主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告a、同b、同c、同d、同e、同f、同gに対し、それぞれ別表(一)請求金額一覧表総合計欄記載の各金員及び同表年額欄記載の各金員に対する同表遅延損害金起算日欄記載の各日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告eに対し、昭和六二年八月二五日から昭和六四年六月二五日まで毎月二五日限り金一万七五〇〇円を支払え。
3 被告は原告gに対し、昭和六二年八月二五日から昭和六五年二月二五日まで毎月二五日限り金一万七五〇〇円を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第一ないし第三項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、自動車及び自動車部品並びにその粗形材の製造及び販売等を目的とする株式会社で、昭和四一年八月にプリンス自動車工業株式会社を吸収合併した。
(二) h(旧姓○○、昭和一四年八月一八日生、以下「h」という。)は、昭和三三年四月一日に富士精密工業株式会社(昭和三六年にプリンス自動車工業株式会社と社名変更)に入社し、同社が被告会社に吸収合併された後は、被告会社の従業員として勤務し、昭和五七年八月九日に死亡した。原告a(以下「原告a」という。)はhの夫であり、原告b(以下「原告b」という。)、同c(以下「原告c」という。)及び同d(以下「原告d」という。)はいずれもhの子である。
 原告e(昭和一四年一一月一四日生、以下(「原告e」という。)は、昭和三三年四月一日に富士精密工業株式会社に入社し、同社が被告会社に吸収合併された後は、被告会社の従業員として勤務している。
 原告f(昭和一五年六月一八日生、以下「原告f」という。)は、昭和三一年四月一日に富士精密工業株式会社に入社し、同社が被告会社に吸収合併された後は、被告会社の従業員として勤務している。
 原告g(昭和二〇年六月一二日生、以下「原告g」という。)は、昭和三九年四月一日にプリンス自動車工業株式会社に入社し、同社が被告会社に吸収合併された後は、被告会社の従業員として勤務している。
2 家族手当支給規程の存在
(一) 昭和四一年九月に制定された家族手当支給規程
 被告会社がプリンス自動車工業株式会社を吸収合併した後の昭和四一年九月に制定された家族手当支給規程(以下これを「A規程」という。)において、被告会社は、家族手当を支給する扶養家族の範囲を、原則として、配偶者については妻又は不具廃疾の夫とし、子については満一八歳未満の血族の子三人まで、ただし、従業員が女子であるときは、夫が死亡、不具廃疾の場合又は疾病のため稼働不能で会社が特に認める場合に限り、右三人までを扶養家族とすると定めていた(以下これを「支給制限条項」という。)。
(二) 昭和五二年五月に改定された「家族手当の支給範囲拡大に関する件」による支給規程
(1) 被告会社は、A規程を改定することとし、昭和五二年五月に「家族手当及びバス通勤定期券の支給範囲拡大に関する件」(昭和五二年五月一一日付け)及び「家族手当について二一二基準」と題する各文書を作成したうえ、被告会社従業員に回覧するなどし、爾後この規程に基づいて家族手当の支給を申請するように指示した。
(2) 被告会社は、右各文書において、家族手当の支給範囲について、従業員が妻の場合でも夫である場合と同様に、実際に配偶者及び子を扶養している場合は、これらの者を扶養家族として認めることとし、扶養家族である配偶者としては単に「妻又は夫」とし、また子に関し、従業員が女子であるときは、夫が死亡、不具廃疾の場合又は疾病のため稼働不能で会社が特に認める場合に限るとする前記制限を削除した(以下これを「B規程」という。)。そして、このB規程を昭和五二年四月一日に遡って実施することにしていた。
(三) 昭和五二年八月に改定された家族手当支給規程
 被告会社は、昭和五二年八月に家族手当支給規程を改定し(以下この規程を「本件規程」という。)、第二条において「家族手当は、第三条に掲げる親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対し支給する。ただし、独身の従業員が両親、兄弟姉妹を扶養する場合には必ずしも世帯主であることを要さない。」と定め(以下これを「世帯主条項」という。)、第三条において、その扶養家族の範囲を原則として、配偶者、満一八歳未満の血族の子(三人まで)及び満六〇歳以上の血族の父母とすることとし、この支給規程のまま現在に至っている。
3 被告会社の家族手当支給規程の違法性
(一) A規程について
 前記2(一)記載のとおり、A規程は、従業員が女子であるときは、夫が死亡、不具廃疾の場合又は疾病のため稼働不能で会社が特に認める場合に限って、その子を扶養家族と認め、家族手当を支給することとしていたが、この部分は女子従業員に限り、子の家族手当の支給につき特別の条件を付したものであって、女子従業員を男子従業員と比べて差別的に取り扱うもので、右の部分につき労働基準法四条に違反し無効である。また、これは憲法上の公序に反する違法な措置であり、民法九〇条によって無効となる。
(二) 本件規程について
 本件規程は、前記2(三)に述べたとおり、配偶者や一八歳未満の血族の子らの親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対して家族手当を支給することとしたものであるが、この世帯主条項は、結果として被告会社が女子従業員に対して家族手当を支給しない理由となつており、規定上女性を差別して取り扱うものである。
(1) 世帯主の意義
 被告会社は、本件規程の「世帯主」について、社会通念上の世帯主であるとか、収入の多い方であるとかの説明をしている。しかし、法律上用いられる世帯主という用語は、住民基本台帳法上の世帯主の意味であり、日常用語として用いられる世帯主も同法に基づく住民票記載の世帯主である。また、本件規程第二条ただし書は「独身の従業員が両親、兄弟姉妹を扶養する場合には、必ずしも世帯主であることを要さない。」と規定しており、これは未だ結婚せず、住民票上の世帯主となっていない独身の従業員が、世帯主であるが収入のない父や母などの家族と同居して扶養している場合を想定したものであることは疑いない。したがって、本件規程の世帯主は、右住民票上の世帯主と解するほかはない。
(2) 世帯主条項の違法性
 上述のとおり、世帯主条項における世帯主を住民票上の世帯主と解すると、一見正当な規定であるようにみえるが、住民票上の世帯主の圧倒的多数は男性であるという社会的、客観的現実が今日なお動かしがたい厳然たる事実として存在し、被告会社がその事実を認識しながら、敢えて住民票上の世帯主であることを家族手当の受給資格としたことは、女性を家族手当の支給対象から排除する差別的取扱いであって、労働基準法四条に違反し無効である。また、これは憲法上の公序に反する違法な措置であり、民法九〇条により無効である。
4 被告会社の家族手当支給規程の変遷とその運用の違法性
(一) A規程当時
 被告会社は、A規程当時から健康保険及び税法上の扶養家族については夫婦で分割して申請すること(いわゆる分割申請)を認めており、また妻が他企業で働いている男子従業員に対しては家族手当についても分割申請を認めておきながら、女子従業員に対しては、夫が不具廃疾等でない限り家族手当は支給できない等の理由で、女子従業員が自ら扶養している子供を扶養家族としてなした家族手当の支給申請を拒否した。しかし、かかる取扱いは女性であることを理由とする差別的取扱いであって労働基準法四条に違反し、また、憲法上の公序に反する措置であり民法九〇条により無効となる。
(二) B規程当時
 右のような状況の中で、h、原告e、同f及び同g(以下「hら」という。)の所属する総評全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(以下「組合」という。)は女子組合員の個別の問題を通じて地区交渉や団体交渉で取り上げ、男女差別をなくすよう要求するようになった。そして、昭和五一年六月hら及び組合は、A規程は賃金における男女差別を禁止した労働基準法四条に違反するとして労働基準監督署に申告をした。hらのこのような取組みの結果、被告会社においてもA規程の改定をせざるを得なくなり、昭和五二年五月に男女差別のないB規程ができたのである。そこで、hらはそれぞれ自分の子供の分の家族手当の支給を申請したが、被告会社は、男子従業員に対しては、扶養の事実があり申請手続きがなされれば、収入の多寡を問わず申請通り扶養家族として認め、家族手当を支給しておきながら、hらに対しては、女子には支給しないとか、社会通念上子供を扶養するのは夫であるとか、実際に扶養しておらず主たる生計の維持者ではない等の理由で、意図的にその支給を拒否した。しかし、かかる取扱いは前記4(一)と同様、労働基準法四条及び民法九〇条により無効である。
(三) 本件規程当時
 そこで、組合は労働基準監督署において被告会社と交渉を持ったが、被告会社はhらに対する家族手当の支給を拒否し続けたうえ、同年八月には再び家族手当支給規程を改定し、本件規程ができたのである。hらは本件規程に改定されてからも家族手当の支給申請を続けたが、被告会社は世帯主条項を楯に社会通念上世帯主は男であるとの理由でその支給を拒否した。また、昭和五六年になって、hらは、立川や新宿の労政事務所の示唆もあって、住民票上の世帯主を同人らに変更して家族手当支給の申請をしたところ、ここでも被告会社は、世帯主とは夫婦のうちで収入の多いほうであるとの理由でその支給を拒否した。確かに、被告会社の右運用は一見正当なようにみえるが、かかる運用は、共働き家庭においては夫婦が共同の家計維持者であるのが実態であるにもかかわらず、共働き夫婦の場合ほとんどの妻が夫より収入の少ないという現状において、圧倒的多数の女性が家族手当の支給を受けられなくなるという結果をもたらすのもので、この事実を認識しながら敢えてこれを家族手当の受給資格としたことは、女性を差別する取扱いである。さらに、被告会社は男子従業員に対しては何らの証明も要求することなく申請通り家族手当を支給しているのに、女子従業員が申請した場合には、夫の収入証明や家族手当不支給証明等を要求している。このように、女性にのみ条件を課すことは使用者の差別的意図を示すと同時に、女性に対する差別的取扱いとなる。
 このような経過に鑑みると、被告会社の右各措置には、女子従業員には家族手当を支給しないという差別意思が存在することは明白であり、右措置は前記4(一)と同様、労働基準法四条及び民法九〇条により無効である。
 なお、hら及び組合は、昭和五六年一一月二四日東京都の「職場における男女差別苦情処理委員会」にhら四名に対する家族手当不支給を男女差別であるとして申立てをして、昭和五七年七月六日に同委員会の勧告に基づき、被告会社は同月九日付けで原告fに対してのみ同年五月以降長男、二男及び三男の三児分の家族手当を支給することに同意し、現在も支給している。
5 原告らの家族手当請求権
(一) 家族手当の法的性質
(1) 社会的性質
 家族手当制度は、歴史的にみれば第一次世界大戦のころから低所得労働者に対する生活扶助の目的をもって発生したものであるが、第二次世界大戦後の貧窮状態の中で最低生活を維持するために家族給が取り入れられ、その後も時間外労働の割増賃金や一時金及び退職金を低く押えるために、基本給をなるべく引き上げず、その代わりに家族手当等を増額するという使用者側の意向が働いたため、企業の制度として普及していったものである。したがって、家族手当は生活補助給としての性格を持つものであり、賃金の基本給的部分と家族手当とは異質の性格を持つものではない。
(2) 労働基準法一一条の賃金
 現実の賃金は必ずしも具体的労働に対してのみ支払われている訳ではなく、名称のいかんを問わず、家族手当、物価手当等一見労働とは直接関係がないような名称が付されたものであっても、労働の対償として使用者が労働者に支払うものである以上、すべて労働基準法一一条にいう賃金である。また、家族手当は就業規則等であらかじめその支給条件が明確になっており、これによって使用者は支払義務を負うのであるから、労働基準法一一条の賃金に含まれると解するのが相当である。(3) 労働基準法四条の適用
 家族手当は前述のとおり労働基準法一一条にいう賃金であるから、当然に同法四条にいう賃金にも該当する。そして、同法四条は憲法一四条の男女平等原理を賃金に関し具体化するための規定であるから、同一価値労働に対する男女同一賃金の保障はもとより、労働の直接の対価といえない賃金あるいは賃金体系、賃金形態、支払方法等も含めて、女子であることを理由とするあらゆる差別的取扱いを禁止していると解すべきである。したがって、家族手当の一般的な受給資格、受給条件につき男女差を設けることは、労働基準法四条に違反する。
 なお、家族手当における女性差別を内容とする法律行為は、労働基準法四条及び民法九〇条により無効となり、女性に対する差別的取扱いにより家族手当を支給せず、家族手当請求権を侵害することは不法行為となり、同法七〇九条により損害賠償責任を発生させることになる。
(二) 労働基準法四条に基づく請求権
 被告会社のA規程の支給制限条項及び本件規程の世帯主条項はいずれも女性を差別するものであり、労働基準法四条に違反し、同条で定める男女同一賃金の原則は、女子労働者が差額賃金の支給を請求しうる権利を当然に含んでいる。よって、hらは同条に基づき後記6の各家族手当請求権を有する。
(三) 労働基準法一三条に基づく請求権
 被告会社のhらに対する家族手当の不支給は、同人らに対し女性であることを理由として賃金について差別したものであり、労働基準法四条及び民法九〇条により無効である。そして、この無効になった部分は労働基準法一三条により、被告会社の男子従業員に対する家族手当と同一の支給基準で支給されるべきである。よって、hらは同条に基づき後記6の各家族手当請求権を有する。
(四) 就業規則に基づく請求権
 被告会社のA規程の支給制限条項のうち女性にのみ特別の条件を課した部分及び本件規程の世帯主条項のうち女性を差別することになる「世帯主」部分は、前述のとおり労働基準法四条及び民法九〇条により無効である。そして、労働基準法九三条により、その無効になった部分を除いた各規程がhらに適用され、同人らは被告会社に対し、男子従業員と同一の基準による家族手当請求権を有する。よって、hらは同条に基づき後記6の各家族手当請求権を有する。
(五) 平等取扱いの原則に基づく請求権
 使用者には労働契約上の義務として、労働条件について労働者を平等に取り扱う義務がある。したがって、使用者たる被告会社は、A、B及び本件規程のもとで男子従業員と同一の基準でhらに家族手当を支給しなければならない義務を負い、同人らは家族手当を請求する権利を有する。よって、hらは後記6の各家族手当請求権を有する。
(六) 仮に、本件規程の世帯主条項が無効でないとしても、右にいう世帯主とは住民票上の世帯主を意味するので、後記のごとく少なくともhは世帯主として請求した昭和五六年三月分から、原告e及び同fはそれぞれ世帯主として請求した同年一〇月分から、本件規程に基づき家族手当請求権を有する。よって、h、原告e及び同fは、それぞれ別表(二)ないし(四)記載の右各月分から最終期までの各家族手当請求権を有する。
6 hらの家族手当支給申請と不支給の事実及び未払い家族手当額
 hらの家族手当支給申請と不支給の事実は、以下に述べるとおりである。そして、また、被告会社における昭和四三年以降昭和六二年までの家族手当の金額は別表(六)年度別家族手当支給額表記載のとおりであり、家族手当の支給は当月分を当月二五日に支払う旨定められている。
(一) hについて
 hには、長女原告b(昭和三九年六月四日生)、二女同c(昭和四二年六月一三日生)がいたが、hは昭和四八年二月に被告会社の従業員である原告aと再婚し、同人との間に長男原告d(昭和四九年一一月二八日生)を出生した。なお、原告aは昭和四八年六月に原告b及び同cと養子縁組した。
(1) A規程当時
 hは、原告aと再婚後も税法上では長女及び二女を自己の扶養家族とし、同女らに対する家族手当もこれを受給していたが、同年一一月から二女のみを扶養家族とし、長女を夫の扶養家族として家族手当の支給を申請したところ、長女についての家族手当は夫に対して支給されたが、hが申請した二女についての家族手当は支給されなかった。
(2) B規程当時
 hは、昭和五二年五月以降も二女についての家族手当の支給を被告会社に申請したが、被告会社は支給しなかった。
(3) 本件規程当時
 hは、本件規程になってからも二女についての家族手当の支給の申請を続け、被告会社もその支給を拒否し続けた。そして、hは昭和五六年二月に、住民票上の世帯主を原告aからhに変更し、同年三月五日に住民票添付の上で長女、二女及び長男三児分の家族手当の支給を申請したが、被告会社は、支給しなかった。(4) 家族手当額
 右のとおり、hは昭和四八年一一月分から昭和五六年二月分までは二女について、同年三月分以降昭和五七年八月九日までは長女、二女、長男の三児分について家族手当の支給を申請したが、長女、長男の家族手当については夫aが受給していたので、本件においては原告a、同b、同c及び同dは、二女についての昭和四八年一一月分から昭和五七年七月分までの各家族手当を請求する。その金額は、別表(二)の各年月に対応する「実損額」欄記載のとおり、合計金九七万一〇〇〇円となる。
(二) 原告eについて
 原告eには、被告会社の従業員である夫iとの間に長女j(昭和三九年一一月二二日生)、二女k(昭和四三年三月二九日生)及び三女l(昭和四六年六月一〇生)がいる。
(1) A規程当時
 原告eは、昭和四三年三月に二女を出産したのを契機に、同年六月から長女及び二女を扶養家族として家族手当の支給を申請したが、被告会社は支給しなかった。
 そして、原告eは、昭和四六年六月には三女を出産したので、同年九月からは長女、二女に加えて三女も自己の扶養家族として家族手当の支給を申請し、さらに、昭和五二年四月からは三女についてのみ支給の申請をしたが、被告会社はいずれも支給しなかった。
(2) B規程当時
 原告eは、昭和五二年五月以降も三女について家族手当の支給を申請したが、被告会社は支給しなかった。
(3) 本件規程当時
 原告eは、本件規程になってからも三女についての家族手当の支給の申請を続けたが、被告会社もその支給を拒否し続けたので、昭和五六年九月に住民票上の世帯主を夫iから原告eに変更し、同年一〇月初旬ころ長女、二女及び三女の三児分の家族手当の支給を申請したが、被告会社はその支給をしなかった。
(4) 家族手当額
 右のとおり、原告eは昭和四三年六月分から昭和四六年八月分までは、長女、二女についての、同年九月分から昭和五二年三月分までは、長女、二女、三女についての、同年四月分から昭和五六年九月分までは三女についての、同年一〇月分から昭和五七年一一月分までは長女、二女、三女についての支給を申請し、家族手当を請求するが、長女が昭和五七年一一月二一日の、二女が昭和六一年三月二八日の各満了をもって満一八年となり、長女、二女についての各家族手当についてはその受給要件を欠くこととなったので、昭和五七年一二月分から昭和六一年三月分までは二女、三女につき、同年四月分から昭和六二年七月分までは三女についての各家族手当を請求する。その金額は、別表(三)の各年月に対応する「実損額」欄記載のとおり、合計金二四八万五五〇〇円となる。
(三) 原告fについて
 原告fには、現在他企業に勤務する夫m(昭和四六年三月まで被告会社の従業員)との間に長男n(昭和四〇年一〇月一六日生)、二男o(昭和四三年七月二九日生)及び三男p(昭和四七年二月一八日生)がいる。
(1) A規程当時
 原告fは、夫mが昭和四六年三月に被告会社を退職したので同年六月被告会社に対し、それまで夫の扶養家族となっていた長男及び二男を自己の扶養家族とし、長男及び二男の家族手当の支給を申請したが、被告会社は支給しなかった。
 原告fは、昭和四七年二月に三男を出産したので、同年四月から三男についても自己の扶養家族として家族手当の支給を申請し、さらに、昭和五〇年二月からは夫が転職したのを契機に、長男と二男を夫の扶養家族とし、三男を自己の扶養家族として家族手当の支給を申請したが、被告会社はいずれも支給しなかった。(2) B規程当時
 原告fは、昭和五二年五月以降も三男についての家族手当の支給を被告会社に申請したが、被告会社は支給しなかった。
(3) 本件規程当時
 原告fは、本件規程になってからも三男についての家族手当の支給申請を維持し続け、昭和五六年一〇月には住民票上の世帯主を夫から自己に変更したうえ、同月一六日に長男、二男及び三男の三児分の家族手当の支給を申請したが、被告会社はいずれも支給しなかった。
(4) 家族手当額
 右のとおり、原告fは、昭和四六年六月分から昭和四七年三月分までは長男、二男についての、同年四月分から昭和五〇年一月分までは長男、二男、三男についての、同年二月分から昭和五六年九月分までは三男についての、同年一〇月分から前記4(三)記載のとおり、被告会社が支給を開始するまでの昭和五七年四月分までは長男、二男、三男についての各家族手当を請求する。その金額は、別表(四)の各年月に対応する「実損額」欄記載のとおり、合計金一一二万一〇〇〇円となる。(四) 原告g
 原告gには、被告会社の従業員である夫qとの間に長女r(昭和四三年一二月六日生れ)及び二女s(昭和四七年二月四日生)がいる。
(1) B規程当時
 原告gは、昭和五二年五月から長女を夫の扶養家族とし、二女を自己の扶養家族として家族手当の支給を申請したが、被告会社は支給しなかった。
(2) 本件規程当時
 原告gは、本件規程になってからも二女についての家族手当の支給の申請を維持し続けたが、被告会社はこれを支給しなかった。
(3) 家族手当額
 右のとおり、原告gは、昭和五二年五月分から二女についての家族手当の支給申請をしたが、被告会社が誤って同年五月分から同年七月分までの二女についての家族手当を夫に支給したので、原告gは同年八月分から昭和六二年七月分までの二女についての各家族手当を請求する。その金額は、別表(五)の各年月に対応する「実損額」欄記載のとおりで、合計金一六四万二〇〇〇円となる。
7 労働契約上の債務不履行によるその余の損害
(一) 慰謝料
 前記6に述べたように、hらの家族手当支給申請に対し被告会社は不支給を続け、この間の同人らの精神的苦痛ははかりしれないものがある。即ち、(1) A規程当時、hらは生活の苦しいなか、被告会社から右手当の支給を拒否されたが、男子従業員であれば申請により当然家族手当が支給されていたことに鑑みると、hら女子従業員は一個の独立した労働者としての人格が認められていなかったのである。
(2) 次に、被告会社は、B規程において従来のA規程を改定し、女子従業員に対する家族手当の支給範囲を拡大したにもかかわらず、hらに対し家族手当の支給を拒否し、わずか三か月後には世帯主条項の付加された本件規程に改定し、hらの期待を裏切ったのであり、同人らの落胆は筆舌に尽くし難いものがあった。(3) さらに、被告会社は、本件規程に改定後も、「世帯主」の意味を明確にしないまま家族手当を支給しないという態度をとり続けたため、hらは独立した労働者としての人格を否定されたに等しい精神的苦痛を被ったのである。
 これらは被告会社の家族手当不支給という労働契約上の債務不履行による損害であって、hらが被った甚大な精神的苦痛を慰謝するため、被告会社は少なくともhらに対し、それぞれ金一〇〇万円を支払う義務がある。
(二) 弁護士費用
 被告会社がhらに対し家族手当の支給を拒否したため、原告らは訴訟によって請求をなさざるを得なくなったが、訴訟を提起するにあたり原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴えの提起とその遂行の一切の手続きを依頼し、同人らと別表(一)弁護士費用欄記載の金額の弁護士費用を支払う旨約した。これは被告会社の家族手当不支給という労働契約上の債務不履行による損害であって、hらは被告会社に対し右各弁護士費用の請求権を有する。
8 不法行為に基づく損害賠償請求権
 被告会社のhらに対する家族手当の不支給は、いずれも前記4記載のとおりの理由によるものであり、労働基準法四条及び民法九〇条により違法な行為となる。これは被告会社が故意または過失によりhらの家族手当請求権を侵害し損害を与えたものであり、不法行為を構成する。したがって、被告会社はhらの経済的、精神的な損害を賠償する義務を負うものであるが、そのうち家族手当相当額の損害額は前記6で述べた金額と同額であり、また、慰謝料、弁護士費用は前記7と同額である。
9 将来の家族手当の請求
 原告e及び同gは昭和六二年八月分以降、原告eについては扶養家族として申請している三女が満一八年に達する日の該当月である昭和六五年二月分まで、同gについては同じく二女が満一八年に達する日の該当月である昭和六四年六月分までそれぞれ「世帯主」部分を除いた本件規程に基づき毎月二五日限り、月額金一万七五〇〇円の家族手当を請求する権利を有する。
10 よって、原告らは被告に対して、請求の趣旨記載(原告らの被告に対する家族手当等あるいは損害賠償の請求については別表(一)年額欄記載の各金額に対する弁済期又は弁済期の後である同表遅延損害金起算日欄記載の各日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を含む。)のとおりの判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)、(二)(2)、(三)の各事実は認める。(二)(1)の事実のうち、被告会社がA規程を改定するため昭和五二年五月に「家族手当及びバス通勤定期券の支給範囲拡大に関する件」及び「家族手当について二一二基準」と題する各文書を出したことは認め、その余の事実は否認する。
(二) 右各文書は、単なる社内通達文書で、本件規程制定の準備のために部課長に配布したものである。家族手当支給規程は就業規則の細則であるから、改定に際しては労働基準法に定めるところに従い、大多数の従業員の加入する全日産自動車労働組合(以下「日産労組」という。)の意見を付して労働基準監督署に届け出て、しかる後に家族手当支給規程の表題と体裁を備える文書をもって従業員に周知せしめることにより、同規程が発効するのであるが、原告ら主張のB規程はこれらの手続きがなされていないのであるから、B規程は未だ正規の規程としては成立していない。
3(一) 同3(1)の事実のうち、A規程の記載内容は認め、その余の事実は否認する。(二)の冒頭の事実のうち、本件規程の記載内容は認め、その余の事実は否認する。(二)
(1)及び(2)は争う。
(二) A規程の当時は、共働き夫婦の場合でも通常夫が家族の扶養者とされていたので、例外的に夫が無収入であるような場合にのみ家族手当を支給するものとしたのである。本来、家族手当は家族の生活を補助するために支給されるもので、その支給額も扶養家族数によって決定されるものであって、夫に支給しても、家族の生活補助となるのであるから、共働きの妻も夫と全く同様にこの恩恵に浴することになる。したがって、A規程は女性を差別するものではない。
 賃金規則は、家族手当について、被告会社の認める従業員に対し支給することとし、その金額は別表(六)記載のとおり、扶養家族の数が多くなるにつれて一人当りの金額を減額するという方式をとっているから、例えば、共働きの夫婦で子供が二人いる場合に、夫と妻とが子供を一人ずつ自分の扶養家族とすることを認めると、共働き夫婦でない場合に比べて、多額の家族手当の支給を受けられることになって、不合理な結果を生じることとなり、さらに、このような分割申請を認めると支給手続きが極めて煩雑となる。他方、家族手当支給規程は現実の扶養を支給の要件としているので、共働き夫婦の場合には、双方が現実の扶養者と認めざるを得ない場合もありうるので、支給対象者を夫婦のいずれか一方に絞るために、本件規程において世帯主という言葉を使ったのである。そして、当初は夫を世帯主と解して運用していたが、妻の収入が夫のそれを相当程度上回る場合には、妻を世帯主とすることとしていた。ところが、東京都の男女差別苦情処理委員会から、夫とか妻とかの言葉は男女差別問題に波及しやすいので好ましくないとの示唆があり、結局昭和五七年七月から共働き夫婦の場合収入の多い方を世帯主とすることにしたのである。したがって、本件規程の解釈は本質的に変わりはなく、ただ、夫の収入は妻のそれより通常多いという原則的事実を引っ込めたにすぎないのであり、本件規程及びその運用が女性を差別するものではない。
4(一) 同4の事実のうち、被告会社が各規程当時におけるhらの家族手当支給申請をいずれも拒否したこと、hら及び組合が昭和五一年六月に労働基準監督署に申告し、その結果として被告会社はA規程を改定することとし、本件規程ができたこと、同じくhら及び組合が昭和五六年一一月に東京都の「職場における男女差別苦情処理委員会」に家族手当不支給は男女差別であるとの申立てをして、その結果として原告fについてのみ家族手当について支給することになったことはいずれも認め、その余は否認する。
(二) 被告会社がhらに家族手当を支給しなかったのは、A規程時代は、支給条件を満さなかったからであり、原告ら主張のB規程時代はそもそもB規程自体が存在していないものである。本件規程時代は、hについては恣意的な分割申請をしており、しかもhよりも夫のほうが収入が多く実質的な扶養者は夫であるので不支給としたのである。原告eについては、夫が実際に家族を扶養している世帯主であるか否かを判断するために被告会社は夫の収入証明書を提出するよう求めたところ、同原告がこれを拒んだため不支給とし、その後、東京都の「職場における男女差別苦情処理委員会」の指示で収入証明書が出されたが、夫の年収のほうが妻より一〇〇万円ほど多かったので、被告会社は夫を世帯主と認め、不支給としたのである。原告fについては、原告eと同様の経緯で、同委員会の指示で収入証明書が出され、昭和五七年五月に同原告の収入の方が夫よりも多く、夫が他社で家族手当の支給を受けていないことが判明したので、被告会社は同原告を同年五月以降世帯主と認め、家族手当を支給している。原告gについては、hと同様恣意的な分割申請をしているので実質的扶養者である夫の申請を認め、同原告の申請については不支給としたのである。
5(一) 同5の主張は争う。
(二) 被告会社の支給する家族手当は労働基準法一一条にいう賃金ではない。即ち、家族手当は、もっぱら扶養家族の有無、員数によって支給の可否、金額の多寡が決定されるのであるから、従業員の労働に対する反対給付ではなく、したがって、家族手当は同条にいう労働の対償ではないから、原告ら主張の家族手当請求権は発生しない。
6 同6の事実のうち、(一)ないし(三)の各(4)及び(四)の(3)の各事実は否認し、その余の事実は認める。
7 同7(一)の事実のうち、hらの家族手当支給申請を被告会社が拒否し続けたことは認め、その余の事実は否認する。(二)の事実のうち、原告らが弁護士に本件訴えの提起とその遂行の一切の手続きを依頼していることは認め、その余は不知ないし争う。
8 同8及び9は争う。
三 抗弁
1(一) 本件家族手当請求権は民法一七四条一号の雇人の給料に該当するところ、原告らの本訴提起は昭和五八年一一月一日であるから、本訴請求中昭和五七年四月分以前の家族手当請求権は時効により消滅している。よって被告は右時効を援用する。
(二) 仮に、本件家族手当が労働基準法上の賃金に該当するとしても、本訴請求中昭和五六年一〇月分以前の家族手当請求権は、同法一一五条により、時効により消滅している。よって被告は右時効を援用する。
2 また、hらが各家族手当の不支給及び右不支給にかかわる被告会社の対応や措置により損害を被ったとしても、同人らは、家族手当を支給されるべき日及びhらが右対応等を受けた日にそれぞれ右不支給等による損害及び加害者を知ったものであるから、本件家族手当の不支給等に起因する損害賠償請求権中、昭和五五年四月分以前の損害賠償請求権は、民法七二四条により時効により消滅している。よって被告は右時効を援用する。
四 抗弁に対する認否
 抗弁事実のうち、本件提起が昭和五八年一一月一日であることは認める。五 再抗弁
 被告の時効の抗弁は権利の濫用として許されない。即ち、hら及び組合はA規程当時から本件提訴に至るまで家族手当支給に関する女性差別を是正し、男性と同一の基準で家族手当を支給するように請求してきた。その経緯は請求原因4記載のとおりであり、その結果東京都の「職場における男女差別苦情処理委員会」の斡旋による労使協定によりようやく原告fについてのみ家族手当が支給されるようになったが、右協定締結の際、労使間で爾後誠意ある交渉を行うことを約していたにも拘わらず、被告会社がその後も誠意ある態度を示さなかったため、本件提訴に及んだものである。以上の経過から明らかなように、被告会社は、女子従業員に対する家族手当の支給制限が違法な女性差別であることを熟知し、労働基準監督署からの指導を受けて規程自体を改定しなければならない状態に追い込まれながらも、改定したB規程を更に変更して本件規程とし、hらの家族手当支給を拒否しているのである。このように、違法な女性差別を頑強に続けている被告会社が、消滅時効を援用することは権利の濫用にほかならない。
六 再抗弁に対する認否
 再抗弁事実は争う。
第三 証拠(省略)
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 家族手当の性質について
 本件請求においては、家族手当の性質すなわち家族手当が労働基準法上の賃金に該当するか否かが家族手当請求権の存否の前提となるので、まず、この点について検討する。
 労働基準法一一条にいう賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうと解されるところ、請求原因2(一)及び(三)(A規程及び本件規程の各存在)の事実は当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第四号証の一ないし四及び乙第三号証を総合すると、被告会社は、昭和四一年九月に制定した従業員賃金規則において、家族手当は被告会社が認める従業員に対し、その扶養家族に応じて支給するとし、扶養家族の員数ごとに毎月の金額を定め、さらに、家族手当に関する細部については家族手当支給規程によると定めていること、被告会社は昭和四一年九月に制定した家族手当支給規程即ちA規程において、家族手当を支給する扶養家族の範囲を、原則として、配偶者については妻又は不具廃疾の夫とし、子については満一八歳未満の血族の子三人まで、ただし、従業員が女子であるときは、夫が死亡、不具廃疾の場合又は疾病のため稼働不能で会社が特に認める場合に限り、右三人までを扶養家族とする旨定めていたこと、また昭和五二年八月に改定した本件規程において、家族手当支給の対象となる従業員の範囲を、配偶者や一八歳未満の血族の子等の親族を実際に扶養している世帯主である従業員とするが、独身の従業員が両親、兄弟姉妹を扶養する場合には必ずしも世帯主であることを要しないと定めていることが認められる。しかして、右事実によれば、被告会社が従業員に支給している家族手当については、A規程と本件規程とによって、支給を受けるために要する従業員の資格要件及び扶養家族の範囲に変遷が認められるものの、いずれも就業規則と一体をなす従業員賃金規則及びその細則たる家族手当支給規程においてその支給条件が明確に規定され、これによって、被告会社が、扶養家族の存在等一定の要件を備えた従業員に対し家族手当の支払いを約しているものであって、任意的、恩恵的に支払うものではないことが明らかであるから、労働基準法一一条の「労働の対償」としての賃金に該るものというべきである。三 消滅時効について
 本件家族手当請求権及び本件家族手当の不支給による不法行為に基づく損害賠償請求権の存否については暫く措き、右各請求権が時効により消滅した旨の抗弁について判断することとする。
1 消滅時効の主張について
(一) 本件家族手当請求権の消滅時効
(1) 被告は、本件家族手当は民法一七四条一号所定の雇人の給料に該当し、一年の消滅時効にかかると主張するが、右二に述べたとおり、本件家族手当は労働基準法一一条にいう賃金に該当するものであるから、民法一七四条の適用はなく、労働基準法一一五条により二年の消滅時効にかかるものというべきである。(2) そこで、労働基準法一一五条に基づき時効によって消滅したとの被告の主張について判断する。
 本件家族手当の支給日が当月の二五日であることは当事者間に争いがない。そうすると、原告ら主張の本件家族手当請求権は、各当月の二五日から権利行使が可能であるというべきところ、hの昭和四八年一一月分から、原告eの昭和四三年六月分から、原告fの昭和四六年六月分から、原告gの昭和五二年八月分から、それぞれ昭和五六年一〇月分までの各家族手当請求権については、本件訴訟提起の日たる昭和五八年一一月一日の時点において、各支給日から既に二年以上を経過しており、かつ被告が右時効を援用したことは当裁判所に明らかであるから、右各家族手当請求権については、仮に、その発生が認められるとしても、既に時効により消滅しているものというべきである。
(二)本件家族手当の不支給等による不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効について
 本件各家族手当の支給日が当月の二五日であることについて当事者間に争いがないことは前述のとおりであるが、hは昭和四八年一一月分から昭和五七年七月分まで、原告eは昭和四三年六月分から昭和六二年七月分まで、原告fは昭和四六年六月分から昭和五七年四月分まで、原告gは昭和五二年八月分から昭和六二年七月分まで、いずれも家族手当の支給を拒絶されていることは当事者間に争いがなく、これに弁論の全趣旨を総合すると、同人らは家族手当を支給されるべき日又はその日ころには同人らが申請した当該月の家族手当の支給を拒否された事実及び被告会社の対応等を知ったものと推認することができる。したがって、hらは右支給日ころに、本件家族手当の不支給による損害及び加害者を知ったものといわなければならない。そうすると、hの昭和四八年一一月分から、原告eの昭和四三年六月分から、原告fの昭和四六年六月分から、原告gの昭和五二年八月分から、それぞれ昭和五五年四月分までの家族手当の不支給による家族手当相当額の損害賠償請求権及び慰謝料請求権は、本件提起の時点において、hらがそれぞれその損害及び加害者を知ったときから既に三年以上を経過しているものといわなければならない。そして、被告が右損害賠償請求権等につき、消滅時効を援用したことは当裁判所に明らかであるから、右損害賠償請求権等は、仮に、これが発生していたとしても、時効により消滅したものというべきである。
2 時効援用権の濫用の主張について
 原告らは、被告が消滅時効を援用することは権利の濫用であると主張するが、原告らが主張する事由をもってしても被告の消滅時効の援用が権利の濫用であるということはできない。もっとも、被告において、原告らが訴訟提起その他時効中断に必要な措置をとることを妨害したような場合には、消滅時効の援用が権利の濫用となる余地はあるが、本件においてはそのような特別の事情を窺わせる証拠はなく、かえって証人鈴木i及び同tの各証言によれば、本件各家族手当支給規程について、原告らと被告会社との間において、条項の解釈等につき見解の対立があることが認められ、さらに、被告会社が原告らの家族手当支給申請を拒否し続けていることは前記のとおり当事者間に争いのないところであるから、原告らは、いつでも時効中断の措置を採れる状態にあったのであり、被告の消滅時効の援用が権利の濫用であるということはできない。
四 家族手当請求権の存否
1 そこで、本件請求中消滅時効が援用されていない部分即ち昭和五六年一一月分以降の家族手当請求権の存否について検討する。
2 まず、本件規程第二条について検討する。
(一) 憲法一四条は法の下における平等の基本的原理を定め、これを受けた労働基準法三条及び四条の規定の下においては、同一の労働について性別を理由として賃金の差別を行うことが許されないことは明らかである。したがって、就業規則をはじめ賃金等にかかる諸規程を作成するに当たっても男女平等を旨とすべきことはいうまでもない。しかして、被告会社が本件規程第二条において「家族手当は第三条に掲げる親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対し支給する。ただし、独身の従業員が両親、兄弟姉妹を扶養する場合には必ずしも世帯主であることを要さない。」と定めていることは当事者間に争いがないところ、前掲乙第三号証及び証人tの証言によれば、被告会社においては、従前より賃金規則において扶養家族一人につき均一の手当額を定め、これに扶養家族数を乗じて手当額を算出するという方式はとらず、別表(六)年度別家族手当支給額表記載のとおり扶養家族の数が増加するに従って扶養手当の総額を一定額まで増額するが、第二、三被扶養者に対する手当の額は第一被扶養者のそれより少額とする方式を採用していたため、仮に共働き夫婦に分割申請を認めると右方式によることが困難になり、夫又は妻のいずれか一人が従業員として働き他の一人が無職である場合に比べ扶養家族数が同一であっても、多額の家族手当を支給しなければならないことになって公平を欠く結果をもたらし、また支給事務も煩雑になるため、家族手当の支給対象者を夫又は妻のいずれか一人に絞る必要から、本件規程第二条のような規程としたものであることが明らかである。しかして、被告会社におけるような家族手当額決定方式を採る限り、共働き夫婦による分割申請を認めず支給対象者を一人に絞ることはやむを得ないものというべきである。
(二) そこで、本件規程第二条に定められた支給対象者の選別方法について検討する。
(1) 被告会社は、昭和四一年九月に制定された家族手当支給規程において、家族手当を支給する扶養家族の範囲を、原則として、配偶者については妻又は不具廃疾の夫とし、子については満一八歳未満の血族の子三人まで、ただし、従業員が女子であるときは、夫が死亡、不具廃疾の場合又は疾病のため稼働不能で会社が特に認める場合に限り、右三人までを扶養家族とすると定めていたことは前記のとおり当事者間に争いがない。
(2) また、本件規程第二条が前記のようなものであること、家族手当の額が昭和四三年以降前記別表(六)記載のとおりであったこと、被告会社における家族手当の支給日が毎月二五日であったこと、hは昭和五六年二月に、原告eは同年九月に、同fは同年一〇月にそれぞれ自己を住民基本台帳法に基づき所轄官署に世帯主として届け出、そのころ、その旨を被告会社にも届け出たこと、hは同年三月分以降昭和五七年七月分までは長女、二女、長男を、原告eは昭和五六年一〇月分以降昭和五七年一一月分までは長女、二女、三女、を同年一二月分以降昭和六一年三月分までは二女、三女を、同年四月分以降は三女を、同fは昭和五六年一〇月分以降長男、二男、三男を、同gは同月分以前から二女のみを扶養家族として家族手当の支給申請を続けていたが、原告fについては昭和五七年四月分まで、hについては同年七月分まで、その余の原告らについては現在まで被告会社はその支給を拒否していることはいずれも当事者間に争いがない。
(3) 右当事者間に争いのない事実に、前掲乙第三号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし六、第五ないし第七号証、第一六号証、成立に争いのない乙第五号証の四、原告f本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二四号証、証人uの証言により真正に成立ものと認められる甲第二七号証の四、五、証人鈴木i、同u、同tの各証言並びに原告a、同e、同f及び同g(第一、二回)の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨(ただし、前掲各証言及び原告本人尋問の結果中いずれも後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次の事実が認められる。
1 hら及び組合はA規程の支給制限条項が女子従業員を差別するものであるとして、昭和四三年ころから地区交渉で取り上げ、昭和四九年には組合から家族手当につき支給制限を撒廃することに正式に要求するようになった。そして、昭和五一年六月にはA規程は賃金における男女差別を禁止した労働基準法四条に違反するとして、立川、三鷹、中野の各労働基準監督署に申告をした。そして、労働基準監督署の指導や団体交渉を重ねた結果、被告会社はA規程を改定することになった。2 被告会社は、昭和五二年五月に右改定案として「家族手当及びバス通勤定期券の支給範囲拡大に関する件」及び「家族手当について二一二基準」と題する各文書を会社内の部課長宛に出した。そして右の案によれば、家族手当の支給範囲は従業員によって実際に扶養されている配偶者及び子とされ、家族手当支給の条件としての支給制限条項は廃止されたが、被告会社が右の案が実施可能なものであるか否かを検討するため、右改定案に従って被告会社従業員に支給申請をさせたところ、夫と妻が複数の扶養家族を分割し、各別に自己の扶養家族として申請するいわゆる分割申請の事例が現われ、さらに受給者を随時交代する事例の発生することが予測されるに至ったが、右改定案ではこれらを防止しえず、かつ分割申請等がなされた場合家族手当の支給事務が煩雑になるなど不合理な結果の生ずることが必至であった。
3 そこで、被告会社は、右改定案に修正を加えて本件規程を作成し、従業員の大多数を占める日産労組の意見を聞き、労働基準監督署に届け出たうえ、昭和五二年八月六日に本件規程を施行した。
 しかしてまた、被告会社においては本件規程第二条が制定されたころより、同条にいう世帯主は、住民基本台帳法所定の住民票上の世帯主を指すものではなく、同規程第三条に掲げる扶養家族を有し、かつこれらの者を実質的に扶養している者、換言すれば、一家の生計の中心的担い手である者を指すものとし、家族手当受給申請者の家庭内における地位、夫婦の収入の多寡、収入の安定性、継続性等を主たる判定要素として家族手当受給申請者がそれに当たるか否かを具体的個別的に決定することとし、組合との団体交渉においてもその旨を説明していた。
4 hらは、本件規程が実施されてからも、前記のとおり家族手当の支給申請を続けたが、被告会社は、当時男性の方が女性よりも収入額の多いのが通例であったこともあったため、社会通念上世帯主は男性であるからとか、女性は主たる生計の維持者でないからとの理由で、右申請を拒否していた。そこで、hらはかかる取扱いは男女を差別するものであるとして、原告gが昭和五五年一二月に三鷹の、hが同月に立川の、原告e及び同fが昭和五六年三月に新宿の各労政事務所に相談をし、その示唆によって、それぞれ自己を住民票上の世帯主に変更したうえ、hが昭和五六年三月五日に、原告eが同年一〇月初旬に、同fが同月一六日に被告会社に対し家族手当の支給を申請したが、いずれも、被告会社から前同様の理由でその支払いを拒絶された。そこで、hら及び組合は同年一一月一九日に東京都の「職場における男女差別苦情処理委員会」に苦情の申立てをした。
5 右委員会においても、被告会社は、本件規程第二条にいう世帯主とは、世帯の実質的な長として主たる生計の維持者であり、社会通念上も世帯主といわれるにふさわしい者をいい、収入の額、その安定性、継続性を考慮して判断すべきものであるとして被告会社の前記方針を主張しhらの申立てを争っていた。しかし、右委員会における協議の過程において、被告会社は、被告会社以外の者から夫が賃金を受領していた原告e、同fからそれぞれその夫の収入証明書を徴し、またhと原告aの収入を調査し、それぞれ夫と妻の収入額を比較したところ、原告fのみが夫の収入額を上回っていたことが明らかになり、さらに右委員会の勧告もあったため、同原告に家族手当を支給することにし、昭和五七年七月九日に組合との間において、今後も労使が交渉を行うものとしたうえで、被告会社は原告fに対し、本件規程に基づき昭和五七年五月に遡り家族手当を支給する旨の協定を締結した。6 以上のように、被告会社は昭和五七年七月の組合との前記協定締結までは家族手当受給申請者の家庭内における地位、収入の安定性、継続性等を判定基準として、右申請者が本件規程第二条の実質的な世帯主に該るか否かを具体的、個別的に決していたが、右協定締結を契機として家族手当支給の可否の決定基準を前記基準よりさらに明確かつ一義的な、夫と妻のいずれか収入額の多い方とすることとした。
 証人u、同v、同w、同鈴木i、同tの各証言及び原告a、同e、同f、同g(第一、二回)各本人尋問の結果中右認定に反する部分はいずれも措信しない。
 なお、前記認定事実によれば、h、原告e、同fがそれぞれ住民票上の世帯主となり、その後家族手当の支給を申請した際、上司あるいは担当者らが世帯主は社会通念上男性を指すものであることを理由として支給を拒否しているけれども、原告f、同g(第一、二回)各本人尋問の結果によれば、被告会社における共働き夫婦の収入額は右申請時以前より夫の方が多い家庭がほとんどであり、右上司らはかかる事実を考慮し、家計の中心的担い手即ち実質上の世帯主は夫が多いとして右のように述べたものであって、その真意は本件規程第二条にいう世帯主とは住民票上の世帯主を指すものではなく、当該家庭における実質的世帯主即ち家計の中心的担い手を指す旨の前記被告会社の運用基準を異なった表現で説明することにあったものというべきであるから、上司らの前記説明は些か措辞適切を欠き誤解を招く点がなかったとはいえないけれども、右上司らの前記説明が存した事実をもって前記認定事実を覆えすことはできない。
(三)そこで、本件規程第二条に定める右基準の当否について判断する。(1)就業規則をはじめ労働者と使用者間の労働条件等を定めた諸規程の意義を解釈するに当たっては、当事者間の表示行為から生ずる相手方の期待を保護するため、能う限り表示の有する客観的な意義を確定すべきことは勿論であるが、諸規程が有する客観的意義を確定するに当たってはそれらが判定されるに至った経緯等具体的事情に即して右意義を明らかにすべきことはもとより当然である。したがって、本件規程を解釈し、これを運用するに当たっても右観点からなされなければならないことはいうまでもない。
(2)ところで、世帯主なる用語は通常は住民基本台帳法に基づく住民票上の世帯主を意味するものというべきであり、かつ本件規程第二条ただし書の文言即ち「独身の従業員が両親、兄弟姉妹を扶養する場合には、必ずしも世帯主であることを要さない。」との文言に鑑みても、同条にいう世帯主が住民票上の世帯主を指すものと解し得ることはいうまでもなく、しかも、家族手当支給対象者を明確に判定するための基準としては客観的一義的であるという点において右のように解することには相当の合理性がある。そして現に、原告g本人尋問(第一回)の結果によれば、原告gが昭和五六年五、六月ころ被告会社に対し二女の家族手当を請求したところ、上司であるx課長が本件規程第二条にいう世帯主とは住民票上の世帯主を言う旨説明したとの供述も存しないわけではない。
(3) しかしながら、家族手当の受給者を実質上の世帯主即ち一家の生計の主たる担い手とする被告会社の前記運用は、本件規程第二条本文の「家族手当は第三条に掲げる親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対し支給する。」との文言に反するものではないし、また、本件家族手当が設けられた目的及びその法的性質即ち本件家族手当が扶養家族の員数によって算出されるなど、家族数の増加によって生ずる生計費等の不足を補うための生活補助費的性質が強い事実に鑑みると、家族手当を実質的意味の世帯主に支給する被告会社の運用は強ち不合理なものとはいい得ない。さらにまた右の基準を夫又は妻のいずれか収入の多い方に支給するとすることは、一家の生計の主たる担い手が何人であるかを判定する具体的運用としては明確かつ一義的であり、前記のように分割申請を認めないことに合理的理由がある以上、これまた必ずしも不合理なものとはいい難い。
(4) しかして、右にみた如く、同条の世帯主を住民票上の世帯主とみる運用基準及び被告会社が現に採用している運用基準はいずれも本件規程の解釈としては相当の合理性を有し、また規程の文理にも反するものではない。
 しかしながら、本来家族手当支給規程は賃金規則ひいては就業規則の細則をなすものであって、前記のとおり使用者と労働者間の労働条件を規定しているものであるからもとより公正妥当を旨とすべきであるが、本来右規程の作成権限はまず被告会社に属するものであるから、本件規程及びその具体的運用は、規程の趣旨、目的、文言等に反し、かつ恣意に亘らない限り、まず制定者たる被告会社の意思を尊重してなされなければならないところ、被告会社が本件規程第二条の世帯主は扶養家族を実質的に扶養している者と解し、当初は、夫婦の収入の多寡、安定性、継続性等を判定の主たる要素とし、これを個別的具体的に決定するとしていたこと、そして、昭和五七年七月の組合との前記協定締結を契機として家族手当の支給対象者の決定基準を前記基準よりさらに明確かつ一義的である夫と妻のいずれか収入額の多い方とすることとしたこと前記のとおりであり、被告会社の右規程に対する解釈ないし運用が合理性を有し、恣意に亘るものでないこともまた前記のとおりであるから、本件規程第二条は被告会社が現に採用する基準によるべきものというべきである。
 尤も、家族手当支給のための方式として、夫婦のいずれであるかを問わず、家族手当の支給申請者をもって受給者とする方法ももとより可能であり、かかる方式は規定の明確性、一義性及び平等性という点において、本件規程より優れているといい得ないわけではなく、また甲第一三一号証、第一三二ないし第一三八号証の各一、二によれば、右のような規定ないし運用を採用している法人、公共団体等が存しないわけではない。しかしながら、本件規程が不当なものでないこと前記のとおりである以上、右に述べた方式を採用するか否かは被告会社の裁量に属すべきものである。したがって、被告会社が右のような方式を採用しなかったからといって、被告会社の現に定める本件規程がそれ自体違法不当なものであるとすることはできない。したがって、原告らの主張中、本件規程第二条が労働法四条に違反し無効であること等を理由とする部分はいずれも失当である。
(5) なお、証人t、同y、同zの各証言によれば、当時被告会社においては、夫又は妻のいずれか一方が被告会社に勤務し他の一方が他社に勤務する場合、扶養家族の分割申請を認め、自社に勤務するものに対し、申請にかかる扶養家族について扶養手当を支給していた事実が認められる。
 しかしながら、夫又は妻のいずれか一方が他社に勤務している場合につき、被告会社が右のような取扱いをしているとしても、かかる取扱いは被告会社の裁量に属するものであり、これをもって前記運用が不当であるということはできない。(四)(1)なお、(ア)A規程は前記のとおり女子従業員に対しては、特に夫が死亡、不具廃疾の場合又は疾病のため稼働不能で被告会社が特に認める場合に限ってその子を扶養家族と認めるなどの制限を課し、男性に比較して差別的規定を設けており、(イ)また被告会社は、本件規程を改定後も同規程第二条にいう世帯主は社会通念上夫あるいは男であるとか収入の多い方を指すとか述べてhらに対する家族手当の支給を拒絶していたことは前記のとおりであり、(ウ)さらに、原告らは、被告会社は男子従業員に対しては何らの証明も要求することなく申請通り家族手当を支給しているのに、女子従業員が申請した場合には、夫の収入証明や家族手当不支給証明等を要求していることから明らかなとおり、女性にのみ条件を課しているが、かかる取扱いは使用者の差別的意図を示すと同時に、女性に対する差別的取扱いである旨主張する。そこで右(ウ)の主張を事実であると仮定し、これに前記(ア)(イ)の事実を併せ考えると、家族手当の支給について被告会社は女性を不当に不利益に取り扱っていると推測されなくはない。
(2) しかしながら、確かに、A規程はその文言自体に徴しても女子従業員を不当に差別している点において違法不当なものであることはいうまでもないところであるが、それゆえにこそ被告会社も右規程を廃し、本件規程に改定したものであるから、A規程が存し、被告会社が昭和五二年七月分まで右規程によって家族手当を支給していたことを理由として、本件規程第二条が違法であるとすることはできない。また、原告f、同g(第一、二回)各本人尋問の結果によれば、被告会社における共働き夫婦の収入額は右申請時以前より夫の方が多い家庭がほとんどであり、右上司らはかかる事実を考慮し、家計の中心的担い手即ち実質上の世帯主は夫が多いとして右のように述べたこと前記のとおりであるから、右上司らの前記説明が存した事実をもって前記取扱いが女性を不当に差別するものであり、違法であるとすることはできない。そしてまた、前記運用基準として収入の多いほうとすること自体はもとより不当ではない。
(3)さらに、原告f、同g(第一回)各本人尋問の結果中には、家族手当の支給申請に対し、女子従業員に対してのみ夫の収入証明等を要求した旨の前記主張に副う部分が存しないわけではないが、被告会社における共働き夫婦について夫と妻の収入を比較した場合通例夫の方が高額であること前記認定のとおりであり、したがって、当時の被告会社においては、通例夫が本件規程第二条にいう実際上の世帯主と認むべきであったことは推認するに難くないところであるから、仮に被告会社において原告ら主張のごとき取扱いがなされていたとしても、これをもって女性を不当に差別したものとすることは相当ではなく、したがって、右事実をもって被告会社の前記運用基準が違法なものであるとすることはできない。
(五) なおまた、原告ら主張のごとく、本件当時被告会社において妻より夫の方が収入の多い家庭が多数を占め、それがために家族手当の支給対象の多くが夫即ち男性に限られていたとしても、被告会社において前記のように夫婦の一方にのみ家族手当を支給するものとする以上、前記基準もやむを得ないものというべきである。したがって、右事実を理由として本件規程第二条が女性を不当に差別したもので合理性がないものということはできない。
(六) 甲第一一七ないし第一一九号証、第一四〇号証、第一四二号証の一、二のうち、前記認定及び判断に反する部分はいずれも右各文書作成者の意見を記載したものであって採用しない。
3 以上のとおり、本件規程第二条及び前記運用基準は労働基準法四条及び民法九〇条に違反するものではなく、また女子従業員を不当に差別したものでもない。そうすると、本件規程第二条及びその運用が違法であることを前提とする原告らの請求はすべて理由がない。
4 次に、原告らは、右規程第二条に定める世帯主は住民基本台帳法に定める世帯主と同義であると解し、前記のとおり、hについては昭和五六年二月に、原告eについては同年九月に、原告fについては同年一〇月にそれぞれ所轄官署に世帯主としての届出をしたうえ、その主張のころより被告会社に対し家族手当を支給するように求めているが、同条にいう世帯主が住民票上のそれを指すものでないこと前記のとおりであるから、h、原告e、同fが住民票上の世帯主として届け出ている事実をもって、直ちに原告ら主張にかかる期間につき本件家族手当請求権を取得したものということはできない。
5 そこで、hらが昭和五六年一一月分以降の家族手当請求に際し、被告会社主張にかかる資格を有していたか否か、即ち本件規程第二、三条所定の要件を具備していたか否かについて検討する。
 原告a、同e、同f、同g(第一回)各本人尋問の結果によれば、原告e、同gについては前同月分以降昭和六二年七月分まで、hについては昭和五六年一一月分以降昭和五七年七月分まで、同fについては昭和五六年一一月分以降昭和五七年四月分までの期間いずれも夫と共にその子女を扶養していたことはこれを認めるに難くはないが、hらが右の各期間につき、それぞれ同人らがその夫より賃金が高かったことを認めるに足る証拠はなく、右の期間においてh、原告e、同gがそれぞれ各人の夫を越えて一家の生計の中心的担い手即ち本件規程第二条にいう世帯主であったことを認めるに足りる的確な証拠もない。また、前掲証人tの証言により真正二成立したものと認められる乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、被告会社においては家族手当の支給を申請する場合、続柄、扶養対象者の収入の有無、有職の配偶者の収入額につき、これを証明する書類の提出を求め、右書類等を提出しない場合には家族手当を支給しない取扱いをしていたことが認められ、かかる取扱いはそれ自体正当と考えられるが、hらが右各期間について第二条にいう世帯主であった事実を証明するに足りる夫の収入証明書等の必要書類を被告会社に提出したことを認めるに足りる証拠はない(なお、証人tの証言によれば、原告fが夫の収入証明書を提出し、自己が夫より高収入であることを被告会社に示したのは昭和五七年五月二〇日ころである。)

 してみると、hらは右期間について家族手当を受給するに足りる資格を有していないものといわなければならないから、その余の点を検討するまでもなく、原告らの請求中、右期間の家族手当の支払を求める部分は理由がない。
五 次に、原告ら主張の債務不履行による慰謝料及び弁護士費用の損害賠償請求権の存否について検討する。
1 原告らの請求する債務不履行による慰謝料請求について検討するに、原告らが債務不履行による慰謝料請求の根拠として主張する事実は、A規程当時から本件規程に至るまでの被告会社の家族手当の不支給及びこれにかかわる態度ないし対応やその後の支給要求に対する措置についてのものであり、これらの事実からすると、原告らの請求は家族手当の不支給にかかわる不法行為による慰謝料請求と解するのが相当であり、結局原告ら主張の不法行為に基づく損害賠償請求と同一に帰するから、右請求の成否と共に後記六において判断することとするが、もし原告らの右慰謝料請求が債務不履行に基づくものであるとするならば、右請求は、金銭を目的とする債務の不履行に基づくものであるが、金銭債務の不履行にかかる損害賠償の額は、法定利率を超える約定をした場合を除いては法定利率に限られ、それ以上の損害として慰謝料請求をすることはできないと解せられ、本体においては原告らにおいて右約定をしたとの主張も立証もないから、原告らの債務不履行による慰謝料請求はその余の点を検討するまでもなく理由がない。
2 また、原告らは債務不履行による損害として弁護士費用を請求するが、右のとおり原告らの家族手当請求権が存在せず、債務不履行による慰謝料請求権が認められない以上、右各請求権が存在することを前提とする弁護士費用についての請求も理由がない。
六 不法行為に基づく損害賠償請求権の成否
 原告らは、被告会社がhらの請求する家族手当の支給を拒否したこと及び不支給にかかわる被告会社の対応等が不法行為を構成するとして損害賠償を請求しているが、前述のとおり原告ら主張の家族手当の不支給等による不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、昭和五五年四月分までの家族手当不支給による損害賠償請求権は、仮にこれが認められるとしても時効により消滅したことになるので、昭和五五年五月分以降の家族手当の不支給等による不法行為に基づく損害賠償請求権の成否について検討する。
 昭和五五年五月分以降の家族手当については前記のとおり本件規程第二条が適用されるものであるところ、同条及びその運用が不当なものでないこと前記のとおりである。しかして、hらがその主張にかかる期間につき家族手当請求権を取得し得ないこともまた前記判示と同様になる。したがって、原告らの請求中、hらが、右請求権を有し、これが不当に侵害されたことを前提とする家族手当額相当の損害金及び慰謝料の請求がその余の点を検討するまでもなく理由がない。
 さらに、原告らは、不法行為による損害として弁護士費用を請求するが、右に述べたとおり原告らの損害賠償請求権は存在しないから、右各請求権が存在することを前提とする弁護士費用についての請求も理由がない。
七 将来の家族手当の請求について
 原告e及び原告gは、弁論終結時である昭和六二年八月二四日の後である同月二五日以降も扶養家族として申請している子について満一八歳に達する日の該当月まで本件規程に基づき家族手当を請求しているが、右請求が理由ありとして認容されるためには、少なくとも右原告らが右請求にかかる期間につき、その主張にかかる家族手当請求権を取得することが確実であると認むるに足りる事情の存することを必要とするところ、本件においては、本件口頭弁論終結時において右原告らが家族手当請求権を有していないこと前記のとおりであり、また将来これを取得することが確実であると認むべき証拠は存しないから、右原告らの請求はその余の点を検討するまでもなく理由がなく、棄却を免れない。
八 結論
 よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 福井厚士 川添利賢 酒井正史)
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