及ひ2 記載の諸事実を勘案して,被告人と犯人の同一性を認めるのてあるから,弁護 人の主張はいすれも理由かない。よって,判示第1のとおり認定した。 (累犯前科)
省略 (法令の適用)
省略
(量刑事情)
1 本件は,被告人か,強姦等の目的て夜間女性宅に侵入し,刃物様のものを突き付けて脅すなとして強姦(判示第1,2)ないし強姦致傷(判示第3)に及ひ, うち2件においては現金を窃取した(判示第2,3)事案及ひ他人の住居に侵入 した事案(判示第4)てある。2 被告人は,捜査段階においては,強姦致傷(判示第3)の動機について交際相 手との不仲の鬱憤晴らしてあり,住居侵入(判示第4)の動機についても,設置 してもいないのに防犯ヘル設置なとと掲示してあることに立腹したなとと述へ,公判においては,判示第2ないし第4の犯行動機の中に,前刑出所後警察か被告 人の身辺に執拗に姿を見せていたことに対する反発かあるなとと述へている。し かし,仮に犯行当時の被告人の身辺に警察か姿を見せていたのか事実てあったと しても,それに対する反発心からまったく無関係な被害者の心身に重大な影響を 及ほす強姦致傷等をはしめとする犯罪を思い立ち,実行することそれ自体身勝手 かつ自己中心的てあり,被告人の述へるいすれの動機においても酌量の余地はな い。本件強姦ないし強姦致傷において,被告人はいすれも夜間女性宅に侵入し,刃 物様のものを突き付けるなとしなから,声を出したら殺すなとと脅迫して,被害 女性の顔に布を掛けるなとして姦淫行為に及ふという態様をとっているか,これ 自体手慣れた態様てあるし,刃物を女性の身体の至近距離においている以上,被 害女性の身体を傷つけるおそれは否定てきす,危険な態様といえる。しかも,被 告人は幼い子か傍にいても構わす姦淫に及んたり(判示第1),被害女性か性経 験かないことを聞いたり(判示第3),痛みを訴えるなとしても意に返すことな く姦淫行為を続ける(判示第2,3)なと自己の性欲の満足のみを執拗に果たそ うとしていたことか窺え,本件強姦ないし強姦致傷の態様は極めて悪質といえる。そして,このような被告人の判示各犯行の結果は重大といわさるを得ない。す なわち,安全たるへき自宅に見知らぬ者か侵入したことてさえ恐怖を感しる(判 示第4)ものてあるのに,さらに殺すなとと言われて生命の危険さえ感しさせら れなから姦淫された被害女性等の心身の苦痛は想像に余りあるし,実際,強姦な いし強姦致傷の被害女性のうちには引っ越しを余儀なくされたり(判示第2), 明かりをつけたままてないと眠れなくなるなと(判示第1)の影響か生したもの もいるのてある。このような被害を受けた判示各被害女性ないしその保護者の多 くか被告人の厳罰を希望するのは当然といえる。しかも,被告人は,上記累犯前科2犯を有するはかりか,さらに前科5犯を有 しているか,前科のうち6犯は窃盗を含むものてあり,窃盗か含まれていない唯一の前科(上記累犯前科の1)には住居侵入後,刃物を突き付けるなとして被害 女性の反抗を抑圧して強姦したという本件と類似した態様による住居侵入,強姦 罪も含まれており,被告人の本件各犯行に関連する規範意識の鈍麻か著しいこと は明らかてある。さらに,被告人は前刑仮出所後3か月も経ないうちに判示第1 の犯行に手を染め,以後,犯行を重ねており,安定した経済状況てありなから窃 盗に及んていることや各犯行の手慣れた態様等も加味すると,被告人にはこれら の犯行に対する常習性も認められる。以上に鑑みれは,被告人の刑事責任は非常に重い。
3 一方て,被告人は,判示第1を除く各犯行については事実を認めて謝罪の弁を述へ,判示第3の被害者に500万円を支払い,判示第2の被害者には500万 円,判示第4の被害者には30万円を支払って示談するなとして被害者の慰謝に 相応の努力をしていること,判示第4の被害者からは宥恕を得ていること,被告 人の交際相手か被告人の社会復帰を待ち,社会復帰後の同居を望んている旨証言 したことなと,被告人にとって有利に斟酌すへき事情も認められる。4 以上の諸事情に基つき量刑を検討するに,特に強姦ないし強姦致傷の態様の悪 質さや被告人の規範意識の鈍麻等に鑑みると,被告人にとって有利に斟酌すへき 事情を最大限考慮しても主文掲記の刑を科すのか相当てあると判断した。(求刑懲役20年) 平成18年8月2日
広島地方裁判所福山支部
裁判長裁判官 杉本正樹
裁判官 西﨑健児
裁判官藤原 瞳
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