主文
一 被告が原告に対し昭和四八年一一月一九日付け熊本県指令第六四九号をもつてした風致地区内行為不許可処分を取り消す。
二 被告が原告に対し昭和四八年一一月二〇日付け熊本県指令公衛第六一六号をもつてした墓地経営不許可処分を取り消す。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告(請求の趣旨)
主文同旨
二 被告
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 木竹伐採不許可処分について
(一) 原告は、熊本市<地名略>山林一九四〇平方メートルほか七筆の原告所有の土地九万一四六〇平方メートル(以下「本件土地」という。地(以下「本件墓地」という。)建設及び経営をすることを計画したが、本件土地が本妙寺山風致地区内にあるため、まず、墓地建設実施計画図を作成するための測量に必要な最少限の木竹の伐採行為につき被告の許可を受けるべく、昭和四八年四月一九日、被告に対し、本件土地のうち約三万五〇〇〇平方メートル(択伐率約三八パーセント)について木竹の伐採行為許可申請(以下「本件木竹伐採許可申請」という。都市計画法五八条一項、風致地区内における建築等の規制の基準を定める政令(以下「風致政令」という。)二条一項、風致地区内における建築等の規制に関する熊本県条例(以下「風致条例」という。)二条一項三号参照)をしたが、被告は原告に対し、同年一一月一九日、これにつき、熊本県指令第六四九号をもつて、次の(1)ないし(8)の理由により、許可しない旨の処分(以下「本件木竹伐採不許可処分」という。)をした。
(1) 申請の区域は、位置が市街地の中心及び周辺地域から容易に眺望できる場所であること。
(2) 木竹の伐採面積が約三・五ヘクタールに及ぶ大規模のものであること。(3) 公園墓地建設の全体の予定区域は約一〇ヘクタールにも及ぶ広大な規模のものであること。
(4) 造成計画、植樹計画等から考えれば、容易に造成後のよう壁等が眺望されること。
(5) 公園墓地造成後建立されるであろう墓石の林立も容易に眺望されること。(6) そのほ他墓地駐車場、道路などの部分の区域については、大規模で植樹等ができないところが多く、木竹の生育に支障を及ぼすおそれが少なくないなど風致を損なうおそれがあり、また風致の維持に支障を及ぼすおそれが少なくないこと。(7) 熊本市長から、地域住民のなかに、災害発生の危ぐがあることと、自然環境を保護することは市民共通の願いであるので、墓地を造成することは好ましくない、という意見が表明されていること。
(8) 墓地経営の許可を受けていないこと。
(二) しかし、本件木竹伐採不許可処分は次の理由により違法である。(1) 原告は、風致条例二条一項三号に定める測量に必要な木竹の伐採行為についての許可申請をしたのに、被告は、本件木竹伐採不許可処分をするに当たつて、同条例同条同項二号の宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更についての許可申請に関する許可基準(同条例四条一項五号)を考慮に入れ、また、風致地区内行為許可申請一般についての許可基準となり得ない災害の危ぐ、住民の反対等を理由としたが、これには、条例の解釈を誤り、審査すべからざる要件について審査をした違法がある。
(2) 仮に、災害の危ぐの有無及びこれを理由とする周辺住民の動向が許否の判断に当たつて審査されるべきであるとしても、技術的、専門的見地からみて、被告が不許可の理由とする災害の危ぐはなく、これを理由とする周辺住民の反対もその根拠がない。
(3) 原告は、本件木竹伐採許可申請が手続上熊本市の所管課を経由してなされるべきこととなつているので、当該所管課の行政指導に全面的に従つて右申請をしたのであるが、被告は、原告の求めにもかかかわらず、行政指導をすることなく、いきなり本件木竹伐採不許可処分をした違法がある。
(4) 本件木竹伐採許可申請の対象たる木竹は、三年生ぐらいのものであり、この伐採が風致の維持に支障を来し又は風致を損なうとは考えられず、将来建設される墓地は墓地公園となるからむしろ風致を維持、増進するものであり、しかも、熊本市中心部からの本件土地の眺望の点からしても、風致を害するおそれはないのであるから、本件木竹伐採不許可処分は、風致政令及び風致条例に定める要件を逸脱してなされたものである。
(5) 風致条例に定める規制は補償規定を伴つていないから、同条例による規制は、行為許可をするに当たつて風致を維持するための規制、制限をなし得るということにとどまるのであり、これを超えて行為許可申請を不許可とすることは許されず、本件木竹伐採不許可処分もこの点で違法である。
2 墓地経営不許可処分について
(一) 原告は、昭和四八年四月二日、被告に対し、1(一)記載のとおりの墓地経営についての許可申請(以下「本件墓地経営許可申請」という。)(墓地埋葬等に関する法律(以下「墓地埋葬法」という。)一〇条一項参照)をしたが、被告は原告に対し、同年一一月二〇日、これにつき、熊本県指令公衛第六一六号をもつて、次の(1)、(2)の理由により許可しない旨の処分(以下「本件墓地経営不許可処分」という。)をした。
(1) 地域住民のなかに災害発生の危ぐがあることと、自然環境を保護することは市民共通の願いであるので、墓園を造成することは好ましくない。(2) 熊本市においては、昭和四八年度から都市計画事業として市営墓地約二五〇〇基並びに納骨堂を建設中であるが、昭和五〇年度完成予定であり、当分の間は需要に応ずる見込みである。
(二) しかし、本件墓地経営不許可処分は次の理由により違法である。(1) 被告は右不許可の理由として、前記のほか、墓地の設置についての開発行為に関する風致条例二条の許可がないことをあげるが、その不許可処分が違法であることは前記1(二)のとおりであるから、右許可がないことをもつて本件墓地経営不許可の理由とすることはできない。
(2) 被告は不許可の理由として自然環境の保護、災害発生の危ぐ、墓地需要の充足等をあげるが、これらの点は墓地埋葬法が規定する許可の要件となり得ないし、仮にそうでないとしても、本件墓地経営によつて自然環境の保護が損なわれ、災害発生の危ぐが生ずることはないし、被告の墓地需要の充足の判断も誤つている。
(3) 更に本件墓地経営不許可処分の違法事由として、前記1(二)(3)と同様の事情が本件墓地経営許可申請及び同不許可処分についても存在することがあげられる。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1、2の各(一)の事実は認める。
2 同1(二)の主張は争う。
3 同2(二)の事実中、被告が本件墓地経営不許可処分をするに際して、墓地設置についての開発行為に関する風致条例二条の許可がないこと、自然環境の保護、災害発生の危ぐ、墓地需要の充足を理由としたことは認めるが、その余は否認する。
4 本件墓地経営不許可処分が被告の裁量権の範囲内にあることについて(一) 本件墓地は本妙寺山風致地区内に所在することとなるので、この設置に当たつては、別途風致条例二条による被告の許可を得ることが必要である。しかるに、本件墓地設置についての開発行為に関する右許可申請については、請求の原因1(一)のとおり不許可となつているのであつて、本件墓地経営はこの点から既に実現不能というべきである。
(二) 墓地経営の許可に当たつては、地方自治尊重及び適正な墓地行政推進の立場から、被告は当該市町村の意向をしんしやくするようにしているが、熊本市は、適正な市政執行の上に立つて、「地域住民のなかに災害発生の危ぐがあることと、自然環境を保護することは市民共通の願いであるので、墓園を造成することは、好ましくないと考える。」旨、「一部墓地造成に賛成の意向もあるが、自然環境を保護しようとする大多数の市民の願いを考慮されるようお願いする。」旨及び「当市においては、昭和四八年度から都市計画事業として市営墓地約二五〇〇基並びに納骨堂を建設中であるが、同五〇年度完成予定であり、当分の間は、需要に応ずる見込みである。」旨の市長の意見を表示したので、被告は、これを参照の上検討した結果、次の(1)ないし(4)記載の理由により本件墓地経営許可申請につき不許可とした。
なお、本件墓地の造成に関しては、昭和四八年九月県議会においても、「西山地域における墓地を目的とした開発については、災害発生の危ぐがあることと、美観を損なうことが著しいこと、共同墓地の造成は元来市町村営が原則であること等の事情及び見地から、当該開発については、極めて疑いが残る。」という趣旨の質疑がなされ、これに対し、被告は、熊本市の意向を十分参しやくして取り扱いたい旨を答弁したものである。
(1) 昭和四八年三月七日、熊本市議会が全会一致をもつて、「風致地区に指定されている西山地帯での共同墓園の造成は、自然を破壊し、災害をもたらす危険性をはらみ、「森の都」の再現と住民福祉を標ぼうする熊本市の施策に逆行するもので、関係行政機関におかれては、厳しく規制措置を講じられ、もつて、西山地帯の自然環境の保全に万全を期されるよう強く要望する。」趣旨の決議をし、同月八日被告あてその趣旨の要望を提出したが、市民から選挙された市議会議員をもつて構成された市議会で、出席議員の全員が一名の異議もなく可決したことは、ひいては、市民大多数の共通の意思ともみられるのであり、住民福祉の上からもその意思は尊重されなければならないと考えられる。
(2) 本件墓地造成については、北本妙寺開拓農協Aほか三名から被告あて及び熊本市議会議長あて陳情があり、「本件墓地の早期実現に関する陳情書もあるが、関係住民の多数から、災害発生の危ぐ及び自然環境破壊の見地より反対の陳情、請願が提出され、この意思を無視することは、適当でないものと思われる。(3) 被告が墓地経営の許否をするに当たつて、墓地の場所の選定についての適否判断をすることができることは、墓地、埋葬等に関する法律施行規則五条の要求する申請書の記載事項によつて明らかである。また、墓地埋葬法一〇条一項の許可に際しては、同法一条の法の運用の趣旨に沿わねばならず、ここに規定する「公共の福祉」の解釈については、行政庁たる被告に大幅な自由裁量権が与えられている。これらの見地からすれば、災害の危険がある環境においての墓地の経営(造成)許可申請においては、このことを理由に不許可の処分をすることが許されるというべきである。
しかして、抗弁2(三)において主張するとおり、本件墓地造成によつて、災害がもたらされる要素があるので、被告は、このことをも理由として、本件墓地経営不許可処分をしたものである。
(4) 昭和二三年九月一三日厚生省発衛第九号各都道府県知事あて厚生次官通知及び同四三年四月五日環衛第八〇五八号各都道府県、各指定都市衛生主管部長あて厚生省環境衛生局環境衛生課長通知によつて引用されている昭和二一年九月三日発警第八五号各地方長官あて内務省警保局長、厚生省公衆衛生局長連名通知「墓地の新設に関する件」には、「使用者の増加又は区画整理等のため従来の墓地著しく狭あいとなり新設の必要ある場合は、市町村等公共団体に共同墓地としての許可を与え、区画を設けて神道、仏教、キリスト教等の信者、信仰不明の死者のための埋葬場所を明らかにし、使用上支障なからしむること。」及び「市町村等公共団体の管理に属する共同墓地の新設不可能にして、事情やむを得ざる場合は、寺院、教会等にも、その必要とする範囲内において新設を許可するも支障ないこと。」との趣旨が記載されており、この通知の背景には、墓地の非営利性、永続性等の要求があるといわれているが、熊本市が同市における墓地等の必要数について調査した結果によれば、今後数年間は需要に応じられることがうかがえるので、現在直ちに自治体以外に墓地経営を許可する必要はない。
三 本件木竹伐採不許可処分の適法性についての抗弁
1 一般論として、風致地区内行為許可申請に係る行為自体のみでは風致を害することがないとしても、申請人において計画し将来実施する行為が、明白に申請内容自体と結びつき予定されている限り、行政庁が、これに条例を適用判断して到底許可できない行為であると認めた以上、これを前提とする申請行為自体についてもこれを規制し得ると解することが、行政行為の具体的適用としては正に事宜に適した処分であるというべきである。
そして、本件許可申請に係る木竹伐採行為は、原告の申請書の内容により明らかなとおり、直ちに公園墓地の造成工事に直結するものであるので、被告としては、右申請につき判断するに当たつて、測量のための木竹伐採行為のみにとらわれることなく、進んで、公園墓地の造成が風致に及ぼす影響を判断し、風致の維持に努めるべきである。
2 以上の点を念頭においた上、被告は、本件木竹伐採許可申請について、風致条例四条一項五号及び六号の許可基準に該当しないと判断して不許可にしたのであるが、その理由は左のとおりである。
(一) 本件土地は、熊本市の市街地の中心及び周辺地域から容易に望見される場所である。すなわち、本件土地は標高約一四〇メートルから約二二〇メートル前後の高所であつて、市街地の中心で多数の人が集まり展望を楽しむ熊本城や市内デパート屋上その他市街地の中心の多くの場所からも容易に望見できる位置にあり、公衆の目に触れる機会が多い場所である。また、周辺地域からは本件土地全体を容易に仰ぎ見ることができる。
しかも、本件土地一帯はその周辺を含めて緑程度の高い自然的緑地の連山で、その遠景が全体的に風致を形成している。
また、本件土地は熊本県立自然公園地域の一部分であつて、自然を保護すべき西山地帯の一角を占め、かつ、本件土地の山陵並びに山陵から南側斜面、東側斜面及び北側斜面にかけての直下の一帯は、樹木が存在し緑におおわれた地域で風致の保護に値する自然地である。
これらのことから、この地区の風致を維持すべしとすることは、被告のみの判断でなく、熊本市議会が昭和四八年三月七日付けで、「風致地区に指定されている西山地帯(本件土地を含む一帯)での共同墓地園の造成は、自然を破壊し災害をもたらす危険性をはらみ、「森の都」の再現と住民福祉の優先を標ぼうする市の施策に逆行するもので、関係行政機関におかれては厳しく規制措置を講じられ、もつて、西山地区の自然環境の保全に万全を期されるよう強く要望する。」との決議をして同月八日被告に提出し、熊本市長も、同年一〇月二七日付けをもつて、被告に対し、「地域住民の中に災害発生の危ぐがあることと、自然環境を保護することは市民共通の願いであるので墓地を造成することは好ましくないと考える。」旨の意見を進達したのであり、そのほか本件土地周辺校区の自治会の代表者などからも墓地造成反対の陳情、請願がなされたのである。
(二) 本件木竹伐採許可申請による伐採予定地域は約三・五ヘクタールにも及び、伐採後の墓地公園の面積は一〇ヘクタールにも及ぶのであり、本件土地には松、かしその他の常緑樹がかなり密生していて、これを保存することは風致維持に必要であり、これを伐採したりあるいは墓地を設置することは風致の維持に著しい支障を及ぼすものであるが、原告の墓地の造成計画、植樹計画などから判断にすれば、造成後のよう壁などが容易に望見され、また公園墓地造成後建立されるであろう墓石なども露出し容易に望見され、そのほか駐車場、道路などの部分が相当の面積を占め、植樹の困難な場所が多いため、木竹生育に支障を来すおそれが少なくないことなどから、全体の風致を損ないその維持に支障を来すおそれがある。すなわち、本件木竹伐採許可申請書添付の公園墓地経営許可申請書によれば、約一万本の樹木、花木を植栽することになつており、また原告がその後参考資料として提出した工事設計内訳書によると、高さ三メートルの桜五〇〇本、高さ二・五メートルのくすの木一六三本、高さ一メートルのさざんか五〇〇本、そのほか一五センチメートルから六〇センチメートルまでのおおむらさき、つつじ、あじさいなど一万四五〇〇本、計一万五六六三本の植樹計画が予定されている。一方、墓地造成に伴う石積の延長は四二五〇メートル、その平均的高さ三メートル、道路工事に伴う壁及び石積の延長は一〇二二メートル、その高さ二メートルから一〇メートルまであり、石積及びよう壁の延長だけでも合計五二七二メートルとなり、これに対し、高さ二・五メートル以上の樹木はわずかに六六三本の計画であるから、到底石積、よう壁、墓石などを十分にしやへいすることはできない。また、墓地、駐車場、道路などには植樹そのものができないことを併せ考えると、墓地公園の計画自体からして風致の維持にとつて重大な支障を及ぼす結果となる。
(三) ところで、災害の発生は、これによつて直ちに自然環境を破壊し風致を阻害し又はそのおそれがあるところのものであつて、被告が本件木竹伐採許可申請について許否を決するに当たつて、風致地区の現状及び将来にわたる保持保全の立場から、当然これを判断すべきものである。また、前記(一)のとおり、災害発生のおそれがあることを理由とする墓地建設反対の意見がある以上、被告としては、災害発生のおそれの有無については握した上で風致維持の見地からの結論を出すべきである。
しかして、原告の設計図面などからの検討によると、原告建設予定の墓地内のよう壁工、排水管などから災害をもたらす要素を含んでおり、また墓地外の排水路などの改良をも考慮しなければいつ水などの被害も避けられない状況にある。(四) 風致地区内行為の許否に当たつては、当該行為がその地域又はそれを含む風致を阻害するかどうかの判断がされるが、その前提として風致そのものについての価値判断に迫られ、これについては行政庁である県知事の裁量に任されていることはいうまでもない。本件木竹伐採許可申請に当たつては、本件土地の状況が本妙寺の史跡とこれと一帯をなす周囲の樹林地とともに良好な自然的環境に富んだ土地であるかの判断がされるべきであり、この判断に当たつては、地元の自治体はもちろん地域住民のこの点に関する意見をも十分参しやくされるべきである。しかして、この点については(一)に記載のとおり、被告は、地元住民多数の反対意見、熊本市長、熊本市議会などの反対意見などを尊重し、一部賛成者の意見をも考慮に入れた上、本件木竹伐採不許可処分をしたものである。
(五) 風致地区内行為についての許否に当たつては、当該行為のみでなく、その行為によつて実現しようとする目的行為をも考慮し、それが風致を害するなどの事情から実現不能又はその見込みがないときにも、また当該風致地区内行為を許可すべきでない。本件木竹伐採許可申請は墓地公園の造成を目的としたものであるところ、原告について、墓地経営の許可がなく、また許可が与えられる見込みがないのであるから、本件木竹伐採許可申請について被告は許可処分をすべきではない。四 抗弁に対する認否
抗弁事実はすべて否認する。
第三 証拠(省略)
理由
一 本件木竹伐採不許可処分について
1 請求の原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、本件木竹伐採不許可処分の適法性の抗弁について判断する。(一) 右1で判示したとおり、本件木竹伐採許可申請は、本妙寺山風致地区内の本件土地における墓地建設実施計画図を作成するための測量に必要な木竹伐採をするためになされたものであり、成立に争いのない乙第一号証の四〇、四一、第二号証の二〇、証人B、同C、同D、同E、同Fの各証言及び原告代表者の供述によれば、原告は、当初、墓地建設をするため、被告に対して直ちに本件土地の形質変更許可申請をする予定であつたところ、被告に対する右申請の窓口である熊本市計画課の担当者の指導により、本件木竹伐採許可申請を提出するようになつたこと、しかも、原告は、本件木竹伐採許可申請提出に先立つ昭和四八年四月五日、右窓口の熊本市計画課に、伐採面積約四万五〇〇〇平方メートル、択伐率約五〇パーセントとして、本件土地内における木竹伐採許可申請をしたのに対し、熊本市計画課の指導により、伐採面積約三万五〇〇〇平方メートル、択伐率約三八パーセントと申請内容を改めて本件木竹伐採許可申請をするに至つたこと、本件木竹伐採許可申請書の「跡地の処理方法」の欄には「測量ののち公園墓地の建設」と記載されているが、本件木竹伐採許可申請に対する被告の許可がなされ、墓地建設実施計画作成のための測量が完了した後において、原告が墓地建設をするための墓地公園の設計をし、これをもとにして、被告に対し、更に、墓地建設についての土地の形質変更許可申請を別途提出しなければならないとの点について、原告はもちろん被告の事務担当者においても、当然のこととされていたこと、以上の事実が認められる。(二) ところで、都市計画法五八条一項は、風致地区内における行為の規制につき、政令で定める基準に従い、条例でこれをすることができる旨規定し、これに基づき、風致政令は、二条において規制が都道府県知事の許可によつてなされること及び規制の対象となる行為につき規定し、三条において右許可の基準を詳細にわたつて規定しており、熊本県における風致条例も右政令の規定に従つた規定をしているのである。このように、許可の基準について政令及び条例で詳細にわたつて規定され、しかも、右規制が私人の所有権等私権の行使を制約する結果となることからみれば、被告が右許可をするか否かを決定するに当たつては、許可申請に係る行為について右政令及び条例が定める基準に拘束されることはいうまでもない。しかして、原告が申請したのは、(一)で判示した事実にかんがみれば、測量のための木竹伐採の許可なのであり、風致政令三条四号及び風致条例四条一項六号には、木竹の伐採についての許可基準が規定されているのであるから、被告としては、右許可基準のみに従つて右許可申請に対する許否の処分をしなければならないと解される。したがつて、本件木竹伐採許可申請に対しては、被告主張のごとく土地の形質の変更についての許可基準である同条例四条一項五号の事由をしんしやくして、本件木竹伐採許可申請に係る行為の後に予定される墓地造成が風致を損なうかの点につき判断することはできず、まして、墓地造成とともに原告が予定している墓地経営につき、別個の行政法規である墓地埋葬法で定める被告の許可が得られるかどうかを、本件木竹伐採許可申請に対する許否の処分をするに当たつて考慮することは許されないというべきである。
なお、風致条例四条一項六号に規定する木竹伐採の許可基準中には、土地の形質変更等をするために必要な最小限度の木竹の伐採についてのものが明記されているが、これは、別途又は同時に土地の形質変更等についての許可申請がなされている場合に関するものであつて、本件のように、木竹伐採許可申請後に、新たに土地の形質変更許可申請がなされる予定であるにすぎない場合についてのものではないと解されるから、この条例の規定から直ちに、将来予定される土地の形質変更である公園墓地建設について風致条例の許可基準に合致するかどうかを、本件木竹伐採許可申請に対する審査に当たつて考慮することができると解することはできない。(三) そこで、測量のための本件木竹伐採許可申請が、都市計画法五八条一項及びこれによつて定められた風致政令、風致条例の基準に適合するかの点について検討する。
本件木竹伐採許可申請に係る行為は、風致政令二条一項、風致条例二条一項三号によつて、被告の許可が必要とされている風致地区内の木竹の伐採であるが、そのうち、同条例四条一項六号ロの「森林の択伐」に該当することについては当事者間に争いがなく、森林の択伐についての被告の許可基準としては、同条例四条一項六号の「伐採の行なわれる土地及びその周辺の土地の区域における風致をそこなうおそれが少ないこと」と規定されているのみである。
被告は、測量の後に建設される墓地についての風致阻害性の事実を主張しているが、前記(二)で判示したとおり、本件木竹伐採行為許可申請に係る行為そのものが、いかにして右許可基準に合致しないかの点についてのみ判断すべきところ、この点を証明するに足る証拠はなく、かえつて、成立に争いのない乙第三号証の一、二、第四号証、第八号証の一、第九号証の二一、第一四号証の二三、本件土地付近を撮影した写真であることにつき争いのない乙第九号証の一ないし二〇、第一四号証の一ないし二二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五号証、証人Bの証言及びこれによつて真正に成立したものと認められる乙第八号証の二、原告代表者の供述並びに検証の結果(第一、二回)によれば、
(1) 本妙寺山風致地区は、旧都市計画法(大正八年法律第三六号)一〇条二項に基づいて昭和五年一二月一日に指定され、現行の都市計画法施行後も継続して存置されているが、熊本市の西に位置し、標高約二一〇メートルの本妙寺山と標高約二四五メートルの天狗山を含んでいること、
(2) 本件土地は、天狗山の頂上付近からほぼ尾根線上を南東に伝つて本妙寺山の頂上に至りこれを通過して更に東に尾根線上を伝つて標高約一四〇メートルの地点までに至る線より北側の斜面に位置する約九万一四六〇平方メートルの土地であり、樹木におおわれた原生の山林であること、
(3) このような本件土地の位置、形状により、熊本市のうち<地名略>などの北西部地域及び本件土地に近接する<地名略>などからは、本件土地は、天狗山、本妙寺山の頂上一帯を占めるものとして望見されるが、尾根の南側(市街地側)一体は国有林であつて、熊本市の中心部から見るとき、本件土地は、大部分が天狗山、本妙寺山の裏側部分となり、一部が尾根線上に望見されることにすぎないこと、以上の事実が認められ、これらの事実に、本件木竹伐採許可申請に係る行為が測量のためになされるものであること、及び、原告としては、右許可申請に係る伐採面積と択伐率が被告の許可処分において申請のとおり決定されることを固執してはいなかつたこと(これは、原告代表者の供述によつて認められる。)を併せ考えると、本件木竹伐採許可申請に係る択伐は、風致を損うおそれが少ないものと認めることができる。
(四) 以上判示してきたところによれば、本件木竹伐採不許可処分の適法性について主張する抗弁1はすべて理由がないことに帰し、右処分は違法として、取消しを逸れない。
二 本件墓地経営不許可処分について
1 請求の原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、本件墓地経営不許可処分の違法性の有無について判断する。(一) まず、墓地埋葬法一〇条一項が、墓地を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないと規定したのは、同法一条に規定されている同法の目的に照らせば、墓地経営が、国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われるべく、例えば、公衆衛生の見地からみて好ましくない地域あるいは形態で行われることを防止しようとしたものであると解せられる。そして、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件によつて墓地経営の適否が一律的に定まり難いため、同法においては右許可基準が明定されなかつたものと思料せられるのであり、この意味において、都道府県知事が右許可を与えるかどうかは、その自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である。しかし、都道府県知事の右許否の処分は、右に示した右法条の趣旨、目的に照らしてなされなければならず、ここに、都道府県知事の右裁量権が認められた限界が存し、右趣旨、目的を逸脱した動機に基づいてなされた許否の処分は、裁量権行使の範囲を逸脱したものとして、違法といわざるを得ないと解される。また、右許否の処分が法の趣旨、目的の範囲に属する要件に基づいてなされたとしても、その要件の認定が合理性のあるものとして許容される限度を超える場合にも、裁量権行使の濫用として、この処分は違法といわざるをえないものと解すべきである。(二) そこで検討するに、まず、被告が、本件墓地設置についての開発行為に関する風致条例二条の許可申請が不許可となつたことを本件墓地不許可処分の理由の一つとしたことについては当事者間に争いのないところ、前記一2(二)で判示したとおり、原告は風致条例に関する右許可申請をしておらず、風致条例に関して不許可となつたのは測量のための木竹伐採許可申請なのであるから、右不許可の理由は、前提を欠き、合理性がないものといわざるを得ない。
(三) 次に、被告が本件墓地経営不許可処分をした理由の一つとして、自然環境の保護及び災害発生の危ぐがあげられていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一一号証の七、八、一〇、一二及び一五ないし一八によれば、熊本市長が被告に対し、昭和四八年一〇月二七日付けで、「地域住民のなかに災害発生の危ぐがあることと、自然環境を保護することは市民共通の願いであるので、墓園を造成することは、好ましくないと考える。」旨、及び、同年一一月一五日付けで、「一部墓地造成に賛成の意向もあるが、自然環境を保護しようとする大多数の市民の願いを考慮されるようお願いする。」旨の意見を、本件墓地建設に関して表示したこと、同年九月定例熊本県議会において、「西山地域における墓地建設を目的とした開発については、災害発生の危ぐがあることと、美観を損なうことが著しいこと、共同墓地の造成は元来市町村営が原則であること等の事情及び見地から、当該開発については、極めて疑いが残る。」という趣旨の質疑がなされ、これに対し、被告が、熊本市の意向を十分参しやくして取り扱いたい旨を答弁したこと、同年三月七日、熊本市議会が全会一致をもつて、「最近本市を取り巻く自然環境は、開発整備の名のもとに破壊の一途をたどつていることはまことに遺憾にたえない。就中、多くの国有林を抱え、風致地区に指定されている西山地帯での採石場の新設や、共同墓地の造成は、自然を破壊し、災害をもたらす危険性をはらみ、「森の都」の再現と住民福祉の優先を標榜する本市の施策に逆行するものといわなければならない。よつて、関係行政機関におかれては、採石法、墓地、埋葬等に関する法律、熊本県風致地区内における建築等の規制に関する条例等、関係法令・条例規制に照し、厳しく規制措置を講じられ、もつて西山地帯の自然環境の保全に万全を期されるよう強く要望する。」との決議をしたこと、本件墓地造成については、熊本市花園校区自治連合会副会長など付近住民において、熊本県議会議長、熊本市長などに対し、災害発生の危ぐ及び自然環境破壊の見地より、反対の陳情書等が提出されたこと、以上の事実が認められる。
しかし、右熊本市長の意見、熊本市議会の決議及び関係住民の陳情等は、いずれも、自然環境破壊と災害をもたらす危ぐの見地のみから表明されたことは、右認定事実から明らかである。そして、墓地埋葬法一〇条一項の趣旨、目的は、前判示のとおり、墓地経営が公共の福祉の見地から支障なく行われるべきことにあるとされるのであるが、右公共の福祉の見地とは、国民の宗教的感情に適合することとか、公衆衛生の見地とかの同法一条に規定されている内容から推し量られるものに限られるべく、これから大きくかけ離れる事情までも右公共の福祉の見地に含まれるものと解することはできない。この点において、自然環境破壊と災害の危険性の防止の見地は、右例示するところとは全く異質のものであり、これらが右公共の福祉の見地に含まれるものと解することはできないというべきである。したがつて、これらについては、ほかの行政法規からの規制がなされることは格別、墓地埋葬法の右規定による被告の許否の処分に当たつて考慮されるべき事情とは解し難い。してみると、被告が本件墓地経営不許可処分をするに際しては、右自然環境の破壊と災害防止の見地を考慮の対象とすることはできず、右見地からの事情を理由とする本件墓地経営不許可処分は裁量権行使の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。(四) また、被告が墓地の需要の充足を本件墓地経営不許可処分をした一事由となしたことは当事者間に争いがないところ、墓地埋葬法一〇条一項の前示趣旨、目的にかんがみれば、墓地の永続性、墓地の健全な経営の見地は同法条が予定しているところと考えられ、このことからすれば、墓地経営は営利を目的としない公益的な事業として運営されるべきであつて、墓地の経営主体は営利を目的としない公益的な団体であることが望まれるとの前提のもとに、原則として地方公共団体が墓地を経営すべきであり、事情やむを得ない場合には、宗教法人、公益法人等による経営も許可されるべきであるとの行政解釈(昭和二三年九月一三日厚生省発衛第九号各都道府県知事あて厚生次官通知、同四三年四月五日環衛第八〇五八号各都道府県、各指定都市衛生主管部長あて厚生省環境衛生局環境衛生課長通知及び昭和二一年九月三日発警第八五号各地方長官あて内務省警保局長、厚生省公衆衛生局長連名通知、以上は成立に争いのない乙第三号証の三によつて認められる。)も理由のあるところである。そして、右事情やむを得ない場合の一事由として、墓地の供給が地方公共団体の経営によつて、需要をまかなえないとの事情が含まれ、墓地経営の許可に際しては、墓地の需要が適正であるかどうかの判断がなされてしかるべきである。
ところで、前掲乙第一一号証の七及び成立に争いのない乙第一一号証の二〇によれば、今後一〇年間は、これまでに許可を受けた民間の共同墓地及び昭和五〇年までに完成予定の熊本市営墓地の造成によつて熊本市の墓地の需要をまかなえると熊本市環境衛生課において見込んだこと、熊本市長は、昭和四八年一一月一五日付けでその旨被告に意見を表明したことが認められるのであるが、他方、本件墓地経営不許可処分以後の熊本市における墓地経営許可の推移を見るに、成立に争いのない甲第一八号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二三号証及び弁論の全趣旨によれば、墓地の拡張、河川改修その他公益に供するための既存墓地の代替墓地建設、檀家の要望による新設等における墓地建設などにつき被告の許可がなされたのは格別として、昭和五一年六月二二日、財団法人敬愛会が熊本市<地名略>において計画基数二〇〇の龍田霊園を経営することにつき被告の許可がなされたことが認められる。
被告が右処分に当たり、墓地の需給の判断をした上で許可をしたのであれば、本件墓地経営不許可処分後三年足らずの間に被告が熊本市における墓地経営の許可をしたことは、少なくとも、本件墓地経営不許可処分時における被告の墓地の需給予測は結果的に誤つていたことを示すものということができるし、右乙第一一号証の二〇によれば、熊本市環境衛生課の見込んだ墓地の需給予測も、現在利用されている熊本市内の墓地の数など基礎的な算出根拠自体において推測により計算されたにすぎないことが認められることを併せ考えると、被告は、本件墓地経営不許可処分をするに当たつて、熊本市における墓地の需給状況を正確には握していなかつたものというほかない。
そして、原告本人の供述によれば、原告代表者Gが公園墓地を計画してその調査に着手した昭和四七年に、熊本県衛生部の指示により窓口として行政指導に当たつた熊本市西保健所の係員は、民間経営の墓地ができることは市の経費負担が軽減されて喜ばしいことである旨述べていたことが認められるし、民営墓地が市営墓地と異なり、市民でない者をも対象となし得る利点があることや、さきに判示した不許可処分をするに至つた経緯をも考えると、被告が本件墓地経営不許可処分の理由の一つに墓地の需要の充足を掲げたのは、他の不許可理由に付加した補足的な意味を有するのにすぎないと認められるのであり、公園墓地の規模、墓の基数について行政指導することなく墓地の需要の充足を不許可処分の唯一の理由とするためには、単なる見込みにとどまらず、正確な数字のは握に基づく合理的な裏付けが必要であると解されるのであつて、本件墓地経営不許可処分は、その点に限つていえば、恣意的に、安易になされたものといわざるを得ない。
したがつて、被告の裁量権の範囲内に属する墓地の需給状況の認定は、合理性のあるものとして許容される限度を超えていると判断せざるを得ない。
(五) 右(一)ないし(四)において判示したところによれば、その余の請求の原因につき判断するまでもなく、本件墓地経営不許可処分は、裁量権行使の範囲を逸脱しかつ濫用したものとして、違法であり、取消しを免れないというべきである。
三 してみれば、原告の本訴請求はいずれも正当であるから、これを認容すべく、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 堀口武彦 塩月秀平 加登屋健治)
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