主文
 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 請求の趣旨 被告らは,各自,原告に対し,金4319万8983円及びこれに対する平成11年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 第2 事案の概要1 本件は,被告A証券株式会社(以下「被告会社」という。)の歩合外務員で ある原告が,上司の被告Bにより差別的取扱いやいじめを受けた上,他の歩合 外務員からの原告に対する営業妨害等を放置したこと等を原因として,精神的 ストレスからうつ病に罹患し業務に支障がでたため被告会社から歩合外務員契 約を解除されたとして,(1)被告Bに対しては,民法709条の不法行為に基 づく損害賠償を,(2)被告会社に対しては,1民法715条の被告Bの使用者 責任に基づく損害賠償及び2歩合外務員契約を締結し,実質的な使用従属関係 にあった原告に対し,その労務の提供の過程において生命,健康を損なうこと のないように配慮する安全配慮義務を負うにも関わらずこれを怠ったことに基 づき損害賠償を求めるという事案である。2 当事者間に争いのない事実及び証拠により明らかに認められる事実 (1) 当事者・関係者原告は,昭和60年4月,被告会社(当時の被告会社名は,C証券株式 会社)に入社し,昭和62年4月からは被告会社津山支店(以下「津山支 店」という。)に配属となった。そして平成7年8月に,被告会社との間 で歩合外務員契約を締結したものの,平成11年8月20日付で,被告会 社から同契約を解除された(甲1,2)。被告会社は,証券業を営む株式会社であり,平成7年8月から平成11年8月20日まで,原告との間で歩合外務員契約を締結していた。 被告Bは,被告会社の社員で,平成8年2月から平成12年6月に大阪 支店長となるまでの間,津山支店の支店長として同支店の業務等全般を統括する立場にあった(乙17)。 訴外D,E及びFは,津山支店の歩合外務員である。 なお,原告の父であるGも津山支店の歩合外務員であったが,平成10年11月30日に定年退職した。
(2) 株式の信用取引についての一般的な説明
株式の信用取引は,証券取引法,証券取引所の定める受託契約準則等に 従い,一定銘柄の株式について,証券会社が顧客に信用を供与して行う取 引であり,株式を購入する顧客には買付代金を,株券を売付ける顧客には 株券を貸し付ける等の方法で行うものである。この取引には,約定価格の 30%以上の委託証拠金(代用有価証券を含む)を要し,原則として取引 の売付け又は買付けの日から6か月までに決済する。決済は,売建の場合は株券の受渡し又は反対売買の方法により,買建の 場合は株券の引取り又は反対売買の方法により行う。反対売買による決済 は,売建の株を買戻すか,買建の株を売戻す方法による。その結果,決済損益金を授受し遅延損害金が生ずれば,証券取引所で定 める率(年利14.6%)の金員を払う仕組みで行われるものである。1 追加保証金(以下「追証」という。)について 信用取引の建株が,相場の変動によって計算上損失が発生し,この損失額をすでに預かっている受入委託保証金から差し引いた残額が建株の約定 金額の20%を下回ったときに,この20%に達するまでの金額が追加保 証金(追証)として,損失計算が生じた日から起算して3日目の日の正午 までに顧客から徴収することになっている(受託契約準則48条)。2 同一銘柄の担保について
被告会社では,信用取引による建玉と同一銘柄は,原則として代用証券 (委託証拠金)として認めない取扱いをしている。ただ,例外的に,複数 の代用証券の中に建玉と同一銘柄の株券のあった場合は,評価等を慎重に 行い,部長の判断によって,同一銘柄の株券を代用証券として認めること は行われている。3 期日について 信用取引期日に関する社内ルールでは,信用取引の決済は,期日最終日の前場寄付で,反対売買するか,現引,現渡しをすることによって行うこ とになっている。営業員には,決済日の1週間前に最終期日表が渡され,営業員が顧客と 決済方法等について話し合いを進めることになっている。決済期日当日,午後2時頃までに信用建玉の決済が未了の取引があると きには,被告会社本社等から各店の部店長等に対して未決済状況の確認と 営業員に決済を急がせるよう指示が入ることになっている。4 「X」について 「X」は,平成5年12月にH鋳鉄所が商号を変更した銘柄で,岡山,津山等の投資家が好んで売り買いする地域色の強い仕手株であるが,多く の管理上のリスクがあったため,平成10年1月頃,被告本社から津山支 店に対し,「X」の信用取引をしないよう指示がなされ,それ以後,津山 支店での信用取引は禁止されていた。(3) 本件の経緯
1 追証について
D,同E及び同Fの顧客に追証が発生したことはある。
 2 信用買いについて津山支店で信用取引が禁止されている「X」を,Dの顧客のIが買った ことがあった。3 同一銘柄について 平成10年12月21日頃,原告の大口顧客であるJからP株4000株を信用取引で買う旨の注文を受けたものの,被告Bは許可しなかった。
 4 期日について平成10年11月6日に原告顧客であるKの信用取引の,また,平成1 1年1月27日にJの信用建玉の各決済期日が到来した。また,津山支店内で,決済期日を失念していた歩合外務員がいたことが あった。5 席の配置について 平成9年頃,津山支店では,歩合外務員を2階に集めて席替えを行い,その結果,原告は,株価ボードを背にする上,営業端末(株式の注文入力, 訂正,取消及び株価チャート等)の使用のためには立って移動する必要の ある席となった。これに対し,Dは,株価ボードを見渡すことができる席 であった。その後,原告は,半年間の売買手数料額が2000万円を超えて歩合外 務員内でトップになったことがあった。6 出社時間について 被告会社内勤の営業員の出社時間は午前8時40分となっていたが,歩合外務員の出社時間はある程度ルーズであり,Dが午前9時ころ出社したことがあった。
7 原告は被告Bに対し,Dの営業妨害を注意するよう訴えたことがあった。(4) 録音テープ(甲13はその録音反訳書)について 平成9年,被告Bにより差別的対応を受けていると感じた原告は,被告Bとの会話をテープに録音した。
 (5) 原告発病後の対応
原告は,平成11年2月10日,L病院精神科でうつ病と診断された(甲3)。
 平成11年7月中旬頃,原告は,被告会社から,歩合外務員契約を解除する旨の通知を受け取り,同年8月20日付で同契約を解除された。3 本件の争点は,(1)被告会社内で,原告が被告Bから差別的取扱いやいじめ を受け,また,被告Bが他の証券外務員による原告に対する営業妨害等を放置したことがあったか否か,(2)原告の損害の有無・程度の2点である。 争点(1)についての当事者の主張は,以下のとおりである。1 追証の差別 (原告の主張)
平成9年2月6日頃,原告顧客のMに信用取引の追証が発生した際,被告 Bは,原告に対しては追証解消するよう怒鳴りつけたが,同様に追証の発生 した顧客をもつD及びEについては全く言及せず放置したままであった。平成8年から9年頃,原告の大口顧客であるJに追証が発生した際,被告 Bは,原告に対しては当日中に5株の決済をするようにと指示したが,同様 に追証の発生した顧客をもつDやFに対しては,そのまま放置していた。平成9年12月18日,19日頃,原告顧客のKに追証が発生した際,被 告Bは,原告に対しては,執拗にKの入金の実現可能性を問い質したが,同 様に追証の発生した顧客をもつEに対しては,何らの言及もなく放置したま まであった。(被告らの主張) 証券会社においては,追証発生の顧客に対しては営業員を通じて追証の請求をすることは当然のルールであり,原告に対してのみ顧客に対する追証の 催促を厳しくしたものではない。追証の発生した顧客をもつD,E,Fに対 しても,ルールに従って追証の請求をさせており何ら差別はしていない。そ もそも,追証解消の要求は,信用取引のルール上当然のことであり,各歩合 外務員によって差別できる事柄ではない。2 信用買いの差別 (原告の主張)
平成10年3月30日頃,原告が,父から引継予定であった顧客のNから 「X」の信用取引の申し出を受けた際,被告Bは,原告に対しては,津山支 店における「X」の信用取引禁止を盾に許可しなかった。一方で,被告Bは, Dに対しては,その顧客であるIの「X」の信用取引を黙認していた。
 (被告らの主張)Dの顧客Iは,平成10年1月に津山支店での「X」の信用取引禁止に関 する指示が出る以前より,同銘柄を1000株買付けていた。ところが,平 成10年3月30日の決済日には同銘柄が値下がりしていたことから,決済 日を先に延ばすためにクロス取引(同一日に同銘柄を同量株数だけ売り買い すること)を被告会社本社の許可の下で,例外的に売り買いしたものである。 このクロス取引の実態は,期日延長としての扱いである。一方で原告の顧客Nは,新規の買注文であり,「X」の信用取引禁止の指 示に基づき許可しなかったのである。3 同一銘柄の差別 (原告の主張)
平成9年2月6日頃,原告が,その顧客のMに発生した追証解消のため, 信用取引で買っている株式を現引きして担保に入れる方法を採ろうとした 際,被告Bは,原告に対しては信用取引で建てた銘柄と同一銘柄の担保は認 めないと主張した。しかし,Fの顧客がO製鋼株1万8000株を現物で買 って担保にした上で,同日に同じO製鋼株2万株を信用取引で買ったことに つき,被告Bは許可している。また,平成10年12月21日頃,原告顧客のJからP株4000株の信 用取引の買い注文を受けた際,被告Bは,JのP株2000株が担保に入っ ているとの理由でこれを許可しなかった。(被告らの主張) 被告会社では,信用取引による建玉と同一銘柄は,原則として代用証券として認めない取扱いをしており,例外的に,複数の代用証券の中に建玉と同 一銘柄の株券のあった場合は,これを認めることもあるところ,Mは他に複 数銘柄を担保として入れていたので,平成9年2月5日,Q銀行株1銘柄の みを現引して(乙26)追証を解消しており,被告Bはこの現引による追証 解消を問題なく許可しており,原告の主張は事実に反する。また,Fの顧客については,Fが被告Bの許可なくO製鋼の現物株を担保 (代用証券)として同一銘柄を信用買いさせたものであり,後日,これを知 った被告Bは直ちに反対売買させて処理しており,何ら差別的取扱いはして いない。さらに,JのP株4000株の信用買付けを被告Bが許可しなかったのは, 同一銘柄の問題ではなく,Jが妻名義の仮名口座での信用買いを求めたため である。4 期日の差別 (原告の主張)
原告顧客のKの信用取引決済期日である平成10年11月6日午後2時5 0分頃,被告Bは原告に対して,Kの決済の有無につき大声で怒鳴りつけた。
 しかし,被告Bは,決済期日を失念していた他の歩合外務員に対して,大声 で怒鳴りつけるようなことはなかった。また,原告顧客のJの信用建玉の決済期日である平成11年1月27日午 後3時前,被告Bは原告に対し,決済の有無を大声で怒鳴りつけた。 (被告らの主張)被告会社では,信用取引決済は期日最終日の前場寄付で行うルールになっ ており,歩合外務員等には,決済期日の1週間前に最終期日表が渡されてい る。そして,決済期日の午後2時頃までに未だ決済未了の取引があった場合は,被告本社等から各店の部店長等に対し,状況確認と歩合外務員等に決済 を急がせるよう指示が入ることになっている。従って,被告Bは,同ルール に従って決済未了の顧客の担当歩合外務員等に対し,決済を急がせる指示を していたものであり,差別的な対応のできる事柄ではない。5 席の差別 (原告の主張)
平成9年の席替えに際し,被告Bの指示により,歩合外務員内で過去半年 間に稼いだ売買手数料額の多い順に席を選べることとなった。原告の成績は, 12人の歩合外務員中真中くらいであったが,被告Bは,最後に残った明ら かに不遇な席を原告に選択させ,Dには明らかに優遇された席を選択させた。その後,原告は,半年間の売買手数料額がトップになったため,被告Bに 席替えを申出たものの認められなかった。(被告らの主張)
席の配置については,歩合外務員同士の話合いで決められた。当時,原告 の隣席を嫌う歩合外務員が数名いたこともあって,最終的に原告主張のよう な配置となった。また,仮に成績順で席替えを行ったとすれば,当時の原告 の成績は歩合外務員12名中11番目であり(乙24),当然に最後に残っ た2席から選択させられることとなり,何ら差別ではない。また,被告Bは,平成10年4月に退職した歩合外務員のRの席へ移動し てもよいとの勧めたが,原告はこれを拒否し,同年11月に原告の父が退職 した際に初めて父の席へ移った。6 出社時間の差別 (原告の主張)
被告Bは,原告が出社時間の午前8時40分に5分でも遅れると大声で怒 鳴りつけたが,原告よりも遅く出社する他の歩合外務員に対しては全く注意 しなかった。(被告らの主張) 原告は,無断で遅刻や欠勤,早退を繰り返し,その担当顧客からも苦情があるなど勤務状況にも問題があったことから,被告Bが何度も注意したこと は至極当たり前で,何ら差別には当たらない。原告の主張は,自らの態度を 棚に上げた勝手な言い掛かりに過ぎないものである。7 Dの営業妨害の放置について (原告の主張)
Dにより頻繁に行われた,他の歩合外務員が顧客との電話中に大声で妨害 するような発言や,被告会社本社からのFAXや回覧等を回さない等の行為 について,原告は被告Bに対し,Dを注意して事態を改善するよう申入れた が,何らの処置もとられないまま放置されていた。(被告らの主張) 原告やDと同じ部屋で仕事をしている他の歩合外務員からは,同様の苦情は1件も出なかったことからすれば,原告の主張は,事実に基づかない独りよがりの言い掛かりというべきである。
 第3 当裁判所の判断
1 以上の争いがない事実に加え,証拠(甲1ないし20,乙1ないし26,原 告本人,被告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 (1) 追証の解消について1 Mの追証解消について 平成9年1月ないし2月頃,Mに信用取引の追証が発生した際,追証の発生した顧客に対して営業員(Mの場合は原告)を通じてその解消を求め るという被告会社のルールに従い,被告Bは原告に対し,Mへの追証請求 を指示した。2 Jの追証解消について 平成8年ないし9年頃,Jに発生した追証がすぐには解消しなかったため,被告Bは,金曜日中に5株ずつでも決済しなければ間に合わないかも 知れない,また,土,日曜日にJのところへ行って相談し,月曜日に処理 方法について報告するようにと原告に指示した。ところが,月曜日に欠勤 した原告は,その後,被告Bに追証解消の報告をしたことはなかった。3 Kの追証解消について 平成9年頃にKに追証が発生した際,原告は直ちに3日後の300万円の入金約束を取り付けて,被告Bに報告した。普段から被告Bは,追証が 発生した顧客には,歩合外務員を通じて必ずその解消方法を聞かせており, それでも解消しない顧客に対しては,入金されない場合には反対売買をし て建玉を決済する旨を内容証明郵便で通知していた。そこでKに関しては, その維持率が20%を割って18%であったため,被告Bは原告に対し, 入金の実現性を何度も確認した。4 なお,平成9年12月17日,18日の維持率表(甲9)につき,原告 は「追証表」と述べる部分もあるが(甲16),原告本人尋問の結果によ れば,これは担保不足(30%を下回ること)が発生した顧客に関する表 であって,追証(20%を下回ること)が発生した顧客の表ではないとい える。とすると,追証が解消されても同表から顧客名が消えることはなく, 担保不足が解消されて初めて名前が消えるものであるから,同表のみで追 証が発生していた期間を認定することはできない。(2) 「X」の信用買いについて 平成10年3月30日頃,原告は,父から引継予定であった顧客のNから「X」の信用取引の新規買い注文を受けたが,同年1月以降,津山支店 では「X」の信用取引は禁止されていた(乙1,2)ため,被告Bは原告 に対し,同注文を断るよう指示した。Dの顧客であるIは,禁止される以前の平成9年9月30日頃に「X」 を1000株買付けていたところ,平成10年3月30日の決済日には値下がりしていたため,Iからのクロス取引の要望を受けて,被告会社本社の許可を得た上で,例外的に売り買いを行った。 (3) 同一銘柄について1 Mの同一銘柄の可否について 原告は,Mが信用取引で買っている株式を現引きして,これを担保とすることで追証を解消する旨を協議したが,被告会社では,原則,信用取引 による建玉と同一銘柄を代用証券(委託証拠金)として認めない取扱いを していたため,当初,被告BはMについても認めない旨を原告に伝えてい た。もっとも,Mの場合,他の複数銘柄を既に担保に入れていたため,Q 銀行1銘柄のみを現引き(乙26)の上で担保に入れることで,追証を解 消した。その数日後である同年2月18日,歩合外務員Fの顧客が,O製鋼の株 式1万8000株を現物で買い,これを担保にして,同日に,同じO製鋼 の株式2万株を信用取引で買ったことがあった(当事者間に争いなし)。 しかし,これは,Fが,被告Bの許可なく,顧客に同一銘柄を担保に同一 銘柄を信用買いさせたものであり,後日,被告BはFに注意するとともに 反対売買により決済させた。2 Jの同一銘柄の可否について 平成10年12月21日頃,原告は,Jから,Jの妻名義でP株4000株を信用取引で買うとの注文を受けたが,それは仮名取引にあたるとし て,被告Bは許可しなかった。なお,この当時,Jは,P株を信用取引の担保として入庫していない(乙 14)。(4) 期日について
1 Kの期日到来について
信用取引期日に関する被告会社のルールによれば,信用取引決済は,期日最終日の前場寄付で行うことになっており,決済期日当日午後2時頃に なっても信用建玉の決済未了取引がある場合には,被告会社本社等から歩 合外務員等に決済を急がせるよう指示が出ることになっていた。ところで,平成10年11月6日,Kの信用取引決済期日が到来した際, 原告は何度もKに対し架電するも来客中とのことで決済の話ができず,同 日午後2時40分頃になっても電話が入らないため原告から再び架電した ところ,逆にKの怒りを買う結果となった。被告Bは,前述の社内ルールに従い,原告に対し,Kの期日の決済状況 について尋ねたところ,Kからの電話を待ちである旨答えたため,本社等 からの指示もあるため未決済の解消について問い質した。結局は,同日午後2時55分頃,Kからの架電により決済を終えた。
 2 Jの期日到来について平成11年1月27日,Jが所有するS株の信用取引について,大阪市 場における最終決済期日が到来した際,原告は,株式の売却を説得してい たものの,Jから少し様子を見たいと言われたまま当日の午後を迎えた。J所有の同株の未決済について,被告会社の本店監査部から問い合わせ を受けた被告Bに対し,原告は,Jが売却すると言っていると伝えた一方 で,その後も様子見を続けるJに対し電話で決済の説得をしていた。する と,同日午後3時前,被告Bは,社内ルールに従って原告に対し,決済を 急がせるよう指示するため,Jの期日がどうなっているのかと問うた。結局,同日中にJの決済は完了したが,原告は,歩合外務員等にいちい ち決済を急がせるような指示を出す本店監査部にも問題があるとして直接 架電し,監査部部長と言い争いとなった。(5) 席替えについて 平成9年1月の津山支店での席替えにより,原告は,上記のとおり業務遂行に不便な席となった。被告Bも,原告の席では不便さがあることについて認識はあった。 しかしながら,席替え前の過去半年間(平成8年7月から同年12月まで)における歩合外務員の売買手数料額の成績では,平成9年1月時点の 歩合外務員12人中,原告は11番目(下から2番目)であった(乙24, 25)。後日,原告の席替えの要望を受けた被告Bが,退職するRの席への移動 を勧めたものの拒否され,結局,原告の父が同年11月末に定年退職した 際,父の席へ移動した。(6) 出社時間について
1 津山支店では,就業規則によって勤務時間は午前8時40分から午後5時までと定められていたが,歩合外務員には固定給がない上,取引手数料 の一部が収入となる関係から,内勤者と比較すると出勤時間は割とルーズ であったことは,当事者間に争いはない。もっとも,株式取引の開始時刻 が午前8時50分であったため,その10分前にはせめて出勤しておくべ きであるというのが暗黙の了解であった(原告本人)。原告は,欠勤が多かったことや,大幅に遅れて出勤することもあった自 体は認めている(原告本人)。2 ところで,常々被告Bは,証券会社の主な仕事は顧客の信頼の下でその 資産運用,管理にあたることで,そのためには時間にルーズな人間は顧客 の信頼を得られないと歩合外務員等に言っていた。平成9年4月のある朝,原告顧客からの電話に出た被告Bが,まだ原告 が出勤していない旨を告げたところ,いつ電話しても原告はおらず被告会 社はどのような指導をしているのかといった内容の苦情を受けた。そこで, その電話の直後に出勤してきた原告に対し,被告Bは,出勤時間を守って 早く来るようにと注意したことがあった。なお当日は,原告の母が以前から通っていた病院で手術を受けることになっていたが,被告Bは,事前にそのような話を聞かされていなかった。
 3 そして,平成10年1月以後の原告の出社状況(当然,土・日曜日,祝 日は除く)に関し,少なくとも以下の点については当事者間に争いがない(甲10,乙15)。 ・平成10年1月の出社状況
休み 8回 遅刻 8回
内訳 15時出社が1回 14時出社が2回 13時出社が1回 12時出社が1回 10時出社が3回早退 1回
内訳 12時退社が1回
・平成10年2月の出社状況 休み 2回
遅刻 10回
内訳 14時出社が3回
13時出社が3回 12時出社が1回 10時30分出社が1回 10時出社が1回 9時40分出社が1回・平成10年3月の出社状況 休み 3回
遅刻 11回
内訳 14時出社が1回 13時40分出社が1回
13時出社が1回 12時30分出社が1回 12時出社が3回 11時出社が2回 10時30分出社が1回 10時出社が1回・平成10年4月の出社状況 休み 15回
遅刻 5回
内訳 13時出社が2回
11時出社が1回
10時出社が2回 (7) Dの営業妨害等の放置
津山支店2階の歩合外務員の席図(甲5)によれば,4つの事務机が向 き合った列(8席)が2列(合計16席)あり,原告とDの座席はほぼ斜 向かいの端と端にあたり,その間には他の歩合外務員が多数存在するとこ ろ,原告以外からは苦情が一切出ていない。また,本社からの重要情報の回覧が途中で止まることがあったため,被 告Bは,歩合外務員の名前を付けた上で,回覧を見た者は押印するように 改善するなど,回覧が回るよう注意していた。そして,新規上場全株の初値決定日における成り行き買いの禁止は,昭 和63年5月2日から決められている(平成10年3月に解除された)こ とであり,平成9年8月頃に新規上場したTに関して特別に決まったこと ではないこと,また,U株の売り禁止は平成10年2月26日付けであり,全外務員に回覧されていること等の事実が認められる。
 (8) 原告発病後の対応平成11年1月29日,原告はV病院で診察を受けた。 被告Bは,以前より,顧客から,原告以外の担当者に替えてほしい旨の 要請を受けていたところ,同年2月1日の朝にも同様の要請を強く受けた ため,同日午前10時30分頃に出社した原告に対し,仕事を終えたら連 絡するよう伝えておいた。しかし,原告は,外出ボードに「当分の間,休 み」と書いたまま何も言わずに帰宅した。その後,同月8日に出社した原 告に対し,被告Bは,Jと必ず連絡を取るように指示をしたが,翌日,Jから,昨日は原告からの連絡が何もなかったとの苦情を受けた。その後も, Jから聞かされる話と原告の報告とが食い違ったり,原告と連絡が取れな くなるなどした。平成11年7月,原告に対する外務員契約解除通知を出す前に,真面目 に仕事をする気持ちがあるならば復職も可能である旨を伝えるため,当時 の被告会社大阪支店相談役が津山支店を訪れて連絡を取ったが,原告は面 会を拒否した。同相談役は,代わりに原告の父と会い,前述の話を原告に 伝えるよう依頼した。しかるに,原告側からは何の音沙汰もないため,同月12日付通知書に より,原告は被告会社から歩合外務員契約を解除された。2 争点に対する判断
(1) 追証の差別について
上記認定事実によれば,被告Bが原告に対し,M,J及びKの追証を解 消するよう要求した事実までは認められるが,維持率表(甲9)のみでは 追証が発生していた期間を特定することはできず,結局のところ本件全証 拠をもってしても,被告Bが,D,E及びFに対しては追証解消を放置し ていたと認定するには至らない。また,原告に対してのみ,執拗に追証解消を要求していたと認めるに足りる証拠もない。
 以上より,原告の主張は採用できない。(2) 信用買いの差別 上記認定事実によれば,「X」の信用取引に関し,原告の顧客とDの顧客との間で異なる取扱いをした事実までは認められるが,その差異には合 理的理由があり,これをもって差別とすることはできず,本件全証拠をも ってしても他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。(3) 同一銘柄の差別 上記認定事実によれば,被告BはMに関し,被告会社内のルールに則って許可や不許可の判断をしたにすぎず,本件全証拠をもってしても原告主 張の事実を認めるに足りる証拠はない。また,原告は,Fの顧客のO製鋼株買付に関し,Fと被告Bとの間で同 一銘柄信用買い取引を相談の上で行ったと主張し,原告本人尋問の結果中 には,上記主張に沿う部分があるが,その内容は,結局のところ,客観的 な裏付けを欠く憶測に止まっており,他に,原告の主張を認めるに足りる 証拠はない。さらに,Jに関しては,原告主張の時期には,JがP株を信用取引の担 保として入庫していないことは証拠上明らかであるから,これは同一銘柄 の問題とはならず,かかる点で差別を受けたとする原告の主張は採用でき ない。また,被告BがJのP株信用取引を許可しなかったのは,Jが同人 の妻名義での仮名口座取引を申し込んでいることを知ったためであり,仮 に仮名口座取引が発覚すれば被告Bが処罰を受けるのはもちろん,被告会 社自体にも監督庁(金融庁)の検査が入り営業停止処分を受ける恐れがあ ることからすると,当該不許可自体には合理的理由が認められ,いずれに しても,かかる点で差別を受けたとする原告の主張は採用できない。(4) 期日の差別
上記認定事実によれば,信用取引決済期日の建玉処理は,同期日の1週 間前から最終期日表が配布され,期日当日にも未処理の場合は本社から指 示がされるなど,被告会社として重要視していたことが認められるところ, 仮に原告主張のように,津山支店での信用取引決済状況の過半数が同日午 後3時頃の決済になっているとしても,被告Bが原告に決済を急ぐよう指 示を出すこと自体は当然であり,何ら差別にはあたらない。原告は,その 指示の出し方自体が他の歩合外務員と違って差別を受けたとも主張するが, 本件全証拠をもってしても他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はな い。(5) 席の差別 仮に原告の主張どおり,席替えが過去半年間に稼いだ売買手数料額の順位に基づくものであったとすれば,平成9年1月当時の同順位は,原告は 歩合外務員12名中11番目で,Dが4番目であったことは証拠上明らか である。そうすると,原告が最後に残った2席から自席を選ばざるを得な いのは当然のことであり,その余の点を判断するまでもなく,差別を受け たとの原告の主張は採用できない。(6) 出社時間の差別 上記認定のとおり,原告は欠勤や大幅な遅刻出勤が多く,さらに,被告Bによる常日頃からの出勤時間に関する注意喚起を受けていたにも関わら ず,これを守らなかったため顧客からの苦情を受けていたこと,また,平 成10年1月~4月の当事者間に争いのない範囲での原告の勤務状況を見 ると,顧客宅の訪問などの事情を十分考慮しても,常識を逸した 勤 務状況であったといわざるを得ない。以上,本件弁論に現れた全証拠を総 合考慮すれば,被告Bが原告に対して行った出社時間に関する注意には合 理的な理由があり,これをもって差別を受けたと認めるには至らない。なお,原告は,Dその他の歩合外務員も出社時間がルーズであったと主張し,原告本人尋問の結果等には上記主張に沿う部分があるが,仮に歩合 外務員の特殊性から多少勤務時間にルーズな面があったとしても,原告の 常軌を逸した勤務状況に比し,それと同程度であったと認めるに足りる証 拠がない以上,被告Bが他の歩合外務員以上に注意を払うのは至極当然で あり,原告の主張は採用できない。(7) Dの営業妨害等の放置 上記認定事実によれば,Dには営業妨害の事実は認められず,また本社からの回覧に関しては被告Bが改善策を講じていることが認められる。
 原告は,Dに営業妨害を受け,被告Bがこれを放置したと主張し,原告 本人尋問の結果等にはこれに沿う部分もある。しかし,仮に原告主張どお りであるとすれば,他の歩合外務員から被告Bに対して出されてもおかし くない同様の苦情が一切ないこと等,本件弁論に現れた全趣旨を総合して判断しても,原告の主張は認められない。 また,原告は,本社からの重要情報の回覧に関し,種々の主張をするが,T,U等のいずれにおいても原告の主張事実は全く認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
3 原告は,さらに,訴状等に記載したものは,被告Bの原告に対する差別的取扱いやいじめの主要なものを掲げたにすぎず,他にもあるかのような主張をす るが,具体的事実の主張も立証もない以上,これを認めることはできない。
 そうすると,争点(2)の原告に生じた損害の有無・程度に関して判断するまでも なく,原告の請求を認めることはできない。第4 結論 よって,原告の本件請求は理由がないので,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第2民事部裁判官 中川 綾子
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