判決 平成15年1月24日 神戸地方裁判所 平成12年(行ウ)第13号 所得 税納税告知処分等取消請求事件 主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告(請求の趣旨)
(1) 被告が,原告に対し,平成10年5月29日付けでした平成5年7月12 日から平成10年1月12日までの源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納 付加算税賦課決定処分(以下,併せて「本件処分」という。)を取り消す。(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告(請求の趣旨に対する答弁)(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
 第2 当事者の主張
1 原告(請求原因)
(1) 原告-源泉徴収義務者 原告は,菓子の製造販売,不動産の売買及び仲介を業とする株式会社であり,所得税法183条1項,185条1項1号,221条に基づき,源泉徴収に係る所得税の納税義務を負う者である。
(2) 本件処分に至る経緯
ア 本件契約の締結 甲ら6名は,平成2年5月31日,乙株式会社との間で,次のような契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 (ア) 契約当事者a 甲ら6名
1 甲(原告代表者)
2 A株式会社
3 B
4 株式会社C
5 D株式会社
6 E株式会社
b 相手方 乙株式会社 (イ) 契約内容
a 次の1ないし3の土地(以下,併せて「本件各土地」という。)の一切の解決金及び本件各土地の周辺の甲ら6名に関する紛争の解決金(以下,併せて「本件解決金」という。)を78億0311万円とする。
1 a市b町1388番の32
2 同所1388番の39
3 同所1388番の42
b 乙株式会社は,本件解決金である78億0311万円を甲ら6名に支払う。
イ 本件解決金の支払等
(ア) 乙株式会社は,平成2年5月31日(本件契約と同日),甲ら6名 に対し,本件契約に基づいて,本件解決金78億0331万円を支払った。(イ) 同日,本件解決金78億0331万円のうち22億2500万円 が,甲名義のF銀行の普通預金口座(以下「甲の口座」という。)に入金された。
 (ウ) 平成2年6月13日,甲の口座に入金された22億2500万円の うち10億円(以下「本件10億円」という。)が,G株式会社名義のH銀行の普通預金口座(以下「G株式会社の口座」という。)に入金された。
ウ 本件10億円の原価計上
(ア) 原告は,甲の口座に入金された22億2500万円のうち20億2 500万円を,平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度におけ る,本件契約に係る売上として計上し,かつ,そのうち,G株式会社の口座に入金 された本件10億円を含む19億5500万円を,本件契約に係る売上原価として 仕入れ高に計上し,確定申告をした。(イ) これに対し,被告は,平成5年7月5日,原告に対し,別表1記載の経緯により,平成2年7月10日から平成5年1月11日までの源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(以下,併せて「先行処分」という。)をした。その理由は,次のとおりである。
a 原告が売上原価に計上した19億5500万円のうち,G株式会社に支払ったとする本件10億円は,架空原価の計上である(1)。
b 原告代表者である甲は,原告に帰属する本件10億円を個人的に流用したものであるから,本件10億円は,原告の甲個人に対する貸付金と評価すべきである(2)。
c ところが,原告は,甲から本件10億円の貸付に係る利息を徴していない。よって,本件10億円の貸付利息相当額は,原告の甲に対する給与とみなすべきであるから,原告は,所得税法183条1項,185条1項1号,221条に基づき,本件10億円に係る受取利息相当額について,所得税の源泉徴収義務を負う。
(3) 本件処分 ところが,原告は,先行処分以降も,甲から本件10億円の貸付に係る利息を徴しなかったので,被告は,平成10年5月29日,先行処分と同様の理由で,原告に対し,別表2の経緯により,原告の平成5年7月12日から平成10年1月12日までの源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(本件処分)をした。
(4) 本件処分の違法事由
 被告による本件処分は,次のとおり,その前提事実に誤認があり,違法である。
ア 1架空原価の計上に当たらない (ア) 原告は,本件解決金の分配を株式会社Cに委任しており,本件10億円がG株式会社の口座に入金された平成2年6月13日当時,G株式会社の存在及び本件10億円が甲の口座からG株式会社の口座に入金された事実を全く知らなかったが,株式会社Cが,上記委任に基づき,本件10億円をG株式会社の口座に入金した以上,その段階で本件10億円は原告に帰属するものでなくなっている。(イ) そして,G株式会社の口座に入金された本件10億円は,その後, I(株式会社Cの代表者)により出金され,本件契約に係るJ・B・Iの三者への 分配金として,Jに交付されたのであるから,本件10億円は,本件契約に係る売 上原価に当たる。(ウ) よって,原告が,G株式会社の口座に入金された本件10億円を, 本件契約に係る売上原価に計上したことは,架空原価の計上には当たらない。イ 2甲個人に対する貸付に当たらない (ア) 本件10億円は,上記ア(イ)のとおり,現にJに交付されており,甲が同金員を個人的に流用した事実はない。
 (イ) よって,本件10億円は,原告の甲個人に対する貸付金ではない。(5) 審査請求前置 ア 原告は,平成10年7月30日,被告に対し,本件処分に不服があるとして異議申立てをしたところ,被告は,同年10月28日付けで,同異議申立てを棄却した。
イ 原告は,これを不服として,平成10年11月4日,国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成12年12月10日付けで審査請求を棄却する裁決をした。
ウ 原告は,これを不服として,平成12年3月10日,本件訴訟を提起した。
(6) 結 論 以上より,被告による本件処分は,前記のとおり前提事実に誤認があり,違法であるから,その取消しを求める。
2 被告(請求原因に対する認否)
請求原因(1)(2)(3)(5)は認め,同(4)は争う。
 3 被告(抗弁-本件処分の適法性)(1) 1架空原価の計上に当たること ア G株式会社の口座への本件10億円の入金は,甲の印鑑を用いて同人の名義でなされており,かつ,原告がそれを売上原価として計上したことなどの事情を総合すると,甲の意思に基づいてなされたものと認められ,よって,甲は,G株式会社の存在及びG株式会社の口座への本件10億円の入金の事実を知っていたと認められる。
イ しかし,本件10億円の入金先であるG株式会社は,設立以降,法人としての実体のない幽霊会社であり,本件10億円は,G株式会社に帰属するものではない。
ウ そして,原告は,本件10億円を売上原価として計上した以上,その具体的事情を容易に主張・立証することができる立場にあるにもかかわらず,G株式会社に対する本件10億円の支払の趣旨・内容及びG株式会社と本件契約の関係など具体的な事情について何ら主張せず,抽象的に本件10億円をJ・B・Iの三者への分配金であると主張するのみであり,かつ,自己の主張を裏付ける立証もしていない。よって,本件10億円は,原告及びG株式会社以外の第三者に帰属するものとも認められない。
エ そうすると,本件10億円は,G株式会社の口座に入金された後も,本件契約に係る売上原価とは認められず,原告に帰属しているものと認められるから,架空原価の計上に当たる。
(2) 2甲個人に対する貸付金に当たること
ア はじめに 甲は,実体のない幽霊会社であるG株式会社の口座の写しを所持しており,同口座に入金された本件10億円を自由に利用できたものと認められるところ,同人は,G株式会社の口座から本件10億円が出金された時期(平成2年6月15日から平成2年7月11日まで)と同時期ないし近接した時期に,株式,山林,ハワイの不動産等の高額資産を個人的に取得しており,その取得費用に本件10億円を流用したものと認められる。その詳細は,次のとおりである。イ Kの株式について
 甲は,Jと共に,平成2年6月29日,株式会社Kの株式(以下「Kの株式」という。)1600株を,総額14億1518万5588円で購入し,その半数の800株を取得した。
 よって,甲は,G株式会社の口座から本件10億円が出金されたのと同時期に,上記取得価額の半額である約7億円(実質的には,既払額8000万円を控除した約6億2000万円)の取得資金を必要としており,それを本件10億円から支出した可能性が極めて高い。
ウ d町の山林について
 甲は,和歌山県c郡d町972番ほか合計35万3025平方メートルの山林(以下「d町の山林」という。)を,平成2年1月ころから平成2年10月ころにかけて取得した。そのうち12万0763平方メートルは,G株式会社の口座から本件10億円が出金された期間に取得した。
 ところで,甲は,d町の山林を取得するに当たり,Mとの間で1坪7800円での買収委託契約を締結し,それと実際の買収価額との差額利益をMに保証することを約定しているが,かかる契約内容からすれば,甲のd町の山林取得費用は,1坪7800万円を下回ることはなく,上記山林取得費用は,全体で8億3442万2628円,本件10億円の出金と同時期に取得した12万0763平方メートル分に限っても,2億8543万9830円を下回らない金額であったと考えられる。
 よって,甲は,G株式会社の口座から本件10億円が出金されたのと同時期ないし近接した時期に,上記金額に相当する山林取得資金を必要としており,それを本件10億円から支出した可能性が高い。
エ ハワイの不動産について
 甲は,アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島ラハイナ所在のカパルア・ゴルフヴィラ(不動産)を購入し,平成2年12月14日付けでその購入代金7822万6551円をハワイに送金した。
 その時期とG株式会社の口座から本件10億円が出金された時期が近接していることからすれば,本件10億円の一部がハワイの物件の取得資金に使用された可能性がある。
オ まとめ
 以上のとおり,原告代表者である甲によって,合計10億円に相当する金員が,個人的に流用されたものであるから,本件10億円は,原告の甲個人に対する貸付金であると評価すべきである。
(3) 本件処分の根拠等 ア 所得税法等の規定
(ア) 源泉所得税の納税告知 居住者に対し国内において所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者は,その支払の際,その給与等について所得税を徴収し,その徴収した日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない(所得税法183条3項)。
 上記支払者が給与等の支払の際,所得税の源泉徴収を怠っていた場合でも,国は必ずその支払者から徴収する(所得税法221条)。
 源泉徴収による所得税が上記法定納期限までに納付されなかった場合において,税務署長が上記所得税を徴収しようとするときは,納税の告知をしなければならない(国税通則法36条1項2号)。
(イ) 不納付加算税の徴収 源泉徴収等による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には,当該納税者から,納税の告知に係る税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する(国税通則法67条1項)。イ 本件処分の適法性
(ア) 原告は,甲から貸付金である本件10億円の返済を受けておらず, かつ,同貸付に係る利息も徴していない。そうすると,原告は,甲に対し,本件1 0億円の貸付利息相当額(別表3の利率に基づく別表4記載の各金額)の経済的利 益(役員報酬)を供与したものと解され,これは,原告の甲に対する給与とみなす べきである。(イ) しかし,原告は,甲に対して,既に支給した役員報酬以外の,平成 5年7月12日から平成10年1月12日までの上記経済的利益について,原告が 徴収すべき源泉徴収に係る所得税を,法定納期限までに納付しなかった。そこで, 被告は,原告に対し,源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課 決定処分(本件処分)をした。(4) 結 論 以上より,被告の原告に対する本件処分(納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分)は,適法である。
4 原告(抗弁に対する認否,反論)
(1) 抗弁(1)(1架空原価の計上)について ア 認 否
抗弁(1)のうち,本件10億円の入金が甲の印鑑を用いて同人の名義でな されたこと,原告が本件10億円を売上原価として計上したことは認めるが,G株 式会社が実体のない幽霊会社であったことは不知,その余は否認する。イ 反 論 (ア) 原告は,本件解決金の分配を株式会社Cに委任し,甲の口座の開設から管理(預金払戻請求書の作成や預金通帳の所持等)に至るまで,全てを委ねていたので,本件10億円がG株式会社の口座に入金された平成2年6月13日当時,G株式会社の存在及び甲の口座からG株式会社の口座に本件10億円が入金された事実を全く知らなかった。
 よって,本件10億円は,甲の意思に基づいてG株式会社の口座に入金されたものではない。
(イ) また,原告は,本件10億円が,本件契約に係るJらへの分配金で あることを,Iの陳述書(甲4・「本件10億円のうち5000万円をG株式会社 の口座を管理していたLに支払い,残りの9億5000万円をJに渡した」)及び Jの証言(甲10・「本件10億円のうち6億円をJが受領し,BとIは2億円ず つ受領した」)を裏付けとして,具体的に主張している。(ウ) よって,本件10億円は,G株式会社の口座に入金された段階で, 原告に帰属するものでなくなっており,架空原価の計上に当たらない。(2) 抗弁(2)(2甲個人に対する貸付金)について ア 認 否抗弁(2)のうち,甲がG株式会社の口座の預金通帳の写しを所持していた ことは認めるが,G株式会社が実体のない幽霊会社であったことは不知,その余は 否認する。イ 反 論
(ア) G株式会社の預金通帳について G株式会社の口座の預金通帳は,Lが管理しており,甲が本件10億円を出金できる状況にはなかった。よって,甲が,本件10億円を個人的に流用したとの事実はない。
 (イ) Kの株式について
 Kの株式は,全てJの所有である。このことは,Jの証言及び甲が,同株式の取得に関し,平成2年1月11日に手付金8000万円を出捐したのみで,それ以外の資金を出捐していないことからも明らかである。よって,甲による株式取得資金と本件10億円との関連性はない。
(ウ) d町の山林について 甲がMとの間で締結した山林買収委託契約は,Mが土地買収に不慣れであったため,その後2,3か月して合意解除された。よって,甲が,被告主張のような山林取得資金を必要としていた事実はなく,甲による山林取得資金と本件10億円との関連性はない。
(エ) ハワイの不動産について ハワイの不動産の購入資金は,甲の個人口座(N銀行)にあった8000万円であるが,同口座は,G株式会社の口座開設日の1日前である平成2年6月7日に開設され,2億5150円の入金がなされていた。よって,甲によるハワイの不動産取得資金と本件10億円との関連性はない。
(オ) その他の反論主張 甲は,平成元年12月28日に5億9650万円の借入をしており,G株式会社の口座から本件10億円が初めて出金された平成2年6月15日の前日である同月14日現在で,合計2億8908万0240円もの預金残高を有しており,資金的に余裕があった。よって,甲による個人資産の取得と本件10億円との関連性は,そもそも存在しない。
(3) 抗弁(3)(本件処分の根拠等)のうち,ア(所得税法等の規定)は認める が,イ(本件処分の適法性)は争う。
 理由
第1 争いのない事実
請求原因(1)(原告-源泉徴収義務者),同(2)(本件処分に至る経緯), 同(3)(本件処分),同(5)(審査請求前置),抗弁(3)ア(所得税法等の規定)は, 当事者間に争いがない。第2 抗弁について
1 事実の認定
 前記争いのない事実及び証拠(甲4,9,10,乙1,5~19,21~224〔枝番を含む〕)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (1) 原告について 原告は,菓子の製造販売,不動産の売買及び仲介を業とする株式会社であり,甲を代表者とする同族会社である。 (2) 原告の本件解決金の受領ア 甲ら6名(同人,A株式会社,B,株式会社C,D株式会社,E株式会社)は,平成2年5月31日,乙株式会社との間で,本件各土地につき,次のような契約(本件契約)を締結した(乙1)。
(ア) 本件各土地の一切の解決金及び本件各土地周辺の甲ら6名に関する 紛争の解決金(本件解決金)を78億0331万円とする。(イ) 乙株式会社は,本件解決金78億0331万円を甲ら6名に支払う。
イ 乙株式会社は,平成2年5月31日,甲ら6名に対し,本件各土地代金1億9669万円及び本件契約に基づく本件解決金78億0331万円の合計80億円を支払い,甲(原告)には,そのうち22億2500万円が,保証小切手により支払われた(乙5,乙21の1~4,乙22)。
ウ 原告は,同日,自己に支払われた22億2500万円の保証小切手を現金化する目的で,株式会社CないしIに甲の口座を開設させ,同口座に22億2500万円を入金した(乙6,乙19,原告の平成12年10月17日付け準備書面2頁)。
(3) 本件10億円の入金・出金 ア 平成2年6月13日,甲の口座から,甲の印鑑を用いて本件10億円が出金され,G株式会社の口座に入金された(乙17,乙19,乙22)。イ その後,G株式会社の口座から,平成2年6月15日に5億円,同月18日に4億7000万円,同月29日及び同年7月6日に各500万円,同月11日に2000万円の合計10億円が随時出金された(乙10)。
ウ G株式会社は,昭和58年6月3日に設立されて以来,平成2年7月12日に,同じ商号で同一地に新たに設立されるまでの間,法人としての実体のない幽霊会社であり,同口座には上記ア・イの入出金以外に取引は存在しない(乙8,9)。
エ 甲は,G株式会社の口座の預金通帳の写しを所持している。
 (4) 甲による個人資産の取得ア はじめに
 甲は,G株式会社の口座から本件10億円が随時出金されたのと同時期ないし近接した時期に,次のとおり,株式,山林,ハワイの不動産などの個人資産を取得した。その詳細は,次のとおりである。
イ Kの株式について (ア) 甲は,Jと共に,株式会社Kの全株式1600株を総額14億1518万5588円で購入した(乙14)。
 (イ) その株式取得資金として,平成2年1月11日に甲によって8000万円が支払われ,平成2年6月29日に甲及びJによって5億円,7758万4014円及び7億5760万1574円の合計13億3518万5588円が支払われた(乙18)。
ウ d町の山林について (ア) 甲は,平成元年4月13日,和歌山県c郡d町に所在するゴルフ場用地の買収のため,Mとの間で,次のような契約を締結した(乙15)。a Mは,甲に対し,平成2年7月末日までに,甲が指定した用地を同人に引き渡す。
b Mは,甲に対し,土地取りまとめ価格を1坪7800円として,甲に引き渡す。
c 甲は,土地所有者と直接買収取引をして,1坪7800円と実際の買収価格との差額を生じた場合は,その差額をMに対して支払う。
 (イ) 甲は,平成2年1月ころから平成2年10月ころの間に,d町の山 林35万3025平方メートルを取得したが,そのうち12万0763平方メートルは,平成2年6月15日から平成2年7月11日の間に取得した。エ ハワイの不動産について
(ア) 甲は,アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島ラハイナ所在のカパルア・ ゴルフヴィラ(不動産)を購入した。(イ) その購入代金7822万6551円は,平成2年12月14日,甲 の個人口座(N銀行)から,同人の別の口座(O銀行)を経て,P銀行に送金され た。(5) 原告による売上原価への計上等 ア 原告は,平成4年6月1日,平成3年4月1日から平成4年3月31日までの間の事業年度につき,確定申告をした。その際,原告は,本件契約に係る本件解決金のうち,20億2500万円を売上として計上し,かつ,G株式会社の口座に入金された10億円を含む19億5500万円を売上原価として計上した(乙7,乙12)。
イ かかる原告の申告を受け,大阪国税局課税第二部資料調査第二課所属の税務職員Qらは,甲に対し,本件10億円の原価性について再三説明を求めたが,甲は何ら具体的な説明をせず,根拠となる資料の提出もしなかった。2 1架空原価の計上に当たるかについての判断 (1) 上記1の認定事実によれば,本件10億円は,原告に分配された本件解決金22億2500万円の一部であり,原告は,同金員を現金化するために甲の口座を開設した上,そのうち20億2500万円を本件契約に係る売上として計上し,さらにそのうち本件10億円を含む19億5500万円を本件契約に係る売上原価として計上している。
 このように,本件10億円は,一旦甲の口座に入金されて原告が受領したものであり,その帰趨は,本件契約の当事者である原告の利害に大きく関係する事柄である上,その金額も10億円と極めて多額であることからすれば,原告は,本件10億円が,いつ,誰に支払われるかについて,全く無関心であり,本件10億円を自己の知らないところで,他人(株式会社C)に勝手に処分させたとは考えにくい。
(2) また,本件10億円が,甲の口座から出金され,G株式会社の口座に入金 される際,甲の印鑑が使用されているが,およそ銀行取引をするに当たって自己の名義を他人に使用させ,かつ,自己の印鑑を安易に他人に使用させるとは通常考えにくい。本件は,10億円という多額の銀行取引であるから,なおさらである。
 そうすると,甲の口座からの本件10億円の出金は,全て甲の意思に基づいて行われたと考えるのが相当である。
 これに対し,原告は,本件10億円の出金は,甲の意思に基づいてなされたものではないと主張し,その裏付けとして,Iの陳述書(甲4)の存在を指摘するが,同陳述書の陳述内容は,その作成前後の先行処分に係る取消訴訟(以下「先行事件」という。)におけるIの証言(乙13,乙19)と全く矛盾するものである上,かかる供述の変遷について何ら合理的な説明もなされていない。かかる事情に加え,同陳述書の内容が,本件訴訟における原告の主張をそのまま書面化したものであることからすれば,Iの自発的な陳述ではない可能性もあり,同陳述書の内容を信用することができず,それに依拠する上記原告の主張も採用できない。(3) 以上からすれば,甲において,G株式会社の存在及び本件10億円がG株 式会社の口座に入金された事実を知らなかったとは,到底考えられない。(4) そして,本件10億円の入金先であるG株式会社は,設立以降ずっと,法 人としての実体のない幽霊会社であったことからすれば,本件10億円がG株式会 社に帰属するとは考えられない。(5) しかし,本件10億円が,G株式会社以外の第三者に帰属したと認める証 拠もない。
 すなわち,原告は,本件10億円を売上原価として計上している以上,その具体的内容(G株式会社に対する本件10億円の具体的な支払の趣旨や内容及びG株式会社と本件契約の関係等,具体的な支払の事情)を容易に主張・立証できる立場にあるにもかかわらず,上記認定のとおり,Qら税務当局の調査の際に,本件10億円の原価性について再三説明を求められたのに対し,具体的な説明をしていない。
 もっとも,本件訴訟において,原告は,本件10億円はJ・B・Iの三者に対する分配金であるとの抽象的な主張をし,その根拠としてIの陳述書(甲4)及びJの証言(甲10)の存在を指摘している。
 しかし,Iは「本件10億円のうち5000万円をG株式会社の口座管理の謝礼金としてLに支払い,残りの9億5000万円をJに渡した」旨陳述し,Jは「本件10億円のうち6億円を受領した」と証言するのであり,相互に矛盾しており,原告は,上記各々の陳述ないし証言の,原告主張に沿う部分のみを自己の主張の裏付けとして主張しているにすぎない。
 また,Iは,陳述書(甲4)において,本件10億円のうち5000万円はLに謝礼金として支払ったと陳述していたにもかかわらず,その後に実施された先行事件(控訴審)の証人尋問においては,そのような事実は知らないと証言し(乙19・3頁),また,9億5000万円をJに渡したと陳述していながら,同先行事件においては,Jに渡した9億5000万円はG株式会社の口座に入金された金とは関係ない(乙19・22~27頁・32~33頁),G株式会社の口座に入金された本件10億円のその後の処分状況は知らない(乙19・35頁)などと供述を著しく変遷させ,かつ,かかる供述の変遷について何ら合理的説明もないから,Iの陳述内容を信用することはできない。
 さらに,Jは,Iから6億円を預かった旨繰り返し証言し(甲10・2頁),9億5000万円を交付したとの原告の主張と全く矛盾しているから,これを原告の主張の裏付けと見ることもできない。
 よって,Iの陳述及びJの証言は,いずれも採用できず,したがって,本件10億円が第三者に帰属する旨の原告主張を裏付けるものとは認められない。(6) 以上より,本件10億円は,G株式会社の口座に入金された後も原告に帰 属するものであり,G株式会社の口座に入金された本件10億円は,本件契約に係 る原価とは認められないから,架空原価の計上に当たる。3 2甲個人に対する貸付に当たるかについての判断 (1) G株式会社の口座に入金された本件10億円について,原告が甲個人に対して貸し付けたものであるというには,本件10億円を甲が個人的に流用した事実が存在することが前提となる。
(2) ところで,甲が個人的に流用したというには,これを甲が何らかの形で使 用したことが積極的に立証されるか,少なくともそれを推認するに足る事実が立証 されることが必要であると解される。(3) これについて検討するに,まず,前示のとおり,G株式会社の口座に入金された本件10億円は,原告に帰属しており,同族会社である原告代表者甲は,原告の財産を自由に処分できる立場にあったこと,甲は,実体のない幽霊会社であるG株式会社の口座の預金通帳の写しを所持していたことからすれば,甲は,G株式会社の口座に入金された本件10億円を,自由に出金できる状況にあったものと認められる。
 これに対し,原告は,Iの陳述書(甲4)に基づき,甲がG株式会社の口座に入金された本件10億円を自由に出金できる状況になかった旨主張するが,同陳述書の内容が信用できないことは,前示のとおりであるから,原告の主張は採用できない。
(4) そして,本件10億円が随時出金されたのと同時期ないし近接した時期 に,甲は,Kの株式取得代金,d町の山林の買収代金及びハワイの物件の購入資金 を支払っている。そして,その金額は,次のとおり,ほぼ10億円に相当する。ア Kの株式について
 前記1で認定したとおり,甲が,Jと共に,平成2年6月29日,株式会社Kの全株式1600株を総額14億1518万5588円で購入していることからすれば,甲は,少なくとも全株式の半数である800株を取得したと推認できる。
 上記事実を前提とすると,甲の株式取得価額は,上記買収価格14億1518万5588円の半額である約7億であると推測され,平成2年6月29日の時点で既に支払済みの8000万円との差額である約6億2000万円の資金が必要であったものと考えられる。
 そして,上記約6億2000万円の支払が,本件10億円の出金と同時期になされていることからすれば,Kの株式取得代金約6億2000万円は,本件10億円から支出されたと推測するのが合理的である。
 これに対し,原告は,Kの株式取得に係る資金として8000万円しか出捐しておらず,本件10億円の一部ではないと主張する。
 しかし,この主張は,Iの証言(乙19・43頁)とも矛盾するし,Kの株式取得代金は合計14億1518万5588円であるのに,その株式の半数をわずか8000万円で取得することは極めて不自然であるから,採用することができない。
 また,原告は,Jが,Kの株式は全て自己の所有であると証言しているとして,これに基づく主張をするが,同人の証言は,自己が取得した具体的金額,ゴルフ場の買収資金の出捐関係すら記憶にないと証言するなど,全体的に曖昧・不明確な供述に終始しており(甲10・58~62頁),信用できない。イ d町の山林について
 前記1の認定によれば,甲は,Mとの間で,d町の山林35万3025万平方メートル(10万6977.26坪)を,1坪7800万円で買収することを 委託する契約を締結し,Mに対して,同金額と実際の買収金額との差額利益を保証 する約定を交わしている。かかる契約の内容からすれば,甲がd町の山林を買収するに当たって支 払った山林取得費用は,1坪7800円を下回ることはなく,その結果,d町の山 林全体の取得代金は,8億3442万2628円(10万6977.26坪×780 0円)を下回らないと考えられる。また,そのうち,本件10億円の出金された平成2年6月15日から平 成2年7月11日の期間に取得された12万7063平方メートル(3万6594. 85坪)分の山林の買収代金は,上記と同様の理由により,2億8543万983 0円(3万6594.85坪×7800円)を下回らないと考えられる。
 そして,d町の山林の所有権移転時期は,いずれも平成2年1月から同年10月までであり,その取得費用(少なくとも8億3442万2628円)は,いずれも上記期間内に随時支払われたと解されるが,甲がG株式会社の口座から本件10億円を出金したのは,上記期間中ないしそれに近接した時期であるから,d町の山林取得資金(12万7063平方メートル分の取得資金,及びその余の同山林の取得資金の少なくとも一部)については,本件10億円から支出されたものと推認できる。
 これに対し,原告は,Mとの買収委託契約は合意解除されているので,被告の主張は成り立たない旨主張するが,同契約解除の裏付けはないので,原告の主張は採用できない。
ウ ハワイの不動産
 ハワイの不動産の購入代金が,現地に送金された時期(平成2年12月14日)と,本件10億円がG株式会社の口座から出金された時期(平成2年6月15日から平成2年7月11日)とが近接していること,上記Kの株式とd町の山林(12万7063平方メートル分)の合計取得代金と本件10億円との差額金額が,ハワイの不動産の購入代金に近似していることからすれば,上記差額金がハワイの物件の取得資金として使用された可能性がある。
 これに対し,原告は,ハワイの不動産の取得資金の出所が,自己の口座に平成2年6月7日に入金された2億5150円であると主張し,その取得資金が本件10億円の一部であることを否定する。
 しかし,平成2年6月7日に入金された上記2億5150円と,その約半年後に出金されたハワイの不動産の取得資金8000万円とが同一のものであるとの立証はなく,原告の主張をもって,直ちにハワイの不動産の取得資金が本件10億円と無関係であるとは認められないから,原告の主張は採用できない。エ その他の原告主張の検討
 原告は,甲には,借入金5億9650万円により,G株式会社の口座から本件10億円が初めて出金された平成2年6月15日の前日14日現在で,合計2億8908万0240円もの預金残高があり,資金的に余裕があったとして,本件10億円と上記個人資産の購入資金との関連性を否定する。
 しかし,上記借入金の裏付けはなく,かつ,上記甲個人の口座から,上記アないしウの個人資産購入の代金支払に対応する出金があったとの立証もないので,原告の主張は採用できない。
(5) 以上によれば,甲は,G株式会社(実体のない幽霊会社)の口座から本件 10億円が出金されたのと同時期ないし近接した時期に,Kの株式,d町の山林及 びハワイの不動産という高額資産を個人として購入しており,本件10億円は,K の株式取得資金(約6億2000万円),d町の山林取得資金(特に,12万70 63平方メートル分の約2億8500万円),及びハワイの不動産の取得資金(8 000万円)等に充てられた蓋然性が高いというべきであり,甲個人の用途に使用 されたものと推認できる。(6) そして,本件10億円は,原告に帰属するものでありながら,原告代表者 甲が個人的に使用しているのであるから,本件10億円は,原告の甲個人に対する 貸付金であると評価することができる。4 まとめ (1) 以上の判断を前提とすると,原告は,未だ甲から貸付金である本件10億円の返済を受けておらず,かつ,同貸付に係る利息も徴していないのであるから,原告は,甲に対し,本件10億円の貸付利息相当額(別表3の利率に基づく別表4記載の各金額)の経済的利益(役員報酬)を供与したと解され,これは,原告の甲に対する給与とみなすべきである。
(2) そして,原告は,甲に対して既に支給した役員報酬以外の,平成5年7月 12日から平成10年1月12日までの上記経済的利益について,原告が徴収すべ き源泉徴収に係る所得税を,法定納期限までに納付しなかったのであるから,被告 が原告に対してした源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決 定処分は,いずれも適法である(なお,以上の源泉徴収につき所得税法183条1 項,185条1項1号,221条,納税告知処分につき国税通則法36条1項2 号,不納付加算税賦課決定につき同法67条1項各参照。)。(3) 以上より,被告の原告に対する本件処分(納税告知処分及び不納付加算税 賦課決定処分)は,適法であるから,原告の請求は理由がない。第3 結語
 以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 神戸地方裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 紙 浦 健 二
裁判官 中 村 哲
裁判官 秋 田 志 保
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