主文 被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
 理由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,福島県郡山市内で出生し,地元の県立高校を卒業後,同市内の衣料品販売店や飲食店従業員として稼働した後,平成10年12月から同県須賀川市内にある宅配業者であるA須賀川支店に勤務し,本件犯行時まで稼働していた。被告人は,平成9年7月婚姻し一男をもうけたが,同13年10月協議離婚した。
 被告人は,平成11年ころから,本件ゲーム喫茶店「B」に頻繁に通いポーカーゲームなどのゲーム機賭博に耽るようになり,同店店長Cとも親しくなり,世間話をするようになった。被告人は,いわゆるサラ金業者等から借金をしてまでもなおゲーム機賭博を続けるなどしたことから,上記のとおり,平成13年10月離婚したが,離婚時まで居住していた郡山市内のアパートを引き払わず借りたままとする一方,同市内の実家で寝泊まりしつつ,ますますゲーム機賭博に耽り続け借金を増やしていった。被告人は,平成14年1月ころになると,市中のサラ金業者からさえ金員を借入れできなくなったが,暴利の金融業者から借入れをしてまでゲーム機賭博を続けた。被告人は,本件犯行までの約3年の間に多額の金銭(被告人は1000万円以上になる旨自認する。)をゲーム機賭博につぎ込んでおり,これまでも両親から借金返済のためことあるごとに多額の援助を受けたばかりか,本件犯行時手取りで月約40万円の給料を貰っていたにもかかわらず,当時の負債額は,合計約300万円にのぼっていた。
 被告人は,勤務先のA須賀川支店で宅配手荷物等の集荷,配達等の業務に従事していたが,それまで2度にわたり,配達先から集金した金を借金の返済やポーカーゲーム機賭博などに使い込み,これが勤務先に発覚し,勤務先の店長から,今度使い込みをしたら解雇する旨警告されていた。それにもかかわらず,被告人は,同年2月16日,配達先から集金した13万6500円をゲーム機賭博などに使い込んでしまった。そこで,被告人は,遅くとも同月19日までに使い込んだ13万6500円を穴埋めしなければ,勤務先に被告人の使い込みが発覚し,解雇されることが必至であった。
 被告人は,解雇されるのを避けるため,同月18日の勤務を終えた後,上記使い込んだ13万6500円を翌日までに穴埋めすべく,暴利の金融業者から借り入れた8万円を元手に金を増やそうとして,同月18日午後11時ころから,「B」において,ポーカーゲーム機賭博を行ったが,翌19日午前1時ころまでにこの8万円のほとんどを使ってしまった。
 被告人は,同日午前3時ころ,一旦同店を出たものの,勤務先を解雇されないようにするためには,当日の出勤時刻までにはなんとしても13万6500円を工面しなければならないと思ったが,被告人には当時,家族,知人などで借入れのできる当ては全くなかった。被告人は使い込んだ金の上記穴埋めのほか,さらに同月23日及び25日に返済期日が到来する暴利の金融業者への返済金約26万円を用意しなければ,苛酷な取り立てを受けるおそれもあったことから,これら約30数万円の金を工面する必要に追い込まれた。被告人は,このような切羽詰まった状況の中で,「B」なら賭博のために客がつぎ込んだ現金が7,80万円はあるだろうと考えるとともに,同店はゲーム機賭博をしているのだから,被告人が金を脅し取っても警察に届け出ることはないだろうなどと期待して,同店店長のCを脅してでも金を奪い取ることを決意し,当時寝泊まりしていた実家から所携の果物ナイフ(平成14年押第11号の3及び4)を持ち出して,同日午前4時30分ころ,同店に戻ってきた。
 被告人は,同店にいたCに対し,携帯電話を忘れた旨告げて,同店内に入った後,当初は同人に「店のゲーム機につぎ込んだ金を返してくれないか。」などと言って金員交付を懇請したものの,同人に拒絶された。
(罪となるべき事実)
 被告人は
第1 金員などの財物を強取することを企て,平成14年2月19日午前4時50分ころ,福島県郡山市DE丁目F番G号Hビル1階所在のゲーム喫茶「B」店舗内において,同店店長C(当時35歳)に対し,所携の果物ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)(平成14年押第11号の3及び4)を突き付け「切羽詰まってんだ。」などと言って脅迫し金員などの財物の交付を要求したが,同人に抵抗されたことから,同人を殺害して金員などの財物を強取しようと決意し,殺意をもって,上記果物ナイフ並びに同店舗内にあったプラスドライバー(同号の1),マイナスドライバー(同号の2)及びはさみ(同号の5)で同人の頚部及び顔面等を多数回にわたって突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を頚部刺創による失血及び血液吸引による窒息により死亡させて殺害し,同人所有又は管理にかかる現金約47万7484円及びセカンドバッグ等31点(時価合計約6948円相当)を強取し,
第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時・場所において,刃体の長さ約10センチメートルの上記果物ナイフ1丁を携帯し
 たものである。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は刑法240条後段に,判示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に各該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については無期懲役刑を,第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるところ,判示第1の罪の刑につき無期懲役刑を選択したので同法46条2項本文により他の刑を科さないで,被告人を無期懲役刑に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)
 本件は,被告人が,ゲーム機賭博に夢中になり,仕事先から集金した金を使い込んだり金融業者から借入れした結果,その金を返済する資金を獲得するため,行きつけのゲーム喫茶店の店長である被害者の頚部,顔面,頭部等を果物ナイフ,はさみ,ドライバーで数十回にわたって突き刺して殺害し,現金等を強取した強盗殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。
 被告人は,かねてゲーム機賭博をしていたが,平成11年ころからは,勤務終了後,深夜までゲーム機賭博を行うようになるほど熱中し,同13年10月に離婚してからはさらにその頻度が増し,ついには,それまで賭博の資金を借り入れていた市中のサラ金業者からの借入れもできなくなり,暴利の金融業者から借入れをしたり,勤務中に集金した金を使い込んでまで,ゲーム機賭博に耽るようになったものである。被告人は,本件犯行までに両親などから金銭的な援助を受けてその負債を整理してもらうなどし,被告人の生活態度を立て直す機会を1度ならず与えられたのに,それまでの生活態度を改めず,なんら自制することなく,ゲーム機賭博に耽り続けたあげく,多額の現金を工面する必要に迫られることになったのであり,その結果はまさに自業自得というほかなく,かかる経緯に同情すべき点を見い出すことはできない。被告人は,借入金の返済や使い込み金の穴埋めに苦慮するや,安易に現金を手に入れようとして本件犯行に及んでおり,その動機は全く身勝手かつ短絡的で自己中心的なものといわざるを得ず,酌むべきものは全くない。被害者は賭博行為を行っているゲーム喫茶店の店長であったものの,被告人の全く理不尽な金員要求行為に対し,被害者がこれを拒絶したのは当然の行為であり,被害者が被告人に殺害されるに当たって落ち度があったということはできない。
 被告人は,あらかじめ実家から果物ナイフを持ち出して準備したほか,自動車の中にあった軍手を用意して本件現場に赴いており,犯行は計画的な面もうかがわれる。被告人は,本件犯行において,当初は被害者から金員などの財物を強取しようとして所携の果物ナイフを突き付けて脅迫したが,被害者から抵抗されるや,被害者を殺害してでも金員などの財物を強取するしかないと決意し,上記果物ナイフで被害者の後頚部を突き刺した上,被害者を殺害すべく確定的殺意をもって,店内にあったはさみの片刃で右頚部を3回にわたり突き刺し,さらに,かすかに声を上げてわずかな反応を示した被害者の息の根を完全に止めてとどめを刺すべく,店内にあったプラス及びマイナスの2本のドライバーを使用して,被害者の顔面,頭部,頚部等を多数回力一杯突き刺している。果物ナイフの刺突における刺創の深さは約8・5センチメートルに及び深々と後頚部に突き刺さり,その刃先は頚椎に当たり湾曲するほどに変形しているのであって,被告人は極めて強い力で刺突している。また,右頚部に対するはさみの片刃による刺突においても,被告人はえぐるように深々と差し込んでいる上,その刺突行為は3回にも及んでおり,これまた極めて強い力で執拗に刺突している。さらに,被告人は,2本のドライバーを使用して,被害者の顔面,頭部,頚部等を多数回力一杯刺突しているのであり,その刺突箇所は数十箇所に及んでおり,無惨としかいいようがない。本件犯行は,確定的殺意に基づいたもので,犯意も強固であり,執拗で残虐かつ無惨で悪質極まりない。
 被害者は果物ナイフで後頚部を刺された後,果物ナイフの刃先で頭部,顔面等を突き刺されたあげく,はさみの片刃で右頚部を3回にわたり刺されてとどめにドライバーにより顔面,頭部,頚部等を滅多刺しにされ,計り知れない肉体的,精神的苦痛に苛まれながら,苦悶のうちに血まみれになって,35歳というまさに人生の半ばにして突然その生涯を閉じるに至ったのである。かかる被害者の無念さ,くやしさは筆舌に尽くしがたい。被害者の遺族である母親と兄,姉,妹らは,被害者の突然の死に直面してその現実に向き合いながらも,被害者の死をどのようにして受け止めていいのか,苦慮しながら一人一人が癒されぬ日々を送っており,かかる遺族の悲痛は計り知れないものがある。特に,被害者の母親は,厳しい処罰感情を訴えている上,被害者の妹も当公判廷において,被害者の死に直面した遺族の未だ癒されぬ被害感情を切々と訴えている。今日に至っても遺族との間の示談は未了である。
 これらの事実に,残酷で無惨としかいいようのない本件犯行が報道されるに及んで社会に与えた衝撃は計り知れないものがあることをも併せ考えると,被告人の刑責は極めて重い。
 したがって,被告人が当公判廷において被害者の遺族らに謝罪の意を表し,遺族らに宛てた謝罪文を書き送るなど改悛の情を示していること,前科がないこと,被告人が相当期間身柄拘束を受けたこと,父親が当公判廷において今後罪を償っていく被告人の支えになる旨述べていることのほか,被告人の年齢,家庭の事情,反省の情,更生の決意など,被告人のために有利に斟酌すべき事情を十分考慮しても,本件においては酌量減軽をするだけの事由があるとはいいがたく,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当であると判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 無期懲役)
平成14年9月20日
 福島地方裁判所刑事部
 裁判長裁判官 原 啓
裁判官 本 間 陽 子
裁判官 久 保 孝 二
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket