主文
一 被告が,鏡野町森林組合に対し不当利得に基づく金員返還請求権の行使を怠る事実の違法確認を求める原告の本件訴えを却下する。
二 被告が,鏡野町森林組合に対して,鏡野町において上記組合に請け負わせた工事に関する不法行為に基づく損害金717万7800円及びこれに対する平成11年5月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する。
三 原告の上記請求に係るその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 被告が,鏡野町森林組合に対して,鏡野町において上記組合に請け負わせた工事に関する不法行為若しくは不当利得に基づく1469万500円及びこれに対する平成11年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する。
二 被告
1 本案前の答弁
 被告が,鏡野町森林組合に対し不当利得に基づく金員返還請求権の行使を怠る事実の違法確認を求める原告の訴えを却下する。
2 本案の答弁
 被告が,鏡野町森林組合に対し不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認を求める原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 事案の概要
一 本件は,鏡野町の住民である原告が,鏡野町において違法かつ無効な請負契約に基づき支出した1469万500円につき,鏡野町森林組合に対して,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,同額及び支出の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金につき,不法行為若しくは不当利得による支払請求権を有しているのに,その行使を怠っているとして,怠る事実の違法確認を求めた事案である。
二 前提事実(争いのない事実あるいは挙示する証拠または弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者
 原告は,鏡野町(以下「町」という場合がある。)の住民である。
 被告は,鏡野町の町長である。
2 請負契約の締結等
 平成10年10月17日から18日にかけての台風10号による集中豪雨のため,αダムに多量の塵芥が流入したことから,塵芥処理工事の必要が生じ,同年11月中旬,県によって,塵芥量を1600立方メートル,平均単価1万3000円とする事業費見積もりがなされ,同年12月24日,鏡野町議会は,αダム管理費として,事業費2100万,うち県費補助1040万円の議決をした。
 町は,鏡野町森林組合との間で,平成11年2月2日付け(実際の契約書作成は同月12日ころ)で,αダム塵芥処理工事(以下「本件工事」という。)について,契約金額2080万500円(単価1万3000円×1600立方メートル),一括下請禁止の約定で請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。
 同年5月11日,鏡野町は,鏡野町森林組合に対する本件工事代金2080万500円の支出をし,これを支払った。
3 百条委員会の設置等
 平成11年6月7日,鏡野町予算執行の正常化を求める有志の会(代表a,b)から,鏡野町議会宛に,本件工事が随意契約によってなされた理由についての究明を求める旨の陳情書が提出された(乙1)。
 上記陳情書に基づき,同月24日,鏡野町議会において,鏡野町森林組合随意契約に関する調査特別委員会が設置され,第1回委員会が開催された(乙2)。
 同月25日付山陽新聞は,前記調査特別委員会の設置,開催に関し,契約金額は2080万500円であること,契約の目的となった取り除くべき流木は約500立方メートルであった旨報道した。
 同年8月24日,鏡野町議会は,鏡野町森林組合随意契約に関し地方自治法100条に基づく調査特別委員会(以下「百条委員会」という。)を設置し,同月25日,山陽新聞でその旨報道された。
 同年9月ころ,鏡野町議会は,前記調査報告の概要を議会だよりに記載して町内各戸に配布した。
 同年9月4日,山陽新聞が,百条委員会の第1回委員会が同月3日に開催されたこと,今後証人尋問を行い,鏡野町森林組合に流木除去に関する書類の提出を求めることを決めたことなどを報道した(乙5)。
 同月以降,有志の会が「αダムの流木除去問題 その後の経過」と題するビラを町内に配り(乙6),同年11月下旬,「αダムの流木除去問題」と題するビラを町内に配った(乙7)。
 平成12年8月ころ,百条委員会の調査報告がされた。
4 住民監査請求等
 原告は,平成13年2月14日,鏡野町監査委員に対し,本件請負契約について,1指名競争入札によるべきところ,単にその体裁のみで実体は鏡野町,鏡野町森林組合,下請業者の談合による随意契約であったこと,2事業費積算の基礎となった塵芥費として1600立方メートルを根拠とするのは過大で,現実には470立方メートルに過ぎず,適正な工事代金は約611万円であり,町から支出した工事費との差額約1469万円は無駄な支出であったこと,3町職員らは本件発覚を隠蔽するために工事請負契約書,設計書等公文書に虚偽の記載を行った不正が判明したことを根拠として,町は不当利得返還請求権,損害賠償請求権等の請求権を有しているにもかかわらず,その行使を怠っているとして,監査請求をした(以下「本件監査請求」という。)。
 これに対し,監査委員は,平成13年2月20日付けで監査請求期間を定めた地方自治法242条2項に違反するとして本件監査請求を却下した。
三 本件の争点
(本案前の争点)
1 本件につき,適法な監査請求が前置されているか。
(一) 本件監査請求につき,監査請求期間を定めた地方自治法242条2項が適用されるか。
(二) (一)を積極に解した場合,本件の監査請求期間の起算点はいつか。(三) 本件監査請求が監査請求期間を徒過しているとされた場合,「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)が存するか。
(本案における争点)
2 鏡野町森林組合の不当利得返還義務,不法行為責任の有無
3 2が認められる場合の鏡野町に生じた損害額等
四 争点についての当事者の主張
1 争点1(一)(地方自治法242条2項適用の有無)について
A 被告の主張
 一般的には,怠る事実については「当該行為のあった日又は終わった日」を観念できないとして地方自治法242条2項の適用が無いが,怠る事実の前提として財務会計上の行為が存在する場合については,1年の期間制限があると解するべきである。
 なぜなら,監査請求の対象を当該行為が違法又は無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより,監査請求期間の制限を受けずに当該違法是正等の措置を請求しうるものとすれば,法が監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるからである。
B 原告の反論
 違法な財務会計上の行為が存在する怠る事実がある場合,それが継続している間は違法状態が継続しているから,監査請求期間は進行しないというべきである。
 また,本件監査請求のうち,不法行為については,いわゆる「特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合」ではなく,監査を遂げるために,談合の事実や,これに基づく鏡野町森林組合の入札及び町との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより,町に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りる場合であるから,監査請求の期間制限規定の適用はない。
2 争点1(二)(監査請求期間の起算点)について
A 被告の主張
 本件請負契約が全体として違法であり無効であるとの主張であれば,他方の契約当事者がどのように主張するかに関係なく,支出時点で直ちに鏡野町が契約金額(支出額)相当の損害を被ったということになるので,監査請求期間も直ちに開始するといえる。契約の一部が無効という主張であっても支出時点で直ちに鏡野町が契約金額の一部の損害を被ったということになるから,監査請求は,金額を特定する必要はなく,抽象的に契約または支出が不当であるとして申し立てれば足り,直ちに監査請求申立てはできるのであり,監査請求期間も直ちに開始する。
 平成11年2月2日付けで本件請負契約書が作成され,同年5月11日,鏡野町森林組合に工事代金を支払うという債務負担による支出が既に済んでいるから,監査請求の対象となる財務会計上の行為は発生済である。
 また,仮に,本件財務会計上の行為があったことを一般住民が知ることができた日から監査請求期間が進行するとしても,遅くとも平成11年11月には,鏡野町森林組合との本件請負契約につきその契約締結手続に不当な点があるのではないか,請負代金は高額ではないかとの疑問が提起されており,百条委員会も設置されて関係資料も町議会において収集されることが町民全体に知れ渡っているから,この時点で監査請求可能であったのであり,遅くとも平成11年11月が起算点となるべきである。
 したがって,監査請求期間は徒過している。
B 原告の反論
 本件の違法支出は平成11年5月11日であるが,当時は,本件工事が行われた塵芥処理の数量や金額が全く不明であり,明らかになったのは町議会の百条委員会を経てその結果が調査報告書として議会で議決された平成12年8月22日に至ってのことであって,支出行為当時には具体的な不当利得返還請求権は発生していない。
 また,本件では,町長は平成12年12月の町議会で本件支出は適正と答弁し,同月28日付文書においても適正な金額と述べており(甲4),町長は町の鏡野町森林組合に対する不当利得返還請求権の存在を否定し続けている。したがって,少なくともこの間,町執行部がその見解をかえて自主的に返還請求権を行使することは全く期待できず,町が,当該請求権を行使することは事実上不可能であったから,少なくとも平成12年12月28日当時までは進行していないというべきである。本件のように,議会の百条委員会の調査結果が出て違法性を指摘された後にも,町執行部がその結果を否定し続けているという特殊事案においては,形式的な法的安定性よりも,実体的な審理,判断が重視されるべきである。
3 争点1(三)(正当な理由の有無)について
A 原告の主張
 本件では,平成12年8月の百条委員会における調査結果,支出に至る種々の問題点,違法性が指摘され,同年9月初め頃,調査結果を記載した「議会だより」が町民に配布された。
 その後,町執行部は町議会の調査結果に対し,違法な公金支出の点については従わないことを明らかにし,町長が平成12年12月の議会で答弁し,同月28日付けの書面で塵芥処理量まで明示して不当利得返還請求権の存在を否定する見解を示した。町民を代表する議会の調査結果と町執行部の見解が対立することが鮮明になり,この見解対立についての是非を問うべく平成13年2月監査請求したものである。
 かかる特殊事情から,原告は,調査結果を踏まえて町が自主的に違法性を是正することを期待していたが,町執行部は,是正をしないことを明らかにするという予期せぬ特別の事情があったものであり,正当理由がある。
B 被告の反論
 平成11年11月までに本件請負契約につき,その締結手続に不当な点があるのではないか,請負金額が過大ではないかとの疑問が出ており,議会で百条委員会も設置されて,関係資料も次々議会に集まってくることが町民全体に知れ渡っているのであり,本件財務会計上の行為である請負契約の締結や支出は,「住民に隠れて秘密裡に」されたものではなく,正当な理由は認められない。
4 争点2(鏡野町森林組合の不当利得返還義務,不法行為責任の有無)についてA 原告の主張
(一) 不当利得
(1) 随意契約の無効
 本件請負契約は,指名競争入札の体裁を仮装しているが,実体は随意契約であり,随意契約として認められる範囲を超える違法な契約であるから無効である。
 すなわち,本件請負契約は,当初から鏡野町森林組合が請け負うことが確定的に決まっていたし,指名委員会の開催等指名競争入札であれば必ず履践しなければならない重要な手続が一切行われていないことなど,競争入札の実態は何ら備わっていなかった。
 地方公共団体が請負契約を締結するに当たっては,地方自治法234条2項により,一般競争入札の方法によるべく,随意契約は,例外的に同法施行令167条の2第1項各号に定める要件に該当する場合(1130万円以内の契約,2緊急の必要により競争入札に付することができないとき等)にのみ選択しうるところ,本件で考え得る2の場合,競争入札に付したとしても遅くとも平成11年2月中旬までには競争入札を実施した上で着工することが可能であったから緊急の必要性はなかったし,実際に本件工事は台風の被害から半年以上も経過して実施されていることから,十分に一般競争入札を行う時間的余裕はあった。
 したがって,本件請負契約は地方自治法に違反し全体として違法であり,このうち,工事実施がなされ実体が符合する範囲ではその効力が維持される可能性はあるものの,その余の実体を伴わない部分は無効である。
 このように,町が鏡野町森林組合に対し,違法かつ無効な契約を前提に支出した金員は,法律上原因がないものとして,鏡野町は鏡野町森林組合に対し,民法703条に基づき不当利得返還請求権を有し,鏡野町森林組合は,町と通謀して本件請負契約を締結したもので,違法支出について悪意であるから同法704条が適用される。
 また,被告は,本件請負契約の相手方に鏡野町森林組合を選んだ理由として,同組合が,特殊な機械の扱い方を熟知していることを挙げているが,同組合は,協同組合の構成員にすぎず,同組合が管理する機械は一つもなかったし,鏡野町森林組合は,これらの機械を使用した経験もなく,使用しうる技術も能力もなかった。現実に工事を施工したのは建設業者たる株式会社坂手建設(以下「坂手建設」という。)及びその下請会社であり,被告が主張するような鏡野町森林組合や木材業者が各種機械を使用したことも実際にはなかった。
(2) 公序良俗違反
 本件請負契約の目的は,下請業者に利得を得させるために工事の処理能力がない鏡野町森林組合に工事を請け負わせ,一括下請けさせるという不正なものであったこと,契約金額は結果的には611万円が適正であるのに,2080万円という3倍以上の不当に高額な金額で契約していることを全体として評価すれば,本件請負契約のうち,適正金額を超える部分は公序良俗に反し違法である。
(二) 不法行為
 平成11年1月下旬から2月上旬にかけて,鏡野町のc助役及びd課長代理において,鏡野町森林組合が本件工事を確実に請け負えるよう,同森林組合に指示して地域内の他の上斎原,奥津,加茂,津山の各森林組合(以下「他の4森林組合」という。)の見積書をとらせ,談合の結果,指名競争入札の実体がないにもかかわらず,違法に形式上,競争入札を実施し,鏡野町森林組合において,応札して落札の上,町と不当に高額の代金で工事請負契約を締結し,これに基づき同年5月11日町から森林組合への工事代金支払いをなさしめ,もって,町に対し,前記談合がなければ形成されたであろう正当な代金額と契約代金額との差額相当の損害を発生させた。
 よって,町は鏡野町森林組合に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権がある。B 被告の反論
(一) 不当利得について
(1) 随意契約について
 本件塵芥処理については,どのような業者が行うのが適当であるか分からない状態であったところ,極めて特殊な大型機械について,協同組合の組合員である鏡野町森林組合又は素材生産業者でなければ共同利用できないものであったから,鏡野町森林組合が,本件塵芥処理作業を行うのに特に適していると判断した。
 また,本件工事は,再びかなりの量の水がダムに流入すると,ダム内の流木がダムの側壁に当たるなどして傷つけるおそれがあること,水が減るとダムの下の方にある放水路に流木が詰まるおそれもあること,県から補助金を得る関係上,年度末である3月末までに作業を完了する必要があり,その期限が迫っていたことから,緊急を要する事業でもあった。
 そこで,これらの特殊機械を利用できず,あるいは専門技術を有しない業者が落札したのでは適正かつ迅速な作業が行えないことから,入札を行うに適さない事業であったものであり,地方自治法施行令167条の2第1項2号,3号に該当し,随意契約を行う要件はみたしており,本件請負契約は適法である。
(2) 公序良俗違反について
 上記のとおり,公序良俗違反となるべき点はない。
(二) 不法行為について
 本件請負契約は実質的に見て,随意契約の要件をみたしており,契約として違法性はなく,契約金額も過大ではないので,不法行為による損害賠償義務は発生しない。
5 争点3(争点2が肯定される場合の鏡野町の損害額)
A 原告の主張
(一) 本件請負契約における工事代金は,平成10年11月中旬の県による事業費見積もりでは,塵芥量を1600立方メートルとし,これに単価1万3000円を乗じた2080万円が基礎となっていた。
 しかしながら,実際の塵芥量は,本件塵芥を処理した産業廃棄物中間処理業者によれば,平成11年3月23日から同年4月13日までの15日間で10トン車25台分,4トン車19台分であったこと,木材の運搬における最大積載量ないし運搬制限量は10トン車で15立方メートル,4トン車で5立方メートルであることから,これを積算すると,15立方メートル×25台+5立方メートル×19台=470立方メートルと推定できる。
 したがって,塵芥量1600立方メートルとの見積もりは過大であり,本件工事代金は,単価1万3000円に実際の塵芥量470立方メートルを乗じた611万円が適正な金額であった。
(二) また,仮に,被告主張の処理場に運ばれた塵芥量998立方メートルを基礎に工事代金を算出すると,単価1万3000円を乗じた1297万4000円となるから,町が支出した2080万500円との差額782万6500円が少なくとも違法な公金支出となる。
B 被告の反論
 県が示した1立方メートル当たりの単価は,大雑把なもので,個別の単価を積算したものではないので根拠はなく,工事費は個別の単価を積み上げて決められるべきものである。
 塵芥の量は産業廃棄物処理場に運ばれた分だけでも998立方メートルあり,処理場に運ばれないで野焼きされた量も相当ある。野焼きしたことは不当な処理方法であるが,これは被告の責任ではなく,請負契約はその前に締結されているのであるから,野焼きにされた量も加えて契約金額が過大ではないか検討すべきである。
 野焼きされた量が明確ではないことから,野焼きにされた量を全体の3割程度とすると,塵芥の量はもともと1425立方メートル余あったことになり,個別の単価を積み上げて工事費を算定すると,適正な契約金額は3697万円余となり,さらに控えめに,処理場に運ばれた998立方メートルだけについて,個別の単価を積み上げて工事費を算定すると適正な契約額は2589万7000円(消費税込み)となる(乙10)から,本件請負契約の工事代金2080万円余は過大ではない。
第三 争点についての当裁判所の判断
一 争点1(一)(地方自治法242条2項適用の有無)について
1 「怠る事実」については,地方自治法242条2項の期間制限は規定されておらず,住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができるのが原則であるが,監査請求が実質的には財務会計上の行為の是正等を求める趣旨であるのに,「怠る事実」を対象として監査請求をする形式をとりさえすれば,上記の期間制限が及ばないことになると,本件規定の趣旨を没却することになる。そうすると,「怠る事実」を対象とする監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか,又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあり,これを客観的,実質的にみれば,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,監査請求をすることができないこととなる(最高裁平成14年7月2日第三小法廷判決参照)。
2 本件監査請求の対象事項は,町が鏡野町森林組合に対して有する損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権の行使を怠る事実とされている。
(一) 当該損害賠償請求権は,αダム塵芥処理工事について工事の実施先の選定について指名競争入札によるべきところを,町と鏡野町森林組合が,談合により随意契約して,実体に見合わない高額の工事請負代金で本件請負契約を締結し,工事請負代金を負担することになる町に対し,公正な競争がされていたなら成立したであろう工事請負代金額と談合によりつり上げられた工事請負代金額との差額相当の損害を与える不法行為をなしたというものである。これによれば,請負契約の締結や代金の支払等の財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて町の鏡野町森林組合に対する損害賠償請求権が発生するものではなく,本件監査請求について監査を遂げるためには,監査委員は,前記のような談合行為等があったか否か,これにより町に不当に高額な工事請負代金を負担させ,損害を被らせたか否かを検討すれば足り,町と鏡野町森林組合との間における財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かを判断する必要はないから,本件監査請求は,町の財務会計上の行為を対象とする監査請求を含むものとみざるを得ないものではない。
 したがって,不法行為に基づく当該損害賠償請求権の行使を怠る事実については,本件規定の適用がない「真正の怠る事実」に係るものと認め,監査請求期間の制限が及ばない。
(二) 他方,本件の不当利得返還請求権は,事業費積算の基礎となる適正な塵芥処理量は998立方メートルであるのに,1600立方メートルとして本件請負契約代金を決定しており,違法であるとして,実際の工事代金額と適正な塵芥処理量に基づく工事代金額との差額を不当利得であるとして返還請求するものである。これを客観的,実質的にみれば,怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものといわざるを得ないから,「不真正な怠る事実」として,当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条の期間制限の適用を受けることとなる。
二 争点1(二)(監査請求期間の起算点)について
 普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして地方自治法242条1項に基づき住民監査請求があった場合に,同監査請求が当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については当該怠る事実にかかる請求権の発生原因たる行為のあった日又は終わった日を基準として,同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決)。
 本件では財務会計上の行為が終わった日は工事代金支払の日である平成11年5月11日であり,原告において,それから1年経過後の平成13年2月14日に監査請求したものであることは前示前提事実記載のとおりである。
 また,実体法上の請求権が未だ発生しておらず,これを行使することができない場合には,実体法上の請求権が発生し,これを行使することができることになった日を基準とするとしても,本件では,前記前提事実記載のとおり,平成11年11月時点においては,本件不当利得返還請求権の存在を住民が認識しえたものであり,この時点で行使することができるというべきであるから,平成11年11月を起算点としても,1年経過しており,監査請求期間を徒過している。三 争点1(三)(正当な理由の有無)について
 地方自治法242条2項ただし書きにいう「正当な理由」とは,特段の事情がない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力を持って調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたか否か,また,当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたか否かによって判断すべきである(最高裁昭和63年4月22日第二小法廷判決参照)。
 本件では,前記前提事実記載のとおり,調査委員会の調査結果報告が平成11年11月ころに有志の会により配布されていたものであり,相当の注意力をもって調査すれば,当該行為を知ることができたといえることからすれば,正当な理由は認められず,監査請求期間を徒過したものといわざるを得ない。
四 争点2(鏡野町森林組合の不当利得返還義務,不法行為責任の有無)について1 前記前提事実に,甲1の1,2,甲2,甲9の1ないし3,甲10の1ないし6,甲11の1ないし20,甲12,15,乙12,13,証人e,同c,同dの各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると,次のとおり認められる。
(一) 本件工事に至る過程
(1) 平成10年10月17日深夜から18日未明にかけて,台風10号の襲来により町内各地に被害が発生し,αダムに多量の塵芥が流入し,同月19日,αダムの管理者から報告を受けた津山振興局は,同ダムの塵芥を調査した。
 同年11月上旬,津山振興局は調査報告書を県に提出し,その結果,単価1万3000円,塵芥量3200立方メートルとし,4160万円の事業費が見積もられた。
 鏡野町建設課d課長代理は,津山振興局から,町の負担は県からの補助の残りである2080万円となるが受けるかどうか打診され,c助役にその旨報告した上,津山振興局に対し,受ける旨回答した。
 同月中旬,県本庁で,塵芥量が1600立方メートルとの前提に基づき,総事業費2080万円が決定され,その半額である1040万円につき,県から補助金が支出されることとなった。
(2) dは,自己の判断で,鏡野町森林組合のf組合長(以下「f組合長」という。)に,αダムの塵芥処理について,技術的に可能か打診した。同組合のg業務課長は,無理ではないかと同組合長に進言し,これを受けて,同年12月10日ころ,f組合長は,経験もなく,繁忙であるとして上記申入れを断った。
 同年12月10日,12月定例町議会が開催され,h町長は,αダム流木除去工事について,二次災害も心配されるので,早急に対応したいと提案理由の説明をした。
 同月中旬,dは,鏡野町森林組合に断られたことを受けて,業者による競争入札を行うべきものと判断し,鏡野町建設協会代表2業者(坂手建設,森脇建設)に見積もりを依頼した。
 同月24日,鏡野町議会は,事業費予算2100万(内,県費補助1040万円)とする議決を行った。県予算の1040万円という金額が決定された過程は町は関与していなかったが,県の補助率が50%と決まっていたことから,それに見合う予算は確保する意味合いで決定された。
 同月下旬,下請業者から見積書が提出された。
 平成11年1月11日h鏡野町長が辞任し,c助役が町長職務代理に就任した。
 同月22日ころ,坂手建設が,鏡野町森林組合に対し,自社が下請けをしたい旨告げた。
 同月25日,d課長代理は,c町長職務代理に対し,本件工事を一般入札に付するべきか伺いをたてると,cから,鏡野町森林組合は赤字で困っているから鏡野町森林組合に請け負わせる方向で考えるよう告げられ,一旦断られていることを伝えると,cから,再度確認をとるよう指示を受けた。これを受けて,dは,鏡野町森林組合に赴き,f組合長と面談した結果,工事請負の意思があることを確認し,dは,その旨,cに報告した。
 このころ,f組合長は,坂手建設に対し,5パーセントの手数料で本件工事の下請けを依頼する話をしていた。
(3) 同月28日ころ,dは,鏡野町森林組合の他,津山市及び苫田郡内の他の4森林組合から見積書を徴して,指名競争入札の体裁をとることにし,これらの指名伺い書を作成し,稟議方式により,cの決裁を受け,競争入札を行う場合の規定上の事務処理(幹事会,指名委員会等を開催)は省略した。
 さらに,dは,同年2月1日ころ,本来は,町が他の4森林組合に対し個別に依頼して各見積書の提出を求めなければならないところ,鏡野町森林組合に対し,同組合が,他の4森林組合の見積書を集めるよう指示した。この時点で,町から鏡野町森林組合に,白紙の見積書と保証書,工事請負契約書の各用紙が交付されていた。
 同年2月8日被告が町長に就任したが,そのころ,gは,f組合長の命を受けて,上斎原村,奥津町各森林組合に,鏡野町森林組合が請け負うので,鏡野町森林組合より高い見積金額(2100万円より高く)で依頼し,奥津町森林組合には見積書と同時に白紙の用紙の保証書に同組合長のゴム印と職印をもらった。
 同月10日ころ,gは,同様に,加茂町,津山市各森林組合に赴き上記同様の依頼をした。津山市森林組合では組合長が不在であったため,白紙の見積書と保証書に津山市森林組合長のゴム印と職印を押してもらい,見積書は,鏡野町森林組合の職員が代筆した。
 鏡野町森林組合が見積書を作成した際,参考にf組合長が坂手建設を通じて渡された株式会社アグリクリーンサービス(以下「アグリクリーンサービス」という。)作成の積算単価表で金額をあわせようとしたが2100万円が上限であったので,同年2月初旬ころ,その金額で見積書を提出した。このときの見積書に記載の塵芥量は500立方メートルであった。
(4) そのころ,gは,鏡野町町役場建設課に5森林組合の見積書等を持参した。その後未完成の契約書が町から,鏡野町森林組合に届けられ,同組合は,同月中旬ころ,これを完成して,町役場に提出した。このとき,工期と,金額欄は空白であった。
 同月12日,dは,5森林組合の見積書の中で鏡野町森林組合が最低見積もりであったものの,同組合の見積書記載の金額が事業費と同額の2100万円であったため,このままでは落札できないことから,落札額を2080万500円とした。さらに,前記1月28日の指名伺日から4~5日事務処理期間を要したとするのが自然と考え,2月2日に契約をしたように,工事請負契約書の日付を遡って記載して,請負事業者決定の伺書を作成した。
 同伺書については,本件事業の実施が大幅に遅れていたことから,急いで稟議され,同月15日,c助役は,既に町長職務代理を解かれているのにこれを決裁,調印し,同月2日を作成日とする工事請負契約書を作成した。
 上記落札の際,最低予定価格も決定されず,指名入札委員会も開催されず,鏡野町森林組合が立ち会うこともなかった。
(5) 同年3月中旬ころ,鏡野町森林組合は,坂手建設との間で,本件工事の下請けとして,工事代金を1976万475円と定めて請負契約を締結した(甲1の2)。そして,工期が2月2日からとなっていたため,契約書の作成日を一旦,1月29日とし,さらに2月3日に訂正した。
(二) 本件工事の経過等
 同年3月6日から,立木伐採作業が開始し,それから1週間程度で本格的作業が行われた。
 湖面に浮いている塵芥除去を開始し,ダム管理事務所の船を使用し,塵芥を収集した。塵芥収集においては,全量につき,産業建設廃棄物として処理するよう特記仕様書に示されていたが,実際には流木とゴミに仕分けられ,流木のみが搬出され,中間処理業者に搬入された。
 処理工事の搬出は,平成11年3月23日から同年4月13日まで,産廃運搬業者によって行われ,処分業者であるアグリクリーンサービスにおいては,運搬された分として10トン車25台分,4トン車19台分(10トン車では約30立方メートル,4トン車では約12立方メートルとして計算)あって,約978立方メートルの塵芥量であるとの認識であった。
 本件塵芥処理工事は,同年4月13日に完了し,同月下旬,下請け業者たる坂手建設から受け取った管理伝票等の書類,写真を鏡野町森林組合が町に提出し,町職員は,これら写真と書類をもとに,工事竣工届けを作成し,作成日付を3月25日として県へ提出,報告した。
 同年5月11日,鏡野町は,同町森林組合に対し,本件工事代金2080万500円をその口座に振り込んで支払った。
 同月13日,鏡野町森林組合は,1976万475円を坂手建設に支払った。
 平成11年6月7日,鏡野町予算執行の正常化を求める有志の会(代表a,b)から,鏡野町議会宛に,本件に関する陳情書が提出された(乙1)。 同年6月10日ころ,請負契約に至る過程に不明朗な点があったとの問題点が表面化し始め,c助役とdは,当時存在しなかった本件工事起工設計書,森林組合から町へ提出すべき再見積書,指名委員会稟議書及び工事工程表を各作成した。2 以上認定したところによると,本件請負契約における工事代金の決定は,形式的には一般工事と同様に一般競争入札にする体裁をとって,他の4森林組合から見積書を提出させ,入札により鏡野町森林組合の見積金額が低額であったとして2080万500円で同組合に落札させているが,実質的には,鏡野町森林組合が,下請けとして予定していた坂手建設から5パーセントの手数料を得ることを目的として,鏡野町と意を通じて,他の4森林組合に見積りを依頼し,その内容についても,一定額を上回るよう依頼したものであり,鏡野町森林組合が作成した見積書は,適正な工事価格の検討,すなわち塵芥量の算定等を経ることなく,金額が先に決まっていて,帳尻を合わせるために,作成されたものに過ぎないことが認められ,結局本件請負契約は,鏡野町と,鏡野町森林組合,他の4森林組合との不正な談合行為により,締結されたもので,その結果,本件工事代金については実態に即した根拠を欠く見積書に基づき決定されたものであり,鏡野町森林組合は,町に対し,不法行為責任を免れない。
五 争点3(争点2が認められる場合の鏡野町の損害額)
 前記認定事実に甲2,甲11の4,乙10,11並びに弁論の全趣旨を総合すると,本件における塵芥量については,10トン車25台分,4トン車19台分であり,1台当たりの運搬量により,その総額は異なるが,産廃業者の認識を前提とすると,運搬量としては978立方メートル,工事に要した費用の内訳明細書によると998立方メートルとなっていることからすると,本件請負契約による塵芥量は,多くとも998立方メートルであると認められる。
 なお,被告指摘の野焼き分については,その存否あるいは量,費用単価等のいずれについてもこれを認めるに足る資料はない。
 また,通常損害における損害額の算定に当たっては,単価につき,被告の指摘する乙10記載の個別積算価格が合理的である裏付けはなく,県の示した平均的単価1立方メートル当たり1万3000円をもって,合理的な価格と認めるのが相当である。
 そうすると,単価1立方メートル当たり1万3000円の998立方メートル分の価格に消費税5パーセントを加算した1362万2700円が適正価格と認められ,本件請負契約金額2080万500円との差額717万7800円が町の被った損害と認められる。
六 結論
 してみれば,町は,鏡野町森林組合に対し,不法行為に基づき,損害金717万7800円及び支出の日の翌日である平成11年5月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有しているところ,被告は,同権利の行使を怠っているといわざるを得ない。
 他方,原告の不当利得に基づく金員返還請求権の行使を怠る事実の違法確認を求める訴えについては,監査請求期間を徒過し,適法な監査請求を前置していないことに帰するから,却下を免れない。
第四 結語
 以上の次第で,不当利得に基づく返還請求権の行使を怠ることの違法確認を求める原告の本件訴えは,訴訟要件を欠くから,不適法として却下すべく,被告が,鏡野町森林組合に対して,鏡野町が上記組合に請け負わせた工事に関する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求める原告の請求は,損害金717万7800円及びこれに対する平成11年5月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の上記確認請求は失当として棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文を適用して主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官 金馬健二
裁判官 金光秀明
裁判官 鈴木紀子
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