主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
 被告は、原告に対し、金一〇万二八九四円及びこれに対する平成元年七月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、東京貯金事務センター(旧名称東京地方貯金局)に勤務していた原告が、四回にわたる遅刻及び勤務時間中の組合事務室入室による一九分間の欠務により合計五二分間の欠務があったとして一時間分の賃金一四四七円を減額されたのに対し、右各遅刻はいずれも通勤に利用している電車の遅延によるものであるから特別休暇又は年次有給休暇として処理されるべきであったとして、右減額分賃金及びこれと同額の附加金(労働基準法一一四条)の各支払を求めるとともに、右各欠務及びその後の同様の四回の遅刻につき訓告を受けたのに対し、これが違法であるとして慰謝料一〇万円の支払を求め、なお、いずれについても訴状送達の日の翌日である平成元年七月一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 原告が遅刻、欠務をした日時及びその理由の概要は当事者間に争いがなく、右各当日の具体的状況や前後の事情は次のとおりである(とくに証拠を摘示しない事実はいずれも当事者間に争いのない事実である。)。
1 原告は、本件当時、東京貯金事務センター第一業務部第六貯金課第四審査係に所属する一般職国家公務員であり、全逓信労働組合の組合員であった。2 原告の遅刻、欠務とその事情
(一) 平成元年一月一〇日の一二分間の遅刻
 原告は、平成元年一月一〇日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時四二分に出勤し、一二分間欠務した。
 その理由について、原告は、電車が遅刻したためと申告したが、東京貯金事務センター管理課管理係において、同日午前八時五五分、京成線押上駅に問い合わせたところ、「いわゆる着ぶくれラッシュ(京成電鉄では「客扱い」と称していた。以下「客扱い」という。)のため一五分程度遅延」との回答であり、同日午前八時五七分、都営地下鉄線蔵前駅に問い合わせると、「客扱いのため二〇分程度遅延」との回答であった(甲第一号証の二、乙第八号証の一、二、証人aの証言)。
 原告に対する年次有給休暇及び特別休暇の承認権限は、原告の上司であるa第六貯金課長が有していた(乙第五号証、証人a)ところ、原告は、同課長による当日午前九時八分からの事情聴取に対し、「乗り換駅の京成津田沼駅で既に遅れていた。先発の電車がつかえていて動かなかった。自分の責任ではない。」と申し立て、同課長から「前々から言っているように、もう少し早く家を出るようにしたらどうか。」と言われても、「今日の場合は一台や二台早く乗ってもだめだ。事情が違う。」と言った。同課長が、その電車遅延は「客扱い遅延」であり、また、事情聴取の結果やむを得ない理由が特段認められないとして、「客扱いによる遅延であるから、特別休暇は認められない。一二分間の欠務処理をする。これは処分の対象になる。今後は遅刻をしないように。」と通告したところ、原告は、「特別休暇が認められないのなら年休の請求をする。」と申し立て、事情聴取後、年次有給休暇請求書をb係長経由で提出したが、同課長は、年休の事後承認をする余地はないとして受理しなかった(甲第一号証の一、乙第七号証、証人aの証言、原告本人)。(二) 同月一二日の一〇分間の遅刻
 原告は、平成元年一月一二日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時四〇分に出勤し、一〇分間欠務した。
 原告は、特別休暇承認申請書(甲第二号証の一)をb係長経由で提出し(原告本人)、遅刻の理由について、電車が遅延したためと申告した。しかし、前同様にして、同日午前八時四五分、押上駅に問い合わせると、「着ぶくれのため、一〇分程度遅延」との回答であり、同日午前八時五七分、浅草駅に問い合わせると、「着ぶくれのため一五分程度遅延」との回答であった(乙第一〇号証の一、二、証人aの証言)。
 a課長が当日午前八時五〇分から原告に事情聴取すると、原告は、「電車が動かないものはしかたがない。」と申し立てた。同課長が、その電車遅延は「着ぶくれによる客扱い遅延」であり、また、事情聴取の結果やむを得ない理由が特段認められないとして「着ぶくれによる遅延であるから、特別休暇は認められない。一〇分間の欠務処理をする。これは処分の対象になる。今後は定刻までに出勤するように。」と通告したところ、原告は「出るところへ出て争う。規則どおり処分すればよい。」と申し立てた(乙第九号証、証人aの証言)。
 右事情聴取後、原告は、年次有給休暇請求書(甲第二号証の二)をb係長経由で提出したが、同課長は年休の事後承認をする余地はないとして、これを受理しなかった。
(三) 同月二三日の七分間の遅刻
 原告は、同月二三日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時三七分に出勤し、七分間欠務した。
 原告は、特別休暇承認申請書(甲第三号証の一)をb係長経由で提出し(原告本人)、遅刻の理由について、ストライキによる電車遅延のためと申告した。しかし、前同様にして、同日午前八時四〇分、蔵前駅に問い合わせたところ、「ストは午前七時に解除となり、午前七時以降は三分間隔で運行しています。一〇分程度の遅れについては着ぶくれによるものです。」との回答であり、同日午前八時四五分、押上駅助役に問い合わせると、「ストは午前七時に解除となり、午前七時以降は三分間隔で運行しています。なお、午前七時五二分押上止まりの京成電車については、都営乗り換えの際、スト影響がありましたが、それ以降は着ぶくれによる遅れです。」との回答であった(乙第一四号証の一、二、証人aの証言)。
 a課長が当日午前九時一八分から原告に事情聴取すると、原告は、「青砥駅までは遅れていなかった。青砥駅から押上駅の間が先発電車がつかえていた。」と申し立て、同課長が、「調査したところ、都営地下鉄の時限ストの影響は押上駅七時五二分までで、それ以降は着ぶくれによる遅延であるということである。」旨告げると、「着ぶくれというが、現実にのろのろ運転でしょうがない。」と言った。同課長が、「着ぶくれによる客扱い遅延」であり、また、事情聴取の結果やむを得ない理由が特段認められないとして、「着ぶくれによる遅延であるから、特別休暇は認められない。七分間の欠務処理をする。これは処分の対象になる。今後は始業時刻に間に合うように出勤しなさい。」と言ったところ、原告は、「押上駅の遅延証明書を持ってくる。事実の証明を持ってきたらどうするのか。後で争う。」と申し立て、その後、年次有給休暇請求書(甲第三号証の二)をb係長経由で提出したが、同課長は、年休の事後承認をする余地はないとして受理しなかった(乙一三号証、証人aの証言)。
 なお、後に、原告は、押上駅の駅員に「都の時限ストライキの為、ダイヤに影響が多少でたようです。約一〇分~一二、三分の遅れがありました。」との記載をしてもらったメモ(甲第三号証の三)を持参したが、a課長は、管理課管理係で検討後、これを原告に返却した(証人a、原告本人)。
(四) 同月二六日の四分間の遅刻
 原告は、同月二六日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時三四分に出勤し、四分間欠務した。
 原告は、特別休暇承認申請書(甲第四号証の一)をb係長経由で提出し(原告本人)、遅刻の理由について、電車が遅延したためと申告した。しかし、前同様にして、同日午前八時三四分、押上駅に問い合わせたところ、「ラッシュ及び着ぶくれによる七分程度の遅延であり、事故はなかった。」との回答であり、同日午前八時四九分、本所吾妻橋駅に問い合わせると、「ラッシュのため一〇分ないし一五分程度遅延。事故はなかった。本所吾妻橋での信号待ちはラッシュのための時間調整のためであると思われる。」との回答であった(乙第十六号証の一、二、証人aの証言)。
 a課長が当日午前九時四分から原告に事情聴取すると、原告は、「家を出たのはいつもと同じ。全部で一〇分遅れた。」などと申し立てた。同課長は、その遅延は「客扱い遅延」であり、また、事情聴取の結果やむを得ない理由が特段認められないとして、「着ぶくれの遅れである。四分間の欠務処理をする。これは処分の対象になる。先日も言ったように、もう一本早い電車で来たらどうか。」と言ったが、原告は、「言っているではないか。早くやんなさい。今日すぐ年休を出す。」と申し立てた。原告は、事情聴取後、年次有給休暇請求書(甲第四号証の二)を提出したが、同課長は年休の事後承認をする余地はないとして受理しなかった(乙第一五号証、証人aの証言)。
(五) 同年四月一三日の四分間の遅刻
 原告は、同年四月一三日、午前八時三〇分始業のところ午前八時三四分に出勤し、四分間欠務した。
 原告の申告した理由は電車の遅延であったが、前同様にして、午前八時三五分、押上駅に問い合わせると、「客扱いにより五分ないし六分程度遅延」との回答であり、同日午前八時四〇分、蔵前駅に問い合わせると、「客扱いのため七分程度遅延」との回答であった(乙第一八号証の一、二、証人aの証言)。
 a課長が当日午前八時四六分から事情聴取すると、原告は、「俺の時計だと四分一六秒が正確だ。二、三、四月と三か月ぶりだ。」などと申し立て、同課長が「新学期が始まり学生も出ているし、電車が遅れることは分かっているはずだ。」と言ったのに対して、「五、六分の遅れは間に合う。近ければよいが、一時間二〇分かかるので、あらかじめ一〇分以上遅れると予想しては出てこない。」と答えた。同課長が、客扱い遅延であり、また、事情聴取の結果やむを得ない理由が特段認められないとして、「今日の四分欠務処理をする。今後遅刻をしないように。いいですね。」と言うと、原告は、「よくない。年休を出す。請求権はないの。」と申し立てた。なお、その際、a課長は、原告に対し、「これは処分の対象になる。」と告知した(乙第一七号証、証人aの証言)。
 事情聴取後、原告が年次有給休暇請求書を提出したが、同課長は年休の事後承認をする余地はないとして受理しなかった。
(六) 同月一四日の三分間の遅刻
 原告は、同月一四日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時三三分に出勤し、三分間欠務した。
 原告の申告した理由は電車の遅延であったが、前同様にして、同日午前八時五二分、押上駅に問い合わせると、「ラッシュのため九分程度遅延」との回答であった(乙第二〇号証、証人aの証言)。
 a課長は、当日午前一一時五三分ころからの事情聴取で、原告に対し、「管理課で調査したところ『客扱い』による遅延であり、特別休暇は認められない。したがって、三分間の欠務処理をする。これは処分の対象となるので通告する。通勤経路については変更出来ないのか。」と言ったが、原告は、「遅刻時間は二分四八秒だ。退庁時の予鈴は一〇秒前に鳴るのに本鈴が鳴らないと帰ってはいけないと言っている。同じ勤務時間で遅刻は分単位で、退庁は秒単位となぜ違うのか。今日から予鈴で帰るから一分間の欠務処理をするのか。」などと申し立てた(乙第一九号証、証人aの証言、原告本人)。
 事情聴取後、原告が年次有給休暇請求書を提出したが、同課長は、年休の事後承認をする余地はないとして、これを受理しなかった。
 なお、同月一九日午後三時三〇分ころ、c管理係長が、「君は遅れてくる日が多いが、奥さんは遅れてこない。奥さんが通勤しているJRの方が時間が正確なので、通勤経路を変更したらどうか。遅れないで済むと思う。」と通勤経路の変更を勧めたが、原告は、「初めは妻と同じJRで通勤していたが、いろいろやっている関係で京成を利用することが多いので京成にした。通勤経路を変更する考えはない。」と言って、右勧めを断った。なお、同係長が、同月二四日、右の経過を乙第二一号証に記載して原告に署名押印を求めたところ、原告は、「関係ない。」と言ってこれを拒否した(乙第二一号証、証人aの証言、原告本人)。
(七) 同月二〇日の四分間の遅刻
 原告は、同月二〇日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時三四分に出勤し、四分間欠務した。
 原告の申告した理由は電車の遅延であったが、前同様にして、同日午前八時四五分、押上駅に問い合わせると、「ラッシュのため五分程度遅延」との回答であり、同日午前八時五〇分、蔵前駅に問い合わせると、「ラッシュのため七分程度遅延」との回答であった(乙第二三号証の一、二、証人aの証言)。
 a課長が当日午前九時一一分から原告に事情聴取し、「事故はなく混雑による多少の遅れなので、特別休暇は認められない。したがって、四分間の欠務処理をする。これは処分の対象になるので通告する。」と告げると、原告は、「早く処分すればいいのだ。」なとど申し立て、同課長が「もう少し早く家を出たらどうか。」と指導しても、「これから争うのに、変える考えはない。」と言って応じなかった(乙第二二号証、証人aの証言)。
 事情聴取後、原告が年次有給休暇請求書を提出したが、同課長は、年休の事後承認をする余地はないとして、これを受理しなかった。
(八) 同月二四日の六分間の遅刻
 原告は、同月二四日、午前八時三〇分始業時刻のところ、午前八時三六分に出勤し、六分時欠務した。
 その理由について、原告は、電車が遅延したためと申告したが、同日午前八時五〇分の前同様の問い合わせによると、「客扱いにより五分ないし六分程度遅延」との回答であった(乙第二五号証、証人aの証言)。
 a課長が当日午前九時四六分から原告に事情聴取したが、原告は、「京成津田沼駅で多少の遅れがあった。」というだけであったため、同課長が、特段の事情は認められないとして、「事故はなく客扱いによる遅延であるから、特別休暇は認められない。したがって、六分間の欠務処理をする。これは処分の対象になるので通告する。」と告げると、「早く処分すればいい。楽しみにしている。」と言った(乙第二四号証、証人aの証言)。
 事情聴取後、原告が年次有給休暇請求書を提出したが、同課長は、年休の事後承認をする余地はないとして、これを受理しなかった。
(九) 同年一月一二日の組合事務室に立入ったことによる一九分間欠務 原告は、同日、六階にある職場から業務の必要上、地下倉庫に行く途中、一階にある組合事務室に立ち寄り、同日午後四時五分ころから午後四時二四分ころまでの間、ビラを印刷するなどして、右事務室内にとどまり、この間、同事務室前の総務部会計課所属のd係長により、一九分間の欠務を現認された(乙第一一号証、証人e、証人f、原告本人、弁論の全趣旨)。
 その後、a課長が原告に対し、「午後四時五分ころから午後四時二五分ころまでどこに行っていたのか。」と尋ねたところ、原告は、一旦は「倉庫に行っていた。」と述べたが、同課長から「組合事務室に入っていたのが現認されている。」と指摘されると、「組合事務室にちょっと寄って倉庫へ行った。」と言った。同課長が、「一九分間の欠務処理をする。これは処分の対象になる。」旨通告すると、原告は、「誰が現認したのか。後で争う。」と言った(乙第一二号証、証人aの証言、原告本人)。
3 欠務に対する賃金減額と訓告
(一) 賃金減額
 東京貯金事務センター所長は、原告が、右2(一)ないし(四)及び(九)で平成元年一月中に合計五二分間の欠務をしたとして、国家公務員法九八条一項、一〇一条一項、郵政事業職員給与準則(昭和二九年六月公達第四三号)、昭和四四年三月一五日郵人給第七二号の一〇「俸給等の支給について」(乙第三号証)、昭和三九年六月二五日郵給第三三九号「勤務一時間当たりの給与額の取扱いについて」(乙第四号証)に基づき、一時間分(別紙の算式により一四四七円)の賃金減額をし、これを平成元年二月一七日の俸給支給日に俸給から減額した。
 なお、「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程の運用について」(昭和三三年五月郵給第一七〇号依命通達)五五条及び郵政省と原告所属の全逓信労働組合との間の「特別休暇等に関する協約」には、特別休暇は有給とする旨定められている(乙第四一号証、弁論の全趣旨)。
(二) 訓告
 東京貯金事務センター所長は、原告が上司による再三の注意、指導にもかかわらず右2(一)ないし(八)のとおり八回にわたって遅刻による欠務を繰り返し、また、右2(九)のとおり勤務時間中にみだりに一九分間欠務したことを理由として、郵政部内職員訓告規定(昭和二五年七月二五日公達第八三号〔乙第三九号証〕)に基づき、同年五月二五日付けで、原告を訓告に付した。
4 東京貯金事務センターにおける「突発欠務に対する具体的取組み方法について」による服務規律是正策実施に至る経緯
(一) 昭和六二年二月、各貯金事務センターでは週休二日制に移行する前提として「四週七休試行時短」と呼ばれた勤務時間短縮方策が実施された。これに先立って、勤務時間、服務関係における問題点の是正が図られることになっていたが、同年七月東京貯金事務センターに着任したe総務部長は、同センターの職場規律に関する役職者の意識統一を図るとともに、積極的に規律改善に取り組んだ。その中で、事前の申し出がないか又は勤務日当日になってから申し出られる欠務、いわゆる「突発欠務」については、欠務当日の業務に対する直接的な影響の点ばかりでなく、こうした突発欠務が繰り返されることにより、他の職員に対して心理的な影響が及び、ひいては職場秩序が乱れ、全体の士気が低下し、勤労意欲の減退、作業能率の低下がもたらされることになるという観点から、その是正を緊急の課題とすることになった。その是正を図るに当たっては、まず、その現状を把握するため、昭和六二年一〇月(第一回調査)と昭和六三年二月(第二回調査)に実態調査が行われた。第一回調査は、昭和六二年四月から一〇月までの七か月間につき突発欠務一二回以上の者を対象に、第二回調査は、同年一一月から昭和六三年二月までの四か月間につき突発欠務六回以上の者を対象に実施されたが、この調査によると、約一四五〇名の職員中、七、八パーセントの者が突発欠務をしており、その理由のうち、とくに問題とされたのが「寝過ごし」、「忘れ物」、「交通機関の遅延」による短時間の欠務であり、これらの理由は責任感、自覚の欠如によるものと考えられる一方、職員の努力で解消でき、またすべきものであると考えられた。とくに原告にはこうした問題のある突発欠務が多かった(証人e、証人a)。
(二) 昭和六三年四月、突発欠務による年次有給休暇や特別休暇等の請求のうち「本人過怠による社会通念上にそぐわない理由『寝過ごし』『忘れ物』等及び電車等の遅延による短時分欠務」を主な改善の目的として指摘した「突発欠務に対する具体的取組み方法について」(乙第六号証。甲第五号証は同一のものに書込みをしたもの。)が事前に関係労働組合にも提示され、その見解を聴取した上、同年五月六日公表された。その中には、「短時分の交通関係の遅延については、一般的に同一路線に大量に遅延者が発生する場合を除き、一部職員で出勤時間が常時始業ギリギリのため交通機関が短時分遅延しても始業時刻に間に合わないケースがある。私鉄の駅では乗客の乗降、降雨時、着ぶくれ等二~三分の遅延は常時発生するので、利用者側では、こうした実態を念頭において多少早めに出勤する等協力してもらいたいと言っており、それらの状況を勘案して出勤すべきである。今後の取扱いについては、職員に対し事前に十分理解を深めておき、実施日以降は遅刻者に対し事情聴取を行い、欠務処理を行う。」との記載があり、事前の申し出のない欠務についてはその事由を聴取し、着ぶくれによる電車遅延等に対しては特別休暇や年次有給休暇の対象としないことが、関係労働組合に説明された。右の運用は同年五月一六日から実施されたが、これに先立ち、同年四月一九日、東京貯金事務センター管理職員全員に対し、前記の実態調査の結果を踏まえた右運用方針が示され、同年五月六日、前記「突発欠務に対する具体的取組み方法について」が主査以上の役席者に配布され、同月九日から同月一四日までを職員周知期間として、業務打ち合わせ会、業務研究会、ミーティング等を通じて、原告を含めて職員に対する周知徹底が図られた(乙第六号証、証人e、証人a、証人g、原告本人)。
二 争点
 本件の中心的争点は、減給の適法性、訓告の違法性であり、具体的には、右一2(一)ないし(八)の遅刻を特別休暇又は年次有給休暇として取り扱わず、同(九)を欠務としたことが適法か違法かである。
 右について、当事者双方は次のとおり主張する。
1 特別休暇として取り扱わなかった点について
(一) 原告の主張
(1) 電車の遅延を原因とする遅刻は特別休暇事由に当たる。一般人は電車の運行予定表(ダイヤ)を信頼している。ダイヤに反する運行は、ある種の「事故」と観念される。ダイヤを信頼したための原告の遅刻は平成元年一月から四月までの間に八回であるから、電車の遅延の確率は一〇分の一にすぎない。一割のリスクのために、残りの九割の私的時間を犠牲にしなければ怠慢とされるのは常識に反する。本件のように通勤行為開始後の交通機関の遅延に対しては本件以前には特別休暇として認められていた。
(2) 職員が一定の限定された特別休暇事由に該当した場合特別休暇を取得することは権利であり、これを付与するかどうかにつき所属長の裁量権はない。(3) 原告は、特別休暇の申請書を提出したから、手続的要件をみたしていないとはいえない。
(二) 被告の主張
(1) 通常利用している交通機関に事故があったとしても、代替輸送機関を利用しての出勤が可能であれば「出勤不可能」とはいえず、本件の各遅刻は特別休暇事由に当たらない。
(2) 特別休暇として承認するかどうかは、所属長の裁量によるものである。
 本件では、一見本人の責に帰せしめることが酷なようにみえるかもしれないが、原告は、平素から客扱いによる交通機関の恒常的遅れがあることを認識しながら、これを回避する努力を自己の意思であえて怠った結果勤務を欠いたのであるから、特別休暇を与えなければならないとはいえない。
(3) 原告は、特別休暇の申請書を提出していないから、手続的要件をみたしていない。
2 年次有給休暇として取り扱わなかった点について
(一) 原告の主張
(1) 就業規則八六条二項は、一定の場合につき年次有給休暇を事後に請求することを権利として認めたものである。
(2) 被告は、事後の請求という点を強調するが、原告は、到着後直ちに年次有給休暇の請求をしており、数分間の遅刻のために一時間の年次有給休暇を犠牲にすると申し出たもので、まったくの事後請求ではなく、大部分は事前の請求である。(3) 原告の担当業務は分単位の遅刻が影響するようなものではなく、年次有給休暇を認めても業務に支障はなかった。
(二) 被告の主張
(1) 年次有給休暇は、事前に時季変更権行使を検討し得る程度の時間的余裕をもって請求(時季指定)しなければならないのであって、その事後請求という概念はそもそも成立しない。急病その他の緊急の事態のため予め時季指定をすることができずに欠務した場合に、事後に請求されれば年次有給休暇に振り替える処理が実際上行われているが、それは労働者の権利ではなく、使用者の同意がある限りは法によって排斥されていないにすぎない。
 郵政省就業規則八六条二項は、「病気、災害その他やむを得ない事由によってあらかじめ休暇を請求することが困難であったことを所属長が認めたときは、職員は、その勤務しなかった日から、週休日及び祝日を除き、遅くとも三月以内に、その事由を付して請求書を提出することができる。」(「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」及び「年次有給休暇に関する協約」付属覚書も同旨)と定めているが、所属長が本人からの事情聴取等に基づき、あらかじめ休暇を請求できなかった理由が「やむを得ない事由」には該らないと判断したのであるから、年休扱いしないことは当然である。
(2) 東京貯金センターにおいては、着ぶくれによる電車遅延等を含む遅刻等が多かったため服務規律是正の必要上、安易な特別休暇又は年次有給休暇の事後付与をしないことにし、昭和六三年四月一九日から啓蒙活動を始め、同年五月六日には前記文書を配付し、同月九日から同月一四日までを周知期間とした上で、同月一六日にこの運用を開始したものであるが、原告は運用是正の翌日である同日一七日から遅刻しているものであり、およそ業務に対する真摯な姿勢を欠いていた。3 組合事務室に立寄ったことによる一九分間の欠務について
(一) 原告の主張
 原告は、当日、通常業務を全て終えた後、所属課の計画係の者からの調査依頼を受けて地下の倉庫に調べものに行く途中、業務に影響のない範囲内で一階の組合事務室に立ち入ったにすぎない。e総務部長は、原告の職務の内容すら分からないまま、原告に気づかれないように追跡し、密かに原告の行動の情報を収集したもので、これは正義に反することであるから、右欠務を訓告の対象とすることは違法である。
(二) 被告の主張
 原告は、過去にも勤務時間中の無断離席につき幾度か注意指導を受けていたにもかかわらず、全く反省することなく、勤務時間中に組合事務室に入室していたものであるから、これを訓告の対象とすることには何らの違法もない。
第三 当裁判所の判断
一 原告の各遅刻を特別休暇として取り扱わなかった点について
1 郵政省における特別休暇制度については、「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」(昭和二九年六月法律第一四一号)六条に基づく郵政大臣の訓令「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」(昭和三三年五月二四日公達第四九号〔乙第一号証〕)の第六章第一節及び第三節に規定があり、そのうち、本件に関係のある特別休暇付与の基準を摘記すると次のとおりである。
 すなわち、同規程四八条一号は「伝染病予防法による交通の遮断又は隔離の場合」を、同条二号は「風水震火災その他非常災害による交通遮断」を、同条四号は「その他交通機関の事故等の原因により出勤不可能な場合」を特別休暇事由と定めている。
 そして、同五〇条一項によると、職員が特別休暇の承認を受けようとするときは、原則として予め、所定の休暇承認申請書を所属長に提出し、その承認を受けなければならないものとされ、同条二項によると、予め所属長の承認を受けることができなかったときは、一定期間内に予め申請し得なかった事由を付記して同休暇承認申請書を所属長に提出し、その承認を受けなければならないものとされている。
 なお、右規程による休暇の取り扱いに関する運用に関する東京郵政局人事部長の通達(局要一第二八五七号〔乙第三二号証〕)は、右規程の四八条四号に関し、「『交通機関の事故等の原因により出勤不可能な場合』とは、事実上『出勤不可能』かどうかに重点を置いて判断するとともに、通常利用している交通機関以外の交通機関を利用して、又は自転車あるいは徒歩等により出勤できることが社会通念上考えられる場合は、特別休暇は認められない。」としており、特別休暇承認の可否の検討に際しては、「交通機関の事故あるいはストライキの態様、うかいに要する時間、距離、当日の天候、職員の健康状態、勤務の始業時刻、同一方面からの通勤者の状況及び本人の出勤努力の度合等」を総合的に検討すべきものとしており(同通達記1の(3)のエの(イ))、なお、自家用自動車による通勤に関して「通常予見できる交通渋滞が原因である場合等は認められない」としている(同通達記1の(3)のエの(ウ))。
 また、労働基準法八九条を受けて制定された就業規則(昭和三六年二月二〇日公達第一六号〔乙第二号証〕)九一条一項及び九三条二項、郵政省と原告所属の全逓信労働組合との間の「特別休暇等に関する協約」(乙第四一号証)一条及び三条にも右と同旨の規定がある。
2 右のような関係規定に照らすと、特別休暇は、右付与基準に該当する場合に初めて付与されるもので、職員の申請があれば当然に付与されるものではないことは当然であり、特別休暇制度は、不可抗力の事故等職員本人の責に帰しがたい事由により職員に勤務に就くことを強制するのが不合理と認められる場合に当該職員を就労義務から解放することを認める趣旨のものと解するのが相当である。このような制度趣旨に基づいて考えると、前記「郵政事業職員勤務時間、休憩休日および休暇規程」四八条三号にいうところの「その他交通機関の事故等の原因により出勤不可能な場合」というのは、同条一号の「伝染病予防法による交通の遮断又は隔離の場合」や同条二号の「風水震火災その他非常災害による交通遮断」に準ずる場合を指すものというべく、たとえば人身事故、停電、信号機の故障等、一般人にとって予測することが客観的に不可能な事故等によって突発的に生ずる交通機関の運休や遅延のために出勤不可能な場合を指すものと解される。したがってまた、たとえばストライキのような場合には、一般的にいえば、当該ストライキがいつ収束し、いつ正常なダイヤに戻るかを一般に予測しがたいときは、いつ自宅を出たら始業時刻に間に合うかを予め判断することができないであろうし、正常ダイヤに復するまでに要する時間を余りに多く見込んで自宅を出なければならないとすることは過酷を強いることになるから、当該条項の「出勤不可能な場合」に該当するものと解する余地があるが、現今のマスコミ等の情報提供の状況に照らすと、予め一定の予測を立てることが可能で、かつ、その予測に従ってある程度早く出勤することが社会通念上も酷であるとはいえない場合には、当日ストライキがあったからといって当然に特別休暇事由に該るとはいえないものと解される。
3 原告の本件各遅刻の状況は前記のとおりであるが、これに付随する事情として、さらに次の事実が認められる。
(一) 原告が本件当時利用していた通勤経路は、自宅から徒歩又はバスで京成稲毛駅に行き、同駅で京成千葉線に乗車し、京成津田沼駅で京成本線の通勤特急に乗り換え、都営地下鉄線蔵前駅に直通で到達し、東京貯金事務センターまで徒歩三ないし四分で到着するというものであった。そして、原告が日頃乗車していた電車は、京成稲毛駅午前七時二六分発予定の京成千葉線であり、運行予定表上の標準時刻でいえば、京成津田沼駅午前七時四二分発予定の通勤特急に乗り換えれば、蔵前駅に午前八時二〇分に到着する予定とされていた。これに対し、同じ通勤経路であっても、京成稲毛駅に若干早く着けば、同駅午前七時八分発又は午前七時一七分発予定のいずれかの電車に乗車することができ、これらの電車は、運行予定表上の標準時刻では、それぞれ順次、京成津田沼駅で午前七時二三分発、午前七時三二分発予定の各通勤特急に乗り換えることが可能であり、これらの通勤特急は、順次、蔵前駅に午前八時、午前八時一〇分に到着する予定とされていた。なお、原告が日頃乗車する京成稲毛駅午前七時二六分発予定の電車より後発の電車は、同駅午前七時三六分発予定のものであるが、これに乗車したのでは、運行予定表どおりに運行しても蔵前駅に午前八時三〇分に到着することになり、前記始業時刻には間に合わない(乙第三〇号証の一、二、原告本人)。
 原告は、昭和六〇年ころから京成線を利用する右通勤経路を選択していたが、同線は、通勤時間帯の混雑が激しく、とくに朝の通勤時間帯には、混雑のため予定時間内には乗客が各駅での乗降を終えず発車が遅延し、後続電車にも影響が及ぶことがまれでなく、このようないわゆる客扱いによる遅延に、都営地下鉄線及び京浜急行線との三社相互乗り入れの影響も加わって、必ずしも運行予定表どおりに運行することができず、運行予定上の到着時刻より遅れることが多い状況にあった。こうした同線の朝の通勤時間帯の混雑は、毎年一一月から翌年一月にかけてのいわゆる着ぶくれによって一層激しくなり、また、四月には、この時間帯の電車の乗降に慣れない新入社員、新入生等が加わって電車の遅延がとくに多い実状にあった(乙第三七号証、証人a、証人h、原告本人)。
 なお、平成四年四月、日祭日及び土曜日を除く二〇日間にわたって毎日、被告職員が蔵前駅に臨み電車が現実に同駅に到着する時刻を調査したところによると、原告が利用していた京成津田沼駅発午前七時四一分発(本件当時は午前七時四二分発)の通勤特急が運行予定どおりの午前八時二〇分(到着予定時刻は本件当時と変更がない。)に同駅に到着したのは、右二〇日間のうちわずか一日(同月三日)だけで、その余は、一分ないし一五分、平均でも四分程度遅延して同駅に到着しており、新学期の始まる同月九日ころ以降は、予定時刻に到着した電車は全くなかったのであって、遅延が常態といえる状況にあった(乙第三四号証、第三五号証の一ないし二〇、第三六号証の一ないし二一、第三七号証)。
(二) 原告は、電車が六、七分遅延しても、蔵前駅から東京貯金事務センターまで走れば始業時刻に間に合うと供述し、あたかもそれなりの余裕をもった常識的な考えで通勤していたかのごとく述べる。しかし、第二の一(五)の遅刻は約七分の、同(七)の遅刻は約七分の、同(八)の遅刻は五、六分の、各電車遅延によるものであり、原告の通勤方法は、原告が供述するような余裕のあるものとはいい難い。なお、原告が利用していた京成稲毛駅午前七時二六分発予定の電車は、あくまでも運行予定表の上でのみ始業時刻に間に合う最終の電車であったことは前記のとおりである。
(三) ところで、原告の右通勤経路についての代替手段としては、原告の利用している京成稲毛駅に間近いJR稲毛駅から総武線によってJR浅草橋駅に至る方法がある。そして、この通勤経路によると、所要時間も短く、かつ正確であった。原告の妻は、原告と同居しており、かつ、原告と同じ東京貯金事務センターに勤務していたが、この経路によって通勤していたところ、自宅を出るのは原告より原則として後であるにもかかわらず、前記突発欠務是正の取組み以後遅刻をしたことがなかった。原告はかつてこの通勤経路を使用していたが、その後、業務とは無関係の自己の都合で、京成線利用の通勤経路に変更したものであり、妻と同様の通勤方法をとることは当然可能であった(原告本人、弁論の全趣旨)。
(四) 原告は、右のように日常遅延のおそれのある通勤方法を、そのおそれのほとんどない妻の利用している経路に変更することを勧められたのに、これを変更せず、かつまた、自宅を出る時刻を少し早めるということもしなかった(乙第二一、第二八号証、証人a、原告本人)。
(五) また、都営地下鉄線の時限ストライキがあった平成元年一月二三日(前記第二の一2(三))については、前日、東京貯金事務センターの職員らにも特に念を押して周知され、原告自身も、これを知っており、かつ、当日の電車の運行に影響があるかもしれないと思っていた(証人e、同a、原告本人)。
 そして、京成蔵前駅、押上駅に対する照会の結果によると、右ストライキは、前記のとおり午前七時には解除となっており、原告が乗車したという京成津田沼駅発午前七時四二分予定の電車の遅延は通常と同様の客扱いによるものだというのであり、右照会結果が事実と異なる証拠はない。原告は、平成元年一月二三日の遅刻について、後に「都の時限ストライキの為、ダイヤに影響が多少でたようです。約一〇分~一二、三分の遅れがありました。」と記載されたメモ(甲第三号証の三)を提出したが、このメモが責任ある立場の者によって作成された正規の遅延証明書でないことはいうまでもなく、その記載内容も、いかなる時刻のどの電車のことか特定もない曖昧なものにとどまり、これによって原告の乗車した電車の遅延にストライキの影響があったことを認めるに足りず、他にもこれを認めるに足りる証拠はない。
 しかるに、原告は、当日通常より早めに自宅を出るなどの何らの対策もとらず、漫然日頃と同じ京成津田沼駅午前七時四二分発予定の通勤特急に乗車して通勤し、遅刻したのである(原告本人)。
(六) なお、全逓東京貯金支部は、一般に年に数回程度遅刻することはあり得ることであるから、休暇扱いを一切認めないとすることには反対であるとして、当局側に対して常識的な対応を求めるという姿勢を示していたが、原告のこれらの遅刻に関する減給、訓告については、理由なき電車遅刻による遅刻の回数が多く、何回遅れてもかまわないという考え方は一般的に通用せず、常識的とはいえないという立場をとり、異議を唱えることがなかった(乙第三一号証の一、二、弁論の全趣旨)。
 以上の事実が認められる。
4 これらの事情を総合勘案すると、電車遅延を理由とする原告の本件各遅刻は、自らの努力又は選択により容易に回避し得るのに、その努力を怠り、又は、あえて自己の個人的都合を優先させて通勤手段を選択していたことの結果にすぎず、特別休暇事由があるということはできない。原告は、遅刻の理由が通勤電車の遅延であるという一事で特別休暇事由に該るかのように主張するが、原告が利用していた京成線の運行の実状が前記認定のとおりである以上、少なくとも原告の選択した通勤手段に関する限り、遅刻は恒常的であったといえる。原告は、右主張の前提として、電車の運行予定表の信頼性を強調するが、初めて当該電車に乗車する者であればともかく、原告は、日頃これを通勤手段として利用していたのであるから、前示の程度の遅延は当然に予測した上で通勤方法を選択すべきであったということができ、電車が運行予定表との関係で遅延したといっても、これを「事故」と観念することは到底困難である。
 なお、都営地下鉄の時限ストライキがあった平成元年一月二三日については、前記の照会結果によると、右ストライキは午前七時には収束し、原告の乗車した電車の遅延は平常と同様の客扱いによるものだというのであり、右照会結果が事実と異なるといえる証拠のないことは前記のとおりである。仮に、原告が乗車した電車の運行にストライキの影響が多少残っていたとしても、出勤前にストライキの推移に関する一定の情報を得ることが容易に可能であったのに、原告がこれに留意した形跡はなく、むしろ、当日のダイヤに影響があることを予測して通常より早めに自宅を出るなどの何らの対策もとらず、漫然日頃と同じ京成津田沼駅発午前七時四二分の通勤特急に乗車して通勤し、遅刻したというのであるから、特別休暇事由に該らないことは明らかである。
二 原告の各遅刻を年次有給休暇として取り扱わなかった点について1 労働基準法に定める年次有給休暇の制度は、労働者において同法三九条一項ないし三項に基づく具体的な時季指定をすることによって、当該労働者の当該日についての労働義務を法律上当然に免れさせるものであるが、他面、使用者に時季変更権が認められていることに照らすと、右時季指定は、使用者において事前に時季変更の要否を検討し当該労働者にその告知をするに足りる相当の時間を置いてなされなければならないと解される。したがって、年次有給休暇の事後請求という概念は本来成立たない性質のものである。もっとも、労働者が急病その他の緊急の事態のため予め時季指定をすることができずに欠務した場合、使用者において、当該労働者の求めに応じて、欠勤と扱わず、年次有給休暇と振り替える処理が実際上行われることがある。この場合の年次有給休暇の扱いを求める申し出が年次有給休暇の事後請求と呼ばれることがあるが、右申し出に応じた処理をするか否かは、使用者の裁量に委ねられているものというべきであり、この申し出によって当然に休暇取得の法的効力を生ずるものと解すべき法的根拠はない。したがって、年次有給休暇のいわゆる事後請求が認められなかったからといって、一般には、使用者の処理が違法なものとなることはなく、ただ、当該申し出の事情を勘案すれば年次有給休暇として処理することが当然に妥当であると認められるのに、使用者がもっぱら他の事情に基づいてその処理を拒否するなど裁量権を濫用したと認められる特段の事情が認められる場合に限り違法となるものというべきである。
2 ところで、郵政省における年次有給休暇に関する制度をみるに、前記郵政省就業規則九条一項及び前記「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」六九条は、自由付与にかかる年次有給休暇の請求につき、所属長に対して希望日の前日正午までに請求書を提出することによって行うべき旨規定している。そして、郵政省就業規則八六条二項は、「病気、災害その他やむを得ない事由によってあらかじめ休暇を請求することが困難であったことを所属長が認めたときは、職員は、その勤務しなかった日から、週休日及び祝日を除き、遅くとも三日以内に、その事由を付して請求書を提出することができる。」(「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」及び「年次有給休暇に関する協約」付属覚書〔乙第三三号証〕も同旨)と定めている。右各規定に照らすと、年次有給休暇の時季指定の時期についての前示の一般的原則は郵政職員についても同様であるということができ、いわゆる事後請求の申し出に対応した処理をするかどうかは、使用者の裁量に委ねられているものというべきであり、労働者の当然の権利ではないのであって、いわゆる事後請求が認められなかったからといって、前記のような裁量権の濫用と認められる特段の事情がない限り違法となることはないものと解される。本件においては、申し出られた年次有給休暇のいわゆる事後請求につき、かえって前記認定のような事情が認められるから、この申し出をもって所属長が、「やむを得ない事由」によってあらかじめ休暇を請求できなかったとは認められないと判断したのは是認し得ることであって、この裁量権の行使に違法の簾は認められない。
3 原告は、就業規則等の右規定が一定の場合につき年次有給休暇を事後に請求することを権利として認めたものであると主張するが、それは前記のように使用者の裁量によって認められるものにすぎないから、原告の右主張は失当である。
 また、原告は、本件における年次有給休暇の請求は職場に到着して後直ちにしたものであるから、数分間の遅刻のために一時間の年次有給休暇を犠牲にすると申し出たもので、すべてが事後請求というわけではなく、大部分は事前の請求である旨主張する。しかしながら、郵政省と全逓との間の労働協約である「年次有給休暇に関する協約」(乙第三三号証)にも年次有給休暇は一日を単位とするものとされ、ただし、労働基準法三九条による日数を超えて認められる当該年度の年次有給休暇及び前年からの繰越分については一時間を単位として与えることができる旨明記されている。このように年次有給休暇は、時間単位で認められるのが限度であって、分単位での休暇を認める制度ではないのみならず、前示のような年次有給休暇の時季指定の趣旨に鑑みれば、ここに「事前」という意味は時季変更について検討する余裕を置いた時期の意味であって、これを過ぎて請求されたものは年次有給休暇の本来の趣旨を外れたものとしていわゆる事後請求と異ならないものにすぎないから、原告の右主張は理由がない。
 さらに、原告は、その担当業務は分単位の遅刻が影響するようなものではなかった旨主張するが、事前の時季指定に対する時季変更についてはともかく、いわゆる事後請求に関しては、業務に対する影響のみが裁量判断の要素となるものではないことは当然であり、原告には前示のような事情が認められる以上、使用者が原告からのいわゆる事後請求を認めなかったことはけだしやむを得ない。
4 以上のとおりであるから、原告の前記各遅刻について年次有給休暇が認められなかったことはやむを得ないことというべきである。
三 組合事務室に立寄ったことによる一九分間の欠務について
 平成元年一月一二日の一九分間の欠務についてみるに、原告は、一般職国家公務員として国家公務員法一〇一条一項の職務専念義務を負っているところ、原告が勤務時間中に上司に無断で職務と無関係の用事のために組合事務所に入って勤務を欠いたものであり、これを正当化する特段の事情は何も認められない。原告は、組合事務所に立ち寄った右の行為をe総務部長が現認しながら、直ちに注意して中止させず、部下に時間を現認させたことが不当である旨主張するが、そのような事実によって原告の行為を正当化することができないのは当然であり、また、そのようにして現認したからといって、欠務処理が違法であることにはならない。四 本件賃金減額の違法性について
 以上のとおりであるから、原告の前記第二の一2の(一)ないし(四)の各遅刻について特別休暇又は年次有給休暇による処理をせず、欠務として処理し、これと同(九)の欠務とあわせて一時間分の賃金減額をしたことは適法であって何ら違法の点は認められない。
五 本件訓告の違法性について
1 前記就業規則一一六条は、「職員は、過失があった場合には、郵政部内職員訓告規程(昭和二五年七月二五日公達第八三号)の定めるところにより、訓告されることがあるものとする。」と定めており、郵政部内職員訓告規程(乙第三八号証)一項は、「部下職員に過失があった場合、その軽重を審査し軽微であって、懲戒処分を行う範囲内のものでないと認めるときは訓告する。」と規定し、右規程の運用通達である「郵政部内職員訓告規程について」(昭和二五年七月二五日郵人第二五八号〔乙第三九号〕)記一の1は、「この規程にいう『過失』は職員の職務上の過失事故は勿論のこと、職員の部内外のすべての非違行為を包含するものであること。」としている。
2 東京貯金事務センター所長は、右規定に基づいて本件訓告をしたものであるが、その趣旨は、原告に対する指揮監督権限を有する同所長が原告の業務違反行為を指摘してその注意を喚起し、原告の職務遂行の改善、向上に資せしめるために将来を戒めるところにあるものと解される。
 しかして、原告の前記第二の一2の(一)ないし(八)の各遅刻については、国家公務員法九八条一項及び一〇一条一項に違反するもので、かつ、原告の過失によるものというべきであり、また、同(九)の組合事務所に入ったことによる一九分間欠務については、これを正当化する特段の事情は何も認められないことは前記のとおりである。そして、前示のような遅刻の各事情に加えて、原告は、平素から、勤務時間内に昼食をとったり、離席したり、新聞を読むなどの行動が多く、職務専念義務に違反する行為については欠務処理をする旨a課長からとくに注意されていたばかりか、前記運用の実施された翌日から遅刻し、上司からの再三の指導に従わず、規律に従う意思を示さなかったものであって(乙第二六、第二八、第二九号証、証人e、証人a)、以上のような実情を前提として、原告に対する指揮監督権者である東京貯金事務センター所長が、原告の義務違反行為を指摘してその注意を喚起し、原告の職務遂行の改善、向上に資せしめるために将来を戒めたことを違法とすることはできない。
(裁判官 林豊 松本光一郎 岡田健)
別紙省略
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