主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中320日をその刑に算入する。
 理 由
(犯行に至る経緯等) 被告人は,昭和41年,群馬県勢多郡a村において,当時養豚業を営んでいたA1及び A2夫婦の長男として出生し,同村内の小中学校を卒業後,昭和57年4月,前橋市内の 商業高校に進学したものの,そのころから無免許でオートバイを乗り回したり,女友達と 遊ぶことなどにふけるようになって,同校を1年で中退し,ファーストフード店でのアルバ イト,プレス工,鳶などとして働いたが,このころ交際していた女性を妊娠させ,母親に堕 胎費用をもらって堕胎させたことがあった。
 被告人は,平成元年に前々妻と婚姻し,2子をもうけたが,建設作業員などの職を転 々とし,給料を家計に入れないことも度々であり,消費者金融会社から借金をして,多数 の女性と交際して,そのうちの1人を妊娠させ,堕胎させるなどするような生活を続け, 平成5年,義母と激しく口論したことをきっかけに前々妻と離婚し,2子は前々妻が引き 取った。 被告人は,その後実家に戻り,平成8年ころ,風俗店に行った際にそこで働いていた前 妻と知り合い,同人とその連れ子(B2,以下「B2」という。)と生活するようになり,平成 11年に前妻と結婚して,鳶などとして働いたが,職場で諍いを起こすなどして相変わら ず仕事は長続きせず,B2に対し度々暴力を振るったり,前妻に対し,しばしば口淫する ことを求め,前妻がこれを拒むと暴力を振るうことなどがあった。被告人は,平成12年こ ろ,住んでいたアパートの居住者ともめ事を起こしてアパートを引き払い,結局,前妻ら と共に,自己の実家で,両親,弟らと同居することになり,建設作業員などの仕事を転々 とする生活の中で,平成13年4月,前妻との間に長女をもうけたが,その出産費用を巡 って前妻の両親と諍いを起こし,前妻が上記暴行等により被告人に嫌気がさしていたこ ともあって,同年7月に前妻と離婚するに至った。 その後,被告人は,テレホンクラブで知り合った女性の家に転がり込むなどして生活し ていたが,同年10月ころ,前妻らを連れ戻し,自己の実家において再び前妻らとの生活 を始めた。しかし,被告人は,同年12月ころには,B2に対し,また暴力を振るうようにな り,後記判示第1のとおり,平成14年5月7日,その一環としての暴行によりB2に傷害 を負わせた。同月下旬ころ,被告人が別に加えた暴行によりB2の身体に残った痣のた め,同人の通うb小学校が被告人の虐待を知り,群馬県a保健福祉事務所児童相談部 (中央児童相談所。以下「児童相談所」という。)に通報したことから,児童相談所は,事 実確認のため,同年6月5日,被告人方に職員を派遣した。被告人は,児童相談所の職 員に対し,B2に対する暴行の事実を否定し,自らの生活に介入してくる児童相談所に 対する怒りを覚え,児童相談所の調査の後,前妻に対し,「お前らといると,俺,そのうち 犯罪者にされちまうよ。」,「子供連れて,出てけ。」などと怒鳴るなどした。前妻は,被告 人が仕事をしないことやB2に対する暴行に嫌気がさし,同月7日,2人の子を連れて被 告人のもとから家出した。被告人は,前妻らがいなくなったことに気付くと,前妻らが児 童相談所に逃げ込んだものと考え,児童相談所,警察署,前妻の実家等を探し回った が,前妻らの居所は分からなかった。 被告人は,前妻らと会いたいとの思いにより,同月下旬ころから,b小学校のB2のクラ スを乗っ取り,教職員,児童らを人質にして,児童相談所に対し,前妻らとの面会を要求 してみようなどと空想するようになった。また,被告人は,10代後半ころからレイプ願望 があったところ,前妻らの居所が分からず苛ついていたため,鬱憤晴らしに女性を拉致 してレイプでもしてみようなどと考え,同月下旬から7月上旬ころに掛けて,h町,d市等 を車で走り回って女性を物色したこともあった。 そして被告人は,同月4日ころには,小学校の乗っ取りをする前に,そのための道具を 買ったり思い切り遊ぼうなどと考え,その資金を得るため強盗することを思い立ち,以前 人材派遣されて解体の仕事をしていた勤務先の社長の家には現金があるだろうと考え て同人宅を狙うことにし,同月9日,後記判示第2のとおりの強盗を敢行し,現金約10 万円を奪取した。しかし,被告人は,同月13日までの間に,パチンコやゲームセンター などで,奪った金員を全部費消してしまった。 被告人は,同月中旬ころになると,上記小学校の乗っ取り等の空想を具体的に考え始 めるようになり,小学校の夏休みは同月26日くらいからであったような気がしていたた め,その直前に実行しようと考え,その犯行に使うための灯油を500ミリリットルのペット ボトル6本に詰め,ビニール紐等をバッグに入れるなどして準備を始めた。しかしなが ら,被告人は,同月19日朝,テレビのニュースで,その翌日から小学校が夏休みに入ることを知り,計画が十分まとまっておらず準備もできていなかったことから,小学校の乗 っ取りを断念したが,同日午前11時ころ,乗っ取り用に準備した灯油等の入ったバッグ を見ながら,それまでの自己の人生が何をしても中途半端でとても虚しいものに感じら れてきて投げやりな気持ちになり,この先がどうなってもいいからやりたいことをやろうと 思い立った。そこで,被告人は,女子高校生をさらって,レイプした上で,その女子高校 生を人質にして,児童相談所に電話をし,前妻らを連れてこさせようなどと漠然と考え, 同日午前11時30分ころ,後部座席ドアにチャイルドロックを施錠した乗用車で,女性を 物色しに出かけた。(犯罪事実) 被告人は,
第1 平成14年5月7日午後5時ころ,群馬県勢多郡a村大字bc番地d所在の被告人方 において,前妻の連れ子であるB2(当時8歳)が自己の意のままにならないことに 苛立ち,同人に対し,その頭部を左平手で1回殴打して,その頭部をタンスに衝突 させ,よって,同人に全治約1週間を要する頭部裂創の傷害を負わせた。第2 金員を強取しようと企て,同年7月9日午後3時20分ころ,前橋市e町f番地のgC1 方に宅配便の配達員を装って玄関から侵入した上,そのころ,同人方において,同 人の妻C2(当時43歳)に対し,所携の包丁を突き付けながら,「金を出せ。」などと 言ってその反抗を抑圧し,同人から,同人管理に係る現金約10万円を強取した。第3 通行中の女性を拉致して自己運転の普通乗用自動車に監禁した上,同女を強姦 し,かつ,同女を人質にして,群馬県a保健福祉事務所児童相談部の職員に対し, 同部に保護されている自己の前妻らとの面会等を強要しようと企て,1 同月19日午後1時ころ,群馬県勢多郡h町大字ij番地k付近路上において,歩行中 のD(当時16歳)を認めるや,同女に対し,両手でその身体を抱きかかえるなどし て同車両の後部座席に押し込み,ウィンドウロックを施錠した上,同車両を発進さ せ,同所から同郡l村大字mn番o先山林内まで走行させて連行し,引き続き,同女 を同山林内に駐車した同車両内に閉じ込め,同日午後3時ころ,同女を殺害するま での間,同女を自己の支配下に置くと共に,同女を監視して脱出を不可能にさせる などし,もって,わいせつの目的で同女を略取すると共に,第三者に対して義務の ない行為をすることを要求するための人質にする目的で,同女を監禁した。2 同日午後2時ころ,上記山林内に駐車した上記車両内において,上記のとおり略 取・監禁中の同女に対し,さらにその腕部をつかんで同車助手席に移動させ,「言 うことを聞かねえと,帰さねえぞ。」などと語気鋭く言うなどの暴行,脅迫を加え,そ の反抗を抑圧して,同女を強いて姦淫した。第4 同日午後3時ころ,上記山林内に駐車した上記車両内及び同山林内において,同 車両から逃げ出そうとした同女に対し,殺意をもって,その頸部を両手等で締め付 け,さらにその頭部にビニール袋をかぶせた上,その頸部にカーステレオ用コード 2本を順次巻いて締め付けた上玉結びにし,よって,そのころ同所において,同女 を窒息死させて殺害した。第5 同日時ころ,上記山林付近の上記車両内において,同女所有に係る現金約260 0円及び携帯電話1台(時価約5000円相当)を窃取した。第6 判示第3の1のとおり略取したDの安否を憂慮する同女の両親の憂慮に乗じて金 員を交付させようと企て,同日午後11時15分ころから同月20日午後零時ころま での間,数回にわたり,前橋市p町q番地のr所在のドライブイン「E」南側駐車場及 び同市s町t番地のu所在のリサイクルショップ「E」北側駐車場等において,判示第 5の窃取に係る携帯電話を使用して,同県勢多郡h町大字iv番地w所在の自宅等 にいた同女の実父D1及び実母D2に対し,「娘はどうなっても良いのか。」,「50万 用意しろ。」,「Fオートレース場の所に金をおろす場所がある。伊勢崎へ来い。そこ で金をおろせ。」,「警察には届けるな。」,「20万でも30万でも良い。」などと言って 身の代金を要求し,同日午後零時14分ころ,同県佐波郡x町大字yz番地先路上に おいて,上記D1から,現金23万円の交付を受け,もって略取された者の安否を憂 慮する者の憂慮に乗じて財物を交付させた。(法令の適用) 該当罰条
判示第1の行為 刑法204条 判示第2の行為
住居侵入の点 刑法130条前段
強盗の点 刑法236条1項 判示第3の1の行為
わいせつ目的略取の点 刑法225条 第三者に対して義務のない行為をすることを要求するための人質にする目的 での監禁の点人質による強要行為等の処罰に関する法律1条
2項,1項 判示第3の2の行為 刑法177条前段
判示第4の行為 刑法199条 判示第5の行為 刑法235条 判示第6の行為 包括して刑法225条の2第2項,第1項科刑上一罪の処理
 判示第2の住居侵入と強盗の罪につき 刑法54条1項後段,10条(重い強盗罪の刑で1罪処断) 判示第3のわいせつ目的略取,第三者に対して義務のない行為をすることを要求するための人質にする目的での監禁及び強姦の罪につき 刑法54条1項前段,後段,10条(最も重い強姦罪の刑で1罪処断) 刑種の選択 判示第1の罪につき 懲役刑
判示第4の罪につき 無期懲役刑
判示第6の罪につき 無期懲役刑 併合罪加重 刑法45条前段,46条2項本文(犯情の重い判示第4の無期懲役刑により処断) 未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件事案の概要 本件は,被告人が,被害者Dを,強姦すると共に自己の妻子との面会を強要するための人質にする目的で,略取した上監禁して,強姦し,その際,逃走しようとした同女 を殺害し,その所有に係る現金等を窃取した後,同女の両親に対し身の代金を要求 しこれを交付させたという,わいせつ目的略取,人質による強要行為等の処罰に関す る法律違反,強姦,殺人,窃盗(以下「本件殺人等」ともいう。)及び拐取者身の代金 取得の事案並びに前妻の連れ子に対する傷害及び以前派遣された先の会社社長宅 に宅配便を装って侵入して現金を強取した強盗の事案である。2 本件殺人等及び身の代金取得の犯行について
1 本件殺人等の状況等 被告人は,前妻らに家出されたことなどをきっかけに,自己の人生を振り返ってみたところ,結局,仕事にしろ何にしろすべてにおいて中途半端であり何も形に残って いないことに思い至るとともに,これまで自らのわがままな性格を隠したくて他人と の付き合いを極力避け表面だけの付き合いしかしてこず,そのため友人もおらず, その上,わがままを何でも聞いてくれた前妻もいなくなり居所も分からないという状 況にあることから,自己の人生があまりにも虚しく馬鹿馬鹿しいものに思えてきて, 自暴自棄になり,自分のやりたいことは何でもやってやろうなどと考えた。そして, 被告人は,自己のかねてからのレイプ願望を満足させるため,女性を拉致して強 姦した上,その女性を人質にしてどこかに立てこもり前妻らを連れて来させようなど と漠然と考えた。こうして,被告人は,あらかじめ後部座席ドアにチャイルドロックを 施錠してあった乗用車でレイプする女性を物色に出かけ,たまたま帰宅途中のDを 見かけると,人気のないトウモロコシ畑の中の道を歩いていた同女に道を尋ねるふ りをして,同女を立ち止まらせて,上記車両に無理矢理押し込み,人気がなくレイプ を実行するには都合が良いとあらかじめ考えていた赤城山中の山林内まで連行し た上,同女を同車内で強姦した。
 その後,被告人は,Dが車外に逃げ出そうとするや,逃げられないようにするため, とっさに同女を押さえつけ,右腕を同女の首に回して締め上げるなどしたところ,し ばらくして同女が抵抗しなくなったことから,同女が失神したものと思い腕をほどい たが,そのとき,同女が薄目を開けた状態で口元から泡を吹いており,その胸部付 近がけいれんを起こしていることに気付いた。被告人は,同女を病院へ連れて行か なければと思ったものの,そうすれば自己の強姦等の犯行が発覚するとも思い,い っそのこと同女を殺害してしまおうと決意した。被告人は,助手席シートに仰向けに 横たわらせた同女の首を右手でつかんでシートの背もたれに押しつけるように体重 をかけて絞めたところ,同女が「ゼーッ」という音を出したことから驚いて手を離し,これで同女が死亡したものと思って,同女を山林内に放置することにし,その頭部 にビニール袋をかぶせた。すると,同女が息をしていたのでまだ生きていると分か り,さらに,両手で同女の首を絞めたが,その際,同女の脈の感触が伝わってきた ことから素手で絞めるのを止め,カーステレオのコードで同女の首を縛ることにし, 同女を車内から山林に降ろした上,同女の頭部にビニール袋をかぶせたまま,カー ステレオのコードで,その首を縛りあげて,同女を窒息死させて殺害した。 被告人は,同所から逃走するため,上記車両を発進させたところ,同車内にDの荷 物があることに気付き,それを投棄しようとしたものの,金目のものを奪ってからに しようと考えて,荷物を物色し,現金約2600円と携帯電話を奪い,その余の荷物 を山林内に投棄した。2 拐取者身の代金取得の犯行の状況等について 被告人は,その後,ゲームセンターなどで時間をつぶし,同日午後8時か9時ころ帰宅すると,自分は殺人者になった,もう終わりだなどと思い詰め,捕まる前に前 妻らに会おう,そのためには,直接,児童相談所に乗り込んで,職員を人質に取 り,前妻らを連れて来させようなどと考えるようになり,そのための武器としてけん 銃を買うために,最低でも50万円を手に入れようと考えた。被告人は,まとまった 金を手に入れる方法として,強盗をすることなどを考えたものの,そのための良い 場所が思い付かず,行き詰まった。そのとき被告人は,Dから奪った携帯電話のこ とを思い出し,同女の両親に対し,電話をかけて身の代金を要求することを思い付 いた。そして,被告人は,同日午後11時15分ころ,同女の携帯電話から,その両 親に対し電話をかけ,共犯者がいるように装って,身の代金50万円の要求をした。 同女の両親は,愛娘が夜遅くなっても帰ってこず連絡も付かないというこれまでに1 度もなかった異常な事態にその心配が頂点に達し,愛娘の友人など愛娘の居所を 知っていると考えられる連絡先に電話をかけるなどしていたところ,被告人から身 の代金要求の電話を受け,警察に通報し,その指示のとおり,被告人との交渉を 続け,結局,翌7月20日の午前10時ころ,身の代金の額として23万円の受渡しを することになった。被告人は,Dの家族が警察に通報して,警察が見張っているの ではないかと考え,同女の父親と携帯電話で連絡を取りながら,身の代金の受渡し 場所を探し,これを変更するなどした上,同日午後零時14分ころ,同女の父親から 身の代金23万円を受け取った。被告人は,同所から逃走したが,警察車両に追跡 され,検挙された。3 被害者Dについて Dは,昭和61年5月18日,北海道においてD1及びD2夫婦の長女として生まれ,誰からも愛されるように,誰にでも愛情を持てるようにとの両親の思いを受けて「D」と 名付けられ,低出生体重児であることなどが心配されたものの,両親の愛情を受けて すくすくと育った。Dは,幼いころ,人見知りをしない笑顔の絶えない子で,誰とでも仲 良くなり,3歳ほど下の従妹にもお姉ちゃんぶりを発揮していたものの,4歳のころ弟 が誕生すると赤ちゃん返りして周りに甘えるなどしたこともあった。同女は,群馬県内 の小学校に通うようになり,その友人関係で悩んで,母親が心を痛めることもあった が,明るく優しい子に成長した。同女は,同県内の中学校に入学すると,吹奏楽部に 入り,クラリネットを担当し,3年間部活動一色といえるほど吹奏楽部に打ち込んだ。 同女は,前橋市内の公立高校に入学すると,将来,通学用に自動車の運転免許を取 得しようと,貯金するためにガソリンスタンドでアルバイトを始めたが,勉強も怠ること はなく,高校に入学して初めての中間試験ではクラスで1番の成績を取る優秀な生徒 で,将来は幼稚園の先生になることを夢見ていた。同女は,高校1年生の1学期を終 えたばかりで,楽しみにしていた高校初めての夏休みを迎える直前,本件被害に遭っ た。4 本件各犯行の情状について
 1 被告人の本件殺人等及び拐取者身の代金取得の犯行は,被告人において,前妻らが家出をしたことなどをきっかけとして,これまでの人生に虚しさ等を感じたことか ら自暴自棄となり,そのレイプ願望などの欲求の赴くまま短絡的になされたもので あるところ,被告人の陥った状況はそれまでの自らの行いが招いたものであるの に,そのことに対して反省することもなく,かえって開き直って自らの欲求を実現す るためには他人を犠牲にすることも何ら意に介さないあまりにも自己中心的なもの で,その犯行動機に酌むべき事情は全くない。また,その略取,監禁及び強姦の犯 行は,さらえそうな女子高校生を物色中に帰宅途中の被害者が1人で人気のない 道を歩いているのを見つけるや,道を尋ねるふりをして声をかけ,同女が親切心か ら見せたその隙を突いて,白昼,チャイルドロックが施錠してあり内側からドアが開かないようになっている自己車両の後部座席に無理矢理押し込んで,人気のない 山林に連行し,帰してほしいと哀願する被害者を強姦したもので,大胆かつ卑劣な 犯行である。さらに,その殺害及び窃盗の犯行は,被害者の逃走を防ごうとして同 女を瀕死の状態に陥らせるや,かくなる上は,自己の犯跡を隠蔽するために,同女 を殺害するしかないとして,何度にもわたって,その頸部を締め付けて窒息死させ て殺害し,しかも,殺害後は,被害者の所持金などを奪ったものであって,冷酷,残 忍かつ凶悪な犯行である。被害者は,いまだ16歳の春秋に富む高校1年生であっ て,将来は幼稚園の先生になることを夢見ていたところ,突如,何らの落ち度もな かったのに,その夢や希望を被告人によって断ち切られ,非業の死を遂げることに なったもので,その無念さは察するに余りある。被害者は,被告人によっていきなり 略取,監禁され,恐怖におののきながら,陵辱された上,首を絞められるなどして 殺害されたものであって,被害者の受けた身体的苦痛や,強姦等された屈辱感や 恐怖感などの精神的苦痛の大きさも計り知ることができない。さらに,被害者の父 親は,約1週間後,夏の暑い中,山林内に放置されたため変わり果てた姿となって 発見された愛娘と対面して,衝撃を受け,妻である被害者の母親を愛娘の無惨な 姿に対面させることに忍びず,被害者の母親は愛娘の遺体と対面することも,その 顔を見て直接別れを告げることもかなわなかったのである。被害者の父親は,公判 廷において,愛娘を失った悲しみが大きすぎて自分の感情がなくなってしまったよう であり,怒りを爆発するということができない旨述べ,被害者の母親は,公判廷にお いて,自分自身の感情や感覚も,沸き上がってくるのは愛娘がいなくなった寂しさ や悲しさだけで,それ以外は自分のすべてが麻痺しているような感じである旨述べ ており,被害者の弟は,両親に対し,事件のことも,姉を亡くした悲しみさえも表に 出すこともないほどであって,これまで愛情を注いで育んできた最愛の娘を突如失 った被害者の両親,最愛の姉を突如失ったその弟ら家族の精神的な衝撃の大き さ,悲しみの深さは計り知ることができない。 さらに,被告人は,本件身の代金取得の犯行において,被拐取者を殺害した後で あるにもかかわらず,あたかもこれが生存するように装い,その安否を憂慮する被 害者の両親に対し,当初現金50万円を要求し,結局23万円を取得したものである が,被告人は,自らも人の親でありながら,その犯行の際には,再三にわたって, 被害者の安否を憂慮するその家族の心をもてあそぶような言動をも行ったもので, その態様は極めて卑劣なものというほかなく,家族らは被告人のこのような言動に 翻弄され,被拐取者の両親は,一時,愛娘が出会い系サイトで被告人らと知り合い 事件に巻き込まれたなどと愛娘を疑ったこともあって,両親は,愛娘のことを一時で も信じられなかったことについて,現在でも深く悔やみ傷ついているのである。 Dの遺族らの被告人に対する憎しみや怒りは,遺族らをして被告人を死刑に処す べきであるとの嘆願書への署名活動に駆り立てるほどであって,同女の両親は,い ずれも公判廷において,被告人に対して死刑を望む旨述べているところ,その被告 人に対する激しい憎しみと怒りの情は察するに余りあり,深い同情の念を禁じ得 ず,これを慰める言葉を見つけることもできない。そして,それにもかかわらず,被 告人やその親族によって,これまで遺族に対する慰謝の措置は何ら講じられてい ないのである。 さらに,本件は,平穏な地域において起きた,学校帰りの女子高校生を略取するな どして殺害し,さらにその両親から身の代金まで取得したという冷酷かつ凶悪な犯 行であり,マスコミ等によって大々的に報道されたこともあって,本件が社会に与え た不安や衝撃なども見逃せないところである。2 そして,本件強盗についてみても,前妻らの家出をきっかけとして,被告人が自暴 自棄になったあまりの遊ぶ金欲しさの犯行であり,その動機はあまりにも自己中心 的であって酌むべき事情は全くないし,その態様も,白昼,自らの派遣先の社長の 住居に侵入した上,あらかじめ用意した刃物を用いて金員約10万円を強取すると いう危険かつ凶悪なものであり,その被害金額も多額であるほか,被害者に与えた 精神的衝撃も大きい。また,被告人の前妻の連れ子に対する傷害は,自らの苛立 ちを何ら抵抗できない幼い子にぶつけたものであり,日ごろから同人に対してなさ れていた暴行の一環であって,被告人の粗暴な性格の現れであるといえ,その犯 情は悪質である。そして,これらの被害者に対する慰謝の措置も全くなされていな い。5 検討
 1 検察官は,被告人について,死刑を求刑している。
 ところで,死刑は,人間の生命そのものを永遠に奪い去る究極の峻厳な刑罰であって,その適用は特に慎重でなければならない。このため,「死刑制度を存置する現 行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐 性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響, 犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が 誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを 得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならな い。」とされているところである(最二小判昭和58年7月8日・刑集37巻6号609頁 参照)。
 そして,これまでに検討してきた,被告人の本件各犯行の罪質,動機,態様,結果 の重大性,被害者の遺族らの被害感情,社会に及ぼす影響等にかんがみると,被 告人の罪責は誠に重大であるというほかはなく,殺害された被害者が1名の事案 であるとはいえ,死刑の選択も含めて検討することが相当である。2 そこで,更に慎重に検討するに,本件については以下のような事情も認められる。 被告人の本件殺人の犯行は,被害者が逃亡しようとしたという被告人における予想外の状況の中で,被告人がとっさに被害者の逃亡を阻止しようとして行ったこと から発展した機会的,偶発的なものであり,当初からの計画的な犯行ではない。そ の態様は,頸部を手で絞め,頭部にビニール袋をかぶせ,さらに,コードで首を縛り あげるなど執拗であるが,苦しむ被害者の抵抗を排除したり,さらにはいたぶるな どして死に追いやるといったものではなく,この種事犯の中では,極めて残虐であ るとまで言うことはできない。また,被害者の殺害に至るまでの経緯をみても,本件 略取,監禁及び強姦は,一応計画的な犯行ではあるが,綿密に計画されたものと までは到底言えず,その場の思い付きに近い杜撰な面も含まれている犯行であ る。さらに,本件身の代金の要求についても,被害者を殺害した後思い付いたもの であって当初からの計画的なものではない。このように,本件各犯行にはいずれも 極めて場当たり的な面があると言える。そして,被告人は,捜査段階の途中からは おおむね素直に事実関係を認めて捜査に協力している。被告人のこれまでのわが ままかつ自堕落な生活ぶりに本件各犯行の遠因があるとはいえ,被告人にはこれ まで前科前歴がない。加えて,被告人が,自分の中で被害者に対しいつも謝ろうと している旨検察官に対し供述していることや,公判廷において,被害者の両親に対 し本当に申し訳ありませんなどと供述したり,犯行そのものに対しては当然のこと, 捜査段階の態度が悪ぶろうとしたものであったことについても今では後悔している 趣旨のことを述べていることによれば,現在では,被告人には,被害者に対する謝 罪の念や,遺族の気持ちに思いを致し真に反省悔悟する気持ちなどが芽生えてき ていることも窺われる。6 結論 以上のとおりの本件各犯行のすべての情状を併せ考察するとき,被告人の刑事責任が極めて重大であることは前述のとおりではあるが,死刑が人命の剥奪を内容と する最も冷厳な刑罰であり,真にやむを得ない場合にのみ適用すべき究極の刑罰で あることを考慮し,かつ,近年の我が国における同種犯罪に対する量刑の実情をも勘 案すると,被告人に対しては,極刑が真にやむを得ないと言うにはいまだ隔たりがあ り,むしろ,被告人については,これを無期懲役に処し,終生被害者の冥福を祈らせ つつ,自ら,その罪を償う道を歩ませることが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑 死刑)
平成15年10月9日 前橋地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 久 我 泰 博 裁判官 吉 井 隆 平 裁判官 丹 下 将 克
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket