主文
一 被告は原告に対し、金一〇二万四五〇〇円及びうち金三七万九八〇〇円については昭和五七年三月一日から、うち金六四万四七〇〇円については昭和五九年四月一日からそれぞれ完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨の判決及び仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は普通銀行業務を目的とする会社であり、原告は昭和二三年四月一日被告と労働契約を締結した女子行員である。
2 原告の家族は夫A、長女B(昭和四三年一〇月五日生)、父C(明治三七年三月八日生)及び母D(明治四〇年六月一八日生)であり、Bは主として原告の収入で生活をしている。
3 被告は別表一、二各記載のとおり、昭和五六年一月から同五九年三月までの被告の給与規程(以下「給与規程」という。)によると、いずれも毎月二三日に支給すべき家族手当(合計三六万六〇〇〇円)及び世帯手当(合計二八万二三〇〇円)を原告に支給しない。
4 原告は、その所属する岩手銀行従業員組合(以下「従組」という。)と被告との労働契約に基づき、別表三の各「賞与支給日」欄記載の日に、各「算式」欄記載の算式により算出されるところの各期の賞与請求権を取得したが、被告は、原告の賞与算出にあたり、いずれも、当期の家族手当及び世帯手当を除外したため、同表「未支給金額」欄記載の各金員(合計三七万六二〇〇円)を支給しない。5(一) 給与規程は三六条一項で「扶養親族を有する世帯主たる行員に対しては、別表基準により家族手当を支給する。」と定めたうえ、同条二項で「前項の世帯主たる行員とは、自己の収入をもつて、一家の生計を維持する者をいい、その配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合は、夫たる行員とする。」としている。なお、「扶養親族」とは配偶者、一八才未満の子、及び学校教育法一条に定める学校に在学する一八才以上の子で、主としてその行員の扶養を受けていると認められる者とされている(給与規程三七条)。(二) 給与規程は、「扶養親族」たる子を持ち、自己の収入をもつて一家の生計を維持している女子行員にも家族手当を支給する建前をとりながら、たまたま女子行員に夫があり、かつ、夫が扶養控除対象限度額を超える収入を得ていると、女子なるが故に、家族手当の受給資格を失うことにしているので、実際には結婚している女子行員には家族手当を支給しないことを規定しているに等しく、まさに「女子であることを理由として、賃金について、男子と差別的取扱」をしている。したがつて、給与規程三六条二項のうち「その配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合は、夫たる行員とする。」との部分(以下「本件争点部分」ということがある。)は、憲法一四条、民法九〇条、労働基準法(以下「労基法」という。)四条、及び同法九二条に違反し、無効である。(三) 原告は、右無効である要件以外の家族手当の受給要件を具備しているので、昭和五六年一月から同五九年三月までの間の家族手当請求権三六万六〇〇〇円を有するが、被告は原告の夫に扶養控除対象限度額以上の所得があるとして、家族手当を支給しない。
6(一) 給与規程三九条の二は「配偶者もしくは子を扶養して世帯を構成している行員に対し、別表基準により世帯手当を支給する。」と定めている。なお、子の範囲は家族手当と同じである。
(二) 原告は「子を扶養して世帯を構成している行員」なので、世帯手当の受給要件を具備しており、同五六年一月から同五九年三月までの間の世帯手当請求権二八万二三〇〇円を有する。
(三) ところが、被告は、世帯手当の受給要件は家族手当と同一に解すべきなので、夫が扶養控除対象限度額を超える所得を有する原告の場合、世帯手当の受給要件を欠くとして前記期間の世帯手当の支給をしない。
(四) しかし、三九条の二は受給主体を「配偶者もしくは子を扶養して世帯を構成している行員」と定め、「世帯主たる行員」とは限定していないし、また家族手当に関する本件争点部分のような受給制限規定もない。さらに、三六条二項を世帯手当に類推適用するにしても、右のとおり本件争点部分は無効なのであるから、本件争点部分の類推適用の余地はない。したがつて、原告に世帯手当を支給することを拒否する理由は存しないのである。
7 よつて、原告は被告に対し、未支給である家族手当(合計三六万六〇〇〇円)、世帯手当(合計二八万二三〇〇円)及び賞与の一部(合計三七万六二〇〇円)の合計一〇二万四五〇〇円並びにうち金三七万九八〇〇円(昭和五六年一月から昭和五七年二月までの家族手当及び世帯手当並びに昭和五六年上期及び下期の賞与の未支給金の合計額)については、各弁済期日の後である昭和五七年三月一日から、うち金六四万四七〇〇円(昭和五七年三月から昭和五九年三月までの家族手当及び世帯手当並びに昭和五七年及び昭和五八年の各上期及び下期の賞与の未支給金の合計額)については、各弁済期日の後である昭和五九年四月一日から、各完済に至るまで、商事法利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。二 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1項の事実は認める。
2 請求原因2項の事実中Bが主として原告の収入で生活をしているとの点は、否認するが、その余の事実は認める。原告の夫Aは一関市議会議員の要職にあつて多額の収入を得ており、同人が世帯を代表する世帯主として、Bを扶養する立場にあるとみるのが社会通念上相当と解される。
3 請求原因3項の事実は認める。
4 請求原因4項の事実中別表三の「算式」欄記載の各算式が、給与規程三六条「家族手当の支給範囲」、三七条「扶養親族の範囲」及び三九条の二「世帯手当」の各条項に該当する者にして、当該各支給日に在籍し、かつ、被告の職能資格規程において副主事の職能資格を有する役付手当支給対象者に対する賞与算出のためのものであること、同表「未支給金額」欄記載の各金員が、原告に対し不支給であることは認めるが、その余の事実は否認する。なお、昭和五六年度における上期賞与については、成文化された労働協約は締結されていない。また、同表の番号6の賞与支給日は、一二月九日である。
5 請求原因5項の事実中(一)は認める。なお、所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を「所得」でなく、「収入」の面からとらえれば、給与所得者については、所得税法二条一項三三号ロの所得限度額二九万円に、同法二八条三項一号の給与所得控除額五〇万円を加えた額の七九万円となる。
6 請求原因6項のうち(一)及び(三)の各事実は認め、(二)の事実は否認する。給与規程三九条の二第二項において、「前項の配偶者および子の範囲は第三七条に準ずる」と定め、その三七条は、「前条の技養親族とは、次の各号のいずれかに該当する者にして、給与所得、事業所得、年金およびその他の所得による年間の総所得が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額以下であり、ほかに生計のみちがなく、主としてその行員の扶養を受けていると認められる者とする。」と定めているところ、原告の長女Bが同条に規定する扶養親族に該当しないことは、原告の夫に多額の収入があり、「ほかに生計のみちがなく、主としてその行員の扶養を受けていると認められる者」に該当しないことから明らかである。7 被告の主張
(一) 家族手当について
(1) 憲法一四条違反との主張について
 憲法一四条などの自由権的基本権を保障した規定は、「もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」(最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決、民集二七巻一一号一五三六頁)から、私人相互の関係である労使関係に憲法一四条をそのまま適用ないし類推適用し、同条違反を云々することは当を得た解釈ということはできず、本件においては民法九〇条及び労基法四条の適用を主張すれば、必要かつ十分である。
(2) 民法九〇条違反との主張について
 民法九〇条の規定は、要するに、国民の間で事実上行なわれている平均的な価値判断とそれを求める社会的要請に従おうということを意味するのであり、著しく不合理な性別による差別は民法九〇条の公序良俗違反として否定されるが、その判断は、社会生活における健全な常識によつて決定されるのである。これは「社会的許容性」ということと同一であり、社会的許容性の範囲を越える男女差別が否定されることになるのである。原告が、民法九〇条を根拠にして、いたずらに男女平等の理想を追求し、ひいては絶対的・機械的平等の理念にとらわれて、本件給与規程を問題にしているのであれば、明らかに行き過ぎであり、誤りである。(3) 労基法四条違反との主張について
 労基法四条は、同一価値の労働に対する同一報酬の原則を男女の労働者について確認したものであり、憲法一四条の平等原則をこの面において具体化したものである。すなわち、本規定は女子労働者が男子労働者と同一価値の労働を提供しているにもかかわらず、単に女子であるという一般的理由によつて賃金について差別的な取扱いをすることを禁止しているものである。したがつて、賃金に男女差別があつても、それが女子であるという一般的理由によるものではなく、具体的な賃金支給要件に基づく合理的な理由がある場合についてまで、これを違法として禁止するものではない。そして、右の差別が合理的であるか否かの判断は、すでに述べてきたとおり、「社会的許容性」ないし「国民の間で事実上行なわれている平均的な価値判断」によつて決せられるものであるのはいうまでもない。
(ア) 本件争点部分成立の経緯
 本件争点部分は、元来被告の内規「家族手当支給に関する認定基準」中にあつたものであるが、後に、労働基準監督署の給与規程自体に不備があるとの行政指導のもとに、労働組合及び従組の同意を得て適法に成立をみたものである。しかも、その後昭和五六年五月二七日に至り、従組が原告に対する家族手当及び世帯手当の不支給をめぐり、盛岡労働基準監督署に対し労基法四条違反を理由として被告を告発するまで、各規定は何らの問題もなく運用されてきたものである。こうした現行給与規程の成立経過に照らしても、家族手当及び世帯手当の規定に原告の主張するような不合理な男女差別が含まれているものとは到底考えられず、少なくとも労働基準監督署も是認する程度の社会的許容性があつたことはいうまでもないことであり、その適法有効なることは十分に証明されているものというべきである。(イ) 本件争点部分の合理性
 そもそも、家族手当は労働の対価としての本来の賃金と違つて、扶養親族を有する従業員に対し、その生計費補助を目的として特別に支給される手当である。したがつて、被告がこれを支給するにあたつて、一定の支給基準を設け、これにより主たる生計維持者と認めた従業員に対し支給することとしても、それが合理的なものである限り、何ら問題とされるいわれはない。被告は、家族手当を支給するにあたつて、「その配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合」、すなわち共働き夫婦のいずれもが「扶養控除対象限度額を超える所得」を有する場合に、「夫たる行員」を主たる生計維持者と認め、これに特定して家族手当を支給することとしているものであるが、その理由は次のとおりである。
 第一の理由は、受給資格者をあらかじめ夫婦のいずれか一方に特定しておくことは合理的理由があるということである。原告の主張するように、男女を全く差別することなく、絶対的・機械的に平等に取扱い、夫婦のいずれからであつても、その請求に従つて無条件に家族手当を支給するというやり方をとれば、従業員の利益に従つた家族手当の恣意的受給を認める結果となるのは必至である。すなわち、従業員の配偶者が他の企業に勤務している場合、その夫婦は家族手当をより有利に定めている企業から支給を受けようとするであろうから、従業員の受給資格者間の受給は全くまちまちとなるばかりか、長男は夫の方に次男は妻の方にという受給の仕方や、更には、いちいち調査することが困難であるため、二重受給という不都合な問題も発生する可能性がある。しかも、家族手当の有利な改正が行われれば、その都度受給者の変更がなされることになるであろうから、そのための手続も煩瑣となる。したがつて、これによつて生ずる受給資格者間の不平等な取扱いや種々の弊害を防止するために、受給資格者をあらかじめ夫婦のいずれか一方に特定しておくことは合理的理由があるといわなければならない。
 第二の理由は、受給資格者をあらかじめ夫婦のいずれか一方に特定しておくことは、右に述べたとおり合理的理由があるのに加え、その場合「妻たる行員」に特定するよりも、「夫たる行員」に特定することは、より社会的許容性があるということである。すでに述べたとおり、給与規程三六条によれば、家族手当は「扶養親族を有する世帯主たる行員」すなわち「自己の収入をもつて、一家の生計を維持する者」に対して支給されるものであり、共働き夫婦のいずれもが「扶養控除対象限度額を超える所得」を有する場合は、これを「夫たる行員」と特定して支給されることとなるが、これはもともと「世帯主たる行員」の解釈運用基準として内規で定められていたものである。これによつても明らかなとおり、右基準は「世帯主」という一般概念に依拠して定められたものである。
 そして、住民基本台帳法に付帯する自治省の「世帯主の認定の基準」(昭和四三・三・二六付自治振第四一号通達)においては、夫に収入があれば、夫が通常家族の扶養の責任を代表する立場にある者として世帯主となるが、これに対し妻が世帯主となるのは、「夫が不具廃疾等のため無収入」で、生計維持者とは到底認められない場合に限られることとされ、社会保険の夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定においても、「1被扶養者とすべき者の人数にかかわりなく、原則として夫の被扶養者とすること。2妻の所得が夫の所得を著しく上回る場合(三割程度妻の所得が上回る場合とされている)その他特別の事情がある場合には、妻の被扶養者とすること。この場合において、妻の被扶養者とする取扱いにつき、被用者保険関係保険者に異議があるときはとりあえず夫の被扶養者とし、関係保険者間において、妻の被扶養者にすることについての話合いがついた日以降、妻の被扶養者とすること」(昭和四三・三・八付保健発第一七号庁保険発第一号別紙取扱い要領)とされている。このように、世帯主等世帯を代表する者の資格については、夫婦のいずれか一方に特定する必要があるが、その場合は、通常夫を妻より優先して取扱うということは、男女の平等原則が直接適用される国ですら行われているところである。民間の企業においては、なおさらのこと、このような考え方に則つて、夫たる従業員を世帯の責任者とみなして家族手当を支給することが一般に行われているのであり、このような取扱いは、わが国の社会通念として是認され、社会的にも許容されているのである。
 したがつて、本件争点部分が家族手当の受給資格について、その配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合は、「夫たる行員」に特定して支給することとしていることは、何ら不合理な男女差別ということはできないから、男女平等原則に反するものとして法的に否定されるいわれは全くない。
(4) 労基法九二条違反との主張について
 原告は本件争点部分が労基法九二条にも違反すると主張するが、同条の性格にてらし、同条違反の点は直接問題とはならない。
(二) 世帯手当について
 給与規程三九条の二は世帯手当の受給資格について定めているが、本手当の受給資格については、年令の要素を除いては家族手当の受給資格に準ずる旨を、過去の従組との団体交渉において被告より説明しており、また、実際にもそのように解釈運用してきたものであり、給与規程三六条二項の世帯手当の受給資格への類推適用については、労使間で慣行化しているものである。このことは、世帯手当が家族手当と同様の生活補助的手当であることからいつても、全く当然というべきである。しかるに、原告は、右の類推適用が認められるとしても、本件争点部分は男女平等原則に反し無効であるから、この部分の類推適用の余地はないと主張しているが、前述のとおり男女平等原則に反し無効とされるいわれは全くないから、当然この部分の類推適用も認められる。
(三) 原告の主張する本件家族手当および世帯手当等支払請求権について 以上のとおり、家族手当の受給資格を定めた給与規程三六条及び、同じくこれを踏まえて世帯手当の受給資格を定めた同規程三九条の二は、法の定める平等原則に違反するものではないから、適法有効である。そうすると、原告が右規定に基づき家族手当及び世帯手当の受給資格を有するためには、「その配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得」を有しないことが要件となるが、原告の夫Aは昭和五四年一二月に一関市の市議会議員に当選し、その議員報酬等による収入は「扶養控除対象限度額」をはるかに超えるものとなつたから、原告は昭和五五年一月分給与から右両手当の受給資格を喪失した(ちなみに、昭和五五年度の夫Aの総収入は、原告の提出した資料によれば、二七九万一五〇〇円となつている。)にもかかわらず、原告が引続きこれを不正受給していた事実が明らかとなつたので、被告は昭和五六年一月分給与からその支給を打切つたものである。
 原告の夫Aは、その後も引続き右市議会議員の要職にあり、「扶養控除対象限度額」をはるかに超える収入を得て、今日に至つているから、原告が右両手当の受給資格を有しないことは明らかである。したがつて、原告の右受給資格を前提とする本件両手当支払請求権は全く根拠がないというべきであり、またこれを前提とする本件賞与支払請求権も全く根拠がないというべきである。
第三 証拠(省略)
理由
一 請求の原因1項、同3項、同2項のうち原告の家族が夫A、長女B、父C及び母Dであること並びに同4項のうち別表三の算式が各所定の資格を有する者に対する各期の賞与算出のためのものであること及び原告に対し同表「未支給金額」欄の金員が不支給であることについては、いずれも当事者間に争いがない。二 家族手当及び世帯手当に関する給与規程について
1 家族手当について
(一) 家族手当の支給に関して、請求原因5項(一)のとおり、給与規程三六条一項に「扶養親族を有する世帯主たる行員に対しては、別表基準により家族手当を支給する。」と、同条二項に「前項の世帯主たる行員とは、自己の収入をもつて、一家の生計を維持する者をいい、その配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合は、夫たる行員とする。」と、同三七条に「扶養親族」とは配偶者、一八才未満の子及び学校教育法一条に定める学校に在学する一八才以上の子で、主としてその行員の扶養を受けていると認められる者とする旨規定されていることは当事者間に争いがない。
 いずれも成立に争いのない甲第四二号証、乙第一、第二、第七号証、第八号証の二及び第一一号証並びに証人Eの証言を考え合わせると、昭和四九年ころの給与規程においては、「扶養親族のある行員に対しては、家族手当を別表基準により支給する。」と定められていただけであつたが、被告の人事部では昭和四八年四月に内部の解釈例規として現行給与規程三六条と同旨の基準を設け、右の基準により取扱うこととしていたこと、右の解釈例規は、主として自治省の「夫が不具廃疾等のため無収入で、妻が主として世帯の生計を維持している場合は、妻が世帯主」となるとの世帯主の認定の基準(昭和四三年三月二六日自治振第四一号自治省行政局振興課長から各都道府県総務部長あて通知)を参考にして、妻をこれよりは広く世帯主として認定しうるように定められたこと及び被告は昭和五〇年八月二一日従組に対して右の解釈例規に従つて取り扱うことを正式に提案し、同年一二月二九日に従組の了承を得たので、昭和五一年四月一日改正の給与規程から右の解釈例規を規程上に明文化するようになり、現在に至つていること、以上の各事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
(二) そこで、本件争点部分を含む給与規程三六条について検討する。
 本件争点部分は、その文言上からは、同条において家族手当を支給する対象者とされている世帯主、すなわち自己の収入をもつて一家の生計を維持する者とは、配偶者が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合は、夫たる行員とみなすという趣旨(以下「みなし規定」という。)及び夫たる行員と推定するという趣旨(以下「推定規定」という。)のいずれとも解しうる余地がある。この点については、証人Eの証言により認めることができる、夫たる行員から家族手当の受給申請があれば、その妻の収入額や妻が勤め先で家族手当を受給しているかどうかなどについて全く調査をしないで家族手当を支給しているとの被告の運用と本件訴訟における被告の主張の趣旨とを考え合わせるとみなし規定として定められているものであると考えるのが相当である。しかし、成立に争いのない乙第一四号証の二によると給与規程三六条二項には本件争点部分に続いて、「ただし、実父母等と同居しているために世帯主となつていない行員であつても、第三七条に規定する扶養親族を有する場合には、世帯主たる行員とみなす。」という規定がおかれていることを認めることができ、これによると本件争点部分を推定規定と解しうる余地も否定できないところであろう。そこで、以下、それぞれの場合に分けて検討する。
(1) 本件争点部分はみなし規定であるとすると、夫婦の一方が被告の行員であつて、しかも、そのいずれもが所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得(被告の主張によると給与所得者の場合は七九万円。)を有し、かつ、当該夫婦に給与規程三七条に該当する子がいる場合には、被告に勤務している者が夫であれば家族手当の支給を受けられるが、それが妻であるとその支給を受ける余地がなく、妻たる行員には夫婦間の収入差・具体的な家計の実態などについての反証も全く許されない結果となる。
(2) 次に、本件争点部分は推定規定であるとすると、妻たる行員も、夫が所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有する場合であつても妻の方がその収入をもつて一家の生計を維持する者であることについて反証することができれば家族手当の支給を受けられることとなる。
 ところで、前掲乙第一号証及び第一四号証の二、成立に争いのない甲第四一号証並びに証人Eの証言によると、給与規程には右の反証に関する規定がなく、家族手当の受給を申請する行員が毎年四月に被告に提出する家族手当申請書においても右の反証に関して何ら触れられていないこと及び行員が配偶者の職業・収入等を記載して被告に提出する書類として身上調査書があるがその提出時期が毎年二月と八月であり主として人事異動のために利用されるものであることから家族手当の受給資格と関連して検討されることはないことの各事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はないのである。
 そうすると、給与規程及び被告の右取扱いを前提として考えると、妻たる行員は、どのような資料によつてどのような事情を明らかにして反証すればよいのか全く不明な状態に置かれているものといわざるをえず、これを夫が行員であれば家族手当の受給資格者と推定されてその支給を受けうることと対比して考えると、妻たる行員は著しく不利に取り扱われているというほかはないといわなければならない。
 右に検討したところによると、結局、本件争点部分は、みなし規定と解した場合はもちろんのこと、推定規定と解した場合にも現行の制度を前提とすれば、夫たる行員と比べて妻たる行員を著しく不利な立場に立たせる結果をもたらすものであつて、女子であることのみを理由として妻たる行員を著しく不利に取り扱う規定であるといわざるをえない。
(三) そこで、次に、本件争点部分のような給与規程を置くことに合理的な理由があるかどうかについて検討する。
 被告は、この点について、家族手当の支給基準についてあらかじめ夫婦のいずれか一方に特定しておくことは受給資格者間の不平等・不公平な取扱いや種々の弊害を防止するために合理的な理由があり、その場合、妻たる行員に特定するよりも夫たる行員に特定する方が社会的許容性がある旨主張する。
 ところで、証人Eの証言によれば、被告における家族手当の支給は、扶養親族を有する行員に対してその家計を補助することを目的としてなされていることを認めることができる。被告は、前記のとおり家族手当の受給資格者を「世帯主たる行員」としているが、それを「自己の収入をもつて、一家の生計を維持する者」と定義しているのも支給の右目的に沿つたものと解することができる。そして、右目的に徴すると家族手当自体の性格としては男女という性別とは無関係な手当であると解するのが相当である。そうすると、仮に被告が主張するように家族手当の支給基準を定めること自体には合理性が認められるとしても、それは、支給基準の内容として夫婦のいずれか一方にあらかじめ特定するという男女の性別に着目した基準を設けることの合理性を根拠づけるものにはなりえないと解さざるをえない。
 なお、被告は、前記のとおり本件争点部分を含む給与規程三六条と同旨の解釈例規を定めるにあたり、自治省の世帯主の認定基準を参考にしたという経緯もあつて、右の自治省の基準及び成立に争いのない乙第一二号証により認められる厚生省の、「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定については、原則として夫の被扶養者とし、妻の所得が夫の所得を著しく(おおむね三割以上)上廻る場合その他特別の事情がある場合には、妻の被扶養者とすること。」(昭和四三年三月八日、保険発第一七号、庁保険発第一号、厚生省保険局保険課長・国民健康保険課長・社会保険庁医療保険部健康保険課長・船員保険課長から都道府県民生主管部(局)長あて通知及び同日、事務連絡、厚生省保険局保険課長から都道府県民生主管部(局)保険課(部)長あて通知)との取扱いを取り上げて、本件争点部分には合理性があると主張するが、自治省及び厚生省の右各取扱いの内容の当否はともかくとして、右の各制度はそれぞれ独自の目的を持つて定められているものであるから、これと目的を異にする一企業たる被告における家族手当の支給基準の問題を検討する際に直ちに参考とすることは適切ではない。
(四) 右に検討したところによると、家族手当も労基法四条の「賃金」に該当することは明らかであるから(同法一一条、三七条)、本件争点部分は、労基法四条、九二条により無効であると解される。
2 世帯手当について
(一) 世帯手当の支給に関して、請求原因6項(一)のとおり、給与規程三九条の二に「配偶者もしくは子を扶養して世帯を構成している行員に対し、別表基準により世帯手当を支給する。」と規定されていることは当事者間に争いがない。(二) 右の規定自体からはその受給資格者が必ずしも明らかではないが、前掲乙第一、第二号証及び第一四号証の二及び証人Eの証言によると、被告においては、それ以前は「世帯加給」という名称で支給されていたものを昭和五二年四月一日改正の給与規程から「世帯手当」とすることになつたが、世帯加給と称されていたころから、家族手当の支給と目的が共通しているものとして家族手当の受給者はすべてその支給を受けていたこと及び昭和五一年四月一日以降は家族手当の受給資格者に関する給与規程が準用される取扱いが労使間で慣行化しており、右の取扱いが問題になつたこともないことの各事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
 そうすると、前記の検討の結果によると世帯手当にも給与規程三六条のうち本件争点部分を除いた部分が準用されることになり、その受給資格については家族手当と同様に解すべきこととなる。
三 原告の受給資格について
 前記のとおり、原告に昭和四三年一〇月五日生まれの子、Bがいることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると昭和五九年三月に至るまでの間年令一八才未満であるBは所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得を有することはなく、また独自の生計のみちを有する者でもないことを認めることができる。そこで、給与規程三六条、三七条及び三九条の二並びに前記の検討の結果によれば、原告が家族手当及び世帯手当の受給資格を有するためには、Bが主として原告の扶養を受けていると認められ、更に、原告がその収入をもつて、一家の生計を維持する者と認められることが必要であるということになる。
 いずれも成立に争いのない甲第四六ないし第六〇号証、乙第一六号証の一ないし一〇並びに原告本人尋問の結果を考え合わせると次の1ないし4の各事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
1 原告が被告から受けた給与所得の額は、昭和四九年は二〇八万三三五二円、昭和五〇年は二七四万二一八七円、昭和五一年は三九一万一四六一円、昭和五二年は四三八万一八五三円、昭和五三年は四九一万三九九六円、昭和五四年は五三一万四〇三九円、昭和五五年は五七七万二四〇三円であり、昭和四九年からBを、昭和五一年からはさらにDを所得税法上の扶養控除の対象たる扶養親族として届け出ていた。
2 Aは、原告と結婚した昭和三一年一一月ころは国鉄の機関士をしていたが、昭和三八年に退職し、共産党の専従として活動するようになつた。そして、昭和三八年一二月の選挙で当選して以来現在にいたるまで、昭和五〇年一二月の選挙で落選したことによるその後の四年間を除いて、一関市議会議員の職にある。
 Aは、議員及び政党役員としての活動に議員報酬の多くを使うために、その収入から生活費として家計に入れるのは、昭和三八年から昭和四二年にかけてはほとんどない状態であり、昭和四二年ころからまとめて何か月分かを入れるようになり、昭和四六年ころからはほぼ毎月入れるようになつたが、その一か月あたりの金額は、昭和四九年ころから昭和五二年ころまでは約五万円ないし六万円、昭和五三年ころから昭和五四年ころまでは約七万円、昭和五五年ころからは約一〇万円というところであつた。また、昭和五五年の所得額は二七九万一五〇〇円であつた。3 原告ら夫婦と同居しているC及びDのうちCは映画館の技師として働いているが、その一か月あたりの収入は、昭和五一年ころから昭和五三年ころまでは約三万円、昭和五四年ころは四万五〇〇〇円、昭和五五年ころから五万円という程度であり、Dには全く収入がなかつた。
4 昭和五六年以降の原告ら夫婦の所得をみると、昭和五六年の原告の所得は五七七万六三八三円であり、昭和五七年においては、原告が六二三万一二五二円であるのに対し、Aは三一八万六五〇〇円であつた。
 右によると、昭和五七年における原告ら夫婦の所得は、原告の方が金額にして三〇四万四七五二円(六二三万一二五二円ー三一八万六五〇〇円)多く、割合にして約二倍(六二三万一二五二円÷三一八万六五〇〇円)という差になつており、右に認定したところに弁論の全趣旨を考え合わせると昭和五六年一月から昭和五九年三月までの期間の所得についてもほぼ右と同じ比率になつているものと認めることができる。そして、Aは、右の所得のうちの相当部分を議員及び政党役員の活動費に費しているのに対し、前掲乙第一六号証の一ないし一〇及び原告本人尋問の結果を考え合わせると原告は音楽、書道及び読書を趣味としているが他に特段の出費を要する活動をしているものではないことが認められるのである。
 右によると、昭和五六年一月から昭和五九年三月までの期間においては、Bは主として原告の扶養を受けており、原告はその収入をもつて原告の一家の生計を維持する者であつたと認めることができる。そこで、原告は、被告に対して右の期間内における家族手当及び世帯手当並びに右両手当を基礎とする別表三の未支給金額欄記載の各賞与の支払を求める権利を有することとなり、被告は、原告に対し、右の合計金額一〇二万四五〇〇円並びにうち昭和五六年一月から昭和五七年二月までの期間における家族手当及び世帯手当並びに昭和五六年上期及び下期の未支給賞与の合計額三七万九八〇〇円については各弁済期日の後である昭和五七年三月一日から、うち昭和五七年三月から昭和五九年三月までの期間における家族手当及び世帯手当並びに昭和五七年及び昭和五八年の各上期及び下期の未支給賞与の合計額六四万四七〇〇円については各弁済期日の後である昭和五九年四月一日から、それぞれ完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。四 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行の宣言の申立は相当でないから、これを却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮村素之 佐久間邦夫 富永良朗)
別表一
家族手当
<06074-001>
合計 三六万六〇〇〇円
別表二
世帯手当
<06074-002>
 合計二八万二三〇〇円
別表三
賞与
<06074-003>
合計 三七万六二〇〇円
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