主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請 求
1 (主位的請求) (1) 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を引き渡せ。
 前記引渡しの強制執行が不能となったときは,被告は,原告に対し,金743万2800円及びこれに対する上記強制執行が不能となった日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告に対し,本件自動車について所有権移転登録手続をせよ。
 2 (予備的請求) 被告は、原告に対し、金743万2800円及びこれに対する平成11年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,A自動車販売株式会社(以下「A」という。)から本件自動車を買い受けたBとの間で売買代金について立替払委託契約を締結した信販業者である原告が,中古自動車販売業者である被告に対し,主位的に,同契約において原告に留保された本件自動車の所有権に基づき,その引渡し及び代償請求として本件自動車の時価(875万円)の一部743万2800円及びこれに対する上記強制執行が不能となった日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,本件自動車について所有権移転登録手続を求め,予備的に,本件自動車の売却による所有権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償として前同様の金員である743万2800円及びこれに対する不法行為の日の後である平成11年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 判断の前提となる事実
 (認定の根拠を示した事実以外は争いがない。)
(1) 当事者 ア 原告は,割賦購入斡旋業等を営む株式会社である。
 イ 被告は,中古自動車の販売業等を営む有限会社である。(2) 本件立替払委託契約 ア 原告は,平成6年12月16日,Bとの間で,次の内容のポルシェローン契約と題する立替払委託契約(以下「本件立替払委託契約」という。)を締結した。(甲第1号証の1,2)
(ア) Bは,原告に対し,同人がAから買い受けた本件自動車の売買残代 金1000万円について,原告がAに対し別紙契約目録記載のとおりその立替払を することを委託する。(イ) Bは,原告に対し,上記立替金に同目録記載の手数料を加算した金 員を同目録記載の支払方法により分割払する。(ウ) 本件自動車の所有権は,本件立替払委託契約が成立したときにAか ら原告に移転し,以後,登録名義のいかんを問わず,Bによる前項の分割金完済時 まで原告に留保される。(エ) Bは,分割金の支払を怠って,原告から20日間以上の相当な期間 を定めた書面により催告を受けたにもかかわらず,遅滞した分割金を支払わなかっ たときは,期限の利益を喪失する。遅延損害金は,年6パーセントの割合による。
 (オ) 原告は,Bが期限の利益を喪失したときは,同人から本件自動車の引渡しを受け,相当な価格をもって本件立替払委託契約に係る一切の債務の弁済に充当することができる。
イ 原告は,本件立替払委託契約に基づき,Aに対し,同月15日,本件自動車の売買残代金1000万円を立替払した。(甲第3号証)
ウ 本件自動車について,同月21日,A所有名義の新規登録(以下,この登録を「本件初度登録」という。)がされた。
(3) Bの期限の利益の喪失 Bは,原告に対し,本件立替払委託契約に基づき,平成8年12月5日までに計432万5200円の分割金を支払ったが,その後の支払をしなかった。そこで,原告は,Bに対し,平成9年1月14日,催告後20日以内に遅滞した分割金を支払うよう催告したが,Bは,その支払をせず,同年2月3日の経過により期限の利益を喪失した。なお,これによりBが原告に支払うべき分割金残元金は,743万2800円である。(甲第1号証の1,第4号証,弁論の全趣旨)(4) 登録名義の変遷等 本件自動車について,本件初度登録に続いて,次のとおり登録がされた。ア 同年8月12日 Cに対する移転登録(以下「本件移転登録」という。)
イ 同月18日 抹消登録(以下「本件抹消登録」という。) (5) 被告の買受等ア 被告は,同月22日,株式会社D(以下「D」という。)から,登録のない本件自動車を代金642万6000円で買い受け,その引渡しを受けた(以下,この売買契約を「本件売買契約」という。)。
イ 同年9月2日,別紙登録目録記載の新規登録(以下「本件新規登録」という。)がされた。
(6) 関連事情 自動車の登録に関して実務上必要とされる書類等は,次のとおりである。
 ア 移転登録(名義変更)の)
(ア) 自動車検査証
(イ) 譲渡証明書(譲渡人の実印が押されたもの) (ウ) 譲渡人及び譲受人の各印鑑登録証明書(発行日から3か月以内のも(エ) 住民票(譲渡人の車検証及び印鑑登録証明書記載の各住所が異なる 場合)(オ) 委任状 a 譲渡人が移転登録手続をする場合
(a) 譲渡人の実印
(b) 譲受人の委任状 b 譲受人が移転登録手続をする場合
(a) 譲渡人の委任状
(b) 譲受人の実印 c 第三者が移転登録手続をする場合
 譲渡人及び譲受人の各委任状 (カ) 譲受人の車庫証明書(発行日から30日以内のもの)イ 抹消登録(道路運送車両法16条) (ア) 申請者(所有者)の印鑑登録証明書(発行日から3か月以内のもの)
(イ) 新規登録者の実印(第三者が登録手続をする場合には新規登録者の 委任状)(ウ) 譲渡証明書
(エ) 抹消登録証明書
 2 争 点
(1) 主位的請求関係 ア 本件自動車の所有権の帰属
(ア) 即時取得制度の適用の可否 (争点1) 登録の抹消された自動車が即時取得の対象となるか。(イ) 被告の即時取得の成否 (争点2) 被告は,Dが本件自動車の所有権を有していないことを知っていたか。
 (争点3) 被告がDに本件自動車の所有権があると信じたことに過失があるか。
(ウ) Dの即時取得の成否
(イ) 申請者の実印(第三者が登録手続をする場合には所有者の委任状) (ウ) 車検証(エ) ナンバープレート2枚
ウ 新規登録 (ア) 新規登録者の印鑑登録証明書(発行日から3か月以内のもの) (争点4) Dは本件自動車の引渡しを受けたか。
イ 本件自動車の占有の有無
 (争点5) 被告が本件自動車を占有しているか。
ウ 代償請求関係
(争点6) 本件自動車の口頭弁論終結時の価格はいくらか。
 (2) 予備的請求関係 (争点7) 被告が本件自動車を第三者に売却したことが不法行為となるか,また,原告の損害額はいくらか。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1について
ア 原告の主張 (ア) 本件移転登録の際に使用されたAの実印の印影及び印鑑登録証明書は偽造されたものであり,C又は何者かがその名を偽り,本件自動車について何ら権限を有しないにもかかわらず,本件移転登録手続及び本件抹消登録をした。
 自動車の抹消登録の申請手続をすることができるのは,その自動車の所有者に限られ(道路運送車両法15条,16条),C又はその名を偽った者の申請によってされた本件抹消登録は無効である。
(イ) 不動産にあっては,その登記が権利者の知らない間に不法に抹消さ れた場合には,権利者はその対抗力を失わないところ,本件自動車についても,本 件抹消登録が権利者であるAの知らない間に不法に行われたものであるから,Aの 本件初度登録による対抗力は失われず,本件自動車は,A所有名義の登録が依然と して存在するものとして取り扱われるべきである。(ウ) 実質的にも,公示制度が完備された自動車については,登録を了し た所有者は,自らの権利が安定して継続しているものと確信し,印鑑登録証明書等 が偽造されその登録名義が第三者に移転することは予想だにしないから,抹消登録 が無効である本件自動車について即時取得を認めることは,静的安全を軽視するも のであって不当である。
 他方,即時取得を認めないことに伴う買主の不利益は,その前主に対する担保責任(民法561条)を順次追及することによりこれを回復することができるから,即時取得を認めないとしても不当ではない。
(エ) さらに,本件自動車におけるような印鑑登録証明書の偽造等は,昨 今,自動車窃盗の急増,不況下での所有権留保自動車の質入れという事態の発生等 を背景に多発しており,本件のような場合にまで即時取得を認めることとなれば, 前記違法行為を助長することになる。(オ) したがって,本件自動車に即時取得の適用はないと解すべきである。
イ 被告の主張
(ア) 登録の抹消された自動車は,登録を対抗要件とすることなく,単な る動産として,ナンバープレートのない車両に抹消登録証明書と譲渡する者の住所 氏名の署名押印をし,譲受人を白地にした譲渡証明書を添付する方法により転々と 流通する。
 したがって,取引上,その正当な権利者がだれであるかの判断は当該自動車の占有によってするほかなく,典型的動産取引として取引の安全を保護することを必要とし,不動産取引のような静的安全を保護すべき場合とは異なるので,即時取得制度が適用されるべきである。
(イ) 登録の抹消された自動車について無権利者が介在する場合には,即 時取得が認められるところ,本件のように登録抹消前の自動車の取引に無権利者が 介在し,その後登録が抹消された場合も,登録抹消後に無権利者が介在した場合と 取引形態に差異はなく,即時取得制度の適用について別異に解すべき合理的理由は ないから,後者の場合と同様に即時取得の適用があると解すべきである。(ウ) 自動車の登録又は抹消手続に偽造文書が用いられたとすれば,それ は所有者の管理上の落ち度の問題であり,また,刑事罰による処理を期すべき事柄 であって,その不利益を善意の取得者に転嫁することは,取引の安全を害し,ま た,そのような取扱いは,公序良俗又は信義に反するというべきである。
 したがって,自動車の登録又は抹消の手続上の瑕疵は影響しないと解すべきである。
(エ) なお,大量に中古自動車を取り扱う自動車販売業者は,買い受けた 自動車の転売のためにその登録名義人から印鑑登録証明書を預かるが,その有効期間内に移転登録が終了しない場合には再度上記証明書を徴求する労を省き,自動車税の賦課を避ける必要があることから,在庫期間が長期化すると思われる自動車についてはその登録を抹消することが多いという実情にある。
(2) 争点2について ア 原告の主張
 被告は,本件売買契約の際,Dが本件自動車の所有権を有しないことを知っていた。
イ 被告の主張
 否認する。
被告は,本件売買契約の際,Dが本件自動車を所有するものと信じた。
 (3) 争点3についてア 原告の主張
 以下の理由により被告が本件売買契約の際にDが本件自動車の所有権を有しないことを知らなかったことには過失がある。
 (ア) 本件自動車については,平成9年8月12日にAからCに本件移転登録がされ,その後間もない同月18日に本件抹消登録がされ,同年9月2日に被告名義の本件新規登録がされるという極めて不自然な過程をたどっている。 このような名義移転等は,本来の所有者からの追及を避けるために取られた工作であると考えるべきところ,中古自動車の販売を業とする被告は,上記移転等の経過及びその不自然さを熟知していた。
(イ) 自動車は,高額商品であり,所有権留保による割賦売買の浸透によ り一般大衆に普及したものであるのみならず,本件自動車は,極めて高額であり, 所有権留保による割賦売買が通例であることは常識である。
 そして,取引の対象が高価な自動車等であり,その取得者が古物商等取引の実情に通じている者である場合には,上記取得者は,一般人と異なり,慎重な調査をする義務があり,原所有者の所有権の帰属につき調査しないときは過失があると解すべきである。
 本件自動車も所有権留保による割賦売買で売却されたものであり,被告は,抹消登録時の名義人であるCのみならず,保存記録にも当たった上,本件自動車の輸入ディーラーであるAに対しても本件自動車の所有権の帰属,移転等について調査確認すべきであり,容易にこれをすることができたにもかかわらず,これを怠った。
イ 被告の主張
 次のとおり被告が本件売買契約の際にDが本件自動車の所有者であると信じたことには過失はない。
 (ア) 登録の抹消された自動車を取引する事例が多いことは前記(1)イ(エ)のとおりであるところ,このような実情の下では自動車の登録等について調査する必要はなく,本件においても被告がA及びCに対して確認すべき義務はない。(イ) 高額な自動車は速やかに流通するのが常態であり,本件自動車も, GからH,株式会社E(以下「E」という。),D,被告へと転々譲渡され,本件 抹消登録から本件新規登録までの期間は2週間と短く,その取引経緯に不自然な点 はない。(ウ) Dは,外国高級中古車販売を業とする信用のある会社であって,原 告とは昭和60年ころから約150台の中古車の取引があり,そのうち登録の抹消 された自動車の台数の割合は1割から2割であるが,本件のようなトラブルが発生 したことはなかった。(エ) なお,建設機械の売買においては,所有権留保による割賦売買を通 例とし,社団法人日本産業機械工業会制定の様式による譲渡証明書の交付を伴うの に対し,自動車販売にあっては,所有権留保による割賦売買を通例とするものでは なく,現金取引も多い上,所有権留保売買や登録抹消自動車の売買でも,業者間で 周知された定型の譲渡証明書の交付がされることはないから,買主が専門業者であ ると否とを問わず,流通過程を遡って調査すべき義務はないというべきである。 また,所有権留保売買の当事者(買主)から直接買い受ける場合はともかく,被告は,転々譲渡された本件自動車を取得したものであるから,その流通経路全部について調査すべき義務はない。
(4) 争点4について ア 被告の主張
(ア) Dは,Eから本件自動車を買い受け,これを引き取るために運送業者に依頼し,この業者を通じてEから本件自動車を引き取って現実の占有を取得した上,上記業者に指示して被告に本件自動車を引き渡した。したがって,Dは,依頼した運送業者を介してEから本件自動車の現実の引渡しを受け,被告に引き渡したものであり,本件自動車を即時取得した。
(イ) よって,被告は,本件売買契約によりDから本件自動車の所有権を 承継取得した。イ 原告の主張
 Dは,Eから被告に対する本件自動車の運搬を指示したにすぎず,その占有が認められるとしても,それは占有改定によるものである。
 しかるに,即時取得の要件としての占有には,占有改定は含まれないから,Dは,本件自動車を即時取得していない。
 (5) 争点5についてア 原告の主張
 被告は,Dから本件自動車を買い受け,これを占有している。
イ 被告の主張
 被告は,本件売買契約を締結し,これに基づく本件自動車の引渡しを受けた後,平成9年9月ころ,第三者に対し,これを売却し,引き渡した。
 したがって,被告は,本件自動車を占有していない。
 なお,被告名義で本件新規登録をしたのは,買受人が被告の従来の顧客であり,これに代わって被告が車検,納税その他に係る各種手続をする必要上便宜だからであり,このような形態は,業界では多く見られるものである。(6) 争点6について ア 原告の主張
 本件自動車の価格は,少なくとも875万円を下らない。
イ 被告の主張
 知らない。
 (7) 争点7について
ア 原告の主張 (ア) 被告は,本件売買契約に際し,中古車販売を業とする古物商として,その扱う商品の所有権の帰属について調査すべき高度の注意義務があるのにこれを怠ったことにより,本件自動車を即時取得しなかったから,本件自動車の所有者である原告にこれを引き渡す義務を負っていたにもかかわらず,これを取得したものとして第三者に売却して引き渡し,原告の本件自動車に対する所有権を侵害し,その価格相当額の損害を与えたものであり,被告の上記行為は,原告に対する不法行為を構成する。
(イ) 原告が本件自動車の引渡しを受けられなくなった時点の価格は,訴 状送達時の価格875万円を下らない。イ 被告の主張 (ア) 被告は,前記のとおり,Dが本件自動車の所有者であると信じ,かつ,そう信じたことに過失がなく,本件自動車を即時取得したから,これを第三者に売却して引き渡したことは不法行為を構成しない。
(イ) 本件自動車の価格については知らない。
 第3 争点に対する判断1 主位的請求について (1) 本件自動車の所有権の帰属
ア 即時取得制度の適用の可否 前判示第2の1の(4)(5)のとおり,本件自動車については,平成9年8月12日にCに対する本件移転登録が,次いで同月18日に本件抹消登録がそれぞれされた後,被告が同月22日にDから登録のない状態でこれを買い受け,その引渡しを受けたものであるところ,証拠(甲第5号証の1,2,第8号証)及び弁論の全趣旨によれば,本件移転登録時には,本件自動車に係る自動車検査証,A名義の印鑑が押されたAからCへの譲渡証明書,A及びC名義の各印鑑登録証明書,A及びC名義の各委任状が東北運輸局福島陸運支局に提出されたが,A名義の印鑑登録証明書は,所定の様式によるものでないばかりでなく,同社の印鑑欄に顕出された印影が東京法務局目黒出張所に提出されているAの真正な登録印鑑のそれと相違し,かつ,発行名義人とされている登記官が当時同出張所に在籍していなかったことが認められるから,本件移転登録は偽造された印鑑を用いて作成された譲渡証明書及び委任状並びに偽造された印鑑登録証明書によりその手続が執られ,したがって,本件抹消登録も,不正な方法によってされたため無効な移転登録を前提として行われたものであることが明らかである。
 ところで,道路運送車両法による登録を受けている自動車については,登録が所有権の得喪の公示方法とされており(同法5条1項),その反面,民法192条は適用されないのであるが(最高裁判所昭和62年4月24日第二小法廷判決・裁集民150号925頁参照),この登録を受けていない自動車は,取引保護の要請からは一般の動産として民法192条の適用を受けるべきものであり,いったん登録を受けた自動車が道路運送車両法16条の規定により登録を抹消された場合においても同様である(最高裁判所昭和45年12月4日第二小法廷判決・民集24巻13号1987頁参照)。このように解する趣旨は,取引の対象としての性質からみれば,自動車が本来的には動産としての規制になじむものであるであることは否定できないので,未登録自動車及び登録抹消自動車のように特別法の規定により設けられた公示方法の対象となっていないものについては本則どおり一般法である民法の即時取得制度の適用があるものとして,前主の占有を信頼した者の取引の安全を保護しようとするところにある。
 そして,本件のように不正な方法によって所有者から第三者への移転登録が行われ,これを前提として抹消登録が行われた自動車についても,登録が抹消されて公示制度の対象となっていない以上,自動車を買い受けようとする者は前主の占有を信頼して取引関係に入るのが通常であり,このことは正規の方法によって抹消登録が行われた自動車の場合と何ら異ならないのであるから,取引の安全の見地から即時取得制度の適用を肯定すべきである。
 この点に関し,原告は,不動産の場合との比較を論ずるが,そもそも公信の原則が採用されていない不動産の場合と本来的には公信の原則の適用がある自動車の場合とを同列に考えることはできない。
 また,原告が主張するような印鑑登録証明書の偽造等の違法行為が多発しているという問題は,刑事罰等によって対処すべき問題であって,自動車の取引関係に入った者に不利益を課すことによって解決すべき問題ではないから,この点に関する原告の主張も採用し得ない。
イ 被告の即時取得の成否 (ア) 前判示第2の1の(6)の事実に証拠(乙第2号証の1,2,第5,第6号証,第9号証,第15号証,証人F,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。a 中古車販売業界においては,中古車を転売する際の移転登録に必要な譲渡人の印鑑登録証明書の有効期限が3か月と限定されていること,登録自動車についてはその名義人に自動車税が課税されることなどの理由から,抹消登録をした上で自動車を流通させることがしばしば行われており,そのような場合には,抹消登録証明書及びその所有者欄に記載された者の押印のある譲渡証明書が当該自動車に添付されて流通するのが一般である。
b 被告とDは,昭和60年ころから累計約150台の中古自動車を取引してきた関係にあり,そのうち1,2割程度は抹消登録のされた自動車であったが,従前,両者間で本件のようなトラブルが生じたことはなかった。c Dは,平成9年8月22日,本件自動車についてEから電話による買受申込みを受け,これを承諾した後,同日中に被告に電話をかけて口頭により本件売買契約を締結した。その際,被告は,Dから本件自動車が登録を抹消されている旨の説明を受けた。
させた。
d そこで,Dは,陸送業者に依頼してEから被告に本件自動車を搬送e その後,被告は,Dから本件自動車に係る東北運輸局福島陸運支局長発行の抹消登録証明書,譲渡人としてCの住所氏名が記載され同人名義の譲渡人印が押捺された譲渡証明書等を受領し,本件新規登録に際してこれらの書類を提出した。
f なお,平成11年8月9日に関東運輸局東京陸運支局長が発行した本件自動車の登録事項等証明書の保存記録欄には,平成6年12月21日に所有者をA,使用者をBとする本件初度登録が行われたこと,平成9年8月12日に本件移転登録により所有者がCに変更されたこと,同月18日に本件抹消登録が行われたことが記載されている。
(イ) ところで,前判示(ア)の事実によれば,被告が本件自動車の占有を 開始した時点では,その前主であるDは,自社の依頼した陸送業者により被告に搬入させていたのであるから,本件自動車を間接占有していたこと自体は肯認できるところである。
(ウ) そこで,被告がこの時点でDが権利者であると信じ,かつ,そう信 じたことについて過失がなかったかについて検討する。a 原告は,被告がDにおいて本件自動車の所有権を有しないことを知っていた旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はないばかりか,被告代表者は長年にわたり取引関係があり信頼できるDから本件自動車を購入したこと及び陸運支局で抹消登録が行われていたことから権利関係について疑わなかった旨供述しており(乙第5号証,代表者尋問の結果),この供述の信用性を疑うべき事情は見当たらないから,被告においてDが権利者であると信じていなかったと認めることはできない。
b 次に,高額な自動車の取引に際しては所有権留保による割賦販売の形態が取られることが多く,中古車販売業者である被告がこのような販売形態等について十分に知識を有していると考えられることは原告の指摘するとおりである。
 しかしながら,他方,建設機械などの場合とは異なり,世上高額な自動車についても現金で取引されることも少なくない上,本件においては専門業者間で中古車が売買されていることに徴すると,被告において本件自動車が所有権留保付きの割賦販売の方法により販売されてその弁済が終了していないものであることを疑うべき事情があったとまではいうことはできず,仮に被告がこれを疑うことができたとしても,本件自動車がそのような方法により販売されたものであることを知るためには,陸運支局に出向いて登録事項等証明書の保存記録を入手し,本件初度登録時の所有者がA,使用者がBであることを知った上で,本件抹消登録時の所有者であるCのみならず,B,さらにはAに連絡を取るなどして調査しなければならず,これを行うことが容易なものではないことは想像に難くないから,迅速性が要求される取引を日常的かつ大量に行う被告に対し,そのような時間と労力を要する調査を行うことを求めるのは取引通念に照らして妥当でないといわざるを得ない。
また,前判示(ア)のとおり,本件においては,被告は,Dとの間で 長年にわたって中古車販売についての取引関係があり,従前一度もトラブルが起き たことがなかった同社から登録が抹消された自動車であるとの説明を受けて本件自 動車を買い受けている上,登録抹消自動車が流通する際に通常添付されている譲渡 証明書及び抹消登録証明書を本件においても後日Dから受領しており,その抹消登 録証明書は陸運支局長が発行したものであったことに照らせば,被告が本件自動車 の権利関係について疑念を抱かなかったのもやむを得ないものというべきである。
 以上の諸点に徴すると,被告が前判示のような調査を行わずしてDが権利者であると信じたことに過失はなかったというべきである。
 なお,原告は,本件自動車について,平成9年8月12日に本件移転登録が,同月18日に本件抹消登録が,同年9月2日に本件新規登録が続けてされたことが不自然であり,本来の所有者からの追及を避けるために取られた工作であると主張するけれども,前判示の中古車販売の実情に照らせば,流通の過程において登録の抹消や新規登録が短期間に行われることも往々にしてあり得ることであると考えられるから,この事実のみから直ちにDの所有権を疑うべき事情があったとすることはできず,他にこの主張を認めるに足りる証拠もない。
c 小 括
 よって,被告は,Dが権利者であると信じ,かつ,そう信じたことについて過失なくして本件自動車をDから買い受けその占有を開始したのであるか ら,本件自動車を即時取得したと認めることができる。
 (2) 以上によると,その余の点について判断するまでもなく,原告の主位的請 求は理由がない。2 予備的請求について
 前判示1のとおり,被告は本件自動車を即時取得したのであるから,自己が所有する本件自動車を第三者に売却したとしても,原告に対する不法行為とならないことはいうまでもない。
 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の予備的請求は理由がない。
3 結 論
 以上の次第で,原告の請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第49部
 裁判長裁判官 齋藤 隆
裁判官 古財英明
裁判官 溝口理佳
物件目録,登録目録及び契約目録の掲載は省略
判例本文

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