主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 原告が被告会社八幡営業所の検針員であることを確認する。
2 被告は原告に対し、金六八万二〇〇〇円および昭和四六年八月以降毎月二七日限り金六万二〇〇〇円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに第二項につき仮執行宣言。
二 被告
 主文同旨の判決
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 当事者
 被告は、肩書地に本店を置き、九州一円に多数の支店、営業所、工場を有し、電力の供給を業とする会社であるところ、原告は、昭和三五年一〇月一日、被告との間に、委託検針契約を締結し、以来、被告会社八幡営業所の検針員として被告会社の検針業務に従事してきた者である。
2 労働契約の成立
 原告は、次に述べるような業務の実態からみて、被告の指揮命令下に検針業務に従事しているというべきであるから、本件委託検針契約は、その実質において労働契約であつて、原告は労働基準法上の労働者にあたる。
(一) 原告は、昭和三五年三月、八幡中央高校を中途退学し、訴外岡崎工業株式会社に勤務していたが、被告会社八幡営業所で検針員を募集していることを知り、これに応募し、同年八月末ころ、右営業所において、所長等の面接試験、身体検査をうけたうえ、多数の応募者のなかから採用され、同月九月一日から一ケ月間、臨時検針員として、先輩検針員の指導のもとに八幡東区枝光地区の検針業務を研修し、同年一〇月一日から正式の検針員となり、被告会社の指定した八幡西区陣山、築地町一帯(一九業務区)及び同区田町、黒崎地区(二〇業務区)の検針に従事することになり、以後被告会社から指定された検針地区において、指定されたとおりの方法で検針する業務に従事してきていたものである。
(二) 原告の日常の仕事の内容は、朝、まず、被告会社八幡営業所に出勤し、前日、営業課検針係員から受取つていた「電気ご使用量お知らせ票」ならびに「控」を持ち、被告会社の交付した身分証明書を携帯し、さらに、被告会社の支給にかゝる被告会社マーク入りの作業衣、作業帽を着用したうえ、当日指定されている地区の各需要家宅に赴き、各需要家宅において、積算電力計(メーター)の当月指示数を読みとり、これを「電気ご使用量お知らせ票」及び「控」に記載し、さらに、当月の電気使用量を算出し、右「電気ご使用量お知らせ票」によつて、当該需要家に当月電気使用量を通知すること及びこのようにして、当日、指定された地区の各需要家の検針を終えると、再び前記営業所に帰つて机上の事務に移り、検針の際、記載してきた各需要家の当月指示数をカード(電子計算機に入れるもの)にマークし、さらに、これを点検し、整理したうえ、営業課検針員に引渡し、同時に翌日検針すべき地区の各需要家の「電気ご使用量お知らせ票」「控」及びカードを同係から受取り、翌日の検針の道順に従つて整理し、これによつてようやく当日の勤務を終えるものである。
 ところで、右の如き検針方法は、いわゆるマーク検針と呼ばれているものであるが、これらの検針方法は、いずれも被告会社の一方的決定によるものであつた。(三) 右のような検針業務は、被告会社が指定した日に指定した地区を行うことが義務づけられており、原告ら検針員が自由に、検針日、検針地区をえらんで検針することは許されていない(これを定例日制という)。ことに、昭和四三年二月、被告会社が電子計算機を導入し、従来、人手によつて行つてきた各需要家の電気使用量、料金の算出及び領収証の作成を一挙に右電子計算機によつて機械化し、いわゆる一・七バンド制(電子計算機を中心として、検針ー料金計算ー集金の料金回収過程を七日間で一巡するシステム)を採用して以来、いわゆる定例日検針はより厳格におこなわれるようになるとともに、原告らの検針業務は、被告会社の料金回収業務の流れの中に、完全に組みいれられるに至つた。
(四) 原告が、昭和四五年八月当時、検針を担当していた地区は、八幡区黒崎(二二、二三業務区)、同区尾倉、帆柱地区(一四、一五、一六業務区)、同区荒生田、大蔵地区(〇八、〇九業務区)及び同区神田、勝山地区(〇五、〇六業務区)であり、この検針地区は、被告会社がほぼ二、三年毎に原告に指定、割当てしてきたものであつて、事実上、原告が自ら自由に検針地区を選択する余地は殆どない。
 検針すべき日は毎月一日、二日、四ないし九日、一一ないし一六日、一八ないし二三日、月末前日及び月末の毎月合計二二日と定められ、又、毎月二七日には検針員の常会なるものに出席しなければならないから、結局、一月につき二三日間勤務しなければならない(ちなみに、被告会社の社員と称される人々の出勤すべき日数は、月平均二一・五日である)。
 右の検針日は、それが休祭日にあたつてもまた天候が甚だしく荒れても、変更は許されない。
(五) 毎月二七日に開かれる常会においては、営業所長等上司から検針業務に関する種々の指示や、服装等に関する種々の注意がなされ、検針員たる原告は、これに従わねばならない。
(六) 勤務時間については、始業及び終業の時刻は明確に定められてはいないが、いわゆる定例日制により、指定された日に、指定された地区の検針を終了させねばならず、又需要家の事情も考慮しなければならない(例えば早朝あるいは夜間に検針することはできない)から、通常、午前九時三〇分ごろには営業所に出勤して、その日の検針の準備をしたうえ、午前一〇時ごろから各需要家の検針にかゝり、午後三時ごろまでの間に検針を終了し、再び営業所に帰り、机上で当日の検針結果の整理と翌日分の検針の準備を終えて、午後五時前後ころ勤務を離れるのであつて、原告が業務に服すべき時間は、事実上拘束されており、自由に時間をえらんで検針する余地は殆どない。
(七) 右にのべたように、原告は、勤務時間が拘束され、かつ、仕事の性質上きわめて体力が消耗するから、検針業務以外に仕事をして、他から収入を得ることは殆ど不可能であり、被告会社から得る賃金(被告会社はこれを手数料と称している)を唯一の収入として、一家三人の生活を維持してきた。
 なお、原告の月間検針枚数は約七〇〇〇枚、平均月収は六万二〇〇〇円程度であつた。
(八) 昭和三五年三月、被告会社における原告ら検針員一四四名は、「九州電力検針員労働組合」を結成し、同年六月、福岡地方労働委員会により、労働組合法上の労働組合の資格認定を得(すなわち、原告らは労働組合法三条にいう労働者と認められた)、以後、被告会社との間で団体交渉を行い、労働協約(「処遇」なる名称で呼ばれている)を締結し、不充分ながらも漸次労働者としての権利をかちとつてきたものである。
(九) 以上によつて明らかなごとく、原告と被告会社との間の契約締結の過程および業務遂行過程すなわち業務の内容、指揮命令関係、時間的拘束性、服務規律、賃金等を考慮すると、被告会社が原告との契約関係を、請負ないし委任とみ、原告をあたかも一個独立の事業主であるかのごとく扱おうとするのは誤まりであり、原告の業務は、その実態において被告会社の料金回収業務の流れの中に完全に組込まれ、被告会社の指揮命令のもとに行われているものであるから、原告は労働基準法第九条にいう労働者であり、原告と被告の間には、いわゆる労働契約関係が存したことは明らかである。
3 解雇の意思表示
被告は、昭和四五年八月二九日、原告に対し、口頭で解雇する旨の意思表示をした。
4 解雇の無効
しかしながら本件解雇は次の理由により無効である。
(一) 労基法第二〇条違反
 原告は労基法上の労働者であるから、これを解雇するには、労基法第二〇条に定める予告を経なければならないところ、被告は右予告をせず、かつ同条の定める賃金の支給もしないまま前記解雇の意思表示をしたものであるから、右解雇は無効である。
(二) 解雇権の濫用
 仮りに右(一)の主張が認められないとしても、本件解雇は、次の理由により解雇権の濫用であつて無効である。すなわち、本件解雇は、原告が定例日制を一部崩したとしてなされたものであるが、これについては以下のような事情がある。(1) 原告は、昭和四五年八月上旬ごろ、検針業務に従事中、二回の不慮の事故により左足等を負傷したので、その日の検針終了後、被告会社の検針係員に対し、暫く検針業務を休ませてほしい旨申し出たが、右係員からは、他に人手がないことを理由に、何とか検針をするよう命ぜられた。同月一一日の検針日になつても、原告の左足の痛みはおさまらないので、原告はいつもより遅くから検針を開始せざるをえなかつた。当日の予定検針地区は、一ブロックで検針枚数は一四三カ所と量的には楽であつたが、翌一二日の予定分は、検針地区が三ブロックで検針枚数は三七七カ所と負担の大きい日であつたので、原告は、一一日中に翌一二日の検針分についても、ある程度検針をしておかないと、翌日中に全てを消化することはできなくなると考え、一一日に一二日の分についても検針をすることにした。しかし、痛みのため作業がはかどらず、一一日の検針分については、八一カ所のみ検針し(六二カ所については検針未了)、翌一二日の分については、三七七カ所のうち一一三カ所検針をなしえたに止まつた。そこで原告は、そのまま八幡営業所にもどつて、検針係員に対し、一部分検針をし残していることを報告して当日の仕事を終えた。そして右の未検針分六二カ所については、右係員の指示どおり翌一二日の早朝に検針をするつもりであつたが、一一日の夜原告は、他人から傷害を負わされ、右検針をすることができなくなつたので、被告会社の係員に対し事情を説明して、代つて検針をしてくれるように依頼した。
(2) 以上のとおりの経過であつて、原告は、八月一一日分については六二カ所の検針をなさず、八月一二日分については、本来その日になすべきものをその前日の同月一一日に検針して、いわゆる定例日制を一部崩したことは事実であるが、それは、前記のとおり、原告にとつて止むをえない事情があつたためであり、また、原告は、被告会社の係員に対し直ちに右の措置を怠りなくしていたのである。また、そのために被告会社は勿論、一般需要家も何らの損害を蒙つてはいない。すなわち、被告としては、未検針分があつたとしても、当月分については一応前月分と同じ電気料金を算出し、翌月において、実際の電気料金との差額を調整することができるし、また定例検針日より一日早く検針したとしても、当月分は、一日分だけ少ない電気料金が算出され、その分は翌月に調整されることになるからである。そして、右のことにつき一般需要家から被告会社に対して苦情の申入れがなされた事実もない。従つて、原告の前記所為をもつて解雇に値するとするのは、余りに酷であつて、本件解雇は解雇権の濫用といわねばならない。
(3) なお、原告は、これまで被告会社に対し二通の始末書を提出したことがあるが、その第一回目は、昭和四三年二月、友人の自動車に検針台帳を入れておいたところ、これを盗まれるという全く予期できない出来事によるものであつたのであつて、本来始末書をとられるべき筋合のものではなかつた。
 また、第二回目は、原告が昭和四四年一二月五日、二八一カ所の検針をせず、検針カードを所定の期間内に提出しなかつたことに基づくものであるが、原告は、なんとか右提出時間に間に合わせようと、早朝被告本社まで行つて検針カードを提出しようとする努力はしたのである。そして、右二回とも、被告会社及び需要家に対し何ら実質的な損害を与えていないことは、さきに述べたと同様である。右二通の始末書は、被告会社に従属させられて、極めて弱い立場にある原告が、被告会社の指示によりやむなく書いたものであつて、過去の非違としてことさらに指摘されるほどのものではない。
(4) 以上のとおりであつて、原告には、解雇に値する実質的理由はないのであるから、本件解雇は権利の濫用として無効である。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の主張は争う。この点に関する被告の主張は後記のとおりである。3 同3の事実は認める。但し、それは解雇ではなく、請負契約の解除である。4 同4の主張は争う。但し、同4(二)のうち、原告が(一)昭和四五年八月一一日に検針すべき一四三カ所のうち六二カ所の検針をしなかつたこと、(二)翌一二日に検針すべき一一三カ所につき、その前日である同月一一日に検針し、所定の日に検針をしなかつたこと及び(三)昭和四四年一二月五日、二八一カ所の検針及び検針カードの約定期間中の提出をしなかつたことは認める(これらの所為についても後に述べる)。
三 被告の主張
1 原、被告間の契約関係
 原、被告間の委託検針契約は、民法上の請負契約であつて、原告主張のような労働契約ではない。そして、原告は、労基法上の労働者ではなく、独立して検針業務を営む事業主体というべきものである。以下この点につき詳説する。(一) 検針業務は、これを二種類に分類することができる。その一は高圧供給以上の大口需要家を対象とするもので、電力量計、最大需要電力計および無効電力計を読みとり、需要家の記録状況と照合し、検針後の計器調整を行なう等の複雑な業務であり、他は低圧供給の一般需要家を対象とするもので、電力量計を読み、その結果を検針カードにより会社へ通知するとともに、「電気ご使用量お知らせ票」により需要家に通知するだけの、毎月定例的に繰り返される単純業務である。原告ら委託検針員に委託しているのは、後者の単純業務である。
(二) 委託検針業務は、原則として毎月一日から二三日までの間で、定例検針日と定められた日に検針が行なわれることになつているが、定例検針日の委託日数は、各委託検針員によつて異なり、二〇日間の検針日を持つ者もあれば、一日だけしか検針日を持たない委託検針員もあり、その実態は多種多様であつて、それぞれ合意のうえ決定されている。
(三) 検針員は、検針日の前日頃被告会社へ出頭するが、それは検針カード等の受領および検針ずみカードの返納のために出頭するのであつて、被告会社の就業規則等により拘束されているものではなく、また、検針に従事する時間も委託検針員の自由な決定に任せてあり、したがつて出勤簿等もない。複雑な検針業務に従事し、被告会社の就業規則の適用を受ける検針員(これを社員たる検針員という)とは、その法的性格が全く異つているのである。
(四) 委託検針員は、毎月最高二〇日間の範囲で、需要家ごとに定められた毎月一定の日(定例日)に当該需要家を巡回、検針するが、これは、正確に一か月ごとの電力使用量を知らせ、料金を徴収することが需要家にとつても最も好都合であろうとのサービス上の考慮に基くものである。そして、一定の地域の需要家をまとめて同一の日に検針することから、検針地区なる概念も生ずるが、右検針地区は、被告が検針員に一方的に押しつけるわけではなく、被告と検針員との協議により決定され、また変更されるものである。
(五) 委託検針員が契約で定められた日に契約で定められた地区の検針をなし、契約で定められた期限までに被告会社に検針結果の報告をなすことは、請負契約の内容、条件であり、これらの点が厳格に取りきめられているからといつて、請負契約たる性質が否定されるべきいわれはない。
(六) 委託検針業務の遂行方法そのものは、検針員の自由裁量によつて行なわれている。すなわち、被告会社は、検針員に対し定例検針日の前日検針カード等を交付しているので、検針員は検針当日自宅から直接巡回検針地区に出向く場合が多く、巡回順序や巡回時間は全く検針員の自由な判断によつて行なわれているのである。
(七) 検針員は、契約に定められた範囲内の仕事をなすだけで、それ以外の被告会社の業務は一切行なわない。被告会社において検針員に対し稀に右以外の仕事を依頼することがあるが、これは委託検針契約とは別途の約定に基くもので、報酬も別途支払つている。
(八) 委託検針員は、検針業務を家族その他の第三者に代行させ、或いは下請させることも自由であつて、その業務にはいわゆる代替性がある。
 また、農業協同組合、婦人会、町内会、漁業組合その他これに類似する団体においては、その団体員の一名が被告会社と委託検針契約を締結し、その属する団体の業務の合間に検針業務を遂行している場合もある。
(九) 検針員が被告会社から受領する金員は、賃金だけではなく、請負代金であるから、所轄税務署に対し事業所得の申告をなして事業税を支払い、給与所得税の支払はしていない。
(十) 検針員は、兼業を制限されることはないし、現に検針員の内約七割に相当する者は、検針以外の業務に従事している。
(十一) 検針員が検針業務の処理に関し、被告会社に損害を与えたときは、すべて検針員がその損害を賠償する責に任じ、且つ検針業務に要する交通費等は一切検針員の負担とすることになつている。
(十二) 委託検針員の作業衣、帽子等は検針員から被告会社に対し貸与して貰いたい旨の要望があつたので、被告会社は右要望に応じ貸与しているものであり、又委託検針員は需要家の家の中にまで立入つて検針する場合が多いので、一般需要家に安心感を与える為、被告会社と検針員との合意に基づき、検針員は身分証明書を携帯することにしたのであつて、被告会社が検針員にこれを強制しているものではないのである。現に作業衣、帽子を着用しないで検針業務に従事している委託検針員もいる。
(十三) 被告は、毎月一回いわゆる常会と称する会合を開いているが、これは報酬の支払を本旨とし(委託検針員が常会に出席した場合はその場において請負代金を支払うが、出席しない場合は送金するか、会社に出向いたときに之を支払つている)、また常会の席上において、被告会社が、委託検針員に対し請負業務を遂行するにつきその業務の遂行を円滑ならしめる事項を知らせることはあるけれども、原告主張のような指揮命令にわたることは絶対になく、常会への出席は、義務的なものでもない。
2 委託検針契約の解除
(一) 原、被告間の委託検針契約中には原告が被告の指定した期日に検針または報告を怠つたときは、被告は直ちに本契約を解除することができる旨定められていた。
(二) 原告は、昭和四三年一一月一九日飲酒の上検針カード二二二枚を紛失し、同四四年一二月五日二八一カ所の検針及びその検針カードの提出を約定の期間中になさず、そのつど被告に対し自己の怠慢による違約を謝罪し、今後このような怠慢があつた場合は、いつ契約を解除されても異議のない旨謝罪文を提出していたにもかゝわらず、
(1) 昭和四五年八月一一日検針すべき一四三カ所の内六二カ所の検針をなさず、
(2) 翌一二日に検討すべき三七七カ所の内一一三カ所につき、その前日の一一日検針し、所定の日に検針をなさなかつたので、被告は、前記条項に該当するとして昭和四五年八月二九日原告に対し口頭で委託検針契約を解除したのであるから、これにより右契約は適法に解除されたのである。
3 合意解除
 仮りに右の主張が認められないとしても、原、被告間において、同日ごろ本件委託検針契約を解除する旨合意した。
第三 証拠(省略)
理由
一、請求原因1(当事者)の事実は、当事者間に争いがない。
二、そこで、原、被告間の委託検針契約の性質(それがいわゆる労働契約であるか否か、原告が労働基準法上の労働者にあたるか否か)を考察するに先立ち、まず委託検針契約の成立及び履行の実態につき検討を加えることとする。
 成立に争いのない甲第一、第二号証、第五号証、乙第一、第二号証、証人Aの証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第三号証、証人Bの証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二〇号証、証人C、同D、同Eの各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。1 被告会社におけるいわゆる検針業務は、かつては名実共に被告会社の社員たる従業員によつて遂行されていたが、昭和三二年ごろから、被告会社は、企業経営の合理化の一環として、検針業務の委託化に着手し、昭和四〇年ごろには、一般家庭についての検針業務は殆ど委託化され、委託検針員によつて処理されるようになつた。
2 原告は、昭和三五年八幡中央高校(定時制)を中途退学し、一時他の会社に勤務していたが、昭和三五年九月ごろ、被告会社の社員を通じて、被告会社八幡営業所が委託検針員を募集していることを知り、これに応募することとし、被告会社に履歴書を提出し、被告会社八幡営業所において面接試験を受けた。その際、同営業所の営業課長と料金係長が試験官となつて、原告に対し健康状態、経歴、家族の状況等について質問があり、また検針業務についての簡単な説明があつた。ところで、被告会社八幡営業所では、手続的には、右営業課長及び料金係長両名らの上申に基づいて、営業所長が委託検針員としての採否の最終的決定をするが、その際、人柄や面接時の応接の態度等も判断の資料として参考とされる。原告も右経過を経て採用決定されたが、未だその段階では臨時の検針員としての身分しか有せず、約一ケ月間、被告会社の社員たる検針員から検針業務についての具体的な指導を受けたのち、初めて正式の委託検針員の身分を有するに至つた。即ち、原告は、昭和三五年一〇月、被告との間に委託検針契約を締結し、委託検針員としての地位を取得した。その後、原、被告間における右契約は一年毎に更新されたが、契約書は三年毎に作成されるに過ぎなかつた。
3 しかして、原、被告間の委託検針契約の内容は、別紙記載のとおりであつて、これによれば、原、被告が対等の立場で個々の条項を協議のうえ約定したもののようにも見受けられるが、実際には、検針日、検針地区、検針枚数、手数料の金額等、契約の重要な内容をなす事項については、当初から被告会社において既に決定し、右契約書中に記入済みであつて、原告ら委託検針員になろうとする者において被告会社と実質的な交渉を経て自己の選択、判断を加える余地はなく、いわば被告会社の掲示する条件を包括的に受け入れるか否かの決定の余地を残すだけであつた。
4 委託検針員の日常業務の実際は、次のとおりである。(1)原告ら八幡営業所所属の委託検針員は、通常、検針日の前々日か、前日に、同営業所内の授受箱から、検針カードと「電気使用量お知らせ票」を受け取つて、検針当日に直接検針地区に赴くが、検針当日一旦八幡営業所に立ち寄り、授受箱から右カード等を受け取つたうえで検針地区に赴いてもよく、そのいずれによるかは、検針員の自由である。(2)検針員は、検針地区へ行くには、各自最も利便な交通機関を利用しており、また、検針地区内の需要家の巡回順序については、特別の定めはなく、検針員の自由である。(3)そして、検針員は、需要家宅において、積算電力計(メーター)の当月指示数を読み取つて、当月の電気使用量を算出し、これを「電気使用量お知らせ票」及びその控に記入し、右お知らせ票は需要家に交付する。このようにして、所定の戸数の巡回、検針を終える。(4)次いで、営業所に帰つて電気料金算出の資料となる検針カードに当月指示数をマークしこれを整理のうえ、営業所の授受箱に入れて被告会社に提出する。(5)そして、翌日の検針の際、自宅から検針地区に直接赴く場合には、翌日の需要家の「電気使用量お知らせ票」、その控及び検針カードを授受箱から受け取り、一日の業務の全てを終えるのである。(6)なお、検針員が右業務に従事するに際し、被告会社の社員たる検針係員から、メモないしは口頭で、電気使用量お知らせ票の配布先等業務の遂行についての指示がなされることもある。
5 右の検針方法は、いわゆるマーク検針と呼ばれるものであるが、被告会社において委託検針化が進みはじめた昭和三二年ごろは、写真検針と呼ばれる検針方法が採用されていた。これは、電力計の電力指示数を特殊な写真機で写し、被告会社が右現像を写真屋に依頼し、その後被告会社において電力指示数を読みとつて電力指示数を検針する方法である。その後昭和三五年一〇月から、被告会社はいわゆる定例日制(平日と日曜、祝祭日とを問わず、一定の検針地区を毎月一定の日に検針する制度)をとり入れ、検針方法も、直接目で電力指示数を読み取り、これを検針台帳に記入し、需要家には電力使用量を知らせ、右台帳を会社に提出する方法(目読み検針)となつたが、昭和四二年に至つて、検針方法は前記のマーク検針といわれるものとなつた。そして、従前は、被告会社の担当社員が、電子計算機用のカードに電気使用量をマークしていたが、同年頃から右のマーク作業も検針員に課せられ、検針員にとつては一種の負担増となつた。これらの検針方法は、いずれも被告会社の決定によるものであつて、原告ら委託検針員は被告会社の決定されるままに従つて検針業務に従事してきていた。
6 原告は、前記の定例日制によつて、被告会社の指定した日(具体的には月末前日、月末、一、二、四ないし九、一一ないし一六、一八ないし二三の毎月二二日間、日曜祝祭日か否かは問わない)に、所定の検針地区において、所定戸数の検針を行うべく義務づけられていた(もつとも、本件訴訟の提起後である昭和四七年一一月からは、いわゆる例日制といつて、日曜、祝祭日は検針休日となつた)。したがつて、原告においては、自己の受持つ需要家につき、自由に検針日、検針地区等を定めて検針することはできず、ことに、被告会社が電子計算機を導入し、従来人手によつて行つていた電気使用量、電気料金の算出及び領収証の作成を機械化し、検針、電算機による料金算出及び集金という電力料金回収過程を七日間で一巡するシステム(いわゆる一・七バンド制)を採用して以来、被告会社での定例日制の運用は、一層厳格なものとなつた。
7 原告ら検針員については、出社、退社の時間の定めはなく、出勤簿も備えられていないが、実際には、前記のような検針作業自体のほか、営業所において検針カードにマークするなど机上の業務も必要であり、これらの事務処理を併せると、一日七、八時間程度を要し、この間事実上拘束されることとなる。さらに、需要家の巡回、検針には早朝又は夜間は避けるのが妥当であることや、検針カードは当日中すみやかに営業所に返納しなければならないことなどから、原告らが検針業務のために従事すべき時間もおのずから定まり、結局、一般の社員らと大差のない時間、すなわち午前一〇時ごろから午後五時ごろまでの間業務に従事するのが通例となつている。なお、また、検針員が病気で休む場合、被告会社は、一日の休業でも医師の診断書を提出するよう命じていた(もつとも、昭和四七年六月からは、二日間の休業には診断書提出を要するものと改められた)。
8 原告が、昭和三五年に被告会社の委託検針員になつてから暫くの間は、原告ら委託検針員の検針地区は事実上被告会社の一方的決定によるものであつたが、その後被告会社は、検針地区の変更に際しては、利害関係を有する検針員の協議を経たうえでこれを決定する方針をとるようになつたけれども、委託検針契約第一条三項には、検針地区は被告会社の都合により変更することができるとあつて、契約上はなお被告会社が自由かつ一方的に変更することができないわけではない。また、検針枚数、検針日についても、契約更新の際に、検針員の希望を入れて変更されることもある。
9 被告会社は、毎月二八日(従前は二七日)に、常会と称する委託検針員と被告会社担当職員(営業所長、営業課長、営業係長、検針主任)との会合を催している。そして被告会社は、検針員に対し以前は、常会への出席を義務づけていたこともあつたが、その後は右常会への出席を任意のものとしたけれども、被告会社においては、右二八日を検針手数料の支給日と定め、常会終了後にその支給をしているため、事実上殆どの検針員が常会に出席している実情にある(出席者に対しては、被告会社から交通費及び日当が支給される)。常会においては、検針員側からの要望や、会社から検針員に対する業務上の指示等がなされることもある。10 原告ら検針員は、検針日には前記3のとおりの検針業務及びこれに付随した業務に従事しているが、これには、ある程度の熟練を要することから、全くの素人では右業務に従事することは容易ではない。そのため、委託検針員の家族等が本人に代つて検針業務を行うこと(いわゆる代行検針)は実際上困難であつて、殆どなされていないのが実情である。また、委託検針員が他の職業を兼ねることは、体力的にも時間的にも極めて困難であつて、その例に乏しい(副業的に夜間塾を経営する等の例がないではない)。
11 原告ら検針員に対しては、手数料として、農村部のいわゆる切日区で単価一〇円八五銭、都市部のいわゆる業務区で単価一〇円二五銭(昭和四七年六月当時)、事務処理費として、検針日数一日につき一六〇円が支給されることとなつており、したがつて前記単価に一カ月間の検針枚数を乗じたものと、右一六〇円に検針日数を乗じた事務処理費とを加えたものの合計が検針員の収入となる。各検針員の各自の一カ月の検針枚数、検針日数は、いずれも前記委託検針契約によつて定められているので、結局各検針員は、そのわく内で毎月ほぼ決つた手数料の支払を受けることになり、その実態は、いわゆる出来高払いというよりも、むしろ固定給に近いと言えなくもない。また、夏、冬には、手数料に一定の率(昭和四七年六月当時において二・一三カ月)を乗じた金額が臨時の手当として支給される。なお、委託検針員は、納税手続上は、手数料を事業所得として、所轄税務署に事業所得の申告をして事業税を納付する方法をとつている。
12 被告会社は、委託検針員らの要望を容れて、作業衣、帽子、靴、その他事務処理上の備品を供与しているが、右作業衣等の着用を強制してはいない。一方、検針員と需要家の無用のトラブルを避けるため、被告会社は検針員に身分証明書を交付し、その携帯を命じている。
13 被告会社における原告ら委託検針員のうち一四四名は、昭和三五年三月、「九州電力検針員労働組合」を結成し、同年六月福岡地方労働委員会より、労組法上の労働組合としての資格認定を得た。右労働組合は、被告会社との間で就労条件等につき交渉を重ね、いわゆる「処遇」と呼ばれる一種の協定を結んできたが、右は同労働組合に加入していない委託検針員や、新たに委託検針員になろうとする者にも適用があるものとされている。右「処遇」の内容は、例えば検針員の傷害事故を業務上災害と業務外のそれに分ち、前者については国民健康保険の本人負担の療養費を全額被告会社が負担し、後者についても一部被告会社が負担することを協定するなど、委託検針員の身分保障的な条項がみられる。また、右労働組合は、手数料の改定など検針業務遂行の条件等について被告会社と接渉し、時にはストライキに出るなどして、その改善ないし向上に活発な活動をなしてきていた。14 被告会社には、委託検針員の他に、名実共に社員の地位を有する検針員もいるが、その割合は極めて少ない。社員たる検針員は、委託検針員の前記のような採用過程と異なり、毎年定期的に、筆記、面接の各試験と身体検査のうえ、大学ないし高等専門学校卒業者は社長の、高校、中学卒業者は部長、支店長、発電所長の権限(営業所長の権限には属しない)によつて採用される。また、業務の内容も委託検針員と異なり、検針業務に限られないし、検針業務自体、委託検針員のそれに比較して複雑なものを担当するのが通例である。なお、社員たる検針員は、いわゆる転勤を命ぜられることがあるのに対し、委託検針員には転勤の例はない。
 以上の事実が認められ、証人C、同Dの各証言の内右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし採用し難く、他に上記認定を左右するに足る証拠はない。三、ところで、原告と被告会社との本件委託検針契約が、労働契約であるか否か、したがつて原告がいわゆる労働基準法の保護を受ける労働者であるか否かを判定するに当つては、単に右契約の形式や名目に限らず、原告ら委託検針員の業務すなわち労務提供の形態を実質的に考察して決しなければならない。労働基準法第九条は、事業主に使用される者で、その労働の対価の支払を受ける者をもつて労働者としていて、事業主との契約関係が民法上の雇傭契約であることを要件とはしていないから、労働基準法の労働者であるか否かは「事業主に使用される」か否か、結局その者が使用従属関係にあるか否かによつて決められるべきである。そしてその労務提供の形態を実質的に考察して、使用従属関係が認められる場合には、たとえ契約の形式が請負、委任等の要素を含むものであつても、これを労働契約として把握し、その従属的地位にある当事者には、労働基準法上の労働者の地位を承認すべきものと解せられる。
 そこで、前記認定の事実を基礎にして考えるに、なるほど、原、被告間に成立した委託検針契約書中には、「被告は検針業務を原告に委託し、原告は、これを受託する。原告は、この契約の定めるところに従い委託事務処理に関する一切の行為を善良な管理者の注意をもつて処理する。」(同契約書第一条一項)等の条項を中心に、準委任ないし請負契約に類する文言も存するけれども、他面、前記認定のように、
1 被告会社の委託検針員を採用する過程(複数の希望者の応募、担当者による面接、採用後の臨時検針員制等)は、一般の企業における社員の採用過程と実態において変るところがなく、被告会社に一方的に採否の決定権があり、応募者としては、その決定を待つ以外にはなく、すでにこの段階において、両者は対等の当事者というにはほど遠い立場にあるとみられる。
2 また、契約の最も重要な内容である検針日、検針地区、検針枚数、手数料額等も、被告会社の一方的な決定事項であつて、原告ら検針員は、これらを包括的に承諾するか否かを選択するほかはなく、契約内容について個別的、具体的に交渉し、自己の希望にしたがいその改変を求める余地はない。
3 さらにまた、検針業務遂行の過程においても、原告らが自主的に決定しうる事項は、前記のような検針現場への行き方とか検針順序などの僅かな点に限られ、検針方法、検針日、検針地区、検針枚数等の本質的な事項はすべて会社の定めるところであつて、検針員にはいわゆる自由裁量の余地は乏しい。
4 業務の代替性についても、検針員の家族らがいわゆる代行検針に従事することは、事実上極めて困難であつて、現実にも殆どなされていないのであるから、観念的には代替性があると言い得ても、その実体に乏しいというほかはない。5 就労時間には何らの定めがないというものの、前記のような事実上の制約があつて、一般の従業員(社員)とほぼ同様に、少くとも七ないし八時間業務に拘束されることとなる。また、病気の場合の診断書提出や、業務に支障のある場合の会社への連絡を義務づけられることにより、被告会社の一種の監督に服しているとみることもできる。
6 収入面においても、前記のように、検針枚数及び手数料単価が一定していることにより、毎月の手数料収入は殆ど定額化されて一種の固定給的な性格をおび、かつその支給日も毎月一定しており、一般従業員の受ける賃金とさして変りのない実情にある。
7 委託検針員のうち多数の者は、前記労働組合を結成し、労働条件の改善を求めて被告会社と交渉し、時には団体行動にも出るなどしてきたが、右は以上に述べたような検針員の従属的、労働者的な立場に由来するものであり、その故に労組法上の組合資格の認定も受け、被告会社も交渉団体としてこれを承認しているものと考えられる。
 以上のような諸点を総合考慮すると、原告が被告会社と対等の地位に立つ事業主体として独立に検針業務を請負うものとみることは相当でなく、むしろ被告会社に従属し、その指揮監督下において労務を提供する関係すなわち使用従属関係にあるとみられるから、たとえ原被告間の契約の形式が準委任ないしは請負契約に類似のものであるとしても、その実質においては、労働契約であり、原告は、労働基準法上の労働者の地位を有するものと認めるのが相当である。
 もつとも、原告が被告会社から受ける検針手数料を、納税手続上事業所得として所轄税務署に申告し、事業税を納付する方法をとつていることは前記認定のとおりであるが、それはあくまでも、税法的見地からの処理の問題であつて、その当否の問題はまた別個に考えるべきものであるからそのことをもつて原告が被告会社の使用従属下に検針業務に従事していることを否定することはできないものというべきである。
四、被告が昭和四五年八月二九日原告に対し、口頭で委託検針契約を解除する旨の通知をしたことは当事者間に争いがない。そして、右は前述したところの労働契約関係上の被傭者たる地位を一方的に失わしめるものであつて、いわゆる解雇に該当すると認められる。
 そこで、以下右解雇の効力を検討するに、成立に争いのない甲第五号証、乙第三、第四号証、証人D、同E、同Cの各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる(一部争いのない事実を含む)。1 原、被告間の本件委託検針契約第八条には、検針員が「被告会社の指定した期日に検針または報告を怠つたとき」(一号)「検針成績が不良で向上の見込がないとき」(三号)は、被告会社において直ちに委託検針契約を解除することができる旨定めている。
2 原告は、昭和四三年一一月一九日、その不注意から、自己が保管中の検針カード二二二枚を紛失し、八幡営業所長に対し、非を詫びるとともに、今後細心の注意をもつて業務の遂行にあたる旨の「始末書」を提出していた。
3 また、昭和四四年一二月五日の検針日に、所定検針地区のうち二八一か所の針検を怠り、その後原告において右検針を実施したものの、検針カードの提出が遅れて同月八日に至つたため、本社で行う料金計算に間に合わず、事務の混乱を招いた。原告は、その際にも、関係各課に迷惑をかけたことを詫びるとともに、今後このような不都合があつた場合は、委託検針契約を解除されても異議がない旨の始末書を提出した。なお、その際被告会社八幡営業所内においては、二度目の事故でもあり、検針員の適格を欠くとして、委託契約を解除すべきであるとの意見もあつたが、未だ年若く将来に期待し得るとの理由で、右の処置に止めた経緯がある。4 さらに、昭和四五年八月一一日、原告は当日の所定検針先である一四三か所のうち六二か所の検針を行わず、かつ翌一二日に検針すべき三七七か所のうち一一三か所を、前日である右一一日に検針する等前記の定例日制を一部無視する行動をとつた。そのため、右検針未了分については、被告会社八幡営業所の社員が、急遽分担して検針を行つた。
以上のとおり認められる。
 もつとも、右4につき、原告は、その前々日頃、不慮の事故によつて足を捻挫したため、八月一一日は所定戸数の検針に耐えられず、また、翌日も同様のことが予測されたため、二日分のうち地域的にまとまつて一挙に巡回しやすい範囲の検針を一一日に了したものであると述べるけれども、一方、右同日、原告は深夜まで飲酒したうえ、仕事仲間と紛争を起して傷害を受けた(そのため原告は翌日から入院するに至つた)ことが認められるので、果して当日、検針方法を右のように変更せねばならぬほどの支障があつたものか、大いに疑問と言わなければならない。
 ところで、原告は、被告会社の存立の基盤となる電力代金収入の算出のため不可欠な検針部門を担当するものであるから、少くとも被告会社に対し誠実、正確な検針を行つてこれを報告し、また需要家に対しても、定期的に正確な電力消費量を告知することにより、被告会社の電力供給業務への信頼を確保することが、その本質的義務として要請されると言うべきである。そして、そのためには、前記の定例日制が、それなりの根拠をもつて、現在においては最も妥当かつ合理的な方法として採用され、定着していること、原告自身右制度を前提として検針業務に従事することを約諾したものであることに十分思いを致し、たやすくこれを改変することのないよう努めるべきである。この点、原告は、定例日に検針をしなくても、被告会社としては、当月の電気料金を前月と同じものと推定して料金を算出し(いわゆる推定計算)、翌月においてその差額を調整することができるから、被告会社に別段損害はないし、また、そのことで需要家から苦情があつたこともないと主張するけれども、真にやむを得ない事由もないままに、自ら定例日制を一部崩しながら右のように抗弁することは、一種の身勝手と評せざるをえない。
 以上のとおり、原告は昭和四三年同四四年の二回にわたり、検針員としての職務上の義務に違反し、その都度始末書を提出し、特に第二回目の始末書においては、今後再び不都合があつた時は、契約を解除されても異議はないとまで誓約しておきながら、今回またもその本来的業務である検針を一部怠つて定例日制を一部崩し、被告会社の業務の円滑な遂行を妨げたものであるから、これを理由として、委託検針契約第八条一号によりなした本件解雇は、正当な理由あるものとして是認することができる。
五、なお、原告は、被告の本件解雇は解雇権の濫用である旨主張するが、前記の如く本件解雇には正当な理由があつたのであり、特にそれが権利濫用であると認むべき資料はないので、原告の右解雇権濫用の主張は理由がない。
六、また、原告は労働基準法第二〇条違反を主張するけれども、前記認定の事実によれば、本件の場合、同法条一項但書にいう労働者の責に帰すべき事由があるといえるから、被告会社は原告を即時解雇しうるものというべく、この点に関する原告の主張は採用できないというべきである。
七、以上の次第であるから、本件解雇が無効であることを前提とする原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当としてこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判官 原政俊 田川雄三 中路義彦)
(別紙)
 委託検針契約証書
(検針業務の委託および受託)
第一条 丙は、次の区域における検針業務を甲に受託し、甲は、これを受託する。甲は、この契約および丙の定めるところに従い委託事務処理に関する一切の行為を善良なる管理者の注意をもつて処理する。
<18715-001>
<18715-002>
二 前項の検針業務とは従量制需用家の積算電力計の指示数を読みとり検針台帳に記載して使用量を算出するとともに、検針結果を「電気ご使用量お知らせ票」に記載して、需用家に通知することならびにこれらに付帯する業務をいう。三 前第一項の検針区域は、丙の都合により変更することができる。(委託手数料)
第二条 丙は、甲に対し毎月の検針した枚数につき、別に定める委託検針手数料(省略)を支払う。
(検針台帳)
第三条 甲が委託業務の処理に関して取扱う検針台帳その他の帳票は、すべて丙の交付したものを使用する。
(証明書)
第四条 丙は、甲に第一条の業務を委託していることを証明する証明書を交付する。
(連絡義務)
第五条 甲が病気その他やむを得ない理由のため受託業務に支障を生ずるおそれのあるときは、直ちに丙に連絡する。
(委託事務処理費)
第六条 丙は、甲に対し別に定める委託事務処理費を支払う。
打合等のため、丙が特に来社を要請したときは、丙は別に定めるところにより甲に対し交通費および日当を支払う。
(解約の予告)
第七条 甲または丙のいずれか一方がやむを得ない理由により解約しようとするときは、二カ月前までに相手方に予告する。
(丙の解除権)
第八条 甲が次の各号のいずれかに該当するときは、丙は前条の規定にかかわらず契約を解除することができる。この場合、甲は丙に対し一切損害賠償の請求をしない。
(1) 甲が丙の指定した期日に検針または報告を怠つたとき。
(2) 甲が虚偽の検針その他により丙に損害を与えたとき。
(3) 甲検針成績(接遇態度を含む。)が不良で向上の見込がないとき。(4) 甲の年令、性行、健康状態および信用状態等がその受託業務の処理に適当でないと認められるとき。
(5) 保証人の信用状態が悪化したと認められるにもかかわらず、甲が保証人の変更を怠つたとき。
(6) 甲が丙の名誉をき損したとき。
(7) 甲がこの契約の各条項に違背したとき。
(損害の賠償)
第九条 甲は、受託業務の処理に関し、故意または過失により丙に損害を与えたときは、その損害を丙の指定する期日までに賠償する責に任ずる。
(保証)
第一〇条 乙は、甲の連帯保証人となり、甲が丙に損害を与えたときは、甲と連帯して丙に対しその損害を賠償する責に任ずる。
(保証人の変更)
第一一条 甲は、乙が死亡したとき、無能力者となつたとき、または資産減少等により信用低下するなど、保証人として適当でないと思われるに至つたときは、遅滞なく丙に通知して乙に代るべき保証人を立てる。
(期間)
第一二条 この契約の有効期間は昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの一カ年間とする。
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket