主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 原告が平成9年3月6日付けでした病院開設の許可申請に対して,被告が原告に対し同年10月1日付けでした病院開設の中止勧告,又は,同年12月16日付けでした許可処分中の同中止勧告部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 本案前の申立て
主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告が富山県高岡市内に病院の開設を計画し,被告に対し平成9年3月6日付けで病院開設の許可申請をしたところ(以下,これを「本件許可申請」という。),これに対し,被告が原告に対して同年10月1日付けでした病院開設の中止勧告(以下「本件勧告」という。)が医療法30条の7に反するもので違法であり,また,同年12月16日付けでした許可処分(以下「本件許可処分」という。)が同中止勧告による同病院の保険医療機関の指定申請を拒否することを予告するいわば負担付の許可であるとして,原告が,被告に対し,行政事件訴訟法に基づき,本件勧告又は本件許可処分中の中止勧告部分(以下,両者を併せて「本件勧告等」という。)の取消しを求める事案である。
 これに対し,被告は,本件勧告等には法的拘束力がなく「処分」とはいえないから抗告訴訟によりその取消しを求めることはできないと主張して,本件訴えの却下を求めるとともに,本件勧告等に違法性はないから原告の請求には理由がないと反論する。
1 前提となる事実(争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,医師であり,富山県高岡市αにおいて病院(仮称・高岡南郷病院)の開設を計画し,平成9年12月16日,医療法7条に基づく病院開設の許可を受けた者である。
イ 被告は,地方自治法148条2項別表第3,1(31)に基づき,医療法の定めるところにより病院開設の許可事務を行うべき職務上の義務を有する行政庁であり,また,医療法30条の3の規定に従い地域医療計画を策定すべき地方公共団体の代表者である。
(2) 本件許可申請,本件勧告及び本件許可処分
ア 本件許可申請
 本件の原告訴訟代理人である濱秀和弁護士及び宇佐見方宏弁護士は,原告の代理人として,平成9年3月6日付けで病床数を400床とする病院開設許可申請書を被告あてに郵送し,同申請書は3月7日に到達し
た(本件許可申請)。
 本件許可申請は,その後,原告により被告の求めに応じた補正がされ,必要な資料が提出されて,同年8月18日には,審査に必要な準備が整った。イ 本件勧告と原告の拒否
 被告は,原告に対し,平成9年10月1日付けで,医療法30条の7の規定に基づき,「高岡医療圏における病院の病床数が,富山県地域医療計画に定める当該医療圏の必要病床数に達しているため」という理由で,本件許可申請に係る病院の開設を中止するよう勧告した(甲1,本件勧告)。
 原告は,被告に対し,平成9年10月3日付けで,本件勧告を拒否するとともに,速やかに本件申請に対する許可をするよう求める文書を送付した(甲2)。ウ 本件許可処分
 被告は,平成9年12月16日付けで,本件申請について許可した(甲3,本件許可処分)。
 また,同日付けで,富山県厚生部長名で,原告に対し,富山県地域医療計画の達成の推進に協力すること等の遵守事項とともに,「中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には,厚生省通知(昭和62年9月21日付け保発第69号厚生省保険局長通知)において,保険医療機関の指定の拒否をすることとされているので,念のため申し添える。」と記載された文書が送付された(甲4。以下,同厚生省通知を「昭和62年保険局長通知」という。なお,従来の厚生省及び厚生大臣は,現行の国家行政組織上それぞれ厚生労働省及び厚生労働大臣となり,関係法規等もそれに応じた改正がされたが,以下においては,特に支障がない限り,厚生労働省及び厚生労働大臣と同義のものとして,厚生省及び厚生大臣の用語を用いる)。2 争点
(1) 本件勧告等の処分性
 本件勧告等が抗告訴訟の対象となるべき「処分」といえるか否か。(2) 本件勧告等の違法性
 本件勧告等に違法性があり,取り消されるべきか否か。
3 原告の主張
(1)本件勧告等の処分性(争点(1))について
ア 本件勧告等の法的性質について
(ア)本件勧告等と保険医療機関の指定との関係について
 本件勧告等により,当然に,原告がすべき保険医療機関の指定申請は拒否されることになるのであり,本件勧告等は,原告に不利益をもたらす処分というべきである。
a 昭和62年保険局長通知等における本件勧告の位置づけ
 厚生省保険局長は,被告の上級庁である厚生大臣の補助機関であるが,都道府県知事が医療法30条の7に基づき病院開設等の申請者
に対してする勧告について,義務を負担させる下命であると考え運用してきており,保険医療機関の指定を求めることを予定している病院開設者にとっても,医療法30条の7による勧告が下命(義務)として機能してきたことは明らかである。そして,このような取扱いを公式に認めるものとして,厚生省保険局長は,医療法30条の7による勧告に従わない病院開設者に対しては,病院の使用許可をしても,保険医療機関の指定申請については,健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの。以下「旧健康保険法」という。)43条の3第2項に定める「著シク不当卜認ムルモノナルトキ」に該当する場合であるとして,申請を拒否するよう通達を出しているのである(昭和62年保険局長通知)。
 本件についても,被告は,健康保険法に基づき保険医療機関の指定権限を有する行政庁であるところ(地方自治法148条2項別表第3,1,51),その補助機関である厚生部長が原告に対し本件勧告に従わないから保険医療機関の指定をしないと明言しているのであり,被告が本件勧告をしたことは,将来原告がすべき保険医療機関の指定申請を拒否するとの判断をしたものであるといえる。b 健康保険法の平成10年改正による勧告の処分性の明確化
 健康保険法は,平成10年に改正されたが(平成10年法律第109号,同年8月1日施行。以下「平成10年改正健康保険法」という。),同改正法43条の3第4項2号は,保険医療機関の指定について,都道府県知事は,医療計画で定める必要病床数を勘案して厚生大臣の定めた方法により算定した病床数を超えることとなる場合で,病院開設者等が医療法30条の7に基づく勧告を受け,これに従わないときは,保険医療機関の指定を行わないことができる旨を規定し,医療法30条の7による勧告に従わないことが保険医療機関指定許否の要件である旨明文で規定した。保健医療機関の指定許否は明らかに不利益処分であるから(行政手続法2条4号ロ参照),平成10年改正健康保険法においては,医療法30条の7による勧告は,そのような不利益処分に従うことを強制しているといえるのであり,行政指導ではなく,処分といわざるを得ない。
 そして,厚生省ないし被告の説明によれば,同規定は,従来,昭和62年保険局長通知により運用され,不明確であった病院開設申請に対する勧告の扱いを明確化したというのであ
るから,旧健康保険法の適用においても,病院開設申請者が医療法30条の7による勧告に従うべき義務があったことは明らかである。
c 健康保険法の規定ぶりと処分性の有無について
 保険医療機関の指定について,旧健康保険法においては「指定ヲ拒ムコトヲ得」(同法43条の3第2項),平成10年改正健康保険法においては「(略)ヲ除キテ其ノ指定ヲ行フコトヲ得」(同法43条の3第4項2号)とそれぞれ規定する。しかし,前記のように,同改正の前後のいずれにおいても,医療法30条の7による勧告に従わないことが保険医療機関の指定拒否の要件とされ,また,そのように扱われてきたのであるから,このような規定ぶりを根拠として保険医療機関の指定申請の拒否が裁量判断によるものであり,医療法30条の7による勧告が強制力を伴わない行政指導であるということはできない。
(イ) 本件勧告が行政指導とはいえないことについて
 行政事件訴訟法3条1項の「処分その他の公権力の行使」に該当するかどうかの判断に当たっては,当該行為について用いられる名称によって判断されるべきではなく,その行為のもたらす法的効果の有無によって判断されるべきである。また,当該行為の根拠となっている法規の規定だけではなく,関係法規を勘案して,関係法規の体系において,当該行為の名宛人がいかなる法的地位に立たされるかによって判断しなければならない。
 本件勧告等は,前記のように,医療法を根拠とするものであるが,病院の開設運営について同法と密接に関連すべき健康保険法においては,保険医療機関の指定拒否という不利益処分をもたらすのであって,強制力を伴わない行政指導であるということはできず,原告の病院開設を不可能とする行為である。したがって,処分性が認められるべきことは明らかである。
 また,仮に,医療法30条の7による勧告が行政指導であるとしても,行政指導に対する不服従が次の侵害処分の要件として法律上仕組まれている場合には,処分性を認めるべきである。本件勧告の不服従が,保険医療機関の指定拒否という不利益処分の要件となっていることは,前記のとおりである。
イ 本件勧告等の取消しを認める必要性について
 保険医療機関の指定申請をするには,施設や医療器材などの設備及び医師や看護婦等の人員などの確保が完了して病院の使用許可(医療法27条)を受けていなければならない。他方で,それ
が拒否されると,保険診療を行うことができず,国民皆保険をとる我が国においては,病院を経営することは不可能となることは明らかであって,前記の設備や人員の確保が無為に帰すことになり,単に病院開設者のみならず社会的にも大きな損失となる。
 そして,行政事件訴訟法においては行政処分について仮の救済規定をおいてないことから,医療法に基づく勧告を処分と解してその取消訴訟を認めない限り,このような損失を避けることができないことになる。すなわち,保険医療機関の指定申請が拒否された後にその取消しを求めることによっては救済が得られないのであり,いかなる行政作用についてどの段階での取消請求を認めるかは,司法作用により国民の権利利益の救済を図る見地から解釈により決するべきであるといえるから,医療法に基づく勧告に処分性を認めるべきであり,同勧告がされた段階で,その取消しを求めることが認められるべきである。
(2) 本件勧告等の違法性(争点(2))について
ア 医療法30条の7違反
 医療法30条の7は,都道府県知事が病院開設申請者に対し勧告をすることができるのは「医療計画の推進のため特に必要がある場合」と規定しており,本件勧告が適法であるというためには同要件を満たす必要がある。
 他方,平成10年改正健康保健法43条の3第4項2号においては,保健医療機関の指定許否ができる場合は,「必要病床数を勘案して厚生大臣の定めるところにより算定した数を超えることとなると認められる場合」である旨が規定され,厚生省告示211号(平成10年7月27日)によると,同規定にいう厚生大臣の定める病床数とは,医療計画に定める必要病床数から,当該地域における既存の病床で保険医療機関の病床以外のものの数を減じて算定した数とされている。そして,厚生省指導課長通知によると,この要件は,医療法30条の7に基づく勧告の要件と同一であるとしている。また,この指導課長通知は,従来の扱いを変更するものではないとされている。
 そうすると,本件勧告がされた当時においても,医療法30条の7による勧告ができるのは,公的医療機関等(同法7条の2第1項)以外の者が病院の開設を申請した場合において,その申請病院の所在地を含む2次医療圏の病院の病床数が,医療計画に定める当該区域の必要病床数に既に達している場合又は申請病院の開設等によって必要病床数を超えることと
なる場合ということになる。
 しかし,本件においては,原告が本件許可申請をした時点において,高岡医療圏における既存の病院の病床数は同圏内の必要病床数を下回っていたのであるから,被告が勧告をすることができる場合には当たらない。したがって,本件勧告は,医療法30条の7に反するものであり違法である。
イ 原告に対する不公正,不公正な取扱い
 高岡医療圏内においては,原告が本件許可申請をした後に,他の病院の開設申請や増床申請があり,これらの申請が競合した。こうした場合には,競合する申請者を公正,平等に取り扱い,その調整を図ることは当然であって,厚生省もこの点を強調している(平成10年1月20日全国厚生省部局長会議)。すなわち,特定の申請者を排除したり,その病院開設を阻止するような裁量措置は認められず,各申請者に対して,その申請数に応じて公平に病床数を割り当てられなければならない。
 しかし,被告の補助機関である富山県厚生部の担当者らは,残存病床数を原告以外の病院開設申請者や増床申請者に割り当て,最終的に原告に割り当てるべき保険病床がないとして本件勧告をしたのである。このような富山県厚生部担当者らの取扱いは,公正な手続により,申請者を公平に扱ったものとは到底いえず,原告の排除を目標にしているともいえるもので,本件勧告が違法な措置であることは明らかである。
4 被告の主張
(1)本件勧告等の処分性(争点(1))について
 本件勧告等は,行政事件訴訟法3条2項に規定する「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とはいえないから,その取消しを求める本件訴えは不適法であって却下されるべきである。
ア 本件勧告等の法的性質について
(ア) 本件勧告が行政指導であることについて
 本件勧告は,原告に対して病院開設中止を奨励する行政指導であり法律上の拘束力はない。すなわち,本件勧告は,被告が地域医療計画の達成のため,病院開設を申請した原告に対して,その中止を勧奨した行政指導であり,その受忍を強制すべき法律上の拘束力はないのであって,原告は,本件勧告に従うことを強制されるわけではない。したがって,本件勧告は,抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分」とはいえない。
 また,実際にも,原告は,本件勧告に従わない旨の態度表明をしており(甲2),本件勧告は意味を失ったといえる。
(イ) 本件勧告等と保険医療機関の指定との関

 原告は,富山県厚生部長が本件許可処分に当たり昭和62年保険局長通知を引用して保険医療機関の指定を拒否すると予告した旨主張し,そのことにより原告の法的地位に影響があるとして本件勧告等が行政処分に当たる旨主張する。しかし,保険医療機関の指定については,本件勧告とは別に審査がされるのであり,本件許可処分がされた段階では,原告の法的地位が本件勧告等によって影響されるとはいえない。したがって,その主張には理由がない。
a 医療法と健康保険法との関係について
 原告は,本件勧告に従わないことにより,保険医療機関の指定を拒否される可能性があるというが,これは原告の地位に事実上の影響を与えるものにすぎず,法律上の地位に影響を与えるものであるとはいえない。すなわち,健康保険法においては,病院開設の中止勧告に従わなかった者に対して必ず保険医療機関の指定を拒否することにはなっていない。また,病院開設の中止勧告は,医療体制の確保により国民の健康保持に寄与することを目的とする医療法に基づいてされるのであり,保険医療機関の指定は,保険者が被保険者の疾病等に関し保険給付を行うことにより国民の医療費負担の平均化,軽減を目的とする健康保険法に基づいてされるのであって,このようにそれぞれ別の理念によりされる措置であるから,本件勧告が法的に保険医療機関の指定拒否に影響を与えるとはいえない。
b 昭和62年保険局長通知等おける本件勧告の位置づけについて
 昭和62年保険局長通知は,旧健康保険法43条の3第2項にいう「著シク不適当卜認ムルモノナルトキ」の解釈について抽象的指針を示した運用通達にすぎない。そして,当時の行政当局は,医療計画に照らして医療機関が充足している区域において病院開設の申請がされた場合には,病院開設の自由は認めるものの,保険医療機関の指定については必要病床数を超えるのは相当でないとの見地から,病院開設申請については医療法30条の7に基づき中止の勧告をし,それに従わない場合には,保険医療機関の指定申請について前記「著シク不適当卜認ムルモノナルトキ」に該当するとして,その指定をしないものと解釈していたのである。c 健康保険法の平成10年改正による影響について
 保険医療機関の指定申請については,前記のように,昭和62年保険局長通知当時においても医療計画における必要病床数を越えて申請がされた場合には指定をしない旨解釈されていたのであるが,そのような解釈運用よりも法に規定をおくのが望ましいと考えられたことから,平成10年改正健康保険法では,同法43条の3第4項2号に同趣旨の規定がおかれることとなったのである。同条項の改正はこのような趣旨でされたのであり,同改正により病院開設の中止勧告の処分性が高まったとする原告の主張は理由がない。
イ 本件勧告等の取消しを認める必要性について
 原告は,保険医療機関の指定申請が病院の使用許可を得た後でなければすることができず,その申請の拒否処分の取消しを求めるのでは大きな損失を免れ得ない旨を主張し,また,実際にも,原告らが関与する鹿児島県内の事例(中止勧告を拒否して病院を開設し使用許可を得た病院について,保険医療機関の指定申請が拒否された例)があることを理由に,原告が開設しようとする病院について保険医療機関の指定申請をする以前の段階においても,本件勧告等によって将来行われるべき保険医療機関の指定の許否に法的な影響があるとして,本件勧告等の処分性を主張する。しかし,健康保険法においては,病院の使用許可(医療法27条)がされた後に保険医療機関の指定申請をすべき旨規定されているのであって,原告は,病院開設後に保険医療機関の指定申請をし,これを拒否された段階で,その拒否処分の取消しとともに本件勧告の違法性を主張すべきである。したがって,本件勧告等が行われたにすぎない段階では,その取消しを求めるための十分な理由があるとはいえず,処分性を認めることはできない。
 また,原告は,本件勧告等が,原告の将来行うべき保険医療機関の指定申請について,原告に過大なリスクを負わせるものであると主張し,その処分性を主張する。しかし,原告の主張するリスクは,保険医療機関の指定を申請すべき病院開設者が等しく負うものであるから,原告のみに過大な負担を強いるものとはいえず,この点を理由に本件勧告等が処分であるとはいえない。
(2)本件勧告等の違法性(争点(2))について
 仮に本件勧告に処分性が認められるとしても,本件勧告は,高岡医療圏内の病床数が医療計画で定めた必要病床数に達していたことから,医療法30条の7に基づいて適正にされたものであって,違法性はない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件勧告等の処分性)について
(1)本件は,原告が被告のした本件勧告等の取消しを
求めるものであるから,本件勧告等が行政事件訴訟法にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」であることが必要である(同法3条2項)。
 そして,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は地方公共団体が法令の規定に基づき行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解するのが相当である。
 したがって,本件訴えの適法性の有無は,本件勧告等により,法律上,原告の権利義務が形成され又は確定されたといえるか否かによることとなるところ,原告は,この点につき,本件勧告等により原告の行うべき保険医療機関の指定申請が拒否されることとなる旨主張する。
(2) そこで,まず,病院開設許可及び保険医療機関の指定についての法令上の規定並びに両者の関係について検討する。
ア 医療法における病院開設許可及び医療計画等
(ア) 病院開設許可
 医療法は,病院(「医師又は歯科医師が,公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって,患者20人以上の収容施設を有するもの」《同法1条の5》)を開設しようとするときは,開設地の都道府県知事の許可を受けなければならないとし(同法7条1項),都道府県知事は,開設許可申請があった場合において,その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が,法定の人員,施設及び構造設備等の要件(同法21条,23条)に適合するときは,開設の許可を与えなければならないとしている(同法7条4項)。
(イ) 医療計画
 また,医療法は,病院病床の適正配置を図るため,各都道府県が,当該各都道府県における医療を提供する体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとし(同法30条の3),医療計画においては,その対象となる区域(以下「医療圏」という。)の設定及び必要病床数に関する事項を定めるものとされているほか,病院の機能を考慮した整備の目標に関する事項,へき地の医療及び救急医療の確保に関する事項,医療に関する施設の相互の機能及び業務の連係に関する事項,医療従事者の確保に関する事項,その他医療を提供する体制の確保に関し必要な事項を定めることができるとされている(同条2項)。
(ウ) 医療計画の達成のために必要な措置等
 国及び地方公共団体は,医療計画の達成を推進するため,病
院又は診療所の不足している地域における病院又は診療所の整備その他必要な措置を講ずるように務めるものとされ(同法30条の5第1項),都道府県知事は,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には,病院を開設しようとする者等に対し,都道府県医療審議会の意見を聴いて,病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更に関して勧告することができるとされている(同法30条の7)。
(エ) 富山県における医療計画
 富山県においては,「富山県地域医療計画」が策定され,一般の医療需要に対応するために設定する区域を第2次医療圏として,新川,富山,高岡及び砺波の4つの第2次医療圏が設定され,各第2次医療圏における必要病床数等が定められている(甲25,26)。
イ 健康保険法における保険医療機関の指定と医療計画
(ア) 保険医療機関の指定
 開設許可を受けた病院が保険診療を行うためには,健康保険法に基づき,厚生大臣により,保険医療機関の指定を受けなければならない(同法43条の3)。
 なお,同法上,平成12年4月1日までは,都道府県知事が保険医療機関の指定をするものとされていた(平成11年7月16日法律第87号による改正前の同法43条の3)。
(イ) 医療計画と保険医療機関の指定等
 厚生大臣(平成10年改正健康保険法においては都道府県知事)は,医療計画で定める必要病床数を勘案して厚生大臣の定めた方法により算定した病床数を超えることとなる場合で,病院開設者等が医療法30条の7による勧告を受け,これに従わないときは,保険医療機関の指定を行わないことができるものとされている(健康保険法43条の3第4項2号)。
 なお,平成10年8月1日までは,医療法30条の7の規定に基づく勧告を受けて,これに従わない場合には,「著シク不適当卜認ムルモノナルトキ」(旧健康保険法43条の3第2項)に該当するものとして,地方社会保険医療協議会に対し指定拒否等の諮問を行うこととされていた(昭和62保険局長通知)。(ウ) 地方社会保険医療協議会による審議
 健康保険法は,厚生大臣が保険医療機関の指定を拒み,あるいは,申請に係る病床の全部又は一部を除いて指定を行う等の場合には,地方社会保険医療協議会の審議によらなければならない旨規定する(健康保険法43条の3第7項)。
 そして,地方社会保険医療協議会は,関係団体の推薦に基づき,保険者・被保険者・事業主を代表する委員,医師を代表する委員,公益を代表する委員20人をもって組織され(社会保険医療協議会法3条),会長は公益を代表する委員のうちから委員により選挙され(同法5条),関係行政庁の職員は,会長の承認があった場合に会議に出席して発言することができるとされているのであって(地方社会保険医療協議会の運営に関する基準《平成12年3月29日号外厚生省令第51号》4条),厚生大臣からは独立した組織になっている。
 また,厚生大臣が保険医療機関の指定拒否を相当としても,地方社会保険医療審議会がこれと異なる議決をすれば,指定を拒否することはできないとされている。
 なお,旧健康保険法及び平成10年改正健康保険法においても,都道府県知事が保険医療機関の指定を拒む場合等には,同様に,地方社会保険医療協議会の審議によるべき旨の規定が置かれていた(旧健康保険法43条の3第3項,平成10年改正健康保険法43条の3第7項)。
(3) 以上にみた関係各法規等により,本件勧告等により原告の行うべき保険医療機関の指定申請が拒否されることとなるか否か,すなわち,医療法30条の7に基づく勧告と保険医療機関の指定との関係について検討する。
ア 保険医療機関の指定拒否に関する規定は,旧健康保険法においては「指定ヲ拒ムコトヲ得」(同法43条の3第2項),平成10年改正以降の健康保険法においては「其ノ申請ニ係ル病床ノ全部又ハ一部ヲ除キテ其ノ指定ヲ行フコトヲ得」(同法43条の3第4項)との文言となっており,法文上,医療法30条の7に基づく勧告等に従わなかったとしても,必ず保険医療機関の指定拒否をしなければならないという構成をとっていない。
 また,保険医療機関の指定申請を拒否する場合について,健康保険法43条の3第7項は,「厚生大臣は,保険医療機関の指定を拒み,若しくはその申請に係る病床の全部若しくは一部を除いて指定(指定の変更を含む)を行うには,地方社会保険医療協議会の議によることを要する」旨を定めている。そして,地方社会保険医療協議会が厚生大臣からは独立した組織になっており,厚生大臣が保険医療機関の指定拒否を相当とする場合であっても,地方社会保険医療審議会がこれと異なる議決をすれば,厚生大臣は指定を拒否することはできないこととされていることは,先にみたとおりである。
 これら関係各法規に照らすと
,病院の開設申請者が医療法30条の7による勧告に従わない場合,その後開設された病院について必然的に保険医療機関の指定申請が拒否されることになっているものとは認めることができないというべきである。したがって,本件勧告が原告に対する不利益処分に法律上当然に結びつくとはいえない。
イ 原告は,本件勧告等がされた当時の旧健康保険法下においては,同法43条の3第2項の運用についての昭和62年保険局長通知により,医療法30条の7に基づく勧告に従わない場合には,保険医療機関の指定申請を拒否する運用が確立しており,また,平成10年改正健康保険法においては,同法43条の3第4項2号が同勧告を保険医療機関の指定申請拒否の要件として規定したことにより,同勧告が保険医療機関の指定申請拒否という不利益処分を強制するものである旨主張する。
 しかし,健康保険法においては,先にみたとおり,医療法30条の7による勧告がされた場合において保険医療機関の指定を拒むことができる旨が規定されているにすぎないのであり,このことは,旧健康保険法において昭和62年保険局長通知による運用がされていた場合であっても,平成10年改正健康保険法において前記の規定が置かれた場合であっても,同じである。また,いずれの場合も,保険医療機関の指定を拒否するに当たっては,地方社会保険医療協議会の審議及び答申によるべきとされていることも先にみたとおりである。こうしたことからすると,医療法30条の7による勧告がされ,あるいは同勧告を拒否したことが,関係法規上,直接必然的に保険医療機関の指定申請の拒否につながるとはいえない。 また,原告は,医療法30条の7による勧告が行政指導であるとしても,その不服従が次の侵害処分の要件として仕組まれている場合には処分性を認めるべきであると主張する。
 しかし,先にみたように,医療法30条の7による勧告が必然的に保険医療機関の指定申請拒否につながるとはいえないのであるから,仮に原告の主張するような見解を採用するとしても,本件勧告に処分性を認めることはできない。ウ したがって,関係法規上,本件勧告により原告が当然に保険医療機関の指定申請を拒否されるという不利益処分を受けることになるとは認められられない。また,本件勧告によっては,法律上,病院の開設自体が不可能になるとはいえない(病院の使用許可を得ることができる
ことは原告も認める。)。そうすると,本件勧告は,法律上,直接に原告の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するものということはできない。
 なお,原告は,本件許可処分が本件勧告による負担付であることを前提として,本件許可処分中の本件勧告部分の取消しを求める。
 しかし,前記のとおり,本件許可処分は本件勧告とは別個独立したものであって,本件許可処分に本件勧告が付されていることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告の訴えのうち,本件許可処分中の本件勧告部分の取消しを求めるものは,結局,本件勧告の取消しを求めるものと同一であるということになる。
(4)原告は,保険医療機関の指定申請が拒否されると病院の経営が不可能になるとして,病院の使用許可を得て保険医療機関の指定を申請した後にその拒否処分を受け,その後,その取消しや医療法30条の7による勧告の違法性を争うことによっては,大きな損失を避けられず,救済を得ることはできないことを理由として,医療法30条の7による勧告に処分性を認めて抗告訴訟の対象とし,その取消しを求める必要性がある旨主張する。
 しかし,保険医療機関の指定申請について拒否処分がされた場合,その取消しを求めて抗告訴訟が提起され,同処分が取り消されることとなった場合には,申請者は既に使用許可を得ている病院施設において,保険医療機関としての病院の経営が可能となるといえる。そうすると,本件のような場合においても,保険医療機関の指定申請の拒否処分を争うことによる救済が可能であるといえる。
 したがって,原告の主張するように,医療法30条の7による勧告について処分性を認める必要があるとはいえないから,その主張には理由がない。(5) 以上みたとおりであって,結局,本件勧告等については,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するということはできないから,それらの取消しを求める本件訴えは不適法である。2 よって,その余の点(争点(2))について判断するまでもなく,本件訴えはいずれも不適法であるから却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
富山地方裁判所民事部
裁判長裁判官 徳永幸藏
裁判官 吉岡真一
裁判官 井川真志
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