主文
被告人を懲役13年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
盛岡地方検察庁で保管中の木製棒1本(平成15年領第179号の1)を没収する。
理由
(第1の犯行までのいきさつ)
 被告人は,平成9年11月ころ,Aと知り合い,仙台市内で同棲するようになり,二人で仙台市内あるいは盛岡市内で総菜店を営んでいたが,平成13年に閉店し,以後被告人は,アルバイトをしたりしたが,平成14年12月からは夜間そば店の店員として働いていた。
 Aは,被告人が生活費を入れないことなどから被告人と別れたいと思うようになり,平成15年2月下旬ころ,被告人が仕事で外出中,元夫のBとの間の子であるCが住む仙台市a区内のアパートに転居した。このときは,Aは,すぐに被告人に連れ戻されたが,その後岩手県盛岡市内にアパートを借りて,同年3月28日,再び被告人が仕事で外出している間に転居した。しかし,被告人は,Aの居場所を探し出し,友人の車に乗せてもらい,同年4月10日,Aの住むアパートに押しかけ,ナイフを示し別れるなら無理心中をする旨述べるなどして脅し無理矢理Aを連れ戻し,Aに二度と家出をしないと約束させた。
 被告人の下から逃げ出したかったAは,同月11日盛岡市内のアパートに荷物を取りに戻った際警察署に赴いて被告人の暴力について相談をしたが,このときも被告人が暴力を振るわないと約束したため,仙台に戻ることになった。しかし,被告人と別れたかったAは同月14日,Bに助けを求めた。Bは,Cと共に逃げてくるように指示をし,被告人の追跡を免れるため,しばらく2人をモーテル等にかくまった後,同月19日からは,岩手県一関市内のB方に2人を住まわせ,3人で生活を始めた。
 一方,被告人は,同月14日またしてもAが逃げたことから怒り,Aの携帯電話に繰り返し電話をかけて,「Cがどうなってもいいのか」などとCに危害を加えることをほのめかす伝言を残したりした。そこで,やむなくAは,同月15日ころ,被告人に電話をかけ,別れた旦那のところにいるからあきらめて欲しい旨話し,また,被告人が隠していた前科を指摘し,暴力を振るったことなどで警察が行く旨話しするなどした。被告人は,これらの話を聞いてこれまで従順だったAの反抗的な態度に衝撃を受けると共に,Aが本当に被告人と別れるつもりなら許せないと思うようになった。
 そこで,被告人は,同月20日の朝,友人の車に乗せてもらい,一関市内に行き,B方を探し出し,Aが使用していた車を見つけ,同日夜から翌21日にかけてもB方へ行って外から様子をうかがい,Cがいることを確認し,B方にAがいると確信した。仙台に戻った被告人は,同日夜仕事をするうち,Aがあれほど嫌っていたBの下に身を寄せ,被告人の前科を指摘したことなどから,Aは自分を見捨てて他の男のものになるのではないかと思い,他の男に奪われるくらいならば自分の手で殺してやろうと考え,勤務終了後,そば店の包丁を持ち出した。
 同月22日午前4時ころ,被告人は,友人の車に乗せてもらい,包丁を隠し持ってB方に行き,Bがいなくなる機会をうかがったがBの車が止まっており,友人が帰ると言い出したため,一旦仙台に帰った。被告人は,同日午後8時ころ,再び友人に車を運転してもらって包丁を隠し持ったままB方へ行き,友人を帰した後,付近の道路を歩いたりしながら一晩夜を明かして機会をうかがい,翌23日の朝,Bの車が移動したことに気付いてB方敷地に入った。被告人は,庭の端に木製棒が一本おいてあるのに気付くや,この木製棒を使ってAを殴って殺そうと考え,木製棒を手に取りB方に入ることにした。
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成15年4月23日午前10時25分ころ,A(当時50歳)を殺害するため岩手県一関市b字c番地d所在のB方の無施錠の腰高出窓を開けて侵入し,Aを探しているうち,B方居間にC(当時21歳)の姿を見かけ,声をかけたところ,Cが声を出して騒ぎ,逃げ回ったため,被告人は,AがCの悲鳴を聞いて逃げ出すのを防ぐため,Cを殴って静かにさせようと思い,外へ逃げ出したCを追って玄関前に出て,同所において,Cの着ていた上着を背後から掴み,左手に持っていた木製棒(長さ約83センチメートル,重さ約1.48キログラム,平成15年領第179号の1)をCの頭付近を目がけて振り下ろして殴打し,前のめりに倒れたCに対して,木製棒を両手に持ってその頭部等を多数回殴打した上,玄関前から居間まで倒れたCを引き
ずり込むなどの暴行を加え,よって,Cに加療約8週間を要する頭部打撲,右肩甲骨骨折等の傷害を負わせ,その直後,外から戻って来て玄関にいたAを見かけるや,同所において,殺意を持って,Aの頭部を目がけて木製棒を振り下ろして殴打し,同所に倒れたAに対し,さらに木製棒でその頭部等を多数回殴打し,よって,Aを,同年5月4日午前9時26分ころ,同市e字f番地D病院において,硬膜下血腫及び頭蓋骨骨折等に基づく外傷性脳障害により死亡させて殺害し第2 公安委員会の運転免許を受けないで,平成15年4月13日午前5時14分ころ,岩手県西磐井郡g町h字i番地j付近道路において,普通乗用自動車を運転し
第3 前記第2記載の日時,場所において,同所が道路標識によりその最高速度が50キロメートル毎時と指定されている道路であるのに,その最高速度を56キロメートル超える106キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したものである。
(事実認定の補足説明)
1 判示殺人の事実につき,弁護人は殺意を争い,被告人も当公判廷において殺意を否認する供述をするので,以下検討する。
2 関係証拠によると,以下のとおり認めることができる。
 被告人が殴打に使用した凶器は,最大径約8.5センチメートル,長さ約83センチメートル,重さ約1.48キログラムの杭状の形状をなした木製棒で,その大きさ,重量から殺傷能力を有するものであり,被告人は,これでAの身体の枢要部である頭部を複数回にわたり殴打しており,その殴打の程度は,Aの頭部に最長約11.5センチメートルの長さの骨折をもたらし,硬膜下血腫及びクモ膜下出血を引き起こすという強度なものであって,これら凶器の形状や殴打状況からすれば,被告人は殴打行為の時点において,Aを死亡させることを認識,認容していたものと推認することができる。
 加えて,信用できるCの捜査段階の供述調書によれば,被告人はB方に侵入後,Cを見かけて「C」と名前を呼んだだけで,逃げるCに対し,追いかけた上で木製棒で殴打し,さらに倒れたCの背部等を殴打し,その結果立ち上がれなくなったCをB方居間まで引きずるなどしているだけで,復縁話をしたり脅迫したりしていないのであり,その後現れたAに対しても言葉をかけることもなく,いきなり殴打し,転倒したAに対し執拗に殴打行為を繰り返し,救護することなくそのまま立ち去っている事実を認めることができ,このような被告人のB方へ侵入後の言動からすれば,被告人には,Aの意思を確認して連れ戻すとの意図は,全くうかがえないのであり,また,殴打直前に憤激して殴打行為に及んだとの事情もないのであって,そうすると,被告
人は,B方へ侵入当初からAに対し攻撃する意図で殴打しているものと認めることができる。
 そして,犯行までのいきさつで認定のとおり,被告人は本件の1か月前である平成15年3月28日にAに盛岡に家出され,同年4月10日にこれを探しだしてナイフを示すなどした上,被告人の下から出て行くなら無理心中をする旨述べて脅して,家出をしないと約束させたにもかかわらず,その4日後の同月14日には再び家出され,今度は元の夫であるBの下に行かれた上,電話で,戻るつもりがなく,あきらめて欲しい旨言われ,さらには前科のことまで指摘され,被告人と別れる旨明確に意思を表明されているのであり,これら一連の経過からすれば被告人がAを殺害する動機を充分持っていたものと認められる。
 また,Aから明確に別れて欲しい旨言われたにもかかわらず,被告人は,その後Aの所在を探し出してB方に再三に渡って赴きながら,Bがいなくなる機会をうかがうだけで,Aに電話をかけたりすることもなく,声もかけていないのであって,被告人がAの意思を確認してよりを戻す意思があるならば,それまでと同様にAと連絡を取るはずであるのに,Aから別れる旨言われてからは全くAと接触せず,凶器を所持してBが不在になる機会をうかがうだけであって,この段階では,被告人はAと関係を修復することをあきらめていたものと認められる。
 加えて,被告人は,盛岡からAを連れて帰る際に勤務先を無断欠勤し,雇用主から厳しく注意されていたにもかかわらず,犯行前夜勤務先を無断欠勤してB方に赴き,運転してくれた友人に対して勤務先を辞めるつもりである旨述べており,この段階で,被告人は,以後通常の生活に戻るつもりがなかったものと認められる。 しかも,被告人は,わざわざ,勤務先から良く研いであり殺傷能力が充分ある包丁を持ち出し,B方付近で一夜を明かし,Bがいなくなると知るや,即座にB方敷地に立ち入っているのであり,Aを殺害することを意図して包丁を持ち出したものと認められる。
 これに対し,被告人は後述のとおり不合理な供述をしている。
 以上のとおりであって,本件殺人に至る経過,その際の被告人の言動,犯行現場における被告人の言動,凶器の形状,殴打の状況等を総合すれば,被告人は木製棒を所持してB方に侵入する時点において,Aを確定的に殺害する決意を有していたものと認めるのが相当である。
 被告人自身,捜査段階においては,時期は別として確定的殺意を持ってAを殺害した旨供述している。
3 ところで,被告人は,当公判廷において,B方に赴いたのは,Aと復縁して連れ戻すつもりであった,話にならなければ脅してでも連れ戻そう,もしだめであれば骨の1本や2本を折ってやろうと思っていたが殺意はなかった,捜査段階の供述は,取調の最中に,警察官から殺意を否認しては調書なんか取れないと言われたため,殺意を認める供述をした結果作成されたものであり,結果としてAが死亡したので,訂正の申立もしなかった,旨供述し,弁護人は,殺害するつもりであれば包丁で刺した方がより有効であるにもかかわらず,木製棒を凶器として使用しているのは矛盾する旨主張する。
 しかしながら,前述のとおり,被告人が単なる脅しのつもりでAに対する殴打を続けたとは認められず,また,被告人は,警察官に対してのみならず検察官に対しても殺意を認める供述をしている上,警察官の取調も,大声を出されたことは2,3回あったものの怒鳴られたことはないというのであるから,被告人がありもしない殺意を認める供述をしたとは考えられないのであって,被告人の殺意がなかったとの公判供述は信用できない。被告人が包丁から木製棒に持ち替えた点について,被告人は警察官に対し,包丁であれば返り血を浴びて服が汚くなる,木の棒だと,返り血を浴びることなくAを殺せる旨供述しており,これは十分了解可能であって,凶器を包丁から木製棒に変更したからといって殺意を否定することにならない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,傷害の点は同法204条に,殺人の点は同法199条に,判示第2の所為は道路交通法117条の4第1号,64条に,判示第3の所為は同法118条1項1号,22条1項,4条1項,道路交通法施行令1条の2第1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の住居侵入と傷害及び殺人との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として最も重い殺人罪の刑で処断することとし,各所定刑中,判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2及び第3の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条の併合罪であるから同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重
をした刑期の範囲内で被告人を懲役13年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,盛岡地方検察庁で保管中の木製棒1本(平成15年領第179号の1)は判示傷害及び殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)
 本件は,被告人が,別れようとして被告人の下を逃げ出した同棲相手の女性(以下「被害者」という。)を連れ戻すことを繰り返し,なお逃げ出した被害者に対し執拗に同居することを要求し,容れられないとなるや,被害者を殺害しようとして木製棒を所持して被害者がその二女(以下「二女」という。)と共に逃げ出した先である被害者の元の夫の住居に侵入し,居合わせた二女に対して木製棒で殴打する等の暴行を加えて加療約8週間を要する傷害を負わせた上,被害者に対し,殺意を持って木製棒で頭部等を複数回殴打して殺害し(判示第1の事実),別の機会に被告人が無免許で(判示第2の事実)かつ制限速度を超える速度で(判示第3の事実)自動車を運転したという,住居侵入,傷害,殺人,道路交通法違反の事案である。
 判示第1の犯行の経緯及び動機は前判示のとおりであり,生活費を入れないことなどから被告人と別れたいとして被告人の下を2度に渡って逃げ出した被害者に対し,従順で自分に尽くしてくれるからとの自分勝手な理由で,しかも無理心中をする旨述べるなど脅して連れ戻したが,結局元の夫の下に逃げたとして,他の男に取られるくらいなら殺害しようとして本件に及んだもので,被告人の被害者に対する歪んだ愛情及び支配欲の現れといわざるを得ず,被害者の人格を無視する極めて自己中心的な犯行であって,酌量の余地は全くない。
 また,その犯行態様も,無施錠の出窓から侵入した上,被害者に対しては,約83センチメートルもある大きな木製棒で身体の枢要部である頭部等を殴打し,被害者が転倒した後も執拗に殴打を繰り返して殺害するという極めて残酷なものであり,二女に対する傷害も,同じ棒で頭部等を多数回殴打したものであって,一歩間違えれば二女を死に至らしめるおそれもあった危険な行為であり,いずれも極めて悪質である。
 被害者は被告人となんとか別れようとして被告人の下から逃げ出すたびに被告人に居場所を探し出されては連れ戻されることを繰り返し,やっと元夫にかくまわれて一時の安住を得,新たな生活を始めようとしていた矢先に,よりによって被告人によってかけがえのないその生命を絶たれたものであって,その心情はまことに無念であったと思われる。また,傷害を負った二女も,殴打され重傷を負わされたことによる強い恐怖感を味わっただけでなく,目の前で残酷な手口により母の命を奪われたことによるその悲しみと衝撃はとりわけ大きく,姉とともに被告人に対し厳重な処罰を求めている。これに対し,被告人から何らの慰藉の措置も執られていない。
 加えて,被告人は運転免許を受けていないにもかかわらず車を運転して速度違反を犯しているのであり,被告人の規範意識は欠如しているといわざるを得ない。
 さらには,被告人は当公判廷において殺人の事実について殺意を否認するなど不合理な供述をするなど,真摯に反省しているとはいい難い。
 以上からすれば,被告人の刑事責任は極めて重い。
 したがって,幸いにして二女の生命に別状はなかったこと,判示第1の犯行後,警察に対して自らの居場所を連絡していること,被告人の姪が出所後の被告人の身柄を引受ける意向であることなど,被告人にとって有利な事情を最大限斟酌して,主文のとおり量刑する。
(求刑-懲役14年,木製棒1本の没収)
平成15年8月27日
 盛岡地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 卯木 誠
裁判官 村 瀬 賢 裕
裁判官 齊 藤 研一郎
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