主文
本件訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一、本案前の裁判
(被告)主文同旨の判決を求める。
二、本案についての裁判
(原告ら)
(一) 被告が昭和四八年五月一日、岩手県告示第五九一号をもつて、盛岡広域都市計画用途地域のうち、別紙土地目録表示の地域を工業地域と指定した旨の処分が無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(二) 予備的に、被告が昭和四八年五月一日、岩手県告示第五九一号をもつて、盛岡広域都市計画用途地域のうち、別紙土地目録表示の地域を工業地域と指定した旨の処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(被告)
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決を求める。
第二 原告らの主張
一、原告らの請求原因
1、原告Aは、昭和三三年ごろより釜石精神病院を経営していたところ、昭和三六年五月八日法人組織に変更して医療法人仁医会(以下、原告法人という。)となり、さらに原告Aは、昭和三九年一〇月一〇日以来、岩手県紫波郡<地名略>において、都南病院を開業しているものである。
2、右都南病院は医師四名、看護婦その他の従業員六三名を擁し、患者収容定床一八四名の精神専門病院であり、一方、別紙土地目録表示の地域(以下、本件地域という。)は原告らの所有であり、現在右病院の敷地として利用されているほか、将来同病院の施設拡張に伴い増築等が予定されている。
3、原告らが同病院を右現在地に開業したのは、一つには盛岡市、都南村当局の強い要請があつたことと、同市が精神病院の立地条件である(イ)閑静な場所で、患者の作業、運動のための比較的広い土地であること、(ロ)交通の便利な場所にあること、という二つの要素を充たしていたからである。
4、ところが、被告は、昭和四八年五月一日、岩手県告示第五九一号をもつて、本件地域を含む通称東見前地区(都南病院周辺の国道四号線東側の区域)を工業地域に指定する旨の処分を行つた(以下、これを本件指定処分という。なお右告示では他にも種々の指定処分が同時になされている。)。
5、しかしながら、本件指定処分には次に述べるとおり、
その手続・内容において重大且つ明白な瑕疵がある。
(一) 都市計画法九条七号は、「工業地域は、主として工業の利便を増進するため定める地域とする。」と定め、これを受けて建築基準法四八条七項は、「工業地域内においては別表二(と)項に掲げる建築物は、建築してはならない。」旨規定したうえ、同法別表二(と)項において、右「工業地域に建築してはならない建築物」として、病院を掲げている。他方、都市計画法一六条によると、「県知事又は村は、都市計画を決定しようとするときは、あらかじめその旨を公告し、公聴会等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。」とされている。そうすると、本件指定処分によつて不適格となる唯一の建築物が都南病院であることは、被告において事前調査により十分承知していた筈であるから、公聴会を開催し、原告らを公聴会の公述人に指定するなどしてその意見を徴すべきことは当然といわねばならない。しかるに、被告は何らそのような手続を履践していない。(二) 本件指定処分により、原告らが都南病院を拡張することは極めて困難となり(前掲建築基準法参照)、原告らの財産権が侵害されるうえ、将来近隣に工場等が建設されると精神病院としての環境は完全に破壊されることが予想され、患者の人権侵害になりかねない。
(三) さらに、都市計画法一三条一項二号は「地域地区は、土地の自然的条件及び土地利用の動向を勘案して、住居、商業、工業その他の用途を適正に配分することにより、都市機能を維持増進し・・・・・・・・・」と定めている。しかるに、(1) 病院敷地あるいはその予定地たる本件地域を、工業地域に指定する必然性は全くない。現に、本件地域とほぼ同じ条件下にある国道4号線を隔てて向い合つている地域は、住宅地域に指定されているのである。
(2) また、本件地域及びその付近の公営住宅の建つている地域を工業地域から除外し、住宅地域に指定することは十分に可能であつた。現に、指定当時既に工場の建つているような仙北町北日本機械株式会社付近など既得権を尊重し、基準の一〇ヘクタール未満の狭い土地を工業地域に指定している例もある。
かかる事実から推しても、本件指定処分が何ら合理性のない、被告の恣意的な裁量によるものであることは明白である。
したがつて、本件指定処分は無効というべきであり、
仮りに前記瑕疵が重大明白な瑕疵に該当しないとしてもなお取消を免れない。6、よつて原告らは被告に対し、本件地域の範囲において、主位的に本件指定処分の無効確認を、予備的に本件指定処分の取消を求める。
二、被告の本案前の申立に対する反論
1、原告らは、近時、都南病院に患者の作業療法上必要な作業場を建設する予定のところ、前記のとおり、本件指定処分によつて病院施設の建築は極めて困難とならざるをえず、原告らの利益は具体的に侵害されている。従つて、本件指定処分は抗告訴訟の対象たりうると解すべきである。
2、本件取消訴訟における出訴期間の起算点は、本件指定処分が告示された昭和四八年五月一日ではなく、原告らが本件指定処分があつたのを現実に知つた昭和四九年三月二日と解すべきである。蓋し、告示のあつた時に処分の存在を知るということは一般人にとつて全く不可能であり、殊に本件指定処分の場合、公聴会の開催等事前に住民の意見を反映させる手続も全くなされておらず、原告らとしては本件指定処分を予想することさえ不可能な状況にあつたからである。
第三 被告の主張・認否
一、本案前の申立の理由
1、都市計画法八条一項に基づく用途地域の決定は、同法の趣旨に従い、一般的に土地利用の方向づけをなすいわゆる一般処分であり、規範の設定の如き性質を有するものであつて、これにより直に私人に対し特定、具体的権利の侵害ないし制約を生じさせるものではない。したがつて、用途地域決定のうちの本件指定処分は未だ処分性を欠き、抗告訴訟の対象たりえないから、本件訴えはいずれも却下を免れない。また、地域指定を可分的に評価して、その一部の無効確認ないし取消を求めることも、地域指定の性質、目的に照らして許されず、不適法というべきである。2、仮りに、本件指定処分が抗告訴訟の対象たりうるとしても、行政処分に対する取消訴訟は、処分のあつたことを知つた日から三ヵ月以内に提起しなければならない(行政事件訴訟法一四条一項)。
(一) ところで、被告及び都南村は、本件指定処分にあたり、長期間にわたる周到な広報活動を行つているので、原告らは当然昭和四八年五月一日付で本件指定処分がなされたことを知つていた筈である。
(二) 仮りにそうでないとしても、岩手県都市計画課長の原告らに対する昭和四八年一二月二一日付回答書には、本件地域が工業地域に指定されていることを明記しており、また、右前日には同課長が原告らに対し、同趣旨の口頭説明を行つていることからしても、原告らはそのころ本件指定処分の存在を認識していたと言わざるをえない。
してみると、原告らが昭和四九年四月一五日に本件取消訴訟を提起したことは、明らかに処分を知つた時から三ヶ月以上を経過していることになり、右訴は不適法として却下を免れない。
二、原告らの請求原因に対する認否
1、原告ら主張の請求原因1の事実は概ね認める。ただし、法人組織変更は昭和三六年三月三一日付であり、医療法七条による開設許可は同年五月二五日付である。2、同2の事実のうち、都南病院の増築計画は不知。その余は認める。3、同3の事実のうち、盛岡市、都南村の要請があつたことは不知。その余は認める。
4、同4の事実は認める。
5、同5の事実はすべて争う。
三、本件指定処分の適法性
1、本件指定処分の手続的適法性
被告が昭和四八年五月一日、岩手県告示第五九一号をもつてした盛岡広域都市計画用途地域の決定(以下、本件決定という。本件指定処分は本件決定のうちの一つである。)は、都市計画法所定の手続を踏んだものであり、何ら違法な点は存在しない。その経緯を示せば次のとおりである。すなわち
(一) 本件決定に至る作業は、昭和四六年一月一日付改正建築基準法の施行に伴つて開始され、先ず用途地域の立案のための種々の調査が昭和四七年半ばまで行なわれた。
(二) 続いて案の作成に移り、住民の意見を反映させるために約八万枚の説明案内用パンフレツトを印刷し、昭和四八年一月下旬から同年二月下旬にかけて、これを盛岡市、滝沢村、都南村及び矢巾町内の各戸に配布したうえで、都市計画法一六条に基づき、同年二月に住民説明会及び公聴会を開催した(公聴会は同年二月二日付の県報に告示され、同月二二日盛岡市の教育会館ホールで開催)。(三) 被告は、公述人の意見を参考にしたうえ、同月二四日、県としての素案を決定し、建設省都市局長と事前協議の結果、同月二六日に同局長から異存ない旨の回答があつたので、同年三月七日から同月二〇日までの二週間、同法一七条に基づき案の縦覧を行つた。
(四) 右縦覧期間中、盛岡計器株式会社から意見書の提出があつたが、採択すべき根拠がないと認められたため、採択しないこととして前記県案な本件決定の最終内容として確定し、同月二六日、同法一八条に基づき、右会社から提出された意見書の要旨を添付のうえ右県案を岩手県都市計画地方審議会に付議した結果、同審議会より原案通り可決した旨の答申を得た。そして同月二七日、建設大臣の認可を得た。
(五) 被告としては、都市計画法上、建設大臣の認可後直ちに本件決定の告示をし、即日発効させることも可能であつたが、本件決定の結果、従来の用途地域よりも細分化、専用化された規制が加わることとなり、地域住民に与える影響が大きいことから、一ヵ月間の広報期間を設け、この間に市町村の広報紙等により本件決定がなされる旨の広報を行つたうえで、同年五月一日付岩手県報により決定告示を行つた。
なお、右(一)ないし(五)の全経過を通じて、原告らからの意見、質問等は皆無であつた。
2、本件指定処分の実体的適法性
(一) 都市計画における用途地域の決定は、都市地域における土地利用に合理的規制をもうけ、その制限の下に秩序ある発展を図ろうとするものである。したがつて、本件指定処分は、盛岡市及び周辺地域の将来にわたる都市発展の展望のもとに、大局的見地から決定されるべき性質のものであるから、工業地域に指定した広汎な地域の中に、原告らの都南病院が含まれていることをもつて、直ちに重大且つ明白な瑕疵があるとは言えない。
(二) 本件指定処分は、権限ある行政庁の良識ある裁量によつてなされたものであり、何ら瑕疵は存在しない。すなわち
(1) 通称東見前地区は、昭和四五年一二月二五日付の盛岡広域都市計画用途地域決定では、準工業地域に指定されていたが、同年行なわれた都市計画法及び建築基準法の改正により、従来の地域地区制度がより細分化、専用化されたことに伴い(註-旧制度における用途地域は「住居地域」「商業地域」「準工業地域」「工業地域」の四地域であつたが、改正により右地域のほかあらたに「第一種住居専用地域」「第二種住居専用地域」「近隣商業地域」「工業専用地域」が設けられた。)、新しい用途地域に変更を余儀なくされた。
(2) 昭和四七年四月二八日付の建設省都市局長通達及び同局の指導により明らかにされた新しい用途地域の決定基準によれば、先ず、工業系の土地利用を図るべき区域の選定基準として(1)市街化区域及び市街化調整区域の整備、開発又は保全の方針に基づいた土地利用計画に適合すること、(2)現在及び将来の工業生産の規模を勘案し、これに対応する工場のために必要な土地を確保すること、(3)工業の業種、規模等を勘案して、工業生産活動の能率性を増進し、あわせて公害の発生を防止するための立地が行なわれるよう工業用地を適切に配分することが挙げられており、次に三つの工業系用途地域のうち、いずれに決定すべきかの基準については、(a)既存の工業地で、住宅等の混在を排除しあるいは防止すべき区域及び新に工業地として計画的に整備すべき区域等については、工業専用地域を積極的に定めること、(b)住宅等の混在を排除することが困難又は不適当と認められる場合は、工業地域もしくは準工業地域と定めること、(c)工業地域については、工業専用地域を基本とし、建物の用途の混在度合い等からみて、工業専用地域とすることが不適当な区域については工業地域とすること、(d)準工業地域は、土地利用の内容が適切な用途に特定されている場合、又は住宅等の混在が特に著しい場合を除き、原則として定めないこととし、次の四つの地域-(イ)流通業務施設の立地する地区として整備済み又は整備されることが確実な区域、(ロ)沿道サービス施設が現に立地しているか、又は立地することが確実な主要幹線沿いの区域、(ハ)公害を発するおそれのない工場の立地する工業団地として整備済み、又は整備されることが確実な区域であつて、住宅の立地をも認めることが適当な区域、(二)住宅又は商業施設と準工業地域において許容される工場とが既に混在している区域-についてのみ定めることができる、とされている。
(3) 被告が本件指定処分をなすに至つた理由は次に示すとおりであり、右基準に照らし十分合理性があると言うべきである。
(i) 本件地域を含む通称東見前地区(以下、本件地区という。)については、国道四号線に接し、都市計画道路三本柳湯沢線を経て東北縦貫自動車盛岡南インターチエンジ及び岩手流通センターの利用が容易であり、運輸流通条件に恵まれていること、宅地としての未利用地が比較的多く新規開発が可能であること、住宅及び商業建築物が少く、用途の混在の比較的少ない一団の工業地として土地を有効に利用することが可能であること等の理由により、都市計画上市街化区域及び市街化調整区域の整備、開発又は保全の方針において、工業地が最適とされている。(ii) 建物用途別現況調査の結果、本件地区には、住宅、病院及び小規模な商店等の既存建築物があり、これを排除することが困難であると認められたので、工業専用地域を定めることは不適当と判断された。
(iii) 用途地域の決定基準において、準工業地域を定める区域は非常に狭く限定されており、しかも本都市の既成市街地にある工場の移転用地確保、将来の予想工業出荷額に対応した工業地の確保等の必要があるうえ、都市規模の割合に工業地の少ない本都市の現況からしても、本件地区を比較的規模の大きい工場も建築できる工業地として配置し、もつて産業経済の発展に寄与することが必要と認められることから、本件地域は工業地域と定めることが適当であると判断した。(iv) なお、事前調査の過程で、本件指定処分によつて不適格となる建築物は都南病院が唯一のものであることが判明したが、次の理由により、同病院に対して直接的に損害を与えることにはならないと判断した。イ、建築基準法の規定により、同病院が残存すること、及び同病院の総床面積の二〇パーセントの範囲内での増改築が容認されること
ロ、同病院周辺を従来通り準工業地域と定めたとしても、その周辺が工業地域であることから、周囲の土地利用より受ける影響はほぼ同程度であることハ、用途地域の如何にかかわらず、病院の安全については、特別に考慮すべき対象とされているなど、別途それぞれの法令に基づき一定の環境の確保が可能であること
第四 証拠関係(省略)
理由
被告は、行政処分に対する抗告訴訟において請求の対象とされうる処分は、これにより直ちに私人に対し特定、具体的権利の侵害ないし制約を生じさせるものでなければならないところ、都市計画法八条一項による用途地域の決定の一環としてなされた本件工業地域指定処分は、いわゆる一般処分であり、規範の設定の如き性質を有するものであつて、これにより直接私人に対し、特定、具体的権利の侵害ないし制約を生じさせるものではないから、未だ処分性を欠き、抗告訴訟の対象となりうる行政処分に該当しない旨主張するので、先ず、都市計画法八条一項による用途地域の決定が抗告訴訟の対象となり得るか否かについて審案するに、都市計画としてなす用途地域の決定は、特定の個人に対してなされる処分ではなく、ある一定の範囲の地域を、ある種の用途地域に定めるにすぎないものであり、なる程、都道府県知事が都市計画として用途地域を定める決定をなし、その旨を告示すれば、その都市計画はその告示のあつた日からその効力を生じ(都市計画法二〇条)、その地域内においては、建築基準法四八条、五二条、五三条等により、特定の建築物の建築が禁止され、容積率(建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合)、建ぺい率(建築物の建築面積の敷地面積に対する割合)等につき建築制限を受けるに至るのであるから、その地域内に存在する土地、建物に関して権利を有する者は、建築物の新築、増築等について法律上の制限を課せられることは明らかであるけれども、かかる建築行為の制限は都市計画法以外の法律によりひとしく受けるものであつて、用途地域の決定自体の効果として発生する権利制限とはいえないうえ、右制限の存在により直ちに、その地域内の土地、建物の所有者等の権利に具体的変動を及ぼすものとも解しえない。従つて、用途地域の決定は、直接、特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、また施行区域内の土地、建物の所有者等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分ではないといわなければならない。そして、施行区域内における建築物の新築、増築等について不許可処分がなされた場合には、用途地域決定の瑕疵を主張して、右の不許可処分の効力を争うことができ、これによつて、具体的な権利侵害に対する救済の目的は、十分に達成することができるものと言うべきであるから、直接それに基づく具体的な権利変動の生じない用途地域決定の段階では、未だ訴訟事件としてとりあげるに足るだけの事件の成熟性を欠くものと言わざるをえない。
よつて、都市計画法八条一項による本件用途地域決定の一環としてなされた本件工業地域指定処分については、無効確認訴訟及び取消訴訟の対象とはなし得ないものと解するのが相当である。
結論
以上のとおりで、原告らの本件訴は不適法であるから、いずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 根本 久 須藤浩克 三浦 潤)
別紙(省略)
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