主文
1 原告が,被告学校法人今川学園に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告学校法人今川学園は,原告に対し,17万0816円及びうち2万7760円に対する平成12年7月26日から,うち4万8952円に対する同年8月26日から,うち4万5152円に対する同年9月26日から,うち4万8952円に対する同年10月26円から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。3 被告学校法人今川学園は,原告に対し,平成12年11月から毎月25日限り,1か月22万8760円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは,各自,原告に対し,280万円及びこれに対する,被告学校法人今川学園については平成13年5月2日から,被告Aについては同年4月29日から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
7 この判決は,第2項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
 事実及び理由
第1 請求
1 原告が,被告学校法人今川学園に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告学校法人今川学園は,原告に対し,17万0816円及びうち2万7760円に対する平成12年7月25日から,うち4万8952円に対する同年8月25日から,うち4万5152円に対する同年9月25日から,うち4万8952円に対する同年10月25円から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。3 被告学校法人今川学園は,原告に対し,平成12年11月から毎月25日限り,1か月22万8760円及びこれに対する各支払日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは,各自,原告に対し,600万円及びこれに対する,被告学校法人今川学園については平成13年5月2日から,被告Aについては同年4月29日から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,被告学校法人今川学園(以下「被告学園」という。)が経営する木の実幼稚園(以下「被告幼稚園」という。)に勤務していた原告が,被告学園との間で労働契約の合意解約はなく,また,被告学園による原告の解雇も無効であるとして,原告が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同労働契約に基づく未払賃金の支払を求めるとともに,被告幼稚園の園長である被告Aから,中絶を迫られたり,退職を強要されたりしたこと等を理由に,被告A及び被告学園に対し,被告Aについては不法行為に基づき,被告学園については法人の理事の不法行為責任に基づき,それぞれ,損害の賠償を求める事案である。2 前提となる事実(当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認定することができる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,平成8年4月,被告学園に被告幼稚園の教諭として雇用され,平成11年3月に一旦退職した後,同年7月にアルバイトの教諭として再雇用され,同年8月に正規職員として再び雇用された者であり(なお,平成11年8月以降の原告と被告学園との間の労働契約を,以下「本件労働契約」という。),平成12年4月より4歳児のクラスである星組の担任であった。
イ 被告学園は,大阪府松原市〈以下略〉において,被告幼稚園を経営する学校法人である。
ウ 被告Aは,被告学園の理事であり,また,被告幼稚園の園長である。(2) 事実経過
ア 原告は,平成12年6月下旬ころ(なお,以下,特に記載がない限り,平成12年の表記を省略する。),妊娠していることが判明し,7月2日に大阪府松原市〈以下略〉に所在する阿部産婦人科を受診したところ,「切迫流産,子宮頚管ポリープ」の診断を受けて即時入院した(甲6の1)。
イ 原告は,同月6日,被告Aに対し,妊娠したこと及び上記診断により入院の必要があることを伝えた(その際の原告と被告Aとのやりとりについては争いがある。)。
ウ 原告は,同月10日,阿部産婦人科を退院し,同月12日には,電話で,同月26日には,被告幼稚園に赴き,被告Aと話をした(その際の原告と被告Aとのやりとりについては争いがある。)。
エ 原告は,8月19日から,被告幼稚園に出勤したが,同月23日ころ,阿部産婦人科を受診し,即時,入院するように指示されたため,再び入院した。オ 原告は,同月31日,被告幼稚園に対し,被告A宛の手紙に添えて,父兄宛の手紙,7月17日付けの診断書及び8月30日付けの診断書を提出した(甲3)。
 なお,7月17日付けの診断書は,傷病名が「切迫流産3か月,子宮頸管ポリープ」とされており,また,8月30日付けの診断書は傷病名が「切迫流産4か月」とされていた(乙79,80)。
カ 被告Aは,9月19日,阿部産婦人科に入院中の原告に対し,電話で,退職届の提出を求めた。
キ 原告は,同月23日,転院先である愛染橋病院において流産した。ク 10月11日,原告は,地域の労働組合である「河南」(以下「組合」という。)に加入し,同月12日,組合を通じて,労働組合加入通知書,退職強要を止めて職場に復帰させるように求める要求書及び団体交渉申入書を被告Aに対して送付した。そして,同月20日及び11月10日,原告及び組合の代表者らと被告Aとの間で団体交渉がなされたが,合意には至らなかった(甲3)。
ケ 被告学園は,大阪地方裁判所堺支部に係属中であった債権者を原告,債務者を被告学園とする金員仮払い仮処分命令申立事件(同裁判所平成12年(ヨ)第256号)における12月12日付けの答弁書により,12月19日をもって,合意解約の認められない場合には予備的に原告を解雇する旨の意思表示をした(以下,「本件解雇」という。)。
 なお,解雇理由は,住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取(就業規則29条4号違反),園児出席簿を平成12年4月以降作成していないこと(同条3号違反),原告の妊娠及び流産が園児の父兄等に知れ渡り,被告学園の信用が失墜したこと(同条5号違反)であった。
(3) 被告幼稚園の就業規則には次のような定めがある(乙21)。ア 6条2項
 職員は,履歴事項,免許状及び身上に関し異動があった場合は,その都度,速やかに所属長に届け出なければならない。
イ 11条1項
 職員が退職しようとする場合は,少なくとも30日前までに退職願を提出し,任命権者の承認を得なければならない(保育上の理由から3月31日学期末を職員交替の時期とするために,その前年度11月には退職の意思を表明すること。)。ウ 12条本文及び1ないし3号
 職員が,次の各号の1に該当する場合は,任命権者の選択により,30日前に予告するか,又は,30日分の平均賃金を支給して解雇する。
(1号) 勤務実績が良くない場合
(2号) 心身の故障のため職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合(3号) 前2号に規定する場合の外,その職に必要な適格性を欠く場合エ 29条本文及び3ないし5号
 職員が次の各号の1に該当する場合においては,これに対して,懲戒処分としてけん責,出勤停止又は懲戒解雇の処分を
することができる。
(3号) 職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合
(4号) 第4章に定める服務規律(遵守事項,承認事項,禁止事項,登退園)に違反した場合
(5号) 教職員としての品位を失い,学園の名誉を損する非行のあった場合(4) 原告の月額賃金は,22万8760円であり,その支払期日は毎月25日である。
第3 争点
1 本件労働契約の合意解約の有無
2 本件解雇の有効性
(1) 住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取
(2) 園児出席簿の未作成
(3) 被告学園の信用失墜
3 未払賃金
4 被告らの法的責任
(1) 被告Aの不法行為責任
(2) 被告学園の責任
5 原告の損害
第4 争点に対する当事者の主張
1 本件労働契約の合意解約の有無
(被告学園)
(1) 7月26日,被告幼稚園のホール下の教室において,原告と被告Aが話し合った席上,被告Aが原告に退職を勧めたところ,原告がこれに頷き,9月末日をもって退職することを前提とした退職までの手順について確認し合った。
 したがって,7月26日に原告と被告学園との間で,本件労働契約の合意解約が成立した。
(2)1 被告Aは,後任の教諭の手配をし,8月30日後任者をみつけ,9月から臨時に雇用するなど,合意を前提とする行動をしていた。
2 7月26日以後,原告は,被告Aや被告学園の理事長宛の暑中見舞等で「責任をとる」などと述べていた。
3 9月に入ってから,被告学園が原告に対して退職届の提出を求めたが,その際,原告は,これに異議を述べておらず,原告も退職を前提とした行動をしていた。
(3) なお,「雇用保険被保険者離職票」,「共済資格喪失報告書」等には,10月20日付けで原告を解雇した旨の記載が存するが,これは被告学園の職員が事務上の手続を誤ったことによるものである。
 また,被告学園が,原告に対し,10月分の給与を支払ったのは,被告学園の給与が毎月20日締めであり,9月末日に退職する場合には,9月21日から30日までの在籍期間中の給与は10月分の給与として支払われることによるものである。
 原告の退職時期について,仮処分手続における主張を本訴において変遷させているのは,10月分の給与を支払うことと9月末日まで就労するということの被告学園の実務上の考え方を十分に理解していなかったことによる誤記である。(原告)
(1) 7月26日,原告が頷いて退職の意思を表示したことはない。仮に,7月26日に退職の合意が成立していたのであれば,体調がすぐれない状態であった原告が無理して出勤する必要はなかった。また,被告学園が原告に送付した「雇用保険被保険者離職票」,「共済資格喪失報告書」等には,10月20日付けで原告を解雇した旨の記載が存し,被告学園を差出人とする手書きによる内容証明郵便(甲13)においても,同日付けで原告が退職した旨の記載が存すること,被告学園は原告に対して10月分の給与を支払っていること,被告学園は,団体交渉や,仮処分手続において,原告が10月限りで退職する旨の合意が成立した旨主張していたにもかかわらず,本訴においては9月末日をもって退職したと主張を変遷させていること,に照らすと,被告学園においても,本件労働契約を7月26日に合意解約したとの認識はなかったというべきである。
2 本件解雇の有効性
(被告学園)
 仮に合意解約が成立していないとしても,被告学園は,12月19日付けで,原告を解雇した。
 解雇の理由は,以下のとおりであり,被告学園の就業規則に定める懲戒解雇事由(就業規則29条)に該当するが,一等減じ通常解雇とした(同12条3号)。(1) 住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取
 原告は,4月に被告幼稚園で教職員名簿や緊急連絡網を作成した際に,自らの現住所を偽って『門真市〈以下略〉』と届け,さらに,8月には,わざわざ手紙で,『平成11年4月より堺市に在住していた』と虚偽申告をなし,被告学園は,これに基づき,通勤手当として,毎月2万2490円を原告に支給してきた。
 ところで,通勤手当は,生活補助費の性質を有するものであり,労働の対価ではないことからすると,虚偽の事実を構成して規定の許容額を超える通勤手当を取得することは極めて悪質な行為である。
 さらに,本訴の前件である仮処分事件において,被告学園はその違法性を指摘し,既払い金員の返還を求めていたが,原告はその返還義務を認めながら,未だに返還しない。
 以上によれば,原告は幼稚園教諭としての適格性を欠いている。
(2) 園児出席簿の未作成
 園児出席簿は,園児の毎日の出欠,遅刻早退状況を確認して記入するものであり,園日誌などの作成の基礎資料として,大変重要なものであるから,担当教諭は,常にこれを記録しなければならず,また,その作業に特に時間や労力を要するものでもない。
 しかしながら,原告は,4月以
降,この園児出席簿を,園児名すら記入せず白紙のまま,全く作成していなかった。
 なお,被告学園は,園児出席簿を毎年年度末である3月中に作成すれば良いとか,その作成を教諭の裁量に任すなどしたことはない。
 また,原告が保育ダイアリーに園児の出席状況などを付けていたとしても,余人に判別できないのであるから,それは園児出席簿の作成とはいえず,明らかな職務怠慢である。
 この点についても,原告は幼稚園教諭としての適格性を欠いている。(3) 被告学園の信用失墜
 被告学園の教諭らは,父兄から,原告の様々な噂を指摘されるとともに,父兄自身も嫌な気分である旨告げられた。
 また,原告は,年度途中の7月の初めに,全くの私事で長期間,受け持ちクラスの担任教諭としての職務を果たせなくなったのであり,それによって,被告幼稚園では,代理の教員や後任の教員が当たったものの,園児が代理教員に馴染まず,心を開けない園児が出て,代理教員が対応に苦慮したり,またクラス運営や保育の細かいやり方が異なるため,クラス全体が落ち着かず,一人よがりの行動をする園児や登園をしぶる園児が出て来るといった一種の退行現象が多く現れるなどの問題が発生した。
 被告らは,未入籍の女性の妊娠を非難しているのではなく,上記のような深刻かつ繊細な園児への影響との対比において,自ら調整可能な妊娠という私事によってこのような重責を途中放棄することが幼稚園の教員としての適格性を欠いた行動であると指摘しているのであり,それにより,園児に生じた悪影響が被告学園の信用を失墜させたのである。
(原告)
(1) 住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取
 原告は,平成11年11月に結婚したが入籍していなかったため,被告Aのこれまでの言動から,大阪府松原市〈以下略〉に転居していることを申告すれば,被告Aから,未入籍で被告幼稚園の近隣に居住することは社会通念上許されないとして,退職を強要されたり,侮辱的な言葉を投げかけられたり,叱責されたりすると考え,転居した事実を被告学園に申告することができなかったのであり,住所地を「虚偽申告」したり,意図して「通勤手当を騙取」したのではない。
 また,本来,このような事由で労働者を解雇するためには,事実関係を確認した上,労働者に適切な変更届を提出するように指示し,それにもかかわらず,労働者が指示に従わなかったというような事情が必要であり
,積極的に虚偽の届けを提出したわけではない労働者をいきなり解雇することは許されない。
 また,少なくとも,就業規則29条には,懲戒解雇の他に,より緩やかな懲戒処分として「けん責」「出勤停止」が規定されており,いきなり解雇という最も重い懲戒処分を科すことは不当である。
 なお,被告学園は,原告からの8月31日付けの手紙において,大阪府門真市から転居した旨の報告を受けていたにもかかわらず,その後,原告や原告の母親であるCに対しても,また,団体交渉においても,「住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取」を理由として告げたことはなく,突然持ち出された解雇理由であり,解雇の口実にほかならない。
(2) 園児出席簿の未作成
 被告幼稚園では,園児出席簿の作成につき,各教諭が所持し,毎日の保育内容,園児の出席状況を記録している保育ダイアリーから園児の出席状況を転記,清書して,年度末である3月に提出することになっており,保育ダイアリーから園児出席簿に転記する時期については各教諭の裁量に委ねられていた。
 原告は,夏休み中に園児出席簿への転記,清書をするつもりであったが,入院していたために転記,清書をすることができず,9月初旬ころに被告Aの母親である副園長から園児出席簿を作成するように指示を受けたが,入院中であったことから,保育ダイアリーを預けていた同僚と連絡を取ることができなかったため,園児出席簿を作成することができないまま,10月4日に被告学園から解雇通告を受けたのであり,原告に職務上の義務違反や職務懈怠は存しない。
(3) 被告学園の信用失墜
 妊娠という私事で担任としての職責を果たせなくなったことが信用失墜となるとすれば,幼稚園に止まらず学校の教諭は全て妊娠することにより学校の信用を失墜させることになり,退職しなければ妊娠すべきでないことになる。これに反したことを理由とするのは,要するに,妊娠を理由とした解雇であり,妊娠・出産を理由とする解雇を一切禁止している「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「雇用機会均等法」という。)8条等に明らかに反する違法なものである。
3 未払賃金
(原告)
 被告学園は,平成12年7月から10月まで,一部の賃金を支払ったのみで,別紙未払い賃金一覧表記載の残賃金及び同年11月以降の賃金を支払わない。(被告学園)
 被告学園が賃金未払いであるこ
とについては争う。
4 被告らの法的責任
(1) 被告Aの不法行為責任
(原告)
 被告Aは7月6日や同月26日の原告との話し合いの際に,原告に対し,中絶を迫る言動を行い,原告がこれに応じないことが判明するや,退職を強要し,原告に対し「はらわたが煮えくりかえる」とか「私が親ならひっばたいている」「結婚もしていないのに妊娠するなんて」等と原告を侮辱する暴言を加えた。
 また,絶対安静下の原告に出勤するよう迫り,原告に再び出血・入院せしめ,更に入院してベッドで24時間の点滴を受けている原告に対し,再度出勤を要求している。ところが,後任者がみつかるや,被告Aは,入院中の原告に対し,退職届を提出するよう迫った。
 このような被告Aの言動により,原告は著しい精神的苦痛を受け,精神的な安静を失い,流産に追い込まれた。
 さらに,被告Aは,流産した原告に対し,流産当日から退職届の提出を迫り,10月4日には,Cを通じて解雇を通告した。
 本件における退職勧奨及び解雇は,上記のとおり,女性に対する差別として違法な行為であり,原告は,このような被告Aによる違法な退職勧奨及び解雇によって著しい精神的苦痛を受けた。
(被告ら)
 被告Aが原告に対して中絶を迫る言動をしたことや退職を強要したことはなく,また,原告が主張するような暴言を加えたこともない。
 また,被告Aは,7月26日以降,原告と接触を取っておらず,原告の身体を気遣っていたのであって,安静を要する原告に対して,出勤を強要してはいない。
 原告が流産したのは,前置胎盤であったことに起因するものであり,原告が被告幼稚園に出勤したことによるものではない。
 その余の点についても,いずれも争う。
(2) 被告学園の責任
(原告)
 被告Aは被告学園の理事として,原告に対する不法行為を行ったのであるから,被告学園は民法第44条1項により,被告Aと連帯して不法行為責任を負う。(被告学園)
 被告Aは不法行為責任を負担しないから,被告学園も法的責任を負担しない。5 原告の損害
(原告)
 原告が被告Aからの不法行為により被った精神的苦痛は,到底金銭に評価しがたいものであるが,少なくとも500万円を下らない。
 また,原告は円満解決を求めて被告らと交渉してきたが,被告らは一向に誠意ある対応を示さなかったため,やむなく本訴に及んだものであり,本件事案の複雑性等に鑑みると,その弁護士費用
は100万円を下らない。
(被告ら)
 原告の損害については,いずれも争う。
第5 争点に対する当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提となる事実,証拠(特に記載のないものについては,いずれも枝番を含む。甲3ないし7,10ないし13,16ないし18,21,乙1ないし4,20,22,23.25,67ないし70,79ないし81,証人C,原告本人,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。(1) 原告が被告学園に再雇用されるに至る経緯
ア 原告は,平成8年4月に被告幼稚園に正規職員として採用され,幼稚園教諭として勤務していたが,平成11年3月ころ,被告幼稚園を退職した。
 しかしながら,原告は,被告Aから,同年4月については,引き続き,アルバイト教員として勤務して欲しい旨の依頼を受けたことから,これを承諾して約3週間勤務を続けた。
イ B教諭は,平成11年4月,被告幼稚園の正規職員として採用され,4歳児クラスの担任教諭であった。同教諭は,未入籍の状態であったが,妊娠したことから,同年6月ころ,被告Aに対し,現在,妊娠している旨告げた。
 これに対して,被告Aは,怒鳴りつけるようなことはなかったものの,厳しい態度で,B教諭に対し,未だ1学期も始まって間がない時期であり,今後の仕事をどうするのかを強く問い質すとともに,B教諭が担任教諭として就任後わずか2か月で妊娠したのは無責任であるとして叱責した。
 そして,被告Aは,B教諭が教師として今後とても勤務できる精神状態ではないと判断したことや同教諭がクラスの園児の保育より妊娠という私生活を優先させるという未熟で間違った考えを持っていると考えたことから,同教諭に対し,退職を勧めた。これに対し,B教諭から全く反論がなかった。また,その際,被告Aは,B教諭に対し,30人ものクラスの園児の保育を放棄して,私事を優先して幸せになれるのか疑問であり,なぜ園児のことを考えて避妊も含めた自己管理ができなかったのかと非難した。
ウ その後,被告Aは,B教諭の両親を被告幼稚園に呼び出し,幼稚園教育の重要性と幼稚園教諭としての責任についてB教諭に対してしたのと同様の話をするとともに,この件が被告幼稚園の信頼を崩すことになる旨告げて,今後,B教諭本人の責任をどうするのかと尋ねたが,B教諭の両親からは,全く,返答がなかった。
 また,被告Aは,B教
諭が被告幼稚園に就職してわずか2か月間のうちに起こった出来事であったことから,B教諭の出身校である大阪信愛女学院短期大学就職部の担当者に対して連絡したところ,同担当者は被告幼稚園に赴き,被告Aに対して詫びた。被告Aは,B教諭に対し,同短期大学まで詫びに行くように促した。
エ 被告Aは,B教諭が病気のため当分の間,仕事をすることができない状態であると同教諭が担当するクラスの園児及び父兄には告げざるを得ないと判断し,同教諭の了承を得た上,父兄宛の文書を作成して,配布した。その際,被告Aは,同教諭の住所が被告幼稚園の所在地と同じ大阪府松原市α地区であったことから,同教諭に対し,病気のように振る舞うように注意するとともに,同教諭が通うであろう病院にも父兄はいることを考えること,結婚してどこかに居を構えるのであればα地区以外の方が心休まると思うことなどを告げた。同日の夜,B教諭の父親から,被告Aに対し,B教諭に対してα地区から出て行くように述べたらしいが,被告幼稚園のことしか考えていない,翌日からは出勤させないとの抗議の電話があった。そして,B教諭は翌日から出勤しなかったことから,被告幼稚園では,同教諭を依願退職として取り扱った。
 なお,被告Aは,被告幼稚園の職員らに対し,園児や父兄からB教諭のことについて尋ねられても,妊娠したと答えてはならない旨指示した。
オ 平成11年6月末ころ,原告は,被告Aから電話を受け,B教諭が妊娠して,出産を希望しており,仕事ができなくなるので,後任の教諭として勤務して欲しい旨依頼されたことから,これを了承し,同年7月からアルバイト教員として被告幼稚園に出勤した。
 その後,B教諭が退職したことから,原告は,同年8月からは正規職員となった。
(2) 原告の再雇用から本件に至る経緯
ア 平成11年11月ころ,原告は,内縁の夫であるHと,肩書住所地において,同居を開始した。
 なお,原告は,被告幼稚園に対し,住所地の変更申請をせず,通勤手当についても,従前からの届出住所地であり,原告の実家がある大阪府門真市内の住所からを基に算定された金額を受給していた。
イ 6月30日,原告は出血があったため,大阪府松原市〈以下略〉所在の阿部産婦人科において診察を受け,妊娠4ないし5週と診断された。診察の際,原告は,医師から,再度の出血が認められた場合には受診するように指示を受けた。
ウ 7月2日,原告は,大量の出血を認めたことから,再度,阿部産婦人科を受診し,切迫流産3か月及び子宮頸管ポリープと診断され,直ちに入院することになった,原告は,Cに対し,大量の出血があり,入院しなければならず,しばらくの間,被告幼稚園に出勤することができないので,そのことを,被告Aに伝えて欲しい旨依頼した。
エ Cは,被告Aに対して電話をかけ,原告が大量出血して入院したので,数日間,休ませて欲しい旨伝えた。
オ 7月3日,原告は,子宮頸管ポリープの切除手術を受けた。
(3) 被告Aが原告の妊娠を知った後,7月26日までの経緯
ア 7月6日,原告は,被告Aに対して電話をかけ,子宮頸管ポリープの手術は無事に終了したが,妊娠していることが判明した旨告げた。
 被告Aは,原告が妊娠したことを知って非常に驚き,原告に対し,昨年もB教諭による同じようなことがあって大変であったことは十分承知していたはずであるのに,軽率であったのではないかと非難した。
 また,被告Aは,原告から,妊娠4ないし5週である旨告げられた際,胎児が未だ小さな豆粒ぐらいの大きさである旨述べるとともに,原告は若いのであるから,出産や妊娠についてはこれからも機会があるのではないかと述べるなどして中絶するように暗に迫ったため,原告は大きなショックを受けた。
 さらに,被告Aは,原告に対し,昨年のB教諭のような形で園児や父兄に迷惑をかけないように,あくまで円満解決の結論を出さなければならない旨述べた。(なお,被告Aは,上記認定に反し,「しかし,こんな事は言いにくいが,君もまだ若いんだから,出産や妊娠についてはこれからもチャンスがあると考えられなかったの。」と述べた程度で中絶を迫ったことはない旨供述する。しかしながら,7月26日,原告が被告Aに対して中絶をすることができなかった旨述べたことについては被告Aもこれを認めるところ,そのような発言を原告がなす前提として,7月6日の会話中に被告Aが中絶を促す旨の発言をしたか,そう受けとられる可能性がある発言をしたと認めるのが合理的であることに加え,被告Aは原告の妊娠週数を確認した上で,胎児が未だ豆粒みたいに小さい旨述べているが,このような発言からは中絶手術における母体への影響が少ないことを想起させやすいことに照らすと,被告Aが原告に対し,暗に中絶を迫ったと考えるのが相当であり,これに反する被告Aの供述については採用することができない。)
イ 7月10日,原告は,阿部産婦人科を退院したが,医師から,退院後も,絶対安静を指示された。
ウ 7月12日,原告は,被告Aに電話をかけ,退院したことを報告した。そして,被告Aから,被告幼稚園で会って話がしたい旨告げられ,これを承諾した。
 その際,被告Aは,原告に対し,被告幼稚園の経営者・管理者としての責任があるので,仕事を第一に考える立場上,原告が妊娠したことを簡単に祝福することはできない旨述べるとともに,今まで保育者として積み重ね,文部省の研究もして学んできたことを,被告幼稚園の教員である以上忘れないで欲しいこと,とにかく,これからどうするのかをよく考えて7月26日に被告幼稚園に来て欲しいことを伝えた。
(4) 7月26日の話合い
ア 7月26日午後1時30分ころ,原告は,被告幼稚園に赴き,被告幼稚園ホール下にある教室で,被告Aと面会した。
イ 原告は,被告Aに対し,妊娠したことについて詫びるとともに,長期間に渡って欠勤したことを詫び,7月6日及び12日の会話から考え悩み,胎児を中絶することも考えたが,中絶することができなかった旨述べた。
 これに対して,被告Aは,原告に対し,原告が担任をしていたクラスのことを考えると,なぜこんな時期にという思いではらわたが煮えくり返るような思いもするが,今は,そのような気持ちを抑えて話をしたい旨述べた。また,被告Aは,原告に対し,クラスの園児のことや1年で一番大切な2学期及び3学期のことについてどのように考えているのか,問い質したところ,原告から何らの返事もなかったことから,さらに,9月以降,全く仕事ができないという,自分に与えられた仕事の義務を全う出来ない状態を全くの私事で作ってしまったのであり,教師としても社会人としても無責任である旨非難した。そして,被告Aは,原告に対し,私立幼稚園では予備の教員がいるわけではないので,育児休業中の代替教員をすぐに採用することは難しい旨述べ,仕事を途中で放棄する責任を取るためには,退職するしかないとして,原告に退職を勧めたが,原告から,特段,反論等はなかった。ウ 被告Aは,原告に対し,後任の教諭についても見つかるかどうか分からないので,もしも可能であれば,夏季保育期間である8月19日から出勤して欲しい旨述べた。
エ その後,原告と被告Aは,被告幼稚園
のホールに赴き,原告は,研修中であった被告幼稚園の教諭らの前で,8月の夏季保育から復帰することを告げるとともに,欠勤して他の教諭らに迷惑をかけたことを詫びた。
(5) 原告が再入院するまでの経過
ア 原告は,7月27日から8月18日までの間,自宅で安静にしていたが,出血が認められた際には,その度に,阿部産婦人科で診察を受けた。
イ 被告Aは,8月1日から同月6日までの間,オーストラリアのシドニーにある木の実幼稚園インターナショナルに出張のため滞在していたが,その際,同幼稚園のD園長に対し,原告が妊娠・出産のため,退職の予定となったので,後任の教諭を探しているが,適当な人物がいないか尋ねた。これに対し,同園長からは具体的な提案等はなかった。
ウ 原告は,8月9日ころ,被告A宛の暑中見舞いの葉書を投函したが,同葉書中には,「園長先生,大変御迷惑をおかけ致しまして,誠に申し訳ございません。夏期保育には先生方にも,深く,おわびを申し上げると共に,クラス担任としての責任を取りたいと思っております。本当に,申し訳ございません。」との記載があった。
 また,原告は,同月20日ころ,被告幼稚園の理事長であるF宛の残暑見舞いの葉書を投函したが,同葉書中には,「この度は,理事長先生,副園長先生,園長先生,諸先生方には,大変御迷惑をおかけ致しまして誠に申し訳ございませんでした。社会人として,保育者として,無責任なことをしてしまい,深く反省しております。今後は,クラス担任としての,できる限りの責任を取り,御父兄の皆様,子供達に深くお詫び申し上げたいと思っております。本当に申し訳ありませんでした。」との記載があった。
エ 8月19日,原告は,体調は万全でなかったが,被告幼稚園に出勤し,2学期の準備のための掃除や保育室の環境づくりの仕事に従事した。
オ 8月21日,園児が降園した後,原告は,被告Aからの指示により,被告幼稚園の行事である地蔵盆の準備や打ち合わせも兼ねた職員会議の席上,職員らに対して現在妊娠中であることを告げるとともに,欠勤するなどして迷惑をかけたことを謝った。
カ 8月23日午後1時30分ころ,原告は,大量出血をしたことから,被告Aに申し出て早退し,阿部産婦人科を受診したところ,切迫流産4か月と診断され,直ちに入院することになった。
(6) 原告の再入院後,流産するまでの経過
ア 原告は,医師から
,点滴で出血が止まれば大丈夫であるが,しばらくは絶対に安静にしているように指示を受けたことから,被告Aに電話をかけて,その旨告げた。
 被告Aは,原告からの報告を受け,動かずにじっと座っているだけでも無理な状態であることを確認した。そして,被告Aは,明日催される地蔵盆において,クラスの園児や父兄らへの対処を考えなければならなくなったことから困惑し,原告に対し,これらの対処に困った旨述べた。また,被告Aは,原告に対し,今後,勤務することができるのか,医師に確認して欲しい旨述べた。
イ 8月24日,原告は,被告Aに電話をかけ,絶対安静の状態であり,数日間は出勤することができない旨告げた。
ウ 8月30日ころ,被告Aは,原告に電話をかけ,2学期から出勤することができそうかを確認したところ,原告から,退院のめどがつかないので出勤できない旨の回答を得た。
 被告Aは,1,2日はパート教員であるEに原告の代替教員として原告が担任をしている星組に入ってもらう旨述べた。
 また,被告Aは,原告に対し,星組の父兄宛に事情説明の手紙を書くように指示した。
エ 同日,被告Aは,木の実幼稚園インターナショナルへの採用が内定していたGから,原告の後任の教諭として勤務することの承諾を得た。
オ 8月31日,原告は,被告A宛の手紙を2通の診断書(7月17日付けで傷病名が切迫流産3か月及び子宮頸管ポリープとの診断書及び8月30日付けで傷病名が切迫流産4か月との診断書),父兄宛の手紙とともに封筒に入れ,Hに被告幼稚園の郵便受けに投函してもらった。
 被告A宛の手紙中には,「園長先生には,自分勝手な事ばかり申し出て,それでも園長先生は今後の星組のことについて少しずつ相談しながらケアしていこうと言って下さり,私も,何が何でも夏休み中に体力を取り戻し,最後の責任を努めようと思っていたのですが,また入院となり,本当に,自分で自分の事がなさけなく,今は,そんな自分を責めることしかできません。」,「園長先生にはもっと早くにお話ししないといけなかったのですが,なかなか言いだせず,実は,私は,1度,木の実幼稚園を退職した時に,門真の家を出て,堺の方で2人で暮らしていました。」,「やはり,ここ(阿部産婦人科)で入院しているのは,自分自身も苦しく,周りには御父兄の方々も大勢いらっしゃるので,落ち着きましたら,家も病院も門真の方に移し,
皆様に,これ以上,御迷惑をおかけしないようにと思っています。」との記載がある。
カ 9月4日,被告Aは,原告に対し,原告の後任の教諭が見つかった旨電話で連絡し,9月11日には,後任の教諭を父兄に紹介する旨連絡した。
キ 9月19日,被告Aは,原告に電話をかけ,原告に対し,7月分ないし9月分の給料は既に支払済みであるので,事務上の締切日である9月20日付けで退職の扱いとして欲しい旨述べるとともに,どのような形でもよいので退職届を提出するように求めた。
 なお,被告Aから電話を受けた際,原告は,体調が回復しないので,設備が充実した愛染橋病院に転院する旨述べた。
ク 9月20日,原告は,阿部産婦人科から愛染橋病院に転院した。愛染橋病院における診察の結果,原告は,医師から,胎児の心音はあるが羊水がほとんど流出した状態であり,呼吸ができていない状態であるので,母体の保護のためにも中絶するしかない旨告げられ,手術日が同月25日と予定された。
ケ 9月23日早朝,原告は,破水流産した(妊娠18週前期)。
(7) 原告の流産後の経過
ア 同日午後8時ころ,Cは被告Aに電話をかけ,原告が流産したことと,職場復帰を望んでいることを告げたが,被告Aから,原告を職場復帰させることは無理である旨告げられ,退職届を早期に提出して欲しい旨催促された。
(被告Aは,同日のCとの会話中に,退職届の提出を求めていない旨供述するが,原告の9月28日付けの手紙(乙4の1)において,被告幼稚園に提出する退職届をしばらくの間待って欲しい旨の記載が存すること,証人Cが,被告Aから退職届の提出を求められた旨供述していることからすると,被告Aの同供述は採用することができない。また,被告Aは,Cから,原告が職場復帰を望んでいることを告げられていない旨供述するが,原告は,10月11日に組合に加入し,同月12日には,被告Aに対して職場復帰を求める要求書を送付していることに加え,証人Cが,被告Aに対して原告が職場復帰を望んでいることを告げた旨供述していることを合わせ考慮すると,被告Aの同供述についても採用することができない。なお,9月28日付けの手紙には,「退職届の方は,もうしばらくお待ち願えないでしょうか。」との記載があることから,文言上は合意解約が存在したようにも読めるが,他方で,9月19日における被告Aの供述を前提とすれば,代筆による退職届も許容されると解されるところ,その後,代筆による退職届の提出すらなされていないことからすると,原告が退職届の提出を拒むために,同文言を記載した可能性もあるから,同手紙の同文言をもって,認定を左右しない。)イ 9月28日,原告は,医師に,前記破水による流産により1か月間の自宅療養を要する旨の診断書を作成してもらい,手紙を添えて,被告Aに対して送付した。
 同手紙には,「本人が健康回復をするまで,退職届の方はもうしばらくお待ち願えないでしょうか。」との記載があり,また,「代筆」との記載もある。ウ 9月30日,原告は,愛染橋病院を退院し,経過観察をしながら,同病院に通院することとなった。
エ 10月4日夕方,被告Aは,被告幼稚園の事務員を通じてCに電話をかけ,Cに対し,原告の退職手続が未了であるので,退職届を提出するように求めた。Cは,被告Aに対し,原告を職場復帰させて欲しい旨頼んだが,被告Aから断られた。
(なお,証人Cは,被告Aから,原告を解雇すると告げられた旨供述するが,後記のとおり,10月20日に開催された第1回目の団体交渉において,被告Aは解雇について何ら言及しておらず,11月1日に開催された第2回目の団体交渉において,被告Aが解雇について言及していることに照らすと,10月4日当時,被告Aが原告の解雇については未だ考えていなかったと認めるのが相当であるから,被告Aが,Cに対し,原告を解雇する旨告げたとの証人Cの供述は採用できない。)(8) 団体交渉の経過
ア 10月11日,原告は,組合に加入し,同月12日,組合を通じて,労働組合加入通知書,退職強要を止めて職場に復帰させるように求める要求書及び団体交渉申入書を被告Aに対して送付した。
イ 10月20日,原告及び組合の代表者らと被告Aとの間で第1回目の団体交渉がなされた。
 団体交渉において,被告Aは,7月26日に原告との間で退職の合意ができた旨述べ,原告は,妊娠したことで退職したい旨述べたことはない旨反論した。ウ 11月1日,原告及び組合の代表者らと被告Aとの間で第2回目の団体交渉がなされた。
 団体交渉において,被告Aは,原告及び組合の代表者らに対し,入籍していないのに妊娠したことは,教育者として不適格であり,被告幼稚園の社会的信用を傷つけたとの理由で原告を解雇する旨述べた。そして,組合からの質問に対し,被告Aは9月
20日に解雇予告をし,10月20日付け解雇であると述べた。
(9) その後,本訴に至るまでの経過
ア 11月8日ころ,被告幼稚園は,原告に対し,雇用保険被保険者離職票(以下「離職票」という。)及び日本私立学校振興・共済事業団宛の資格喪失報告書を送付した。
 離職票の離職理由は,就業規則違反による解雇とされており,また,資格喪失報告書の資格喪失事由も解雇とされていた。
 また,離職票の離職年月日及び資格喪失報告書の事由の生じた年月日については,いずれも,平成12年10月20日とされていた。
イ 11月18日ころ,被告幼稚園は,原告に対し,離職票及び資格喪失報告書が返送されていなかったことから,早急に返送を求める旨通知する文書を送付するとともに,原告が10月20日付けで退職した旨の退職証明書及び健康保険資格喪失証明書を送付した。
 なお,健康保険資格喪失証明書の喪失理由は解雇とされていた。
ウ 11月22日,被告学園は,原告に対し,「健康保健証(加入者証)返送通知書」と題する書面を内容証明郵便により送付したが,同書面中にも,原告が,10月20日付けで解雇退職となっている旨の記載があった。
エ 12月1日,被告学園は,河内柏原公共職業安定所に対して提出した離職証明書類の退職理由につき,解雇とあるのを合意による退職である旨訂正した。オ 被告学園は,大阪地方裁判所堺支部に係属中であった債権者を原告,債務者を被告学園とする金員仮払い仮処分命令申立事件(同裁判所平成12年(ヨ)第256号)における12月12日付けの答弁書により,合意解約の認められない場合には12月19日をもって,予備的に原告を解雇する旨の意思表示をした。キ 12月28日,大阪地方裁判所堺支部は,債務者である被告学園に対し,62万8336円及び平成13年1月から同年12月まで毎月25日限り月額22万8760円を仮に支払う旨命じる決定をした。
(10) 園児出席簿について
ア 被告幼稚園では,毎日,園児出席簿に記入して,園児の出席状況を確認することになっており,また,園児の出席状況については幼稚園日誌に転記され,被告Aの確認を受けることになっていた。そして,幼稚園日誌については,原則として,被告Aが確認することになっていた。
イ 原告は,被告幼稚園に就職した当時から,園児の出席状況については,保育ダイアリーに記録し,週末や学期末に,園児出
席簿に転記していた。
 なお,園児出席簿の最終的な提出期限は年度末である3月であった。ウ 原告は,平成12年4月以降の園児の出席状況についても,保育ダイアリーに記録しており,7月当時,園児出席簿については,全く作成していなかった。エ 7月2日に原告が緊急入院した後,原告の代替教諭として,原告が担任を務めるクラスを引き継いだE教諭は,原告が記録していた保育ダイアリーに引き続き,園児の出席状況を記録した。
オ 被告Aが,平成12年9月ころ,被告幼稚園の教諭らに対して,園児出席簿の作成状況を確認したところ,原告以外にも,数名の教諭が保育ダイアリー等に園児の出席状況を記載し,後で,まとめて園児出席簿に転記するという方法を採っていることが判明した。
 被告Aは,同教諭らに対して注意したが,特段の処分はしなかった。2 本件労働契約の合意解約の有無について
 前記認定のとおり,7月26日,原告と被告Aが被告幼稚園の今後の対応について話し合った際,被告Aから,原告に対し,退職を勧めた事実が認められる。被告Aは,本人尋問において,退職の勧めに対して原告が頷き,そこで退職の合意ができた旨供述し,被告学園は,前記認定の1(5)イ,ウの事実が,同日,退職合意があったことの証左であると主張する。
 しかしながら,以下のとおり,7月26日,原告が頷いて被告Aとの間で本件労働契約の合意解約をしたと認めることはできない。
 前記1(5)イ認定の被告Aが8月1日から原告の代替教諭を探していた事実は,原告が退職する場合だけでなく,原告が妊娠による体調不良で職場に復帰できない場合にも必要になることであるから,退職合意を推認させる事情とみることはできず,上記結論を左右しない。
 また,被告らは,前記1(5)ウ認定の原告がした被告A宛の暑中見舞や被告A宛の手紙の中における,「クラス担任としての責任を取りたい」,「最後の責任に努めようと思っていた」との記載も,合意解約を前提とした記載である旨主張するが,その「責任」とは,産前休暇までの間のクラス担任としての責任という意味でも理解が可能であるから,本件労働契約の合意解約が成立したことを裏付ける事情と認めることはできない。
 以上に加え,原告が阿部産婦人科の医師から退院後も絶対安静を指示されていたにもかかわらず,8月19日から出勤していること,被告幼稚園の就業規則では,依願退職の
場合,退職願を提出することが予定されているところ,原告が被告Aから9月23日に退職届の提出を催促されたが,その提出をせず,かえって,10月11日には退職強要があったことを理由に組合に加入していること,8月21日,他の教諭らに妊娠の事実は告げたのに,その際,退職する予定であるとは告げていないこと,被告学園が離職票や資格喪失報告書において離職理由や資格喪失事由を解雇として取り扱っており,また,前記認定の(8)ウ,(9)イ,ウのとおり,被告学園は,当初,10月20日付け解雇としていたこと,就業規則上,被告学園には原告の10月分の給与を満額支給する必要がないにもかかわらず,本俸について満額支給していること(甲9の4)を合わせ考慮すると,7月26日,原告と被告学園との間に本件労働契約の合意解約が成立したと認めることはできない。3 本件解雇の有効性について
(1) 住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取について
 前記認定のとおり,原告は,平成11年3月に被告学園を一旦退職しているから,本件労働契約との関係で解雇理由となりうるのは,被告学園に正規職員として再雇用後である平成11年8月以降の事由についてのみであるところ,確かに,原告は,同年11月ころから,Hと肩書住所地において同居を始めたにもかかわらず,被告学園には住所地を変更したことを届け出ず,通勤手当についても従前からの届出住所地である大阪府門真市内からの通勤に要する金額を受給していたことが認められるから,職員の身上関係に異動があった場合は所属長に速やかに届け出ることを要する旨規定する就業規則6条2項に違反し,服務規律違反が存したといわざるを得ない。
 しかしながら,原告は,前記1(1)イないしエ記載のB教諭の退職に至る一連の事実経過について承知していたことから,Hと未入籍の状態のまま,被告幼稚園の近隣にある肩書住所地に転居した旨報告すれば,被告Aから厳しい叱責や強い退職勧奨を受ける可能性があると判断して,住所地の変更を申し出なかったものと認められることや,被告Aが,従前から,園児の父兄らの目があるので私生活に気を付けるように指導していた旨供述していること,前記認定のとおり,被告Aは,B教諭に対し,結婚後の居住地としてはα地区以外を勧めたことをも合わせ鑑みると,平成11年11月当時,被告幼稚園では,被告Aに対して未入籍の状態で被告幼稚園
の近隣に居住した旨の報告をしづらい状況であったのであり,そのような状況を作出した一因は被告Aにもある。したがって,住所地の変更を申し出なかったことにつき,原告のみを非難することはできないというべきである。
 以上に加え,住所地の虚偽申告については,手当の不正受給額以外には被告幼稚園の運営において実害が生じたとの事実が証拠上窺われないこと,不正受給期間が平成11年11月から平成12年7月までの約9か月間であり,比較的短期間であることをも併せ鑑みると,原告の服務規律違反の程度は重大なものとはいえない。(2) 園児出席簿の未作成について
 前記1(10)のとおり,確かに,被告幼稚園では,毎日,園児出席簿に記入して,園児の出席状況を確認することになっていたことが認められる。
 しかしながら,同時に,前記認定によれば,7月2日に原告が緊急入院した後,原告の代替教諭として,原告が担任を務めるクラスを引き継いだE教諭は,引き続き,原告の保育ダイアリーに園児の出席状況を記録していること,被告Aが,平成12年9月ころ,被告幼稚園の教諭らに対して,園児出席簿の作成状況を確認したところ,原告以外にも,数名の教諭が保育ダイアリー等に園児の出席状況を記載し,後で,まとめて園児出席簿に転記するという方法を採っていたことが認められ,これらに加えて,原告は被告幼稚園に就職した当時から保育ダイアリーに記録していたにもかかわらず,被告Aは,園児出席簿の作成について原告を注意したことがない旨供述していること,I教諭も陳述書において原告の主張に沿う供述をしていること(甲8)をも併せ考慮すると,被告幼稚園の園児出席簿の作成については,保育ダイアリーに記録して,事後的に園児出席簿に転記するのが実態であったと認めるのが相当であり,被告Aも同事実を認識し,又は,認識することが容易に可能であったにもかかわらず,かかる実態を放置していたというべきである。 とすれば,原告が園児出席簿を作成していなかったことをもって,被告学園が職務懈怠と評価することは許されないというべきである。
 なお,被告Aは,原告の担当するクラスの園児出席簿が見当たらなかったことから,E教諭が引き続き保育ダイアリーに出席状況を記載していた旨供述するが,仮に,園児出席簿が見当たらなかったとすれば,新しい園児出席簿を臨時に作成するのが合理的であるから,被告Aの
同供述については採用することができない。
(3) 被告学園の信用失墜について
 被告学園は,原告が私事によって長期間,担任教諭としての職務を果たせなかったことにより,園児の退行現象が多く現れたり,父兄から原告の様々な噂を指摘されたりして,被告学園の信用を失墜させられた旨主張する。
 しかしながら,雇用機会均等法8条によれば,女性労働者による妊娠又は出産を理由とする解雇は禁止されているところ,被告らの主張を前提とすれば,結局,教員が学期途中に妊娠した事実をもって,解雇理由になりうるから,不相当であり,独自の見解であって,採用することはできない。
(4) 本件解雇の有効性の有無について
 以上によれば,被告学園が主張する解雇理由のうち,住所地の虚偽申告及び通勤手当の不正受給のみが解雇の理由となりうべきものであるところ,原告が住所地変更を申告できなかったことの一因が被告幼稚園の園長である被告Aにあること,住所地の虚偽申告については,被告幼稚園の運営に重大な実害が生じたとの事実が窺われないこと,通勤手当の不正受給期間が約9か月間と比較的短期間であることを併せ考慮すると,原告を解雇しなければならない程度の服務規律違反の重大性は認められないから,本件解雇は解雇権の濫用として無効であるというべきである。4 未払賃金について
 以上のとおり,被告学園による本件労働契約の合意解約は成立しておらず,本件解雇も無効であるから,原告は,被告学園に対し,労働者として労働契約上の地位を有し,未払賃金分について賃金請求権を有する。
 原告の月額賃金が22万8760円であり,その支払期日が毎月25日であることについては当事者間に争いがない。
 また,証拠(甲9の1ないし4)によれば,被告学園は,原告に対し,平成12年7月分の給与として20万1000円,8月分の給与として17万9808円,9月分の給与として18万3608円,10月分の給与として17万9808円を支払った事実が認められる。
 したがって,原告は,被告学園に対し,支払日を平成12年7月25日とする給与につき2万7760円,8月25日とする給与につき4万8952円,9月25日とする給与につき4万5152円,10月25日とする給与につき4万8952円(以上合計17万0816円)の賃金請求権を有するとともに,平成12年11月以降,毎月25日限り,22万8760
円の賃金請求権を有する。
5 被告らの法的責任について
(1) 被告Aの不法行為責任
 前記のとおり,平成11年6月ころにB教諭の妊娠が判明した際,被告Aは,同教諭に対して,避妊も含めた自己管理ができなかったことについて厳しく非難するとともに,同教諭が明らかに幼稚園教諭として未熟で間違った考えを持っていると考え,同教諭に対して退職を勧めたこと,その後,同教諭の両親を被告幼稚園に呼び出して同教諭の責任についてどのように考えているのか問い質したこと,同教諭の出身校である短期大学就職部の担当者に連絡を取ったこと,被告幼稚園の職員らに対し,園児や父兄からB教諭のことについて尋ねられても,妊娠したと答えてはならない旨指示したことが認められ,これらの事実経過に照らすと,B教諭は,被告Aの叱責などに対して畏怖していたことは想像に難くなく,その退職後,被告幼稚園の職員らの間には,担任教諭として在職中に,未入籍の状態で妊娠をすることは許されない,そうなれば厳しい叱責があり退職を迫られるかもしれないという雰囲気があったと認めるのが相当である。
 そして,前記認定によれば,原告も上記のB教諭の退職に至る一連の事実経過について認識していたところ,7月6日に原告が被告Aに対して妊娠している事実を告げた後,被告Aから,B教諭による上記の一連の事実経過を承知しているはずであるのに軽率であったのではないかと非難されるとともに,妊娠週数が4,5週であり,未だ胎児も小さいので,出産や妊娠についてはこれからも機会があるのではないかとして,暗に中絶することを勧められ,さらに,7月26日に,中絶をできない旨述べたところ,被告Aから,園児のことや2学期及び3学期のことについてどのように考えているのか問い質されるとともに,妊娠という私事によって仕事が全くできない状態を作出したのであり,教師としても社会人としても無責任である旨非難され,また,私立幼稚園では予備の教員がいるわけではないので,育児休業中の代替教員をすぐに採用することは難しい旨告げられた上で,被告Aから退職を勧められた事実が認められる。
 以上によれば,原告は,7月6日に被告Aから,暗に中絶を勧められ,7月26日に中絶ができない旨返答したのに対して,園児のことやクラス運営について問い質されるとともに,教師としても社会人としても無責任であると非難され,産前休暇等の
取得が困難であることを告げられた上で退職を勧められたのであって,このような被告Aによる一連の発言は,原告に退職を一方的に迫っていると評価されてもやむを得ないものである。
 さらに,前記認定によれば,妊娠したことが無責任である旨非難され,責任を果たすよう強く求められ,やむなく夏季保育のために出勤した原告は,以上の経緯で肉体的・精神的苦痛を受けている状況下で流産という女性としてたえがたい事態に陥ったにもかかわらず,被告Aは退職届の提出を執拗に求め,退職を強要しようとした上,結局,解雇したことが認められる。
 以上によれば,被告Aによる上記の一連の行為は,原告の妊娠を理由とする中絶の勧告,退職の強要及び解雇であり,雇用機会均等法8条の趣旨に反する違法な行為であり,被告Aは不法行為責任(民法709条)を免れない。
(2) 被告学園の責任
 被告Aは,被告学園の理事としての職務を行うに際し,上記の不法行為に及んだのであるから,被告学園は,被告Aと連帯して不法行為責任を負担する(民法44条1項)。
6 原告の損害について
(1) 精神的苦痛に対する慰謝料
 原告は,被告Aによる一連の不法行為により,一時は中絶を考えるとともに(原告本人),その後も,妊娠状態が良好ではない状況下で被告Aから退職を強要され,胎児を流産した後も,退職届の提出を執拗に求められるとともに,解雇を通告されたものであり,これによって,原告が著しい精神的苦痛を受けたことなど,本件の一切の事情を考慮すると,原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額は250万円と認めるのが相当である。
(2) 弁護士費用
 原告が本件訴訟代理人らに本件訴訟の提起・追行を委任し,報酬の支払約束をしたことは弁論の全趣旨により認められるところ,本件訴訟の事案の難易,審理経過,認容額等によれば,本件不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用の額は,30万円と認めるのが相当である。
第6 結論
 以上によれば,原告の被告らに対する各請求は主文掲記の限度で理由があるから認容し,その余については理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所堺支部第二民事部
裁判長裁判官 竹中邦夫
裁判官 飯畑正一郎
裁判官 品川英基
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket