主文
1 被告が原告らに対して平成12年3月10日付けでした公文書非公開決定処分(11吹財資第73-5号)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告らが,吹田市公文書公開条例(昭和61年吹田市条例第32号,以下「本件条例」という。)5条に基づき,被告に対し,財団法人大阪府千里センター(以下「千里センター」という。)が吹田市内に所有する物件(登記簿上大阪府名義のものを含む)に係る固定資産税に関する文書類の公開を請求したところ,被告が本件条例6条1項6号に定める非公開事由に該当することを理由として,請求に係る文書を公開しない旨の決定(以下「本件非公開決定」という。)をしたため,原告らが,これを不服として本件非公開決定の取消しを請求した事案である。1 本件条例の定め
(1) 1条
 この条例は,公文書の公開をすることにより,市政に関して市民の知る権利を保障するとともに,一層公正で民主的な市政の執行を図り,もって地方自治の本旨に即した市政の発展に寄与することを目的とする。
(2) 2条
ア 1項
 この条例において,「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図書及び写真(これらを撮影したマイクロフィルム及び電子計算組織に記録されているものを含む。)であって,実施機関が管理しているものをいう。イ 2項
 この条例において,「公文書の公開」とは,実施機関がこの条例の定めるところにより,公文書を閲覧に供し,又はその写しを交付することをいう。ウ 3項
 この条例において,「実施機関」とは,市長,教育委員会,選挙管理委員会,公平委員会,監査委員,農業委員会,固定資産評価審査委員会及び水道事業管理者をいう。
(3) 5条
 何人も,実施機関に対して,当該実施機関が管理する公文書の公開を請求することができる。
(4) 6条
ア 1項
 実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,当該公文書の公開をしないことができる。
(1ないし5号 略)
6号
 法令等の規定により,明らかに公開することができないとされている情報イ 2項
 実施機関は,公文書に前項各号のいずれかに該当する情報とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において,これらの情報を容易に,かつ,公文書の公開の
請求の趣旨を損なうことなく分離できるときは,同項各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分を除いて,当該公文書の公開をしなければならない。2 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 被告は,吹田市長であり,本件条例に定める実施機関である。(2) 千里センターは,大阪府が100%出資している公益法人であり,吹田市のα地区において賃貸事業,駐車場事業,霊園墓地事業等を行っている(甲4)。(3) 原告らは,平成12年2月25日,被告に対し,本件条例5条に基づき,「吹田市が,平成4年4月1日以降,大阪府千里センターに対して賦課した吹田市域内所在の同千里センター所有物件(登記簿上大阪府名義のものを含む)に係る固定資産税に関する文書類(納税通知書又はこれに代わるもの,経緯説明書又は事情説明書,往復文書類,公文書公開条例2条1項文書などを含む)」の公開を求めた。
(4) 被告は,平成12年3月10日,本件非公開決定をして,公文書非公開決定通知書(甲3)により原告らに通知した。通知書には,公開することができない理由として,次のとおり記載されていた。
「吹田市公文書公開条例第6条第1項第6号に該当
(理由)
 地方税法(昭和25年法律第226号)第22条に「地方税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者は,その事務に関して知り得た秘密を漏らし,又は窃用した場合においては,二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」という規定があるため。」
3 争点及びこれに関する当事者の主張
 本件の争点は,本件文書に記載されている情報が,本件条例6条1項6号所定の非公開事由に当たるかどうかである。
(被告の主張)
 本件文書に記載されている情報は,本件条例6条1項6号の「法令等の規定により,明らかに公開することができないとされている情報」に該当するから,被告はこれを公開しないことができる。
 すなわち,地方税法22条は,「地方税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者は,その事務に関して知り得た秘密を漏らし,又は窃用した場合においては,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」と規定するところ,同条の秘密に該当する情報は,同条により明らかに公開することができないから,本件条例6条1項6号所定の非公開事由があるというべきである。
 そして,
地方税法22条の秘密は,いわゆる実質秘,すなわち非公知の事項であり,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められる事実をいう。この実質秘に該当するか否かを判断するに当たっては,同条の趣旨が,納税義務者や取引先等の秘密の保護にとどまらず,税務調査等の税務事務への信頼や協力を確保し,納税義務者に関するあらゆる事実を税務担当機関に示すことができる環境に置かれるよう保障し,もって,税務行政の円滑適正な執行を確保し,徴税システム全体を保護することであることに鑑み,納税義務者の権利・利益の保護や公益保護のために秘密として保護するに値するかどうかを実質的に判断すべきである。
 本件文書は,いずれも,以下のとおり地方税法22条の秘密に該当する情報が記録されているから,すべて非公開事由がある。
(1) 納税通知書又はこれに代わるもの
 納税通知書に代わるものとして,「名寄帳兼課税台帳」がある。これらの文書の内容は,納税義務者ごとに固定資産税の課税標準額を算定し,税額計算を行ったものであり,納税義務者ごとの固定資産の財産目録ともいうべきものであるから,地方税法22条の秘密に該当する。
 なお,納税通知書は納税義務者に送付済みであるから存在せず,納税通知書の写しも吹田市において保管されていない。
(2) 経緯説明書又は事情説明書
 経緯説明書又は事情説明書に当たるものとして,「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する土地の課税・非課税・減免の判断等について」(平成10年12月15日文書番号第469号)及び「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する家屋の課税・非課税の判断等について」(平成11年3月17日文書番号第648号)がある。これらの文書の内容は,千里センターの所有物件についての申告内容,現況調査結果,現況図面,評価,課税非課税判断,減免判断,吹田市又は千里センター以外の法人・個人が加わった契約書,協定書,確認書等であり,いずれも税務調査で知り得た情報が記録され,かつ,納税義務者ごとに保管されている情報であるから,地方税法22条の秘密に該当する。
(3) 往復文書類
 往復文書類に当たるものとして,「財団法人大阪府千里センター所有の土地に対する照会について」(平成10年3月4日文書番号第555号)及びその回答文がある。これらの文書の内容は,登記漏れ物件についての申告を促す文書とその回答文
であり,いずれも税務調査上知り得た秘密であり,地方税法22条の秘密に該当する。
(4) 本件条例2条1項文書
 本件条例2条1項文書に当たるものとして,電子情報のシステムダウン時のバックアップ帳票として備えていた「土地(補充)課税台帳」及び「家屋(補充)課税台帳」がある。これらの文書は,課税上の調査,評価,課税標準額等の課税上のデータの集大成であり,(1)と同様に地方税法22条の秘密に該当する。(原告らの主張)
(1) 被告は,公文書の公開の請求を受けた際,請求に係る文書を特定し,各文書ごとに非公開事由を検討し,非公開事由のあるときは非公開とする理由を具体的に示し,また,文書の一部につき非公開事由があるにすぎないときは部分非公開決定をするべきであるにもかかわらず,被告はそれらを怠り,文書の特定を行わず,非公開決定の理由を具体的に示さず,部分非公開決定もしなかったものであり,違法である。
(2) 被告の主張のうち,地方税法22条の秘密に該当する情報が本件条例6条1項6号所定の非公開事由となること,及び地方税法22条の秘密とは,いわゆる実質秘,すなわち非公知の事項であり,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものと解すべきであることは認める。
 しかし,被告は,地方税法22条が徴税システム全体の秩序を維持することに高度の公益的必要性があるとの観点から規定されたものであるから,同条の秘密に当たるかどうかは,徴税システム全体の秩序を維持する高度の公共性に鑑みて判断する必要があると解し,徴税システムの維持に関わる事項すべてが同条の秘密の対象となり,その事項については,公的機関性その他の個別具体的事情の如何にかかわらず実質秘に該当すると主張しているが,かかる主張は実質秘の概念と矛盾する。
 千里センターが,大阪府が100%出資し,吹田市内のα地区の膨大な土地を用いて駐車場業務を行っている公益法人であることに鑑みれば,固定資産税の客観的な課税状況が記載された本件文書は,実質的に秘密として保護するに値するものとはいえず,実質秘に該当しないというべきである。そして,原告は,客観的な課税事実の公開を求めているのであり,納税事務における調査過程の公開を求めているのではない。
第3 当裁判所の判断
1 本件の争点は,本件文書に記録されている情報が,本件条例6条1項6号の「法令等の規定により
,明らかに公開することができないとされている情報」に該当するか否かである。
 地方税法22条は,地方税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者が,その事務に関して知り得た秘密を漏らし,又は窃用した場合に刑罰に処する旨規定するところ,同条の秘密に該当する情報を公開することは秘密を漏らす行為に該当するというべきであるから,地方税法22条は本件条例6条1項6号の「法令等の規定」に,地方税法22条の秘密に該当する情報は「明らかに公開することができないとされている情報」に,それぞれ該当するというべきである。 そうすると,本件文書に記録されている情報が,地方税法22条の秘密に該当する場合は,本件条例6条1項6号の「法令等の規定により,明らかに公開することができないとされている情報」に該当するということとなる。
2 地方税法22条は,地方税に関する調査に関する事務に従事する者が,その職務を遂行する過程において,納税義務者の行う申告・報告や質問検査権の行使によって納税義務者等の私人の秘密を知ることは,適正な地方税の賦課徴収のために必要でやむを得ないことであるが,地方税の賦課徴収に必要な限度を越え,私人の秘密が漏示されることはプライバシーの権利を侵害することとなるため,このような基本的人権の侵害を未然に防止することを目的として規定されたものと解される。このような規定の趣旨に照らすと,同条にいう「秘密」とは,地方税に関する調査に関する事務に従事する者が,地方税に関する調査事務の過程で知り得た私人の情報のうち,いわゆる実質秘,すなわち一般に知られていない事実であって,本人が他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有すると認められるものをいうと解するのが相当である。被告は,同条の趣旨が税務行政の円滑適正な執行を確保し,徴税システム全体を保護することにもあると主張するが,同条の趣旨は前示のとおりであって,被告の主張は採用することができない。したがって,被告主張のような行政上の必要のために秘密を保つことが要求される情報は,同条にいう秘密に該当するとはいえない。
 そして,本件条例の目的は,公文書の公開をすることにより,市政に関して市民の知る権利を保障するとともに,一層公正で民主的な市政の執行を図り,もって地方自治の本旨に即した市政の発展に寄与することにあり(本件条例1条),何人も実施機関が管理する公文書の公開を請求することができるとされ(同5条),6条1項各号に該当する情報が記録されている公文書に限って,その公開をしないことができると定められていることに鑑みると,公開の請求に係る公文書に記載されている情報が地方税法22条にいう秘密に該当することについては,実施機関である被告の側に主張立証責任があり,その情報が地方税に関する調査事務の過程で知り得た私人の情報であることを主張立証するだけでは足りず,当該情報が一般に知られておらず,かつ,本人が他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有するものであることを主張立証しなければならないと解するのが相当である。
3 以上に述べたところに従い,本件文書に記録されている情報が地方税法22条にいう秘密に該当するかどうかを各文書ごとに検討する。
(1) 納税通知書又はこれに代わるもの
 被告は,「納税通知書又はこれに代わるもの」としては,名寄帳兼課税台帳があるが,その内容は納税義務者毎に固定資産税の課税標準額を算定し,税額計算を行ったものであるから,地方税法22条の秘密に該当すると主張する。
 被告の主張によれば,名寄帳課税台帳は,地方税に関する調査事務の過程で得られた私人の財産に関する情報が記載されているものと認められる。そして,名寄帳課税台帳に記載されている情報のうち,課税対象となっている不動産の所在,面積等の事項は,不動産登記簿にも記載されている事項であり,一般に知られていない情報ということはできないが,課税対象の不動産の所有者が明らかになる情報や不動産の評価額,課税標準額等の不動産の価値や固定資産税額が明らかになる情報は,一般に知られていない情報であり,不動産の所有者である私人にとっては,これらの情報から所有する財産やその価値が判明するため,他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有する情報に当たるということができる。 しかし,千里センターは,大阪府が100%出資している財団法人であり,甲4によれば,役員のうち理事長及び監事は大阪府知事が選任し,他の役員は大阪府知事の承認を得て理事長が選任するものとされ,常勤役員2名は大阪府職員退職者であり,非常勤役員9名全員及び職員48名のうち24名が大阪府職員である。また,千里センターの経営状況,すなわち,事業の実施状況,資産及び損益の状況,予算及び事
業計画等の事項は,大阪府に報告され,一般に公開されている。このように千里センターが公益性,公共性の高い団体であることに鑑みると,その資産である不動産に関する情報は広く府民に公開されるべきものと考えられるのであり,したがって,千里センターは,所有不動産の評価等に関する情報を他人に知られないことにつき客観的に相当の利益を有しないものというべきである。
 以上によれば,千里センターに関する名寄帳兼課税台帳は,地方税法22条にいう秘密に該当する情報を記載した文書とは認められない。
(2) 経緯説明書又は事情説明書
 被告は,経緯説明書又は事情説明書としては,「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する土地の課税・非課税・減免の判断等について」(平成10年12月15日文書番号第469号)及び「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する家屋の課税・非課税の判断等について」(平成11年3月17日文書番号第648号)があるが,これらの文書の内容は,千里センターの所有物件についての申告内容,現況調査結果,現況図面,評価,課税非課税判断,減免判断,吹田市又は千里センター以外の法人・個人が加わった契約書,協定書,確認書等であるから,地方税法22条の秘密に該当すると主張する。
 被告の主張する文書の内容のうち,物件の評価,課税非課税判断及び減免判断に関する事項は,調査の結果に基づく税務職員の判断に関する事項であり,調査事務の過程で得られた私人の情報に当たるとはいえないが,千里センターの所有物件についての申告内容,現況調査結果,現況図面,契約書,協定書及び確認書には,地方税に関する調査事務の過程で得られた私人の情報が含まれている可能性があると考えられる。
 ところで,被告の主張によれば,前記2つの公文書はそれぞれ複数の文書から成るものと推察されるところ,被告は,各公文書がどのような文書から成っているか,各文書にどのような事項が記載されているかを明らかにしていない。しかし,本件条例は,公文書に6条1項各号に該当する情報とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において,両者を容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なうことなく分離できるときは,同項各号に該当する情報が記録されている部分を除いて,当該公文書を公開しなければならないとしている(6条2項)。このように部分公開の義務が定められていることに鑑
みると,被告としては,前記各公文書について,どのような文書から成っているか,各文書につき地方税法22条にいう秘密が含まれているか,秘密を含む文書についてそれ以外の部分を公開することができないかどうかを具体的に主張立証しなければならないと解すべきである。被告がこれらの点について具体的に主張立証せず,前記のように調査の過程で得られた私人の情報が含まれている可能性が認められるだけでは,前記各公文書が地方税法22条にいう秘密に該当する情報を記載した文書に当たるとは認められない。
(3) 往復文書類
 被告は,原告が公開を請求する往復文書類としては,「財団法人大阪府千里センター所有の土地に対する照会について」(平成10年3月4日文書番号第555号)及びその回答文があるが,これらの文書は,登記漏れ物件についての申告を促す文書とそれに対する千里センターの回答文であるから,地方税法22条の秘密に該当すると主張する。
 しかし,被告の上記主張だけでは,各公文書が地方税法22条にいう秘密を含む文書であると認めることはできず,他に具体的な主張立証がない以上,被告の主張は認められない。
(4) 本件条例2条1項文書
 被告は,原告が公開を請求する本件条例2条1項文書としては,「土地(補充)課税台帳」及び「家屋(補充)課税台帳」があるが,これらの文書は,課税上の調査,評価,課税標準額等を記載した課税上のデータであるから,地方税法22条の秘密に該当すると主張する。
 しかし,これらの文書の内容のうち,課税対象の不動産の所有者が明らかになる情報及び不動産の評価額,課税標準額等の不動産の価値や固定資産税額が明らかになる情報は,一般に知られていない情報に当たるものの,前示の千里センターの公共的性格に鑑みれば,千里センターがこれらの情報を他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有するものとは認められない。
 したがって,これらの文書は,地方税法22条にいう秘密に該当する情報が記載されているとは認められない。
4 そうすると,本件文書は,いずれも,地方税法22条にいう秘密に該当する情報が記載されているとは認められず,本件条例6条1項6号の非公開事由があるとの被告の主張は認められない。
第4 結論
 以上によれば,本件非公開決定は,違法な処分であり,その取消しを求める原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし
,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 山下郁夫
裁判官 青木亮
裁判官 山田真依子
判例本文

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