主文
1 被告が、原告に対し、平成13年10月31日付けでした遺族厚生年金不支給処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、亡夫と内縁関係にあり、夫死亡の当時、同人により生計を維持していたとして、遺族厚生年金の裁定請求をしたところ、被告が、原告と亡夫との間の関係は民法の禁止する近親婚にあたり原告は内縁の妻とは認められないとして、不支給処分(以下「本件不支給処分」という。)をしたため、原告が同処分を不服としてその取消しを求める事案である。
1 前提となる事実(括弧内に証拠を掲げた事実の他は、当事者間に争いのない事実か、弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)
(1) 原告は、P1の兄の長女であり、P1と叔父・姪の関係にあったところ、昭和33年12月末から平成12年12月5日にP1が死亡するまで、P1と事実上の夫婦として生活した(甲17、原告本人)。
(2) 原告は、平成13年10月19日付けで、遺族厚生年金の裁定請求をしたところ、被告は、同月31日付けで、「遺族の範囲に該当しないため。(近親婚にあたり、内縁の妻として認められないため。)厚生年金法第59条」として、本件不支給処分をした(甲2)。
(3) 原告は、平成13年11月21日付けで、茨城社会保険事務局社会保険審査官に対して審査請求をしたところ、同審査官は、同年12月7日付けで、同審査請求を棄却する旨の決定をした。
(4) 原告は、(3)の決定を不服として、平成13年12月12日付けで、社会保険審査会に対し、再審査請求をしたところ、同審査会は、平成14年5月31日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決をしたため、原告は、同年8月19日受付の訴状により、本件訴えを提起した。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、原告が厚生年金保険法(以下「法」という。)59条1項の「配偶者」と同様に扱われる法3条2項の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当するか否かである。
(1) 被告の主張
ア 被保険者等と三親等の傍系血族関係にある者は遺族に当たらないこと(ア) 遺族厚生年金は厚生年金保険における保険給付の1つであり、社会政策的な目的のために利用される保険であること(法1条、32条等)等から、営利保険等とは区別され公的給付としての性質を有する。したがって、被保険者等との身分関係が公益を害するものを「配偶者」に該当するとして保護することは法の趣旨に反することになる。
(イ) 民法734条は、優生学的な観点、性的あつれき等の問題を生ずる具体的危険性があること等の社会倫理的観点などから、近親婚を禁止し、同法740条は、734条1項に違反する婚姻の届出は受理してはならないものと規定し、同法744条1項本文は、上記届出を誤って受理したとしても、公益の代表たる検察官が取り消すことができるものと規定している。そうすると、三親等の傍系血族間の婚姻関係は、我が国の法秩序において、反社会的ないし反倫理的であり、公益を害するものとされている。
(ウ) 法3条2項は、遺族厚生年金を受給し得る「配偶者」(法59条1項)には、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むと定めているところ、同条項の趣旨は、届出をすれば、被保険者等との間で法律上の婚姻関係を発生させ得る者が、婚姻の届出(手続)をしていないという形式的理由によって法律上の婚姻関係と同様の保護を与えられないのは不合理であると考えられることによるものであるから、「婚姻の届出をしていないが」との文言は、届出をすれば適法に受理され得ることを前提としているというべきである。(エ) 以上によれば、三親等の傍系血族間の婚姻関係は公益を害するものであって、法は、このような関係にある者を公的給付を受け得るものとして保護することを予定しておらず、また、被保険者等と三親等の傍系血族関係にある者については、被保険者等との間の婚姻関係の成立を阻害する要件が排斥される余地はなく(民法740条)、本来被保険者等との間に法律上の婚姻関係を発生させ得ないのであることからみても、被保険者等と三親等の傍系血族関係にある者は、仮に被保険者等と事実上婚姻と同様の事情にあったとしても、法3条2項における「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には含まれず、被保険者等の「配偶者」(法59条1項)に当たらないと解するべきである。イ 遺族厚生年金の裁定実務について
 昭和55年5月16日庁保発第15号社会保険庁年金保険部長から都道府県知事あて通知(以下「昭和55年通達」という。乙2)は、民法734条に違反するような内縁関係にある者については、これを事実婚関係にある者と認定しないものとしており、前記法解釈と同様の解釈をしている。他方、厚生年金保険実務では、不適法婚であっても、その婚姻届を誤って戸籍吏が受理した場合においては、「配偶者」として取り扱うこととしている(昭和35年1月18日年発第15号都道府県知事あて厚生省年金局長通達。以下「昭和35年通達」という。乙4)が、これはすべての申請について当該申請者が民法の規定に違反しているか否かを確認することは迅速な裁定処理を不可能にするものであり、実際にも誤って婚姻の届出が受理されるような場合は通常あり得ないことを根拠とするものにすぎない。ウ 最高裁判例と一致することについて
 最高裁判所昭和60年2月14日第一小法廷判決(以下「最高裁昭和60年判決」という。)は、死亡した被保険者と直系姻族の関係にある上告人は、仮に被保険者と内縁関係にあったとしても、法3条2項に該当しない旨を判断した。本件は、三親等の傍系血族間における事実上の婚姻関係を問題とするが、民法734条は社会倫理的考慮を根拠とするものであること、これに反する内縁関係は、およそ将来において法律上有効な婚姻関係に入り得る余地がないこと等の点において、同最高裁判例と事情が同一であり、公的給付にふさわしい関係か否かという観点からは、民法735条の場合である最高裁判例の事案に比較して、無視し難い問題がある。したがって、原告について法3条2項に該当しないと解することは、最高裁昭和60年判決にも合致するものというべきである。
エ 他の社会保障関係法規における解釈と整合すること
 厚生年金保険と同様に社会保障的性格を有する公的給付に関する支給要件を定めた国家公務員共済組合法及び健康保険法においても、配偶者に関する同様の要件判断について、民法734条ないし736条に違反する内縁関係にある者については、各法が「配偶者」に給付することとした各種給付を受けることができないものと解されており、上記解釈は、他の社会保障関係法規における解釈とも整合する。オ 原告の主張に対する反論
(ア) 原告は、民法上禁止された近親婚であっても、婚姻届が受理された場合、限定された取消権者が取り消さない限り有効な婚姻と扱われる等、近親婚は厳格に規制しなければならないほどの強い違法性を有する婚姻とは考えられていない旨を主張するが、民法上禁止された近親婚は、婚姻の自由という憲法上の権利を制限するに足りる違法性を有する婚姻であるから、婚姻の無効原因ではなく取消原因とされていることをもって、近親婚の当事者が公的給付を受け得るものとして保護されるものと解することはできない。
(イ) 原告は、民法734条に反する近親婚であっても、誤って届出が受理された場合に、一方当時者死亡後は、検察官の取消権が消滅すると規定されている点(民法744条1項ただし書き)を指摘するが、これは取消しの対象となる反社会的ないし反倫理的な婚姻関係自体が、一方当事者死亡により消滅することを根拠とするものであって、死亡当時の婚姻関係を適法なものとして公認するものではない。また、遺族厚生年金の受給権が発生するための要件である「配偶者」該当性は、被保険者等が死亡した当時の事実関係によって判断されるものであり、違法な近親婚関係にある者を配偶者として認めることは、政府が被保険者等の死亡当時に存在する反社会的ないし反倫理的婚姻関係を保護に値するものとして積極的に公認し、その後も公的財源による遺族厚生年金を支給することを意味するものであるから、それ自体が我が国の法秩序ないし社会一般の倫理観に反し、公益を害するものというべきである。
(ウ) 原告は、厚生年金保険法は、民法に比べて内縁関係にある者についての保護を厚くするものである旨を主張するが、法3条2項において、「配偶者」に事実上の婚姻関係にある者を含めた趣旨は、法秩序ないし公益を害しない範囲で、届出のある婚姻関係と同様の事情にある者を保護しようとしたものであり、特に内縁関係にある者を保護しようとしたものではない。
(エ) 原告は、厚生年金保険制度においては、事業の執行に要する費用を除きすべて被用者の保険料で賄っており、保険給付(遺族厚生年金)は、保険料の対価としての側面が強い旨を主張するが、厚生年金保険は、被保険者等及び事業主の意思いかんにかかわらず強制的に徴収される保険料等を財源とする公的年金であり、死亡や老齢等による被保険者の稼働能力の喪失による所得の喪失を保険給付により補填するという社会保障制度であって、被保険者が親族を受取人と定めて保険料を支払い、その親族が保険給付を受け得るという制度ではないから失当である。(オ) P2名誉教授の意見書(以下「P2意見書」という。甲16)には、民法734条に該当する不適法婚について、法63条の「婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む)をしたとき」に含まれるとの解釈がされているとの意見が述べられているが、そのような解釈はされておらず、民法734条に反する近親婚の関係にあるか否かは、統一的に解釈されており、このような批判は当たらない。
(カ) 原告は、源泉徴収票や国民健康保険証等の記載を根拠に、原告はP1の配偶者として公的にも扱われていた旨を主張するが、社会保険庁は、年金受給者から提出のあった扶養親族等申告書に基づいて、形式的な審査のみを行い(申告者に係る税金額が適正なものであるかは最終的に課税庁において確認される。)年金の源泉徴収をしているにすぎないから、源泉徴収票上の記載をもって社会保険庁が原告を配偶者として認めたことにはならない。また、原告が健康保険制度において配偶者として認められてきたことを主張する部分については、仮に原告がP1の「被扶養者」と認定されていたとしても、「被保険者の3親等内の親族であってその被保険者と同一世帯に属し、主としてその者により生計を維持するもの」(同法1条1項2号)として認定されていたにとどまるものと解されるし、国民健康保険被保険者証は、原告とP1がそれぞれ被保険者であることを証するものであって、氏名が並んで記載されているのは原告とP1が同一世帯に属しているからにすぎないものというべきである。したがって、これらの原告の主張はいずれも失当である。(キ) 原告は、P1との婚姻は親戚知人内で祝福されたものであり、原告らが居住していた町内では親戚内の結婚も数多くある等、原告自身の結婚についても特に違和感を抱くことはなく、反倫理的なものではなかった旨を主張するが、そのようには認められないし、原告が、P1との婚姻関係が法律上許されないものであることを知っていた以上、原告がその身分関係について届出による婚姻関係と同様の公的保護を受けられると期待していたものとは考えられない。
カ なお、原告は、行政手続法8条違反の主張もするが、同条は、許認可等をするかどうかについて、行政庁の判断の慎重、合理性を担保し、その恣意を抑制するという機能及び請求人に不服申立て等の便宜を与えるという機能を確保することにあるところ、被告は、本件処分の通知書に、「遺族の範囲に該当しないため。(近親婚にあたり、内縁の妻として認められないため。)」と記載した後、「厚生年金法第59条」と記載しているものであり、被告において、原告が近親婚にあたる内縁関係にある者であるから、厚生年金保険法59条1項の遺族に該当しないことを理由として不支給の裁定をしたことは明らかであり、原告がその理由を認識することも十分に可能であるというべきである。したがって、行政庁の判断の慎重、合理性を担保し、その恣意を抑制するという見地及び請求人に不服申立て等の便宜を与えるという見地のいずれからみても、上記理由の記載は十分なものであって、本件処分の理由の記載は、行政手続法8条に反するものではない。
(2) 原告の主張
ア 行政手続法8条違反について
 本件不支給処分に当たり、下館社会保険事務所長は、処分の根拠として「厚生年金法」なるものを処分の通知書に記載しているが、「厚生年金法」という名の法律は存在しないから、本件処分は処分の根拠を示すことなくされたものというべきであり、行政手続法8条に違反するものであるから、取り消されるべきである。イ 原告が法3条2項に該当することについて
(ア) 原告は、P1と住居を共にし、P1との間に生まれた2人の子を養育してP1と夫婦共同生活を営んでおり、周囲からも夫婦として扱われていたから、法3条2項の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあるもの」に該当し、法59条1項の「配偶者」に該当するというべきであるから、原告とP1が民法734条で禁止された近親婚の関係にあることを理由とする本件不支給処分は違法であり取り消されるべきである。
(イ) 遺族厚生年金は、被保険者等が死亡した場合に、遺族の生活を保障する目的で給付されるものであり、これにより遺族に生活の安定と福祉を図る社会保障的性格を有するものである(法1条)。このような遺族厚生年金制度の趣旨からすれば、遺族年金は、被保険者と実際に生活を共にしていた遺族の生活保障のためにこそ支給されるべきである。したがって、支給対象者であるか否かの判断において何よりも優先されるべき判断要素は、その者が被保険者の収入により生活していたか否かという点である。
 法は、受給権者について、被保険者又は被保険者であった者(以下「被保険者等」という。)の死亡当時その者により生計を維持した者とすると規定して(法59条1項)、現実の扶養関係の存在を資格要件にし、「配偶者」には、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」(法3条2項)として、現実の家族共同体の保護の徹底を図っているから、遺族厚生年金における遺族の範囲も、被保険者との家族生活実態に即して、現実的な観点から理解すべきであり、遺族に属する配偶者についても、まさにお互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者を指すというべきである。そうすると、遺族給付の受給権者の範囲や順位などは、民法の規定に従って形式的に定めるのではなく、当該内縁関係の目的、動機、関係に入った経緯、共同生活の実態、関係継続期間、子の有無、関係の安定度、周囲の承認や関係者の意向などから、実質的な共同生活を営んできたパートナーを確定すべきであり、後記の事情に照らせば、原告は法3条2項に該当するものというべきである。
 P2意見書も、厚生年金の支給対象者であるか否かの判断に際しては、民法において適法とされる婚姻であるか否か、受取人が民法における法定相続人であるかは問題ではなく、受取人の生活を保障すべき必要性があるか、受取人が被保険者の収入により生活していた者といえるか等の点こそが重要であることを指摘するものと解される。
(ウ) 厚生年金制度の仕組みからは、厚生年金は保険料の対価としての側面が強くなっていると認められるから、とりわけ保険料を一度も滞納せずに納付し続けてきたP1と共同生活を営んでいた原告には、遺族厚生年金が支給されるべきである。
(エ) 被告は、本件内縁関係が民法734条に反するものであることを根拠として、本件不支給決定を適法と主張するが、そもそも民法734条の立法趣旨である優生学的配慮及び社会倫理的考慮は、いずれも絶対的なものとはいえず、同条の合理性自体に疑問があるし、原告とP1は、姪と叔父の関係であったから、近親婚制限規定の中でも遠い近親に該当する。また、婚姻の自由は、憲法13条及び24条で厚く保障されているから、これに対する制限は必要最小限でなければならないところ、近親婚といってもその内容は様々であるから、これらを一律に扱って遺族厚生年金を不支給とするのは妥当ではなく、当該婚姻の実体が考慮されるべきである。そして、後記のとおり、本件内縁関係は、反倫理的なものとは到底いうことができないから、原告は、厚生年金の支給を受けられると解するのが相当である。
 また、民法744条1項ただし書きは、婚姻の一方当事者の死亡後は、検察官の取消権が失われる旨を規定しており、その趣旨は、一方当事者死亡後には、公益的観点を考慮する必要性が消滅するところにあると解されるから、仮に原告とP1との内縁関係が民法に違反するものであったとしても、P1が死亡している以上、原告について遺族厚生年金を不支給とすべき理由は失われたものというべきである。 さらに、昭和55年通達は、近親婚であっても、婚姻届が受理されている場合には、婚姻を有効として扱い年金の支給を認めることとしているから、近親婚であること自体がいかなる場合においても公序良俗違反で公的給付に値しない身分関係であるとは考えられていないというべきである。
(オ) 原告は、国民健康保険被保険者証に、P1の氏名と並んで記載されているから、P1と同一の世帯に属し、P1の被扶養者として認定されていたことが明らかであり、この点に照らしても、原告は厚生年金の受給資格が認められるべきである。また、原告は、公的年金等の源泉徴収票において、P1の配偶者として記載されており、これはP1が原告を自己の配偶者と考え、P1と原告との身分関係を説明の上申告したのを受けて、担当官吏が、同申告を受理したことを示すものである。
(カ) 原告とP1の共同生活の実体等について
a 原告とP1との夫婦共同生活は、昭和33年12月27日からP1が死亡する平成12年12月5日まで約42年間続いていた。両名は、2人の子に恵まれ、先妻とP1との間の子であるP3を入れると5人世帯で生活し、P1が生活費を稼ぎ、原告が家事を行い、三人の子を養育してきた。
 一般用米穀類購入通帳には、P1を世帯主として、世帯人数を5人とする記載が認められ、原告はこの通帳を使用して米穀類を購入してきたのであり、原告と3人の子がP1の世帯の者であることは公的にも認められてきたことが分かるし、国民健康保険被保険者証には、原告も被保険者として氏名が記載されており、この事実も原告がP1の妻として公的に認められていたことを示すものである。b 原告は、出生後茨城県北相馬郡αで生活し、中学2年のころから、現住所地で家族とともに生活していた。P1は、同県西茨城郡βに、家族とともに生活しており、原告とP1は、夫婦として共同生活をはじめるまでの間、同一の住居に居住していたことはなかった。
 P1とその前妻であるP4は、昭和30年11月24日に婚姻の届出をし(P4は、原告の母のいとこであり、原告と親戚関係にあった)、同婚姻の媒酌人は、原告、P1、P4のいずれにとっても親戚に当たる者が務めた。P1とP4は、婚姻届を提出する前から共同生活を営んでおり(この地方においては、通常のことであった。)、両名の間には、同年12月12日に、長女P3が出生した。
 P4は、婚姻及びP3出産の前後から精神病に罹患し、家事も育児もできず、昭和31年末には、まだ1歳になるかならないかの乳飲み子であり養護を必要としていたP3を残して実家に帰ってしまい、最終的には家に全く戻らなくなってしまった。P1は、P4が家を出たため、夫婦関係の修復は困難であると判断し、P4との離婚を決意し、4年間協議を重ね離婚した。P4が家を出た後は、P1は国鉄に勤務し、出勤すれば夜勤となることが多く、P1の実家は農家であり昼間の時間帯は父母ともに働きに出なければならなかったため、P3の面倒を見る人がいなかった。
c 原告は、P1が住んでいた家が原告の父の実家であったため、夏休み等の長期の休みには、父の両親の手伝いに訪れ、P3の世話をしていた。原告の子供好きの性格も幸いして、原告が熱心にP3の世話をしたため、P3は親戚の中でも原告になついていた。また、親戚内でP1に最も年齢が近いのも原告であった。これらの事情を考えて、当時原告の親族間の戸主であった原告の祖父P5が、原告とP1の結婚を提案し、昭和33年8月ころ、P1は、原告に縁談を申し込んだ。
 原告は、叔父であるP1に縁談を申し込まれたことに驚いたが、当時は農家であった原告ら親族の間では、家父長制が色濃く残っており、戸主の指示に逆らうことは考えられなかった上、P3の面倒を見る必要があったため、この縁談を受け入れ、同年12月末ころからP1と夫婦としての共同生活をはじめた。 原告とP1は、共同生活をはじめるに当たり、2泊3日で福島へ新婚旅行に出かけ、帰ってから、親戚が集まって結婚を祝う会が開催された。この時の媒酌人は、P1の伯母とその義兄であり、P1とP4の媒酌人と同一人物であった。原告とP1が居住していた地域では、親戚内における結婚は数が多く、P1が住んでいた町内では、叔父と姪が夫婦として生活することも珍しいことではなかった。d 原告とP1は、P1とP4の協議離婚成立後である昭和35年4月10日、扶養家族、税金控除、出産費用等を認めてもらうため、結婚の証明願を役所に提出した。この証明願には、町長が2人の結婚を証明する旨が記載されていた。 P1と原告は、共同生活開始後、P1が平成12年に亡くなるまで夫婦として生活した。2人の間には、昭和35年にP6が、同37年にP7が誕生し、P1が両名を認知した。P1と原告が共同生活を開始した当初は、P1、原告及びP3は主に原告の実家で生活しており、同34年、P1は原告の父から土地を購入し、同36年ころ建物を建てた後は、その家で原告ら家族が生活した。
 以上のように、原告とP1の結婚生活は、周囲からも祝福されたものであり、反倫理的なものとは到底いうことができない。
(キ) 以上によれば、原告とP1との内縁関係は、民法の近親婚禁止の規定に違反するものであるとしても、その実体は反倫理的なものではなく、周囲からも祝福されたものであるから、法3条2項の事実上婚姻関係と同様の事情にある者に該当し、法59条の「配偶者」に該当するものというべきであり、本件処分は違法であるから取り消されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 行政手続法8条違反の主張について
(1) 行政手続法8条が申請に対する拒否処分に際して理由を示さなければならないとしている趣旨は、拒否理由の有無についての行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることにあると考えられる。このような同条の趣旨にかんがみれば、申請に対する拒否処分に付記すべき理由は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して行政処分が行われたかを、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、かつそれで足りると解すべきである。
(2) 本件不支給処分においては、前記前提となる事実記載のとおり、「国民年金・厚生年金保険遺族厚生年金の不支給について」と題する通知(甲2)の中に、「遺族の範囲に該当しないため。(近親婚にあたり、内縁の妻として認められないため。)」「厚生年金法第59条」と記載されているにすぎないから、前提となる事実関係について具体的な記載がされているとはいえないし、根拠法規についても「厚生年金保険法」と記載すべきところを誤って「厚生年金法」と記載するものといわざるを得ない。しかしながら、同通知の記載全体からは、処分庁は、原告の主張するような具体的な事実関係の下で、原告とP1は近親婚の関係に当たるため、原告は法59条の遺族に該当しないものと判断したことが、その記載自体から十分了解可能であったといえる。そうすると、本件では、被告がいかなる事実を前提に、いかなる法規の要件を審査して判断を下したかについて、原告が了知することは可能であったというべきであるから、本件不支給処分に行政手続法8条の理由提示の要件を満たしていない違法があるとの原告の主張は理由がない。2 原告とP1との関係について(事実関係)
(1) 証拠(甲1、3の1ないし3の4、5ないし12の4、15、17、21ないし23、原告本人)によると、前記前提となる事実のほか、以下の事実が認められる。
ア 原告は、茨城県北相馬郡αに生まれ、中学2年の時からは同県真壁郡γにおいて、父、母、弟及び妹と共に生活していた。P1は、同県西茨城郡βに、原告の父方の祖父P5(P1にとっては父)、同祖母P8、P1の弟、妹と共に生活していた。両家は、いずれも農家であった。
 原告は、父の実家を時々訪れることがあったため、P1と面識はあったが、父の実家以外の場所でP1に会ったことはほとんどなく、夫婦としての生活をはじめるまでに、同人と同一住居に居住したことはなかった。
イ P1は、昭和30年11月24日、P4(原告の母のいとこに当たる)と婚姻し、両名の間には、同年12月12日、長女P3が生まれたが、P4は、P3の出産前後から統合失調症に罹患し、昭和31年末には、P3を残して実家に帰ってしまった。
 P1は、P4との婚姻関係の継続は困難であると考え、P4との離婚を決意した。P1は、調停や裁判を行えばP4の病気が公になってしまい、P4のその後の人生にとってよくないと考えたため、離婚協議を重ねたが、P4の精神状態が原因で協議自体が困難であった上、P4の両親が、P4との離婚後にP4の妹とP1が結婚することを強く望み、P1はP4を気遣ってこれに同意しなかったために、同協議は4年間にわたり続いた。
ウ P1は、当時国鉄に勤務しており、朝出勤の場合は翌朝にならないと帰宅しなかったため、P4が実家に戻った後は、P3の世話はP1の父母が行っていた。しかし、P1の実家は農家で年中多忙であったことから、継続的にP3の世話をできる者はいなかった。そのため、P3は、離乳食などもあまり食べることができず、栄養失調気味であり、P3の衣類の洗濯も十分に行われておらず、おむつなどが何日分も廊下に山のように積んであった。親族の間では、P3を里子に出すことも考えられたが、P1は自らの責任で生まれた子であるから手放せないと考え、里子に出すことに反対した。
エ P1は、P3がきちんと面倒を見てもらうことができ、家族も落ち着いて生活することができるよう、再婚を考えはじめたが、P1の実家が農家であり、P1の妻になれば農業の手伝いをしなければならないこと、物心がつき始めた子供(P3)がいること、数年後には介護が必要となる老父母がいること、P1は夜勤が多く帰宅できないことが多いこと等の点で、いわゆる結婚相手としての条件が悪かったため、なかなか結婚相手を見つけることができなかった。
オ 原告は、春休み、夏休みなどの長期の休みには、父の両親の手伝いに父の実家(P1宅でもあった。)を訪れ、その際P3のおしめを変えて洗濯をしたり、牛乳をあげたり、散歩に連れて行ったりするなど、P3の面倒を見ていた。P3も、親戚の中で最も原告になついていた。原告ら親族の中では、戸主の立場にあるP5の発言権が絶対であったところ、P5は、P3が一番原告になついていたこと、親戚の中では、原告の年齢が一番P1に近かったこと、P5の後継者としては原告の父が第一順位にあったが、仮に原告の父がP5の跡を継がない場合には、P5の田畑を、代わりにP1が継ぐことになるため、P1の妻を親族内から出したいと考えていたこと、前記のとおり、P1には既に子供がおり、結婚相手としての条件がよくなかったこと等から、P1の姪に当たる原告とP1との結婚を提案した。カ 原告とP1との結婚について、原告の母は、P4が自分のいとこに当たるため、P3の養育の点などからもP1に同情的であり、どちらかというと賛成の態度を示した。また、原告の父は、叔父と姪の関係の結婚に、不安そうな様子を示したものの、特別強い反対は示さなかった。原告は、直接父から聞いたことはないが、その不安の理由は、叔父と姪の結婚は、数としては多くないことや、弟に当たるP1と娘に当たる原告の結婚生活がうまくいかなかった場合に、その後も両者が親戚関係を続けていかなければならないこと等を気にかけていたのではないかと考えていた。原告のその他の親戚は、同結婚にほとんど皆が賛成していた。
 原告の周りには、農業で生計を立てている者が多く、地域的な特性から親戚同士で結婚することも多くあった。原告の近い親戚の中には、いとこ同士で結婚した夫婦が2組いたほか、原告の知っている中にも、P1の勤務先で2組、親戚に1組、叔父と姪が夫婦として生活する者がいる。
 原告は、P5からP1との縁談の話を聞き、余りにも身近な関係にあったため、当初は驚いたものの、P3の衣服等が汚れたままになっていることや、体格もやせ細っていたこと等に同情し、P3のために結婚を決意し、昭和33年12月末ころから、P1と夫婦としての共同生活をはじめ、以後約42年間にわたり夫婦としての生活が続いた。
キ 原告とP1は、共同生活をはじめるに当たり、2泊3日で福島へ新婚旅行に出かけた。原告らは、旅行から戻った後、親戚に集まってもらい、結婚を祝う会を開いてもらった。原告は、同会に友人を呼ばなかったが、それはP3の存在を気遣ったためであった。原告らの結婚の媒酌人は、P1とP4の結婚の際にも媒酌人を務めたP1のおばとその義兄が務めたが、このことも原告とP1の結婚に親戚一同が賛成していたことを示すものである。
ク P1とP4との間の協議離婚は、昭和35年4月1日に成立した。P1は、同月25日付けで、扶養家族、税金控除、出産費用等を認めてもらうため、原告とP1とが結婚したことについて、証人2名の署名入りの証明書(甲5)を岩瀬町長に宛てに提出した。同証明書には、「右願出の通り相違ないことを証明する」旨の文言及び岩瀬町長の記名押印が認められる(なお、同証明願には、下館駅長の記名押印も認められる。)。
 原告は、P1を世帯主とする健康保険証に氏名を記載され、源泉徴収票上にも配偶者控除の対象として記載されていた。また、出産に際し、国鉄の共済組合から出産費用の支給を受けた。
ケ 原告とP1は、共同生活の開始以降、P1が平成12年に亡くなるまで夫婦として生活した。原告とP1との間には、昭和35年にP6が、昭和37年にP7が出生し、P1は両名の認知をした。原告、P1、P3、P6及びP7は、P1の収入から生活費を支出し、原告が家事を担当して家族として5人で生活を送った。P1は昭和34年に原告の父から土地を購入し、昭和36年ころ同土地上に建物を建築し、原告らはその後同所で生活を送った。原告は、P3が高校3年生の時に、大学受験に必要な戸籍謄本を取りに行った際、原告は実の母ではないことを伝えたが、それ以降も原告ら家族はそれまでと変わらずに仲良く暮らした。コ P1の葬式に際し、原告はP1の妻として挨拶を行う等、結婚生活をはじめた当初から、P1が死亡するまで、事実上の妻としての役割を果たして生活してきた。P1は、原告ら家族の生活の安定のために、長年にわたり厚生年金の保険料を納付し、原告に対しても、自分が先に死亡した場合には、バッグに年金に関する手続の仕方を記したものが入っているから、よく見て手続をするようにと常に言い聞かせていたため、原告は、P1の死亡後、本件裁定請求をした。
 原告は、本件不支給処分を受けたため、遺族厚生年金の支給を受けることができず、P1の死亡後は、自らの貯金を取り崩して生活費を支出しながら、息子夫婦と同居して生活している。
(2) 以上の認定事実によれば、原告は、P1と姪・叔父の関係にあったものの、内縁関係に至る前には同人との同居の事実はなく、父の実家を訪れる際に顔を合わせるにすぎない関係であったこと、原告がP1との結婚を決意したのは、P1とP4との間に生まれたP3が十分に面倒を見てもらえないことを不憫に思い同情したこと、親族間で戸主の立場にあったP5の提案であり反対できなかったこと等の理由によるものであったこと、同内縁については、原告らの親戚もむしろこれを望み、2人を祝福したこと、夫婦としての生活を開始した後は、原告らは内縁の事実を隠すことなく、法律上の婚姻と特に変わる点はなく、公然と約42年間にわたり夫婦としての生活を送り、その間に2人の子をもうけ、P3も含めて3人の子を夫婦として育ててきたこと等を認めることができる。
(3) また、原告の周辺には、いとこ間や、叔父・姪間の結婚が少なくとも数件は存在していたことは前記のとおりであるところ、早稲田大学教授のP9(以下「証人P9」という。)の証言によれば、原告の出生地である茨城県γや、原告がその後に生活をした同県βは、いずれも農業が盛んな地域であること、婚姻習俗の特性として、親が婚姻の決定権を持っており、本人自身は誰と結婚するかについて決定権を持つことがほとんど不可能であること、いとこ同士の婚姻を筆頭として内婚(親族間の婚姻)的な傾向が強いことが挙げられるほか、このような婚姻慣行・婚姻意識を有する地域においては、非常に近い姻戚関係での結婚がむしろ受け入れられる土壌があることが認められる。
(4) 以上の事実によると、原告とP1との関係は、民法734条に違反するという一点を除けば、婚姻関係の実質を有する関係として約42年間にわたって継続してきたものであり、また、このような関係は、少なくとも、P1の職場や原告らが居住する地域社会においては、特別な違和感のないものとして受け入れられてきたものであったというべきである。
3 原告の法3条2項該当性について
 原告は、「原告とP1との間には、婚姻関係の実質を有する関係が存在したのであるから、原告は、P1との間で、法3条2項所定の『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者』に当たる。」と主張し、被告は、「民法734条に違反した、反倫理的な近親婚関係にある者は、法3条2項に該当するものとはいえない。」という趣旨の主張をするので、以下、この点について判断する。
(1) 法59条は、「遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとする。」と定め、法3条2項は、法にいう配偶者には、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。」と定めている。
 本件で問題となっているのは、法3条2項の規定であるが、この規定の文言そのものは、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」というものであって、被保険者又は被保険者であった者と、その「配偶者」であると主張する者との間の共同生活の実態が、「婚姻関係と同様の事情」にあると評価できるかどうかを問題としているのにとどまるのであるから、この規定の文言から当然に、民法上禁止された近親婚関係にある者が、法3条2項の規定に該当しないと断定することは困難である。被告は、「『婚姻の届出をしていないが』との文言は、婚姻の届出をしていれば、それが当然に受理されたはずであることを前提としているものである。」という趣旨の主張をしているが、「婚姻の届出をしていないが」という文言それ自体は、法律上の婚姻関係にはないことを意味しているのにすぎないと解することも十分に可能なのであるから、被告の上記主張を採用することはできない。したがって、同項の文言上、近親婚関係にある者は、当然に同項の規定に該当しないと断定することはできないのであって、実質的な観点からの検討をすることが不可欠であると解される。
(2) 被告は、「遺族厚生年金給付が、民間の保険とは異なる公的給付制度である以上、その給付が認められるかどうかの判断に当たっては、公益的観点からの考慮が不可欠であるところ、民法734条に違反する反倫理的な近親婚関係にある者に対して同給付を認めることは、国家が反倫理的な近親婚を公認することにつながり、そのような行為は、わが国の法秩序ないし社会一般の倫理観にも違反するのであって、公益を害するものといわざるを得ないのであるから、この点からしても、近親婚関係にある者は、法3条2項に該当しないものというべきである。」という趣旨の主張をするところ、たしかに、遺族厚生年金を含む厚生年金制度は公的な社会保障制度であり、この制度に基づく給付を行うということは、その対象者に対して公的な保護を与えるという側面を有するものなのであるから、「婚姻関係と同様の事情にある者」かどうかの判断に当たっては、その対象者が、公的保護の対象にふさわしい者であるかどうかという観点からの判断が要求されるものであって、その判断に当たっては、公益的観点からの考慮も要求されることは否定し難いところである。
 しかしながら、厚生年金制度は、「労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的」とする制度であって(法1条)、その中でも遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であった者によって生計を維持していた遺族の生活の安定のために給付されるものであり(法59条)、婚姻秩序の維持を目的とする民法734条等とは、その目的を異にしているのであるから、「婚姻関係と同様の事情にある者」かどうかの判断に当たって、同条の規定がそのまま適用されなければならない論理的必然性はないし、仮に民法上は禁止される近親婚関係にある者に対して遺族厚生年金が支給される結果となったとしても、それは、遺族の生活保障という厚生年金制度独自の観点からの行為なのであるから、これによって直ちに国が近親婚関係を公認したことになるものでもない。また、厚生年金制度は、拠出制の年金制度であって、その財源には、一部国庫負担金が含まれているとはいうものの(法80条)、被保険者が納入した保険料がその相当部分を占めていることも事実であり、この点を捉えれば、労働者が、自己の費用負担において、自らやその家族の将来に備えるという側面をも有していることも否定し難いのであるから、年金給付の受給権があるかどうかを判断するに当たっては、被保険者が保険料を納付していたにもかかわらず、公益性等の点から受給権を否定するに足りるだけの事情があるかどうかという観点からも検討をする必要があるものというべきである。
 以上のように考えると、法3条2項所定の「婚姻関係と同様の事情にある者」に当たるかどうかを判断するに当たり、近親婚関係は、民法734条に違反する反倫理的関係であるから、このような関係にある者は、およそ同項所定の者には当たらないと解釈するのは相当ではなく、その関係の内容や、それが形成されるに至った経緯、態様、その関係が、社会一般の通念や、当該地域社会等において、どの程度抵抗感のある関係として受け止められるものであり、現に受け止められていたのかなどといった事情を総合考慮した上で、年金的保護の対象となり得るものであるかどうかを判断する必要があるものというべきである。
 なお、被告が引用している最高裁昭和60年判決は、「厚生年金保険の被保険者である亡A(仮名)と直系姻族の関係にある上告人は、仮に亡Aと内縁関係にあったとしても、厚生年金保険法3条2項の規定にいう『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者』には当たらないというべきであり、これと同旨の原審の判断は正当として是認する」ことができると判断しているのにとどまり、近親婚関係にある者が、法3条2項の規定に当たるかどうかについての一般論を示しているものではないのであるから、上記のような解釈は、上記最高裁判決の判断に抵触するものではない。
(3) そこで、上記の観点から本件を検討するに、原告とP1とは、叔父と姪の関係にあるものであって、その内縁関係は、民法734条に違反する近親婚関係に当たるとはいうものの、近親婚関係の中では最も親等が離れた関係にあるものであること、両者は、子供を抱えて苦労しているP1に同情した原告の祖父の決定と、親族の賛同に基づき、内縁関係に入ったものであって、その動機や態様等の点において、特に不当な点等は見当たらないこと、両者の関係は、約42年にわたる安定的なものである上、職場や地域社会等においても抵抗感なく受け入れられ、むしろ公認されていたものとさえいえることなどは既に第2項において認定したとおりであって、これらの点に照らしてみれば、これが近親婚に当たるとの一事をもって、原告の遺族年金の受給権を否定しなければならなければ公益性に反するということは到底困難であり、むしろ、法的な婚姻関係に等しい実質をもったものであって、法3条2項所定の場合に該当するものというべきである。
 なお、被告が引用している最高裁昭和60年判決は、被保険者と直系姻族の関係にある者は、法3条2項所定の者には当たらないとの判断を示したものであるところ、姻族関係であるとはいえ、一度は親子の関係にあった者が内縁関係に入った場合と、叔父、姪の関係にあった者が内縁関係に入った場合とでは、社会的評価、抵抗感を異にするものと考えられる上、同判決の事案と、本件事案とでは、内縁関係に入った経緯や、態様、地域社会等における受け止め方等の点においても、事情を異にしているのであるから、上記の判断は、上記最高裁判決の判断に抵触するものではない。
(4) 以上によると、原告とP1の内縁は、法3条2項の「婚姻と同様の事情にある者」に該当し、原告は、法59条の定める受給権者を有する遺族に該当するというべきである。そして、本件全証拠によっても、他に原告について遺族厚生年金の受給権が存在しないものと認めるに足りる事情は存在しないから、本件不支給処分は違法であり、取消しを免れない。
第4 結論
 よって、原告の請求は、理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 新谷祐子
裁判官 加藤晴子
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