主文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成13年6月3日施行のA町長選挙に際し,同選挙に立候補する決意を有 していたものであるが,自己の当選を得る目的で
1 いまだ自己の立候補届出のない同年5月3日ころ,秋田県a郡a町b字c d番地所在の被告人方において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選 挙の選挙人であるBに対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙 運動をすることの報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届 出前の選挙運動をし
2 前記Bと共謀の上, (1) いまだ自己の立候補届出のない同月4日ころ,同町e字fg番地所在の 前記B方において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人 であるCに対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をす ることの報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の 選挙運動をし
(2) いまだ自己の立候補届出のない同月6日ころ,同町e字h地内を走行中 のD運転の普通乗用自動車内において,前記選挙の選挙運動者であり,か つ,同選挙の選挙人である同人に対し,自己のため投票並びに投票取りま とめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金20万円を供与するとと もに,立候補届出前の選挙運動をし(3) いまだ自己の立候補届出のない同日ころ,同町e字ij番地所在のE方 において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人である同 人に対し,自己のため投票並びに投票の取りまとめ等の選挙運動をするこ との報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選挙 運動をし(4) いまだ自己の立候補届出のない同日ころ,同町e字kl番地所在のF方 において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人である同 人に対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をすること の報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選挙運 動をし3 いまだ自己の立候補届出のない同月7日ころ,同町b字bm番地所在の被 告人方において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人であ るGに対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をすること の報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選挙運動 をし
4 前記Gと共謀の上, (1) いまだ自己の立候補届出のない同日ころ,同町n字op番地所在のH方 において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人である同 人に対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をすること の報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選挙運 動をし
(2) いまだ自己の立候補届出のない同日ころ,同町b字qr番地所在のI方 において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人である同 人に対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をすること の報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選挙運 動をし(3) いまだ自己の立候補届出のない同日ころ,同町b字st番地所在のJ方 において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人である同 人に対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をすること の報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選挙運 動をし(4) いまだ自己の立候補届出のない同月11日ころ,前記第1の4の・記載 のH方において,前記選挙の選挙運動者であり,かつ,同選挙の選挙人で あるKに対し,自己のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動をする ことの報酬として,現金20万円を供与するとともに,立候補届出前の選 挙運動をし 第2 秋田県a郡A町長として,同町が行う指名競争入札における指名業者の選 定, 予定価格の決定等の職務を統括していたものであるが,同町が行う同町建設機 械格納庫建設工事の指名競争入札において,指名業者の選定を受けた建築工事 請負等を営む株式会社Lに前記工事を落札させようと企て,同会社の代表取締 役社長Mと共謀の上,平成11年4月26日ころ,被告人において,同町b字 bu番地所在のa町役場町長室から電話で前記Mに,前記工事の消費税分を除 いた予定価格が2億1000万円くらいである旨内報し,よって,同月28日,
 同役場で行われた前記工事指名競争入札に際し,前記株式会社Lをして,前記 工事の消費税分を除いた予定価格である2億926万円をわずかに下回る2億 850万円で落札させ,もって,偽計を用いて公の入札の公正を害すべき行為 をし
たものである。
 (法令の適用)
 被告人の判示第1の各所為のうち各事前運動の点はいずれも公職選挙法239条1項1号,129条に,各買収の点はいずれも同法221条1項1号に,判示第1の2及び4の各所為についてはいずれもさらに刑法60条に,判示第2の所為は刑法60条,96条の3第1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の各所為については,それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる行為であるから刑法54条1項前段,10条により,各1罪としていずれも重い買収の罪の刑で処断することとし,いずれの罪についても所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,刑及び犯情の最も重い判示第1の1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役3年に処し,情状により同25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
 本件は,現職の町長であった被告人が,次期町長選挙に立候補を決意し,自己への投票並びに投票とりまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,自己を支持してくれていた町議会議員10名に対し各20万円合計200万円の現金を渡したという事前運動及び買収による公職選挙法違反の事案と,懇意にしていた建設会社社長の依頼を受け,同人に町が行う公共工事の予定価格を教示して,同社をしてその価格に近い価格で落札させ,公の入札を妨害したという競売入札妨害の事案である。
まず,本件公職選挙法違反についてであるが,公職の選挙は,選挙人の自由に表明された意思によって公明かつ適正に行われるべきことは今さら論をまたず,そうであることが民主政治の健全な姿であることもまた何人も異論のないところで,この意味で選挙違反は,選挙の公明さ適正さを害し,民主政治の健全な発達を阻害する行為であり,民主主義に対する敵対行為であるといっても過言ではなく,その撲滅は今日の社会的国民的願いであるというべきである。そのような選挙犯罪の中でも,
買収事犯は,選挙人に対して,投票又は選挙運動の対価として,利益を供与することにより当選を得よう又は得させようとするものであり,これを候補者自らが行う場合は,言うなれば金銭で公職を買おうとするに等しく,選挙犯罪の中でも最も悪質な犯罪であるといわなければならない。
 被告人は,本件犯行当時,A町長として,a町民から3期にわたり町政を託された立場にあったのであり,まさしくa町の代表として公私にわたりその行動は町民の模範となるべきことが期待されていたにもかかわらず,今回4期目の町長職を目指す選挙にあたり,事前買収行為に及んだものである。そして,被告人の本件買収の態様は200万円の自己資金をもって,a町議会議員の有力者2名に対し各100万円を交付し,その中から同議員らに各20万円を供与するともに,同議員らを通じて他の町議会議員8名に対し,同じく各20万円を供与したというものである。
このように買収の相手方がa町議会議員であったため,本件はまさに町長及び町議会議員が共同して,a町民の期待を裏切り,自ら民主主義の大前提である公正かつ適正であるべき選挙をあるまじき選挙にしてしまったというべきである。そのため,
当該議員らも摘発を受け,議員を辞職し,a町議会は自主解散という極めて異例の事態となり,議会としての機能を停止させ,a町政を混乱に陥れた。このような本件が及ぼした社会的影響に照らせば,被告人のa町民に対する責任は極めて重いといわなければならない。
 次に,本件競売入札妨害事件についてであるが,本件は,a町が発注した公共工事の請負契約締結に係る指名入札において,被告人が個人的に親密な関係にあった会社社長に対し,a町が予定していた最高の工事価格を内報し,当該会社が,その価格に近い価格で当該工事を落札したという事案である。このことは,もし本件のような町側からの予定価格の内報がなければ,業者間の自由競争の結果,もっと低額で落札された可能性があり,結局本件により町は不当に高額な支出を余儀なくさせられたのであり,それだけ町の財政が侵害され,納税者である国民や住民の権利も侵害されたことになる。このような行為を町政の最高責任者である町長がなしたということは,住民に対する重大な背信行為であって,被告人の本件責任もまた重いというべきである。
 これらのことから,被告人に対しては実刑を科することも考えられるところである。
 しかしながら,ひるがえって考慮するに,まず選挙買収に関しては,被買収者はいずれも被告人を支持している町議会議員であって,そのために町政を混乱させたという一面はあるけれども,議員らが現金を供与されたから被告人に投票するという関係ではなく,また,議員らが,その現金を小分けして一般有権者に配って票を集めるということは,被告人にも当該議員らにも全く念頭になく,現実にもそのようなことはなされていない。被告人は,選挙期間がちょうど農繁期にあたり,議員らが家業をさしおいて選挙事務所に出てきたり,選挙カーに乗ったりして選挙運動をしてくれることに申し訳なさを感じて,なにがしかの報酬を与えなければならないと考え,1日1万円として20日分の20万円を与えた(いわゆる「暇だれ賃」を出した)と供述しているが,かかる被告人の心情は理解できないことはなく,一般有権者に対し,いわゆる現金をばらまいて票を集める行為とは,いささか態様を異にし,酌量する余地があると考えられる。
 また,競売入札妨害についても,被告人はただ単に懇意にしていた業者の利益ののみを考えたのではなく,本来の慣行よりも多い4パーセントのいわゆる歩引きをして,入札比較価格を決定し,これを業者に内報したものであって,それなりの自制が働いていたこと,検察官が主張する自由競争が行われたならば落札されたであろう価格と本件会社の落札価格との差が約3300万円という推定には疑義があり,
もっと低額の推定も十分考えられること等が認められ,いささか酌量すべき余地があるものというべきである。
 次に,被告人にかかる一般的情状について考える。被告人はこれまで3期にわたってA町長として町政を担当してきたわけであるが,この間,弁護人提出の各資料や証人の証言から明らかなように,どこの自治体でも困難だといわれている町財政の健全化を図ってきたことを初めとして,持ち前の気さくで親しみやすい性格から,
これまで先鋭的であった町の職員団体との間で宥和を図り,町政の安定に寄与したこと,学校の設立その他の点で,その3期12年にわたる町政は,概ね諒とすべきもので,さらにそれより遡る町議会議員4期をつとめてきたことと相まって,被告人は長期間にわたりa町政に貢献してきたと認められる。これらのことは,本件にかかる情状の面において被告人に有利に評価されてしかるべきものである。
 被告人は,当然のことながら,本件を犯したことを心から反省悔悟し,a町民を初め関係方面に対する謝罪の意を表明している。そして,本件により,これまで町議会議員4期,町長3期をつとめたというあらゆる名誉を失い,町長選挙にも落選し,その他一切の公職を辞し,また,本件により80余日にわたり身柄拘束を受け,身体的にも精神的にも多くの苦痛を味わったことで,一定の社会的制裁を受けたといって良い。さらに家庭的にも家業の商業も行き詰まり,経済的にも苦しい状況に陥り,
被告人が一家の中心として家族を支えて行かなければならないことが窺われる。
 以上の諸事情を彼我斟酌すれば,ここで,被告人に実刑を科するのは酷に過ぎ,被告人を懲役3年に処するが,5年間その刑の執行を猶予するのを相当と認める。 よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官穴澤 成巳 裁判官菊池 絵理 裁判官剱持 亮)
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