主文 被告人Aを懲役3年6月に,被告人B及び同Cをそれぞれ懲役3年に処する。
 被告人らに対し,未決勾留日数中各240日を,それぞれその刑に算入する。 この裁判が確定した日から,被告人B及び同Cに対し,4年間それぞれその刑の執行を猶予し,それぞれその猶予の各期間中保護観察に付する。 訴訟費用は被告人B及び同C両名の連帯負担とする。理由
(罪となるべき事実) 被告人A(以下,「被告人A」という。),同B(以下,「被告人B」という。)及び同C(以下,「被告人C」という。)は,D(以下,「D」という。)及びE(以 下,「E」という。)と共謀の上,第1 F(当時22歳)に貸し付けていた被告人B名義の携帯電話の使用料等や,同女の友人のために被告人B名義で借りた借家の家賃等の負担分名下に金銭を 要求し,その支払いのためと称して同女を個室付特殊浴場で稼働させて利益を 得る目的で,Dが,平成13年5月18日午前4時30分ころ,岡山県倉敷市 ア町所在の株式会社ケ百貨店駐車場に同女の知人ないしその関係者を装って同 女を誘いだした上,被告人A,同C及びDが同所に赴き,被告人Aにおいて, 「よう,おめえ逃げとったなあ。きっちり落とし前をつけてもらうで。」など と申し向け,被告人らと同行しないと同女の身体等にいかなる危害をも加えか ねない気勢を示して脅し,同女を畏怖させ,被告人Cが運転し,同A及びDが 同乗する普通乗用自動車に乗車させた上,同日午前5時ころ同女を岡山市イ町 所在の当時の被告人B方に連行し,もって,営利の目的で同女を略取誘拐し,第2 前記日時ころ,被告人B方において,前記Fを監禁した上,同女から金員を 喝取しようと企て,同女に対し,被告人Aが「きっちり落とし前をつけてもらうで。家に帰りたかったらきちんと話をせえ。」と申し向けたり,同女が被告 人らに対して80万円の支払義務を負っているなどとして,被告人Bが,ソー プランドに行ったら80万円を20日で返せる,消費者金融業者から金を借り て前記80万円の一部でも返済せよなどと申し向けるなど金員を要求して脅迫 し,もしこの要求に応じないときは同女の身体等にいかなる危害を加えるかも 知れない気勢を示して同女を畏怖させた上,同女の行動を常時監視するなどし, よって,そのころから同月20日午前9時ころまでの間,同女を被告人B方か ら退去することを不能にし,もって,同女を不法に監禁し,1 同月18日午前9時3分ころ,被告人B及び同Cが,前記の脅迫により畏怖 している同女を,同市ウ番地所在のKビル1階エ店まで連行した上,同所に設 置されたATM機から現金10万円を借り入れさせ,同所において,同女から 現金10万円の交付を受けて喝取し,2 Dにおいて,別紙のとおり,同年5月22日ころから同年6月4日ころまで の間,8回に渡り,オ市カ番所在302号室において,前記の脅迫により畏怖 している同女から現金合計32万5531円の交付を受けて喝取したものである。
 (証拠の標目)
省略 (事実認定の補足説明)
弁護人は,1判示第1の事実について,被告人Aが,F(以下,「F」という。) に対して,「きっちり落とし前つけてもらうで。」などと申し向けて脅迫し,同女 を畏怖させたことはなかった,2判示第2冒頭の事実について,被告人らが,「き っちり落とし前をつけてもらうで。」とか,消費者金融業者からいくらか金を借り て,80万円の支払いにあてるようなどと申し向けて脅迫し,同女を畏怖させたこ とはない,3判示第2の冒頭の事実について,前記2の脅迫や,Fを常時監視する などの方法により,同女の退去を不能にしたことはない,4判示第1の事実について,Fを個室付特殊浴場で稼働させて利益を得る目的,すなわち営利目的はなかっ た,5判示第1及び第2の各事実について,被告人A,同B,同C,D及びEの5 名の間に共謀はなかった,旨主張し,各被告人も公判廷において,これに沿う供述 をするので,以下,検討する。第1 関係各証拠により,以下の事実が明らかに認められ,検察官及び弁護人も特 にこれを争っていない。1 本件当時の被告人ら,D及びEの人的関係 被告人3名,D及びEは,判示第1記載の当時の被告人B方を拠点に,被告人Aを中心として,金融業を営んでいた。前記被告人B方には,被告人Bのほ か,同C,D及びEの計4名が居住していた。被告人Aは,事業の主宰者であり,この者らの最上位にあって,事業に関し, 指示命令を行っていた。被告人B及び同Cは,事業に関し,いずれも被告人Aに次ぐ地位にあり,相 互の間では対等であった。Eは,被告人Aの弟であり,上記被告人B及び同Cに次ぐ地位にあり,事業 に関し,最下位の地位にあった。Dは,Eの友人で,上記被告人B及び同Cに次ぐ地位にあり,事業に関し, 最下位の地位にあった。D及びEは,対等の地位にあった。
 2 Gについて
G(以下,「G」という。)は,Fと同年齢の,幼稚園に通園しているとき から面識のある知人で,Fが両親から車を買ってもらった平成12年11月こ ろから,その車に同乗して,たびたびドライブに出かける等親しく付き合って いた。Gは,同月ないし12月ころ,被告人Bと交際を始め,判示第1記載の被告 人B方に出入りしていたが,その際,Fに車で送り迎えしてもらうこともあった。
 Gは,平成13年2月ころ,被告人Bと別れることにしたが,被告人Bはこれに反発し,Gの携帯電話に架電する等しつこく付きまとうようになった。そ こで,Gは,被告人Cや,被告人Aに相談し,被告人Bから付きまとわれるこ とはなくなった。同年4月24日,Gは,被告人Cから,以前,被告人BがGの依頼により解 決した同人の金銭トラブルに関し,暴力団から200万円の支払いを要求され ていることを聞かされた。その後,Gは,被告人らと待ち合わせた駐車場にお いて,被告人Bが,被告人Aから200万円入りと称する封筒を渡され,これ を暴力団関係者に渡しに行ったようなそぶりを見せられ,自分は被告人Aに対 し,200万円の借金があると思いこんだ。しかしながら,これらは,Gをだ まし,被告人Aに対する200万円の借金を負わせるための,被告人らによる 芝居で,上記封筒の中身は,それらしく見せるために電話帳から切り取った紙 束が入れられていただけであった。Gは,前記200万円の支払いのため,消費者金融業者から金を借りて,2 9万円を被告人Aに支払ったほか,被告人Bらの説得により個室付特殊浴場で 稼働することを承諾した。結局,Gは,同年5月から上記200万円の支払いのためオ市所在の個室付 特殊浴場で稼働し,同年7月2日ころまで,被告人Aらに対し,支払いを続け た。3 事件に関わる経緯
(1) 平成13年4月下旬ころ,被告人Aの指示により,被告人B名義で,ア市ク町所在の家屋を賃借し,少なくともGは入居した。同所をFが訪れた こともあった。Gは,当初,同所からオ市内の個室付特殊浴場に通勤した が,その後は同市内の別の個室付特殊浴場で稼働することとなり,これに 伴い,同市内の稼働先の手配した部屋に引っ越した。(2) 同年4月27日,被告人Bは,同人名義で携帯電話機を購入し,使用契 約手続をし,上記家屋賃借の際,これをFに貸し与えた。(3) 同年5月10日,Fの母親は,同人名義で契約した携帯電話機をFに貸 し与えた。(4) 同月14日昼ころ,被告人Bが,F方を訪問し,Fの父親に対して,被 告人BがFに対して貸し与えた携帯電話機の返還を求め,使用料金を支払 うよう要求した上,Fと面会させるよう求めた。そのため,Fの父親が, 在宅していたFに対して確認したところ,Fは,「しつこいから会いたく ない。」と述べ,面会を拒絶した。そこで,Fの父親は,被告人Bに対し, Fは在宅していない旨告げたところ,被告人Bは,F方を見張る旨言った ものの,結局,立ち去った。その後,同日午後2時ころ,被告人BからF方に,Fの在宅を確認する 電話があった。(5) 同日ころ,Fの知人であるK(以下,「K」という。)はFに対して架電 した際,「私の家に,面倒な人が来るので,家にも帰れんし。」と聞き,一 緒に遊ぼうと誘うと,Fは,これに応じて,車で迎えに来たKに同行し, 同人及びその知人らと行動を共にすることとした。Fは,Kらと行動を共 にしている間,自分の携帯電話機に架電があっても,番号を確認して,応 答する架電と,応答しない架電と区別していた。(6) 同日午後9時10分過ぎころ,被告人A及び同Bが,F方を訪問し,F の母親に対して,Fの在宅を確認したほか,被告人BがFに貸し与えた携 帯電話機の関係で暴力団員からの架電を受け迷惑している旨告げ,さらに, 被告人Aにおいて,「きっちりと娘に片を付けてもらうんじゃ。わしらは 娘を探し出してきっちりと払ってもらうんじゃ。あんたの娘も,もう20 歳を過ぎているので,娘から,きっちり落とし前をとる。」と告げる一方, Fの母親が差し出した被告人B名義で契約した携帯電話機等を受領しないまま,F方を見張る旨言って,立ち去った。Fは同日,帰宅しなかった。
 (7) 同月15日,Fの母親は,かねてFに貸し与えていた携帯電話機宛に, 家に連絡をとることを促す電子メールを送信していたところ,Fが自宅に 架電した。その際,Fの母親が,被告人BがFを探しており,携帯電話機 の件で話がある様子である旨告げ,帰宅するよう促したところ,Fは,了解した旨返答したが,同日も帰宅しなかった。
(8) 同月16日午後11時過ぎころ,被告人A,同B及びDがF方を訪問し,Fの母親に対し,被告人B名義の携帯電話機に関し,使用料金,機種変更 料及び迷惑料等として10万円を請求する一方,Fの母親が請求書や契約 書類を見せるよう要求したのに,これには応じなかった。Fの母親は,前 記請求に対し,そんな大金はない,Fの父親と相談する旨返答したところ, 被告人Aは,Fの父親が帰宅したら,すぐに被告人Bの携帯電話機に連絡 するよう言い残して立ち去った。この後,被告人Aは,同B,同C,D及びEに対し,Fを見つけるよう 指示した。(9) 同月17日午前1時30分ころから2時ころまでの間,被告人Bは,F 方に架電し,Fの父親が帰宅したか確認し,帰宅している旨告げられるや, 再度,被告人Aらと共に計3名でF方を訪問した。被告人Aらは,Fが消 費者金融業者から100万円くらい借り入れている旨告げたほか,再度, Fに貸し与えた携帯電話機の使用料金等の名目で10万円を請求し,Fの 父親はこれを承諾したが,すぐには金員を用意できないと述べ,昼になっ てから,5万円を払い,残余は同月25日に支払うことを約束した。(10) 同日正午ころ,被告人Bが,予め架電した上,F方を訪問し,5万円を Fの父親から受け取り,引き替えに同人名義の領収書を渡して,立ち去っ た。その際,被告人Bは,Fの父親に対し,Fの居場所に心当たりがない か尋ねたが,Fの父親からも同様に尋ねられ,知らない旨返答した。(11) 同月18日午前2時ころ,かねてKらと行動を共にしていたFは,自分 の携帯電話機にかかってきた電話に応答し,「ケ(株式会社ケ百貨店コ店) で待ち合わせをしたから,行くわ。」とKに告げ,同人らのもとから立ち 去って,株式会社ケ百貨店コ店駐車場(以下,「ケ駐車場」という。)に 赴いた。この架電は,Dが,Fの知人であるL又はその友人に成りすまし て行ったものであった。Fは,Kらのもとを立ち去る際,身の回り品を携 帯していったものの,Kらと行動を共にしている間に購入したテレビ等は Kらのもとに残していった。(12) 同日午前4時30分ころ,被告人A,同C及びDは,ケ駐車場に赴き, Fと対面し,被告人Aにおいて,「よう,おめえ逃げとったなあ。」と述 べ,携帯電話機の使用料金等の支払いを求め,被告人B方に同行するよう 求めた。その際,被告人Aは,Fが被告人B方に行くことについては,同 女の母親も承知している旨告げたが,これは事実ではなかった。結局,F は,前記被告人らの乗車する自動車に同乗し,被告人B方に向かった。道 中,被告人Cが,同B方にいた同Bに電話して,同人方に向かっている旨 を連絡した。(13) 被告人A,同C,D及びFは,同日午前5時ころ,被告人B方に到着し たが,そこには,被告人B及びEがいた。そして,被告人3名,D及びE がいる中で,被告人Aを始め,何人かの者がFと何らかの話をした。Fは, 同月20日午前9時ころまで同所に滞在した。その間,Fは,80万円を 支払うことを約束し,被告人Aに対し,同月18日付の額面80万円の借 用書を差し入れた。また,被告人B及びDは,Fに対し,前記80万円の 支払いのため,個室付特殊浴場で稼働するよう求めた。このとき,Fは, しきりに「本番があるところなんじゃろ。」と,仕事の内容に性交が含ま れる点を気にして,なかなか承諾しなかった。この際,被告人BがFに厳 しく金銭の支払いを求める役割をし,Dは,前記Bをなだめ,Fが好きである旨言ったりしてFの味方をするふりをしながら,個室付特殊浴場で稼働して金を支払うよう求める役割であった。
(14) 同月18日,Kは,かねてFの行方を心配して,同女の携帯電話に架電していたところ,同日午後6時27分ころ,Fから架電をうけた。その際, Fは「どこにおるんか,よう分からん。」と述べ,置きっぱなしにしてい たテレビ等を持っていってやる旨のKの提案にも,いったんは応じたもの の,直後に再度架電して,これを断った。その後,KがFの携帯電話機に 架電しても,電源を切っているか,電波の届かないところにいる旨の機械 の応答があるだけだった。なお,Fが,同女の母親名義の携帯電話機で架 電したのは,これが最後であり,その後は,同月21日午後5時48分こ ろ及び同月23日午後7時39分ころ,電子メールを発信したのみであっ た。(15) 同月20日午前9時3分ころ,被告人B及び同Cは,Fと共に,エ店に 行き,前記80万円の借金の返済金の名目で,Fが前記業者から借り入れ た10万円の交付を受けた。(16) 同月20日午前9時ころ,被告人B及びDは,Fと共にB方を出発し, 途中で,Fが個室付特殊浴場で稼働するためのキャミソール2枚等を買い そろえるなどした後,サ港からフェリーでオに向かった。フェリーには, DがFと同乗したものの,被告人Bは同乗しなかった。(17) 同日,D及びFは,オで被告人Bと合流した後,予め用意していた風俗 産業関係の求人情報が掲載されている雑誌を見て,かねて面接を申し込ん でいた個室付特殊浴場に向かい,Fは面接を受け,採用された。その際, Fには,被告人B及びDの2名が付き添ってきており,特にDは,面接の ためにFが前記個室付特殊浴場の店内に入るまで付き添っていた。面接の 後,Fは,稼働することとなった個室付特殊浴場が手配したホテルに宿泊 したが,その際,Dと同室であった。また,Dは,同月22日又は23日ころのFが仕事を終えたころ,前記個室付特殊浴場まで同女を迎えに来ていた。
(18) 同月21日,Fは,個室付特殊浴場で稼働を始め,同日の給与として多くとも2万7500円の支給を受け,同月22日午前零時ころ,302号 室の同女の居室(稼働先の個室付特殊浴場が寮として手配した居室)にお いて,集金に来たDに対し,前記の支払いを約束した80万円の支払金と して1万7000円を支払った。(19) 同様に,Fは,同月22日分の給与3万9531円,同月23日分の給 与3万4000円,同月24日の給与6万7000円を,各日の翌日午前 零時ころ集金に来るDに対し,それぞれ支払った。(20) Fの個室付特殊浴場における勤務態度は,積極性に欠け,客から苦情が 出ていた。また,同店店長から見ると,借金のために嫌々働いている様子 が感じられた。(21) 同月25日,Fは,生理休暇を申し出て,同月28日まで個室付特殊浴 場を休んだ。Fが同月28日に欠勤を申し出る際,同女は前記店長から, 「本当にまだがんばるつもりがあるのか。」と尋ねられたが,続けるとも,辞めるとも言わないまま,翌日以降,無断欠勤をした。
(22) 同日,被告人Bは,F方において,Fの母親から,Fの父親が支払いを約束した10万円のうちの未払金5万円の支払いを受けた。
(23) 同月26日ころ及び同月末ころ,セの消印のあるFの手紙2通がFの両親宛に配達されたが,いずれも探さないでほしい旨書かれていた。
(24) Fは,同月28日から,消費者金融業者から合計46万4000円を借 り入れをし,一部を他の消費者金融業者からの自己名義の借入金の返済に 充てる一方,他の一部の金を封筒に入れ,従前得ていたのと同様の個室付 特殊浴場の給与であるかのように装い,これを従前同様,次のとおり,Dに支払った。すなわち,Fは,各日の午前零時ころ,前記の居室において,集金に来たDに対し,同年6月2日に5万1000円,同月3日に3万3000円,同月4日に3万6000円をそれぞれ支払った。
(25) 同月5日ころ,Fは,前記居室を出て,同女の祖母の住む淡路島に向か い,祖母方に身を寄せた。祖母方でのFは,涙を流しながら,「幼稚園の ころから仲の良かった友達に裏切られて,悔しい。隙を見て逃げた。」な どと述べており,一人で寝ることを怖がって,祖母に一緒に寝るよう求める状態で,祖母から見てFは脅えている様子だった。
(26) その後,Fは帰宅したが,外出することもなく,びくびくしながら暮らしていた。Fは,同女の母親に対し,同月13日ころ,玄関の窓越しに3 人の人影があり,1人はスカート履き,2人は男であり,話し声からして Gと被告人らであると思われたことから,再度連れ出されるのではないか と怖くなり,家の中に隠れて震えていたと話したことがあった。(27) 同年10月15日,被告人B方において,本件に関する捜索差押が実施 された際,F名義の消費者金融業者のキャッシングカード2枚が発見され, 差し押さえられた。第2 F供述の信用性 本件の争点のうち,1判示第1の事実について,被告人Aが,Fに対し,「きっちり落とし前つけてもらうで。」などと脅して畏怖させたことの有無,2判 示第2冒頭の事実について,被告人らが,「きっちり落とし前つけてもらうで。」 とか,消費者金融業者からいくらか金を借りて,80万円の返済にあてるよう などと申し向けるなどして脅迫し,同女を畏怖させたことの有無,3判示第2 冒頭の事実について,前記2の脅迫や,Fを常時監視するなどにより,同女の 退去を不能にしたことの有無について,検察官立証の中核は,いずれもFの公 判供述(以下,「F供述」という。)であるので,その信用性を検討する。1 F供述の大筋は,前記明らかに認められる事実のほか,以下のとおりである。
 (1) 平成13年4月下旬ころ,Fは,ア市ク町所在の被告人B名義で借りた家屋(前記第1の3(1)記載の家屋)において,被告人BからGが要求され ている200万円をAが立て替えるから,Fも手助けしてやれなどと言わ れた。その後も,Fは,前記借家に泊まったことを理由に,被告人Aから 金を要求された。(2) Fは,携帯電話機に被告人らの電話番号を登録しており,被告人らから の架電であるか否かを判別できたため,その後,被告人らから毎日かかっ てくる電話には出なかった。(3) すると,被告人らがF方まで来て,同女の居場所を捜している様子がう かがえ,同女は,被告人らに見つかったら,どこかに連れて行かれる,家 にいたらやばいと思うようになった。同年5月14日から18日まで,同 女は,家族に黙って友人の下へ逃げた。(4) Fが前記友人の下にいた際,母親から,自宅にヤクザみたいな人が来て いるから帰宅するようにとの電話を受け,被告人らが自宅に来て,Fの居 場所を捜していると分かった。(5) Fは,母親名義で母親に購入してもらった新しい携帯電話機にも被告人 Aらから電話がかかってきたため,被告人らからの架電であるか否かを判 別できるよう,被告人らの電話番号を登録した。また,Fは,同女の新し い携帯電話機の番号を教えたのはGしかいないと思い,Gからの電話にも でなかった。(6) ところが,同月17日の夜,Fに対し,遊び友達のLを名乗る者から電 子メールが届き,さらに同月18日午前2時ころ,電話があって,久しぶ りに会おうよと誘われたため,ケ駐車場で待ち合わせをし,同日午前4時 ころ,一緒に知人方に身を寄せていたKに対し,「友達と会ってくるから。」 などと言い残して前記知人方を出た。(7) Fがケ駐車場に赴くと,黒いセドリックから,被告人A,同C及びDが 降車して走って,Fの前に来た。そして,Fは,被告人Aから,「よう,おめえ逃げとったなあ,きっちり落とし前つけてもらうで。」と,いわゆ るやくざ口調で言われ,怖くなった。Fは,被告人Aから「きっちり落と し前つけてもらうで。」と言われたことで,何らかの金銭を被告人らに支 払わなければならないと思った。そして,Fは,被告人Aらに言われて, 同人らと共に前記車両に乗り,被告人B方に至った。(8) Fは,被告人B方において,被告人ら,D及びEの5名を前にし,さら に被告人Aから,「きっちり落とし前つけてもらうで。」,「家に帰りたかっ たらきちんと話せ。」などと言われ,相手の要求する金を払うまでは帰れ ないと思った。そして,結局,Fは,被告人Aから80万円払えと言われ, 被告人Bからは個室付特殊浴場で稼働すれば20日で返済できる旨言われ, これらにより同女は脅えた。Fは,ハッスルタイムと称する時間に男性客 のひざに乗るサービスを提供する,いわゆるハッスルキャバレーで2日間 稼働した経験はあったが,性交を伴う個室付特殊浴場はいやだと思い,行 きたくないと言うと,Dが突如,やめてください,好きなんですよなどと, DがFに好意を抱いている旨言い出したことから,被告人Bの指示で,F とDの2人で話し合うこととなり,被告人B方前に駐車していた前記車両 の中で話をした。その話し合いの中で,Fは,Dに対し,家に帰りたい旨 言ったが,Dは,今は無理だと思う,ソープへ行って払えばいい,毎日集 金に行くし,悩みがあったら聞くなどと答えた。(9) FがDと共に被告人B方内に戻ると,被告人B及び同Cがおり,消費者 金融業者に同女名義で金を借りに行く旨言われた。Fは,これを拒むと, 暴行を受ける等,どんな仕打ちにあうか分からないと思い,怖くて拒絶で きなかった。そして,Fは,被告人B及び同Cと共に,シとエ(エ店)に 行ったが,結局,エから10万円借り入れることしかできなかった。Fは, この10万円を被告人Bに渡した。Fは,就寝前に,被告人Bから80万 円の借用書を書くように言われ,これに逆らえず,被告人A以外の4名がいる中で,借用書を書いた。
(10) 同月19日,Fは,個室付特殊浴場で稼働することを承諾していないのに,Dから,個室付特殊浴場の面接に翌日昼ころ行くと言われ,勝手に話が進んでいくことから,恐ろしい人たちだと思った。
(11) 同月20日,Fは,被告人B及びDに連れられて,個室付特殊浴場で着用する服等を購入した後,被告人Bから,予め面接予定の個室付特殊浴場 の電話番号を入力してある携帯電話機を渡され,同店の者に面接に向かう 旨予め告げた。その後,Fは,オに行き,前記個室付特殊浴場の面接に行 ったが,その際,被告人B及びDが店の前までついてきた。Fは,面接後, その晩宿泊するホテルに到着してから,事前にDに言われていたとおり, 予め渡されていたテレホンカードを使ってDに架電すると,被告人C,D 及びEが同女の様子を見に来た。その晩は,Fの部屋にDも宿泊し,翌日 午後零時ころ,前記個室付特殊浴場の店長が迎えに来る直前まで同部屋に いた。(12) 同月21日から,Fは,前記個室付特殊浴場の寮(前記カキビル302 号室)に泊まることになったが,Dはそのことを知っており,同室にも2 回ほど泊まった。Fは,同日から4日間,実際に個室付特殊浴場で稼働し たが,5日目からは生理休暇をとり,その後はDらには,仕事に出ると言 いながら,実際には仕事をせず,オ市内の消費者金融業者から借金をし, 前記の寮の部屋にあった封筒を給料袋に見せかけ,仕事をしているふりを していた。そして,同年6月4日,Fは,淡路島にいる祖母方に逃げた。2 以上を前提にF証言の信用性を判断するに,前記明らかに認められる事実及 び関係各証拠から,1同年5月14日から,被告人らが,F方を再三訪れ,F との面会を求めたり,同女の所在を確認したり,携帯電話の使用料等の名目で 金員の支払いを求めたりしていた一方,Fは,被告人らと接触することを避け ており,そのため,Fは,自宅を出たり,携帯電話に架電があった際にも,応答すべき相手を慎重に選んでいたりしたこと,2Fがケ駐車場に呼び出された のは,Dが別人を装ってかけた電話に応じたためであったこと,3前記ケ駐車 場では,午前4時30分ころ,人気のない状況で,Fすなわち女性1人に対し, 被告人らは男性3名で相対しており,被告人B方には,Fと被告人ら3名が1 台の自動車に同乗して向かっていること,4Fは,被告人B方において,被告 人らに対し,80万円の支払いを約束しているが,その金額の具体的な算出根 拠はなく,また,80万円という金額は,Fが容易に支払える金額ではなかっ たことが認められるが,これらの点と,前記明らかに認められる事実,ことに, 5FがKのもとにテレビ等を置いたままケ駐車場に向かったこと,6個室付特 殊浴場を無断欠勤したFが,消費者金融業者から借り入れをしてまで,Dに渡 す金員を用意したこと及び関係各証拠等に照らせば,一連の事件の経緯の説明 として前記のF供述は,自然かつ合理的であり,大筋において,信用性がある と認められる。特に,「きっちり落とし前つけてもらうで。」という脅迫文言 については,この文言が,F方を訪れた際にも,被告人Aから,Fの母親に向 かって述べられていることからすると,優に信用できる。なお,Fの公判供述は,検察官の誘導により供述された部分も少なくないこ と,被告人B方にいた際の携帯電話機の使用の有無や,携帯電話機の使用料金 の支払先等については,客観的証拠やG証言と矛盾する供述をしていること, 公判廷での供述中において変遷している箇所があること,証人尋問期日に出頭 しなかったことがあること等弁護人指摘の事実は認められる。しかしながら,前記のとおり,F供述には,客観的証拠から認められる事実 の経緯の説明として自然かつ合理的なのであり,誘導尋問であることの一事を もって信用性を否定することはできない。加えて,Fは,証言中,言葉に詰ま ったり,どもったりすることが多く,表現も単調になる傾向があったのであり, 検察官の誘導尋問はやむを得なかったというべきである。また,同女が事件により強い恐怖心を抱くに至ったことは関係各証拠から明らかであるが,かかる場合に多少の記憶の混乱があっても,何ら異常な点はな いところ,前記携帯電話機での通話の件は,事件の細部に属する事実で,供述 の大筋の信用性を損なわない。そして,本件の一連の事件により,暴力にさらされる危険や,海外に売られ てしまう危険を感じ,強い恐怖心を抱いたこと,その原因が被告人Aの言動に あることにおいて一貫しており,これに沿って一連の経緯を説明しようとして おり,大筋において一貫性が認められる。さらに,証人尋問期日への不出頭も,事件から受けた恐怖心と公判廷での証 言の心理的負担の大きさを考慮すれば,F証言の信用性を損なう事由であると は認められない。第3 被告人らの弁解について
 1 略取誘拐事実について
被告人Aは,公判廷において,Fは,ケ駐車場において,両親に立て替えて もらった同女の使用車両の代金名目で給料のほとんどを両親に取られてしまう ことが不満であるとの理由から帰宅したくない様子だったのであり,進んで被 告人B方に同行したのであると供述し,被告人Cの公判供述及びDの期日外証 人尋問期日における供述は,いずれも当時,Fが脅えているようには感じられ なかったとしている。しかし,Fは,被告人らが同女方を訪れる平成13年5月14日まで自宅に いたこと,その後のKに対するFの発言から,家出の原因は,「面倒な人」す なわち被告人らが来るため,家にいたくなかったこと等が認められ,これと矛 盾する上記被告人A,同C及びDの供述は信用できない。2 監禁事実について 被告人Aは,Fが,前記B方において,被告人らとの金銭トラブルに関してこれ以上,両親に話を持っていかないようにしてほしい旨述べていたと供述す る。しかしながら,両親がすでに金銭トラブルの存在を知っていることをF及び 被告人らが認識していたことは明らかで,それでもFが両親に話を持っていか ないようにしてほしいと述べたと考えるのは不自然であるし,自分で支払うこ とが容易でない80万円もの支払いを約束したこととも矛盾するので,被告人 Aの上記供述は信用できない。3 恐喝事実について 被告人A及び同Cは,Fが支払いを約束した80万円について,ク町の家の賃借費用が含まれる旨公判廷で供述する。
 しかしながら,ク町の家について,Gは,自分と暴力団等との間の金銭トラブルから自分をかくまうために用意されたものと供述しているところ,これは 前記明らかに認められる事実とも符合し,信用できる。そうすると,Fが上記 賃借費用を負担する理由はないのである。この点,Gの知人として肩代わりし たと推測する余地がないかを検討してみても,Fは,淡路島の祖母方で,Gに だまされた旨述べているところ,Fは,すでに被告人B方に連れられてきた時 点でGに裏切られたと感じていたものと推認でき,Gの負担の肩代わりを申し 出たとする前記供述は不自然不合理である。そうすると,ク町の家屋の賃借費 用の負担の話は,Fに金を払わせる口実として持ち出されたと推認するのが自 然であり,被告人らの前記各公判供述は信用できない。4 以上の検討の結果によれば,前記明らかに認められる事実,信用できるF供 述に反する被告人らの供述部分は採用できない。第4 前記明らかに認められる事実,信用できるF供述及び関係各証拠により,以 下の事実が認められる。1 弁護人の主張1(判示第1の脅迫事実の不存在)について 被告人Aは,平成13年5月18日午前4時30分ころ,ケ駐車場において, Fに対し,「よう,おめえ逃げとったなあ。きっちり落とし前つけてもらうで。」などと申し向けて脅迫し,畏怖させたことが認められる。
2 弁護人の主張2(判示第2冒頭の脅迫事実の不存在)について 関係各証拠から明らかに認められる事実,ことに1Fは,消費者金融業者か ら金を借りてまで,個室付特殊浴場で稼働していることを装い,被告人らに対 する支払いを行ったこと,2額面80万円の借用書の存在,3F名義の消費者 金融業者のキャッシングカードが被告人B方で発見されていること,4Fは個 室付特殊浴場で,嫌々稼働していたこと,5Fが支払いを約束した80万円の 算出根拠が曖昧であること,6別紙記載のとおりの金銭の各交付事実,7前記 の略取誘拐,監禁に引き続いて金銭が交付されたこと,信用できるF供述及び 関係各証拠によれば,被告人Aが「きっちり落とし前をつけてもらうで。家に 帰りたかったらきちんと話をせえ。」と申し向けたり,Fが被告人らに対して前記80万円の支払義務を負っているなどとして,被告人Bが,同女に対して, ソープランドに言ったら80万円を20日で返せる,消費者金融業者から金を 借りて80万円の一部でも返済せよなどと申し向けるなどして金員を要求して 脅迫し,もしこの要求に応じないときは同女の身体等にいかなる危害を加える かも知れない気勢を示して脅迫し,同女を畏怖させたことが認められる。3 弁護人の主張3(判示第2冒頭の監禁事実の不存在)について
(1) 前記明らかに認められる事実,ことに1FがKに架電した際,同人に居 場所を言わなかったこと,2Fは,積極性が全くなかったのに,個室付特 殊浴場で稼働していること,3Fが個室付特殊浴場で稼働する際の面接時 には,D及び被告人Bが同行していること,4Fは,直後に個室付特殊浴 場で稼働しているにもかかわらず,消費者金融業者から10万円の借り入 れを行っていること,6同月25日,被告人BがF方を訪れた際,被告人 BはFの場所を秘匿していたこと,7男ばかり4人居住する家屋に女性が 1人で滞在したこと,8同月18日からFの母親名義のF使用携帯電話機 の発信がほとんどないこと,9Fが,オにいる間,Dが連日,集金に行っ ていたこと,信用できるF供述及び関係各証拠によれば,前記2で認定した脅迫及び同女を常時監視するなどの方法により,同女が被告人B方を脱出することを物理的,心理的に不能にさせ,監禁したことが認められる。
 (2) なお,被告人らは,いずれも公判廷において,Fが被告人B方に到着し た際,被告人Aが同女に対し,出て行きたければ出て行ってよい旨告げた と供述し,D及びEも,期日外証人尋問期日において同旨の供述をしている。 しかし,仮にそのような発言があったとしても,女性であるFが午前4時30分に男性3名とともに連れられてきたこと,被告人B方には,その 際,5人の男性がいたこと,被告人らが,かねてから複数の自動車を利用 してF方を訪れる等執拗にFの行方を捜索していたことを同女が認識して いたこと,Fは接触を避けていた被告人らに見つけ出された直後であった こと,同女自身の使用車両は手近になかったこと等からすると,被告人ら が,実際にFを自由に立ち去るに任せるような状況であったとは認められ ず,物理的,心理的に脱出が不能であったことは認められる。(3) また,被告人らは,公判廷において,Fが被告人B方にいる間,D及び Eが常時監視していたことはなく,Dが携帯電話機を使用する際,屋外に 出たり,Eが自動車教習所に通ったりする際等,F一人だけになる時間も あったと供述する。確かに,D及びEの各期日外証人尋問における供述からすると,Fが一 人だけになる時間もあったと認められるが,Dが携帯電話機を使用する際, それほど被告人B方から離れるとは考えにくいこと,被告人らは,Fに対 し,前記B方に到着して以来,引き続いて金員の支払いを求めており,金 員の支払いを期待していたので,Fを引き留める動機があったこと,Dは, Fの恋人役として同女に付き添う役目であったこと,Fは,祖母に「隙を 見て逃げ出してきた。」と言ったこと等からすると,監禁罪は優に成立す る。4 弁護人の主張4(略取誘拐に係る営利目的の不存在)について 関係各証拠により認められる,1被告人らは,Fを被告人B方に連れてくる以前から,携帯電話関係の費用等の支払いを求めてF方を度々訪れていたこと, 2Fが個室付特殊浴場で稼働するに至ったのは,もっぱら被告人らの説得によ るもので,自らの発案ではないこと,3被告人らは,Fが被告人B方に到着す るや,直ちに金銭の支払い要求をしており,同女が容易に支払えない金額の支 払いを約束させ,現にその交付を受けていること等に照らせば,被告人らは, 略取誘拐当時から,Fを個室付特殊浴場で稼働させて利益を得る目的を有して いたものと認められる。5 弁護人の主張5(各事実に関する共謀の不存在)について (1) 判示第1の略取誘拐に係る共謀の有無について関係各証拠により認められる以下の各事実,すなわち,1被告人A,同 C及びDは,ケ駐車場に行って,Fを被告人B方まで連れてきた者らであ ること,2被告人Bについても,平成13年5月14日以来,度々,F方 を訪れて,Fの所在を確認していたこと,3Eについても,Fが被告人B 方に来る以前に,F方に,同女の所在を探しに行ったこと及び関係各証拠 によれば,被告人3名,D及びEの捜査段階の各供述は,いずれも信用で き,それら各供述及び関係各証拠によれば,被告人3名,D及びEは,平 成13年5月14日ころ,被告人B方に集まった際,被告人Aが,他の者 らに対し,行方をくらませたFを捜し出し,略取誘拐し,個室付特殊浴場 で稼働させて,同女から金員を取得することを内容とする指示命令を下し, 他の者らはこれを応諾し,ここにおいて被告人3名,D及びEは,意思を 相通じ,略取誘拐の共謀が成立したものと認めることができる。なお,弁護人は,各被告人,D及びEの捜査段階の供述は,虚偽の内容 を含む被害者調書をもとに,捜査官が,まず被告人Aを取り調べ,予断と 偏見に基づく内容の調書を作成し,引き続いて他の者らの調書を作成したもので,信用性に欠ける旨主張する。 しかしながら,前記明らかに認められる事実及び信用できる証拠と,被告人らの捜査段階の供述は概ね符合しているのであり,細部において生じ る食い違いが相互にあるにしても,概ね信用できる。また,たとえばDの 検察官調書謄本(22)では,被告人Aが,Fを被告人B方に連れてくる 二,三日前,Fを「スに連れて行く。」との発言をした旨の供述がある一 方で,前記供述によれば,同席していたはずのEの検察官調書謄本(23) にその旨の記述はないこと,被告人Aの警察官調書(47)は,FとGの 容姿の優劣を考慮して,最大限の収益が得られるよう配慮し,稼働先の個 室付特殊浴場を選択したことや,個室付特殊浴場で稼働していたFに,両 親に対する手紙を書かせ,かねて同女の友人がいると聞き及んでいたア県 セ市を投函地に決めたこと等捜査官の創作とは到底考えられない事項が詳 細に記載されていること,被告人Bの警察官調書(61)は,Fが消費者 金融業者のキャッシングカードを所持していることを察知したことについ て,以前,同女の使用車両の改造費がかさんで,その資金を消費者金融業 者から借り入れている旨聞き及んでいたからであると供述していること, 被告人Cの検察官調書(79)は,DがFの知人Lを装って同女を呼び出 したとのF供述と異なり,前記Lでないことが同女にばれたので,前記L の知人を装った旨の供述が記載されていること等からすると,捜査官が, 共犯者間の供述の不一致を殊更追求したことを考慮しても,全体として任 意性を欠いているとか,信用できないとは認められない。以上のとおり,被告人3名,D及びEの公判供述ないし期日外証人尋問 における供述のうち,前記認定した事実に反する部分は信用できない。他 方,これらの者の捜査段階の供述で,前記認定した事実に一致する部分は 信用できる。(2) 判示第2の監禁,恐喝に係る共謀の有無について
本件監禁及び恐喝は,前記営利略取誘拐に引き続いて行われた一連のも のであり,前記営利略取誘拐に関し,各人間に共謀が認められ,その経緯, 共謀の内容及び関係各証拠によれば,監禁及び恐喝に関しても営利略取誘 拐と同一の日時,場所における共謀が認められる。第5 結論 以上のとおりであって,弁護人の主張はいずれも理由がない。(法令の適用) 被告人らの判示第1の所為はいずれも刑法60条,225条に,判示第2の所為のうち,監禁の点はいずれも同法60条,220条に,金員を脅し取った点はいず れも包括して同法60条,249条1項に(なお,検察官の平成14年3月29日 付訴因等変更請求書による訴因及び罰条の変更請求は適法であり,訴因及び罰条の 変更は適法になされたものと認められる。)それぞれ該当するが,判示第2の監禁 と恐喝との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により 1罪として重い恐喝罪の刑でそれぞれ処断することとし(ただし,短期は監禁罪の 刑のそれによる。),以上はいずれも同法45条前段の併合罪であるから,同法4 7条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で, 被告人Aを懲役3年6月に,同B及び同Cをそれぞれ懲役3年に処し,被告人らに 対し,同法21条を適用して未決勾留日数中240日をそれぞれその刑に算入し, 被告人B及び同Cについては,情状によりいずれも同法25条1項を適用してこの 裁判が確定した日から4年間それぞれその刑の執行を猶予し,なおいずれも同法2 5条の2第1項前段を適用して被告人B及び同Cをそれぞれの猶予の期間中いずれ も保護観察に付し,訴訟費用について,被告人B及び同Cに対しては,刑訴法18 1条1項本文,182条により連帯して負担させ,被告人Aに対しては,刑訴法1 81条1項ただし書を適用して負担させないこととする。(量刑の理由) 本件は,被告人ら計5名が共謀の上,個室付特殊浴場で稼働させ,その給与を巻き上げることを目的として女性を略取誘拐し,引き続いて監禁し,9回にわたり, 合計42万5531円を脅し取ったという,営利略取誘拐,監禁及び恐喝の事案で ある。被告人らは,5人がそれぞれ役割を分担して上記各犯行を敢行しており,携帯電 話機の使用料等を口実にいいがかりとしか言いようのない名目で被害者に80万円 もの金の支払いを約束させたり,借用書を被害者に作成させて,脅し取った金を借 金の返済に見せかけたりしており,組織的かつ計画的で手の込んだ巧妙な犯行であ る。また,これら各犯行は,執拗に被害者を追いかけ回した挙げ句の犯行であり, 最終的には個室付特殊浴場で働くところまで追いつめられた被害者の心身に与えた 悪影響は重大である。その動機は,単なる金銭欲であり,そのために女性を,いわ ば金づるとして,あたかも物のように扱った犯行は卑劣である。かかる犯行は被告 人らだけではなく,2名の少年を巻き込んで敢行されたのであり,結果,各少年は いずれも少年院に送致された。それにもかかわらず,被告人らは,口裏を合わせる かのように,いずれも公判廷において,不合理な弁解を行っており,反省の情に乏 しいといわざるを得ない。以上の点からすると,犯情は悪く,被告人らの刑責は軽視できない。ことに,被告人Aにあっては,一連の犯行を計画し,少年2名を含む他の被告人 らを巻き込み,これらの者に指示命令を下し,役割分担をさせて犯行を実現した上, 最終的な利益の帰属主体となる等,犯行のあらゆる面において主犯格の地位にあっ たもので,犯情がことのほか悪い上,罰金前科1犯を有している。また,被告人Bにあっては,略取誘拐の実行犯ではないものの,被害者を個室付 特殊浴場に送り込むに当たっては,Dとともに中心的役割を果たしており,被害者 が消費者金融業者から借り受けた10万円について,被告人Cとともに交付を受け たり,本件の発端である携帯電話機を調達して,その名義人となったり,ク町の家 の賃借名義人となる等,犯行に深く関わっており,犯情の悪質さは軽視できない。被告人Cにあっては,略取誘拐の実行犯であるほか,被告人Bとともに前記10万円の交付を受けており,犯行への関与の点からは被告人Bにさして劣るものでは なく,犯情の悪質さは同様である上,罰金前科1犯を有している点も芳しくない。
 しかしながら,被害者は不用意に被告人らと関わりを持っていること,被害弁償 として合計118万3000円の支払いがなされていること等,いずれの被告人についても有利に斟酌すべき事実も認められる。 また,各被告人について検討するに,被告人Aにあっては,上記被害弁償金のうち88万3000円を負担していること,面倒を見なければならない子供が4人い ること,弟を含む共犯者らの生活の面倒を見ていたこと等の有利に斟酌すべき事実 が認められる。被告人Bについては,前記のとおり,略取誘拐の実行犯ではないこと,被害弁償 金のうち,30万円を両親が負担していること,未だ年若く可塑性があると認めら れること等の有利に斟酌すべき事実が認められる。被告人Cについては,監禁中の被害者を個室付特殊浴場に送り込む工作への関わ りの程度が薄いこと,被告人B同様,年若く可塑性があると認められること等の有 利に斟酌すべき事実が認められる。以上の点,ことに各被告人の犯行への関与の度合いを考慮した結果,被告人Aに ついては主文記載の実刑が相当であると判断したが,被告人B及び同Cについては いずれも,刑の執行を猶予し,社会内で更生させることとし,両名の従前の生活態 度が芳しくない点等に鑑み,保護観察に付するのが相当であると判断した。平成14年11月20日 岡山地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 榎 本 巧
裁判官 中 川 綾 子
裁判官 足 立 堅 太
(別紙省略)
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