主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告が原告に対して平成11年1月26日付けでした,平成5年4月から平成10年3月までの文部省の委嘱事業に関する会計検査院からの指摘を受けた際の「実地検査の結果について」の会計検査院第4局長名の照会文書及び文部省委嘱事業に係る支出額調書を非開示とする旨の決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,富山県(以下「県」という。)内に住所を有する原告が,県情報公開条例(昭和61年9月30日県条例51号。以下「本条例」という。)に基づき,被告に対し,平成5年4月から平成10年3月までの間の文部省委嘱事業等についての会計検査院からの指摘事項に関する文書並びにこれに対する県の報告書・年度毎の総括表及び個別明細資料の開示を請求したところ,被告が,本条例10条4号(国等関係情報)及び7号(行政運営情報)に該当することを理由として,上記請求に係る公文書を開示しない旨の公文書非開示決定(以下「本件非開示決定」という。)をしたため,これを不服として同決定の取消しを求めた事案である。1 本条例の定め
(1) 公文書の非開示事由
 本条例10条は,公文書の開示の実施機関は,開示の請求に係る公文書に同条各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合は,当該公文書の開示をしないことができる旨規定しており,同条4号,5号及び7号は,それぞれ,次のアないしウのとおり,非開示とすることができる情報を定めている。
ア 4号(国等関係情報)
 県と国又は他の地方公共団体その他の公共団体(以下この条において「国等」という。)との間における指示,要請,依頼,協議,協力等により実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示をすることにより,県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められるもの
イ 5号(意思決定過程等情報)
 県又は国等の事務事業に係る意思決定過程において,県の機関内部若しくは機関相互間又は県と国等との間における審議,協議,検討,調査,研究等に関し,実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することにより,当該事務事業又は同種の事務事業に係る意思決定に支障を生ずると認められるもの
ウ 7号(行政運営情報)
 県又は国等が行う監査,検査,取締り,徴税,争訟,交渉,入札,試験,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示をすることにより,当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的が損なわれ,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に支障を生ずるおそれがあるもの
(2) 公文書の一部開示
 本条例11条は,実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に条例10条各号のいずれかに該当する情報が記載されている部分がある場合において,その部分を容易に,かつ,公文書の開示の請求の趣旨を損なわない程度に分離することができるときは,その部分を除いて,公文書の開示をしなければならないと定めている。
2 本件に至る経緯(証拠等を挙げない事実については当事者間に争いがない。)(1) 当事者
ア 原告は,県内に住所を有する者であり,本条例6条1項により,本条例の基づく公文書の開示請求権を有するものである。
イ 被告は,本条例2条3項により,本条例に基づく公文書の開示の実施機関となっている。
(2) 会計検査院の検査権限等
ア 会計検査院は,国の収入,支出の決算〔憲法90条1項,会計検査院法(以下「法」という。)20条1項〕について,正確性,合規性,経済性,効率性及び有効性の観点その他会計検査上必要な観点から検査を行い(法20条3項),決算を確認し(法21条),また,常時会計検査を行い,会計経理を監督し,その適正を期し,且つ,是正を図る(法20条2項)ものとされている。
イ 会計検査院の検査方法は,概略的には次の2つである。
(ア) 書面検査
 検査を受ける機関(以下「受検庁」という。)から,同院の定める計算証明規則により,受検庁で行った会計経理の実績を計数的に表示した計算書,及びその裏付けとなる各種の請求書,領収書等の証拠書類を提出させる方法(法24条)。(イ) 実地検査
 受検庁に職員を派遣して,関係帳簿や事務・事業の実態を調査し,又は関係者から説明を聴取する方法(法25条)。
 また,同院は,検査上の必要に応じて,帳簿,書類若しくは報告の提出を求め,又は関係者に質問し,若しくは出頭を求めることができ(法26条),これらの事項のうち,関係者に出頭を求めること以外は,局長(法12条2項,16条)の職権に属する(法38条,会計検査院法施行規則9条5号,11条)。ウ 同院は,国の収入支出の決算の確認のほか,検査の結果,法律・政令若しくは予算に違反し,又は不当と認めた事項の有無を,検査報告に掲記しなければならない(法29条3号)。検査報告事項については,検査官会議(法2条)の議決により,これを決する(法11条2号)。
(3) 文部省委嘱等事業についての会計検査院の検査
ア 文部省(平成11年法律90号による改正前の組織,現文部科学省)は,文部省(文化庁を含む。)が企画・立案した各種の教育関係等事業(教員が学習指導上の問題を研究協議するための研究集会の開催,学校・PTA等の関係者が生徒指導上の諸問題について情報交換等を行うための協議会の開催,教育方法等に関する調査研究等)の実施を各都道府県教育委員会等に委嘱又は委託し(これら事業を以下「文部省委嘱等事業」という。),その実施に要する謝金,旅費等の経費の全部又は一部を同省所管の歳出予算から直接支弁するなどしていたところ,その予算執行事務については,会計法48条(平成11年法律87号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,各都道府県の教育委員会教育長等が国の支出負担行為担当官として(会計法48条,13条3項),各都道府県の出納長が国の支出官として(会計法48条,24条4項),それぞれ事務を処理していた。
イ 会計検査院事務総局第4局文部検査第1課(以下「文部検査第1課」という。)は,平成10年6月1日から5日までの間,被告指導課及び県総合教育センターが所掌する文部省委嘱等事業〔研究指定校事業(経理については被告指導課等で所掌し,事業自体は各学校等で実施している。)等を含む。〕について,調査官を派遣して,関係帳簿や事務・事業の実態を調査し,関係者から説明を聴取するなどして検査を行った。その際,一部の事業で,謝金及び旅費を不正に支出させ,別途に経理するなどしていた事実が発覚し,その他の事業においても同様の疑いが生じた。そこで,文部検査第1課は,被告に対し,発覚した事実のほか,他の事業及び他年度分も含め,実施された文部省委嘱等事業の経理処理について,同院の指示に従い,詳細な事実関係の調査を行い,その結果を同院指定の様式による調書及び各種集計表に整理し,関係書類を添付して,文部検査第1課長宛てに報告することを求めた。
 被告は,同課から指示された調査を行い,その結果について,同院指定の様式による1調書〔不正支出額調書,指定校(地域指定事業等)調書等〕,並びに2各種集計表等〔示達額等年度別一覧表,不正支出額等・年度別集計表(総括表),不正支出額等・各課別集計表,不正支出額等・事業別集計表,不正支出額等・項目別集計表,別途経理資金等・使途別明細調書(総括表),使途別明細調書(各部局別),別途経理資金・収支状況一覧表(総括表),指定校事業・年度別一覧表,地域指定事業一覧表等〕,及び3関係資料〔委託事業等に係る歳入組入状況調書,示達通知文書等の収受状況調書,不正支出額等・態様別集計表(総括表),謝金に係る不正支出状況調書〕等に取りまとめ(以下,これらの文書を併せて「本件支出額調書等」という。),関係証票等を添付して,被告の教育長から文部検査第1課長宛ての報告文書として,同年10月9日,文部検査第1課に提出した。ウ 同院は,県の本件支出額調書等の提出を受け,同年11月4日,法26条に基づき,同院事務総局第4局長から県知事宛てに,「実地検査の結果について」と題した照会文書(104普第203号)に別途経理資金等・使途別明細表総括表,別途経理資金・収支状況一覧表,不正支出額・項目別集計表等を添付した文書(以下「本件照会文書」という。)を発遣し,同院の検査の結果に対する意見及び今後の処置について尋ねた。
 県知事は,同年11月9日,本件照会文書に対して,回答文書により,本件照会文書記載の事実関係等について,公式に確認した。
エ 会計検査院は,上記イの検査の結果を含む平成10年次(検査実施期間平成9年11月から平成10年10月まで)の文部省委嘱等事業に関する検査結果について,平成9年度決算検査報告において,同事業の目的や内容,事業経費の支弁方法,平成4年度から9年度までの事業経費の支出額とともに,不当事項(法29条3号)として,宮城県ほか21府県の教育委員会等において,架空の名目により謝金,旅費等を支出させ,これを別途に経理して目的外の用途に使用するなどしていた旨指摘し,不正支出額等として,次のとおり掲記した。
「事業経費の支出額 8,498,117,358円
不正支出の件数 3,962件
不正支出額 299,607,879円
別途経理額 296,194,203円
使用済額 245,676,677円
保有残高 50,517,526円」
 その上で,富山県の平成5年度から9年度における不正支出額等について,次のとおり掲記した。
「事業経費の支出額 535,539,376円
不正支出額 215件 5,631,733円
別途経理額 5,359,133円
使途済額 4,041,875円
保有残高 1,317,258円」
 同報告は,同年12月11日,同院から内閣に送付され,公表された。[調査嘱託の結果]
(4) 本件開示請求
 原告は,平成10年12月22日,被告に対し,本条例6条1項に基づき,平成5年4月から平成10年3月までの間の文部省の委嘱事業についての1会計検査院からの指摘事項に関する文書並びに2これに対する富山県の報告書(調書),年度毎の総括表及び個別明細資料などの開示請求をした。
(5) 本件非開示決定
 被告は,平成11年1月26日,原告に対し,本件開示請求に係る公文書を,1につき,「『実地検査の結果について』の会計検査院第4局長名の照会文書」(本件照会文書),2につき,「文部省委嘱事業に係る支出額調書」(本件支出額調書等)と特定したうえ,県と国との間における指示,要請等により作成,取得した情報であって開示することにより県と国との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められること,また,開示することにより関係当事者との信頼関係が損われ,県又は国の事務事業の公正かつ円滑な執行に支障を生ずるおそれがあることを理由として,本件各文書が本条例10条4号(国等関係情報)及び7号(行政運営情報)に該当するとして,本件非開示決定をした。
(6) 異議申立て等
 原告は,本件非開示決定を不服として,平成11年3月26日,被告に対し,異議の申立てをしたが,被告は,本条例13条に基づき県公文書開示審議会の議を経た上,平成12年4月13日,本件各文書が本条例10条4号及び7号に規定する非開示文書に該当するとして,原告の異議申立てを棄却した。
3 争点及び争点についての当事者の主張
(1) 本件各文書が本条例10条4号の非開示事由に該当するか否か(争点1)(被告の主張)
ア 本号前段該当性
 本条例10条4号は,県の行政が国等との緊密な協力・信頼関係のもとに執行されていることから,行政の適正かつ円滑な執行を図るためには,県と国等との間における現在及び将来にわたる継続的で包括的な協力関係及び信頼関係を維持することが必要なため,定められたものであり,本号の「指示,要請,依頼,協議,協力等」とは,法令の規定に基づき,又は任意に行われるもので,機関委任事務その他国等との密接な関係のもとに執行される事務についての国等からの指示,要請,依頼,協議,協力,照会等をいうと解される。
 会計検査院が「国等」に該当し,会計法48条1項により委任される会計事務が機関委任事務と観念されていたところ,本件各文書は,次の(ア)(イ)のとおり,被告の教育長が,同院との協力関係の下で,同院の依頼又は指示により実地検査の内容を補完するために作成した文書(本件支出額調書等)及び県知事が同院から取得した文書(本件照会文書)であるから,「指示,要請,依頼,協議,協力等」に基づいて「作成し,又は取得した」情報を記録したものに該当する。(ア) 会計検査院は,会計経理を監督し,常に適正な会計経理が行われるようにするとともに,不適切な経理を発見したときは,単にこれを摘発するだけなく,その原因を究明してその是正改善を促すものとされるところ(法20条2項,34条,36条等),受検庁が会計検査院に積極的に協力することにより初めて,適切な事実の確認及び評価が可能となり,それに基づく必要な是正措置が講じられて事務事業の適正かつ有効な執行を図ることができる。上記の意味で,同院と被告との関係は,単なる検査者と受検者という相対立した関係にあるのではなく,協力関係にある。
(イ) 会計検査院が行う検査は,捜査機関による捜査等とは異なり,強制処分の権限を背景として行われるものではなく,あくまでも適正な会計経理の実現等のために,受検庁の理解と協力を得て行われるもので,被告と同院は協力関係にある。イ 本号後段該当性
(ア) 同号の「国等との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められる」とは,開示した場合に生ずる状況についての予測であるから,実施機関が国等との協力関係又は信頼関係が「損なわれると認められる」と判断することについて,相当の理由,すなわち,国等との協力関係又は信頼関係が損なわれる客観的可能性があれば足り,一般に,協力関係又は信頼関係が損なわれることが具体的に認められることまでは要しないと解すべきである。
(イ) 本件各文書の内容が公表されると,会計検査院の検査業務に支障を来す。被告が,本件非開示決定に先立って,同院の見解を聴取した際,同院は,本件各文書を開示することが院の検査業務に支障を来すとして,本件各文書の開示について強い懸念を表明し,開示しないことを強く要請した。
 同院は,本件各文書の開示により,同院が憲法及び法律により負託された,国の収入支出の決算の検査,会計経理の是正監督等の職責を将来にわたり,適切かつ十分に果たし得なくなるおそれがあるとして,本件各文書の開示に反対しているものであるところ,このような文書を開示することは,県と国との間の協力関係及び信頼関係が損なわれる。
(原告の主張)
ア 本号前段非該当性
 本条例10条4号の一般的な立法趣旨については,被告主張を特に争うものではない。
 ところで,本件各文書は,次のとおり,会計検査院が決算内容の合法性と的確性を検討し,確認するために命じ,法律上の義務により被告の教育長が作成したものであり,機関委任事務その他国等との密接な関係のもとに執行される事務についてのものとはいえない。
(ア) 被告の教育長と県出納長の適正な会計経理の実効とその確保は,同院が,法に定められた権限を行使して不正を摘発し,県に対して法令遵守を命じ,県がこれに従えば実現できるものであり,被告主張のような,被告と同院との間の緊密な協力関係と深い信頼がなければ実効性確保が困難であるという事情はない。
 同院の検査は,下記(イ)のとおり,同院の調査権の行使と,受検庁のこれに応じた義務の履行によって遂行することが予定されており,被告が会計検査院に積極的に協力することにより適切な事実の確認及び評価が初めて可能となるとの主張は,制度を無視した主張であるし,仮に実際に被告の協力で検査の実効が上がることがあるとしても,そのような事情からその本質が検査から何らかの協力関係に転化することはありえない。
(イ) 受検庁は,法24条以下に定めるところに従い,会計検査院の求めに応じて,書類若しくは報告の提出又は質問若しくは出頭要求に応ずる義務を負っているもので,本質的には検査者と検査対象機関の関係にあるところ,このような義務づけられた関係を,同一の目的に向けて相互に力をあわせる「協力関係」と法的に評価することはできない。
イ 本号後段非該当性
(ア) 本号の「協力関係又は信頼関係が失われると認められる」にいう「認められる」とは,現に存在するか,または,開示することによって生起することに高度の蓋然性があることを意味すると解されるもので,被告において,現実具体的にこれが認められることを主張,立証する必要があると解すべきである。(イ) また,会計検査院が,本件検査にあたり,本件各文書が公開されては困るとの意向を有していたことが認められるとしても,この意向表明は法令又は通達など正式な形式によるものではなく,同院が非開示の特別の重要性を認めていたとの事情が認められない本件においては,同院の意向を重視して,国民・住民の情報公開請求権を損なうような解釈は許されない。
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)が施行され,同院自体が法律で定める例外を除き情報公開義務を負うようになった(情報公開法2条6号,5条)現行法制下では,会計検査院の意向,懸念は情報公開法に触れない限りで考慮されるべきであり,本件でも情報公開法で非開示とされる事項についてのみ非開示が認められると解すべきである。
(2) 本件各文書が本条例10条5号に該当するか否か(争点2)(被告の主張)
ア 本号前段該当性
 会計検査院は,本号の「国等」に該当する。
 また,本件支出額調書等は,被告の教育長が同院の要請により実地検査の内容を補完するために作成した文書であり,本件照会文書は,同院が,それまでに実施された検査等の結果を要約して一定の評価を加え,作成したもので,これについて県知事の公式見解を質し,検査結果の確認を求めるためのものであって,いずれも,会計検査院の行う検査の中間段階における資料であり,また,当該検査結果に対する同院の最終的な審理・判断がなされる前に行われる県知事との討議に供する情報であって,県知事からの反論などによって変更があり得るものである。同院は,本件各文書を資料とし,当該検査結果について,当年度の決算検査報告に掲記し,公表することが適当か否かの審議をし,最終的に検査官会議における決議を経たものを,同院の正式な指摘事項ないし結果として,同決算検査報告に掲記する。
 したがって,本件各文書はいずれも,県と同院との間における協議,調査等に関し,「作成し,又は取得した」情報を記録したものである。
イ 本号後段該当性
 検査の一過程における情報が開示されるときは,根拠のない憶測やそれに起因する不必要な混乱が生ずるおそれがあり,会計検査院が外部の圧力・干渉等を排除した中立公正な意思決定に重大な支障を及ぼす。
 したがって,本件各文書が本条例10条5号に該当する。
ウ 会計検査院の自律的権能
 会計検査院が,慎重な審理・判断過程を経て,最終的な検査官会議の議決を経た検査結果のみを決算検査報告に掲記し(法11条2号),公表することとするとともに,それ以外の検査結果並びに当該検査過程及び審理・判断過程(当該過程において作成又は取得された資料等を含む。)については一切不公表とする取扱いをしているところ,このような取扱いは,憲法上の独立機関,国等の会計検査を担当する専門機関(憲法90条1項)としての,自律的(法38条)・専門的判断によるものとして,本条例の解釈適用においても,最大限尊重されるべきものである。(原告の主張)
ア 本号前段非該当性
 本件各文書は,会計検査院の検査の一環において作成されたものである。文書作成の経過の一部だけを取り上げて,県側と同院との間の「審議,協議,検討,調査,検討」にあたるとすることはできない。
 また,本条は7号で「検査」に関する規定を設けているものであり,本号が検査機関の検査を念頭においていないことは明らかではある。
イ 本号後段非該当性
 本件については,既に会計検査院において事件が終了してしまっているのであり,これを公表しても同院の業務の公正かつ円滑な執行に支障を生ずる具体的,現実的な蓋然性は認められない。
(3) 本件各文書が本条例10条7号に該当するか否か(争点3)。(被告の主張)
ア 本号後段該当性
 本号の「目的が損なわれ,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に支障を生ずるおそれがあるもの」とは,開示することにより,1当該事務事業を実施する意味を喪失するおそれがあるもの,2当該事務事業に係る経費が著しく増大し又は実施時期が大幅に遅れるなど行政運営に著しい支障を生ずるおそれがあるもの,3反復継続する同種の事務の公正又は円滑な実施を困難にするおそれのあるもの,4関係当事者との信頼関係が損なわれ,事務事業の実施に必要な理解・協力を得ることができなくなったり,今後,必要な情報を収集することができなくなるおそれがあるもの,5その他県又は国等の事務事業の公正かつ円滑な執行に支障を生ずるおそれのあるものとされている。また,「支障を生ずるおそれ」とは,その情報を開示することにより,支障を生ずる抽象的危険すなわちその可能性があれば足り,一般的に,そのような危険性が具体的に存在することまでは必要ない。
 本件支出額調書等及び本件照会文書が開示されるときは,次のとおり,会計検査の目的が損なわれ,又はその公正かつ円滑な執行に支障が生ずるおそれがある。(ア) 本件各文書に記載された内容が会計検査院の公式見解であるかのように受け取られ,国民の間に混乱を招くおそれがある。
(イ) 本件照会文書は,会計検査院が実施した実地検査等で判明した検査結果及びその公表の適否に関する会計検査院内部における審理及び判断の過程において,実地検査の結果を簡潔に整理し,これに対する県側の公式見解を質し,もって検査結果の正式な確認を求めるとともに,その回答を上記審理及び判断の過程における一つの資料とする等のためのものであって,最終的な会計検査院としての審理及び判断を示すものではないところ,このような文書を開示することとなれば,会計検査院と受検庁との間の信頼関係を損ない,また,会計検査院が実地検査結果について率直な問いかけをすること及びそのような問いかけに対して素直に応えることが困難になることが予想され,率直な意見交換に支障を及ぼすおそれがある。(ウ) 検査過程又は検査結果に対する会計検査院内部における審理・判断過程に対する外部からの圧力・干渉等を招来するおそれがある。
(エ) 今後会計検査院の検査が予定される受検庁及びその他の関係者に対し,当該検査の具体的内容,実施状況等を告知する結果となり,現在及び招来の会計検査院の検査の正確性,公正さ,妥当性の確保を困難にするおそれがある。(オ) 本件支出額調書等には,会計検査院の着眼点,検査手法,検査ノウハウ等の検査上の秘密に属する情報が含まれていることから,その内容を分析することによって,会計検査院による実態解明の手法又は不正な経理操作に係る事実認定等のために収集した関係資料等の全容を把握することも可能になるため,そのような情報が会計検査による不正経理等の指摘を免れるために悪用され今後の検査の公正かつ円滑な執行に支障が生ずるおそれがある。
(カ) 本件支出額調書には,会計検査院の実地検査における検査結果及び実地検査終了後に会計検査院の依頼を受けて被告の担当者が関係者等に事情聴取を行った場合における当該関係者等の職氏名及びその聴取結果等が記載されているところ,当該関係者等は,その職氏名や具体的な説明内容等を記載した本件支出額調書等の内容がそのまま開示されることはないとの前提で,このような事情聴取に応じているのであり,会計検査院及び県側もそのことを前提として事情聴取等を行っている。
 本件支出額調書を開示すると,職氏名等の個人情報の開示による混乱又はそこに記載された内容について各種関係者等との間における紛争発生等を危惧する関係者等から,その検査又は調査に対する十分な理解と協力を得られなくなるという重大な結果を招来し,受検庁に対し,入手した情報・資料を調書等の形式で作成・提出させるという手法により会計検査の目的達成のための必要な情報を得ることが困難な状況に陥るおそれがある。
イ 会計検査院の自律的権能
 前記(2)(被告の主張)ウと同じ
(原告の主張)
ア 本号後段該当性
 本号の「支障を生ずるおそれ」とは,本条例が県民の県政監視の手段を保障している趣旨からすると,具体的な危険性の存在を要すると解すべきところ,次のとおり,本件各文書を開示することによって,会計検査院の行う会計検査事務の公正かつ円滑な執行に支障を生ずる具体的なおそれは認められず,また,検査等の目的を損なわれるとまでは認められない。
(ア) 本件支出額調書等は,その様式・調査方法を同院が指示しているが,作成者が県であることには変わりがない。
(イ) 県側が作成,検査の中間段階の基礎資料の一つに過ぎない文書を開示することが同院の検査の妨げになるとは考えられない。
(ウ) 本件支出額調書等が開示されることにより,同院に対し,圧力,干渉等があるとは考えられず,既に決算検査報告がなされた本件についてはなおさらのことである。
(エ) 本件支出額調書等は,富山県公務員の不正行為の具体的な手口は記載されているが,これを摘発した会計検査院の検査に関する事柄が記載されているとは考えられない。
 また,本件各文書は,被告職員が管理しているから,必要があれば,いつでも検査対象である被告職員がこれを見ることができるものであり,同院の検査の障害になるのは,受検庁の職員である公務員が,県庁内又は他庁に対して検査手法を伝えることであって,支出額調書に記載されている不正の具体的な行為が有権者である県民に知られることが会計検査の支障になる可能性は極めて低い。被告の主張する他の自治体による悪用のおそれについては,これについて同院において現実に特段の対策が取られているものではないことからすると,そのような支障は存在しないか,存在してもごく軽微なものと見られ,他方,今後再発防止のために本件各文書を公開する利益が大きいことからすると,これを根拠に公開を制限することは,相当でない。
 仮に,同院の検査手法にかかわり,事後の同院の検査に支障を生ずる具体的な可能性のある記載があるのであれば,その部分を非開示とすれば足り,全体を非開示とする必要はない。
(オ) 被告は,本件各文書が開示された場合には職氏名等の個人情報の開示による混乱又は記載内容についての各種関係者等との間の紛争発生を危惧する関係者等が,同院の検査・調査についての十分な理解と協力をしないおそれがある旨主張するが,個人情報については,本条例上非開示が求められる部分のみを非開示とすれば足り,また,内容を開示することはないとの前提についても,本条例上非開示事由があると認められない情報については,非開示の理由とはならない。情報公開条例が全国の都道府県で制定されている今日では,被告の職員又被告以外の自治体の職員についても,被告主張のような非公開の態度を取ることがあると考えるのは困難である。
イ 会計検査院の情報公開義務等
 情報公開法が施行され,同院自体が法律で定める例外を除き情報公開義務を負うようになった(情報公開法2条6号,5条)現行法制の下では,会計検査院の意向,懸念は情報公開法に触れない限りで考慮されるべきであり,本件でも情報公開法で非開示とされる事項についてのみ非開示が認められると解されるべきである。
 会計検査の結果公表の趣旨は,国民主権の観点から主権者である国民に対して不適正な会計を公表し,今後の国政の判断の参考に供するとともに再発防止の効果を期待するものと解されるところ,自治体において情報公開制度がある場合には,自治体が作成した文書については自治体側から積極的に住民に開示されることは前記公表の趣旨から許されると解する。
第3 争点に対する判断
1 本件各文書の記載内容及び性格等
 前記前提となる事実及び証拠(乙2,証人a,調査嘱託の結果)並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) 本件各文書の記載内容
ア 本件支出額調書等
 本件支出額調書等は,概略,次の1から3及び関係証票等から成る文書である。1 支出額調書等
不正支出額調書,指定校(地域指定事業等)調書等
2 集計表等
示達額等年度別一覧表
不正支出額等・年度別集計表(総括表)
不正支出額等・各課別集計表
不正支出額等・事業別集計表
不正支出額等・項目別集計表
別途経理資金等・使途別明細調書(総括表)
使途別明細調書(各部局別)等
別途経理資金・収支状況一覧表(総括表)
別途経理資金・収支状況一覧表
指定校事業・年度別一覧表
地域指定事業一覧表
3 関係資料
委託事業等に係る歳入組入状況調書
示達通知文書等の収受状況調書
不正支出額等・態様別集計表
謝金に係る不正支出状況調書
 なお,支出額調書や別途経理資金等・使途別明細書などの調書類には,被告担当者が,当時の会計事務職員その他関係者から,不正支出の内容,すなわち,「いつ」,「どこで」(部局・課),「どのような事業について」,「どのような会計行為によって」,「いくらの額の不正支出が行われ」,「どのように使われた」等について聴取した結果が,簡明に理解することができるように整理されて記載されている。
 また,各種集計表は,上記聴取結果等について,内容の正確性を担保する(これら集計表を作成するに当たり,基礎となる原資料や調書類に事実と異なる記載が一部ある場合には,集計結果が一致しないこととなる。)とともに,不正経理が行われるに至った原因や背景などを分析し,将来の適正な予算執行確保のための改善処置等の検討に供し,また,後記受検庁への照会発遣の資料として使用する目的で,それぞれ,一定の観点から整理し直されたものである。
イ 本件照会文書
 本件照会文書は,会計検査院事務総局第4局長から県知事宛てに発せられた,「実地検査の結果について」と題する文書である。1枚目には,実地検査の結果必要があるので,別紙事項について回答してほしい旨が記載されている。
 別紙は,「文部省委嘱等事業に関する事業執行及び経理処理について」と表題され,「1 文部省委嘱等事業の概要」,「(文部省委嘱等事業)」「(事業経費)」「(貴県における文部省委嘱等事業の実施状況)」「2 検査の結果」「(検査の結果)」との項目で,本件照会文書作成・発遣時までに実施された検査の結果,被告における文部省委嘱等事業の実施状況及びこれらに関する経理処理について,同院が明らかとなったと思料する事実関係及び発生原因,並びに会計法令又は予算執行上の問題点等の指摘とこれに対する同院の評価ないし所見等が記載され,末尾には,これらに対する県知事の意見及び今後の処置を回答してほしい旨記載されている。
 更に,本件照会文書には,別表として,本件支出額調書等各種集計表のうち,示達額等年度別一覧表
不正支出額等・年度別集計表(総括表)
不正支出額等・各課別一覧表
を,それぞれ,整理してまとめたもの,及び,
別途経理資金等・使途別明細総括表
別途経理資金等・収支状況一覧表
不正支出額・項目別集計表
が,それぞれ,ほぼそのまま,添付されている。
(2) 本件各文書の性格等
ア 本件各文書の作成経過等
(ア) 本件支出額調書等は,次のとおり,実地検査に関して作成されたものである。
 すなわち,会計検査院は,実地検査を実施するに当たり,まず,事前に,法26条に基づき,局長名(会計検査院法施行規則11条)の文書をもって,受検庁において,業務の概況,収入支出の内訳,会計機関の設置状況等を取りまとめた調書を作成し,実地検査当日にこれを提出することを求めるのが一般的である(一般調書・実地検査提出調書)。また,この提出要求(法26条)に先立ち,同院の検査担当課において,あらかじめ,関係書類の提出を求めている(事前提出調書)。
 更に,同院は,実地検査の結果引き続き検査を継続する必要があると判断した場合には,入手したい各種の情報・資料等のうち一定のものを,受検庁に対して,調査させ,その結果を,指定する形式の文書に整理させた上,これを同院に提出させて報告させている(特別調書)。これは,同院が自ら当該検査を継続して事実関係を確認するには,時間・人員・予算等の面で限界があるので,受検庁における関係者からの事情聴取や関係書類の収集,会計書類や関係書類の関連性等の調査・整理等を,同院の担当調査官による実地調査に代えて,受検庁に具体的指示を与えて行わせるものであって,担当調査官による実地調査を補充する性格を有するものである。
 本件支出額調書等は,上記特別調書に当たるものであり,担当課課長宛てに報告文書として提出されたものである。
(イ) 会計検査院は,書面検査及び実地検査並びに受検庁から作成・提出を受けた支出額調書等により事実関係を把握した結果,会計経理上の問題点ないし疑問点が生じた場合,法26条に基づき,局長名により,前記のとおり,当該文書を発する段階での調査の結果に対する当該事項についての会計検査院内の検査執行機関の一応の見解を示し,その確認又は当該事態の是正等に関する公式見解の表明を求める。
 本件照会文書は,これに当たる。
 この照会文書についての回答文書には,照会文書に記載された会計検査院の検査結果等についての確認や改善の方向性,あるいは,反論又は弁明などが公式に表明されることになり,後記のとおり,照会文書と併せて,その後の,事実関係の存否及び検査報告事項の該当性の有無の審議・判断の資料に添付される。イ 本件各文書の会計検査院における用途等
(ア) 検査結果の決算における報告事項
 会計検査院は,決算検査報告において,国の収入支出の決算の確認(法29条1号)のほか,検査の結果,法令違反,予算違反,また,不当な事実(法29条3号)があった場合,法34条の規定により違法不当な会計経理に関してその後の是正改善の処置を要求した場合等を掲記しなければならない(法29条)。
 また,会計検査院は,上記の法律に定める報告事項のほか,改善処置済事項(会計検査院が検査の過程において意見表示又は処置要求を必要とする事態として指摘したところ,その指摘を契機として省庁や団体において是正,改善の処置をとった事項),特記事項(事業効果,事業運営等の見地から広く問題を提起して事態の進展を促すなどのため特に掲記を要すると認めた事項),国会からの検査要求事項(国会からの検査要請を受けて検査を実施した事項)等の事項についても,決算検査報告書に掲記することができる。
 決算検査報告の記載事項は,検査官会議の決議事項となっている(法11条2号)が,記載事項に該当するかどうかは,正確性(決算が予算執行の状況を正確に表示しているか),合規性(会計経理が予算や法令等に従って適正に処理されているか),経済性・効率性(事務・事業が経済的,効率的に行われているか),さらには有効性(事業が所期の目的を達成しているか,また,効果を上げているか)の観点から判断される(法20条3項)。
(イ) 決算検査報告(法29条)についての作成・審議過程
 決算検査報告事項が,検査官会議に提出されるまでの過程は,次のとおりである。
1 検査担当課等における決算検査報告事項案作成等
 まず,事務総局各局の検査担当課の課長が,検査の結果,検査の対象となった会計経理について,不当事項,改善処置済事項又は特記事項など決算検査報告に掲記すべき事項があると判断したときは,当該指摘事項に関する検査報告事項案を起案し,収集した基礎資料を整理してその説明資料を作成する。
 説明資料には,事案の内容の理解参考のための説明事項として,不正行為であれば,会計事務職員官職氏名,管理期間,検査処理状況,決算上の処理,関係者処分状況,被害金の使途,公訴の状況,債権確保の措置等を記載あるいは特別調書を転記し,また,検査報告事項案として提案するに至った根拠として,検査結果の指摘の根拠,及びこれについて検査対象機関が了とした場合にはその旨を,検査対象機関が反論又は弁明した場合はその内容を示したうえでなお当該指摘事項として提案するに足りる根拠があることなどを記載し,その照会及び回答書を添付する。
 検査担当課の課長は,上記決算検査報告事項案及び説明資料並びに基礎資料を,局内におかれた局検査報告委員会へ提出する。
2 局内での決算検査報告事項案の審議
 各局の検査報告委員会においては,提出された決算検査報告事項案について,基礎資料や説明資料に基づき,指摘の事実関係が正確かどうか,当該指摘の事実が検査官会議の決定事項等に適合しているかどうか,決算検査報告事項案の記述内容が的確かどうかなどについて慎重に審議する。審議の結果,事実関係の追調査,資料の補充がなされる場合もある。
 局の検査報告委員会で可決された決算検査報告事項案は,検査担当課の課長が,当該事項案の局最終案を起案し,説明資料や局内検査報告委員会の審議記録の写しを添え,事務総局官房(法12条3項)の検査報告調整委員会に提出する。なお,官房内から検査報告調整委員会へ提出される決算検査報告事項案についても同様の審議を経る。
3 検査報告調整委員会での決算検査報告事項案の審議・調整等
 検査報告調整委員会に提出された検査報告事項案は,基礎資料や説明資料に基づき,検査報告事項案等の論旨が適切であるか,他局提出の同種案件との均衡が保たれているかどうかなどについて審議を行い,調整の意見を添えて事務総長に提出する。調整委員会で修正がなければ局最終案が事務総長(法13条)に提出される。4 検査報告調査委員会の審議を経た検査報告事項案は,事務総長が説明資料及び基礎資料に基づいて審議し,検査官会議に議案として提出する。
 また,法34条又は36条に基づく意見表示又は処置要求についても,同様の経過を経て,検査官会議に提出され,検査官会議において,最終的に,意見表示又は処置要求を行うか否かが決議される。
ウ 会計検査院と被告間においては,本件各文書が後日公開されることは想定していなかったものであり,会計検査院は,検査官会議で議決されたもの以外の検査結果については,事後的にも公表しない取扱いとし,議決された事項について,審理過程で作成され又は取得した本件各文書類についても同様に事後的にも公表しない取扱いとしている。同院は,今後の検査業務に大きな支障が生じるとして,本件各文書の公開に反対している。
エ まとめ
(ア) 本件支出額調書等は,担当調査官の具体的指示のもと,受検庁において,新たに事情聴取や関係書類の収集を行い,また,新たに会計書類や関係書類の関連性等を調査・整理したもので,担当調査官による実地検査の補充として新たになされた調査結果たる性質を有する文書であると同時に,後記(イ)の照会ないしは決算検査報告案についての審議に向けて作成された担当調査官の一定の観点による事実評価たる性質を有する文書である。
 また,本件照会文書は,当該文書を発する段階での調査の結果に対する当該事項についての会計検査院内の検査執行機関の一応の見解を示し,また,同院内の判断機関において,これに対する回答とを合わせて,当該事実関係の存否,及び検査報告事項の該当性の有無(いずれの事項に適合するかを含む。)の判断の資料とするものである。
(イ) したがって,本件各文書は,県知事による確認や会計検査院内での予定されている検討,審議を経ておらず,後日補充される可能性もあり,その性質上,一応の素案というべきものであって,改変可能性がある未成熟な情報が記載されたものである。
2 以上を前提に,本条例10条4号の非開示事由の存否について判断する。(1) 本号は,県の行政が,国等との密接な関係の下に執行されていることから,県と国等との協力関係,信頼関係を維持するために定められたものである。(2) 前段該当性について
 本号の「指示,要請,依頼,協議,協力等」とは,法令の規定に基づき,又は任意に行われるもので,国等との密接な関係のもとに執行される事務についての国等からの指示,要請,依頼,協議,協力,照会等をいうと解される。
 これを本件にみるに,法が会計検査院に対して,種々の方法を用いて事実を調査し(法24,25条),受検庁にその結果の確認を求めるとともに,改善方策を検討し,その結果を踏まえて受検庁に対する指導等を行う権限(法20条2項)を与えていること等に照らすと,会計検査院の行う会計検査は,違法不当な事項の指摘やその是正を図ることだけでなく,その原因を究明し,再発予防措置を講じるなど適宜の指導を行うことをも目的としていると解するのが相当である。このような目的を有する会計検査において,受検庁は,単に受動的に検査を受けるだけでなく,会計検査院の会計検査が適正かつ円滑に行われるよう必要な資料を適切に提出し,一定の違法不当な事項を指摘された場合には,自ら進んで必要な是正改善措置を検討し,執行することが期待されているといえる。そうすると,会計検査院と受検庁との関係は,検査者と受検者という関係にとどまらず,協力関係という一面をも有するもので,会計検査院と被告ないし県知事は,協力関係にあるといえる。被告は,会計検査院の指示に従い,必要な資料として,本件支出額調書等を作成提出し,また,会計検査院から是正措置等を照会した本件照会文書を取得したものであるから,本件各文書には,本号前段該当性がある。
(3) 後段該当性について
 本号の「協力関係又は信頼関係」とは,県と国等との間における現在又は将来にわたる継続的で包括的な協力関係又は信頼関係をいうと解される。
 前記1認定のとおり,本件各文書は,検査官会議における決算報告決議に至るまでの準備過程において作成されたものであり,県知事による確認や会計検査院内での予定されている検討,審議を経ておらず,また,後日補充される可能性もあるなど,事実関係及びその評価において,改変可能性がある未成熟な情報が記載されている。このような情報が公開されることは,その事項自体は最終的な決算検査報告に記載されたとしても,混乱や誤解を招き,受検庁との今後の協力関係に支障が生じるおそれがあり,その結果,会計検査院の今後の検査業務に支障が生じるおそれがあるといえる。したがって,同院が本件各文書の公開に反対していることは相当な理由があり,被告において,本件各文書を公開することは,国等との協力関係又は信頼関係が損なわれるものである。したがって,本件各文書には,本号後段該当性がある。
3 次に,本条例10条5号の非開示事由の存否について判断する。(1) 本号は,県又は国等に事務事業に係る意思決定が公正かつ円滑に行われることを確保する観点から定められたものである。
 すなわち,行政内部の審議,協議,検討,調査,研究等に関する情報の中には,それぞれ決裁の手続又は回覧等の手続は終了しているものの,行政としての最終的な意思決定までの一段階であるため,開示することにより県民に誤解や混乱を生ずるものや,開示をされることにより審議等における自由率直な意見交換が阻害され,公正かつ円滑な意思決定に支障を生ずるものがある。また,最終の意思決定に至った後においても,その過程における情報を公にすることにより,その後の同種の事務事業の公正かつ円滑な意思決定に支障を生ずるおそれがあるものもある。本号は,これらの情報を非開示とできるとしたものである。
(2) 前段該当性について
 本号の「事務事業に係る意思決定過程」とは,個別の事案についての意思決定の終了の有無を問わず,事務事業全体に係る意思決定をいい,また,「審議,協議,検討,調査,研究等に関し,実施機関が作成し,又は取得した情報」とは,県若しくは国等の行政内部又は行政機関相互における審議,協議,検討,調査,研究のほか,文書等による照会・回答等において,実施機関が作成し,又は取得した情報をいい,これらに関連して作成し,又は取得した情報を含むと解される。
 これを本件に見るに,前記1のとおり,本件各文書は,検査官会議における決算報告決議の意思形成を円滑,適切に行うために作成された文書であって,本件支出額調書等は,被告が,会計検査院の指示により同院の実施検査の補充として調査整理して作成した文書であり,本件照会文書は,会計検査院から県知事に対し,上記調査を含む検査結果及び評価に対する見解並びに事後の措置について,照会した文書であるから,いずれも本号前段に該当する。
(3) 後段該当性について
 前記1のとおり,決算検査報告についての検査官会議の決議は,書面検査及び実地検査並びに実地検査後の受検庁での調査・整理,関係機関等との検討,内部的協議,調整等を経て行われるものであるところ,本件支出額調書等に記載された事実関係等は,局検査報告委員会での検討等を経ておらず,また,本件照会文書に記載された事実関係及び同院の評価等は,事後に県知事による確認及び是正措置に関する表明等を予定しており,併せて局検査報告委員会や検査報告調整委員会での当該事案の検査事項該当性等についての検討資料とされるものであるから,本件各文書自体は,公文書として受領あるいは発遣しているが,いずれも,会計検査院内部あるいは県との間で,確認,検討がされていない情報や,未成熟な情報が含まれていることは明らかである。
 これらの事務情報が公開されると,前記1の本件各文書の作成経過や性質等に照らせば,同院における当該検討事項そのものは既に決算検査報告に公表されているとしても,検査官会議による最終的な決議に至るまでの過程で出された事実ないしこれに対する評価についての見解等が逐一明らかにされることとなり,今後,受検庁との自由率直な意見交換が妨げられ,同種の事務を公正かつ適切に行うことに支障を及ぼすおそれがある。
 また,担当調査官,担当課,局内検査報告委員会,事務総局内検査報告調整委員会の各審議・検討過程の情報が公開されると,同院内での議論においても自由率直な意見交換が阻害されることになり,これらの審議・検討過程への外部からの干渉を招き,意思決定の中立性を損なうおそれがある。
 そうすると,本件各文書の公開については,本号後段該当性がある。4 以上によれば,本件各文書に記載された情報については,本条例10条4号及び5号の各非開示事由に該当すると認められるから,本件非開示決定に違法な点はない。よって,本条例10条7号に該当するかどうかについて判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。富山地方裁判所民事部
裁判長裁判官 永野圧彦
裁判官 吉岡真一
裁判官 光吉恵子
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket