平成17年(わ)第44号,第93号 住居侵入,殺人未遂,傷害,銃砲刀剣類所持等 取締法違反,建造物侵入,強盗致傷被告事件主文 被告人を懲役10年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
 理由
(罪となるべき事実)
 被告人は, 第1 消費者金融会社に押し入って金銭を強取しようと企て,平成17年2月10日午後7時ころ,金沢市内のA株式会社金沢店正面出入口から同店内に侵入 し,同店従業員B(当時44歳)に対し,「金を出せ。」等と申し向けながら,所携 の刺身包丁(刃体の長さ約23.8センチメートル)を示して脅迫し,その反抗を 抑圧した上,同人から金銭を強取しようとしたが,同人に抵抗されたため,その 目的を遂げず,その際,同人に対し,左下腿前部を同刺身包丁で1回突き刺 すなどの暴行を加え,よって,同人に加療約2週間を要する左下腿切創,左拇 指切創の傷害を負わせた,第2
 1 金品窃取の目的で,同月24日午前2時20分ころ,富山市内のC方西側出入口付近から敷地内に侵入した,
 2 そのころ,同人(当時67歳)に発見され,竹製の棒で1回殴打されたことに激高し,とっさに同人を殺害してもやむを得ないと考え,同所西側通路において, 同人に対し,殺意をもって,所携の上記刺身包丁でその後頸部,右胸部等を 数回切り付けたが,その場にDが姿を見せたため,上記Cに加療約3週間を要 する後頸部裂創,右胸部裂創等の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害す るに至らなかった,3 同日午前2時30分ころ,上記場所において,上記D(当時64歳)に大声を出 させないようにしようともみ合いになった際,同人に対し,上記刺身包丁でその 右頬部,右頸部等を数回切り付け,よって,同人に加療約2か月間を要する右 頬部裂傷,右母指屈筋腱断裂等の傷害を負わせた,第3 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前2時20分ないし30 分ころ,上記場所において,上記刺身包丁1丁を携帯したものである。
 (法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,強盗致 傷の点は同法240条前段に,判示第2の1の所為は同法130条前段に,同第2の 2の所為は同法203条,199条に,同第2の3の所為は同法204条に,判示第3 の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するところ, 判示第1の建造物侵入と強盗致傷との間には手段結果の関係があるので,刑法5 4条1項後段,10条により1罪として重い強盗致傷罪の刑で処断することとし,判示 第2の1の住居侵入と同第2の2の殺人未遂及び同第2の3の傷害との間にはそれ ぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により結局これを1罪 として最も重い殺人未遂罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示第1及び第2 の罪については有期懲役刑を,判示第3の罪については懲役刑をそれぞれ選択 し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も 重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役10年に 処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,訴訟費用は, 刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
 (量刑の理由)第1 各犯行に至る経緯 被告人は,石川県内で内妻と同居していたところ,ギャンブル等のため消費者金融会社から多額の借金をし,これを内妻に知られれば愛想を尽かされる ので,いっそのこと1人で生活しようなどと考え,仕事をやめ,内妻宅を出て自 動車内で寝泊まりするようになった。被告人は,ほどなく,所持金をほとんど使い果たして自暴自棄になり,豪遊した後に自殺しようと思い立ち,その資金を 自己が借入れをしている金融会社から強盗して得ようと考え,判示第1の建造 物侵入・強盗致傷の犯行を行った。上記犯行で金銭奪取に失敗した被告人は,その後,富山県内及びその周 辺を徘徊する生活を続け,その間,食料品を万引きして検挙されるなどした が,いよいよ進退窮まり,この上は,かつて建築の仕事を請け負ったことがあ り,従来からよい感情を持っていなかったC方に盗みに入り,金品を得るしかな いと考え,判示第2の1ないし3及び第3の各犯行を行った。第2 特に考慮した事情
 1 本件は,消費者金融会社に対する建造物侵入・強盗致傷,知人宅への金品窃取目的での住居侵入とこれを発見した知人等に対する殺人未遂,傷害及びその際の刺身包丁の不法携帯からなる事案である。
 2 上記の各犯行に至る経緯や動機には,いずれも酌むべき点がない。特に,判示第2の各犯行は,強盗致傷を犯した2週間後に,万引きでの検挙を経たにも かかわらず行われたものであり,被告人には規範意識が欠如している。その態様も,いずれも鋭利な刺身包丁を用いた危険なものであり,特に,同 2の殺人未遂は,うつぶせに倒した被害者の頸部等を数回にわたり切り付け ており,あやうく失血死という結果が生じかねないものであった。また,同3の傷害の結果は,加療約2か月間を要する重いものである。
 3 被害者らは,いずれも落ち度がないにもかかわらず,本件により怪我を負わさ れ,著しい恐怖を感じさせられている。これに対し,被告人は見るべき慰謝の措置をとっておらず,被害者らの処罰感情が厳しいのは当然のことである。加 えて,本件は,ターミナル駅前のビル内及び住宅街にある民家で行われ,いず れも地域社会に深刻な不安を与えたものであり,その社会的影響の大きさも 見過ごせない。以上の点に鑑みると,被告人の刑事責任は相当重大である。
しかしながら,他方,強盗致傷については,被害者の怪我が重大とまではいえ ず,金銭奪取にも失敗していること,殺人については,幸い未遂に終わり,計画 性に乏しく,殺意も特異な心理による未必的なものにとどまっていること,傷害に ついては,被害者ともみ合う際に怪我を負わせたものであること,被告人は,各 犯行をいずれも認め,被害者らに詫び状を書くなど,反省の態度を示しているこ と,古い交通事犯による罰金前科以外に前科がないこと,その年齢や境遇等,被 告人のために酌むべき事情も認められる。そこで,これらの諸事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当 であると判断した。(求刑 懲役12年) 平成17年7月26日 富山地方裁判所刑事部
 裁判長裁判官 手 崎 政 人 裁判官 大 多 和 泰 治 裁判官 五 十 嵐 浩 介
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