主文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,北上市に対し,金7500万円及びこれに対する平成11年3月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,北上市の住民又は同市内に所在する株式会社である原告らが,「再開発ビルの管理等を目的とする北上都心開発株式会社(以下「本件会社」という。)の設立に際し,平成11年3月30日,北上市から本件会社に対してされた7500万円の出資(以下「本件支出」という。)は,何ら公共性ないし公益性のない支出であって違法である」などと主張して,本件支出当時の北上市長であった被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,北上市に代位して損害賠償を請求した住民訴訟の事案である。
2 争いのない事実等 (1) 当事者
ア 原告らは,北上市に在住する市民又は同市に本拠を置く株式会社である。
イ 被告は,本件支出当時,北上市長の職にあった者である。
(2) 北上市においては,近年中心市街地の空洞化が進んでいたため,市民から の要望及び北上市が策定した都市計画を踏まえ,都市再開発法に基づく北上市都市計画a通り地区第1種市街地再開発事業(以下「本件再開発事業」という。)の一環 として,北上市a通り・b町地区市街地再開発組合(以下「本件再開発組合」とい う。)が施行者となり,北上市a通りc丁目地内及び同市b町d丁目地内に再開発ビル を建築した上,いわゆる第3セクター方式によって設立された権利者法人(株式会 社)が再開発ビルの保留床を買い取り,これを賃貸しながら,同ビルの管理,運営 をしていく事業計画が立てられた。これに伴い,1この再開発ビルの保留床の買取 り,2同ビルの管理,運営,3同ビル入居者間の連絡調整,4周辺商店街との連携 を図りながら情報の受発信役を務めるなど,中心市街地の再生,活性化のためのマ ネージメントの役割を担うこと,5プール,フィットネス,映画館等のビル施設を 学校教育や社会教育に有効活用するためのコーディネーターの役割を担うことを主 たる目的として,平成11年4月20日,本件会社が設立された。(3) 被告は,平成10年9月3日,同年度北上市一般会計補正予算の商工費と して,本件会社に対する投資及び出資金を歳出する予算案を北上市議会に提出し, 同年9月16日,北上市議会の議決を経て,平成11年3月23日,本件会社の株 式1500株を引き受け,同月30日,株式払込金として7500万円を出資した (本件支出)。(4) 本件再開発事業に基づく前記(2)記載の再開発ビル(以下「本件ビル」とい う。)は,平成12年に入りその建築工事が完成し,本件会社は,同年2月,本件 ビルの保留床の買取りを実行した。
 本件ビルは,「Aプラザ」の名称で平成12年3月にオープンした。その東館には,株式会社ダックビブレが経営する百貨店ビブレ,その関連会社が経営する映画館,その他専門店があり,西館には,株式会社ダックビブレの関連会社が経営するフィットネスクラブがある。また,本件ビルの建物の一部として約1500台の自動車を収容することができる市営駐車場等が設置された。
 なお,本件会社は,株式会社ダックビブレとの間で,1か月間の坪当たりの賃料を初年度1000円,2年度及び3年度各2000円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
(5) 原告らは,本件支出について,平成10年9月29日監査請求をしたが, 北上市監査委員は,同年11月25日,原告らの監査請求を棄却し,同月26日, 原告らにその旨通知した。3 争点
(1) 本件支出の適法性
 出資の対象である本件会社の目的の持つ公益性ないし公共性,採算性の有無等の点からして,本件支出が適法といえるか
(2) 損害
 本件支出により損害が発生しているか
4 当事者の主張
(1) 本件支出の適法性
(被告の主張) ア 以下のとおり,本件会社の目的は公共性ないし公益性を持つものであり,本件支出には公益性が認められる。
 (ア) 本件会社の目的1(保留床の買取り)について 再開発事業の事業費は,国や自治体からの補助金,組合の自己資金及び保留床(再開発ビルの区分所有部分)の処分代金で賄われることになるが,そのうち,保留床の処分代金の比率が最も高いため,その処分ができないと事業そのものを断念せざるを得ないことになる。そして,処分の方法としては,都市再開発法上,原則として公募によることとされているところではあるが,現在の社会経済情勢の下では,需要の減退により,公募のみで処分することは事実上不可能である。現に,本件ビルにおいても,保留床の公募を行ったが,希望者は現れなかった。 そこで,保留床を取得し,これを賃貸などで運用することにより長期間での採算の確保を目的とする会社(権利者法人)を,地権者等が中心となって設立する方法がある。ただし,この場合でも,保留床の取得のために必要な資金は多額に上るため,民間企業のみでは,これを調達して,債務を返済しつつ利益を上げることは,極めて困難である。しかし,地方公共団体などを出資者とするいわゆる第3セクター方式によれば,補助金や無利子融資・長期低金利融資などの優遇措置が受けられ,かつ会社としての信用度が高まることになり,多額の資金を調達することができ,その資金で保留床を買い取って,長期的に賃貸運用することが可能となるため,民間企業のみでは採算がとれない事業計画についても実現することができるのである。現に,本件会社においては,各種法律等に基づく補助金や融資を受けた結果,合計で約37億円の資金を調達することができた。これらの資金は,第3セクター方式でなければ調達できないか,又は非常に困難であったと言えるものである。
(イ) 目的2(ビルの管理・運営)及び3(入居者間の連絡調整)について 再開発ビルは,再開発事業の一環として建設されたものであり,キー テナントのほかにも,地元の商店を中心として数多くの店舗が出店し,ビルの中に 「新しい街」が出現することになるため,その管理,運営及び入居者間の連絡調整 については,より信頼性の高い事業主体が,北上市の中心市街地の活性化という同 事業の目的を念頭に置いてこれを行う必要があり,そのために北上市が運営に参画する必要があった。
(ウ) 目的4(マネージメント)について
 再開発準備組合においては,当初より,本件会社がTMO(タウン・マネージメント・オーガニゼーション)の認定を受けることにより,周辺商店街との連携を図りつつ,北上市の中心市街地全体の再生,活性化のためのマネージメント業務を行うことを予定していた。そこで,北上市が運営に参画することにより,本件会社の信頼性を確保するとともに,市民の意向を反映させる必要があった。(エ) 目的5(教育への活用)について 本件ビルには,テナントとしてプールを備えたフィットネスクラブ及び映画館を誘致することを予定していたが,これらの施設は学校教育や社会教育のために活用することが十分可能であったため,北上市が経営に関与することにより,これらの事業と学校教育及び社会教育との連携を図る必要があった。イ 本件会社の採算性について
 本件賃貸借契約の賃料については,株式会社ダックビブレとの交渉において,長期的採算を目指していること,キーテナントの撤退がないように初期投資 を少なくさせること,その反面で敷金額を多額に設定し,共用部分も賃料計算の基 礎とすることなどの諸条件を考慮した上で,前記2(4)記載の額で合意したものであ り,適正かつ妥当なものである。
 このような本件賃貸借契約の条件を前提とした上で,本件会社の収支計画は,「税引後の利益は事業開始後4年目単年度黒字化,累積赤字は事業開始7年目で解消し,その後は毎年利益が上がる。」という十分に採算がとれる内容になっており,金融機関や北上市などは,その計画の確実性を評価したからこそ,本件会社に融資ないし出資をしたのである。
 (原告らの主張)
ア 組合施行の市街地再開発事業は,基本的には組合員である権利者のためのものであるから,制度的に認められた補助金のほかに公金を使った支援を得るということは,権利者にのみ過度の援助をすることになり,公平な公金支出という基本的な原理にもとることになる。
イ 前記の本件会社の目的のうち,1ないし3は,専ら本件ビルの権利者ないし入居者の利益に関するものというべきところ,本件ビルの権利者ないし入居者は,ビブレの経営主体である株式会社ダックビブレを始めとして,いずれも営利を目的とする小売店舗ないし施設の経営者であるから,本件会社はそれら特定の民間企業だけの利益のために存立しているにすぎないのであり,何ら公共性ないし公益性が認められない。また,4及び5についても,本件会社に行わせなければならない必然性は何ら認められないものである。
 本件再開発事業及び本件ビルの公共性ないし公益性を争うものではないが,ビル完成後の保留床の買取り,管理などは民間企業で施行すればよいことであり,権利者法人を第3セクターの方式で設立すべき必然性はない。また,本件会社に融資した金融機関らは,北上市が出資している第3セクター方式の法人であることを理由に優遇したことはないのであって,あくまで本件会社の返済能力を評価して融資を実行したのであるから,同方式による必然性も認められない。
 北上市が出資しなくても,再開発事業である以上,ある程度の補助金は支出されることからすれば,その補助金の範囲で施行できない事業は合理的な事業計画が立てられないということなのであるから,そのような事業は施行すべきではない。
ウ 本件支出に際しては,当然本件会社の採算性の有無を検討しなければならないところ,再開発組合は,キーテナントを何が何でも入店させるために,当時から経営不振のささやかれていた株式会社ダックビブレに対し,1か月間の坪当たりの賃料を初年度1000円,2年度及び3年度2000円という一般の店舗と比較しても不当に安い額で賃貸する契約を成立させたものであり,しかも,被告は,この問題を熟知していながら,平成10年8月の時点での収支計画書には異なった数字を記載して,前記の事実を隠蔽し,市議会を欺いて本件支出を認めさせたのである。
 本件会社の採算性に問題があることは,北上市が,約35億円もの税金を投入して本件ビルの保留床を買い取り,市営駐車場を建設して,その料金徴収業務及び清掃業務を本件会社に業務委託し,ビブレの集客力を高めようとしていることからも明らかである。
 本件ビルのキーテナントである株式会社ダックビブレやその親会社である株式会社マイカルが平成13年9月14日に民事再生法の適用を申請したことにより,株式会社ダックビブレは撤退の危機に直面しており,仮に撤退を免れたとしても,収支計画にあるような本件ビルの賃料の増額など望むべくもない。このことは,当初から本件会社の採算性に問題があったことを裏付けるものである。エ さらに,本件ビルは,前記のとおり,株式会社ダックビブレに対してのみ利益となっているにすぎず,北上市としては,イトーヨーカ堂が撤退し,その空きスペースに市の公共施設を作り,予期しない公金を支出する結果になるなど,何ら市民全体の利益になっていない。
(2) 損害
(原告らの主張) 北上市は,本件会社の株式を取得してはいるが,株式会社ダックビブレの民事再生法に基づく申立てにより,本件会社の累積損失が解消する見込みが立たなくなっただけでなく,取締役である北上市長が実質的に経営に参画していない以上,これを正す機会もないのであるから,その株式には資産価値がない。また,北上市が出資した目的からすると,その株式を第三者に譲渡して投下資本を回収することも考えられない。以上からすると,実質的には出資額全額の損害が生じている。
(被告の主張)
 北上市は,出資額に見合うだけの株式を取得しているから,同市に損害は発生しておらず,また,本件会社は資本勘定に欠損など生じていないから,株式の価値が実質的に零であるということはない。
 現に,株式会社ダックビブレが本件ビルから撤退するとか,本件賃貸借契約の条件変更を申し出るなどという話は一切ないし,仮にあったとしても,平成11年3月当時の本件出資に関して,被告に北上市長としての裁量権の濫用ないし逸脱があったかという点とは何の因果関係もない。
 さらに,本件会社が株式の4分の1を持っている株主たる北上市の意向を無視することはあり得ないのであるから,北上市長が取締役会に出席していないとしても,経営に参加していないとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争いのない事実,証拠(甲2ないし5,17ないし21,27,28の1及び2,30,36,37,41,乙1ないし11,12の1ないし3,13の1及び2,14ないし22,23の1ないし7,25ないし29,各調査嘱託の結果,証人B)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(1) 北上市においては,本件ビルの所在地を含む中心市街地は,e地区と呼ば れ,古くは宿場街として発展してきた地域であったが,近年は,モータリゼーショ ンへの対応の遅れや商業を取り巻く環境の変化等から空洞化が進み,商業拠点とし ての基盤整備が進んでいる北上駅前地区やCショッピングプラザ地区に比して停滞 している状況にあり,平成3年10月には,a通りf丁目,a通り,g町及びb町の4商 店街振興組合から,「商店街活性化について」と題する陳情書が北上市長あてに提 出されたほか,一般市民のアンケート結果によっても,同地区の活性化の要請が強 まってきていた。(2) 北上市は,このような事情を踏まえ,平成4年ころから,e地区を商業拠 点とするための整備を推進し,a通り地区及びg町地区における市街地再開発事業 を施行することなどを内容とする北上市特定商業集積整備基本構想(同年10 月),北上市総合発展計画(平成5年3月)及び北上中部地方拠点都市地域基本計 画(同年6月)の諸計画を順次策定し,北上市議会や岩手県の支持,承認を経なが ら,同地区に再開発ビルを建設する構想を練り,その具体的実現を目指すこととし た。平成5年11月ころには再開発準備組合が設立され,再開発ビルの核店舗とな る百貨店等の選定等を行うなどしていたが,平成9年10月に核店舗として株式会 社ダックビブレが経営する百貨店ビブレの入店が決定し,平成10年3月から,都 市再開発法に基づき,総事業費が145億円を超える規模を有し,北上市a通り・b 町地区市街地再開発組合(本件再開発組合)が施行者となって本件ビルを建設する ことなどを内容とする北上市a通り地区第1種市街地再開発事業(本件再開発事業) が施行されることになった。(3) 本件再開発事業は,e地区に再開発ビルを建築した上,第3セクター方式 により設立された権利者法人が同ビルの保留床を買い取り,株式会社ダックビブレ 等に賃貸して,管理運営していくことを内容としていた。本件再開発組合が,権利 者法人を第3セクター方式で設立する方法を選択したのは,この方法により権利者 法人が補助金や無利子融資・長期低金利融資を受け,事業の採算を確保することが 可能になると考えたからであった。そして,本件再開発組合は,権利者法人たる本 件会社を設立する準備を進めていった。(4) 被告は,北上市長として,本件会社の設立に先立つ平成10年9月3 日,同年度北上市一般会計補正予算の商工費として,本件会社に対する投資及び出 資金を歳出する予算案を北上市議会に提出し,同年9月16日,北上市議会の議決 を経て,平成11年3月23日,本件会社の株式1500株を引き受け,同月30 日,株式払込金として資本金の約4分の1に当たる7500万円を出資した(本件 支出)。(5) 本件会社は,1本件ビルの保留床の買取り,2本件ビルの管理,運営, ・本件ビル入居者間の連絡調整,4周辺商店街との連携を図りながら情報の受発信 役を務めるなど,再生,活性化のためのマネージメントの役割を担うこと,5プー ル,フィットネス,映画館等のビル施設を学校教育や社会教育に有効活用するため のコーディネーターの役割を担うことを主たる目的として,平成11年4月20 日,資本金2億8200万円の株式会社として設立された(なお,本件会社は,そ の後も増資を繰り返し,本件ビルオープン後の平成12年4月には,資本金が4億 2980万円に達するに至った。)。(6) 本件会社は,以下のとおり,補助金の交付ないし融資を受けた。
 ア 商業・サービス業集積関連施設整備費補助金交付要綱に基づき,国及 び北上市から合計3億5600万円(各1億7800万円)の補助金の交付を受けた。
イ 中心市街地商店街施設整備費補助事業実施要領に基づき,本件会社がTMOの認定を受けることを条件として,国及び岩手県から合計820万円(各410万円)の補助金の交付を受けた。
ウ 都市開発資金の貸付けに関する法律に基づき,北上市が仲介する形式で,国から保留床取得資金として8億3270万円(10年間据置後,15年分割返済,無利子)の融資を受けた。
エ 財団法人地域総合整備財団(通称「ふるさと財団」。都道府県及び指定都市の出捐により設立されている。)が行っている「ふるさと融資(地方債によって原資を調達し,その利子に対し地方交付税による措置を受ける地方公共団体からの融資につき,同財団が融資の審査,実行を担当するもの)」に基づき,同財団の審査に合格したことにより,北上市から,事業費の一部として6億円(3年間据置後12年分割返済,無利子)の融資を受けた。
オ 日本政策投資銀行が,特定中心市街地において中心市街地活性化事業を行う民間企業及び第3セクターを対象とする融資に基づき,同銀行から,12億円(3年間据置後17年分割返済,金利年2.25パーセント)の融資を受けた。カ 岩手銀行,北日本銀行,東北銀行及び北上信用金庫の4社から合計7億円(3年間据置後17年分割返済,金利年2.27パーセント)の協調融資を受けた。
(7) 本件ビル(鉄骨鉄筋コンクリート造り地上8階建て,敷地面積1万74 50平方メートル,建築延面積8万6700平方メートル)は,各種法律上の認可 等の諸手続を経て,平成11年3月に着工され,同12年2月に竣工し,同年3 月,「Dプラザ」の名称でオープンした。その東館(a通り地区)には,百貨店ビブ レ,株式会社ダックビブレの関連会社が経営する映画館,その他専門店があり,西 館(b町地区)には,株式会社ダックビブレの関連会社が経営するフィットネスクラ ブ,市営の多目的ホール「Eプラザ」があるほか,合計で約1500台(東館12 01台,西館278台)を収容することができる市営駐車場が設置された。(8) 本件再開発事業の総事業費は,平成12年8月の時点では163億205 8万3000円となったが,その財源の内訳は,以下のとおりであった。
 国,岩手県及び北上市からの補助金 64億5980万円 建設省からの再開発緊急促進事業費補助金 1億0200万円 再開発組合の自己資金 1億4649万5000円
 北上市に対する市営駐車場の処分代金 34億9745万3000円 北上市に対するFプラザの処分代金 2億1423万8000円
 本件会社に対する保留床の処分代金 59億0059万7000円(9)ア 本件会社は,以上の(5),(6)の資本金,補助金及び借入金のほか,入居 者からの敷金及び保証金の合計21億5847万円を加えた合計62億8517万 円で,本件ビルの保留床の取得代金及びこれに係る不動産取得税を賄った。
 イ また,本件会社は,上記の初期投資額を前提に試算したところ,事業 開始4年目で期間損益は黒字に転換し,同7年目で累積赤字を解消できるとの収支 計画を立てていたが,現に平成12年度の決算は,税引き後利益がマイナス1億5 600万円程度になる見込みであり,本件会社の実績は収支計画の予想を上回る好 結果となっている。ウ さらに,本件会社は,北上市が平成11年9月に策定した中心市街地 活性化基本計画を受けて,同月,北上市商業タウンマネージメント構想検討委員会 を設置し,平成12年10月に同構想を提出して,同年12月20日,北上市長か らTMOの認定を受けた。 (10) 本件ビル内に設置された市営駐車場は,本件ビルがオープンした平成1 2年3月から約1年間で,利用台数が100万台を超えるなど順調に収益を挙げて いるため,北上市の起債償還計画も当初の計画どおりに進んでいる。2 本件におけるように,地方公共団体が株式会社に出資する場合については,地方自治法上,その適法性の要件を明文で定めた規定はないが,地方公共団体のする出資も公金の支出であることに変わりはないことからすると,地方公共団体が全く無制限にこれを行い得ると解するのは妥当でない。そして,地方自治法232条の2の規定の趣旨や地方公共団体の存立の基本理念に照らして考えれば,ある出資の適法性を判断するためには,出資がその目的において公共性ないし公益性を有するか否か,及びその目的達成の手段として合理性を有するか否かを考慮する必要があると解される。もっとも,地方公共団体の機関は,その地方公共団体の置かれている地理的,社会的,経済的事情や特性,他の行政政策との関連等を総合的に考慮することにより,公金の使途についてこれを適切に判断し得る地位にあるものと考えられる上,地方公共団体の機関は住民の民意にその存立の基礎を置くものであり,その公金支出の判断についても民意の裏付けが推定されるものとしてこれを尊重することが,地方自治の精神に合致すると解されることからすれば,出資の目的が公共性ないし公益性を有するか否か,及びその目的達成の手段として合理性を有するか否かという出資の適法性の判断は,当該地方公共団体の機関の裁量にゆだねられているというべきであって,その判断が著しく不合理で裁量権を逸脱し又は濫用するものであると認められるような場合にのみ,その出資が違法になると解するのが相当である。
3 以上を前提にして,本件支出の適法性を判断する。
(1) 前記認定のとおり,本件支出は,本件再開発事業の中心的内容である本件ビルの保留床を取得し,本件ビルを管理運営する権利者法人への出資として行われたものであるところ,本件再開発事業が北上市の中心市街地を活性化することを目的として施行された極めて公共性の高い性質を有するものであり,本件会社がいわばその再開発事業の中に組み込まれ,その事業を遂行する上で中核的な役割を果たすものであると認められることからすれば,北上市による本件支出は,特に公共性ないし公益性という観点から正当な目的を有するものであり,また,その目的達成の手段としても合理性を有するものというべきであって,特に,その違法性を裏付けるような事情を見い出すことはできない。
(2)ア この点について,原告らは,組合施行の市街地再開発事業は基本的に は組合員である権利者のためのものであるから,制度的に認められた補助金のほか に公金を使った支援を得るということは,権利者にのみ過度の援助をすることにな り,公平な公金支出という基本的な原理にもとることになるし,また,権利者法人 である本件会社が第3セクター方式で設立されるべき必要性はないなどと主張す る。イ しかし,本件再開発事業は,北上市が都市政策の基本的指針として定 めた北上市特定商業集積整備基本構想(平成4年10月)及び北上市総合発展計画 (平成5年3月)並びに北上中部地方拠点都市地域推進協議会が定めた北上中部地 方拠点都市地域基本計画(平成5年6月)などに盛り込まれている重点項目ないし は課題の内容に沿うものであり,北上市の中心市街地の活性化を促進し,都市機能 の整備・充実を図るための重要な施策として,北上市が積極的に推進することを公 に提唱してきたところに正に合致するものであるから,本件再開発事業の組合員に のみ過度の援助を与えるという性質のものではない。また,ある一定の行政目的を 実現するために官民協調型の事業を行うことも行政の手段として許容されているも のと認められることからすれば,本件におけるように,北上市が民間の私人と共に 権利者法人たる本件会社を設立し,その株式の引受けとして本件支出をすること も,公金支出の基本的原理に違反する違法なものということはできない。ウ さらに,前記認定によれば,本件再開発事業の総事業費は約163億 2000万円にものぼるものであり,その3分の1を超える約59億円が本件会社 への保留床の処分代金により賄われたものであるが,これを都市再開発法上の原則 に従って公募により賄おうとしていたならば,本件再開発事業そのものが頓挫する 可能性も十分にあったのであり,本件会社のような権利者法人を設立する必要性は 相当程度高かったものというべきである。
 しかも,本件会社は,上記保留床の処分代金を資本金,入居者からの 敷金及び保証金,補助金及び借入金によって賄ったこと,そのうちの約6割に及ぶ 約37億円が補助金及び借入金によるものであることが認められるが,前記1(6)の ア及びイは本件会社が第3セクター方式でなければ受けることができなかった補助 金であり,同ウの融資についても,権利者法人が民間企業の場合には,組合の組合 員が2分の1以上の割合を出資していなければならないという現実的には極めて厳 しい融資条件が付されていたことからすれば,事実上第3セクター方式でない限り その融資を受けられなかったとも言えるのである。もっとも,同エないしカの融資 については,第3セクター方式であることが制度上の条件でも融資の決定的要素で もなかったものと認められるが,同アないしウの各補助金ないし借入金によりもた らされた収支計画の確実性や本件会社の行う業務の公共性ないし公益性が評価さ れ,同エないしカの融資の実現を容易ならしめたであろうことが推認されるのであ り,少なくとも第3セクター方式であることによる積極的な効果が認められるので ある。 以上のとおり,本件再開発事業の財源確保のためには,保留床を取得することを目的とする本件会社を設立する必要があり,かつ,北上市の出資に基づく第3セクター方式を採用しなければ,保留床の取得代金を調達するための補助金や借入金の交付を受けることは困難であったと言うべきであるし,少なくとも,第3セクター方式はその保留床の取得代金調達のために有効な手段であったものというべきである。
エ なお,原告らは,第3セクター方式によらなければ実現できないような再開発事業は,合理的な事業計画ではないのであるから,施行すべきではない旨主張する。しかし,再開発事業の施行に際して第3セクター方式を選択するか否かは,地方公共団体が当該事業の必要性,事業規模,公益性の程度及び採算性等の諸条件を総合考慮しつつ,決定すべき事項であって,直ちに原告らの主張のように解することはできない。そして,本件においては,再開発事業を施行すべき必要性が高く,かつ,その事業規模からして,民間企業のみでは採算性の面でその実現を困難ならしめる事情が存在していたことも前記認定から明らかである。よって,この点に関する原告らの主張は採用できない。
(3)ア 次に,原告らは,本件支出の違法性を根拠付ける事情として,本件会 社の採算性の有無を問題としている。
 しかし,前記認定のとおり,本件会社は,設立準備の段階から,事業開始4年目で期間損益が黒字に転換し,同7年目で累積赤字を解消できるとの収支計画を持っていたこと,被告は,この収支計画を前提として本件支出をしていること,本件ビルが完成し,事業費及び資金調達の内容が変更された平成12年2月の段階でも,ほぼ同様の収支計画が維持されていた上,平成12年度の決算見込みによれば,本件会社の業績はその計画を上回る好調振りであることが認められる。以上からすれば,本件支出に際して,本件会社の採算性の有無については問題はなかったものというべきである。
イ なお,原告らは,本件会社が株式会社ダックビブレに入店してもらい たいがために不当に安価な賃料で契約し,北上市が本件ビル内に所有する市営駐車 場も,株式会社ダックビブレの低い賃料を補う目的で設置されたものであり,株式 会社ダックビブレが不当に優遇されている旨主張し,さらに株式会社ダックビブレ やその親会社である株式会社マイカルが民事再生法の適用を申請したことにより, 株式会社ダックビブレとの賃貸借契約が従前どおりに履行される保証がなくなり, 当初の収支計画どおりに実現しないおそれが生じた旨主張する。
 しかし,各金融機関は,判断の資料として核店舗である株式会社ダッ クビブレとの間の本件賃貸借契約の内容についても開示を受け,その上で健全な収 支計画であると判断し,融資していることなどの事情に照らせば,本件において不 当に安価な賃料設定がされたものとは認めることができない。また,市営駐車場に ついても,一般に中心市街地が空洞化する原因としては,自家用自動車の大幅な普 及にもかかわらず,旧来の都市基盤を持つ中心市街地には大規模駐車場が存在しな いために集客力が低下してしまうことが挙げられるところであるが,北上市におい ても,平成4年に策定した北上市特定商業集積整備基本構想の段階から,e地区を商 業の拠点とするためには,この問題点を解消する必要があると認識していたことが 認められる。また,現段階における株式会社ダックビブレ及び株式会社マイカルの 経営状態は,本件における前記認定を前提とする限り,平成11年3月にされた被 告の本件支出の適法性に関する判断には何ら影響を与えることはないものである。ウ よって,この点に関する原告らの主張も理由がない。
(4) さらに,原告らは,本件支出は,株式会社ダックビブレを始めとする本 件ビルに入店した特定の者のみを不当に優遇するものであることから,JR北上駅 前の北上開発ビルに入店していたイトーヨーカ堂が撤退を表明するなど,他の競合 施設には深刻な影響を与えており,このような不公平は,市民全体の利益に反するものであって,本件支出にも公共性ないし公益性が認められない旨を主張している。
 しかしながら,本件会社が株式会社ダックビブレを始めとする本件ビルの入居者を不当に優遇する目的で設立されたものではなく,現に不当に優遇する結果を生じさせているわけではないことも既に判示したところから明らかであるし,本件支出が市民全体の利益に反するものであることを認めるに足りる証拠もない。
 よって,この点に関する原告らの主張も失当であり,採用することはできない。
4 以上のとおり,被告が北上市長として本件支出をするに当たり,地方公共団体の長にゆだねられた裁量権を逸脱し又は濫用したことを裏付ける事情を認めることはできず,かえって,本件支出は,目的の公共性又は公益性に加えて,目的達成の手段としての合理性を有するものと認めることができるのであるから,適法なものというべきである。
5 よって,その余の点につき検討するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
 盛岡地方裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 高 橋 譲
裁判官 細 島 秀 勝 裁判官 菊 池 浩 也
判例本文

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