主文
1 被告が原告に対し平成11年3月9日付けでした遺族厚生年金不支給決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、原告の夫であり厚生年金保険の被保険者であったB(以下「B」という。)が平成6年2月24日に死亡したため、その配偶者として、平成11年2月19日、被告に対し、遺族厚生年金の裁定請求をしたところ、被告において、同年3月9日付けで、原告はBの死亡当時「死亡した者によって生計維持をしたものとは認められないため」との理由で、遺族厚生年金を支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため、本件処分は違法であるとして、被告に対し、その取消しを求める事案である。
1 遺族厚生年金の受給権者に関する法令及び通達の定め
(1) 厚生年金保険法(以下「法」という。)は、被保険者又は被保険者であった者が死亡したときには、その者の遺族に対し、遺族厚生年金を支給するものとし(法58条1項)、その支給を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとすると定めている(法59条1項)。
(2) そして、法59条4項は、「第1項の規定の適用上、被保険者又は被保険者であった者によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は、政令で定める」と規定し、これを受けて法施行令(昭和29年政令第110号、平成12年政令第309号による改正前のもの。以下「法施行令」という。)3条の10は、「法59条1項に規定する被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫又は祖父母は、当該被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生大臣の定める者とする。」と規定している。2 前提となる事実(括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは当事者間に争いのない事実である。)
(1) 原告は、厚生年金保険の被保険者であった夫のBが平成6年2月24日に死亡したため、その配偶者として、平成11年2月19日、被告に対し、法58条の規定による遺族厚生年金の裁定を請求した。
(2) 被告は、同年3月9日付けで、原告が「死亡した者(B)によって生計を維持していたものと認められない」との理由で、原告に対し、遺族厚生年金を支給しない旨の本件処分をした。
(3) 原告は、本件処分を不服として、社会保険労務士C(以下「C」という。)を審査請求代理人として、同年4月26日、群馬県社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対し、審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)が、審査官は、同年6月11日付けで、本件審査請求を棄却する旨の決定をした(以下「本件裁決1」という。)。
(4) 原告は、本件裁決1を不服として、Cを再審査請求代理人として、同年7月1日、社会保険審査会に対し、再審査請求をした(以下「本件再審査請求」という。)が、社会保険審査会は、平成12年4月28日付けで、本件再審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決2」という。)をし、本件裁決2に係る裁決書謄本は、同年5月2日、Cに到達した。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 争点
 本件の争点は、以下のとおりである。
ア 行政手続法8条の理由提示の有無について(争点1)
イ 本件処分の適法性について(争点2)
(2) 争点に関する当事者の主張
ア 争点1(行政手続法8条の理由提示の有無)について
(ア) 原告の主張
 被告は、本件処分を行うに当たって、実質的な理由を提示していない点で行政手続法8条に違反しているから、本件処分は違法であり取り消されるべきである。(イ) 被告の主張
 行政手続法8条が、処分の理由を示さなければならないと規定した趣旨は、行政庁の判断の慎重・合理性を担保し、その恣意を抑制するという機能及び請求人に不服申立て等の便宜を与えるという機能を確保することにあるところ、本件処分に際して、被告は、本件処分の通知書に「死亡した者によって生計維持をしていたものとは認められないため」と記載しているのであるから、被告が原告とBとの間に生計維持関係がなかったことを理由として本件処分を行ったことは明らかである。
 したがって、この記載は、行政庁がいかなる処分要件について不支給と判断したかの理由が明らかであり、行政庁の恣意によるものではなく、その理由は原告において認識することが十分に可能であって、他に処分の理由となった事実との識別が困難であるとの事情も見当たらない以上、不服申立てが困難になったということもできない。
イ 争点2(本件処分の適法性)について
(ア) 被告の主張
a 法令及び通達の基準について
(a) 法59条1項・4項、法施行令3条の10を受けて、「国民年金法等における遺族基礎年金等の生計維持の認定に係る厚生大臣が定める金額について」と題する通知(社会保険庁年金保険部長から、都道府県知事あて通知・昭和61年3月31日庁保発第14号。乙8、以下「通達1」という。)により、法施行令3条の10に規定する「厚生大臣の定める額」は年額600万円とされていた。また、生計維持の認定に関する通知(社会保険庁年金保険部国民年金課長、業務第一課長及び業務第二課長連名で、都道府県民生主管部(局)保険主管課(部)長、同国民年金主管課(部)長あてに発出された通知「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(昭和61年4月30日庁保険発第29号。乙3、以下「通達2」という。))において、法59条1項にいう生計維持要件の具体的解釈基準について定められている。
 通達2によれば、「3 収入に関する認定要件」として、「(1) 生計維持認定対象者に係る収入に関する認定にあたっては、次のいずれかに該当する者は、厚生大臣の定める金額(年額600万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者に該当するものとする。」として、「ア 前年の収入(前年の収入が確定しない場合にあっては、前々年の収入)が年額600万円未満であること。イ 前年の所得(前年の所得が確定しない場合にあっては、前々年の所得)が年額430.5万円未満であること。ウ 一時的な所得があるときは、これを除いた後、上記ア又はイに該当すること。エ 上記のア、イ又はウに該当しないが、定年退職等の事情により近い将来収入が年額600万円未満又は所得が年額430.5万円未満となると認められること」としている。
(b) 生計維持要件につき、被告は、昭和60年法律第105号による法改正の前後で、その行政解釈及び運用を変更している。すなわち、上記改正前までは、生計を同じくしていた者(生計同一要件)で足りると解して運用していたが、法改正後は、十分な「収入を将来にわたって有すると認められる者以外のもの」であることを要すると解することとしたものである。上記法改正は、昭和60年法律第34号による法改正による公的年金制度の再編・統一の動きに合わせ、共済年金と厚生年金及び国民年金との間に従前存在した「遺族」要件の相違をなくし、各制度により受給権者が異ならないよう解釈の同一化を図るため、各法の施行令により、受給権者たる遺族の範囲に関し同一の規定を設けることとしたものである。このような趣旨に基づいて、厚生年金に関しては、昭和60年法律第105号により、法59条4項が制定され、昭和61年3月政令53号によって、施行令3条の10が規定されることとなった。
 したがって、このようにして新たに規定された法59条4項は、生計維持要件を定めた法59条1項を改正しないままで支給要件の同一化の目的を達成し、解釈の同一化を図る趣旨から規定されたものである。
 他方、遺族厚生年金の認定手続に関しては、法59条4項の新設前から法101条が「この法律に特別の規定があるものを除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は、厚生省令で定める」と規定し、これを受けて、法施行規則が遺族厚生年金の認定手続に関し規定しているところであるから、法101条がある以上、法59条4項の新設当時、遺族厚生年金の認定手続に関する委任規定を新設する必要性はなかった。
 以上によれば、法59条4項は、生計維持要件に関する行政機関の解釈に関する規定であり、それを他の法形式ではなく政令で定めると特定する趣旨であると解するのが素直な解釈である。
b 原告が法59条1項の生計維持要件を満たさないことについて
 原告は、昭和37年6月22日、Bと結婚した後、昭和52年2月1日から株式会社コイズミ(以下「コイズミ社」という。)に勤務しており、監査役に就任する等していたが、Bが平成6年2月24日に死亡する直前である平成6年1月23日に同社監査役を辞任すると、同年2月14日、取締役に就任した。さらに、原告は、同年3月3日、Bの弟であるD(以下「D」という。)とともに同社代表取締役に就任したが、平成8年11月22日、Dとともに代表取締役を退任して取締役となり、代わりにBと原告との間に生まれた長男のE(以下「E」という。)が同日代表取締役に就任した。
 原告の平成5年分から各年分の収入額は、以下のとおりである。
 平成5年分 690万円
 平成6年分 950万円
 平成7年分 996万円
 平成8年分 996万円
 平成9年分 540万円
 平成10年分 540万円
 原告の上記収入に照らせば、前記通達2によれば、収入要件については、被保険者死亡の前年の遺族の収入を基準とするところ、原告は、B死亡の前年である平成5年の年収が690万円であり、厚生大臣の定める金額以上の収入があることは明らかである。そして、上記収入が、原告自身の口座に、Bとは別個に振り込まれ、他の役員の報酬と同様に扱われているものであること、原告が、自身が得た収入により、日常の買い物や、生活費を自由にできた旨供述していること等に照らせば、原告に支払われた報酬は、原告の得ていた収入であり、原告の生活は、原告自身の収入により賄われていたものと認められる。
 また、原告は、平成9年には、年収が540万円となり厚生大臣の定める金額未満になったと認められるが、原告の役員報酬は、平成9年1月7日のコイズミ社の取締役会において引き下げられることが決定したものであるから、通達2の認定基準に照らし、近い将来収入が厚生大臣の定める金額未満になることが、被保険者死亡時に客観的に予測可能であるという場合に該当しないことは明らかである。
 以上から、原告は、B死亡当時、Bによって生計維持をしていたものとは認められない。
c 原告は、B死亡の一週間ほど前に、Bが、同社の取締役であった原告、E並びにB及び原告の次男であるF(以下「F」という。)を病室に呼び会議を開いて、自分の死後のことについて発言し、原告等もこれを了承したことを根拠に、B死亡時において、近い将来、原告が代表取締役を辞任し、報酬も約半分になることが予測可能であったと主張するもののようである。
 しかし、原告主張のとおりの会議が開かれ、その際Bが上記趣旨の発言をしていたとしても、コイズミ社の取締役会や株主総会がBの発言どおりの意思を決定するか否かも定かではないものであるから、これをもって、近い将来、原告の年収が厚生大臣の定める金額未満になることが予測できたということができないことは明らかである。また、そもそも本件では、Bの当時の病状等に照らし、原告主張のような会議及びBの発言の存在を認めることもできないから、原告の主張は理由がない。
d 原告は、商法上取締役に任期があることをもって、近い将来原告の収入が厚生大臣の定める金額未満になることが予測可能であったと主張するようである。しかし、一般に、日本においては、株式会社の取締役は業績悪化等の特別な理由がない限り、再任を妨げられることはない。とりわけ、原告が所属するような同族的かつ規模の比較的小さい株式会社では、取締役は再任されるのが原則といっても過言ではない。
 むしろ、上記通達2の認定基準の認定については、個別的見通しを基準として判断すべきところ、原告については、Bの死亡当時、任期終了により再任を妨げられるような特別な事情はないこと、コイズミ社は、同族的かつ規模が比較的小さい株式会社であって、しかも、原告はBの死亡後、コイズミ社の株式の過半数以上を所有していたということに照らせば、仮にコイズミ社の経営権争いが生じたとしても、原告が取締役の退任を余儀なくされるというものでもなく、B死亡当時の将来の見通しとしては、原告が、取締役の任期満了に伴って退任することが見込まれる状況になかったことは明らかである。
e なお、原告は、B死亡後、9か月足らずして厚生大臣が定める金額が600万円から850万円に引き上げられたことを、生計維持関係の有無の認定に当たって考慮すべきと主張するが、法59条4項は、「第1項の規定の適用上」としているのであって、死亡当時の生計維持関係の有無について定めているものであるから、それを受けて厚生大臣が定めた金額がその後に改正されたことを考慮する必要はない。
f 以上によれば、原告が、B死亡時において、認定基準の定める金額以上の収入を有していたこと、B死亡時において、近い将来その収入が600万円未満となると客観的に予測可能な事情が存在していなかったことが認められるから、原告は法59条1項・4項、法施行令3条の10を受けた認定基準の要件を満たしておらず、被保険者によって生計を維持したものに該当しないから、遺族厚生年金の受給権を有しないと判断した本件処分は適法である。
(イ) 原告の主張
a 原告がBにより生計を維持されていたことについて
(a) コイズミ社の実態について
 コイズミ社は、その前身を有限会社小泉工業所(以下「小泉工業所」という。昭和26年11月、群馬県伊勢崎市で設立され、昭和50年12月、現在の本店所在地である群馬県邑楽郡a町に本店を移転)とする、同族経営会社であり、家庭用電気機器・空気調整機器部品・自動車部品の板金加工等を主たる事業目的とする、いわゆる大手メーカーの社外外注工場であり、事業規模は最盛期で60人程度の比較的小規模な株式会社である。
 Bは、小泉工業所創業者のG(Bの父、以下「G」という。)と同様、いわゆるワンマン経営者であり、小泉工業所の経営面・人事面等全般は、B一人の意思のもとに決定されていた。Bの手腕・才Fは、コイズミ社の生命線といえるものである。
 Bは、Eが大学卒業後他社での勤務数年の経験を経て小泉工業所に入社した昭和63年には、既に原告等周囲の者に対し、小泉工業所を将来的にはEに継がせる旨の話をしていた。平成3年12月5日、小泉工業所はコイズミ社へと組織変更し、Bが代表取締役に就任し、D、E、Fが取締役に就任すると、Bは、Eに対し、将来の社長としての教育を施すべく一部門の責任を持たせ、コイズミ社内で将来の社長はEであるとの認識を広げた。
(b) 原告の勤務状況について
 原告は、Bと結婚後、しばらくした昭和42年7月1日から、小泉工業所において、主に小口の現金の出し入れ・管理、現金出納帳への記帳等経理に関する補助的業務や伝票の整理などの一般事務、その他の細々した雑務に従事していたが、翌年4月10日には、出産・育児のために一時会社の仕事を離れた。
 原告は、育児の手が少し離れた昭和50年1月頃から、再び1日4~5時間程度の事務の補助としての業務に従事し始め、昭和52年2月1日から常勤の経理担当者として勤務するようになった。原告の業務は、Bの指示に従って銀行に提出する書類を作成したり、従業員の給料を計算し、経理上の基礎資料を作成すること等であった。日常的に継続反復される、判断を伴わない経理上の業務については、原告自身の力でこなしていたが、少しでも経営的判断が必要な業務に関しては、経理業務であっても、Bが指示を出すこととされており、原告が経理担当者としての立場で少しでも意見を言おうものならば、Bから激しい叱責を受け、Bが原告の意見に聞く耳を持つことは決してなかった。
 原告は、昭和49年12月以降、小泉工業所の監査役に就任し、その旨の登記を受け、コイズミ社への組織変更後も引き続き監査役として登記を受けているものの、その業務内容は、本来の監査役としての業務とは到底いえず、前記のとおりワンマン経営者であるBの補助的業務に終始していた。
(c) Bの死亡について
 Bは、平成4年に胆道癌の診断を受け、手術や科学療法を受けた後、平成6年1月に、3回目の入院をし、同年2月24日、死亡した。Bは、同月13日(日曜日)の夕食後の時間帯に、病室で、Dを除く全役員が集まった際、「Eはまだ若いため、すぐに代表取締役にせず、3年間をめどにA(原告)とDが共同で代表取締役となり、Eを経営者として育成すること。Eを代表取締役とした後は、AとDは取締役となり、Aについては、平取締役へ降格させ、報酬についても、代表取締役の6割から5割程度のふさわしい金額にすること」という趣旨の発言をし、その余の参加者がこれを了承した(以下「本件会議」という。)。Bは、翌日、Dにも上記趣旨を伝え、Dもこれを了承した。Bが、A及びDに共同で代表取締役となるよう指示したのは、B死亡後、一定期間Eを育成の上、円満に代表取締役に就任させるために、Dを牽制する意図があった。
(d) B死亡後の状況について
 Bの前記意思を本件会議に先立ち聞かされていた原告は、当時就任していた監査役を辞任し、取締役に就任する所定の手続を経て、同年2月21日、コイズミ社の商業登記簿にその旨の登記手続をした。その後、Bの意思に従い、平成6年3月3日開催の取締役会で、Dと原告が共同代表取締役に就任し、2年余りにわたりEを育成の上、平成8年11月12日開催の取締役会で、Eが代表取締役に選任され、Dと原告は平取締役に退いた。
(e) 原告の役員報酬の変遷について
 平成3年中までの原告の役員報酬は、月額41万円(年間492万円)であったが、平成4年1月から月額50万円(年間600万円)になり、平成5年分は年間690万円になった。平成5年の年収690万の内訳をみると、1月から3月までが月額50万円、4月から12月までが月額60万円である。中小零細企業の監査役の報酬としては高額な設定(月額50万円から60万円)となったが、前記のとおり、原告は、Bの指示の下に経理事務を担当していたにすぎず、本来の監査役の業務を行っていた実績は皆無である。平成4年及び平成5年分の月額50万円から60万円という高額な報酬の実態は、Bの能力で得られたものであり、税務対策を主眼として、所得の分割のためにBが原告の報酬を高額に設定することを決定し、帳簿上、前述の金額が原告に支払われたが、現実には、原告は一定額の生活費(月額25万円程度)のみを受け取っていたにすぎず、残りはもっぱらBが取得し費消していた。原告の報酬を前述のような高額に設定したきっかけは、過去の税務調査で代表取締役の妻の報酬は、当該代表取締役の半額まで受けてもよいと税務署の調査官から言われたためであり、Bの判断で、上述の額に設定したものである。
 原告の職務内容は、一貫してBの指示の下で行う経理事務員としての仕事にすぎず、その職務内容は、名目上の「役員報酬」が月額50万円に上がろうが、月額60万円に上がろうが、全く変化はなかった。原告の報酬額も、常にBの判断で決められていたのであり、平成5年4月から、原告の報酬が月額60万円になったのも、Bの指示によるものである。この時期に、原告の報酬が上げられたのは、Bの病気が進行し、Bは入退院を繰り返していたところ、病気で職務を十分にできない状態で高額の報酬を受けることは税務対策上問題があるとも思ったため、Bが自らの報酬の一部を妻である原告に振り分けたためにすぎない。
 以上によれば、原告には、独自の収入があったというべきではなく、Bの存在を前提として、役員報酬を得ていたにすぎないのであるから、原告は、Bにより生計を維持していたものと認められる。
b 法59条4項の解釈について
 被告は、法59条4項は、同条1項の要件を具体化するための委任規定であると解釈した上で、原告がこれに基づいて規定された政令の要件を満たさないことを問題にするようであるが、同条4項は、同条1項の要件を具体化するための委任規定ではないから、被告の主張は失当である。被告の主張は、同条4項の立法趣旨につき、国民年金、厚生年金及び共済年金において、各制度により受給権者が異ならないよう、厚生年金についても新たに収入制限を設けたものであることを前提とするものであるが、そもそも、厚生年金と共済年金は、収入要件を同様に設けたとしても、元来受給権者が異なるものであるから、被告の主張する目的を達成し得ないのであり、被告の主張は前提を欠くものといわざるを得ない。
 次に、被告は、法の趣旨は遺族の所得保障にあるとの理解を前提に上記主張をしているが、法1条の定めからして、遺族厚生年金の支給の目的が単なる所得保障ではなく、同条が生活保障法理を定めたことは明らかである。
 また、被告は、法101条の存在から、法59条1項に規定する生計維持要件の認定に関する手続的事項を59条4項で政令に委任すると解することになると、実質的に法101条に屋上屋を架すことになると主張するが、法101条は、執行命令であり、行政内部においての法を施行する上での規範を規定したものではないから、この点の被告の主張も採り得ない。
 さらに、被告は、法59条4項は、遺族厚生年金の支給の対象から除外される高額所得者の範囲が明確でないことから、具体的範囲について政令委任の規定を設け、所得水準の変遷に応じて改訂できるよう、施行令3条の10で「厚生大臣の定める額」と規定するものであると主張するが、被告の主張どおりであれば、実質的に厚生大臣の定める額が法と同一視され、制定法と同一の機能を果たしてしまうことになるところ、このような強大な権限を、行政権の一部門でしかない厚生大臣に、法が与えているとは考え難い。厚生年金保険が、「保険」の制度であり、その運営は被保険者により拠出された保険料でなされている限りにおいて、行政庁に対して、無限に近い自由裁量が与えられていることは、三権分立が保障されている我が国の法制度において、考えられないことであるといわざるを得ない。
 以上によれば、法59条4項は、生計維持要件の認定に関する手続的事項について規定することを委任した規定であるから、これを実体要件について規定したものであるとの解釈を前提に、生計維持要件の解釈をした本件処分は誤りであり、その点の違法がある。
c 通達2の解釈に適合する点について
 仮に法59条4項が、生計維持要件の具体的内容について、政令で規定するよう委任している趣旨であるとしても、これを受けて規定された法施行令3条の10を受けて、通達2は、3(1)エで「近い将来収入が(中略)未満となると認められること」と定め、ここにいう「近い将来」とは、具体的には概ね5年と解されており、その判断に当たっては、被保険者等の死亡の時点における事情を基礎として、近い将来の見込みを判断するものとされているのであり、この基準によれば、原告は、下記の点を考慮すれば、概ね5年以内に収入が厚生大臣の定める金額未満になると認められる場合に該当するから、遺族厚生年金の支給を受けられるはずである。
 すなわち、本件会議においては、原告が一度共同代表取締役に就任し、その報酬額が上がることがあっても、3年を目途に代表取締役を退き、それにふさわしい低額の報酬に減額されることが、B及び当時の役員一同の意思として決定されたのであるから、B死亡時において、原告の収入が遅くとも5年以内には、厚生大臣の定める金額未満(年収600万円未満)になることが明らかであったといえる。
 また、商法上、取締役の任期は2年を超えることができない旨規定されている(商法256条)ことにかんがみれば、この点を取っても、5年以内に原告が取締役の任期を終了することは確実であるから、通達2の認定基準に適合すると解すべきである。この点について、被告は、定年退職が予定されている場合には、認定基準の要件に該当すると解釈するところ、商法上の取締役の任期と就業規則による定年退職の実態は、本件遺族厚生年金の支給・不支給を検討するに当たり、その性格上非常に類似した点があるのであるから、取締役の任期満了が予定されている場合にも、同様に解すべきである。
 さらに、この認定に当たっては、Bの死亡後9か月足らずで法施行令の定める基準の金額が600万円から850万円まで大幅に引き上げられていることも考慮されるべきである。
 本件と類似の事案について、近い将来年収が600万円未満になるものと認められたとして、審査請求の段階で支給が認められた事案や、収入要件の形式的運用によって生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合に該当するとされた事案、収入要件を柔軟に解釈し、不支給処分が取り消された事案等も存在するのであるから、本件においても、形式的な収入要件によることなく支給が認められるべきである。
 以上によれば、本件処分は、原告のB死亡の前年度の収入が、形式的には600万円を上回っていることのみを理由に行われたものといわざるを得ず、違法であるから取り消されるべきである。
第3 争点に対する判断
1 争点1(行政手続法8条の理由提示の有無)について
 行政手続法8条が申請に対する拒否処分に際して理由を示さなければならないとしている趣旨は、拒否理由の有無についての行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることにあると考えられる。このような同条の趣旨にかんがみれば、申請に対する拒否処分に付記すべき理由は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して行政処分が行われたかを、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、かつそれで足りると解すべきである。
 本件処分においては、前提となる事実関係及び具体的法規自体の記載はされていないものの、被告が、通知書において「死亡した者によって生計を維持していたものとは認められないため」と記載していることに照らせば、原告の遺族厚生年金を支給する旨の裁定を求める申立てが、その主張するような具体的な事実関係の下において、法59条1項の「死亡した者によって生計を維持したもの」に該当することを主張するものであるのに対し、本件処分は、被告において同条同項の生計維持要件を満たすかを審査した結果、これを満たさないものと判断したものであることが、通知書の記載自体から十分了解可能であったといえる。そうすると、本件では、被告がいかなる事実を前提に、いかなる法規の要件を審査して判断を下したかについて、原告が了知することは可能であったというべきであるから、本件処分に行政手続法8条の理由提示の要件を満たしていない違法があるとの原告の主張は理由がない。
2 争点2(本件処分の適法性)について
(1) 法の趣旨について
 法は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することをその目的として定めている(法1条)。そして、法6条に定める適用事業所に使用される65歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とされ、保険給付に要する費用は被保険者及び被保険者を使用する事業主が半額ずつ負担する保険料及び特別保険料(法81条、82条、89条の2)並びに国の負担金によるものとされているところ(法80条)、掛金は被保険者の標準報酬月額(法22条)等を標準として算定され(法81条3項)、被保険者期間中の毎月の報酬(法3条1項3号)その他の給与から控除されることとされており(法84条1項)、給付額は原則として標準報酬月額及び被保険者期間から算定され、遺族厚生年金もその例外ではない(法60条、43条)。これによれば、法が規定する遺族厚生年金は、被保険者等の死亡に際して、これによる稼働能力の喪失をその拠出の程度に応じた保険給付によって補填し、被保険者等の稼働によって生計を維持していた遺族の生活保障を目的とするものということができる。
 このような法の趣旨によると、法59条1項が生計維持要件を規定する理由は、上記遺族のうち被保険者等により生計を維持していた者でない者については、被保険者等の死亡によっても遺族厚生年金により生活保障が与えられる必要性が低いと考えられるところにあると解される。ところで、生計維持要件該当性の有無の認定は、一般の社会経済状況の変化に応じて不断に変動し得る性質のものであるから、法自体において固定的かつ数量的な基準を定めるのは相当でなく、むしろ、このような変化に即応し得るように法自体では抽象的な要件を定めるのにとどめ、その適用に当たって一般の社会経済状況の変化を踏まえた解釈を行うことが必要である。法59条1項が、単に「その者によって生計を維持したもの」との抽象的な定めを置いているのは、このような趣旨に基づくものである。他方、同条4項は、生計維持要件の認定に関し必要な事項は政令で定める旨規定している。被告は、この規定につき、単に生計維持要件の認定に関する手続事項を定めることを委任するものではなく、その実体的要件についての行政解釈を他の法形式ではなく政令で定めることとしたものと解するのが相当であると主張している。しかし、この規定の文言からすると、これをそのような趣旨と解するには疑問がある(なお、被告は、同条同項は、昭和60年の公的年金制度の再編・統一化の流れに合わせ、各年金制度の間で収入要件について同一解釈を採ることを可能にするため、共済年金の規定に倣い規定されたものである旨の主張をするが、そもそも共済年金について、「主として組合員の収入により生計を維持することの認定に関し必要な事項は、政令で定める」旨を規定する国家公務員共済組合法2条2項等の規定が、いかなる趣旨のものであるかについても、これを明らかにする証拠は提出されていない。その上、厚生年金保険の被保険者には、適用事業所の従業員のみならず、その事業主と同視し得るような経営者も含まれているのであり、そのような立場の者を組合員に含まない共済年金と厚生年金とを形式的に同一に扱おうとすること自体に無理があるといえよう。)。また、仮にそのように解し得るとしても、上記のような生計維持という事柄の性質上、それが固定的かつ数量的な基準を定めることになじまない要件であること、及び、収入自体その実態には多様な性格のものが考えられることからすると、これを受けて行政解釈によって何らかの基準を定める際には、要件該当性を容易に認定し得る者の範囲を画する基準を策定し得るにとどまり、当該基準を形式的に満たさない場合に要件該当性を一切否定するための基準を策定することは許されないと解するのが相当である。すなわち、同項に基づいて定められた法施行令の基準は、その基準を満たせば当然に要件該当性を認定するとの運用を行うことにより、多数の裁定請求の大部分を一律かつ迅速に判断する一方、その基準に形式的には該当しない事案については、基準に該当しないことのみで不支給と即断することなく、当該事案について子細に検討した上で、法の定める生計維持要件を実質的に満たすか否かを健全な社会通念に照らして判断する余地を残しているものでなければならないと解するのが相当である。現に、法施行令を受けて発せられた通達2が数量的な認定基準を定めつつ、同通達の別添1(1)ただし書きにおいて「これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、この限りでない。」と定めているのも、この趣旨に基づくものと解すべきであって、例えば、形式的には認定対象者に属する恒常的な収入があり、その額が厚生大臣の定める額を上回っている場合であっても、当該収入の全部又は一部が認定対象者の労働の対価に見合うものではなく、むしろ実質的には被保険者の収入の一部にすぎず、認定対象者の労働の対価と実質的に認められる額自体が厚生大臣の定める額を下回っていると認め得る場合には、法59条1項及び上記通達2のただし書きの趣旨からすると、当該認定対象者は被保険者によって生計を維持していたものと解するのが相当である。とりわけ次に認定するように、被保険者が単なる従業員ではなく適用事業所の経営者であって、その経営実態からして事業主と同視し得る者であり、認定対象者もまた当該事業所から収入を得ている場合には、その収入に実態のないことが少なくないのであるから、この点を十分に吟味する必要がある。
(2) 以上のような観点から本件を見るに、前記前提となる事実に証拠(甲1、4ないし11、15、17、乙1ないし3、5、6、8、10(各枝番号を含む。)、原告)及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実を認めることができる。ア 小泉工業所は、昭和26年11月に群馬県伊勢崎市で、Gにより設立され、昭和50年に現在の本店所在地に本店を移転した同族経営の会社であり、その資本の額を1000万円、主たる事業目的を、家庭用電気機器・空気調和機器部品・自動車部品の板金加工等とする会社である。Bは、昭和49年12月、Gから小泉工業所の代表取締役を引き継いだが、その後の小泉工業所の経営面、人事面等は、全てB一人の意思の下に決定されていた。平成4、5年ころのコイズミ社の従業員は、約60名であり、そのうち、事務所で勤務する者は、原告を含めて5、6人であり、その余の従業員は、同社の工場で勤務していた。
イ 原告は、昭和37年6月にBと結婚し、昭和39年1月にEを、昭和40年7月にFを、昭和43年に長女及び次女を出産した。
 原告は、Fが2歳になり、育児が楽になり始めた昭和42年7月1日から、人手不足を理由にBから依頼され、小泉工業所に勤務するようになった。当時の原告の仕事は、ベテランの経理責任者の指導・指示の下に、主に小口の現金出し入れと管理、現金出納帳への記帳等の経理に関する補助的業務や、伝票整理等の一般事務、その他の雑務であった。その後、原告は、長女・次女の出産及び育児のため、一時会社の仕事を離れた。
ウ 昭和49年12月、Bは、小泉工業所の代表取締役の地位をGから引き継ぐと、原告を監査役として登記し、原告に「ちょっと手伝って欲しい。」と声をかけたため、原告は、昭和50年1月ころから、1日4~5時間程度の事務の補助として業務に従事するようになった。当初は、適当な経理責任者が見つかるまでとの約束であったが、適当な経理責任者が見つからなかったこと、同族会社であったこと等から、原告は、昭和52年2月1日から平成3年12月まで経理責任者とされ、1日5~6時間程度、経理事務を担当するようになった。この間の原告の業務内容は、Bの指示による銀行への提出書類の作成、従業員の給料計算、経理上の基礎資料の作成等であり、原告は、少額の現金の出納と現金及び当座勘定の帳簿への記帳等日常的に反復継続される経理上の業務については自らの力でこなしていたが、経理事務はもとよりコイズミ社の経営に必要な知識・経験を有しておらず、それを得ようともしていなかったことから、少しでも経営的判断が必要な経理事務に関しては、原告自身の判断に従って仕事を行うことはなく、常にBの指示に従っていた。また、上記以外の帳簿処理や税務申告は一切税理士に依頼されており、 原告はその内容について検査や確認を行ったり、自らの意見を述べることはなく、会社やBからもそのようなことは求められてもおらず、確定申告書等にはBや税理士から言われるままに署名押印していたにすぎない。さらに、コイズミ社の事務所には、原告のほかに伝票処理等を行う事務員等もいたが、原告は、それらの事務員を指導監督することもなかった。
エ 平成3年12月、小泉工業所は、コイズミ社へと組織変更し、Bが代表取締役に、D、E、Fが取締役に就任したが、Bは、Eを将来の代表取締役にしようと考えていたので、コイズミ社内外で、将来の社長はEであると公言していた。オ Bは、平成3年の夏過ぎから体調を崩し、平成4年3月の検査で胆道癌と判明して以降、3度の入院生活を送ったが、3度目の入院以降は、Eに対し、同人を代表取締役に就任させることを意識した指導を行っていた。
 Bは、平成6年2月24日、死亡した。
カ 原告に対する報酬として平成5年に支払われた金額は、690万円であったが、その内訳は、1月から3月までが月額50万円、4月から12月までが月額60万円であった。
 原告は、平成6年1月23日、監査役を辞任した上、同年2月14日、コイズミ社の取締役に就任し、同年3月3日、Dとともに共同代表取締役に就任したが、平成8年11月12日に代表取締役を退任し、同日付けでEが代表取締役に就任した。この間、原告に対する報酬として支払われた金額は、平成6年950万円、平成7年996万円、平成8年996万円、平成9年540万円と推移しており、平成9年以降は、報酬に変動はなく、現在に至っている。
キ 役員報酬の決定は、コイズミ社の定款により株主総会の決議事項とされているものの、Bの死亡前は、全てBが独自の判断で決定していた。
 また、Bの生前、Bと原告の報酬は、それぞれコイズミ社から各自の口座に振り込まれていたが、Bは、自らの報酬はすべて交際費等に費消した上、不足分は原告の報酬から支払うよう原告に対して一方的に命じていたため、結局、原告は、自己の報酬として振り込まれた金額のうち毎月25万円程度を使用し得るにすぎず、それによってBと自己の日常生活費をまかなっていた。
(3) 以上の事実によれば、生計維持要件の認定に際し、通達2の認定基準で基準とされている、B死亡の前年である平成5年の原告の収入は、一応690万円である。これは、監査役としての役員報酬名義でコイズミ社から原告の銀行口座に振り込まれたものであるから、法形式上は原告の収入といわざるを得ない。
 しかし、コイズミ社においては、Bが会社の経営方針及び実際の運営方法の決定権限を名実ともに有していたと認められること、原告は会社経営に関する知識を有しておらず、会社の業務及び財産状況の調査についての知識・経験を有するとも認められず、原告が、監査役の職務とされている取締役の職務の執行の監査並びに会社の業務及び財産状況の調査等の業務を行っていたものとは到底認められないから、原告の監査役就任は、実体を伴わない名目上のものにすぎないというべきである。さらに、原告の平成5年の監査役としての報酬の内訳は、1月から3月までが月額50万円、4月から12月までが月額60万円であるところ、原告の実際に行っていた業務の内容は、同年9月までと同年10月以降との間で、全く変化していないことが認められるから、原告の得ていた収入が、原告の担当していた業務内容に照らして決定されたものであるともいい難い。
 また、原告は、B死亡前、コイズミ社の経理責任者としての肩書きを持ち、確定申告書等の書類に、経理責任者として署名・押印していたものの、原告は、経理に関する専門的知識・経験を何ら有しておらず、実際にはBの決定に基づき、税理士の作成した書類に言われるままに署名・押印していたにすぎないものであることは前記認定事実のとおりであるから、経理責任者としての肩書きもまた、名目上のものにすぎないといわざるを得ない。そして、前記認定事実によれば、原告の実際に担当していた業務は、原告自身の裁量の余地が存在しない、従業員の給与・賞与計算、Bに指示された資料の作成等の雑務であるから、原告の担当業務は、他の従業員により代替可能な簡単な事務処理の範疇に属するものであったというべきである。
 以上によれば、原告は、名目上はコイズミ社の監査役及び経理責任者として同社に勤務していたとされているものの、実際には、いずれの業務も行っておらず、定型的な事務作業に携わる一従業員として、他の同社事務所に勤務する従業員と同じ立場で勤務していたというのが実情であると認められ、このような従業員が通常受領している賃金水準と対比すると、原告に監査役の報酬名義で支払われていた690万円の報酬は、原告の労務の提供の対価として相当と認められる額を超えて決定され、支払われていたものということができる。
 ところで、原告に対する報酬として平成5年に支払われた690万円という報酬額は、中小規模株式会社の監査役の報酬としても比較的高額であるところ、原告が、名目上の監査役・経理責任者にとどまるにもかかわらず、そのような高額の報酬を得ることができたのは、前記認定事実によれば、Bが、コイズミ社の経営方針の決定から実際の会社運営の細目的事項に至るまでを自らの意思に基づき決定する権限を持ち、これに基づいて原告の監査役就任及びその報酬を決定していたためであると推認することができる。そして、このように、Bが妻である原告を名目上監査役に就任させて、高額の報酬を支払っていたのは、身近な親族を役員に就任させることで会社運営の円滑化を図るとともに、配偶者の報酬を高額に設定して自らの生計を豊かにすること、あるいは自らに対する報酬の一部を、配偶者の役員報酬に上乗せして本来支払うべき所得税額を軽減すること等を意図して行った一種の便法によるものであることが強く推認されるのであり、本件全証拠によっても、これらのような推認を覆すに足りる事実は認められない。
 以上によれば、原告の平成5年度の報酬690万円のうち、原告の実際の労務の提供に対する対価と認められる額を超える部分は、Bによるコイズミ社の経営権の掌握に由来する収入であったというべきであるから、原告がBの存在なくして独立に得ることのできた収入であるとは認められない。そして、原告が平成5年当時コイズミ社で従事した業務の内容・勤務態様に照らせば、原告の労務の提供と対価性を有すると認められる収入額は、同規模の会社従業員の収入額との比較において、600万円に達するとは到底認められず、原告が現にBと原告の日常生活費として支出していた年間300万円程度を上回るものではないと認められるから、原告のB死亡前年の収入のうち、自らの労働の対価と実質的に認められる額は600万円に達していないというべきであって、それを超える部分は、Bの意向に基づき、その収入の一部分を法形式上原告の収入として原告に支払われたものにすぎないと認めるのが相当である。
 そうすると、本件の場合には、原告の収入が形式的にみて厚生大臣の定める額を上回っていることのみをもって法59条1項の要件を満たさないものとすることは、仮に同条4項の趣旨が被告主張のようなものであるとしても、それに基づいて定められた行政解釈又は解釈基準が同条の趣旨に反するものといわざるを得ず、Bの存在があってはじめて基準以上の収入を得られたことに照らして、原告は、被保険者であるBによって生計を維持していたものと認めるのが相当である。(4) なお、原告は、B死亡後において、コイズミ社の株式の過半数を所有しており、形式的には取締役の選任や役員報酬を決定する権限を有していたこと、B死亡と相前後してコイズミ社の代表取締役に就任し、平成6年度においては950万円もの役員報酬を得ていることが認められるが、これらはいわば結果論であって、上記のとおり、原告が被保険者の死亡時において同人によって生計を維持していたと認められる以上、仮に、その後原告が自らの労働によってその生計を維持し得るようになったとしても、そのことは、遺族厚生年金を支給すべきか否かを判断するに当たっては、無関係の事情というほかない。
(5) したがって、被保険者により生計を維持されたとはいえないとして、原告に対して遺族厚生年金を不支給と決定した本件処分は、その判断に誤りがあり違法であるから、取り消されるべきである。
第4 結論
 以上の次第であるから、本件請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 加藤晴子
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