主文
一 被告が平成三年二月二七日付けでした原告の平成元年一二月六日相続開始に係る相続税の更正(ただし、平成五年九月一三日付けの更正により減額された後のもの)のうち課税価格二億一五六〇万五〇〇〇円、相続税額八〇七八万二五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、平成五年九月一三日付けの変更賦課決定により減額された後のもの)のうち過少申告加算税額二万八〇〇〇円を超える部分を取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 原告の請求
被告が平成三年二月二七日付けでした原告の平成元年一二月六日相続開始に係る相続税の更正(ただし、平成五年九月一三日付けの更正により減額された後のもの)のうち課税価格二億一四五七万八〇〇〇円、相続税額八〇四九万二九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、平成五年九月一三日付けの変更賦課決定により減額された後のもの)を取り消す。
第二 事案の概要
本件は、父親の死亡により、その財産等を相続した原告が、相続した土地の一部について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)六九条の三(平成四年法律第一四号による改正前のもの、以下「本件特例」という。)の定める事業の用に供されていた宅地に該当し、右特例の適用を受けるものとして、相続税の申告等をしたところ、被告から、本件特例の適用が認められないとして、平成三年二月二七日付けで相続税の更正(ただし、平成五年九月一三日付けの更正により一部減額された。右減額後のものを、以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、平成五年九月一三日付けの変更賦課決定により一部減額された。右減額後のものを、以下「本件賦課決定」といい、本件更正と併せて「本件課税処分」という。)を受けたため、本件課税処分の取消しを求めて提訴した事案である。一 当事者間に争いのない事実等
1 本件特例について
本件特例は、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を定めたものであるが、これは、国税庁長官通達昭和五〇年六月二一日付け直資五二「事業又は居住の用に供されていた宅地の評価について」(以下「五〇年通達」という。)に基づき宅地の評価方法として実務上取り扱われていたものが、昭和五八年に措置法七〇条として立法化され(昭和五九年法律第六号による規定の整備により、同法六九条の三となる。以下「五八年特例」という。)、昭和六三年に同年法律第一〇九号により改正された(以下「六三年改正」という。)ものである。本件特例は、その後、平成四年に同年法律第一四号により改正され(以下「四年改正」という。)、平成六年に同年法律第二四号により改正された(以下「六年改正」という。)。したがって、本件相続開始時においては、六三年改正後のもので、四年改正前の本件特例が適用の対象となる。
五 八年特例においては、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうち、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又はこれと生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるもの(措置法施行令四〇条一項は「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」としている。以下「準事業」という。)を含む。)の用又は居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものがある場合は、当該宅地等の二〇〇平方メートルまでの部分のうち一定の要件を満たすもの(小規模宅地等)については、一定の割合を乗じて計算した金額を相続税の課税価格に算入すべき価額とするものとされた。ちなみに、右一定の割合は、事業の用に供されていた宅地等については一〇〇分の六〇とされており、減額割合は四〇パーセントとされていた。
六 三年改正においては、特例の減額割合が引き上げられる(事業用宅地については、四〇パーセントから六〇パーセントに引き上げられた。)とともに、事業用宅地から準事業の用に供されていた宅地が除外されることとされた。
なお、平成四年改正においては、特例の減額割合が各一〇パーセント引き上げられ、平成六年改正においては、特例の拡充等が行われ、一定の小規模宅地等については、減額割合の引き上げ(減額割合が一律八〇パーセントとされた。)が行われるとともに、不動産貸付けの用に供していた宅地等については、事業用宅地に準事業の用に供されていた宅地を含めた上、減額割合を一律五〇パーセントにとどめることとされた。
2 原告の相続について(いずれも当事者間に争いがない。)
(一) Aは、平成元年一二月六日に死亡し、Aの長女である原告及びAの妻であるBが共同してAを相続(以下「本件相続」という。)した。
(二) 原告及びBが本件相続により取得した相続財産(以下「本件相続財産」という。)は、東京都千代田区<地名略>所在の宅地一六五・三四二平方メートル(ただし、登記簿上の地積は一六五・二八平方メートル、以下「本件土地」という。)、本件土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根五階建のビル(以下「本件ビル」という。)のうち、A所有名義の一階(床面積一〇九・二〇〇平方メートル、ただし、登記簿上の床面積は一〇八・九〇平方メートル)及び二階(床面積一一三・四〇〇平方メートル、ただし、登記簿上の床面積は一一四・四一平方メートル)の建物部分(以下「本件建物部分」という。)、その他、現金、預貯金等であり、そのうち、原告が取得した相続財産は、本件土地の持分五〇分の二九及び本件建物部分であった。なお、本件相続財産の価額からその金額を控除すべき債務等の内容及び価額は、別表2及び別表3各課税価格等の明細表の「債務等の価額」欄記載のとおりであり、右債務等はすべて原告が負担することとされた。
(三) 本件ビルは、本件相続開始当時、その四階部分及び五階部分がAらの居住用に使用され、本件建物部分及び三階部分は他に賃貸されていた(なお、三階部分は、Bの所有名義である。三階部分の床面積は一一三・四〇〇平方メートル(登記簿上は一一四・四一平方メートル)、四階部分の床面積は一一五・一〇九平方メートル(登記簿上は一一六・二三平方メートル)、五階部分の床面積は一〇八・七二七平方メートル(登記簿上は一〇八・三八平方メートル)である。)。3 本件課税処分の経緯について(いずれも当事者間に争いがない。)原告の本件相続に係る相続税の申告等とこれに対する課税処分等の経緯は、別表1記載のとおりである。
すなわち、原告は、平成二年六月五日に本件相続に係る相続税について当初申告をし、平成三年一月一七日に修正申告をしたところ、被告は、同年二月二七日付けで右修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定をするとともに、同日付けで更正及び右更正に係る過少申告加算税の賦課決定をした。原告は、右更正及び右更正に係る過少申告加算税の賦課決定を不服として、同年四月二六日、被告に対して異議申立てをしたが、被告は、同年六月二六日付けでこれを棄却する旨の決定をし、さらに、原告は、同年八月一日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、平成五年三月一五日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。その後、被告は、同年九月一三日付けで当初の更正及び更正に係る過少申告加算税の賦課決定につき、これを一部減額する更正及び変更賦課決定をしたものである。
4 本件相続に係る相続税の課税価格の内訳等について
(一) 被告は、本件相続により、相続人が取得した財産、債務等の内容及び価額並びに原告が取得した財産、債務等の内容及び価格については、それぞれ、別表2課税価格等の明細表の「相続により取得した財産価額」欄及び「債務等の価額」欄の合計欄及び原告欄記載のとおりであり(なお、同表(1)の土地とは本件土地であり、同表(2)の建物とは本件建物部分である。)、納付すべき税額については、同表の相続税額の計算明細表及び配偶者の税額軽減額の計算明細表記載の計算過程により、同表(17)記載のとおりとなる旨主張する。さらに、被告は、原告に課されるべき過少申告加算税の額については、本件更正により原告が新たに納付すべき税額七九二五万六六〇〇円(本件更正に係る原告の納付すべき税額一億五九七四万九五〇〇円から本件修正申告に係る原告の納付すべき税額八〇四九万二九〇〇円を控除した金額)につき、国税通則法六五条一項及び二項により、右税額(同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の一〇を乗じた金額七九二万五〇〇〇円と、右新たに納付すべきこととなった税額と本件修正申告により原告が新たに納付すべきこととなった税額との合計額八〇二六万三七〇〇円のうち、期限内申告税額七九四八万五八〇〇円を超える部分に相当する金額七七万円(一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五を乗じた金額三万八五〇〇円との合計額七九六万三五〇〇円となる旨主張する。(二) 原告は、本件相続により、相続人が取得した財産、債務等の内容及び価額並びに原告が取得した財産、債務等の内容及び価格については、それぞれ、別表3課税価格等の明細表(1)の「相続により取得した財産価額」欄及び「債務等の価額」欄の合計欄及び原告欄記載のとおりであり(なお、同表(1)の土地とは本件土地であり、右土地の金額は、被告の主張する路線価方式によって算定された土地の価額を前提とするものである。同表(2)の建物とは本件建物部分である。)、納付すべき税額については、同表(2)の相続税額の計算明細表及び配偶者の税額軽減額の計算明細表記載の計算過程により、同表(17)記載のとおりとなる旨主張しており、相続により取得した財産の内容については当事者間に争いがなく、その価額については本件土地に係る部分を除いて当事者間に争いがない。また、納付すべき税額の計算方法自体も当事者間に争いがない。
二 争点
本件において、原告は、本件土地の価額について争い、相続税法二二条の時価を交換価値ととらえて、いわゆる路線価方式によりその価額を算定し、また、本件土地につき本件特例を適用しなかった被告の本件課税処分は違法であると主張しているところ、本件の争点及びこれに対する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。
1 本件土地の価額の算定方法について
(一) 被告の主張
(1) 相続財産の評価方法
ア 相続税法二二条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価によると規定しているところ、右時価とは、それがすべての財産に共通する財産評価の基準として採用されている以上、相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解すべきである。この点につき、原告は、収益還元価格による時価の算定が可能である旨主張するが、そうした評価方法は、評価の対象となる資産の収益性という極めて個別的な要因に基づき個々の評価額を算定せざるを得ないこととなり、納税者間の公平を保つという趣旨で共通の基準による評価を行うこととした相続税法の趣旨からみて、およそ合理性を認めることはできない。
イ 財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価するとすれば、その評価方式、基礎資料の選択の仕方、評価者による判断等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が増大し、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもある。したがって、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平の確保、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみても合理的である。このような理由に基づいて、相続財産の時価の具体的な算定については、国税庁長官が各国税局長あてに発した「相続財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資) 一七国税庁長官通達(平成三年一二月一八日付け二-四、課資一-六による改正前のもの)、以下「評価通達」という。)及び毎年各国税局長が定める相続財産評価基準(以下「評価基準」という。)に基づいて行われているのであり、こうした評価通達及び評価基準に基づく評価方法は合理的である。(2) 本件土地の価額
ア 本件土地は、本件ビルの敷地として利用されており、本件ビルが各階ごとに異なった所有者に区分登記され、各々賃貸又は居住の用に供されていたことから、本件土地の評価に当たっては、本件土地を本件ビルの総床面積に占める本件ビルの各階の床面積の割合に対応するように敷地を区分し、それぞれの利用状況に応じて評価することとなる。
すなわち、本件土地のうち、A所有の貸家として利用されていた本件建物部分の床面積の割合に対応する敷地(以下「本件建物部分対応敷地」という。)については、貸家建付地として評価し、Bが所有し貸家として使用されていた三階部分の床面積の割合に対応する敷地(以下「三階部分対応敷地」という。)については、BがAから使用貸借により借りていた土地であるから、自用地として評価し、原告の夫であるCが所有していた四階部分及びBが所有していた五階部分は、A及びこれと生計を一にするAの親族の居住の用に供されていたから、四階部分及び五階部分の床面積の割合に対応する敷地(以下「本件居住用敷地」という。)については、自用地として評価した上、居住用宅地として本件特例による所定の減額がされることとなる。
イ 本件土地は、評価通達一一(1)に定める路線価方式により評価される地域に所在することから、路線価方式により評価することとなる。
路線価は、その価額が概ね同一であると認められる一連の宅地が面している不特定多数の者の通行の用に供されている道路又は水路(以下「路線」という。)ごとに設定されるものであり、その価額は、路線に接する宅地で、その路線のほぼ中央にあること、その一連に宅地に共通している地勢にあること、その路線にだけ接していること、その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行き距離を有する地形又は正方形のものであることという事項すべてに該当するものについて、売買実例価額、精通者意見価額等に基づいて評定された一平方メートル当たりの価額とされている(評価通達一四)。
各国税局長が評価基準として公表している具体的な各路線価は、おおむね、次のような手順で設定される。すなわち、まず、主要な路線に接し、かつ、評価通達一四に定める前記基準に合致する土地(以下「標準地」という。)を選定するが、その選定に当たっては、地価事情が類似する地域ごとに、その地域における位置、形状等が標準的なものが選ばれるが、これに加え、地価公示法六条に基づき国土庁土地鑑定委員会がその価格を判定した土地(以下「公示地」という。)や国土利用計画法施行令九条一項に基づき都道府県知事がその価格を判定した土地(以下「基準地」という。)についても標準地として選定される。こうして選定された標準地につき、売買実例価額及び精通者意見価額等に基づいてその価額が算定されることになるが、通常、これらの価額はある程度の幅をもつものであるため、その価額の中庸値を標準地の価額として算定している。こうして算定された標準地の価額が、その標準地の接する路線の価額(路線価)となるものであるが、実際に決定される路線価は、評価上の安全を考慮して、土地について自由な取引が行われるとした場合にその取引において通常成立すると認められる価格として国土庁土地鑑定委員会が公示する公示地の価額の七〇パーセント以内の水準を目途とし、いわゆる控え目な金額として設定されている。
したがって、右のような手順で設定された本件土地に適用される路線価は合理的なものであり、これを恣意的な価格であるとする原告の主張は理由がない。そして、本件土地に適用される路線価は、五一二万円である。
ウ 本件土地の価額は、右路線価(五一二万円)に地積(一六五・三四二平方メートル)を乗じて計算した自用地としての価額(以下「更地価額」という。)八億四六五五万一〇四〇円を基礎として、次のとおり計算した金額となる(別表4のとおり)。
本件建物部分対応敷地の価額は、更地価額に〇・三九七六一(本件ビルの総床面積に占める本件建物部分の床面積の割合に対応する敷地が本件土地に占める割合、なお、右割合は当事者間に争いがない。
)を乗じた金額三億三六五九万七一五九円から、右金額に借地権割合(〇・七)及び借地権割合(〇・三)を乗じて計算した金額を控除した二億六五九一万一七五五円となる。
三階部分対応敷地の価額は、更地価額に〇・二〇二五五(本件ビルの総床面積に占める三階部分の床面積の割合に対応する敷地が本件土地に占める割合、なお、右割合は当事者間に争いがない。)を乗じて計算した一億七一四六万八九一三円となる。
本件居住用敷地の価額は、更地価額に〇・三九九八二(本件ビルの総床面積に占める四階部分及び五階部分の床面積の割合に対応する敷地が本件土地に占める割合、なお、右割合は当事者間に争いがない。)を乗じて算出した三億三八四六万八〇三六円に、本件特例に基づく減額割合五〇パーセント(四年改正前の措置法六九条の三第一項三号)を乗じて計算した一億六九二三万四〇一八円となる。そして、本件土地の価額は、右各金額の合計額六億六六一万四六八六円となる。(二) 原告の主張
(1) 相続税法は、時価について定義規定を設けていないところであり、相続税法二二条の定める「時価」の意義については、憲法の人権諸条項を踏まえた上、租税法律関係を律すべき応能負担の原則に基づいて合理的な解釈がなされなければならない。そもそも被相続人が居住の用又は生業の用に供しており、相続人が引き続きこれを生存の基礎としているような小規模宅地の場合には、これを売却することは想定されておらず、市場における自由な取引ということはあり得ないから、その価値を交換価値としてとらえることはできないというべきである。したがって、そうした生存の基盤たる小規模宅地について相続人が享受し得る利益は、使用価値、収益価値にすぎないのであって、その交換価値に対応する担税力も存しないのであるから、その時価を評価するに当たっては、その利用価値をその時点で適切に評価すべきものであり、そうした価値は収益還元価格として算定することが十分に可能である。
なお、評価通達は、時価について「それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」をいうものとしているが、生存の基盤となる宅地については自由な取引というものが想定できないことは前記のとおりであるし、時価を交換価値としてとらえる評価通達自体、納税者に対して、法規としての拘束力を有するものではない。
(2) 仮に、相続税法二二条の時価が客観的交換価値をいうものであるとしても、そうした重要な課税標準を算定する基準が行政庁の指針にすぎない通達に全面的に依存している制度自体が租税法律主義に反するものといわざるを得ないから、通達の定める路線価方式による評価も租税法律主義に反するものというべきである。また、被告が本件土地の評価に当たって用いた路線価の算定の具体的根拠は何ら明らかにされておらず、右路線価が客観的交換価値を反映しているという根拠及びその手続の適正さを課税庁において立証できない限り、課税庁による恣意的な課税という批判を免れることはできないというべきである。
(3) また、土地の市場価格の暴騰は、政府の施策の誤りによるところがあるのであり、暴騰した市場価格を基にして担税力のない原告に過酷な租税を課すことは、政府の施策の誤りによる責任が否定できない市場価格の暴騰の始末を、政府に対する苛酷な納税義務の形で国民に負わせることになるのであり、それを強いるような課税処分は、条理に反するものというべきである。
2 本件特例の適用について
(一) 被告の主張
(1) 本件特例が規定する事業に関しては、措置法及び相続税法には、定義規定等特別の定めがないことから、税法の一般概念及び本件特例の制定の趣旨、目的により解釈すべきこととなる。そして、法的安定性の要請からすれば、税法上の概念の統一的理解が図られるべきであり、既に他の税法において用いられている概念については、これを別異に解すべきことが法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は格別、同じ意義に解すべきである。
そこで、本件特例を規定している措置法の他の条項についてみるに、個人が特定の事業用資産を譲渡した場合の買換えの特例についての措置法三七条一項及び同法施行令二五条二項は、その対象となる事業について、五八年特例及び昭和六三年政令第三六二号による改正前の措置法施行令四〇条一項と全く同一の文言を用いて規定しているところである。措置法三七条の特例は、所得税法三三条各項に定める譲渡所得の金額の計算の特例であるから、そこでいう事業は所得税法上の事業と同一であると解され、右特例の文言と同一の文言を用いている本件特例における事業も所得税法上の事業の意義と同一に解されるべきであり、これを別異に解する合理的理由はない。
また、五〇年通達においては、賃貸用の宅地は特例の対象からそもそも除外されており、また、五八年特例を立法するに当たっては、右特例が中小企業の事業承継の問題の一つとされていたことからも明らかなように、本件特例における事業の用に供する宅地等については、個人事業者の事業を対象として、その事業の承継を目的として居住の用に供する宅地等以上にこれを保護する趣旨であるから、そこにおける事業とは、それが承継されないことによって社会的損失に繋がることとなる一定規模以上の個人の行う営利活動を予定しているというべきである。したがって、本件特例の対象とする事業とは、あくまで個人事業者を対象として定められた所得税法における事業概念にそって解釈すべきものである。
また、五八年特例は、五〇年通達における賃貸用宅地の除外を廃止した上、明文で事業と称するに至らない不動産貸付けについても準事業としてこれを含ませていることからすれば、事業と準事業が明らかに区別されており、この区別は所得税法上の事業と準事業の区別を意識したものであるし、六三年改正においてもその事業概念が変更されたものとはみられないから、その事業概念は所得税法における事業概念と同一である。
(2) 所得税法は、事業についての定義規定を置いていないが、事業から生ずる所得を同法二七条において事業所得として区分しており、同条には、事業所得を生ずる典型的な業種として農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業が掲げられており、同法施行令六三条には、右の業種を含めて一一種の業種が例示され、その他に「対価を得て継続的に行う事業」という規定を置き、社会通念上の事業を包括的に対象とすることを明らかにしている。したがって、同法及び同法施行令において例示されていない業種、とりわけ不動産貸付けについては、例示されている業種と比較し、営利性、有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企画遂行性の有無、その取引に費やした精神的あるいは肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などを勘案し、なかんずく、規模の大小及び役務の提供の程度という観点から、同法及び同法施行令において例示されている業種との比較において、事業と認めて遜色がないかどうかを判断するほかはない。
すなわち、所得税法は、不動産貸付けに起因して発生する所得を、その規模の大小を問わず、事業所得と区別して不動産所得という独立した所得として位置づけた上、不動産所得に該当する場合であっても事業として不動産賃貸が営まれている場合には、事業所得と同様の計算方法により所得金額を算定することとしている。所得税法がこのように不動産所得と事業所得とを区別したのは、不動産所得が、資産勤労結合所得である事業所得とは性格を異にした資産所得、すなわち、人的な役務をほとんど要しないか、要するとしても極めてわずかなものであり、所得のほとんどが資産の運用に起因して発生する所得であると考えられたからである。したがって、こうした資産の運用としての性質を強く有している不動産貸付けが事業として認められるためには、例示されている業種と遜色のない程度の役務の提供がなされているか否かを中心に判断されるべきである。また、不動産貸付けにおける役務の提供の程度は、その貸付けの規模にある程度比例して増加するものと推認できるから、その貸付けの規模は、事業性を判断する観点として重要なものである。なお、不動産賃貸が社会通念上事業と称するに至る程度の規模の貸付けに該当するかどうかは、個別的、客観的に判断すべきものであるが、大量に発生する相続税の申告に関し、個々にその不動産賃貸の規模、管理の状況等を判断した場合には、課税庁の事務負担が増大し、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれが生じることから、国税庁では、執行上の取扱基準として右事業の範囲について「租税特別措置法(相続税法の特例のうち農地等に係る納税猶予の特例及び延納の特例関係以外)の取扱いについて」(平成元年五月八日付け直資二-二〇八、以下「特例通達」という。)を定め、公表している。右特例通達は、貸家の敷地が本件特例における事業の用に供されていた宅地等に該当するか否かの基準として、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っていたかどうかにより判定するべきであるとした上、貸間、アパート等については、貸与できる独立した室数がおおむね一〇以上、独立家屋の貸付けについては、おおむね五棟以上であると認められる場合には(以下、右の五棟一〇室基準を「形式基準」という。)、右貸家の敷地が事業の用に供されていたものとして取り扱うこととしている(特例通達六九の三-一)。これは、所得税法における従来の執行を踏まえて、不動産賃貸が形式基準に定める一定の規模を超える場合には、おおむねその不動産賃貸は社会通念上事業と称するに至る程度の規模を有するものであると推認して事業として取り扱うこととするものであり、形式基準に満たないことが明らかである場合には、原則に戻ってその不動産賃貸が社会通念上事業に該当するかどうかを判断することになるのである。
(3) そこで、Aの行っていた本件ビルの貸付けについてみるに、その規模は、わずか二室にすぎないこと、賃貸のための従業員を用いることなく、管理人室、事務室等特別の管理施設もないこと、賃貸料及び共益費をいわゆる銀行振込により受領し、また、賃貸契約の締結及び更新の手続を不動産業者に依頼しており、Aら家族が行っていたとする管理業務もいわゆる専業主婦が日常家事の片手間にこなせる程度のものであり、居住用として利用されていた四階部分及び五階部分の管理業務も含まれているものであって、その役務の提供の程度も極めて低いものであるから、本件ビルの貸付けが所得税法二七条及び同法施行令六三条に例示された業種と比較して、社会通念上事業と認められる規模と役務の提供を伴っていたとは到底認めることができず、本件特例の適用はないというべきである。
(二) 原告の主張
(1) 本件特例は、資産の再分配の機能をもつ相続税法の特例として設けられたものであり、その立法趣旨、右特例の制定及び改正の経緯からみて、小規模宅地等において生活基盤維持のために行われる生業としての事業を保護する趣旨であると解すべきであり、本件特例における事業概念は、必要経費の算入等の取扱いを違えるか否かを判断するための所得税法上の事業概念とは異なり、その事業性は、専らそれが生活基盤を維持するための生業として行われているか否かによって判断されるべきものである。
すなわち、そもそも本件特例が設けられたのは、地価の高騰に伴い、生活の基盤に不可欠な小規模宅地等の相続税について、通常の方法によって評価することとすると、相続税の過重な負担により、その生存の維持に不可欠な財産を失わざるを得ないという極めて不合理な結果を回避するために、その課税価格に算入すべき価額を減額するという趣旨であり、そこでいう事業とは、生活基盤を維持するための生業として行われている事業を意味することは明らかである。そして、六三年改正においては、その事業のうちから、準事業が除外されることとなったが、その趣旨は、右特例を利用して税負担を回避する例、具体的には、地方の資産家が都心の高級マンション等を購入して賃貸し相続税の負担を回避するというような事例を封じるため、事業と称するに至らない程度の不動産貸付けを除外したものであり、そこで除外されたのは、生業に当たらないいわゆる副業として行われるような不動産貸付けを除外したものとみざるを得ない。六三年改正が、被告の主張するように規模の小さな不動産貸付けを除外するものであるとすれば、生業として行われている小規模な不動産貸付けが本件特例の対象から除外されることになり、本件特例の立法目的に反する結果となることは明らかである。
なお、被告は、税法上の概念の統一的理解というようなことを主張するが、現実に各法律の立法趣旨が異なる以上、同一用語を複数の概念として使うことが避けられない場合があるというべきである。また、事業用宅地に対する税法上の優遇が個人事業者の事業承継を目的とするとしても、そのことにより、当然に所得税法上の事業と同一概念となるわけではなく、生活基盤維持の観点からも事業承継の必要性が考慮されるべきことは明らかであり、被告の主張は失当である。
(2) 仮に、本件特例における事業概念が、所得税法上の事業概念と同一であるとしても、本件建物部分及び三階部分の貸付けは、事業に当たるというべきである。
本来の所得税法上の事業概念は、社会通念としての事業、すなわち、社会通念に基づき、ある特定の者の危険とその負担において、独立的に継続して営まれる業務を意味するのであり、同法施行令六三条により「対価性」及び「継続性」という要件で絞りをかけている事業所得の対象となる事業概念より広い概念であって、本件ビルの賃貸が所得税法上の事業に当たることは明らかである。
なお、被告は、不動産貸付けが資産性所得の性質が大きいことをもって、役務の提供の程度の大小が所得税法上の事業といえるか否かの判断に当たっては重要である旨主張するが、そもそも、不動産という資産の運用が所得の中心か否かという点は、不動産所得と事業所得ないし雑所得とを区分するための基準にすぎないし、また、事業所得の中にも資産の運用による法定果実が所得の中心となっているものが含まれているのであり、被告の主張は誤った理解を前提としているものである。また、本件ビルの賃貸は、被告の主張するように、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を考慮した判断によったとしても、事業に当たることというべきである。
すなわち、本件ビルは、Aがその残りの人生をかけて建築したものであるが、その賃貸部分の床面積の合計は、本件土地の面積の二〇〇パーセントを超えるものであり、本件ビルの賃貸は、銀行から借り入れた建築資金の返済及び生計費を取得する目的で行われ、A夫婦は、その賃料収入を予定どおり得ることができなければ、借入れを行った銀行への返済が不能になるとの危険を承知の上で、本件ビルの建築及び賃貸事業を企画し実行したものである。そして、本件ビルの賃貸は、本件ビル建築後から現在に至るまで継続して行われ、空室となった場合には他の賃借人を募集して引き続き行われている。Aは、昭和六二年までは、挿花教授を営んでいたが、本件建物部分の賃貸による収入は、挿花教授による収入の約五倍であり、一体として管理運営していた三階部分の賃貸を含めると、収入の点で約七・六倍にも上るものであるし、本件相続開始時点においては、A夫婦には、本件ビルの賃貸による収入以外に定期的な収入はなかった。また、本件ビルの賃貸借契約の締結や更新などの手続については、不動産業者である中央建物株式会社に依頼し、仲介手数料を支払っており、本件ビルの共用部分の清掃業務の一部(床面の掃き掃除及びワックス掛け)を委託手数料を支払って清掃業者に委託していた。そして、A夫婦や原告夫婦は、本件ビルの賃貸部分や共用部分の設備等の整備や賃借人からの苦情への対応、一階出入口の開閉等の管理、二階部分についてのごみの詰め替え処理、まとめて配達される新聞類の整理等を行うなど、本件ビル賃貸のために終日拘束を受けており、また、本件ビル賃貸のための収支管理も行っていた。こうした点を総合して考慮すれば、本件ビルの賃貸が事業に当たることは明らかである。
(3) したがって、本件建物部分及び三階部分の賃貸は本件特例における事業に当たることになり、本件土地の価額は、本件建物部分対応敷地及び三階部分対応敷地につき、事業の用に供されていた宅地等として、本件特例を適用して計算した額になるのであり、被告の主張する路線価方式による評価を前提としても、別表5記載のとおりの計算により、三億七八〇三万三〇八九円となり、原告が相続により取得した土地の価額は、その五〇分の二九に当たる二億一九二五万九一九一円となる。
すなわち、本件建物部分対応敷地の価額は、その貸家建付地としての価額二億六五九一万一七五五円(その計算過程は被告主張と同様)に本件特例を適用し事業用宅地として六〇パーセントを減額した一億六三六万四七〇二円となり、三階部分対応敷地の価額は、その自用地としての価額一億七一四六万八九一三円(その計算過程は被告主張と同様)に本件特例を適用し事業用宅地として六〇パーセントを減額した六八五八万七五六五円となり、本件居住用敷地の価額は、その自用地としての価額三億三八四六万八〇三六円(その計算過程は被告主張と同様)に本件特例を適用し(本件土地の一部が事業の用に供されていたのであるから、同条一項二号が適用される。)居住用宅地として四〇パーセントを減額した二億三〇八万八二二円となり、本件土地の価額は、その合計額である三億七八〇三万三〇八九円となるのである。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 相続税法二二条の時価について
相続税法二二条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、相続の対象となる財産は、経済的価値を有するすべてのものが含まれ、その対象は極めて多岐にわたり、各納税者ごとにその財産の構成が異なるため、財産の種類、性質ごとに異なる基準でこれを評価するとすれば、税負担の不均衡を招き、納税者に不公平感を生じさせることにもなりかねない。したがって、右にいう時価とは、それがすべての財産に共通する財産評価の基準として採用されていると解すべきであり、そのような基準としての時価は、相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解さざるを得ないというべきである。
原告は、交換価値の実現が想定されていない不動産については、その利用価値をもって時価とすべきであり、そうした時価は収益還元価格によって算定することが可能である旨主張する。原告が主張する収益還元価格とは、評価の対象となる不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現価を求め、これを還元利回りで還元して対象不動産の価格を算定する方法により求める価格をいうものと思われる。しかしながら、そうした評価方法は、実際には賃貸が予定されていない自用の住宅地についても、賃貸を仮定してその収益性を求めるものであるし、評価の対象となる資産の収益性という極めて個別的な要因に基づき個々の評価額を算定せざるを得ないこととなり、不動産の運用方法いかんによって全く区々の評価額が決定されることとなる上、納税者間の公平を保つという趣旨で財産の種類等を問わず、共通の基準による評価を行うこととした相続税法の趣旨からみて、合理性を認めることはできないというべきである。さらに、本件特例は、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を定めるものであるが、本件特例が事業の用又は居住の用に供されていた宅地等につきその処分の制約の点をも考慮して、小規模宅地等の価額の一定の割合を乗じてこれを軽減するものであることに照らせば、その軽減の前提となる価額としては、処分の制約を受けることを考慮した収益還元価格ではなく、客観的交換価値を想定していることは明らかというべきであるから、原告の主張は採用することはできないというべきである。
2 路線価方式による時価の算定について
財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価するとすれば、その評価方式、基礎資料の選択の仕方、評価者による判断等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が増大し、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもあるところであり、納税者間の公平の確保、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみても、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方法には合理性があるというべきである。また、そうした評価方法は、財産の種類に応じて種々の算定方法が想定されるし、評価理論の進歩や社会経済情勢の変化に応じて変遷する可能性を有するのであるから、これを法律によって逐一かつ一義的に定めることは困難といわざるを得ない。したがって、相続財産の時価の具体的な算定について、あらかじめ定められた評価通達及び評価基準に基づいて評価する方法には合理性があるというべきであるし、また、そうした評価方法を通達等によって定めることが、直ちに租税法律主義に反するものともいえないというべきである。
そして、評価通達一一(1)は、路線価方式による評価方法について規定しているところであり、本件土地は、路線価方式により評価される地域に所在することから、路線価方式により評価されることとなる。
ところで、路線価は、前記被告主張のような手順で設定され、公表されているものであり、その手順自体は客観的交換価値を反映し得る適正なものというべきであり、また、乙二六号証によれば、実際に決定される路線価は、評価上の安全を考慮して、土地について自由な取引が行われるとした場合にその取引において通常成立すると認められる価格として国土庁土地鑑定委員会が公示する公示地の価額の七〇パーセント以内の水準を目途とし、いわゆる控え目な金額として設定されていることが認められるのであって、右のようにして設定された具体的な路線価は、原則として、客観的交換価値としての時価を評価する根拠としての合理性を有するというべきである。そして、本件土地について適用される路線価五一二万円が、客観的交換価値である時価を上回っていることを推認させるような事情(例えば、右路線価が適用される地域において、右路線価に到底及ばないような価格で実際の取引がなされる等の事情)は何らうかがわれないのであり、かえって、乙三四号証の一ないし三によれば、本件土地を含む千代田区<地名略>周辺における路線価の水準が、同地域における平成元年の公示価格及び基準地の価格に対しておおむね四九・〇パーセント及び五四・一パーセントの水準であったことが認められるのであり、本件土地に適用される路線価が客観的交換価値としての時価を下回ることはあれ、これを上回っていたとは到底認め難いものといわざるを得ないから、右路線価の設定過程が具体的に明らかにされないことの一事をもって、右路線価に基づく本件土地の価額の算定が違法であるとか、その算定が恣意的なものであるということはできず、この点に関する原告の主張は採用できない。
3 条理違反について
原告は、土地の市場価格の暴騰は、政府の施策の誤りによるところがあり、暴騰した市場価格を基にして担税力のない原告に過酷な租税を課すことは条理に反する旨主張する。しかしながら、条理等の一般条項の適用は、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係については、特に慎重でなければならず、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしても、なお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者を保護しなければ正義に反するというような特別の事情がある場合に、初めてその適用の是非を考慮すべきものであるところ、原告の主張を前提としても、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にして、なお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者を保護しなければ正義に反するというような特別の事情があるということができないことは明らかであるから、この点に関する原告の主張は採用できない。
二 争点2について
1 本件特例の事業概念について
措置法及び相続税法においては、事業概念についての定義規定等の特別の定めが置かれていないことから、その事業の意義については、税法の一般概念及び本件特例制定の趣旨、目的により解釈すべきことになる。
ところで、所得税法二七条一項は、事業所得についての定義規定を置き、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と定め、これを受けて同法施行令六三条は、事業の範囲について、政令で定める事業は、同条各号に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする旨規定している。また、所得税法は、不動産所得、事業所得又は山林所得の計算に関して、事業という文言を用いて、「事業の用に供される固定資産」(同法五一条一項)、「事業について生じた損失」(同条二項)、「事業に従事する親族に支払った給与」(同法五七条一項、三項)、「事業を営む者」(平成四年法律第一四号により削除された措置法二五条の二第一項)等を要件とする各種の特則を設けている。さらに、所得税法三三条各項の譲渡所得の金額の計算における特例として、個人が事業用資産を譲渡した場合の買換えの特例に関する措置法三七条一項の規定は、その特例の対象となる譲渡資産がその用に供されていた事業について「事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。)」とし、右規定を受けた同法施行令二五条二項は、政令で定めるものについて「事業と称するにいたらない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を経て継続的に行うもの」と規定しているところ、五八年特例は、本件特例の対象となる宅地等に係る事業について「事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。)」と規定し、右規定を受けた昭和六三年政令第三六二号による改正前の同法施行令四〇条一項は、政令で定めるものについて「事業と称するにいたらない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」と規定し、全く同一の文言を用いている。
そうすると、本件特例は、所得税法及びその関連法令において用いられているのと同一の「事業」という用語を用いて、適用対象となる宅地等の範囲を画しているということになり、課税要件を定める法規が明確性を要し、その解釈に当たっては法的安定性を重視すべきことに照らせば、租税法規において、その解釈の対象となる概念が、他の税法において用いられている場合には、特別の理由のない限り、同一の意義に解釈することが相当であるというべきである。したがって、原則として、本件特例における事業概念は、所得税法上の事業概念と同一の意義のものであると解すべきである。
もっとも、措置法は、各税法についての特例を設けるものであるから、相続税法の特例として設けられた本件特例制定の趣旨、目的等から、その事業概念を所得税法上の事業概念と別異に解すべきものといえるか否かを、なお検討する必要がある。証拠(甲三二号証、乙八ないし一五号証、二五、二六、三三号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件特例の制定及び改正の経緯は、おおむね、以下のようなものであることが認められる。
本件特例の立法化の前段階としての五〇年通達は、地価の高騰に伴う相続税の課税によって農地や小規模の事業用地が細分化されることを妨ぎ、農業や中小企業、中堅サラリーマン等の維持育成を図る必要があるとの見地から、相続後引き続き用に供する中小企業者の事業用財産、標準的な居住用財産は、相続税課税によりその維持に困難を来している現状にかんがみ、土地評価についての改善等の配慮を行うべきであるとの要請に基づき、事業又は居住の用に供されていた宅地のうち、最小限必要な部分については、相続人等の生活基盤維持のために欠くことのできないものであり、その処分には相当の制約を受けるのが通常であるとして、通常の取引価格を基とする評価額に、評価上、所要のしんしやくを加えることとしたものであるが、事業の用に供されていた宅地には、貸し付けていた宅地及び貸し付けていた建物の存する宅地を含めていなかった。
五 八年特例は、五〇年通達による取扱いを立法化したものであるが、立法に当たっては、中小企業の株式評価についての改善合理化を図ることとの関連で、個人が事業の用又は居住の用に供する小規模宅地についても所要の措置を講ずることが適当であり、個人事業者等の事業の用又は居住の用に供する小規模宅地の処分の制約面につき一層配意し、特に事業用土地については、事業が雇用の場であるとともに取引先等と密接に関連している等事業主以外の多くの者の社会的基盤として居住用土地にはない制約を受ける面があること等にかんがみ、従来の通達による取扱いを発展的に吸収して法定することとされ、事業又は居住の主体に被相続人と生計を一にしていた親族を含ませ、賃貸用宅地の除外を廃し、事業と称するに至らない不動産貸付けも準事業としてこれを含ませた上、減額割合を引き上げ、事業の用に供していた宅地等の減額割合を居住の用に供していた宅地等の減額割合より高くした。六 三年改正においては、近時における異常な地下高騰に配慮し、減額割合を引き上げるとともに、本件特例を利用して税負担の回避を図る例もみられることからその見直しを検討すべきとの税制調査会の中問答申の趣旨を踏まえ、特例の対象となる宅地等から準事業の用に供されていた宅地等を除外することとし、この特例を事業の用又は居住の用に供されていた宅地等の特例に純化することとしたものであり、準事業を除外しても、不動産貸付け宅地を有する者は、一般的には別途、居住の用又は事業の用に供されていた宅地等を有するものと考えられ、それについては特例の適用を受けることになるとして、その減額割合を引き上げるとともに、事業と称するに至らない不動産貸付け等の準事業の用に供されていた宅地等については対象から除外された。
四 年改正においては、土地の相続税評価の適正化に伴う相続税等の負担調整の一環として、その減額割合が引き上げられた。
六 年改正においては、居住用資産等は、生活の基盤そのものであってその他の資産と異なった扱いをすることも正当化される、地価高騰の結果、特に都市部において、相続税が相続人の事業の継続や居住の継続を脅かしているとの問題提起に対応するために、特例措置を制度目的にそった仕組みとした上で、減額割合の拡大を検討すべきである、事業の継続と居住の継続を区別する必然性に乏しいことから減額割合は同一にすべきであるとの答申を踏まえ、都市部における事業や居住の継続に一層配慮すると同時に、制度本来の趣旨にそった仕組みとするための見直しが行われたものであり、六三年改正で準事業を除外した結果、一定規模以下の不動産貸付けにつき特例は全く適用されなかったが、残された配偶者が小規模な貸家で生計を立てていく場合の方が、多くの資産を持って大規模に貸付けを行っているものと比べて不利に扱われてしまうというのは必ずしも合理的でないと考えられることから、不動産貸付けについては規模のいかんを問わず同一に取り扱うこととし、ただし、不動産貸付けや駐車場の用に供する土地は、小売業などの通常の事業用宅地と異なり、近隣取引先との密着性、雇用者の通勤の便等といった処分に対する制約の問題は少ないことから、減額割合は五〇パーセントにとどめ、他の特定事業用宅地、特定居住用宅地等については、減額割合を一律とした上、その割合を八〇パーセントに引き上げたものである。
右のような立法の経緯、目的からすれば、本件特例は、個人の生活基盤の保護という側面のみらず、個人事業の承継の保護の側面や事業が雇用の場であり取引先等との密接な関係を有することによる処分面での制約等をも考慮したものといわざるを得ず、その事業概念を所得税法上の事業と別異に解すべき制度趣旨からの要請があるとまでは断定できないものといわざるを得ない。原告は、六三年改正が租税回避事例を除外する趣旨から副業的なものを事業から除外したものである旨主張するようであり、確かに、右のような租税回避事例を除外する方法として生業と副業という分け方をすることも一つの立法政策ではあり得るが、五八年特例において、所得税法における特例と同一の文言により事業を規定していたこと、右改正に伴って実務上の基準としてなされた特例通達が、当時所得税法上建物の貸付けが事業か否かを判定するためになされていた所得税基本通達二六-九と同一のものとされた趣旨等にかんがみても、六三年改正において、その立法担当者が生業か副業かといった個別的事情を考慮して事業概念を使い分けたものと解することはできず、その当否はともかくとして、法の趣旨としては、所得税法上の事業と同一の概念を用いて、租税回避事例の除外を図ろうとしたものと解さざるを得ない。
2 所得税法の事業概念
そこで、所得税法における事業概念について検討するに、所得税法は、一定の事業概念を前提としているものと解されるが、前示のように、所得税法上、事業所得についての定義規定はあるものの、事業によって生ずる所得のすべてを事業所得とはしておらず、事業の種類に応じて事業所得、不動産所得又は山林所得に分類して、事業所得を生じさせるもののみを事業としているわけではないから、所得税法上も、事業の意義自体については、一般的な定義規定を置いていないことになり、その事業概念は、社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである。ところで、所得税法は、所得区分として、事業所得と不動産所得とを区分し、不動産所得については、不動産所得を生ずべき事業と事業以外の業務とを区分し、前者については、事業所得と同様の資産損失(同法五一条一項)、貸倒損失(同条二項)、専従者給与(同法五七条一項、三項)の必要経費算入等を認める取扱いとしているところである。
被告は、右の点をもって、不動産貸付けが不動産所得を生ずる事業といい得るかどうかは、本来、資産性所得である不動産所得において、資産勤労結合性所得である事業所得と同程度の役務提供があるか否かを中心として判断されるべき旨主張するかのようである。しかしながら、所得税法上の事業所得と不動産所得との所得区分は、所得の源泉が主として何に起因するかという観点から設けられたものであり、不動産貸付けにおいて所得を生み出す役務提供の程度が事業所得におけるそれよりも低いものであったとしても、それは、その所得が、事業所得ではなく、不動産所得に区分されるということを意味するものにすぎないのであって、そのことから直ちに、被告主張のごとく、不動産貸付けが事業といえるためには、事業所得を生ずる事業と同程度の役務提供が要求され、不動産貸付け行為の事業性が否定されるものとは解し得ないというべきである。かえって、事業所得を生ずる事業に比して役務提供の程度が低い不動産貸付けにあって、不動産所得を生ずべき事業と事業以外の業務とを区別し、前者について事業所得と同様の必要経費算入等を認める前示の各規定の趣旨に照らせば、不動産貸付けにおける事業と事業以外の業務との判定に当たっては、役務提供の程度の差が必ずしも中心的要素にならないものということができる。
結局、不動産所得を生ずべき事業といえるか否かは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断されるべきものと解さざるを得ない。
また、被告は、不動産貸付けの規模を中心としてその事業性が判断されるべきであるとも主張するかのようであり、特例通達も、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で貸付けを行っているかどうかにより事業性の有無を判定すべきものとしているところである。しかしながら、貸付けの規模は、その貸付けを反復継続して遂行する社会的地位やこれに費やす労力の程度を左右する一つの要素ではあり、その限りで、貸付け規模の大小自体を基準とする本件通達の一応の合理性を肯認することができるというべきであるが、社会通念上事業に当たるか否かは、前記のとおりの諸要素を総合考慮して判断されるべきものであり、専らその規模の大小によってのみ、事業性の判断がされるべきものとは解し得ないというべきである。特例通達がいわゆる五棟一〇室という形式基準を満たすとき等には、その貸付けが事業として行われていたものとする旨規定するのも、課税実務上比較的容易に認定し得る貸付けの規模という要素をもって、一定以上の規模を有することを形式的な基準として、これを満たせば、事業として行われていたものとするという十分条件を定めたものにすぎないというべきであり(そのこと自体は、被告も自認するところである。)、これをもって、専ら貸付け規模の大小をもって、社会通念上の事業といえるか否かを判断しなければならないものというべきではなく、また、五棟一〇室程度の規模に至らない不動産貸付けが直ちに社会通念上事業に当たらないということもできないというべきである。
3 本件貸付けの事業性について
(一) そこで、本件貸付けが社会通念上事業といい得るものか否かについて検討するに、前記争いのない事実に加え、証拠(証人Cの証言、原告本人尋問の結果、甲一一ないし一六号証、一七ないし一九号証の各一ないし三、二〇ないし二三号証、乙一六号証の一ないし六、一七ないし二三号証、二九、三〇号証、三一号証の一及び二)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告の父であるAは、昭和二三年ころから、本件土地上に木造平家建の建物(以下「旧建物」という。)を建てて居住していたが、昭和二七年に本件土地の所有権を取得し、挿花教室を営むなどして生計を立てていた。同人の妻であるBは、主婦として右挿花教室を支えていた。
原告は、Aの一人娘であったが、昭和三六年にCと婚姻した後は、A夫婦と世帯を別にして生活していたところ、昭和五五年ころには、父母も高齢となったため、父母と同居することを考えた。ところが、旧建物は、A夫婦及び原告夫婦が同居するには手狭であり、また、建築後相当期間を経過しており、近隣も高層化が進んでいる状況であったため、旧建物を取り壊してビルを建築し、A夫婦及び原告夫婦の二世帝の住居とするとともに、建築資金を賄うためにも、その一部を賃貸用の事務所とすることとした。
本件ビルの建築資金は、A夫婦及び原告夫婦で協力して捻出することとし、その建築資金の出資額に応じて、A夫婦及びCで本件ビルを区分所有することとした。本件ビルは、五階建のビルであり、その建築資金は約一億一〇五八万円を要したが、四階部分をCが所有するということで、これに相当する資金を支出した。その余の資金については、A及びBが、その賃貸用部分の賃料収入を返済原資とすることとして、銀行から借入をするなどして調達した。
本件ビルの各階の床面積はおよそ一一〇平方メートル前後であり、そのうち、四、五階部分は、A夫婦及び原告夫婦の活住用として使用し、本件建物部分及び三階部分は賃貸用の事務所として使用することとされた。
(2) 本件ビルは、昭和五五年秋ころに完成し、昭和五六年三月七日に、本件ビルのうち、本件建物部分及び五階部分はA名義で、三階部分はB名義で、四階部分はC名義で保存登記がなされた(なお、五階部分は、昭和五八年一一月一日にAからBに贈与された。)。本件ビルは、当初から、その一部を居住用とし、その余を事務所として賃貸することを予定していたため、賃貸を予定していた本件建物部分及び三階部分は、事務所用として設計されており、居住用である四階部分及び五階部分にあるようなバルコニー等もない。
Aらは、本件建物部分及び三階部分の賃貸を行うに当たっては、その契約締結及び更新等の仲介業務を中央建物株式会社に委託した。
本件ビルの二階部分は、昭和五五年一〇月二日にAと農林関係特殊法人健康保険組合との間で賃貸借契約が締結され、右契約はその後更新され、本件相続開始時まで継続されていた。本件ビルの一階部分及び三階部分は、昭和五六年三月三一日ころにA及びBと日本コマース株式会社との間で賃貸借契約が締結され、一階部分については、右契約が更新されて、本件相続開始時まで継続されていた。三階部分については、昭和五八年ころ、右契約が解除され、昭和五八年六月から昭和五九年三月までの間、イーアンドエム株式会社に賃貸され、同年四月二六日には、Bと株式会社エスエス経営管理計算センターとの間で賃貸借契約が締結され、その後右契約が更新されて、本件相続開始時まで継続されていた。
本件建物部分及び三階部分の賃貸料及び共益費等は、銀行振込により、Aらが受領していた。本件建物部分の賃貸による賃貸料、共益費及び更新料を含めた収入は、昭和六二年は約九六六万円余り、昭和六三年は九五〇万円余り、平成元年は八八四万円余りであり、三階部分の賃貸による賃貸料、共益費及び更新料を含めた収入は、昭和六二年は約五二三万円余り、昭和六三年及び平成元年は五〇〇万円余りであった。
Aは、本件ビル建築後もその五階部分で挿花教室を続けていたが、昭和六二年にはこれを終了し、本件相続開始時においては、本件建物部分及び三階部分の賃貸料等の収入以外に、A夫婦の定期的な収入はなかった。なお、昭和六二年の挿花教室によるAの収入は一九六万円余りであった。
本件ビルの建築に当たってのA及びBの銀行からの借入れの返済には、本件建物部分及び三階部分の賃貸料等がその原資に当てられ、右借入れは、昭和六〇年ころまでには返済された。
(3) 本件建物部分及び三階部分の管理は、A夫婦らによって、一体として行われており、一階出入口部分の開閉や出入口部分の美観の維持、本件ビルの共用部分の照明の取り替えや汚損の清掃、配達される新聞類の仕分け作業、一部の賃借人の排出するゴミについての一定期間の詰め替え処理、水道工事の際の水道元栓の開閉、エアコンや排水施設の故障についての対応、宅急便等の搬入、その他賃借人からの苦情処理等を行っていた。また、本件ビルの共用部分の床面の清掃業務は、清掃業者に委託していた。さらに、本件ビルの賃貸に係る収支については、一応別途に管理されていた。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 以上の事実に照らして、本件建物部分及び三階部分の貸付けが社会通念上事業に当たるか否かについて検討するに、A及びBは、右貸付けによる賃貸料等を原資とする返済を予定して銀行から建築資金を借り入れて本件ビルを建築したものであり、右賃貸料等の収入以外に返済の原資となり得るような収入は特になかったこと(自己の危険と計算における企業遂行性)、本件ビルは、A夫婦と原告夫婦の同居等をも目的として、従前からA夫婦が居住していた建物を取り壊して建築されたものであり、専ら相続税負担の軽減の目的で借入金により貸付け用の不動産を購入して相続後にこれを売却するなどといった場合と異なり、当初よりその貸付けを継続することが予定されていたこと(不動産貸付けの目的)、現に、本件ビル建築後本件相続開始時まで、相当期間反復継続して貸付けが行われており、本件相続開始後も貸付けが継続されていること、本件ビルの本件建物部分及び三階部分は、当初より、法人等の事務所として賃貸することが予定され、そのような構造のものとして建築されており、また、法人等の事務所として利用されることから、その貸付けが相当程度継続することが予想されたこと、貸付けのための管理業務のうち、その仲介業務は、不動産業者に委託し、清掃業務の一部を清掃業者に委託しており、その余の業務等についても本件ビルの居住用の部分の管理と重複する部分はあるものの、一定程度の精神的肉体的労力を費やしているとみられること、その貸付け規模は、本件建物部分については二室、三階部分については一室ではあるが、いずれも一〇〇平方メートル近い一フロア全体を一室として貸し付けていること(不動産貸付けの継続性・反復性、不動産貸付けに費やした精神的肉体的労力の程度、人的物的設備等)、Aについては挿花教室をやめた昭和六二年から後、Bについては当初より、本件建物部分及び三階部分の貸付けによる賃貸料等の収入以外には定期的な収入はなく、その賃貸料等による収入は、本件建物部分については年間一〇〇〇万円近く、三階部分については年間五〇〇万円近くに上っていること、本件ビルの賃貸に係る収支は、一応別途管理されていたこと(不動産貸付けの営利性・有償性、取引者の職歴・社会的地位・生活状況)等の諸点を総合して勘案すれば、本件建物部分及び三階部分の貸付けは、社会通念上事業といい得るものと解すべきである。
なお、本件ビルの三階部分は、B名義の不動産であり、その貸付けもB名義で行われていたものであるから、その事業性の判断に当たっては、社会通念上、Aと生計を一にしていた親族であるBを事業主とした事業といい得るかどうかを、本件建物部分の貸付けの事業性とは、別個独立に判断されるべきものであるところ、確かに、その事業規模は、一室の貸付けにすぎないものであるが、前記のように、三階部分の貸付けは、本件建物部分の貸付けと同様の事情の下、同様の形態で行われ、その管理等も一体として行われており、その生活状況等についても、Aと同一生計にあるものであるから、その事業性の判断に当たって考慮すべき諸点については、貸付け規模の点を除いて、本件建物部分の貸付けとほぼ同様とみることができるから、三階部分の貸付けも、社会通念上事業といい得るものと解することができるというべきである。
(三) これに対し、被告は、原告らの本件ビルの貸付けに係る役務提供の程度がいわゆる専業主婦の日常家事の片手間に対処できる程度のものであること、その貸付け規模自体が小さいこと、従業員の雇用や管理施設の設置等の特段の人的、物的設備がないこと等から、社会通念上事業に該当しない旨主張する。しかしながら、事業性の判断が専ら役務提供の程度や貸付けの規模のみを中心として判断されるべきものといえないことは前示のとおりであるし、また、不動産貸付け行為における役務の提供の程度は、製造業や小売業等の事業に比較すれば一般的に低いものであること、本件ビルの貸付けに当たっては、一定の手数料を支払って、その契約締結や更新等の手続及び清掃業務の一部を業者に委託していることからすれば、Aらの行っていた役務提供の程度がいわゆる家族労働的なものであることの一事をもって、これが社会通念上事業に当たらないとはいえないというべきであり、さらに、本件ビルの貸付けは、一棟の建物のごくわずかな面積の一室を間貸ししているようなものではなく、区分所有の対象となるような各階の一フロアをまとめて一室として賃貸しているものであるから、その規模自体をもって、直ちに右貸付けが社会通念上事業に当たらないとはいえないというべきである。また、不動産貸付け行為においては、従業員の雇用や管理人室の設置等がないということが必ずしも稀なことではないが(甲二六号証によれば、五棟一〇室の形式基準を満たすような不動産貸付けにおいても、従業員の雇用や管理施設の設置等が行われていないものが多く存在することがうかがわれるところである。)、そのような不動産貸付け行為をすべて社会通念上事業に当たらないということもできないというべきである。そして、これらの点を総合考慮しても、なお、本件建物部分及び三階部分の貸付けが社会通念上事業に当たらないということはできないというべきである。
4 本件土地の価額について
以上のとおり、本件建物部分及び三階部分の貸付けは、本件特例にいう事業に該当するというべきであるから、本件土地のうち、本件建物部分対応敷地及び三階部分対応敷地は、事業の用に供されていた宅地等として、本件居住用敷地は、居住の用に供されていた宅地等として、本件特例が適用されることになる。
四 年改正前の措置法六九条の三第一項二号によれば、小規模宅地等に係る二〇〇平方メートルまでの部分の一部が事業の用に供されていた宅地等の場合には、その課税価格に算入すべき価額の計算については、事業の用に供されていた宅地等につき六〇パーセントの減額が、居住の用に供されていた宅地等につき四〇パーセントの減額がそれぞれなされることになる(なお、同条二項の適用はない。)。したがって、本件土地の価額は、原告が前記第二の二2(二)(3)で主張するとおりの計算により、三億七八〇三万三〇八九円となり、そのうち原告が相続したのは、本件土地の五〇分の二九の割合による持分であるから、二億一九二五万九一九一円となる。
三 結論
1 以上のとおりの本件土地の価額を前提として、本件相続に係る原告の課税価格及び納付税額を計算すると、別表3に記載のとおりの計算により、その課税価格は二億一五六〇万五〇〇〇円、納付すべき税額は八〇七八万二五〇〇円となる。そうすると、本件更正のうち、右金額を超える部分は、違法であるからこれを取り消すべきこととなる。
そして、右納付すべき税額八〇七八万二五〇〇円から本件修正申告に係る原告の納付すべき税額八〇四九万二九〇〇円を控除した金額二八万九六〇〇円が更正により原告が新たに納付すべき税額となるから、国税通則法六五条一項により、右税額(同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の一〇を乗じた金額である二万八〇〇〇円が右取消し後の本件更正に係る過少申告加算税として賦課されるべき金額となり、本件賦課決定のうち、右金額を超える部分は、違法であるからこれを取り消すべきこととなる。
2 よって、原告の本件請求は、一部理由があるから主文の限度で認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。(裁判官 秋山壽延 竹田光広 森田浩美)
別表2・3(省略)
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