主文
1 被告が原告に対し平成12年10月16日付けでした「建築基準法6条5項の規定による適合しない。」旨の通知処分を取り消す。
2 被告が原告に対し平成12年11月13日付けでした「建築基準法6条5項の規定による適合しない。」旨の通知処分を取り消す。
3 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文同旨
2 被告
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,被告が,1平成12年10月16日付けで,原告に対し,原告が平成12年9月19日付けでした建築基準法6条1項の規定に基づく建築確認申請(以下「本件確認申請1」という。)について,「当該確認申請の申請敷地には既に使用されている建築敷地が重複して存しており,建築基準法43条1項の規定に適合しない。」として,「建築基準法6条5項の規定による適合しない。」旨の通知処分(不適合処分)をし(以下「本件不適合処分1」という。),また,2平成12年11月13日付けで,原告に対し,原告が平成12年10月25日付けでした建築基準法6条1項の規定に基づく建築確認申請(以下「本件確認申請2」という。)について,「当該確認申請の申請敷地には既に使用されている建築敷地が重複して存しており,建築基準法43条1項の規定に適合しない。」として,「建築基準法6条5項の規定による適合しない。」旨の通知処分(不適合処分)をした(以下「本件不適合処分2」という。)ことから,原告が,本件各不適合処分は違法であるとして,これらの処分の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)(1) 本件確認申請1及び本件不適合処分1
 原告は,別紙目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録(二)の土地の東南部分を建物建築敷地として,平成12年9月19日付けで,既存建物を取り壊し新たに建物を建築するために建築基準法6条1項の規定に基づく建築確認申請をした(本件確認申請1)。
 被告は,平成12年10月16日付けで,原告に対し,本件確認申請1について,「当該確認申請の申請敷地には既に使用されている建築敷地が重複して存しており,建築基準法43条1項の規定に適合しない。」として,「建築基準法6条5項の規定による適合しない。」旨の通知処分をした(本件不適合処分1)。(2) 本件確認申請2及び本件不適合処分2
 原告は,今度は「取壊し」ではなく「増築」として,本件確認申請1と同様の土地を建物建築敷地として,平成12年10月25日付けで,建築基準法6条1項の規定に基づく建築確認申請をした(本件確認申請2)。
 被告は,平成12年11月13日付けで,原告に対し,本件確認申請2について,「当該確認申請の申請敷地には既に使用されている建築敷地が重複して存しており,建築基準法43条1項の規定に適合しない。」として,「建築基準法6条5項の規定による適合しない。」旨の通知処分をした(本件不適合処分2)。(3) 本件各不適合処分の具体的理由
 上記「既に使用されている建築敷地が重複して」いるというのは,訴外a(以下「a」という。)が,平成4年4月6日付けで同人の所有地である別紙目録記載(三)及び(四)の土地上に建物の建築を企図して本件土地をも建物敷地として建築確認申請をなし,平成4年4月18日付けで建築確認を受けているところ,本件土地の幅員が3メートルしかないため,本件各確認申請においては,aの受けた建築確認の内容と接道が重複するということである。
(4) 各審査請求及びこれらに対する裁決
 原告は,津市建築審査会に対し,平成12年12月15日付けで,本件不適合処分1につき,平成13年1月12日付けで,本件不適合処分2につき,それぞれ,審査請求をした。
 津市建築審査会は,平成13年12月7日付けで,上記各審査請求を棄却する旨の裁決をした。
2 争点
 本件の主たる争点は,「当該確認申請の申請敷地には既に使用されている建築敷地が重複して存しており,建築基準法43条1項の規定に適合しない。」旨の理由で不適合処分をなすことが適法であるか否かという点と,本件において,原告に対し,被告が本件各不適合処分をなすことが信義則上許されず,権利濫用に当たるか否かという点である。
3 争点に関する当事者の主張
(原告の主張)
(1) まず,別紙「概略図面」を用いて本件の経緯について説明する。ア 原告は,原告所有の既設建物の存在する建物敷地(原告所有地A-1部分)の建物建築のため,本件土地(b部分)の幅員3メートルの2分の1(本件土地は,共有土地であり,原告の持分は2分の1である。)を,その接道として,昭和45年3月24日付けで建築確認申請をなし,建築基準法に適合するものとして建築確認を受けていた。
イ aは,昭和61年9月25日,a所有地(B部分)にa所有の建物建築のため確認申請をし,建築確認を受けた。この際接道の競合問題がどのように事前に検討されたかは明らかでない。しかし,この建築確認がなされてaが工事を始め,これを知った原告が行政機関に抗議したため,三重県はaに対し,接道の競合を理由に工事の中止を命じ,aもこの建物建築を断念した。
ウ aは,平成4年4月6日付けで,再度a所有の土地(B部分)に建物建築を計画し,行政関係者らと事前に協議し,建築確認申請をなし,建築確認を受けた。上記建築確認申請書には,接道が重複することになる本件土地は,地番表示においても,図面においても,全部aの単独所有地であるかのような記載がなされているが,aは昭和55年に原告以外の者から本件土地の共有持分2分の1を取得したにすぎず,本件土地は原告との共有であった。
 原告は,事前に,原告が既に使用している2分の1の接道部分が重複するから建築確認を認めるのは違法である旨建築主事らに指摘してきたが,建築主事は権利の重複等私権の存否については調査する権限も義務もないとして建築確認をした。エ そこで,原告は,将来原告が既に建築確認を得て既設建物を建築している建物敷地(A-1部分)について,建物の増改築や建替え等の際に,「本件共有地」を接道として当然に利用できると考え,平成12年9月19日付け及び同年10月25日付けで,A-1部分を建物敷地とする増改築や建替えについての建築確認申請をした(本件各確認申請)。しかし,本件各確認申請は,既にaが建築確認を得ているa所有地(B部分)の接道部分と重複するから法に適合しないとして却下された(本件各不適合処分)。
(2) 上記のように,原告が,法に従って,既に接道義務が満たされているということで建築確認を受けていた建物敷地の建物を建て直すに当たって,敷地の重複が認められなされたaの得た建築確認と敷地の重複があるからとの理由で本件各確認申請が却下されたことは到底容認できない。
 仮に,aが,三重県の土木職員であっても,また,仮に建築が許されることを前提とした内容の仮処分決定を利用したとしても,到底許されるものではない。このような行政処分が恣意的に相手によって不利不当に差別することは到底許されない。法の下の平等の至上原理に反する。
(3) 被告は,申請書以外の事実から確認申請を却下することは違法でないとの学説を引用するが,原告の既得の建築確認を,その後のこれと重複するaの受けた違法というべき建築確認によって,消滅させることができるのか,それが許されるか論じないで,aの接道を是認しこれを前提に原告の本件各確認申請を認めなかったことは許されない。
(4) よって,「当該確認申請の申請敷地には既に使用されている建築敷地が重複して存しており,建築基準法43条1項の規定に適合しない。」旨の理由で不適合処分をなすことは違法であり,仮に,一般的にはこれが違法ではないとしても,本件において,被告が本件各不適合処分をなすことは,信義則上許されず,権利濫用に当たる。
(被告の主張)
(1) 敷地の重複使用については,「既にA建築物の敷地とされている土地の一部を新たに別個のB建築物の敷地として確認申請があった場合・・・一建築物一敷地の原則が建基法の大原則である以上,既にA建築物の敷地である土地を敷地とした確認申請はそれ自体建基法に違反するものであり,そのことが判明している以上確認すべきでない(少なくとも確認しなくてよい)ことは明らかだと思われる」(梶原茂・楠本安雄共著「建築紛争処理の法と実務」ぎょうせい・61~63頁)とされており,原告の本件各確認申請は既にaの建物の敷地とされている本件土地を新たに原告が建てる建物の敷地として重複使用するとしてなされたものであり,被告のなした本件各不適合処分は違法でない。
(2) 信義則違反,権利濫用との旨の原告の主張は争う。なお,aの受けた建築確認は,被告ではなく,三重県建築主事がなしたものである。
第3 当裁判所の判断
1 建築基準法(改正前。以下同じ。)6条1項に規定するいわゆる建築確認は,申請に係る建築物の計画が当該建築物の敷地,構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築関係規定」という。)に適合していることを公権的に確認する行為であり,申請書を受理した建築主事は,申請に係る建築物の計画が建築関係規定に適合しているか否かを審査すべきものとされている(同法6条3項)。
2 ところで,1建築確認は申請人が当該申請にかかる建築物の敷地を使用し得る私法上の権利を有するかどうかとは無関係に行われるものであり,建築主事の審査すべき対象事項の中には,建築予定地たる申請敷地に対して当該建築主が真実所有権や賃借権等の実体上の使用権を有しているか否かは含まれていないから,建築主事は,ただ,申請敷地が存在するか否か,公道が存在するか否か,申請敷地が接道義務を満たしているか否か等の外形的事項について審査すれば足り,申請敷地の使用権の有無まで審査する義務や権限はないと解せられること,2そもそも,建築確認がなされたからといって当該建築主にその申請敷地に対する実体上の使用権が発生するわけではないこと,3そして,建築関係規定中には,ある土地をある建物の敷地とする建築確認がなされた場合に,後にその敷地の一部を他の建物の申請敷地とする建築確認申請(敷地の重複申請)及び上記のような申請に対する建築確認(敷地の重複確認)を直接禁止する規定がないこと,以上の点を考慮すると,建築主事は,当該建築確認申請が敷地の重複申請に当たるか否かまで審査する義務はなく,また,たとえ何らかの事情により当該申請が敷地の重複申請に当たることを知ったとしても,そのことについて行政指導をするかどうかはともかく,最終的にはこれを考慮することなく,当該申請に係る建築物の計画が建築関係規定に適合するかどうかを審査すれば足り,当該申請が敷地の重複申請であることを理由に不適合処分をすることは許されないものと解するのが相当である。
 しかるに,本件各不適合処分は,対応する確認申請(本件各確認申請)が敷地の重複申請に当たるとの理由でなされたものであるから,いずれも違法であるといわざるを得ない。
 この点,被告は被告の主張(1)のとおり主張しているところ,なるほど建築基準法施行令1条1号は,敷地につき「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう。」と定義して,「一建物,一敷地の原則」を定めており,この規定によれば,建築基準法は同一敷地を異なる建築物が重複して使用し,既存の建築物の違法化を招くことを容認しない建前を一応とっているとはいい得る。しかし,この規定は,直接には個々の建築物について独自の敷地が成立するという原則を規定したもので,敷地相互間の関係について規定したものではないこと,現行法上建物とその敷地との関係を公示する制度はなく,建築確認の申請書の保存期間等についても何らの規定も設けられていないこと,土地の利用関係に関する私人間の紛争は最終的には民事裁判によって確定されるべきものであることからして,この規定をもって,敷地を二重使用することとなる建築確認が重複的に行われることが許容されないとするまでの根拠とすることはできない。したがって,同被告の主張は採用できない。
4 結論
 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
津地方裁判所民事部
裁判長裁判官 内田計一
裁判官 後藤隆
裁判官 大竹貴
(別紙目録及び概略図面は省略しました)
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