主文
一 原告らが破産者株式会社中山恒三郎商店に対する横浜地方裁判所昭和六〇年(フ)第二八号破産事件において別紙(二)債権目録記載の各債権を一般の優先権ある破産債権として有することを確定する。
二 原告A、原告B及び原告Cのその余の請求をいずれも棄却する。三 訴訟費用のうち、原告Aと被告との間に生じた分はこれを七分し、その三を右原告の、その余を被告の、原告Bと被告との間に生じた分はこれを五分し、その一を右原告の、その余を被告の、原告Cと被告との間に生じた分はこれを八分し、その七を右原告の、その余を被告の、その余の原告らと被告との間に生じた分はすべて被告の各負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らが破産者株式会社中山恒三郎商店に対する横浜地方裁判所昭和六〇年(フ)第二八号破産事件において別紙(三)請求債権目録記載の各債権を一般の優先権ある破産債権として有することを確定する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告ら(但し、原告D及び同Eを除く。)及び訴外亡Fは、いずれも訴外株式会社中山恒三郎商店(以下「訴外会社」という。)の従業員あるいは従業員であつたものである。
2 原告らは、訴外会社に対し左記のとおりの債権を有している。
(一) 未払賃金
(1) 訴外会社の就業規則第二三条には、原告ら従業員の定期昇給につき「原則として毎年一回五月分賃金より行う」と定めており、訴外会社では例年五月分の賃金から右定期昇給が実施されていた。また、右昇給の額の決定手続としては、総務部で原案を作成し代表取締役であるG(以下「社長」という。)がこれを決済して昇給額が具体的に決定されるという方法が採られていた。
(2) しかして、訴外会社における原告ら(後記(3)記載の原告五名、原告H、同D及び同Eを除き亡Fを含む。)の昭和五九年度の定期昇給については、同年七月一四日その原案が総務部から社長に提出され、同年九月ころに至り社長において別紙(四)昇給額一覧表記載のとおりの昇給額を同年五月分の賃金から遡つて支給する旨の決定がなされた。
(3) 原告I、同C、同J、同K及び同Lは、いずれも嘱託として訴外会社に採用されている関係上、別途前同様の手続で社長において別紙(四)昇給額一覧表記載のとおり昭和五九年度分の昇給額を五月分の賃金から支給する旨の決定がなされた。
(4) したがつて、原告らは、訴外会社に対し、右(2)、(3)の昇給額を含めた賃金債権を昭和五九年五月分以降有していることは明らかである。(5) しかるに、原告らは、訴外会社から右昇給額分について昭和五九年五月分から昭和六〇年二月分までその支払いを受けていないので、右昇給額に一〇(か月)を乗じた金額すなわち別紙(三)請求債権目録の未払賃金欄記載の各賃金債権を有する。もつとも、別紙(五)中途退職原告目録記載の各原告については同目録記載の退職年月日に訴外会社を退職しているところ、訴外会社における賃金計算期間は前月二一日から当月二〇日までであり、計算期間内に退職した者については日割計算を行うこととなるので、右原告らの受取るべき昇給額分にかかる未払賃金は同目録記載の各未払賃金額のとおりであるから、いずれも右原告らに関する前記請求債権目録記載の未払賃金債権額を下らない。
(6) なお、原告M及び同Nは、本訴請求にかかる期間訴外会社の取締役たる地位にあつたが、本訴請求にかかる金員はいずれも賃金たる性格のものであり、役員報酬分は含まれていない。
(二) 未払賞与
(1) 訴外会社の就業規則第二五条には、原告ら従業員の賞与につき「年二回七月及び一二月に支給する」と定めているが、その支給基準等についての定めは格別設けておらず、賞与支給の都度、総務部において個人別に勤務、年令、勤怠、前年同期ないし前期の支給実績等を記載した資料を作成して社長に提出し、社長がこれに各人別に支給額を査定・決定・記入するという方法で決定されていた。(2) しかして、昭和五九年度下期賞与についても、同年一一月下旬に総務部から社長に前記のような資料が提出され、そのころ社長において別紙(三)請求債権目録の未払賞与欄記載の各金額を支給する旨決定した。
(3) したがつて、原告らは、訴外会社に対し、同目録の未払賞与欄記載の金額の未払賞与債権を有する。
(三) 社内預金
 訴外会社では従業員を対象とした社内預金が実施されており、昭和六〇年二月一九日現在における原告らの社内預金額は別紙(三)請求債権目録の社内預金返還請求権欄に記載のとおりである。
 なお、訴外会社における社内預金は、毎年四月と一〇月の各末日に利息を元本に組入れる処理を行つており、訴外会社は昭和五九年一〇月三一日に最終的な利息の元本組入れをなしている関係上、同目録の社内預金返還請求権欄では、同日の残高を元本(但し、それ以降払戻しを受けたものは控除)、同日以降昭和六〇年二月一九日までの間の約定利率年七・八八パーセントにより算定した金員を利息として表示している。
(四) 相続
 亡Fは昭和六〇年六月二一日死亡し、同人の妻と子である原告Dと同Eが同人の権利を各二分の一の割合で相続承継した。
3 ところで、訴外会社は横浜地方裁判所昭和六〇年(フ)第二八号破産申立事件によつて昭和六〇年二月二〇日同裁判所において破産宣告を受け、右同日被告がその破産管財人に選任された。
4 被告は、原告らが前記2(一)ないし(三)の各債権につきいずれも商法二九五条による一般の優先権ある債権として破産債権の届出をしたところ、昭和六〇年九月二五日の債権調査期日において、原告らの未払賃金分及び未払賞与については届出債権の全額に対し、社内預金返還請求権については一般の優先権を有することに対しそれぞれ異議を述べた。
5 しかしながら、被告の異議は全く根拠のないものである。原告らが訴外会社に対し商法二九五条の対象となる前記未払賃金及び未払賞与の各債権を有することは明らかであり、また、原告らの社内預金返還請求権も以下の事情から同条の対象となる債権と解すべきである。
(一) 訴外会社における社内預金の形態は、(1)期末賞与を従業員に交付せずそのまま全額を各個人の社内預金口座に入金する形で処理したもの、(2)期末賞与と同様退職金を従業員に交付せずそのまま各個人の社内預金口座に入金する形で処理したもの、(3)社宅購入に関連して購入予定者に預入れさせたものの三種類があり、原告らのうち別紙(三)請求債権目録表示の原告番号七〇番ないし八七番、同一〇三番ないし一〇九番、同一一二番ないし一一六番、同一二三番、同一二七番ないし一二九番、同一三一番ないし一四一番の各原告を除く原告らが右(1)の形態による社内預金残高を、同一一七番I、同一一八番C及び同一三〇番Hの各原告らが右(2)の形態による社内預金残高を、同一〇番A及び同一九番Bの各原告が右(3)の形態による社内預金残高を有している。
(二) 訴外会社の就業規則第二五条は、前述した七月及び一二月に支給される賞与の外に「但し業績その他を考慮し臨時に支給されることがある」旨を定めているところ、訴外会社は昭和五七年度末まで毎年四月三〇日に期末賞与として臨時賞与を支給してきた。ところが、訴外会社は右期末賞与を直接従業員に交付しないで四月三〇日付で全額を各人の社内預金口座に入金した形とし、後日従業員が払戻しを受けるとの処理を行い、しかも一定額以上の払戻しには社長の同意が必要とされていた。しかして、これらのうち払戻しを受けずに残つた分が(1)の形態の社内預金となつている。
(三) また、昭和五八年から昭和五九年にかけて訴外会社を退職した前記三名の原告らについては、退職後嘱託として再雇用されていたことから、退職金のうち中小企業退職金共済からの支給分を除く訴外会社負担分全額が期末賞与と同様各人の社内預金口座に入金されるという形で処理されていた。すなわち、
(1) 原告Iは昭和五九年二月訴外会社を退職したが、所定退職金中訴外会社の負担分二五〇万円全額について支給されず、同年四月三〇日付で右全額を同原告の社内預金口座に入金した形で処理され、その後その支払いを受けていない。(2) 原告Cも昭和五九年二月訴外会社を退職したが、同原告についても右原告Iと同様訴外会社負担分二五〇万円全額が同年四月三〇日付で同人の社内預金口座に入金した形で処理され、後に従前の期末賞与繰入分残額を含めた預金残高から一〇万円について払戻しを受けたのみで、その余は払戻しを受けていない。(3) 原告Hは昭和五八年八月訴外会社を退職したが、所定退職金中訴外会社負担分四〇〇万円について昭和五九年四月三〇日付で同人の社内預金口座に入金された形で処理され、後に従前の期末賞与繰入分残額を含めた預金残高から九〇万一〇〇〇円について払戻しを受けたのみで、その余は払戻しを受けていない。(四) 原告A及び同Bの各社内預金については、前述した期末賞与繰入分に加えて、訴外会社からの「社宅購入」に関連して預入れがなされたものが存する。すなわち、
(1) 原告Aは昭和四三年訴外会社に入社したが、採用時に社長から将来訴外会社所有地を住宅地として工面してやるとの話もあつたところ、昭和五五年六月に至り訴外会社は横浜市<以下略>の同社所有地上に四棟の住宅を建築し、その際社長から同原告に対し将来約二七〇〇万円でこれを分譲してやるとの話がなされた。そこで同原告は右土地及び住宅の購入方を決意し、その旨社長に申込んだところ、社長から一〇〇〇万円を社内預金に預入れるよう求められ、同原告は住宅購入の目的で訴外会社から受取つていた賃金の中から他に貯蓄しておいた預金等を全て解約し、昭和五六年一月七日に六〇〇万円を、同月二七日に一六〇万円を工面して社内預金に預入れ、従前の預金残高と合せて右一〇〇〇万円を用意した。かくして同原告は昭和五六年三月三日現在居住している社宅に転居したが、その後訴外会社の経営状況が悪化したこともあり、右売買契約の締結には至らず、それが社内預金として残存している。なお、同原告の社内預金の預入れ及び払戻し状況は別紙(六)入、出金表(一)記載のとおりである。
(2) 原告Bもまた社長から前記社宅の払下げの約束を得たのでこれを購入することとし、昭和五六年九月これに転居したが、その際社長から社内預金を引出さず、且つ今後ともできるだけ多くの社内預金をするよう求められた。そこで同原告は期末賞与の繰入分とは別に昭和五七年三月一五日に二〇〇万円、昭和五八年四月八日に七〇万円、昭和五九年七月九日に二五万円をいずれも他への預貯金を解約する等して社内預金へ預入れた。その後同原告においても、社宅の売買契約締結には至らず、それが社内預金として残存している。なお、同原告の社内預金の預入れ及び払戻し状況は別紙(七)入、出金表(二)記載のとおりである。
(五) ところで、商法二九五条が一般の先取特権の対象となる債権の範囲について「身元保証金ノ返還ヲ目的トスル債権其ノ他会社ト使用人トノ間ノ雇傭関係ニ基キ生ジタル債権」
と定め、給料債権以外の雇用関係に基づいて発生した債権についても広くその保護を図つている趣旨からして、同条にいう「雇傭関係ニ基」づく債権とは雇用関係に関連して発生した使用人の債権をもつてその対象としていると解すべきである。しかも、右(一)ないし(四)の事情に照らせば、期末賞与及び退職金の社内預金繰入分は訴外会社によつて一方的に入金処理がなされたもので、もとより従業員の任意によるものでなく、預け金としての実体を有せず、その返還請求も実質的には未払賞与(退職金)の支払いを求めるものであり、社宅購入の代償としての預入れ分も、従業員が余裕資金の運用手段として社内預金を選択したものではなく、従前実施されていた社宅払下げの条件として社内預金を求められたことからやむを得ず預入れをなすに至つたもので、いずれも任意性のある預金ではない。さらに、本件において社内預金返還請求権を非優先債権として処理することは訴外会社の従業員間に取扱いの不公平を招来するものであつて不当である。したがつて、原告らの社内預金返還請求権は商法二九五条の対象となる債権と解すべきである。6 よつて、原告らは、被告に対し、原告らが前記2の各債権を一般の優先権ある破産債権として有していることの確認を求める。
二 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)(1)の事実のうち、訴外会社の就業規則第二三条の規定の存在は認めるが、その余は知らない。
(二) 同2(一)(2)及び(3)の事実は知らない。
(三) 同2(一)(4)は争う。
(四) 同2(一)(5)の事実のうち、原告らが別紙(三)請求債権目録の未払賃金欄記載の債権を有することは争う。
(五) 同2(一)(6)の事実のうち、原告M及び同Nが訴外会社の取締役であつたことは認める。
(六) 訴外会社の就業規則第二三条は、原則として昇給を行う旨定めるが、他方例外として昇給を行わない場合のあり得ることも定めている。ところで、昭和五九年五月当時、訴外会社の経営状態は既に極めて悪化しており、昇給のための財源を捻出し得る状況ではなかつた。かかる状況は右の昇給を行わない例外的な場合に当たるというべきであり、原告ら主張の昇給分に該当する賃金債権は発生していないものである。
3(一) 同2(二)(1)の事実のうち、訴外会社の就業規則第二五条の規定の存在は認めるが、その余は知らない。
(二) 同2(二)(2)の事実は知らない。
(三) 同2(二)(3)は争う。
(四) 訴外会社の就業規則第二五条は、いかなる場合にも賞与支給請求権が発生するという趣旨ではなく、前記2(六)のとおり本件の如く訴外会社の経営状態が極めて悪化して賞与のための財源を捻出し得ない場合は賞与を支給しないことを認めた趣旨と解すべきであり、したがつて本件賞与支給請求権は発生していないものである。
4 同2(三)の事実のうち、原告らの社内預金残高が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余は知らない。
5 同2(四)の事実は認める。
6 同3、4の事実は認める。
7(一) 同5(一)の事実は知らない。
(二) 同5(二)の事実のうち、訴外会社の就業規則第二五条の規定の存在は認めるが、その余は知らない。
(三) 同5(三)、(四)の事実は知らない。
(四) 同5(五)は争う。
三 抗弁
 被告と原告Cは、昭和六一年一月二八日、右原告の社内預金元利合計金二五四万五二二八円と訴外会社の同原告に対する社員貸付金元利合計金三〇四万二六四円とを対当額で相殺する旨の契約をした。
四 抗弁に対する原告Cの認否
 認める。
第三 証拠関係(省略)
理由
一 請求の原因1、3及び4の事実は当事者間に争いがない。
二 破産債権の存否について
1 未払賃金
 いずれも成立に争いがない甲第一、二号証、同第一四号証、証人Gの証言及び原告N本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第四号証、証人Gの証言並びに原告N及び同Aの各本人尋問の結果を綜合すれば、請求の原因2(一)(1)(訴外会社の就業規則第二三条の規定の存在は当事者間に争いがない。)ないし(3)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。ところで、被告は、右就業規則第二三条につき同規定は原則として昇給を行う旨を定めるが他方例外として昇給しない場合もあり得ることを定めるもので、昭和五九年度は訴外会社の経営状態が極めて悪化していたのであるから右例外に当たり従業員の昇給はなされないと主張する。しかしながら、右認定の事実によると、訴外会社としては原告らの昭和五九年度分の定期昇給に関しても例年と同様の事務手続に従つて別紙(四)昇給額一覧表記載の昇給額を五月分賃金に遡つて支給する旨の決定をなしたのであつて、かつ、証人Gの証言によると、社長は右昇給額を同年一二月の期末賞与支給の際に合わせて支給する心積りであつたことが認められるから、原告らは訴外会社に対し同年五月分以降右昇給額分を含めた賃金債権を有しているものと認めるを相当とし、被告主張の如く訴外会社が当時右昇給額分を含めた賃金を支給し得る経営状態になかつたとしても、これをもつて直ちに原告らの昇給額分に関する賃金債権の発生を阻止し得る事情とはなり得ないものというべきである。
 しかして、訴外会社が原告らに対し右昇給額分を支給したものと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、いずれも成立に争いがない甲第六号証の一ないし五、同第七号証の一ないし六、証人Gの証言及び原告N本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、原告らは右昇給額分に関する賃金を昭和五九年五月分以降昭和六〇年二月分まで、別紙(五)中途退職原告目録記載の各原告については同目録記載の退職年月日分まで訴外会社から支給されていないことが認められる。また、訴外会社における賃金計算期間が前月二一日から当月二〇日までで、計算期間内に退職した者についてはその間の分を日割計算することとなつていたことは被告において明かに争わないからこれを自白したものとみなす。したがつて、原告らは右昇給額分に一〇(か月)を乗じた金額すなわち別紙(二)債権目録の未払賃金欄記載の金額(別紙(五)中途退職原告目録記載の各原告については同目録記載の未払賃金額の範囲内にある別紙(二)債権目録各記載金額)の賃金債権を有しているというべきである。
 なお、原告M及び同Nが本訴請求にかかる期間訴外会社の取締役であつたことは当事者間に争いがないが、前掲甲第一四号証、いずれも成立に争いがない甲第一五、一六号証、証人Gの証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外会社は社長のワンマン会社で右原告両名を含め取締役はいずれも名目的なものにすぎず、右原告両名も専ら従業員として、原告Mは営業部門の業務を、同Nは渉外部長(昭和五九年二月までは総務部長)としての職務を担当していたにすぎないこと、右原告両名に支給されていた役員報酬と給与(賞与を含む。)とは経理上それぞれ益金処分と損金処分という形で峻別されているところ、昭和五九年度には経営不振のため訴外会社から右原告両名への益金処分としての役員報酬は支給されなかったこと、更に同年度の右原告両名への給与支給総額は原告Mが四二一万一二五〇円、同Nが四五七万三三二五円であつたが、訴外会社において社長を除く従業員のうち同年度の給与支給総額が四〇〇万円を超える従業員は右原告両名のほかにも一八名存在することを認めることができるから、これらの事実を合わせ考えれば、訴外会社から右原告両名に給与(賞与を含む。)名目で支給された分はいずれも賃金たる性格を有していると認めるを相当とし、右認定を左右するに足りる証拠はない。2 未払賞与
 前掲甲第一号証、原告N本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三号証、証人Gの証言及び原告N本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五号証、証人Gの証言並びに原告N本人尋問の結果を綜合すれば、請求の原因2(二)(1)(訴外会社の就業規則第二五条の規定の存在は当事者間に争いがない。)、(2)の事実及び訴外会社としては右下期賞与を例年どおり昭和五九年一二月の第二土曜日に支給する予定であつたが、同月六日不渡手形を出すなど経営が行き詰つたためその支給を実施できなくなつたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。したがつて、右認定の事実によれば、原告らはいずれも別紙(二)債権目録の未払賞与欄記載の未払賞与債権を有するというべきである。被告は、訴外会社の就業規則第二五条についても同第二三条の場合と同様訴外会社の経営状態悪化により例外的に賞与債権が発生しない旨主張するが、前認定の事実に照らせば右主張も採用できない。
3 社内預金
 請求の原因2(三)の事実のうち原告らの社内預金残高が別紙(三)請求債権目録の社内預金返還請求権欄記載の金額のとおりであることは当事者間に争いがない。なお、いずれも成立に争いがない甲第八、九号証及び原告N本人尋問の結果によれば、訴外会社における社内預金は利息が年七・八八パーセントであり、毎年四月三〇日と一〇月三一日に利息を元本に組入れる処理を行つていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
4 請求の原因2(四)の事実は当事者間に争いがない。
三 一般の優先権ある破産債権の範囲について
1 原告らが別紙(二)債権目録記載の未払賃金債権及び未払賞与債権を有しており、右債権がいずれも訴外会社の就業規則に基づく定期昇給や期末賞与に関するものであることは前判示のとおりである。したがつて、これらが商法二九五条にいう「雇傭関係ニ基キ生ジタル債権」に該当することは明らかである。
2 次に、原告らが別紙(三)請求債権目録記載の社内預金債権を有していることも前判示のとおりである。
 ところで、社内預金債権は法形式のうえでは消費寄託契約上の債権というべきであつて、右は雇用契約を契機とはしているものの、必ずしも雇用契約に基づくものとはいい難い。しかしながら、商法二九五条が労働者の保護という見地も含め必ずしも雇用契約に基づくといえない身元保証金の返還請求権をもかかげてその保護を図つている趣旨に鑑みれば、社内預金債権についても預入れの経緯、態様等を検討し、更に一般債権者の利益とも対比したうえで商法二九五条の適用を判断すべきものというべきである。
 しかるところ、本件社内預金預入れの経緯等に関し前掲甲第八、九号証、いずれも成立に争いがない甲第一〇、一一号証の各一、二、証人Gの証言、原告N、同A及び同Bの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、請求の原因5(一)ないし(四)の事実(但し、(三)の事実のうち原告C及び同Hが後に社内預金を一部払戻したとの部分は除く。)を認めることができ、右認定に反する証拠はない。しかして、訴外会社が四月三〇日に支給されるべき臨時賞与を直接従業員に交付せず同日付で全額を各人の社内預金口座に入金した形で処理をしていたのは、証人Gの証言によれば、訴外会社の決算日が四月三〇日である関係上、臨時賞与を支払えなくとも経理帳簿上これを支払つたこととし社内預金化することでその期の決算の損金にすることを企図した便法であつたことが認められるから、原告らの社内預金債権のうち臨時賞与の組入れ部分はそれ自体原告らの任意の預入れとは異なるもので、この部分の返還を求めることは実質的には未払いの臨時賞与の支払いを訴外会社へ求めるものといえる。しかも右臨時賞与も訴外会社の就業規則に基づく債権であるので、この部分に関する社内預金債権は商法二九五条の対象となる債権と認めるのが相当である。また、訴外会社が原告I、同C及び同Hの退職金を社内預金に組入れる処理をなしたことについても、原告N本人尋問の結果によれば、訴外会社の資金面で現実に退職金を支給し得る状況になかつたものであり、かような処理がなされることについてあらかじめ右各原告の同意を得てはいないことが認められるから、この形態の社内預金も原告らの任意の預入れによるものとは異なり、その返還を求めることも、実質的には退職金の支払いを訴外会社に求めるのと等しいものというべきである。しかして、証人Gの証言及び原告N本人尋問の結果によれば、右原告三名の退職金はいずれも訴外会社の退職金規定に準拠した従業員たる地位に基づく退職金であることが認められるから、社内預金債権のうち右退職金組入れ部分も商法二九五条の対象となる債権と認めるのが相当である。
 ところが、原告A及び同Bの社内預金にみられる社宅購入に関連して預入れられた預金部分は、いずれも他の預貯金等を解約するなどしたうえでこれを預入れたものであり、右預入れが社長の指示に基づくものであつても、右原告らにおいて訴外会社から社宅を購入するための手段としてその預入れがなされたものである以上、右は右原告らの任意の預入れというべく、また、雇用関係から直接生じた債権とは一応性質を異にするものであるから、法律上一般債権者と区別してこれらを特に保護すべき理由は見い出し難く、右は商法二九五条の対象とはなり得ない債権というべきである。したがって、原告A及び同Bを除く各原告の社内預金債権はいずれも商法二九五条の対象となる債権といえるが、右原告両名の社内預金債権については同条の対象となる臨時賞与の組入れ部分と対象外の社宅購入関連の預入れ部分とが混在していることになる。
 ところで、右原告両名の社内預金の預入れ及び払戻し状況はそれぞれ別紙(六)入、出金表(一)及び同(七)入、出金表(二)記載のとおりであり、両原告とも社宅購入関連の預入れのなされた後にも預金の払戻しを受けているが、その払戻し部分が商法二九五条の対象となる臨時賞与の組入れ部分から払戻されたものか否かについては本件証拠上必ずしも明らかでない。そうすると、本件の如くひとつの社内預金債権のどの部分から預金の払戻しがなされたかという点に関しては、数個の債権を前提とした民法四八九条(法定充当)の規定は適用されず、むしろ社内預金債権のうち商法二九五条の対象となる債権部分の消滅(減少)事由に関する主張・立証責任は被告にあると解すべきであるから、これに関する主張、立証がない以上、右原告両名の社内預金債権のうち商法二九五条の対象となる臨時賞与の組入れ部分が右預金払戻しによつて減少したといえないことになる。しかして、訴外会社の社内預金は利息が年七・八八パーセントであり、毎年四月三〇日と一〇月三一日に利息を元本に組入れる処理をしていることは前判示のとおりであるから、これを前提に右原告両名の社内預金のうち商法二九五条の対象となる臨時賞与の組入れ部分の残存額を算定すると、原告Aが別紙(八)入、出金表(三)記載のとおり、同Bが別紙(九)入、出金表(四)記載のとおりとなる。したがつて、原告Aにおいては元本七九七万六一七円、利息一九万七一八円の限度で、同Bにおいては元本七七四万二七一六円、利息一八万五二六五円の限度でそれぞれ商法二九五条の対象となる社内預金債権を有しているということができる。
四 抗弁事実は当事者間に争いがない。
五 以上の次第で、原告らの本訴請求は、原告らが別紙(二)債権目録記載の各債権を一般の優先権ある破産債権として有することを確定する限度で理由があるからこれを認容し、原告A、同B及び同Cのその余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邊昭 青山邦夫 小池喜彦)
別紙(一)当事者目録(省略)
別紙(二)債権目録(省略)
別紙(三)請求債権目録(省略)
別紙(四)昇給額一覧表(省略)
別紙(五)中途退職原告目録(省略)
別紙(六)
入、出金表(一)
<06853-001>
<06853-002>
別紙(七)
入、出金表(二)
<06853-003>
別紙(八)
入、出金表(三)
<06853-004>
別紙(九)
入、出金表(四)
<06853-005>
判例本文

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