主文 被告人を懲役1年6月に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
 押収してあるライター1本(平成14年押第38号の1)を没収する。理由
(罪となるべき事実) 被告人は,平成14年2月15日午後9時ころ,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない岡山県備前市a町b番地所在のA所有の木造瓦葺2階建て建物(床 面積合計約208.3平方メートル)北側軒下において,暖を取るために一人でた き火をしていた際,たき火の火が同建物の軒下に建物側壁に密接して設置されてい た木製柵に燃え移り,同建物に延焼する危険を生じさせたのであるから,あらかじ め水を入れた容器を用意するなど消火の手はずを整えておくなどして,自ら消火し, もしくは,付近を通行する者に消火の援助を求め,あるいは消防署に通報して消火 を依頼するなどの適宜の措置を講じて消火すべきであったにもかかわらず,そのま ま放置すれば同建物に延焼し,これを焼損するに至ることを予見し認容しながら, 自己のたき火によって前記木製柵が燃えたことが発覚するのを恐れる余り,元栓の 締まっていた付近の水道栓からの放水を試みただけで,あえて他の措置を講じない でその場から逃げ去り,よって,前記木製柵に引火した火を同建物の軒に燃え移ら せて同建物の軒及び天井等(面積合計約22.03平方メートル)を焼損したもの である。(確定裁判) 被告人は,平成14年2月7日岡山簡易裁判所で窃盗,建造物侵入罪により懲役1年6月執行猶予3年付保護観察に処せられ,その裁判は同月22日確定したもの であって,この事実は検察事務官作成の前科調書(64)によって認める。
 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法109条1項に該当するが,これは前記確定裁判があった窃盗,建造物侵入罪と同法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりま だ確定裁判を経ていない判示非現住建造物等放火罪について更に処断することと し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をし た刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日 数中70日をその刑に算入することとし,押収してあるライター1本(平成14年 押第38号の1)は,判示非現住建造物等放火の用に供した物で被告人以外の者に 属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用 は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,判示の経緯で自己が行ったたき火の火が建物に燃え移ることを阻止しな かった不作為による非現住建造物等放火の事案である。本件現場は,国道に面し,昼夜を通じて車両の通行量は頻繁であるものの,付近 は山や池等が存在する閑静な地区にあり,東側には自動車内装業者事務所,荷物置 き場等があり,南側には東西に国道2号線が通っており,さらに平行して鉄道線路 が走り,西側及び北西には多少の敷地を挟んで池があり,北東側は直接池に面して いる。被告人は,建物に接近した場所でたき火をし,乾燥した木製の柵が自己のた き火の引火により燃えだしたのに,これを燃えるに任せ,前記柵に密接して建てら れていた本件建物の一部を面積合計約22.03平方メートルに渡って燃焼させた のであるが,消火が遅れれば建物の全焼の可能性もあり,行為の危険性は大きい。 その結果生じた財産的損害は約83万円に上り,少額とは言えない。また,本件建 物を店舗目的で賃借し,開店に向けて改装を行っていた業者が被った迷惑も著しい。 被告人は,寒かったという理由で,見ず知らずの他人の建物の敷地内において,身 勝手にも前記柵の一部を破壊し,十分に消火の準備を整えることもなく,その木片 を燃料として前記柵のそばでたき火をおこした上,これが前記柵に延焼した後は, 自らの行為に起因する延焼であり,建物の焼損可能性も明らかであったのだから, 消火に相応の努力を払うべきであったのに,元栓の締まっていた水道による消火を試みる以外,何ら消火の努力もせず,自己がたき火をした結果であることが発覚す るのを恐れる余り,逃走するに至っており,自己中心的犯行であること甚だしい。 このほか,被告人は被害弁償しておらず,その見込みも全くないこと,本件は保護 観察付き懲役刑の執行猶予判決後わずか1週間あまり後の犯行であり,被告人はこ の他前科3犯があること,前記保護観察付き懲役刑の執行猶予判決後,親族の援助 があったにもかかわらず,十分な更生への努力をしたとは認められないこと,これ までにも何度も本件建物への出入りを注意されていたにもかかわらず,本件建物敷 地に立ち入って犯行に及んだことも認められ,以上の事実からすると,犯情は芳し くなく,被告人の刑責は軽いとは言えない。他方,幸いにも人的被害はなかったこと,本件建物は全焼を免れ,賃借人の努力 もあって,改装も予定どおり完了したこと,今回が初めての実刑となり,前記保護 観察付き懲役刑の執行猶予判決の執行猶予も取り消され,併せて服役することが見 込まれること,比較的高齢であること,一応反省していること,妹も更生を期待し ていることなど酌むべき事情も認められる。以上の点から,主文の刑が相当であると判断した。 平成14年7月3日岡山地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 榎 本 巧
裁判官 中 川 綾 子
裁判官 足 立 堅 太
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