主文
一 処分行政庁は、申立人に対し、申立人の長女であるP1につき、P2保育園、P3保育園、P4保育園、P5保育園、又はP6保育園のうち、いずれかの保育園への入園を仮に承諾せよ。
 二 申立費用は、相手方の負担とする。第一 申立て 主文同旨
第二 事案の概要 一 事案の骨子
事実及び理由
東大和市に居住する申立人の長女P1は、○等のため○手術を受けた 後、カニューレ(喉に開けた穴に常時装着して気管への空気の通り道を 確保する器具)を装着しており、現在、心身に障害のある就学前の児童 を対象にした施設に通園している。申立人は、相手方が設置運営する普 通保育園へのP1の入園申込みをしたが、処分行政庁である東大和市福 祉事務所長は、P1について適切な保育を確保することが困難であると して、同申込みに対する不承諾処分をした。本件は、そのため、申立人が、申立人には児童福祉法24条1項本文 における「児童の保育に欠ける」事由があり、かつ、P1は、たん等の 吸引が適切に行われれば、普通保育園に通園することができるので、上 記不承諾処分は違法であって、P1の普通保育園への入園を承諾すべき であり、また、償うことのできない損害を避けるために緊急の必要がある旨主張して、行政事件訴訟法37条の5に基づき、相手方に対し、処 分行政庁がP1の普通保育園への入園を仮に承諾することを求める仮の 義務付け申立事件である。二 関係法令の定め 本件に関係する主な法令の規定は、以下のとおりである。(一) 児童福祉法24条1項は、「市町村は、保護者の労働又は疾病そ の他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により、その監護す べき乳児、幼児又は第39条第2項に規定する児童の保育に欠けると ころがある場合において、保護者から申込みがあったときは、それら の児童を保育所において保育しなければならない。ただし、付近に保 育所がない等やむを得ない事由があるときは、その他の適切な保護を しなければならない。」と規定している。(二) 児童福祉法39条1項は、「保育所は、日日保護者の委託を受け て、保育に欠けるその乳児又は幼児を保育することを目的とする施設 とする。」と規定している。(三) 児童福祉法43条の3は、「肢体不自由児施設は、上肢、下肢又 は体幹の機能の障害(・・・略・・・)のある児童を治療するとともに、独 立自活に必要な知識技能を与えることを目的とする施設とする。」と 規定している。(四) 児童福祉法施行令27条は、柱書で「法第24条第1項の規定に よる保育の実施は、児童の保護者のいずれもが次の各号のいずれかに 該当することにより当該児童を保育することができないと認められる場合であって、かつ、同居の親族その他の者が当該児童を保育するこ とができないと認められる場合に行うものとする。」と規定し、その 1号で「昼間労働することを常態としていること。」と、その4号で 「同居の親族を常時介護していること。」とそれぞれ規定している。(五) 東大和市保育の実施に関する条例2条は、柱書で「保育の実施は、 児童の保護者のいずれもが次の各号のいずれかに該当することによ り、当該児童を保育することができないと認められる場合であって、 かつ、同居の親族その他の者が当該児童を保育することができないと 認められた場合に行うものとする。」と規定し、その1号で「居宅外 で労働することを常態としていること。」と、その2号で「居宅内で 当該児童と離れて日常の家事以外の労働を常態としていること。」と、 その5号で「長期にわたり疾病の状態にあり、又は精神若しくは身体 に障害を有する同居の親族を常時介護していること。」とそれぞれ規 定している。(六) 東大和市P7条例1条は、「この条例は、心身に障害がある就学 前の児童(・・・略・・・)に対し、自立を助長するために必要な指導及び 訓練を行うため、東大和市P7(・・・略・・・)を設置し、その管理及び 運営について必要な事項を定めるものとする。」と規定している。(七) 東大和市P7条例3条は、柱書で「学園に、次の施設を設ける。」 と規定し、その1号で「肢体不自由児通園施設」と、その2号で「知 的障害児通園施設」とそれぞれ規定している。三 前提事実
一件記録によれば、現段階では、以下の事実を一応認めることができ る。なお、認定の根拠を各末尾に付記した。1 申立人及びP1の状況
P1は、平成▲年▲月▲日、父である申立人及び母であるP8の長 女として出生した。P1は、○のため、平成▲年▲月▲日、○手術を 受け、以後、空気の通り道を確保するため、カニューレを常時喉に装 着、挿入して現在に至っている。(略)。2 P7への入園申込み
(一) 申立人は、東京都知事に対し、平成15年5月16日、東大和市立P7にP1を入園させるため、肢体不自由児通園施設入園申請 書を提出した。この申請に係る入園が承諾されたため、P1は、平 成15年6月から現在に至るまで、P7に通園している。(疎甲4 の2、疎乙4)(二) P7は、心身に障害のある就学前の児童に対し、自立を助長す るために必要な指導や訓練等の早期療育を行い、児童の福祉増進を 図ることを目的とした施設である。(疎乙10)3 普通保育園への入園申込み
(一) 申立人は、東大和市福祉事務所長に対し、平成16年3月2日、P1の平成16年度保育園入園申込書を提出して、入園申込みをし
た。(当事者間に争いのない事実)
(二) 東大和市福祉事務所長は、申立人に対し、平成16年3月8日、入園申込書を受理しない旨電話にて通告し、その後、入園申込書一 4式を申立人に返却した。(当事者間に争いのない事実)
(三) 申立人は、東大和市福祉事務所長に対し、平成17年1月20 日、希望保育園を社会福祉法人P3保育園として、平成17年度の保育園入園申込みを行った。(疎乙1)
(四) 東大和市福祉事務所長は、申立人に対し、平成17年2月23日、上記申込みによる保育園の入園を不承諾とする処分を通知した。(疎甲3の1、疎乙1)
(五) 申立人は、東大和市福祉事務所長に対し、平成17年3月4日、希望保育園をP2保育園、P3保育園、P4保育園、P5保育園、 又はP6保育園として、保育園入園申込みの変更届を提出した。(疎 乙2)(六) 東大和市福祉事務所長は、申立人に対し、平成17年3月23 日、上記変更届による保育園の入園を不承諾とする旨の処分を通知 した。(疎甲3の2、疎乙2)4 審査請求
(一) 申立人は、東大和市長に対し、平成17年4月21日、前記4(四)及び(六)の各不承諾処分(以下「本件各処分」という。)に対 する審査請求を行った(以下「本件審査請求」という。)。(疎甲4 の1、疎乙3)(二) 東大和市長は、申立人に対し、平成17年8月12日、本件審 査請求を棄却するとの裁決をし、これを申立人に通知した。(疎甲 4の2)5 訴えの提起 申立人は、平成17年▲月▲日、相手方を被告として、本件各処分の取消しを求めるとともに、処分行政庁が、申立人に対し、P1のP 3保育園その他の適切な保育園(P2保育園、P4保育園、P5保育 園、又はP6保育園)への入園を承諾するとの処分をすることの義務 付け等を求める前記本案の訴えを提起した。(疎甲5)四 争点 本件の争点は、1P7に通園しているP1を普通保育園に入園させることが、申立人にとって「償うことのできない損害を避けるために緊急 の必要があ」る(行政事件訴訟法37条の5第1項)ということができ るか、また、2本件が「本案について理由があるとみえるとき」(同項) に該当するか、すなわち、東大和市福祉事務所長がP1の普通保育園へ の入園を承諾しなかったことが、児童福祉法24条1項ただし書にいう 「やむを得ない事情」の有無の判断において裁量権の逸脱又は濫用があ るものとして、違法であり、相手方に対してこの承諾を義務付けるべき であるということができるかという点である。五 争点に関する当事者の主張の要旨 別紙のとおり。
第三 当裁判所の判断
一 前記前提事実並びに一件記録(疎甲1から9まで、疎乙1から5まで、7から14まで、16。いずれも枝番のあるものは枝番すべてを含む。) 及び当事者間に争いのない事実によると、現段階では、以下の事実を一応認めることができる。
 1 申立人及びP1の状況
(一) P1は、平成▲年▲月▲日、父である申立人及び母であるP8 の長女として在胎○週○日、体重○グラムにて出生したが、○のた め、○がされ、○の投与を受けた。その後、○は改善したが、○等のため、平成▲年▲月▲日、○手 術を受け、以後、カニューレを喉に装着、挿入して現在に至ってい る。(略)。その結果、P1は、気管内にたまる唾液やたんを定期的に除去す ることが必要となっており、多ければ1時間に1回程度、場合によ っては2、3時間に1回程度、風邪気味などであれば30分に1回 程度の間隔で、1回につきおよそ1分間程度、吸引器を用いて唾液 やたんの吸引を行っている。また、誤えんを避けるために水分にと ろみをつけることも必要となっている。(二) 申立人は、印刷加工等を目的とするP9株式会社の代表取締役 であり、妻のP8も同社の経理事務等を手伝っている。また、同居 しているP8の母P10(昭和▲年▲月▲日生まれ。以下「P10」 という。)は、○、○、○等を患っていて、月1回の割合で通院し ており、その付添い及び日常生活での看護をP8が行っている。ま た、申立人の父P11も、○等に罹患しており、同人の通院等の介 護も時折P8が行っている。2 P7への入園申込み
(一) 申立人は、東京都知事に対し、平成15年5月16日、P1を P7に入園させるため、肢体不自由児通園施設入園申請書を提出し た。この申請に係る入園が、入園期間を同年6月1日から平成▲年 ▲月▲日までとして承諾されたため、P1は、平成15年6月から 現在に至るまで、P7に通園している。(二) 上記申請の際に提出された、P1の主治医である社会福祉法人 P12病院・P13小児科P14医師作成に係るP1に関する平成 15年5月15日付け療育意見書(疎乙5)には、次のような記載 があった。(1) 身体障害者手帳の欄には、「(略)」と、障害名の欄には、「(略)」 と、障害の原因となった病名の欄には、「(略)」との記載があった。
 (2) 現病歴(これまでの経過)の欄には、「(略)」との記載があった。
(3) 身体の状況の欄には、「(略)」との記載があった。
(4) 知的発達遅滞の欄には、「(略)」と、合併症の欄には「(略)」 と、生活の欄には、「(略)」との記載があった。(5) 療育方針の欄には、「(略)。○を受け、唾液の気管への流入も あるため排痰を十分に行い、呼吸状態を安定させる必要がある。」 との記載があった。(6) 療育見込期間の欄には、「平成15年6月1日~平成▲年▲月 ▲日」との記載があった。(7) 意見書の末尾には、「上記のとおり、肢体不自由児通園施設で 8の療育が適当と判断します。」との記載があった。
(三)(1) P7は、昭和47年10月1日に開設され、相手方が設置運 営を行う施設であり、心身に障害のある零歳から就学前の乳幼児 に対し、自立を助長するために必要な指導及び訓練等、早期療育 を行い、児童の福祉増進を図ることを目的としている。P7の定 員は、肢体不自由児が15名、知的障害児(ただし、東大和市に 住所を有する児童)が15名である。児童たちは、午前10時に 登園して自由遊びをし、午前10時半からおあつまりやグループ 活動を行い、正午には給食を食べ、午後1時から睡眠や自由遊び をして、午後2時半に降園することになっている。P7では、小 児科医、整形外科医、神経科医による身体的及び精神的な健康管 理を行っており、また、理学療法士、作業療法士、言語療法士、音楽療法士、心理相談員による専門の指導を行っている。
(2) P7の平成17年度の職員配置によれば、主任保育士1名、 保育士8名(うち臨時職員2名を含む)、看護師3名(うち臨時 職員2名)が3グループ20名の園児を担当しており、臨時職員 である2名の看護師が日替わりで常時1名がP1に対応し、正規 職員である1名の看護師が、全園児の健康管理、医師及び訓練士 との調整事務のほか、P1対応看護師の休暇補充要員及び職員休暇の補充要員の役割を果たしている。
(四) P1は、P7に、平成17年4月は10日間、5月は14日間、6月は16日間通園しており、たん等の吸引は、同月は、1日平均 95、6回程度行われていた。(略)。
(五) P1は、平成▲年▲月▲日、衣類を着替える際に介助を拒否したところ、徐々に喘嗚が激しくなり、呼吸困難、○、○の状態とな った。そこで、看護師らが合同で吸引を実施したところ、喘嗚が軽 減し、○も消失した。3 普通保育園の看護師の配置状況 申立人の申請に係る相手方の各保育園(P2保育園、P3保育園、P4保育園、P5保育園、又はP6保育園)には、看護師が各1名配 置されている。こうした看護師は、平成16年5月17日の段階で、 全国に約2万か所ある保育所のうちで約4400か所ある。東京都保育事業実施要綱は、看護師は、「保育士との協力のもとに 零歳児の異常の発見、特に登所時における健康観察を通じての異常の 有無の確認及び医師との連絡を行うほか、健康診断、予防接種の計画 及びその実施に対する協力等保健活動に従事するものとする。」と規 定している。また、国が定める児童福祉施設最低基準(昭和23年1 2月29日厚生省令第63号)33条に定める職員の規定においては、 保育園における看護師の配置の義務は定められていない。相手方の設 置する前記各保育園には、それぞれ約100名から180名の園児が 通園しており、看護師は、園児全体の看護行為に当たっている。4 平成16年のP1の状況
(一) 平成16年3月1日付け保育園入園申込書に添付されたP15小児科のP16医師作成に係るP1(当時○歳○か月)についての 10同年2月18日付け診断書(疎甲1、2)には、以下のような記載 があった。「病名 ○・○・・・(中略)・・・発達に関しては、定頚6カ月、座位 は1歳、一人立ちは1歳4カ月、一人歩きは1歳6カ月で可能とな っております。また、言葉も2歳時ころから、出るようになり、現 在は○の使用も可能となっております。現在、遠城寺式乳幼児分析 発展検査表にて、移動運動○歳○カ月、手の運動○歳、基本的習慣 ○歳、対人関係○歳○カ月、発語○歳○カ月、言語理解○歳○カ月 と良好な発展も認めております。患者は○の児ではありますが、保 育園の看護士さんの協力(吸引等)も得られる状態であり、普通保 育園、学級の進むことが、より患児の成長発達を促し、また患児も それに対応する能力があると思われます。患児が普通保育園、学級 に進むことは、東京都心身障害教育改善検討委員会の最終報告の、 今後の東京都の特別支援教育の展開に向けた改善の方向(第2章) の理念に合致すると思われます。(二) P14医師の作成した同年3月4日付け診療情報提供書(疎甲 6の1)には、傷病名欄に「(略)」との記載があり、紹介内容欄 に以下のような記載があった。
 「現在は身体的には呼吸の問題を除き急速な伸びが見られ知的にも 順調に発達しておられます。よって健常児との統合保育が児にとっ ての発達に極めて有効かつ必要だと考えます。一方気管からの分泌 物、唾液の気管への流入、誤嚥の可能性などがあり気管内吸引などの医療的ケアが必要な状況です。気管内吸引は適切な指導を受けた 職員が決められた手順で行えば安全に行える手技であります。また 気管カニューレが抜けた場合も気切孔がすぐには閉じることはな く、これも手技を習得すれば安全に行うことができます。当院では 職員の方へのご指導もお引き受けいたしますし、急変時の対応ある いはご相談にも随時応じていける体制をとる予定ですのでご配慮の ほどよろしくお願いいたします。」(三) P1は、平成16年3月4日には、身体障害者手帳○級となっ ていた。(四) P14医師が東大和市長に宛てて作成したP1に関する平成1 6年5月17日付け診療情報提供書(疎甲6の2)には、傷病名欄 に「(略)」との記載があり、紹介内容欄には以下のような記載が あった。 「P17殿が貴市に提出された陳情書の添付資料「危険を伴う『た んの吸引行為』についてP1殿の主治医として、たんの吸引に際し て引き起こされるおそれのある危害の内容に従って見解を述べさせ ていただきたく思います。・・・(中略)・・・【口腔鼻腔内吸引】
○ 長時間の吸引が行われると低酸素血症を引き起こすおそれがあ
る。
・ 通常は1回の吸引は約10~15秒以内で終了します。吸引時
間を定めてそれを厳守すれば回避可能です。
 12
・・・(中略)・・・
【カニューレ内部までの気管内吸引】
○ 清潔保持が徹底されないと感染症に罹患するおそれがある。
 ・ 吸引前に手洗いの励行や清潔操作を厳守することにより回避可能です。
○ 長時間の吸引が行われると低酸素血症、肺胞の虚脱、無気肺を
引き起こすおそれがある。
・ 口腔鼻腔内吸引と同様の理由で回避可能です。
 【カニューレ下端より肺側の気管内吸引】○ 吸引によって刺激され、咳そう反射(残存している場合)がお
こり、カニューレの位置の移動や抜去による出血、気管切開孔の
閉塞の危険性がある。
・ 通常気管内吸引は気管カニューレの先端より先にはチューブを
挿入せずに吸引いたします。その場合にはこのようなことは起こ りません。しかし、もう少し深くチューブを挿入して吸引をしな いと十分に排痰できない方もいらっしゃいます。その際には医師 の指示に従い吸引チューブの挿入長や、挿入時間などを厳守して 家庭で安全に行っている手順に従って行うことにより十分回避可 能です。万が一カニューレが抜去された場合には児の場合は気管 切開孔がすぐには自然閉鎖しないため、その際の対応をきちんと 習得していれば十分に対応可能と考えます。○ 清潔保持が徹底されないと感染症に罹患するおそれがある。
 13・ カニューレ内部までの気管内吸引と同様の理由で回避可能で す。○ 気管分岐部の粘膜を傷つけ、出血を起こすおそれがある。
・ 通常の医療行為においても気管分岐部以下までチューブを挿入 して吸引することは例外的な場合を除いてありません。よってこ のような吸引は家族にも認めることはありません。チューブの挿入長を制限していれば起こりえない事故です。
○ 長時間あるいは高い吸引圧での吸引が行われると、末梢部まで
の空気まで吸引されて低酸素血症、肺胞の虚脱、無気肺を引き起
こす可能性がある。
・ 口腔鼻腔内吸引と同様の理由及び適切な吸引時間を設定するこ
とで回避可能です。
○ 迷走神経そうを刺激することにより、呼吸停止や心停止を引き
起こすおそれがある。
・ 気管内吸引が刺激になり呼吸状態が悪くなる方もいらっしゃい
ますが、その方の場合には日頃からそのような症状が既に見られ ていることが多く、そのような方の場合には保育園の職員に医療 的ケアを依頼することは難しいと思います。しかし日頃から安定 的に気管内呼吸が行われている方に急に上記のような症状が出現 するということは可能性としてはありえますが、日頃診療を行っ ている経験上その可能性は極めて低いと思われます。もし起こる とすると体調不良であったり呼吸器感染症に罹患していたりする場合が考えられますが、その際には園をお休みにしたり家族にお
迎えに来ていただいたりして対応することになると思います。
 ○ 気管粘膜を傷つけ、粘膜のびらんや気管拡張を招き、気管食道 ろうや大血管穿破による動脈の大量出血により失血死を引き起こすおそれがある。
・ これは気管内吸引を行っている方には十分に注意していてもお
きうる合併症です。特にチューブを深くまで挿入して頻回に吸引 する方や気管内に肉芽を形成しやすい方などに多く見られる合併 症です。そうでない方は日頃から気管内からの出血や肉芽の形成 に気をつけ医師の定期的な診察を受けていれば十分に回避可能で す。このような合併症を起こさないためにもできるだけ吸引チュ ーブの挿入長が短くて済むように調整していく必要があります。
 保育園職員は医師の指示に従い家族のアドバイスを受けながら吸 引を行えば事故は最小限に防げます。 上記の危害の内容はあくまで可能性について述べられているものであって、すべて十分に回避可能であったり仮に起こったとしても 適切な対応をしている場合には責任を問えない不可抗力に属する内 容と考えます。」(五) P18耳鼻咽喉科P19医師作成に係る平成16年11月22 日付け診断書(疎甲6の3)には、診断名の欄に「(略)」との記 載があり、附記として以下のような診断内容の記載があった。 「○を使用しており、発声も可能で、言語によるコミュニケーションも問題がない。発達も少し遅れていたが、現在は精神発達、運動 発達に問題がない。これからの成長のためには他の子ども達とのコ ミュニケーションにより、精神面の発達、身体面の発達がさらに伸 びていくことが期待できる。保育園での経験が児にとって、さらに 豊かな人格形成につながると期待する。カニューレの管理は母親の 管理が上手で脱落防止のテープがカニューレホルダーの上からがっ ちりとカニューレを固定しており、脱落することはない。吸引を必 要とする可能性があるが、○を使用しているので、痰は口の方向に 出すことが可能である。医学的にも安全な状態になっている。」(六) P18呼吸器科P20医師作成に係る平成16年11月22日 付け診断書(疎甲6の4)には、診断名の欄に「○による○障害」 との記載があり、附記として以下のような診断内容の記載があった。 「○を現在まで続けているが、母親は○とその管理についての十分 な知識を有しており、平素の在宅管理に問題を認めない。現在○歳 となり、知的発達にとって重要な時期にあると考えられる。特に同 年齢の健常児との共同生活を行える保育園への通園は、このような 知的発達にとって必要不可欠なものと考えられる。○における吸引 については、いまや在宅で広く行われているものであり、医療に関 する知識を有する看護師であれば、安全かつ有効に行うことができ ると考えられる。またカニューレの事故抜去については、母親が固 定法を工夫するなど事故防止に努めており、現在の固定法で十分に 事故抜去を防止できるものと考える。これらの状況にかんがみて、本児が保育園に通園できることが望ましく、可能な限りのご配慮を
お願いします。」
5 平成17年のP1の状況
(一) P1の主治医であるP12病院・P13小児科P21医師作成 に係る平成17年9月28日付け診療情報提供書(疎甲8)には、 傷病名欄に「(略)」との記載があり、紹介内容欄には以下のよう な記載があった。「(略)この2年間における画像所見の改善、知的な伸びは大きく、 身体的には○を除いてほとんど問題ない状況となっております。よ って今後の本児の発達を考えた時、健常児との統合保育は極めて重 要であり、その権利は十分に保障されるべきと考えます。」(二) P1は、平成17年11月の時点では、たん等の吸引の必要が ある場合に、自ら申し出るだけでなく、自分自身でチューブの挿入 及び吸引を行うことも可能となっている。また、P1は成長に伴い 既に鼻と口からの呼吸も一部可能となっており、成長に伴って完全 な自己呼吸が可能となり、カニューレの装着が不要となる可能性も ある。6 普通保育園への入園申込み
(一) 申立人は、P7の関係者から、P1の兄弟の通う普通保育園に入園をしてみてはどうかとの助言を受けたことから、東大和市福祉 事務所長に対し、平成16年3月2日、平成16年度保育園入園申 込書を提出して、入園申込みをした。(二) 東大和市福祉事務所長は、申立人に対し、平成16年3月8日、 入園申込書を受理しない旨電話にて通告し、その後、入園申込書一 式を申立人に返却した。申立人は、これ以後も、P1を普通保育園 に入園させようと東大和市福祉事務所長や東大和市と折衝するなど 様々な行動を続けたが、入園についての承諾は得られなかった。(三) 申立人は、東大和市福祉事務所長に対し、平成17年1月20 日、希望保育園をP3保育園として、平成17年度の保育園入園申 込みを行った。(四) 東大和市福祉事務所長は、申立人に対し、平成17年2月23 日、上記申込みによる保育園入園を不承諾とする処分を通知した。
 通知書(疎乙1)に記載された不承諾の理由は、以下のとおりであ った。 「P1様の保育園入園申請につきましては、○をされ、たんの吸引 措置が必要な健康状態であるところから、申請があった認可保育園 において通常の集団保育を行うことに支障が無いかどうかを含め、 検討を行ってまいりました。この結果、P1様が申請された保育園に入園した場合、市として 児童福祉法第24条における適切な保育を確保することが困難との 判断をいたしました。」(五) 申立人は、東大和市福祉事務所長に対し、平成17年3月4日、 希望保育園をP2保育園、P3保育園、P4保育園、P5保育園、 又はP6保育園として、保育園入園申込みの変更届を行った。(六) 東大和市福祉事務所長は、申立人に対し、平成17年3月23 日、上記変更届による保育園入園を不承諾とする処分を通知した。 その通知書(疎乙2)に記載された不承諾の理由は、以下のとおり であった。 「P1様の保育園入園申請につきましては、○をされ、たんの吸引 措置が必要な健康状態であるところから、平成17年1月20日付 で申請があったことに伴い、通常の集団保育を行うことに支障が無 いかどうかを含め検討を行なった結果、入園は困難と判断した経過 があります。今回の変更届に基く申請については、過去の経過も踏まえ、入園 の適否について検討した結果、P1様が申請された保育園に入園し た場合、市として児童福祉法第24条における適切な保育を確保す ることが困難との判断をいたしました。」二 争点1(償うことのできない損害を避けるために緊急の必要があると きの要件の存否)について1 行政事件訴訟法37条の5第1項所定の「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避 けるため緊急の必要があるとき」とは、義務付けの訴えに係る処分又 は裁決がされないことによって被る損害が、原状回復ないし金銭賠償 による填補が不能であるか、又は社会通念上相当に困難であるとみら れる程度に達していて、そのような損害の発生が切迫しており、社会 通念上、これを避けなければならない緊急の必要性が存在することをいうと解すべきである。
2(一) これを本件について見るに、前記認定事実によると、P1は、現在満○歳であり、保育園への入園が許可されたとしても、平成▲ 年3月には保育園を卒園することになる。したがって、申立人は、 P1のために、平成17年▲月▲日に本案訴訟を当庁に提起してい るものの、本案訴訟の判決の確定を待っていては、P1は、保育園 に入園して保育を受ける機会を喪失する可能性が高いということが できる。子供にとって、幼児期は、その健康かつ安全な生活のため に必要な習慣を身につけたり、自主的、自律的な精神をはぐくんだ り、集団生活を経験することによって社会生活をしていく上での素 養を身につけたりするなどの重要な時期であるということができる から、子供にとって、幼児期においてどのような環境においてどの ような生活を送るかはその子供の心身の成長、発達のために重要な 事柄である。したがって、相手方がP1の保育園への入園を許可す る旨の処分をしないことによって、P1が保育園に入園して保育を 受ける機会を喪失するという損害は、その性質上、原状回復ないし 金銭賠償による填補が不能な損害であるというべきである。そして、親権者は、子供を監護及び教育する権利を有し、義務を 負っている(民法820条)。したがって、幼児期において子供を どのような環境においてどのような生活を送らせるかは、親権者の 権利、義務にも影響するところであるから、上記損害は、申立人の 損害でもあるということができる。(二) また、P1は、現に保育園に入園することができない状況に置 かれているのであるから、損害の発生が切迫しており、社会通念上、 これを避けなければならない緊急の必要性も肯定することができ る。3(一) これに対し、相手方は、P1がP7に通園しているから、償う ことのできない損害を避けるため緊急の必要があるということはで きない旨主張する。(二) しかし、前記認定事実によると、P7は、心身に障害のある零 歳から就学前の乳幼児に対し、自立を助長するために必要な指導や 訓練等、早期療育を行い、児童の福祉増進を図ることを目的として、 肢体不自由児及び知的障害児を療育する施設であって、その療育時 間も原則として、1日4時間30分程度にとどまるというのである。
 したがって、P7を保育園と同視することはできない。そうすると、P1がP7に通園していることをもって、P1が保 育園に入園して保育を受けているのと同様の状況にあると見ること はできず、また、保育園に入園することができないことによる損害 が回避されていると認めることもできない。(三) 以上によると、相手方の前記(一)の主張は、採用することがで きない。三 争点2(本案について理由があるとみえるときの要件の存否)につい て1 行政事件訴訟法37条の5にいう仮の義務付けを命ずるには、「本 21案について理由があるとみえるとき」という要件が必要である。そし て、同条の文言、及び仮の義務付けの決定が、裁判所が本案判決前に 仮に行政庁が具体的な処分をすべきことを命ずる裁判であることから すると、その発令の要件は、処分の執行停止の決定においては「本案 について理由がないとみえるときは、することができない」(同法2 5条4項)とされているものよりも、更に厳格なものであり、仮の義 務付けの裁判の段階において、積極的に、本案について理由があると 認め得ることが必要であると解すべきである。2 そこで、上記観点から、本件において、本案について理由があると 認め得るかについて検討するに、申立人は、申立人には保育に欠ける ところがあることを前提に、P1に関して児童福祉法24条1項ただ し書にいう「やむを得ない事由」がないことは明らかであるから、処 分行政庁である東大和市福祉事務所長は、申立人の申込みに対して、 適切な保育園へのP1の入園を承諾する義務があり、本案について理 由があるとみえるというべきである旨主張するところ、これは、本件 において、1申立人には保育に欠けるところがあり、かつ、2東大和 市福祉事務所長が、P1に関して児童福祉法24条1項ただし書の「や むを得ない事由」が存在すると判断し、普通保育園への入園を承諾し なかったことが、その裁量権の範囲を超え又はその濫用となるもので あって、違法であるとの主張であると理解することができる。そして、前記前提事実及び認定事実によれば、申立人は、会社の代 表取締役であり、妻のP8もその経理事務を手伝っており、また、P8は、病気の母の看護をするとともに、申立人の父の介護もしている ことが認められる。したがって、児童の保護者のいずれもが昼間労働 をすることを常態としており、一方は同居の親族の常時介護もしてい るため、結局、いずれも当該児童を保育することができないと認めら れる場合であって、かつ、同居の親族その他の者が当該児童を保育す ることができないと認められる場合(児童福祉法施行令27条1号、 同条4号)に当たるということができる。そうすると、申立人らには、 保育に欠けるところがあるというべきである。そこで、これらを前提に、本件において、相手方ないし東大和市福 祉事務所長の児童福祉法24条1項ただし書についての前記判断に、 その裁量権の範囲を超え又はその濫用となるような違法な点があった かどうかについて検討する。3 児童福祉法1条1項は、「すべて国民は、児童が心身ともに健やか に生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。」と規定し、 また、同法2条は、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、 児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」と規定して、児童 の健やかなる育成の重要性を強調している点にかんがみると、同法2 4条1項に基づいて、児童の保育に欠けるところのある保護者から申 込みがあったときに、処分行政庁は、当該児童に対し、保育所におけ る保育を行う際に、当該児童が心身ともに健やかに育成する上で真に ふさわしい保育を行う責務があるというべきである。このことは、当 該児童が障害を有する場合であっても同様である。そして、真にふさわしい保育を行う上では、障害者であるからといって一律に障害のな い者が通う普通保育園における保育を認めないことは許されず、障害 の程度を考えて、当該児童が、普通保育園に通う児童と身体的、精神 的状態及び発達の点で同視することができ、普通保育園での保育が可 能な場合には、普通保育園での保育を実施すべきである。よって、このような場合であるにもかかわらず、処分行政庁が、児 童福祉法24条1項ただし書にいう「やむを得ない事由」があるとし て、当該児童に対し、普通保育園における保育を認めなかった場合に は、処分行政庁の保育所への不承諾処分は、裁量の範囲を超え又はそ の濫用となるものであって、違法となると解すべきである。4 そこで、P1が、その障害の程度を考えて、普通保育園に通う児童 と、身体的、精神的状態及び発達の点で同視することができ、普通保 育園での保育が可能か否かについて検討するに、前記前提事実及び認 定事実のほか、かっこ書内の引用によると、以下のとおり認定判断す ることができる。(一) P1は、過去において、○障害(○障害、○障害)、○障害等 を有し、○級の身体障害者手帳を有していた。しかし、その後、心 身の健全な発育と障害の改善がみられ、現在では、1カニューレを 喉に装着、挿入しているため、気管内にたまる唾液やたんを定期的 に除去する必要があり、30分に1回から2、3時間に1回程度の 間隔で、1回につきおよそ1分間程度、吸引器を用いて唾液やたん を吸引する必要があること、及び2○障害による誤えんを避けるため、水分にとろみをつけることが必要となっているという障害が残 っている程度で、身体障害者手帳も、平成16年3月4日には○級 となっている。(二) P1の身体的機能は年々回復してきており、上記(一)1のたん 等の吸引及び上記(一)2の誤えんへの注意の点を除いては、本件各 処分の当時は、障害のない児童とほとんど変わらない身体的機能を 有するようになってきている。P1がP7に入園する際の資料であ ったP14医師の平成15年5月15日付け療育意見書(疎乙5。 P1の○歳○か月当時)において指摘されたような、(略)、肢体 不自由児通園施設での療育の相当性、療育見込期間については、そ の後の診断書、診療情報提供書等では見当たらず、精神的発達、運 動発達にも問題がなくなり、かえって、普通保育園に入園し、障害 のない児童との集団保育をすることが薦められている。また、P1 は、成長に伴い既に鼻と口からの呼吸も一部可能となっており、今 後、成長に伴って完全な自己呼吸が可能となり、カニューレの装着 が不要となる可能性もあるとされている。(三) たん等の吸引に関しても、P14医師作成に係る平成16年3 月4日付け診療情報提供書(疎甲6の2)、同じく同年5月17日 付け診療情報提供書(疎甲6の2)及びP20医師作成に係る同年 11月22日付け診断書(疎甲6の4)によると、たん等の吸引行 為には各種の危険が伴うが、いずれも回避可能であるか、あるいは、 その事故が起こる可能性が極めて低いものであり、○における吸引については、在宅でも広く行われているものであって、P1のよう な症状の安定した健康状態に近い患者の場合には、医療に関する知 識を有する看護師であれば、安全かつ有効に行うことができるもの であって、P1の場合にあっては、医師による保育園職員への指導 や危急時の対応も可能であると認めることができる。なお、東京都 健康局医療サービス部疾病対策課が作成したP22大学法学部P2 3教授による「ALS患者の在宅療養の支援について-家族以外の 者によるたんの吸引に関する法的解釈-」と題する講演録(疎乙6) においても、たんの吸引は、医師の医学的な判断や技術をもってす るのでなければ危害を生ずるおそれのある医行為であるとされてい るものの、看護師による実施を排斥するものではなく、また、家族 又はヘルパー等のように医師、看護師以外の者が行うたん等の吸引 であっても、目的及び手段が相当であれば違法ではないとするもの であり、また、たん等の吸引行為は、患者の状態が安定していて、 そのたん等が取れやすいのであれば、人体に大事を及ぼすおそれの ある行為ではないとされており、上述した認定判断と矛盾するもの ではない。(四) カニューレの脱落ないし抜去事故については、P15病院小児 系病棟における重大な事故の発生例が報告されている(疎乙16) が、当該事故は、当時1歳6か月の入院中の幼児の例であり、本件 各処分当時、○歳○であって、現在,○歳○か月の知的機能、運動 機能ともに問題のないP1の場合に参考となるものではない。また、本件においては、P19医師作成に係る平成16年11月22日付 け診断書(疎甲6の3)及びP20医師作成に係る同日付け診断書 (疎甲6の4)によると、P1の場合、脱落防止のテープがカニュ ーレホルダーの上からしっかりとカニューレを固定しており、現在 の固定法で十分に事故抜去を防止することができると認めることが できる。また、万一、事故抜去が生じたり、たん等の吸引の遅れ等 が生じたとしても、P1の年齢、精神発達、運動発達の状況、看護 師等の存在、さらには、主治医の協力等を考えると、それが重大事 故に発展する可能性は極めて乏しいというべきである。(五) 誤えんに対する注意については、保育士によっても可能である ことは明らかである。(六) 申立人の希望する保育園には、いずれも看護師1名が配置され ている。5 以上の事実関係によれば、P1は、平成15年当時は、種々の○障 害等を有していたものの、成長につれてこれは改善され、本件各処分 当時は、呼吸の点を除いては、知的・精神的機能、運動機能等に特段 の障害はなく、近い将来、カニューレの不要な児童として生活する可 能性もあり、医師の多くも、P1について障害のない児童との集団保 育を望ましいとしているものであって、たん等の吸引については、医 師の適切な指導を受けた看護師等が行えば、吸引に伴う危険は回避す ることができ、カニューレの脱落等についても、十分防止することが できるということができる。したがって、P1がたん等の吸引と誤えんへの注意の点について格 別の配慮を要するとしても、その程度に照らし、普通保育園に通う児 童と、身体的、精神的状態及び発達の点で同視することができるもの であって、普通保育園での保育が可能であると認めるべきである。そうすると、以上の認定判断を前提とする限り、P1の普通保育園 での適切な保育が困難であって、児童福祉法24条1項ただし書にい う「やむを得ない事由」があると判断した東大和市福祉事務所長の判 断は、裁量の範囲を超え又はその濫用となるものというべきである。 したがって、P1の普通保育園への入園を不承諾とした本件各処分は、 違法であるというべきである。6(一) これに対し、相手方は、たん等の吸引行為を保育士に取り扱わ せるのは問題である旨主張する。しかし、申立人が求めているのは、あくまで看護師によるたん等 の吸引行為であり、保育士はその補助者と想定しているにすぎない のであるから、同主張は、採用することができない。(二) 次に、相手方は、現在、各保育園に勤務する看護師は、零歳児 保育特別対策事業を実施するために配置されたものであり、たん等 の吸引などの医行為を必要とする特定の児童のために配置されたも のではない旨主張する。しかしながら、相手方の主張する東京都保育所事業実施要綱は、 その1条で、「この要綱は、・・・(中略)・・・区市町村が、児童福祉 法(以下「法」という。)第24条の規定に基づき保育を実施する児童の在籍する保育所について、その児童の処遇の改善及び保育所 の運営の充実を図るため支出した費用に関し、東京都が地方自治法 第232条の2の規定に基づき、補助する事業を規定し、もって児 童の福祉の増進を図ることを目的とする。」と規定しており、実施 要綱が、東京都の補助すべき事業の対象を定めるものにすぎないこ とは明らかである。そうすると、実施要綱3条柱書で「区市町村が、 法第24条の規定に基づき法第39条に規定する保育所において保 育を行う児童を対象として行う次に掲げる事業を対象とする。」と 定め、同条1項表題で「零歳児保育特別対象事業」と、同項(1)- A号で「零歳児保育を推進するため、次の各号の要件を満たす公立 保育所及び社会福祉法人等立保育所の運営の充実を図るために行う 事業をいう。」と定め、さらに、同号の中の(カ)において、「保 健師又は助産師若しくは看護師(以下「保健師等」という。)を1 名配置すること。・・・(中略)・・・保健師等は、保育士との協力のも とに零歳児の異常の発見、特に登所時における健康観察を通じての 異常の有無の確認及び医師との連絡を行うほか、健康診断、予防接 種の計画及びその実施に対する協力等保健活動に従事するものとす る。」とそれぞれ定めているものの、これらの規定は、補助対象事 業を定めているものであり、実際に保育所に配置された看護師が、 零歳児に対する健康観察等のほか、たん等の吸引等、医行為を必要 とする特定の児童のためにも働くことを妨げるものではないという べきである。その他、本件一件記録を精査してみても、看護師がたん等の吸引 等の医行為を必要とする特定の児童のために働くことを妨げる根拠 は見当たらない。逆に、衆議院第159回通常国会における決算行 政監視委員会第3分科会における平成17年5月17日付け議事録 (疎甲9)によれば、同日の審議において、高木美智代議員が、P 1を想定した相手方に居住する○の児童に関する保育所入所の可能 性に関する質問をしたことに対し、政府参考人であるP24厚生労 働省雇用均等・児童家庭局長(当時)は、「たんの吸引ということ が、これが医療行為とされておりますことから、保育所に看護師が 配置されておるかどうかということが決め手になるわけでございま す。現在全国に二万カ所ございます保育所のうち、看護師が配置さ れておるのが四千四百カ所程度でございます。・・・中略・・・こういっ たところでは状況によっては受け入れが可能ではないかと思います (以降、省略)」と回答していることが認められ、この回答も、看 護師が、こうした職務も行い得ることを示すものと評価することが できる。以上によれば、相手方の前記主張は、採用することができない。 (三) また、相手方は、東大和市内の各保育園には、約100名から 180名の園児が通園している状況の下で、各保育園に配置された1名の看護師は、園全体としての看護行為に当たらなければならず、 実際問題として、一人の園児に対し、付きっきりで看護することが できる体制にはないとし、P7の方が適切な対応を取ることができる旨主張する。 しかしながら、P1に係る特別な世話の内容は、130分ないし2、3時間に1回、1分間程度行われるたん等の吸引行為、又はP 1が行うたん等の吸引行為の補助と2誤えんを防ぐために水分にと ろみをつけることである。そして、これら以外の点については、仮 に、相手方が主張するように、P1は体力的に疲れやすく、散歩等 の際にも5分から10分毎に休憩を必要とすることなどがあったと しても、保育士のみでも十分対応することができるはずのものであ る。しかも、P1の年齢や、精神面、運動面の発達状況、さらには、 P1が、既に平成17年11月の段階では、自分自身で吸引行為を 行うことができるようにまでなっていることも考え合わせると、本 件各処分当時においても、看護師がP1の世話に付きっきりのもの となったり、看護師にとって過大な手間となるということはできな い。 したがって、相手方の前記主張は、採用することができない。(四) 相手方は、P14医師作成に係る平成15年5月15日付けの 療育意見書(疎乙5)において、理学治療等の必要性が記載され、 療育見込期間も平成▲年▲月▲日までとされていることを主張する が、この診断は、一般的な幼児の発達の急速さに照らせば、はるか な過去のことであり、既に認定判断したP1の発達状況等からする と、本件各処分の当時に妥当するものではない。(五) 相手方は、P1が、平成▲年▲月▲日に、○状態になったこと 31を指摘するが、これは、結局ことなきを得た出来事である。しかも、 本件各処分時以降の事情であり、かつ、平成17年11月段階では、 P1自身が自ら吸引を行えるようになっているのであるから、看護 師及び保育士が通常の園児に対するのと同様にP1に注意を払って いれば、たん等の吸引の遅れによる事故は防ぐことができるものと 考えることができる。このほか、同一保育中の他の園児とのけんか、悪ふざけなどによ り起こり得るカニューレ脱落事故等についても、カニューレの固定 法の工夫等により防止することが可能であり、万が一事故が起こっ た場合でも、適切な処置がなされれば、大事に至ることはないと考 えられる点についても、前記認定判断のとおりである。以上によれば、相手方の前記主張も、採用することができない。
 7 以上の認定判断を前提とすると、現段階においては、本件各処分は、処分行政庁が裁量権を逸脱又は濫用したものであって違法であり、処 分行政庁は、本件における普通保育園への入園の各申請につき、承諾 の義務を負うものということができる。第四 結論 以上によれば、本件申立ては、理由があるからこれを認容することとし、申立費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を 適用して、主文のとおり決定する。平成18年1月25日 東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 菅 野 博 之
裁判官 鈴 木 正 紀
裁判官 岩 井 直 幸
別紙
争点に関する当事者の主張の要旨
1 争点1(償うことのできない損害を避けるために緊急の必要がある ときの要件の存否)について(一) 申立人の主張
(1) P1の利益 P1にとっては、保育園に通園することは、同年代の園児との人格的接触を通じて、それまで家族やごく近隣の単位でのみ活動 していた段階から社会単位での活動の段階へのステップを踏むと いう意味がある。そこでは、一定時間親や家族と離れ、同年代の園児たちや保育 園の教師らとの人格的接触を通じて、社会生活のルールを身につ け、心身の成長や発達その他の自己の個性を高めていくことにな るものであって、子供の生育に極めて重要な役割を果たすことに なる。これはP1にとっても同様に当てはまるものであり、P1 の心身の成長にとって保育園入園は欠かせないもの、あるいは極 めて重要なものであるというべきである。したがって、公共団体としては、保育園の申込みがあった場合 には、合理的な理由がない限りその入園を許可すべきであり、肢 体不自由児施設等への入園に関しては、普通保育園では対象児の保育の実を挙げることができず、普通保育園に通わせることがか えって対象児の状況に応じた生育を阻害し、周囲にも悪影響を及 ぼすような危険がある場合に限るというべきである。現実に集団保育が幼児の社会的成長に与える影響は無視できな いことは論を待たない。児童福祉法24条1項を含めた同法各条 項を貫く基本理念をうたった同法1条1項は「すべて国民は、児 童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなけ ればならない。」とし、同法2条は、児童育成の責任として「国 及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに 健やかに育成する責任を負う。」と定めており、保育所における 保育においても当然この理念や責任が果たされるように務めるべ き責任が相手方にはある。(2) 申立人の利益 申立人は、仕事上及び家庭生活上の理由から、「保育に欠ける状況」にある。親であると同時に一社会人であったり、親の介護 をすべき立場にあるがために、常に子供の生育に時間と労力を十 分に割り当てることのできない者にとっては、自分たちの子供の 養育を補完し、かつ、子供の生育に重要な意味を持つ保育園は欠 くことできないものである。(3) したがって、保育園への入園が認められなければ、P1の得 られるべきであった保育園生活による人格的利益を享受すること ができず、申立人にとっても、保育園入園により捻出することができたはずの介護の時間を奪い、申立人に過度の負担を負わせる ことになる。そして、後に入園をすることができたとしても、そ のときまでに得られるはずであった利益や、免れるはずであった 過度の負担は金銭的損失ではなく、遡及的に金銭的補償で代えら れるものではない。よって、本件においては、本案訴訟である義務付けの訴えに係 る処分がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避 ける緊急の必要があるというべきである。(4) これに対し、相手方は、裁量の違法性が明らかでない限りは、 償うことのできない損害を避ける緊急の必要性があるとはいえな い旨主張する。しかしながら、「裁量の違法性」と、損害の有無及びそれを避 ける緊急の必要性の有無とは全く無関係である。(5) 相手方は、P1が、P7に通園していることから、保育に欠 ける状態が解消されており、よって、損害を避ける緊急の必要性 がないとする。しかしながら、「保育に欠ける」とは、児童の保護者等が当該 児童を保育することができないと認められる場合をいい、保育に 欠けるから保育所に入所するのであって、保育所に入所したから 保育に欠ける状態が解消されるわけではない。(6)ア P1は、現在、保育所に入所することができず、P7に通 園しているために、十分な保育を受ける状況になっていない。イ そもそも、P7は、保育を目的とした施設ではない。
 「保育所」とは、保育に欠ける乳幼児を保育することを目的 とする施設である。そして、厚生労働省が作成する保育所保育 指針によれば、「保育所は、乳幼児が生涯にわたる人間形成の 基礎を培う極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごすところであり、保育所における保育の基本は、「子どもが健康、 安全で情緒の安定した生活ができる環境を用意し、自己を十分 に発揮しながら活動できるようにすることにより、健全な心身 の発達を図る」ところにあり、「養護と教育が一体となって、 豊かな人間性を持った子どもを育成するところに保育所におけ る保育の特性がある」とされている。これに対し、P7は、東大和市立P7条例に基づいて設置さ れるもので、児童福祉法43条の「知的障害児通園施設」及び 同法43条の3の「肢体不自由児施設」の機能を有する施設で ある。「知的障害児通園施設」は、知的障害のある児童を日々保護 者の下から通わせて、これを保護するとともに、独立自活に必 要な知識技能を与えることを目的とする(同法43条)。そし て、「肢体不自由児施設」は、肢体不自由のある児童を治療す るとともに、独立自活に必要な知識技能を与えることを目的と する(同法43条の3)。すなわち、P7は「保育」ではなく 「療育」を目的とする施設である。確かに、平成15年当時の療育意見書においては、P1に関 し、○及びこれに対するトレーニングの必要性が指摘されたが、 遅くとも平成16年の早期において、P1の○は改善され、現 在、P1にとっての療育の必要性は消滅している。P7の意義、機能、役割については、いささかの疑念を差し 挟むものでもないが、現在のP1に必要とされるのは、「養護 と教育が一体となって、豊かな人間性を持った子どもを育成す る」ことを目的とした。「保育所における教育」なのである。ウ また、P7が保育を目的とする施設ではないこととも関連し て、療育の実施状況は、保育所における保育の実施状況と比較 して、十分ではない。すなわち、児童福祉法45条に基づき、厚生労働大臣が定め る児童福祉施設最低基準34条によれば、保育所における保育 時間は1日につき8時間を原則とされている。「保育に欠ける」 児童に対し、提供されるべき保育としてこれが最低基準なので あり、延長保育も可能であることが一般である。ところが、P1のP7入園に際しては、当初、保護者の付添 いが条件とされ、平成16年4月以降、付添いは改善されたも のの、療育時間は午前10時から午後2時半までと極めて短く、 特に8月中の数週間は、家族等の付添いを条件に午前中のみの 保育が実施されている。また、グループ活動日等P7側の諸事 情により、少なくとも月1回は、園を休まざるを得ない状況である。また、P1の年齢を理由として、平成17年3月まで毎 月3回(水曜日)は、療育の実施はなかった。さらに、登園時 の見送りは、同月までは療育開始の午前10時にP8が園まで 車で送る必要があった。同年4月からは迎えの園バスに乗るこ とができるようになったので、午前9時45分にバス停まで送 っていたが、同年5月以降、○に罹患中である申立人の父の○ が開始するとともに、9月からは仕事が多忙を極めていたため、 P8による見送りが困難となり、バス停までの見送りを近所の 人に頼まざるを得ない状況となっている。また、帰宅時の迎えについても、同年3月までは、P8が自 宅から数分の園バス停留所まで迎えに出る必要があった。また、相手方は、時間延長等の可能な限りの配慮をしている というが、申立人は、P7から、定期的な延長療育は実施でき ないとの説明を受けており、午前10時から午後2時半という 療育時間に合わせるほかないのが現実である。そのため、P1 の帰宅後は、P10がP1の面倒をみるなどして対応している が、P10は病気療養中のため、十分な保育は困難であり、こ れを補うためP8が自宅に仕事を持ち帰ったり、他の従業員に 分担してもらうなどして対処している。(二) 相手方の主張 申立人は、一般の保育園に入所させないことが、保育に欠ける状態であり、そのことにより、償うことのできない損害が生じ、それ 39を避けるため緊急の必要があると主張するが、保育に欠ける状態を どのように解消するかは、児童の状況により、行政庁の裁量にゆだ ねられており、その裁量の違法性が明らかでない限りは、償うこと のできない損害を避ける緊急の必要があるということはできない。 P1は既にP7において療育をされており、相手方は、なるべくP 1に保育に欠ける時間帯が生じないよう時間延長等の可能な限りの 配慮をしている。P7には、P1は、午前10時から午後2時半ま で通園している。現在まで、P1の保護者からの時間延長の要請は 数回にすぎない。この事実から、P1はP7での生活を送ることに より保育に欠ける状態は解消されているものである。また、仮にこ の時間帯を超えて保育に欠ける事態が生じたとしても、保護者から の要請があれば、時間延長をして園で預かる対応を取ることができ るようにしているのであるから、現状においてP1が保育に欠ける 状態であるとはいえず、P1を保育園に入れるべき緊急の必要があ るということはできない。2 争点2(本案について理由があるとみえるときの要件の存否)につ いて(一) 申立人の主張
(1) 児童福祉法24条1項ただし書は、同項本文を受けて、「ただし、付近に保育所がない等やむを得ない事由があるときは、そ の他の適切な保護をしなければならない。」と規定している。相手方は、たとえ申立人に保育に欠ける状況があるにしても、 40(略)、カニューレの脱落などの過去の事故例を挙げつつ、医行 為を必要とするP1に適切な保育を行うことが現状の保育園の施 設や職員体制では困難であることなどを理由に、同項ただし書に いう「やむを得ない事由」に該当する事由が存在し、他の適切な 保護としてP7で保護を行っているので、相手方に違法・不当な 行為はないとしている。(2) しかしながら、以下の点を考えれば、P1の場合において児 童福祉法24条1項ただし書にいう「やむを得ない事由」は存在 せず、相手方は同項本文に基づき、P1を保育所で保育しなけれ ばならない義務があることは明白である。ア 申立人は、P1がP7で○状態となった際には、看護師が○ を外して吸引を行い、○に切り替えることで対応できた旨聞い ており、万が一の事態にも十分対応が可能であることは明らか である。このような万が一の緊急時には、保育方針やあらかじ め打ち合わせておいた具体的手順に従った対応を行うべきこと は保育園でもP7でも同様であり、むしろ、P1の場合には、 非常時の受け入れ病院、対処方法が事前に手順として決まって いる点で、保育士の負担はかえって少ないとさえいえる。専門 医らの診療情報提供書や診断書によれば、○における吸引はい まや在宅で広く行われているものであり、適切な指導を受けた 職員が決められた手順に従えば安全に行うことができるもので あること、P1の主治医が勤める病院において職員への指導も引き受け、急変時の対応にも応じられる体制を取ることなどが 記載されている。また、今では○歳のP1自身でも吸引行為が できるようになっている。こうした点を考えると、吸引行為を 医行為であるとして過度に強調し、看護師等の人員の配置や整 備上の問題があるとして、受け入れを拒否するような姿勢は望 ましくない。イ カニューレの抜去事故のおそれについては、P1に関する専 門医らの診療情報提供書や診断書には、万が一カニューレが抜 けた場合にも気切孔がすぐに自然閉鎖することはなく、その際 の対応をきちんと習得していれば十分に対応可能であること、 カニューレの管理については、脱落防止のテープがカニューレ ホルダーの上からしっかりとカニューレを固定しており、また、 P1の母であるP8が固定法を工夫するなど事故防止に努めて いること、たん等の吸引を行う必要はあるが、○を使用してい るので、たん等は口の方向に出すことが可能であり、医学的に も安全な状態になっていることなどが記載されており、相手方 の主張はこれらの記載と明らかに矛盾している。こうした矛盾 は、相手方が、専門医らの判断を真摯に聞くことなく本件各処 分や本件裁決を行った証左である。ウ P1が現在通園しているP7における体制については、医師 が常駐しているわけではなく、P7でも、万が一脱落事故が発 生した場合に即時医師が処置することができるわけではない。やはり、看護師が適切にカニューレを挿入するか、すみやかに P12病院ほか適切な病院へ搬送するはずである。すなわち、 カニューレの脱落の危険、そして脱落の際の処置については、 P7に通園する場合と、通常の保育園に通園する場合とで何ら 差異はなく、この点に関する相手方の主張には、何ら合理的理 由はないのである。(3) 以上からすれば、申立人には労働により保育に欠ける状況が あり、しかも児童福祉法24条1項ただし書にいう「やむを得な い事由」がないことも明らかであるから、相手方は、申立人の申 込みに従って、適切な保育園へのP1の入園を承諾する義務があ るのであり、本案について理由があるとみえるというべきである。(4) これに対し、相手方は、P1がP7に入園した当時の療育意 見書に理学療法の必要性が記載されていること、療育見込期間が 平成▲年▲月▲日までとされていることを指摘する。しかしながら、上記療育意見書は平成15年5月15日付けで あって、今日のP1の状態を示すものではない。P1の○、○等 は既に解消され、療育の必要性は消滅しており、当該療育意見書 を作成した医師自身が、平成16年3月4日付けの診療情報提供 書で、「健常児との統合保育が児にとっての発達に極めて有効か つ必要」であるとの意見を述べているのであるから、何ら理由と はならない。相手方は、現在のP1の状態ではなく、2年前のP 1の状態を基に入園の可否を判断しているというほかない。また、療育見込期間が平成▲年▲月▲日までとされているのは、 単にそれがP1の小学校就学前の日だからであり、P7において 療育可能な最大限の日が記載されただけである。(5) 相手方は、申立人の主張は、たん等の吸引が医療行為に該当 せず、保育士でも対応可能であるという趣旨に取れるとし、たん 等の吸引を看護師等資格を有する者以外が行うことは違法である と主張する。しかしながら、申立人は、非医療職者によるたん等の吸引実施 を想定し、これを求めているのではない。あくまでP1本人又は 看護師等資格を有する者による医師の指示に基づくたん等の吸引 の実施を想定しているのである。衆議院第159回通常国会における決算行政監視委員会第3分 科会における平成17年5月17日付け議事録によれば、高木美 智代議員による、P1を想定した相手方に居住する○の児童に関 する保育所入所の可能性に関する質問に対し、政府参考人である P24厚生労働省雇用均等・児童家庭局長(当時)は、「たんの 吸引ということが、これが医療行為とされておりますことから、 保育所に看護師が配置されておるかどうかということが決め手に なるわけでございます。現在全国に二万カ所ございます保育所の うち、看護師が配置されておるのが四千四百カ所程度でございま す。・・・(中略)・・・こういったところでは状況によっては受け入 れが可能ではないかと思います(以降、省略)」と回答している。(6)ア 相手方は、保育所に配置されている看護師では、たん等の吸 引を必要とするP1に対応することができないと主張するが、 かかる見解は以下に述べるところから妥当でない。イ 相手方は、あたかも保育所に配置されている看護師は零歳児 保育にのみ従事することを目的とするように主張するが、これ は、東京都保育所事業実施要綱(昭和54年9月17日付け民 生局長決定。以下「実施要綱」ともいう。)の極めてミスリー ディングな引用と言うほかない。実施要綱は、都が補助すべき 対象となる事業を定めるものであって、保育所に配置された看 護師の職務を制約するものではない。東京都が零歳児保育を充 実させるため、保育所に看護師を配置させることに対し、補助 金を支出したとして、配置された看護師は、すべての園児を対 象としてその健康を維持すべく看護、保健活動に従事するもの である。ウ また、P1は、専属の看護師が付きっきりで看護することが できる体制を必要としない。吸引行為自体は、P1自身が行う ことができるし、それに立ち会い、あるいは介助するとしても、 1時間ないし3時間に1回程度の頻度の行為であるから、看護 師が付きっきりでいる必要性などない。また、吸引を必要とする場合については、P1本人がそれを 申告する能力がある。相手方は、P1が、平成▲年▲月▲日、 吸引の申告をしなかったため、○状態になったと指摘する。しかし、P1が着替えをしてから吸引すると言っているうちに呼 吸が荒くなったというのであるから、吸引の申告を怠ったわけ ではない。さらに、吸引を行うことを必要とする状況の有無については、 園児の健康状態を常時観察する職務を有する保育士によって も、これを観察して対応することができる。よって、看護師が付きっきりで観察しなければならないわけ ではない。エ また、カニューレの事故抜去の危険は極めて少ないことは専 門医の意見から明らかである。その危険性は、園内の遊具によ る事故等と何ら差異はなく、園児の安全に配慮する一般的な注 意で足り、事故抜去を防ぐため看護師が常時監視する必要はな い。オ 水分にとろみをつける必要がある点については、看護師が常 時対応することを要求するものでないことは明らかであろう。
 カ なお、相手方は、P1は、同年代の児童に比べ体力的に疲れ やすいと指摘するが、乳幼児は個々の発達に差異があるのが当 然であって、他の児童との比較については、申立人の知るとこ ろではないが、看護師が常時P1を看護することの理由とならないことは明らかである。 (二) 相手方の主張
(1) P1にとっては、P7における療育の方が、通常の保育園に 46おける保育よりも適しており、P1のP7入園は、児童福祉法2 4条1項ただし書にいう「その他適切な保護」としての合理性を 有する。よって、本件各処分は何ら違法性を有するものではなく、本案 について理由があるとみえるときには当たらないから、本件申立 ては棄却されるべきである。(2) P1にとって、P7における療育の方が適している理由は、 以下のとおりである。ア ○障害を有するP1は、気管内に詰まったたん等をおおむね
1時間に1回程度吸引することが必要な状態であり、現在でも P7において、医師の指示を受け、療養上の世話又は診療の補 助行為として看護師が吸引を行っている。申立人の主張は、この程度のたん等の吸引は、医行為に該当 せず、保育士でも対応可能であるという趣旨に取れるが、現に ○障害のある児童に対して、医療従事者である看護師によって 対応している吸引を保育士にゆだねることは問題である。たん 等の吸引行為が医行為であるとの考えは通説であり、医師の指 示に基づき看護師等資格を有する者が行う場合のみが可能であ り、これ以外の者が行う場合には医師法に抵触する違法な行為 になる。イ 申立人は、各保育園にいる看護師にたん等の吸引を担当させ れば問題はないと主張している趣旨とも解される。しかし、現在各保育園に配置されている看護師1名は、東京 都保育事業実施要綱に定める零歳児保育特別対策事業を実施す るために配置したものである。実施要綱においては、看護師は、 「保育士との協力のもとに零歳児の異常の発見、特に登所時に おける健康観察を通じての異常の有無の確認及び医師との連絡 を行うほか、健康診断、予防接種の計画及びその実施に対する 協力等保健活動に従事するものとする。」とされている。この ように、各保育園に配置されている看護師は、たん等の吸引等、 医行為を必要とする特定の児童のために配置しているわけでは ない。なお、国が定める児童福祉施設最低基準(昭和23年1 2月29日厚生省令第63号)33条に定める職員の規定にお いても、医行為を想定していないため、保育園における看護師 の配置の義務は定めていない。そして、東大和市内の各保育園には、約100名から180 名の園児が通園している状況の下で、各保育園に配置された1 名の看護師は、園全体としての看護行為に当たらなければなら ず、実際問題として、一人の園児に対し、付きっきりで看護す ることができる体制ではない。ウ これに対し、P7では、園児20名に対し、看護師2名が常 駐し、P1に対しては、常時1名の看護師が常に状況を把握す るなどして、適切な対応をとっている。これにより、おおむね 1時間に1回程度必要となるP1のたん等の吸引行為に即対応することができ、水分補給の際にとろみをつけることや、体力 的に疲れやすいために散歩等の際にも5分から10分毎に休憩 を必要とすることなど、P1の健康状態や介護の必要性にあっ た看護を行うことができる。申立人が、東京都知事に対し、平成15年5月6日、P1を P7に入園させるため、肢体不自由児通園施設入園申請書を提 出した際にともに提出された同月15日付けのP12病院医師 による療育意見書においても、理学治療、排たん等の措置の必 要性が記載されており、療育見込期間も平成▲年▲月▲日まで とされている。実際にも、P1は、平成▲年▲月▲日、戸外で遊んだ後、シ ャワーを浴び、着替えの最中に○状態となった。このときは、 P1自身からたん吸引の申告が全くなかったが、付き添いの看 護師がP1の様子の変化をすぐ発見し、看護師2名で対応し、 吸引をして○を消滅させた事実がある。以上
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