主文
1 被告は,原告に対し,金9271万9580円及ひこれに対する平成11年7月4日から
支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決の第1項及ひ第3項は,仮に執行することかてきる。事 実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告は,原告に対し,金1億1063万8294円及ひこれに対する平成1 1年7月4日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者 ア 被告は,平成11年7月当時,福島県原町市てA産婦人科医院(以下「被 告医院」という。)を経営していた医師てある。
 イ 原告は,平成11年7月2日,被告医院て出生した。その母はBてあり, その父はCてある。(2) 診療経過
ア 分娩前 (ア) 平成10年11月14日,Bは,被告医院を受診し,妊娠したこと, 出産予定日は翌年7月18日てあると診断された。
 (イ) 平成11年5月22日(以下,月日のみの表示は,平成11年を意味 する。),Bは, 少量の破水かあったため,被告医院に入院し,同月24日退院した。 イ 分娩日 (ア) 7月1日,Bは,腹部の張りか強かったため,被告医院へ行き,翌2 日午前零時10分,そのまま入院した。 (イ) 7月2日午後1時ころから,Bに点滴か開始された。 (ウ) 同日午後5時30分ころ,Bは,D婦長から人工破膜させた旨告けら れた。(エ) 同日午後6時27分,Bは,原告を出産した。 ウ 7月3日(生後1日目) 原告は,7月3日午前11時ころ,新生児室からBの病室に移され,午後8時こ ろまて,Bの病室に在室した。
エ 7月4日(生後2日目) (ア)a 7月4日午前11時ころ,Bは,看護婦(当時の呼ひ方に従う。以 下,同し。)から, 「赤ちゃんの体重かかなり減ったのて今日は病室に連れて来られない。」との連絡 を受けた。
 b また,このころ,新生児看護日誌(乙1の6枚目)等によっても,原 告には,「哺乳力不良」「脱力的」の症状かあった。 (イ) 同日午後零時30分ころ,新生児看護日誌(乙1の6枚目)によって も,原告には,「四肢冷却(+)」の症状かあった。
(ウ) 同日午後1時ころ,Bの祖父母か被告医院を訪れたことから,Bは, 看護婦に「せっか く家族か来たのて,少しの間たけても病室に連れて来られないか。」と尋ねた。こ れに対し,看護婦 は,「炎症反応か出ているのて保育器に入れていますから,無理てす。」と答え た。
 (エ)a 同日午後1時30分ころ,B及ひ家族らかナースステーションに行 くと,看護婦はお らす,ナースステーション隣の新生児室にも誰もいなかった。Bか看護婦を呼ふ と,看護婦は,新生 児室のカーテンを開けて,保育器に入っている原告をカラス越しに見せてくれた。 このとき原告は,点滴等は何もされていなかった。 b また,このころ,新生児看護日誌(乙1の6枚目)によっても,原告 には,「全身色不良」「感染症ヘヒーの様の皮ふ色」の症状かあった。 (オ)a Bか祖父母か帰るのを見送った後の同日午後1時40分ないし50 分ころ,Bか新生 児室のカラス越しに原告を見ていると,原告の身体か後ろに反り返って,顔かころ んと反対側を向い てしまった。この動作は,けいれんを起こしたためと思われる。 b また,このころ,新生児看護日誌(乙1の6枚目)によっても,原告 には,「軽いけいれん様発作あり」「腹満(+)」かあった。 (カ) 同日午後2時10分ころ,Bは,ミルクのためナースステーションに 行ったか,看護婦から,「ミルクはもう終わりました。」と言われた。 (キ) 同日午後4時ころ,Bかナースステーションに行くと,身体全体かミ カン色になり,目 を見開いたまま瞬きもしないてくったりとした原告かおり,Bは,この時初めて, 原告か点滴を受けているのを目撃した。 (ク) その際,D婦長は,Bに対し,原告か細菌感染したらしい旨説明し た。Bは,新生児集 中治療室(以下「NICU」という。)への搬送を頼んたか,D婦長は,ますは被 告の説明を聞くように説得した。 (ケ) 同日午後6時前後ころ,被告は,B及ひCに対し,原告か細菌に感染 したこと,5月2 2日に破水した際に感染した可能性かあること,NICUを手配しているかとこも 一杯てあること,転院の準備をして待機してほしい旨を説明した。 (コ) その後,被告から,Bらに対し,転院先か公立相馬総合病院のNIC Uに決まったとの 連絡かあり,同日午後6時20分ころ,原告は救急車て被告医院を出発した。 (サ) 同日午後6時55分ころ,原告は,公立相馬総合病院に到着した。 (シ) 同日午後11時ころ,公立相馬総合病院のH医師は,Bらに対し,原 告か細菌に感染し ており,髄膜炎及ひ敗血症の疑いかあること,その時点ての救命可能性は5分5分 てあること,助か ったとしても約90%の確率て重度の後遺症か残る見込みてあることを説明した。 (3) 原告の病名・後遺症 ア 原告の7月4日の症状は,B群溶連菌による早発型敗血症及ひ髄膜炎によ るものてある。 イ 原告には,脳性麻痺,水頭症,重度脳機能障害及ひ精神発達遅滞等の後遺 症か残った。(4) 被告の過失
ア 新生児の敗血症・髄膜炎
(ア) 敗血症とは,主に細菌による感染症か進展し,重篤な全身所見を呈し た状態をいう。初 期には高熱,過呼吸かみられ,皮膚は温かく,血圧はやや低下し,頻脈を呈する。
 この時期にうまく 治療か行われないと,重篤な障害か進行する。敗血症には,出生後3日以内に発症 する早発型とそれ 以降に発症する遅発型かある。 (イ) 髄膜炎とは,頭蓋部分の硬膜を除く 軟膜,クモ膜の炎症をいう。無菌性髄膜炎と細菌性髄膜炎かある。
イ 観察義務及ひ転医義務
 出産直後の新生児を預かる医師としては,次の点か認められれは,敗血症を疑い,速やかにNIC
Uを有する施設に新生児を転医させ,適切な治療を受けさせるへき義務かある。1 母体か分娩前に破水した場合
2 発熱あるいは低体温を呈する場合
 3 運動不活発,哺乳力低下,皮膚色不良,腹部膨満及ひ「なんとなくおかしい, いつもと違う」等の不定症状か見られた場合
4 低出生体重児て無呼吸発作か頻発した場合
 5 黄疸増強,出血斑及ひ肝腫大等か見られた場合 ウ 本件における観察義務及ひ転医義務 (ア) 前記(2)の事実,特に,Bは分娩前に破水していた事実,並ひに新生児 看護日誌(乙1 の6枚目)に記載された「哺乳力不良」(午前11時30分),「四肢冷却 (+)」(午後零時30 分),「全身色不良」「感染症ヘヒーの様の皮ふ色」(午後1時30分),「腹満 (+)」「軽いけ いれん様発作あり」(午後1時40分)の症状によれは,原告には,遅くとも7月 4日午前には,敗 血症を疑う症状か現れており,同日午後1時30分には,敗血症と確定診断をする ことかてきる症状か現れていた。
(イ) したかって,被告は,原告の症状を観察し,遅くとも7月4日午後1 時30分には, 原告をNICUを有する施設に転医させ,適切な治療を受けさせるへき義務かあっ た。エ 義務違反 (ア) ところか,被告は,原告の症状を十分観察しなかったため,哺乳力低 下,皮膚色不良, 「なんとなくおかしい,いつもと違う」等の敗血症を疑わせる不定症状を看過し, 同日午後1時30 分以降も午後5時40分ころまて,福島県立医科大学(以下「医大」という。)小 児科に電話をする なとして原告の転医先を探すことをせす,漫然と原告を放置した。
 (イ) 被告は,同日午後2時に医大に電話をした旨主張し,それを裏付ける 証拠として,その 旨か記載された新生児看護日誌(乙1の6枚目)を提出するか,被告か医大に電話 をしたのか同日午 後5時40分ころてあることは,医大小児科のE医師の証言等により明らかてあ り,被告は,新生児看護日誌の上記部分を改さんしたものてある。
オ まとめ よって,被告は,不法行為に基つき,原告に生した後記損害を賠償する義務かあ る。(5) 因果関係 ア 7月4日午後1時30分の段階て速やかに転医措置か執られていれは,被 告は,転医先にお いて,速やかに標準的な治療(B群溶連菌(GBS)を目標としたアンヒシリンの投与等)か受ける ことか可能てあったものてあり,原告に前記(3)イの後遺症か残ることはなかった。
 イ(ア) 被告は,7月4日午前中から感染症を疑い,必要な治療を開始した旨 主張するか,否認 する。前記(4)エ(イ)の医大への電話の点に関する改さんに加え,(イ)以下の事実に よれは,被告は, 午後4時ころまて何ら治療を行っていないものてあり,仮に投薬等の治療か一部行 われたとしても, その時刻をさかのほらせて主張しているものといわさるを得ない。 (イ) 起訴前の証拠保全の検証調書によれは,検証当時の「新生児指示及ひ 処置簿」の7月3 日及ひ4日分には,7月4日の詳しい治療経過は記載されていないところ(155 ~156丁),被 告か提訴後に証拠として提出したそれ(乙2添付2)には,上記検証調書のものに はない記載かある。この付加された部分は,改さんされたものてある。 (ウ) 婦長メモ(乙A10)は,原本の体裁,その提出経過の不自然さ,書 面相互の内容の食い違い等からして,後日作成されたものてある。 (エ) 被告は,7月4日午前11時30分ころ,原告を治療するため,原告 を収容した保育器 をナースステーションに移動した旨主張するか,写真(甲31)によれは,同日午 後1時30分時点 においても,原告の収容された保育器は新生児室に置かれていたものてある。 ウ 後記4(2)のとおり,被告か因果関係を否認することは,許されるへきては ない。(6) 損害
ア 逸失利益 2580万3436円 (ア) 平成10年賃金センサスによる産業計企業規模計女子学歴計全年齢平 均年収は,341万7900円てある。
 (イ) 年5分の割合により中間利息を控除するために適用すへきライフニッ ツ係数は,67年 間の労働能力喪失期間のライフニッツ係数(19.2390)から,18歳まての 労働能力喪失期間の係数(11.6895)を差し引いた7.5495てある。 (ウ) 原告は,現在,痙性四肢麻痺,けいれん発作,視覚障害,嚥下障害及 ひ体温調整機能障 害等により,耳かある程度聞こえる,ミルクを飲める,少し泣ける以外は何もてき す,寝たきりて自 力ては全く動けない状態てあるから,原告の労働能力喪失率は,100%てある。 (エ) よって,逸失利益は2580万3436円(341万7900円× 7.5495)となる。
イ 慰謝料 3200万円 後遺障害の重大性等を考慮すれは,慰謝料としては3200万円か相当てある。
 ウ 介護費用 4277万6832円 (ア) 原告は,上記ア(ウ)のとおり,24時間の介護か必要な状態にある。 (イ) 介護費用は1日当たり6000円か相当てあるから,その年額は21 9万円(6000円×365日)となる。 (ウ) 原告の平均余命77年間に対応するライフニッツ係数は19.532 8てある。 (エ) よって,介護費用は4277万6832円となる(219万円×1 9.5328)。エ 弁護士費用 1005万8026円 (ア) 原告は,本件訴訟の提起及ひ追行を原告代理人らに委任した。 (イ) 弁護士費用は,上記アないしウの損害額の1割程度てある1005万8026円か相当
てある。
オ 損害額合計 1億1063万8294円
(7) 結論 よって,原告は,被告に対し,不法行為に基つき,損害金1億1063万829 4円及ひこれに対 する不法行為日てある平成11年7月4日から支払済みまて民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)(当事者)はいすれも認める。
(2) 同(2)(診療経過)
ア 同ア(分娩前)はいすれも認める。
 イ 同イ(分娩日)のうち,(ア),(イ),(エ)は認め,(ウ)は否認する。B は,午後2時30分 に高位破水し,被告か人工破膜を行ったのは午後4時40分てある。 ウ 同ウ(生後1日目)は認める。エ 同エ(生後2日目)について (ア) 同(ア)aは不知,bは認める。(イ) 同(イ)は認める。
(ウ) 同(ウ)は不知。
 (エ) 同(エ)aは否認する。原告を午前11時30分に保育器に収容後,そ の保育器は,ナースステーション中央奥に置かれていた。bは認める。 (オ) 同(オ)aは不知又は否認する。新生児は,反対側に顔を向ける動作を 日常的に行うもの てあり,原告主張の症状はけいれんの症状てはない。bは認める。 (カ) 同(カ)は否認する。 (キ) 同(キ)は否認する。被告は,原告に対する輸液を午前中から継続して 行っている。(ク) 同(ク)は否認する。 (ケ) 同(ケ)は否認する。被告は,Bに対し,午後1時45分ころ,原告を 転医させることを既に話した。
(コ) 同(コ)は認める。
(サ) 同(サ)は認める。
(シ) 同(シ)は不知。
オ 被告の主張 (ア) 被告の診療経過に関する主張は,別表のとおりてある。
 (イ) 被告は,7月4日午前11時45分ないし50分ころ,血液検査結果 から炎症反応かあ ることを知り,同日午後1時ころ,血液検査結果か出揃ったことから,敗血症を疑 ったものてある。(3) 同(3)(原告の病名・後遺症)は認める。 (4)ア 同(4)ア(新生児の敗血症・髄膜炎)は認める。 イ 同イ(観察義務及ひ転医義務)は認める。 ウ 同ウ(本件における観察義務及ひ転医義務)は否認する。 エ 同エ(義務違反)は否認する。 被告は,同日午後1時30分,いわき共立病院へ原告の受入れを打診したか,満 床を理由に断られ たため,午後2時ころ,医大に電話て連絡し,医大から,「空床かないのて,他を 探すから待つよう に。」との指示を受けたか,その後連絡かなかったため,午後5時20分,医大に 電話て催促したと ころ,午後6時,医大から公立相馬総合病院を転医先として指示されたものてあ る。オ 同オ(まとめ)は否認する。 (5)ア 同(5)(因果関係)は,いすれも否認する。イ 被告の主張 (ア) 被告は,別表のとおり,原告の敗血症,髄膜炎及ひショックに対する 適切な治療を行ったから,原告の後遺症と被告の行為との間に因果関係はない。 (イ) また,原告の罹患した早発型敗血症は,その致死率か50~85%と 非常に高く,また, 新生児髄膜炎は,神経学的後遺症か20~50%の割合て発症するなと,予後か非 常に悪いから,被 告か観察義務及ひ転医義務を尽くしたとしても,原告の後遺症の発症を避けること はてきなかった。(6) 同(6)(損害)は否認する。
3 抗弁(過失相殺の類推適用) 仮に,被告に過失かあったとしても,原告には,B群溶連菌(GBS)による敗 血症及ひ脳髄膜炎 という素因か存在し,その予後は前記2(5)イ(イ)のとおり非常に悪いものてあるか ら,過失相殺の規定を類推適用して,損害賠償額を減額すへきてある。
4 抗弁に対する認否
(1) 認否 抗弁は否認する。仮に,過失相殺の類推適用を認めるとしても,敗血症から髄膜 炎を併発した小児 のうち,死亡あるいは後遺障害を残す可能性か16~26%てあることに照らし, 損害賠償額の減額率は極力低く抑えられるへきてある。
(2) 時機に後れた攻撃防御方法等 被告か,本件において因果関係を争ったり,過失相殺の類推適用を抗弁として主 張することは許されない。
ア 時機に後れた攻撃防御方法 被告は,本訴において,看護婦に指示して7月3日分と同月4日分の「新生児指 示及ひ処置簿」を 改さんし,搬送手続の開始か午後2時てあった旨主張していたか,この主張か虚偽 てあることか明ら かな形勢になると,今度は,午後3時以前に公立相馬総合病院に原告を転送するこ とかてきたとして も,原告の後遺症を予防することは不可能てあったと因果関係を否認し,また,過 失相殺を類推適用 して損害額を減額することを主張するに至ったか,このような主張は,時機に後れ た攻撃防御方法及 ひ訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)の趣旨に反するものとして却下されるへきて ある。イ 証明妨害 被告か,当初,因果関係を積極的に争わす,過失を否定する意図て診療記録を改 さんし,虚偽の主 張をした場合,これを証明妨害かあったものとみなし,同法224条2項,3項を 類推適用して,因果関係に係る原告の主張をそのまま認めるへきてある。
理由
第1 請求原因について
1 当事者について
 請求原因(1)は,当事者間に争いかない。
2 診療経過について (1) 各項に掲記の証拠及ひ弁論の全趣旨によれは,以下の事実か認められる(争 いのない事実を含む。)。
ア 分娩前 (ア) 平成10年11月14日,Bは,被告医院を受診し,妊娠したこと, 出産予定日は翌年7月18日てあると診断された。
(争いのない事実) (イ) 5月22日,Bは,少量の破水かあったため,被告医院に入院し,同 月24日退院した。(争いのない事実)
イ 分娩日 (ア) 7月1日,Bは,腹部の張りか強かったため,被告医院へ行き,翌2 日午前零時10分,そのまま入院した。
(争いのない事実) (イ) 7月2日午後1時ころから,Bに対し,陣痛促進剤の点滴か開始され た。(争いのない事実,弁論の全趣旨) (ウ) 同日午後2時30分ころ,Bは高位破水し,同日午後4時40分,被 告は人工破膜を行った。
(甲9,乙2,被告本人) (エ) 同日午後6時27分,Bは,自然分娩により,原告(女児)を出産し た。在胎週は37週5日,体重は2630クラムたった。
(争いのない事実,甲9,乙1)
ウ 7月3日(生後1日目) 原告は,7月3日午前11時ころ,新生児室からBの病室に移され,午後8時こ ろまて,Bの病室に在室した。
(争いのない事実)
エ 7月4日(生後2日目) (ア) 7月4日,原告は,午前2時,午前5時及ひ午前8時と3時間置きに 哺乳を受けたか,それらの時刻には哺乳力に問題はなかった。
(乙1の5枚目) (イ) 午前11時ころ,F看護婦か原告に哺乳したところ,哺乳力か不良て あった。F看護婦 は,このことを被告に連絡し,保育器に収容すること及ひ血液検査のための採血を 指示されたため, 同日午前11時30分ころ,原告を保育器に収容するとともに,採血した。
 そのため,原告は,この日Bの病室に連れて来られなかった。 (原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。),被告本人,弁論の全趣旨) (ウ) 午後1時ころ,Bの祖父母かお見舞いに訪れたため,Bは,看護婦 に,「家族か来たの て,少しの間ても病室に連れて来られないか。」と尋ねたところ,看護婦は,「炎 症反応か出ているのて保育器に入れていますから,無理てす。」と答えた。 したかって,遅くとも午後1時まてには,CRPか2+との検査結果か出てい た。(乙1の9枚目,原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。)) (エ) 午後1時30分ころ,Bは,祖父母を連れてナースステーションに行 ったか,そこには 看護婦はおらす,ナースステーション隣の新生児室にも誰もいなかった。Bか呼ひ かけると,看護婦 か奥から出てきて,新生児室のカーテンを開け,保育器に入っている原告をカラス 越しに見せてくれ た。原告の祖父は,この時,保育器に入っている原告の写真(甲31)を撮影し た。 この時,原告か点滴されていたか否かは不明てある。 (甲31,原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。))(オ) Bは,祖父母か帰るのを見送った後の午後1時40分ないし50分こ ろ,カラス越しに新生児室の原告を見ていると,原告の身体か後ろに反り返って,顔かころんと反対 側を向いてしまった。この動作は,けいれんを起こしたためてある。 (原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。),弁論の全趣旨) (カ) 午後2時10分ころ,Bは,原告のミルクのためナースステーション に行ったか,看護婦から,「ミルクはもう終わりました。」と言われた。 (原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。)) (キ) 午後4時ころ,Bかナースステーションに行くと,原告は,身体全体 かミカン色になり,目を見開いたまま瞬きもしないてくったりとしていた。 この時,原告は,点滴を受けていた。 (原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。)) (ク) その時,D婦長は,Bに対し,原告か細菌感染したらしい旨を説明し た。 Bは,原告をNICUのある施設へ搬送してくれるよう頼んたか,D婦長は,ま すは被告の説明を聞くように説得した。
(原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。)) (ケ) 午後5時40分ころ,被告は,医大小児科のE医師に電話をし,原告 を医大のNICU て受け入れてくれるよう初めて要請したか,満床てあるとの回答たったため,他の 病院のNICUを探してくれるよう依頼した。
 同日午後6時07分,E医師は,被告に対し,公立相馬総合病院から受入れの了 承か得られた旨を電話て連絡した。
(甲18,20,証人E) (コ) その間の午後6時ころ,被告は,B及ひ駆けつけてきたCに対し,原 告か細菌に感染し たこと,5月22日に破水した際に感染した可能性かあること,NICUを手配し ているかとこも一 杯てあること,転院の準備をして待機してほしい旨を初めて説明した。
 (原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。)) (サ) 午後6時20分ころ,原告を乗せた救急車は,公立相馬総合病院へ向 け出発し,午後6時55分ころ,同病院に到着した。
(争いのない事実) (シ) 午後11時ころ,公立相馬総合病院のG医師は,Bらに対し,原告は 細菌に感染してお り,髄膜炎及ひ敗血症の疑いかあること,その時点ての救命可能性は5分5分てあ ること,助かった としても約90%の確率て重度の後遺症か残る見込みてあることを説明した。
 (原告法定代理人B(甲1,甲27を含む。)) (2) 被告の供述等の信用性についての判断 上記認定に反する被告本人尋問の結果(乙2,A5ないしA9,A11を含む。 以下,同し。)の一部は,次の理由により,信用することかてきない。
ア 医大への依頼時間 (ア) 被告は,7月4日午後2時ころ,医大に電話て連絡し,医大から, 「空床かないのて, 他を探すから待つように。」との指示を受けたか,その後連絡かなかったため,午 後5時20分,医 大に電話て催促したところ,午後6時,医大から公立相馬総合病院を転医先として 指示された旨主張する。
 (イ) しかしなから,被告の主張に沿う乙1の6枚目及ひ被告本人尋問結果 等は,(ウ)以下の理由により,到底採用することかてきす,他に上記認定を覆すに足りる証拠はな い。 (ウ) 医大ては,医大のNICUへの受入要請や他のNICUの探索依頼の 受付簿を作成して はいないか,医大及ひE証人は,7月4日午後2時ころに被告から他のNICUの 探索依頼等を受け ていないことを,当時の記憶及ひ市外発信通話票に基つき,明確に回答及ひ証言し ているものてある(甲18,20,証人E)。 (エ) 被告は,午後5時20分まて医大に催促をしなかった理由として,開 業医の立場からす ると,医大とトラフルを起こすことはてきない旨を供述するか,被告の主張する当 時の原告の重篤な 症状を考慮すると,被告か供述する催促をしなかった理由は,到底納得することか てきるものてはない(医大の回答(甲36の2)参照)。 (オ) 被告は,午後1時30分ないし45分ころ,Bに対し,いわき共立病 院や医大小児科の NICUへの転医を説明した旨主張するか,この時刻にそのような説明かあったこ とは,原告法定代 理人Bか明確に否定しているところてある(原告法定代理人B(甲1,甲27を含 む。))。イ 保育器の設置場所 (ア) 被告は,原告を7月4日午前11時30分に保育器に収容後,その保 育器は直ちにナー スステーション中央奥に置いた旨主張し,原告か提出する写真(甲31)もナース ステーションて撮影されたものてある旨主張する。 (イ) しかしなから,甲31(写真)を甲56(被告医院内を撮影したヒテ オテーフ)並ひに 甲57及ひ58(ナースステーション内等の写真)と対比すれは,甲31の背景の 右半分は,光量の 関係て茶色に見えるものの,新生児室のヒンク色の壁てあると認めることかてき, 左半分は,手洗い 用の洗面器て開の位置に止められているトアてあることか認められる。他方,被告 主張のとおり,甲 31をナースステーションのトア及ひ戸棚を背景としたものと理解しようとする と,背景の左半分と 右半分の境は,戸棚の縦板部分かあるため,一直線とはならないはすてあるのに (甲57写真1),甲31の背景は一直線となっている。 (ウ) したかって,被告の主張に沿う被告本人尋問の結果の一部は,到底採 用することかてきす,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ カルテの記載等 (ア) 被告は,午前中からヘンマリンの投与等適切な治療を行った旨主張す る。
 (イ) しかしなから,7月4日の搬送時に作成され,改さんの余地か比較的 少ないと考えられ る公立相馬総合病院に対する診察情報提供書(乙1の8枚目)には,「現在の処 方」の欄かあり,搬 送に当たっては,それまての投薬経過か重要な情報てあると考えられるのに,との ような抗生剤か, との時刻に,との程度の量投与されたのかについての記載は一切ない。 (ウ) 新生児指示及ひ処置簿の7月4日欄(乙2添付2)のうち,「点滴施 行 クヘース収容 採血 敗血症,髄膜炎の疑いにて,相馬公立へ転送する」以外の抗生剤の投与時 間,量等の記載は,証拠保全手続による検証(平成12年6月29日)及ひ本訴提訴(平成13年2月8日)後の平成1
3年3月上旬,F看護婦によって書き加えられたものてある(証拠保全記録156丁,乙A3)。
 被告は,この書き加えは被告に無断てされたものてある旨供述するか,医療過誤訴訟の提起を知っ
た後に,そのような記載か院長に無断て行われることは通常あり得す,この点の被告本人尋問の結果
の一部は,到底採用することかてきない。
 (エ) 診療録の続用紙による7月4日欄の記載(乙1の6枚目)には,ヘン マリン等か午前中に投与されたことを示す記載かない。 (オ) 被告は,新生児看護日誌(乙1の6枚目)の記載の基となったメモと して,D婦長のメ モ(乙A10)を提出するか,そのメモは証拠保全時に検証の対象として記録され ていないこと,本 訴においても新生児看護日誌(乙1の6枚目)の信用性か訴状自体て指摘されてい たにもかかわらす, 弁論終結か近くなって提出されていることからすると,7月4日当時に作成されて いたものかとうか多大な疑問か残り,採用することはてきない。 (カ) 診療録の新生児看護日誌の7月4日欄(乙1の5枚目)には,午後2 時30分時点て記 載されたという原告の症状及ひ投薬経過の記載かあるか,被告かそれまてに投与し たと主張する薬剤 と今後投与する薬剤とか雑然と,しかも被告か主張する投与の順番と異なって記載 されていること( 被告本人(11頁)),及ひ診療録の他の部分に,医大への依頼時間について嘘の 記載かあること( 前記のとおり)等の事情にかんかみると,投薬経過等か正確に記載されたものと認 めるには多大な疑 問か残る。仮に,その内容か一部正しいものてあるとしても,その内容は,午後遅 くなって原告の症 状の急変に気付き,急きょ投与を開始した抗生剤を時間をすらして記載した可能性 か高いといわなけれはならない。
(3) 認定事実のまとめ ア 前記(1)に認定の事実によれは,被告は,7月4日午前11時過きに看護婦 から原告の哺乳 力不良の報告を受け,保育器収容,採血の指示をしたこと,原告には,敗血症及ひ 髄膜炎を疑わせる 症状か現れていたこと,しかし,被告は,治療の面においては,同日午後3時ころ まて,抗生剤の投 与等の措置を執らなかったこと,午後3時ころになって原告の症状に気付き,自分 て治療しようと努 めたか,手に負えなくなり,午後5時40分ころ,NICUの探索を医大に依頼し たものと認めるへきてある。
 イ 付言すると,被告か7月4日午前中からヘンマリン等の投与を始めていた 可能性もないては ない。しかしなから,被告は,前記のとおり,医大へのNICUの探索依頼時期に つき虚偽の事実を 主張し,それに合わせて診療経過を認定する基本的な資料てある診療録等に虚偽の 記載をしているも のてある。しかも,診療録等における抗生剤の投与の時期を示す記載も,本訴提起 後に記載されたり (乙2添付2),午前中に投与されたものと認定するには疑問か残るような記載 (乙1の5枚目)にととまるものてある。このような証拠のみては,当初から一貫している原告法定代理人Bの供述に反
し,被告のヘンマリン等の投与時期に関する供述か信用することかてきるものと認めることは到底て
きないものてある。
3 原告の病名・後遺症について 原告の7月4日の症状は,B群溶連菌による早発型敗血症及ひ髄膜炎によるもの てあること,並ひ に原告には,脳性麻痺,水頭症,重度脳機能障害及ひ精神発達遅滞等の後遺症か残 ったことは,当事者間に争いかない。
4 被告の過失について
(1) 敗血症等の診断及ひ治療について
ア 敗血症 敗血症は,体内に感染した病原体か,感染局所の病巣の進展に伴って持続的に流 血中に侵入し,病 原体並ひにそれらか産生する毒素及ひ代謝産物によって宿主に全身的な影響を及ほ し,放置すれは死に至る疾患てある。
 初期には高熱,過呼吸かみられ,皮膚は温かく,血圧はやや低下し,頻脈を呈す る。新生児の敗血 症は死亡率か高く,神経学的後遺症を残すことも少なくない重篤な疾患てあるた め,この時期に適切な治療か行われなけれは,症状か急速に進行し重篤化する。 敗血症の児の約4分の1は,髄膜炎を合併する。 新生児敗血症は,出生3日以内に起こる早発型と,以降に起こる遅発型に大別さ れる。原告か罹患 した早発型は,垂直感染によるものてあり,B群溶連菌,大腸菌か起因菌てあるこ とか圧倒的に多い。 (争いのない事実,甲2,4ないし6,26,41,42,44,46,48,5 1,乙B1)イ 髄膜炎 髄膜炎とは,頭蓋部分の硬膜を除く軟膜,クモ膜の炎症をいう。原告か罹患した のは,細菌性髄膜炎かある。
(争いのない事実,甲3,4,26,43,45,乙B1,B2) ウ 敗血症等の診断,治療 (ア) 敗血症か疑われたときは,直ちに血液・尿等の一般検査及ひ細菌学的 検 査を行い(敗血症ワークアッフ。抗生剤を投与する前に行う必要かある。),確定 診断の前てあって も,治療(全身管理,抗菌薬療法等)を開始するとともに,敗血症と診断する際の 次の指標か認めら れた場合には,速やかにNICUを完備した施設に移送すへきてある。
 1 母体か分娩前に破水した場合2 発熱あるいは低体温を呈する場合
 3 運動不活発,哺乳力低下,皮膚色不良,嘔吐,腹部膨満及ひ「なんとなく元気 かない」等の不定症状か見られた場合
4 低出生体重児て無呼吸発作か頻発した場合
 5 黄疸増強,出血斑及ひ肝腫大等か見られた場合 (イ) 敗血症に対する治療としては,菌か同定されるまては,症状,検査所 見及ひ日齢等から起因菌を推定し,抗菌薬を選択する。
 早発型の場合,目標とする起因菌は主にB群溶連菌(GBS)及ひ大腸菌てあ り,菌か同定される まての初期治療としては,アンヒシリン(ヒクリシン,ヘントレックス等)及ひア ミノ配糖体(ケンタシン,アミカマイシン,トフラシン)を併用する。 また,髄膜炎か疑われる場合には,セフォタキシム及ひアミノクリコシトを投与 する。 (ウ) 敗血症性ショックに対しては,呼吸管理を含めた全身管理と,動脈血 をモニターしなか ら,ますアルフミン(血漿増量剤)又は新鮮凍結血漿(FFP)を投与するととも に,トハミン(イ ノハン,トフトレックス)を持続点滴する。重症の場合には交換輸血を行う。 (争いのない事実,甲4ないし6,26,41ないし46,48,51,乙B1, B2)(2) 被告の観察義務及ひ転医義務違反
ア 前記2に認定の事実によれは,
1 Bは,5月22日に破水しており,
 2 原告には,7月4日午前11時に哺乳力不良の症状かあり,
 3 遅くとも同日午後1時には,CRP2+との検査結果か出ており,
 4 さらに,同日午後1時50分には,原告にけいれん症状か出現していた ものてある。
 これらの事実によれは,被告か7月4日午前11時30分前に原告か哺乳不良の 報告を受け,Bの 妊娠経過を検討し,かつ,原告の症状を注意深く観察していれは,同日午前11時 30分には,原告 か敗血症に罹患しているのてはないかとの疑いを持つことかてき,遅くとも同日午 後1時50分には 相当程度の確実性をもって敗血症と診断することかてきたものと認められる。 イ ところか,前記2に認定の事実によれは,被告は,原告の症状の観察を怠 り,同日午後3時 ころまて原告か敗血症に罹患していることに気付かす,午後3時ころになって原告 の症状に気付き, あわてて抗生剤の投与等を開始したか,症状か改善せす,やむなく同日午後5時4 0分ころ,NICUの探索を医大に依頼したものといわさるを得ない。 ウ よって,被告は,観察義務及ひ転医義務違反によって原告に生した損害を 賠償する義務かある。
5 因果関係について
(1) 時機に後れた攻撃防御方法等について ア 原告は,被告は,「新生児指示及ひ処置簿」等を改さんし,搬送手続の開 始か午後2時てあ った旨主張していたか,この点についての形勢か悪くなると,今度は,原告をNI CUに転医させる ことかてきたとしても,原告の後遺症を予防することは不可能てあったと因果関係 を否認する等の主 張をするに至ったか,このような主張は,時機に後れた攻撃防御方法及ひ訴訟上の 信義則(同法2条) の趣旨に反するものとして却下されるへきてある旨主張する。
 確かに,平成13年4月26日の第2回口頭弁論期日において,本件の争点は, 7月4日午後2時 に被告か医大NICUに電話をしたかとうかてある旨の争点の確認をした上,平成 13年10月25 日に医大小児科のE証人を所在尋問し,平成14年1月24日に被告本人及ひ原告 法定代理人Bの集 中証拠調へを実施したところ,被告は,平成14年2月7日付け準備書面におい て,被告か適時にN ICUに転送することかてきたとしても,敗血症等の予後か悪く救命することは不 可能たった旨の主張を初めて行ったことは,本件の進行上,明らかてある。 しかしなから,被告は,答弁書以来,具体的な主張まては行っていなかったか, 因果関係は否認するとの認否を行っていたものてあり,また,その主張か当然争点となるへき内容を含んていることか
らすると,そのような主張の後れか被告の故意又は重大な過失によるものてあるとか,訴訟上の信義
則に反するものとまて認めることはてきない。
 よって,原告のこの点の主張は理由かない。
イ 原告は,被告か当初因果関係を積極的に争わす,過失を否定する意図て診療記録を改さんし,
虚偽の主張をした場合,これを証明妨害かあったものとみなし,民事訴訟法224条2項,3項を類
推適用して,因果関係に係る原告の主張をそのまま認めるへきてある旨主張する。
 しかしなから,原告か主張するような被告の行動は弁論の全趣旨として考慮し,また,因果関係の
判断において,適切な治療か行われた場合の患者の予後を実際に知ることかてきないのは,医師側に
過失かあったためてあり,その不利益を患者側に負わせることは正義の観念に反することを考慮する
必要はあるか,原告か主張するような被告の行動から,民事訴訟法224条2項,3項を類推適用し
て,因果関係に係る原告の主張を真実と認めるへきてあるとまて解することはてきない。
 よって,この点の原告の主張も理由かない。
(2) 適切な治療の点 被告は,別表のとおり,原告の敗血症,髄膜炎及ひショックに対する適切な治療 を行ったから,原告の後遺症と被告の過失との間に因果関係はない旨主張する。
 しかしなから,被告か適切な治療を適時に行ったものてはないことは,前記2に 認定のとおりてあ るから,被告のこの点の主張は,前提を欠き,その余の点について判断するまても なく理由かない。(3) 予後の点 ア 被告は,原告の罹患した早発型敗血症は,その致死率か50~85%と非 常に高く,また, 新生児髄膜炎は,神経学的後遺症か20~50%の割合て発症するなと,予後か非 常に悪いから,被 告か観察義務及ひ転医義務を尽くしたとしても,原告の後遺症の発症を避けること はてきなかった旨主張する。
イ 確かに,次の事実か認められる。
 (ア) 乙A5添付の「新生児敗血症」メルクマニュアル(2002年)に は,早発型敗血症の 全般的死亡率は15~50%(GBS感染症のそれは50~85%)と記載されて いる。 (イ) 乙B1(勝又大助ら「新生児管理」周産期医学24巻増刊号95頁 (1994年))に は,GBS感染症のうち早発型の予後(死亡率)は不良(50%)と記載されてい る。 (ウ) 乙B2(安次嶺馨「敗血症,髄膜炎」周産期医学27巻増刊号533 頁(1997年)) には,死亡率は敗血症て10~20%,髄膜炎て20~30%,髄膜炎ては生存者 の20~50%に神経学的後遺症を残す旨記載している。 ウ これに対し,次の論文等か存在する。 (ア) 甲46(内田章「B群溶連菌(GBS)感染症」小児科診療2002 年3号477頁) は,保科清ほか「最近のB群溶血性レンサ球菌感染症の動向」新生児誌37号11 ~17頁(200 1年)に基つき,新生児GBS感染症の予後は,早発型て死亡11.0%,後遺症残存5.8%てあ
る旨記載している。
 (イ) 甲49(中村和洋ら「新生児期における早発型B群溶連菌感染症12 症例の臨床的検討」 広島医学50巻11号965頁(1997年))は,平成元年4月から平成9年3 月まての症例て, 血液培養検査等てGBSか証明された症例のうち,生後1週間以内に発症した12 症例に基つき,1 2症例のうち,9症例は後遺症なく治癒し,2例は死亡し,1例は脳室周囲白質軟 化症を合併したこ と,死亡した2例は在胎28週1100クラムて出生し,肺出血を合併した例及ひ 34週2025ク ラムて出生し,発症後急速に呼吸停止,ショックを来した例てあることを記載して いる。 (ウ) 甲50(阿座上才紀ら「新生児B群溶連菌感染症19例の検討」獨協 医誌9巻1号19 5頁(1994年))は,平成3年4月まての症例のうち,敗血症か認められた1 1例に基つき,発 症後早期(10時間以内)に治療開始した例は後遺症を残さすに治癒した例か多か ったと指摘してい る。また,表2(198頁)によれは,11例のうち,死亡又は神経学的後遺症を 残した5例のうち, 3例は出生時体重か1870クラム,1070クラム,1700クラムてあり,他 の2例は,出生時 体重か3000クラムを超えているものの,治療開始まてに18時間,26時間経 過していることか認められる。 (エ) 甲42(山南貞夫「新生児B群溶連菌感染症」小児内科29巻増刊号 1257頁(19 97年))は,施設によって異なると思われるか,最近の文献を集約すると,新生 児GBS感染症全 体の死亡率は約15%て,早発型ての死亡率は約20%となり,早産児てあるほと 死亡率も後遺症を 残す率も高い,遅発型の死亡率は5%程度てあるか,髄膜炎合併例て生存した児の 15%に重度の障害か残るとまとめている。 エ 被告か指摘する前記イの文献は,総説的なものてあり,その根拠を一々挙 けることをしてい ないか,原告か指摘する前記ウの文献は,具体的症例に基つき,より詳細な検討し ているものてある。 前記ウの文献及ひ弁論の全趣旨によれは,発症後早期に治療を開始すれは,死亡 率及ひ後遺症残存 率は低下すること,在胎週か多く出生時体重か重いほと,死亡率及ひ後遺症残存率 は低下すること, 時代とともにGBSに対する研究か進み,抗生剤の使用方法等も進歩していること か認められるとこ ろてあり,これらの点を考慮すると,前記認定のとおり,37週5日,体重263 0クラムて平成1 1年に出生した原告か7月4日の午前から抗生剤投与等の治療を受け,かつ,早期 にNICUに転医 されていれは,本件て生した重度の後遺症は残らなかったものと推認すへきてあ る。 オ よって,被告の観察義務及ひ転医義務違反の行為と原告の後遺症との間に は,因果関係かある。
6 損害について
(1) 逸失利益 2064万2748円
ア 年収額
 平成10年賃金センサスによれは,産業計企業規模計女子労働者学歴計全年齢平均年収は,341
万7900円てある。
イ ライフニッツ係数
 原告の稼働可能期間は,18歳から67歳てあると考えられるところ,年5分の割合による中間利
息を控除すると,そのライフニッツ係数は,67年間の労働能力喪失期間のライフニッツ係数てある
19.2390から,18歳まての労働能力喪失期間の係数てある11.6895を差し引いた7.
5495となる。
ウ 労働能力喪失率 (ア) 証拠(甲23ないし25,29,原告法定代理人B)によれは,原告 は,前記認定の後 遺症により,現在,痙性四肢麻痺,けいれん発作,視覚障害,嚥下障害及ひ体温調 整機能障害等によ り,耳かある程度聞こえる,ミルクを飲める,少し泣ける以外は何もてきす,寝た きりて自力ては全 く動けない状態てあることか認められ,この事実によれは,原告の労働能力喪失率 は,全期間にわたり,100%と認めるへきてある。
 (イ) 被告は,仮に被告に過失かあったとしても,原告には,B群溶連菌 (GBS)による敗 血症及ひ脳髄膜炎という素因か存在し,その予後は前記のとおり非常に悪いものて あるから,過失相 殺の規定を類推適用して,損害賠償額を減額すへきてある旨主張する。 被告の観察義務及ひ転医義務違反かなけれは,現実に生した後遺症は残らなかっ たものと認めるへ きことは,前記5(3)のとおりてあるか,前記認定の後遺症残存率か高いことを示す 見解も示されてい ることからすると,被告の観察義務及ひ転医義務違反かなかったとしても,原告か GBS感染症に罹 患したことにより,現実に生したよりは軽度の神経学的後遺症か残存した可能性は 相当あるものと認 められる。この点を考慮すると,原告の逸失利益の算定に当たっては,適切な治療 か行われたとして も,原告には労働能力喪失率において20%程度と評価すへき神経学的後遺症か残 存した可能性かあ ったものと認め,原告の逸失利益の算定に当たっては,労働能力喪失率を80% (100%-20%)とすへきてある。
エ 逸失利益の算定結果 以上よれは,原告の逸失利益は,2064万2748円となる(341万790 0円×7.5495×0.8)。
(2) 慰謝料 2000万円 本件に顕れた諸事情を考慮すると,慰謝料を2000万円と認めるのか相当てあ る。(3) 介護費用 4277万6832円
ア 介護費用年額 前記(1)ウに認定の事実によれは,原告は,生涯にわたり常時介護を要する状態に あると認められ るところ,その介護に要する費用は1日当たり6000円と認めるのか相当てある から,その年額は219万円となる(6000円×365日)。
イ ライフニッツ係数 原告の余命は,平均余命てある77年てあると認めるのか相当てあるところ,年 5分の割合により中間利息を控除すると,そのライフニッツ係数は,19.5328となる。
 ウ 後遺症残存の点の考慮の要否 原告に適切な治療か行われたとしても,本件よりは軽度の神経学的後遺症か残存 した可能性かある 点(前記(1)ウ(イ))は,そのような神経学的後遺症か残存したとしても,原告か介 護を要する状態 にはならなかったものてあるから,介護費用の算定に当たっては,考慮しない。 エ 介護費用の算定結果 以上によれは,原告の介護費用は,4277万6832円となる(219万円× 19.5328)。(4) 小計 8341万9580円 以上の弁護士費用を除く損害額を合計額すると,8341万9580円となる。 (5) 弁護士費用 930万円 原告か本件訴訟の提起,追行を原告代理人らに委任したことは,当裁判所に顕著 てあるところ,本 件に顕れた諸事情,特に被告に診療録の改さんかあり,事案の解明に多大な労力を 要したことを考慮 すると,本件不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用額を930万円と認める のか相当てある。(6) 合計 9271万9580円
第2 結論 よって,原告の請求は,不法行為による損害金9271万9580円及ひこれに 対する不法行為日 てある平成11年7月4日から支払済みまて民法所定の年5分の割合による遅延損 害金を求める限度 て理由かあるからその限度て認容し,その余は理由かないから棄却することとし, 訴訟費用の負担に ついて民事訴訟法61条,64条本文,仮執行宣言について同法259条1項をそ れそれ適用して,主文のとおり判決する。
 仙台地方裁判所第3民事部
 裁判長裁判官
 裁判官
 裁判官
市 川 正 巳
千 々 和 博 志
工 藤 哲 郎
(別表)
 診療経過(被告の主張)
 平成11年7月4日分
時刻
原告の状況
処置,投薬等
11:00
 哺乳力不良。院長に報告。血圧62~32 脈拍138
11:10
 哺乳力不良を婦長に報告。
 SaO2 98%
 ハイタル異常なし。
11:30
 原告は脱力的。
 院長診察後,採血を行い,血液検査を実施。
 原告を保育器に収容し,酸素3リッ トルにて流用。
 血液検査(末梢血,炎症反応,電 解質,肝機能,腎機能)。 心肺監視のため,ハイタルのモニ ター装着し,採血ルートを確保す る。 胸部聴打診の結果,異常音なし。 5%フトウ糖10cc+ヘンマリン20 0mgを側管より静脈注射する。11:45
 児は脱力的たか急を要する状況てはない。
 血液検査の結果,炎症反応陽性を認めたため,化 学療法を開始した。12:30
 四肢の冷却あり。保育器内温度32°CにUPする。
 脈拍139 呼吸39(正常) リンコマイシン50mg投与。 腹部膨満のため,胃内容物吸引。13:00
 著変なし。
13:30
 全身色やや不良。
 NICU転送を考慮し,直ちにいわき共立病院NICU に連絡したか,空床なして断られた。 足の軽いけいれん様発作あり。 5%フトウ糖10cc+ソルコーテフ2 0を投与。 5%フトウ糖内に,ヒタミンC(100 mg)+ヒタミンB6(10mg)+カルシウム (7.5cc)+生理食塩水+ヒタミンB1 (5mg)+高張フトウ糖を混入。13:45
 美穂に対し,医大NICUに対する転医の承諾を得 た。
 酸素続行中。
14:00
 医大NICUに電話をして受入れ要請を行い,他の受 入病院を探すのて待機するようにとの指示を受けた。
 美穂に対しては,その旨を逐一報告した。 軽い落陽現象あり。
14:10
 ショック様の顔貌あり。
 フレトニン3mg投与。
14:30
 症状は比較的改善する。
 目を開いて普通児の様子になる。
 酸素2リットルに減らす。
14:40
 呼吸の時少し呻きかあったか,直く良くなった。
 アミノクリコシト系抗生剤(イセハマ イシン40mg)を点滴静注。15:25
 以後は比較的安定状況か続いた。
16:00
 血圧66~32 脈拍142 呼吸42
 酸素吸入続行。
16:45
 尿33gを排泄する。尿の色は正常。
 5%フトウ糖10cc+マキシヒーム8 0mg投与。
17:10
 医大から連絡なし。
 被告は,催促を婦長に指示した。
17:20
 医大に催促の電話をする。
17:30
 腹部か少し膨らんて余り良い状況てない時と,普通 の状況の反復てあった。18:00
 医大から,相馬公立病院へ転送するように指示を受 け,美穂にその旨を伝えた。
17:30
 腹部か少し膨らんて余り良い状況てない時と,普通 の状況の反復てあった。18:00
 医大から,相馬公立病院へ転送するように指示を受 け,美穂にその旨を伝えた。
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