主文
 被告人Aを懲役8年及び罰金250万円に,被告人Bを懲役3年及び罰金 50万円に処する。
 被告人らに対し,未決勾留日数中各40日を,それぞれその懲役刑に算入 する。
 被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは,金1万円を 1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。
 被告人両名から,函館地方検察庁で保管中の覚せい剤約0.296グラム (平成14年函館領第9号の19の1),ビニール袋入り覚せい剤26袋 (同領号の20ないし44,59),ストロー入り覚せい剤5本(同領号 の45ないし49),チャック付ビニール袋入り覚せい剤2袋(同領号の 56,57)及び現金21万7000円(同領号の458)を,被告人A から,函館地方検察庁で保管中のビニール袋入りLSD1袋(同領号の6 9),現金32万3217円(同領号の71,109,454ないし45 6,461の1,462の1,463の1,464の1,465の1,4 66),株式会社C銀行に対する被告人A名義の普通預金口座(同行D支 店,口座番号E)の普通預金債権である平成14年1月28日現在の預金 残高元本金8万9455円及び上記元本に対する同日までの利息6円並び に国に対する被告人A名義の通常郵便貯金債権(記号番号F)である同月 22日現在の貯金残高元本金149万6384円及び上記元本に対する同 年3月14日現在の利子33円を,それぞれ没収する。
 被告人Aから金1668万7905円を,被告人Bから金171万500 0円を,それぞれ追徴する。
理由
(犯罪事実)
第1
 1(1) 被告人Aは,営利の目的で,平成13年1月1日ころから同年11月 2日ころまでの間,覚せい剤をみだりに譲り渡す意思をもって,前後7 37回にわたり,かつて被告人Aが居住していた函館市a町b番c号d 号室若しくは同市e町f番g号の被告人A方など同市内又はその周辺に おいて,Bほか13名に対し,覚せい剤様の結晶粉末合計約138.2 グラムないし約372グラムを覚せい剤として代金合計936万500 0円の現金払い又は代金後払いの約束で譲り渡したほか,多数回にわた り,同市内又はその周辺において,Gら多数の者に対し,覚せい剤様の 結晶粉末多数量を覚せい剤として有償で譲り渡し,
(2) 被告人両名は,共謀の上,営利の目的で,
ア 同年12月7日ころから同月9日ころまでの間,前後6回にわたり, 同市h町i丁目j番k号ぱちんこ店H店店内ほか2か所において,I ほか5名に対し,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含 有する結晶粉末合計約1.48グラムないし約2.6グラムを代金合 計5万8000円の現金払い又は代金後払いの約束でみだりに譲り渡 し,
イ 同年11月4日ころから同年12月9日ころまでの間,覚せい剤を みだりに譲り渡す意思をもって,前後110回にわたり,同市内又は その周辺において,Jほか9名に対し,覚せい剤様の結晶粉末合計約 27.62グラムないし約63.6グラムを覚せい剤として代金合計 159万5000円の現金払い又は代金後払いの約束で譲り渡したほ か,多数回にわたり,同市内又はその周辺において,Kら多数の者に 対し,覚せい剤様の結晶粉末多数量を覚せい剤として有償で譲り渡し もって覚せい剤等を譲り渡すことを業とした。
 2(1) 被告人両名は,営利の目的で,同年12月9日午後11時47分ころ, 前記被告人A方において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプ ロパン結晶粉末約28.203グラム(平成14年函館領第9号の19 の1,20ないし49,56,57,59はその鑑定残量)を,みだり に所持した。
(2) 被告人Aは,前記2(1)記載の日時場所において,麻薬であるリゼ ルギン酸ジエチルアミド(別名リゼルギド,LSD)を含有する紙片約 0.087グラム(同領号の69はその鑑定残量)を,みだりに所持し た。
第2 被告人Bは,法定の除外事由がないのに,同年12月8日ころ,同市lm丁 目n番o号p号室の被告人B方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミ ノプロパンの塩類約0.04グラムを含有する水溶液約0.125ミリリット ルを自己の左腕部に注射し,もって覚せい剤を使用した。
第3 被告人Aは,法定の除外事由がないのに,同年12月9日ころ,前記被告人 A方において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパン結晶粉末約 0.1グラムを含有する水溶液約0.2ミリリットルを自己の右腕部に注射し, もって覚せい剤を使用した。
(法令の適用)
 被告人Aについて
罰 条
 第1の行為
 1,2の(1)の点 包括して国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行 為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精
 神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例
 法」という。)5条4号(ただし,このうち1の(2)
 の行為,2の(1)の行為については更に刑法60条)
 (なお,1の点は麻薬特例法5条4号(同法8条2項,覚せい剤取締法4 1条の2第2項,1項・ただし,このうち1の(2)の点については更 に刑法60条)に,2の(1)の点は刑法60条,覚せい剤取締法41 条の2第2項,1項にそれぞれ該当するが,2の(1)の所持に係る覚 せい剤は,業として行われた1の行為の一環として密売用に所持してい たものであるから,全体について包括して麻薬特例法5条4号の罪を構 成する。)
 2の(2)の点 麻薬及び向精神薬取締法66条1項
 第3の行為 覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
 科刑上一罪の処理(第1につき,前記麻薬特例法違反の包括一罪中の覚せい剤 の営利目的所持(2の(1))と麻薬であるLSDの所持(2の(2))の点 についての観念的競合)
 第1の罪 刑法54条1項前段,10条(1罪として重い麻薬特
 例法違反の罪の刑で処断)
 刑種の選択
 第1の罪について 情状により有期懲役刑及び罰金を選択
 併合罪加重
 第1の罪と第3の罪について
 懲役刑について刑法45条前段,47条本文,10条,
 14条(重い第1の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数 刑法21条(40日を懲役刑に算入)
 労役場留置 刑法18条(金1万円を1日に換算)
没 収
 覚せい剤について 覚せい剤取締法41条の8第1項本文
 LSDについて 麻薬及び向精神薬取締法69条の3第1項本文
 現金について 麻薬特例法11条1項1号
 普通預金債権,通常郵便貯金債権について
 麻薬特例法11条1項2号
追 徴 麻薬特例法13条1項前段,11条1項1号(第1の
 1の犯行により被告人Aが得た現金1668万790
 5円に関して)
 被告人Bについて
罰 条
 第1の行為(ただし,1の(2)及び2の(1)の点についてのみ。以下, 同じ。)
 包括して刑法60条,麻薬特例法5条4号
 (なお,1の(2)の点は刑法60条,麻薬特例法5条4号(同法8条2項, 覚せい剤取締法41条の2第2項,1項)に,2の(1)の点は刑法60 条,覚せい剤取締法41条の2第2項,1項にそれぞれ該当するが,2の (1)の所持に係る覚せい剤は業として行われた1の(2)の行為の一環 として密売用に所持していたものであるから,全体について包括して麻薬 特例法5条4号の罪を構成する。)
 第2の行為 覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
 刑種の選択
 第1の罪について 情状により有期懲役刑及び罰金を選択
 併合罪加重
 第1の罪と第2の罪について
 懲役刑について刑法45条前段,47条本文,10条,
 14条(重い第1の罪の刑に法定の加重)
 酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号(懲役刑について)
 未決勾留日数 刑法21条(40日を懲役刑に算入)
 労役場留置 刑法18条(金1万円を1日に換算)
没 収
 覚せい剤について 覚せい剤取締法41条の8第1項本文
 現金について 麻薬特例法11条1項1号
追 徴 麻薬特例法13条1項前段,11条1項1号(第1の
 1の(2)の犯行により被告人Bが得た現金171万
 5000円に関して)
 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
1 本件は,被告人両名が,覚せい剤を密売することを業とし,その目的のため覚 せい剤を所持したほか,それぞれ覚せい剤を自己使用し,さらに,被告人Aが麻 薬であるLSDを所持した事案である。
 業としてする覚せい剤の譲渡,覚せい剤の営利目的所持については,従前から 覚せい剤を暴力団関係者から仕入れるなど,覚せい剤の密売人から容易に覚せい 剤を入手できる状況にあった被告人Aが,1度に大量の覚せい剤を安く仕入れて 密売すれば容易に利益が上がると考え,安易な金儲けの手段として覚せい剤の密 売を思いつき,密売を続けるうち,密売の顧客であった被告人Bを誘って,共同 して密売を行い,約1年もの間,多数の客に覚せい剤を販売して,少なくとも合 計約1800万円の収益を上げており,覚せい剤の害悪を社会に広く拡散させて 多大な利益を得たその犯行は極めて悪質である。また,被告人らは,郵便局留め の小包を利用して覚せい剤を仕入れ,これを自分たちで小分けした上で,携帯電 話で客からの注文を受け付けて販売し,密売場所の一つである被告人A方の入口 には監視カメラを設置して人の出入りを監視するなど,その犯行態様は巧妙かつ 悪質である。
2 次に各被告人に個別の情状について述べる。
(1) 被告人Aは,平成12年7月27日に,覚せい剤取締法違反により保護 観察付執行猶予の判決を受けたにもかかわらず,その直後から,就労もせ ず,上記判決以前から隠匿していた覚せい剤や,その後に仕入れた覚せい 剤の使用を再開した上,無償ないし有償で友人にこれを譲渡するなどし, さらには前記のとおり,密売による利益を狙って覚せい剤の密売を行い, 収益の大部分も被告人Aが取得しており,短絡的で利欲的なその犯行動機 に酌量の余地は全くない。被告人Aは,本件の密売を企画実行した首謀者 であり,顧客であった被告人Bを密売の共犯に引き込むなど,その責任は 大きい。また,被告人Aは保護観察付の有罪判決を受けた直後から常習的 に覚せい剤との関わりを再開させ,職業的に薬物犯罪に関与しながら,自 ら覚せい剤を使用し,LSDも所持するなど,薬物への親和性が顕著で, その規範意識の欠如は甚だしいといわざるを得ず,犯情は悪質である。ま た,覚せい剤の入手先を秘匿するなど,真摯な反省がなされているかにつ いては疑問であり,その刑事責任は重大であるというべきである。
 他方,被告人Aは,捜査段階から概ね本件各犯行を認めていること,公 判では反省の弁を述べていることなど,被告人Aにとって酌むべき事情も 存在する。
(2) 被告人Bは,被告人Aから覚せい剤を購入していたが,平成13年11 月ころ,1か月20万円の報酬で覚せい剤の密売への加担を持ちかけられ, 報酬に目がくらみ,密売に関与したものであって,その動機に酌量すべき 点はない。
 被告人Bは,前記のとおり,従前から被告人Aを通じて覚せい剤を入手し, 使用していたものであり,本件各犯行のころには1日に複数回使用するこ ともあったなど,覚せい剤への親和性及び規範意識の欠如は顕著であり, 大規模な覚せい剤の密売の一端を担っていたその刑事責任は看過し得ない。
 他方,被告人Bは,本件各犯行を認め,反省の弁を述べていること,本 件の密売に関与するまでは一応まじめに稼働していたこと,本件の密売に 関しては従属的地位にあり,無償で自己使用分の覚せい剤を譲り受けたほ かは,本件の密売により現実には利得を得てはいないこと,道路交通法違 反による罰金前科以外には前科はないことなど,被告人Bにとって有利に 斟酌すべき事情も存在する。
3 そこで,これらの事情を総合考慮し,被告人Bについては情状を考慮して懲役 刑につき酌量減軽することとし,被告人両名について主文記載のとおり量刑した。(求刑 被告人Aについて 懲役10年及び罰金300万円,LSD,現金,普 通預金債権,通常郵便貯金債権の没収,追徴,被告人Bについて 懲役5年及び 罰金100万円,現金の没収,追徴,被告人両名について 覚せい剤の没収) 平成14年4月16日
函館地方裁判所刑事部
 裁判長裁判官 成 川
裁判官 高 橋
裁判官 野 村
洋 司 康 明 武 範
判例本文

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