主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告ら
1 被告が原告Aの昭和五三年・五四年・五五年分所得税につき昭和五七年三月九日付で した各更正処分(但し、昭和五五年分については昭和五七年八月四日の異議決定によつて 一部取消された後のもの)はいずれもこれを取消す。2 被告が原告Bの昭和五三年・五四年・五五年分の所得税につき昭和五七年三月九日付 でした各更正処分(但し、昭和五五年分については昭和五七年八月四日の異議決定によつ て一部取消された後のもの)はいずれもこれを取消す。3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二 当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 原告らは昭和五三年・五四年・五五年分の所得税につき、それぞれ決定申告期限内に 被告に対し、別表一ないし六の各「確定申告」欄記載のとおりの(原告Aについては別表 一ないし三、原告Bについては同四ないし六である。)各確定申告をし、被告は、原告A に 対しては昭和五七年三月九日付をもつて、原告Bに対しては同月一一日付をもつて、原告 らの右確定申告について別表一ないし六の各「更正」欄記載のとおりの(原告Aに対して は別表一ないし三、原告Bに対しては同四ないし六である。)各更正処分をした。2 京告らは、右各更正処分につきそれぞれ被告に対し異議申立てをしたところ、被告は 昭和五七年八月四日付異議決定により、原告らの各昭和五五年分所得税の各更正処分の一 部を取消し(取消後の各更正処分は別表三及び六の昭和五五年分の「異議決定」欄記載の とおりとなつた。)、その余の異議申立を棄却する決定をした。3 原告らは右異議決定後の各更正処分につき、国税不服審判所長に対しそれぞれ審査請 求をしたところ、同審判所長は昭和五八年三月三一日付をもつて原告らの審査請求のすべ てを棄却する決定をし、原告らは昭和五八年四月二二日に右裁決書謄本の送達を受けた。
 4 しかしながら、前記各更正処分は、原告Aのした商品先物取引による損失を事業所得 計算上の損失ではなく雑所得計算上の損失であると認定したこと、及びそれに伴つて原告 らの資産所得について合算計算により所得税額を算定したことにおいて違法なものである から、その取消を求める。二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1ないし3の各事実は認める。
2 同4は争う。
三 被告の主張
(原告Aについて)
1 原告Aは、本件各係争年分中に訴外丸村商事株式会社(本店、名古屋市<地名略>)、 訴外岡地株式会社(本店、名古屋市<地名略>)及び訴外株式会社たかま商店(本店、名 古屋市<地名略>)を介して行つた商品先物取引による損失額(但し、訴外岡地株式会社 については、昭和五四年中には同取引がない。)を本件各係争年分の事業所得の金額の損 失 額であるとして、別表七の「事業所得としての申告額」の各欄のとおり記載した同各年分 の所得税青色申告決算書を作成し、同決算書に基づき確定申告をした。2 しかしながら、本件各係争年分中における右商品先物取引による損失額は、別表七の 「雑所得としての被告主張額」の各欄のとおりであり、しかも、これは事業所得の金額の 計算上生じたものではなく、雑所得の金額の計算上生じたものである。すなわち、 (一) 所得税法(以下「法」という。)二七条一項は、「事業所得とは、農業、漁業、 製 造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山 林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定し、これを受けた所得税 法 施行令(以下「令」という。)六三条は、事業の範囲を、「一農業、二林業及び狩猟業、 三 漁業及び水産養殖業、四鉱業(土石採取業を含む。)、五建設業、六製造業、七卸売業及 び 小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)、八金融業及び保険業、九不動産業、十運輸通 信 業(倉庫業を含む。)、十一医療保険業、著述業その他のサービス業、十二前各号に掲げ るもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」と規定している。
 ところで、法及び令は、事業所得の基因となる「事業」そのものについては定義していな いが、その法意からして、社会通念上事業と認められるもの、すなわち、対価性と継続性 のほかに事業としての社会的客観性のあるものが事業であると解される。(二) 原告Aが本件各係争年分中に行なつた商品先物取引が令六三条一号ないし一一号 に該当しないことはその規定上明らかであるから、右取引が事業といい得るか否かは、つ まるところ、令六三条一二号にいう「対価を得て継続的に行なう事業」に該当するか否か にある。この判断は、 結局、一般社会通念に照らしてするほかなく、これを判断するに際しては、営利性・有償 性の有無、継続性・反覆性の有無のみならず、取引が事業としてなじみ得るか否か、取引 の目的、取引における自らの企画遂行性の有無、取引のための人的・物的設備の有無、取 引資金の調達方法、取引に費した精神的・肉体的労力の程度、その者の職業・経歴・社会 的地位及び相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性等を総合的に検討し て、取引に社会的客観性があるか否かをも考慮しなければならない。
(三) 商品先物取引の特異性及び原告Aが行つた同取引の実態等は次のとおりである。(1) 原告Aが本件各係争平分において行つた商品先物取引の回数・数量は、別表八の とおりである。
 ところで、商品先物取引は、商品先物取引市場における相場の急激な変動を利用して、売 買差益を稼ごうとする極めて投機性の強いもので収益性が低く、それを行つている者の大 半が損失に終つている(現に原告Aも、別表八に記載のとおり、昭和五〇年分は一二二三 万一六〇〇円、昭和五一年分は四〇〇一万五八〇〇円、昭和五二年分は一九三五万六八〇 〇円、昭和五三年分は七四三三万五二〇〇円、昭和五四年分は一四一一万〇四〇〇円及び 昭和五五年分は一五六八万三七〇〇円と、毎年多額の損失を繰返しているのである。)。 このように、所得の発生が偶発的・投機的である商品先物取引は、特段の事情のないかぎ り、事業存立の基礎を欠くものであつて、事業所得を生ずる事業とみなすには社会通念上 なじみ難いものである。およそ経済人としては、利益を得るか損失を蒙るかわからないよ うな不安定な投機的行為を業とすることは、通常考えられないことだからである。 (2) 原告Aが本件商品先物取引を始めたのは、同人が岐阜県可児郡<地名略>に所有 していた土地が同町に買収され、その売却代金七〇六五万五七五〇円を昭和四八年一〇月 ころ入手したので、その利殖を図る手段としてこの自己資金を元手に、訴外丸村商事株式 会社の外務員訴外Cの勧奨により始めたものであつた。(3) 原告Aは、本件各各係争年分において、訴外三晃商会(工業用ゴム製品卸売業、 資本金一二〇〇万円、年間売上高約一三億円、従業員約一三名)及び訴外中央ゴム工業(工 業用ゴム製品製造業、資本金一六〇〇万円、年間売上高約六億円、従業員約四〇名)の代 表取締役であり、 別表九のとおり右両社などからの報酬・配当を得て生活の資としている。(4) 原告Aは、一週間のうち休日以外の二日程度を訴外中央ゴム工業の、残りの日を 訴外三晃商会の勤務に充て(毎日九時ころ出社、一七時三〇分ころ退社)で、両社の業務 の代表執行に専念しており、その傍ら本件商品先物取引を行つたものである。 そして、同取引においては、右両社の勤務時間中に会社の電話を利用して訴外丸村商事株 式会社等の取引先と電話連絡する等の簡易な方法で行つていたものであり、業界新聞や業 界雑誌等の専門書による研究をすることもなく、右取引先の従業員の助言に基づいて行い、 人的・物的設備を設けることもしないで、原告Aが一人で専ら投機目的のために行つてい たものにすぎない。 また、原告Aが取扱つた商品は、小豆、毛糸、スフ、ゴム、大豆及び乾繭であるが、同人 はこれら商品については全く素人である上に、過去に商品先物取引に関する職業に関与し たこともない。(5) 事業所得を生ずべき事業を開始した際には、法二二九条により一月以内に所轄税 務署長に対し開業の届出書を提出しなければならないところ、原告Aはこの届出書を提出 していない。(四) 右原告Aの本件商品先物取引の実態の諸点を、前記の事業性の有無についての判 断要素に照らせば、事業の要件のうちの営利性・有償性・継続性・反覆性は一応認められ るが、事業の他の要件としての社会的客観性の有無については、(1) 商品先物取引の特異性からして、それが事業になじみにくいものであること (2) 原告Aの同取引開始の動機が、たまたま入手した不動産売却代金の利殖にあつたことからすれば、その取引の開始は偶発的な計画性のないものであつたといえること (3) 原告Aの職業は会社役員であつて、過去に商品先物取引に関する職業に関与した 事実はないこと(4) 原告Aはその経営する会社からの報酬からほとんど生活の資を得ていること (5) 原告Aの右取引の実態が、(1)前記両社の業務の代表執行に専念する傍ら行つ た ものであること、(2)訴外丸村商事株式会社等の取引先と電話連絡する等の簡素な方法 で 行つていたこと、(3)専門書による研究をすることなく、取引先の助言に基づいて行つ て いたこと、(4)人的・物的設備を設けることなく、一人で専ら会社の電話を利用して行 つていたこと、 (5)その取扱商品については全くの素人であつたこと、からして、同取引における自ら の企画遂行性・取引のための設備・取引に費した相当程度の精神的肉体的労力がないこと からして、原告Aの本件商品先物取引には、事業の要件としての社会的客観性がないもの と言わなければならない。 なお、前記のとおり、原告Aは開業の届出書を所轄税務署長に提出していないのであるか ら、同人自身も本件商品先物取引については、事業としての社会的客観性がないものと認 識していたものである。(五) 以上のとおり、原告Aが本件各係争年分に行つた商品先物取引は法二七条一項、 令六三条に定める事業に該当しないから、右商品先物取引により生じた損失額は雑所得の 金額の計算上生じたものである。3 雑所得の金額の計算上生じた損失は、法六九条により損益通算の対象とならないため、 総所得金額の算定にあたつては零として計算することとなるので、原告Aの本件各係争年 分の総所得金額及びその内訳は、別表一、二の「更正及び賦課決定」欄及び別表三の「異 議決定」欄のそれぞれ一の金額となる。4 ところで、原告Bは原告Aの妻であり、その本件各係争年分の総所得金額及びその内 訳は別表四ないし六のそれぞれ一に記載のとおりであつて、これと前記原告Aのそれとを 対比すれば、原告Aは法九六条の主たる所得者に、また、原告Bは同条の合算対象世帯員 に該当することになり、原告Aが納付すべき本件各係争年分の所得税額の計算については、 法九七条一項が適用されるから、同税額は別表一、二の「更正及び賦課決定」の各欄及び 別表三の「異議決定」欄のそれぞれ九のとおりとなる。5 よつて、原告Aに対する本件各更正処分は適法である。
(原告Bについて)
1 原告Bは、前記のとおり原告Aの妻であり、本件各係争年中訴外三晃商会の取締役で あつた。2 原告Bは、前記のとおり法九六条の合算対象世帯員となるから、同人が納付すべき本 件各係争年分の所得税額の計算については、法九七条一項が適用されるので、同税額は別 表四、五の「更正及び賦課決定」の各欄及び別表六の「異議決定」欄のそれぞれ九のとおりとなる。
3 よつて、原告Bに対する本件各更正処分は適法である。
四 被告の主張に対する原告らの認否及び反論
(原告Aについて)
1 被告の主張1は認める。
2 同2は争う。但し、仮りに原告Aが本件係争年中において被つた商品先物取引による 損失が雑所得の金額の計算上生じたものであるとすれば、右損失額が被告主張のとおりで あることは認める。(一) 同2(一)のうち法及び令の存在は認めるが、法及び令にいう事業所得の基因と なる「事業」の解釈は争う。(二) 同2(二)は争う。
(三) 同2(三)柱書は争う。(1)のうち、原告Aのした商品先物取引の回数、数量 及 び原告Aが本件係争年分に計上した損失の額は認め、その余は争う。(2)(3)(5)は 認め、(4)は争う。
(四) 同2(四)のうち、原告Aの商品先物取引が営利性、有償性、継続性、反覆性を 有することは認めるが、その余は争う。(五) 同2(五)は争う。
 法所定の課税要件事実の認定は、全納税者について共通の明確な規準性を有するものでな ければならない。被告主張の社会的客観性なるものは内容空疎な規準性を有しないもので あつて、このような概念により課税要件事実の認定をすることは納税者を惑乱させるもの である。 また、原告Aが会社役貝として他に職業を有し、それによる所得を主たる生活の資として いることや、商品先物取引のための人的、物的設備を有していないことは、被告主張の社 会的客観性の規準からしても、社会的客観性を欠くことの根拠となり得ないし、商品取引 相場が開かれる時間が短時間であり、商品取引所の取引員ではない者がする取引は電話に よる以外に方法がないことからすれば、原告Aが人的、物的設備を有することなく短時間 に電話によつて商品先物取引をすることは原告Aの商品先物取引が事業としての社会的客 観性を欠くことの根拠となり得るものではない。 原告Aの如く、個人による商品先物取引を長年継続し、その取引金額も多額に達し、その 種の取引の行われる社会で「くろうと」と認められるに至つた場合は、その者の取引は対 価を得て継続的に行われる事業に該当するというべきである。3 同3ないし5は争う。但し、原告Aが本件係争年中において被つた商品先物取引によ る損失が雑所得の金額の計算上生じたものであるとすれば、原告Aの本件係争年分の課税 標準及び税額の計算が被告主張のとおりであることは認める。(原告Bについて)
1 被告の主張1は認める。
2 同2、3は争う。但し、 原告Aが本件係争年中に被つた商品先物取引による損失が雑所得の金額の計算上生じたものであるとすれば、原告Bの課税標準及び税額の計算が被告主張のとおりであることは認 める。第三 証拠関係(省略)
理由
一 原告らの請求原因1ないし3の各事実(課税の経緯)及び被告の主張1の事実(原告 Aが商品先物取引による損失額を本件各係争年分の事業所得の金額の損失額であるとして 確定申告をしたこと)は、いずれも当事者間に争いがない。二 そこで、被告の主張2(本件各係争年分中における原告Aの商品先物取引による損失 額が、事業所得の金額の計算上生じたものでなく雑所得の金額の計算上生したものである こと)について判断する。1 法二七条一項は、事業所得の定義として、農業、製造業、卸売業、小売業、サービス 業、その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得と規定し、これを受けた令六三条は、 一号から一一号まで具体的な事業の種類を規定し、かつ一二号で前各号に掲げるもののほ か、対価を得て継続的に行う事業も含まれると規定しているところ、商品先物取引は令六 三条一号ないし一一号に規定されている事業に該当しないことは明らかであるから、原告 Aの商品先物取引による損失額が事業所得の金額の計算上生じたものか、雑所得の金額の 計算上生じたものかは、原告Aが本件各係争年分中にした商品先物取引が令六三条一二号 にいう対価を得て継続的に行う事業に該当するか否かにある。
 そして、一定の経済的行為が右に該当するか否かは、当該経済的行為の営利性、有償性の 有無、継続性、反覆性の有無のほか、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、当該経 済的行為に費した精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為を なす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的行為 をなすことにより相当程度の期間継続にて安定した収益を得られる可能性が存するか否か 等の諸要素を総合的に検討して社会通念に照らしてこれを判断すべきものと解される。
 2 以下、右の諸要素について検討するに、(一) 原告Aが本件各係争年分において行つた商品先物取引の回数、数量及び右商品先 物取引により原告Aが本件各係争年分に計上した損失の額がいずれも別表八のとおりであ ることは当事者間に争いがない。右の商品先物取引の回数、 数量及び損失の額からすれば、右商品先物取引についての営利性、継続性はこれを肯認す ることができる。(二) 次に、原告Aが商品先物取引を開始したのは、同人が岐阜県可児郡<地名略>に 所有していた土地が同町に買収され、その売却代金七〇六五万五七五〇円を昭和四八年一 〇月ころ入手したので、その利殖を図る手段としてこの自己資金を元手に、訴外丸村商事 株式会社の外務員訴外Cの勧奨により始めたものであつたこと、原告Aは本件各係争年中 において、訴外三晃商会及び訴外中央ゴム工業の代表取締役であり、別表九のとおり右両 社などからの報酬・配当を得て生活の資としていること、及び事業所得を生ずべき事業を 開始した際には、法二二九条により一月以内に所轄税務署長に対し開業の届出書を提出し なければならないところ、原告Aはこの届出書を提出していないことの各事実はいずれも 当事者間に争いがなく、成立について争いのない乙第一ないし第三号証及び原告A本人尋問の結果によれば、原告Aが本件係争年分中に行つた商品取引のための資金は、原告Aの 自己資金及び前記三晃商会からの借入金(右借入をなすについては、原告Bを除く三晃商 会のその他の役員の了承を得ることなく、その返済期限の定めもなかつた。また、原告A においても借入当時右借入金について明確な返済計画を有しているものではなかつた。) で まかなわれていたこと、原告Aは前記Cの勧奨により商品先物取引を開始する以前におい ては商品先物取引に関する職業に関与したことはなかつたこと、前記中央ゴム工業及び三 晃商会の勤務時間中にその業務の傍ら各取引先と電話連絡等の方法で商品先物取引を行 い、 商品先物取引を行うための特別の人的、物的設備を有していないこと、及び商品先物取引 を行うための情報は前記丸村商事等の取引先から入手するほかは、業界新聞や業界雑誌そ の他の専門書等によることなく、日本経済新聞等の一般の経済新聞によつていたことの各 事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。 以上の事実を要約すると、原告Aはそれまで商品先物取引に関する職業に関与したことは なかつたが、昭和四八年一〇月ころ、たまたま土地売却代金を得たことを契機として商品 取引貝の勧奨により商品先物取引を行うに至つたもので、商品先物取引を行うについて法 二二九条による届出をすることなく、 本件各係争年中においては、生活の資を得る業務を他に有し、右業務の傍ら商品先物取引 を電話にて取引先に連絡する方法で行うにすぎず、その資金も自己資金及び自己が代表取 締役である会社からの借入金により調達するもので、取引に必要な情報を入手するための 特段の手段及び取引のための特段の人的、物的設備を講ずるものでもなかつたものという ことができる。(三) 更に、商品先物取引が、商品先物取引市場における相場の急激な変動を利用して 売買差益を稼ごうとするものであることは公知の事実であるから、商品先物取引が極めて 投機性が強いものであつて、相当程度の期間継続して安定した収益を得る可能性が極めて 低いことは明らかである(現に、原告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告 Aは商品先物取引を開始した昭和四九年以来、右取引により連年多額の損失を繰返してい ることが認められるのであり、本件各係争年中に損失を生じたことは前記のところから明 らかである。)。3 以上からすれば、原告Aが本件各係争年中に行つた商品先物取引に営利性、継続性が 存することは前記のとおりであるが、その余の諸要素すなわち、自己の危険と計算による 企画遂行性の有無(原告Aが自己の危険と計算により本件係争年中に商品先物取引を行つ たものであることは前記のところからこれを認めることができるが、その企画遂行力が高 度のものであつたかについて多大の疑問を禁じ得ないところである。)、商品先物取引を 行 うのに費した精神的、肉体的労力の程度(左程のものとは思われない。)、人的、物的設 備 の有無、資金調達方法(通常の経済取引としてされる他からの貸付金を資金とするもので ない。)、原告Aの職業、社会的地位、生活状況及び商品先物取引により相当程度の期間 継続して安定した収益を得られる可能性が極めて低いことを総合すると、原告Aが本件係争 年中に行つた商品先物取引が令六三条一二号に該当するものということはできない。4 原告らは、原告Aが会社役員として他に職業を有しそれによる所得を主たる生活の資 としていることや、商品先物取引のための人的、物的設備を有していないことは原告Aが 本件各係争年中に行つた商品先物取引が事業としての社会的客観性を欠くことの根拠とは なり得ない旨主張する。なるほど、 一定の経済的行為をなす者が他に職業を有しそれによる所得を生活の資としていること や、 当該経済的行為をなすため人的、物的設備を有していないことから、直ちに営利を目的と して継続的に行われる経済的行為を令六三条一二号に該当しないものということはできな い。 しかしながら、一定の経済的行為が令六三条一二号に該当するか否かの判断は結局、社会 通念にこれを求めるほかはないのであつて(原告らは、その種の取引の行われる社会で「く ろうと」と認められるに至つた場合には令六三条一二号に該当するというべきである旨主 張するが、右原告ら主張が、当該取引をなす者を基準として社会通念を判断すべきことを 意味するのであれば、そのような限定をしなければならない合理的理由を発見することは できないし、単に取引に精進しているか否かを基準とすべきことを意味するのであれば、 社会通念を基準とするよりも一層明確を欠くのであつて、これを採用することができない ことは多言を要しないところである。)、右各諸要素もこれが判断をなす一要素たるにと ど まるものである。それ故一定の経済的行為をなす者について、その者が他に職業を有しそ れによる所得を生活の資とし、当該経済的行為をなすために人的、物的設備を有していな い場合であつても他の諸要素により当該経済的行為が令六三条一二号に該当するものと判 断されることはあり得ることではあるが、であるからといつて、右の点が社会通念から当 該経済的行為の事業性の有無を判断する際の要素たるべきものではないということができ ないことは明らかである。そして、原告Aが本件各係争年中にした商品先物取引について、 営利性、継続性のほかにはこれを令六三条一二号に該当するものと判断すべき要素に乏し いことは前説示から明らかである(営利性、継続性を有するすべての経済的行為が右同号 に該当するものでないことは同号の文言上明らかである。)から、原告らの右主張は採用 し難い。
三 そうすると、原告Aの商品先物取引による損失額は事業所得の金額の計算上生じたも のではなく、雑所得の金額の計算上生じたものであるというべきところ、右を前提とした 場合の損失額、原告A及び原告Bの本件係争年分の課税標準及び税額の計算が被告主張の とおりであることは当事者間に争いがないから、結局、被告が原告Aに対して昭和五七年 三月九日付をもつて、 原告Bに対して同月一一日付をもつてした各更正処分は適法である。四 以上のとおりであるから、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを失当として 棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判官 加藤義則 高橋利文 綿引 穣) 別表四~六、九(省略)
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