主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
(原告)
被告が原告に対し昭和四一年三月一〇日付でなした
1 原告の昭和三五年分の所得金額を金五七九二万七二〇一円、所得税額を金三四〇八万九一四〇円、追徴所得税額を金三三九一万一五二〇円とする再更正および右追徴税額にかかる重加算税額を金一六九五万五五〇〇円とする決定
2 原告の昭和三五年分の再評価額を金一五八二万円、再評価差額を金一四三一万円、再評価税額を金八四万九六〇〇円とする決定および右追徴税額にかかる無申告加算税額を金二一万二二五〇円、同重加算税額を金四二万四五〇〇円とする決定の各処分を、いずれも取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文と同旨。
第二 当事者の主張
(原告の請求の原因)
一 被告は、原告が別紙(一)記載の不動産(以下、本件土地という)の売却によつて得た譲渡所得および再評価の申告をしなかつたとして、昭和四一年三月一〇日付で原告に対し、原告の昭和三五年分の所得金額を金五七九二万七二〇一円、所得税額を金三四〇八万九一四〇円、追徴所得税額を金三三九一万一五二〇円とする再更正および右追徴税額にかかる重加算税額を金一六九五万五五〇〇円とする決定の賦課処分および原告の昭和三五年分の再評価額を金一五八二万、再評価差額を金一四三一万円、再評価税額を金八四万九六〇〇円とする決定および右追徴税額にかかる無申告加算税額を金二一万二二五〇円、同重加算税額を金四二万四五〇〇円とする決定の賦課処分(以下「本件課税処分」という)をなし、それぞれそのころ、その旨原告に通知した。
二 そこで、原告は被告に対し昭和四一年三月三一日右の各賦課処分について異議申立をし、かつ右異議申立を審査請求として取扱うことに同意したので、国税通則法八〇条一項二号により右異議申立は訴外Q国税局長に対する審査請求とみなされたが、同局長は同年九月二六日付でこれを棄却する旨の裁決をし、そのころその旨原告に通知した。
三 しかしながら、本件土地は登記簿上の所有名義はもちろん、実質的にも本訴外株式会社室町会館(以下訴外会社という)の所有にかかるもので、原告個人の所有物ではなかつたのであるから、本件土地の売却益が原告個人の所得に属するいわれはなく、被告のなした右処分は違法であるから、その取消を求める。(請求の原因に対する被告の答弁)
一 請求の原因一、二の事実は認める。
二 同三の事実は否認する。
(被告の主張)
一 本件土地は公簿上は訴外会社の所有名義とされていたが、実質上は原告個人の所有に属していたものである。
すなわち、原告は昭和二二年五月二二日訴外Aから本件土地を金三六万円で買受け、更に同年七月三一日訴外Bから本件土地の借地権を金一一五万円で買受けて所有していたものであるが、税金対策の一方法として本件土地を原告名義ではなく会社名義にしておこうと企図し(公簿上、原告個人の名義にすると、当時徴税当局において税務調査の際、不動産等資産の取得資料を収集しその資金の出所関係を追求して脱漏不申告所得の発見に努めるなど占領政策の一貫としての厳しい徴税強化のため、国民は重税を回避する傾向が強かつたが、原告は右資金源調査による原告の個人脱漏所得が発見されることおよび将来相続開始の際、相続財産として徴税当局に容易に捕捉されることを免れるため、すなわち直接的に租税回避のために、会社名義にすることを企図した)、同年八月七日訴外会社を設立し、本件土地を同会社名義に登記した。したがつて、右登記は名義上のものにすぎず、本件土地の実質上の所有者は昭和二二年八月の訴外会社設立当時はもちろん、その後昭和三五年一二月一日訴外Cに譲渡した当時も原告個人に属していたものである。このことは、次の各事実によつても明らかである。
1 訴外会社は昭和二二年八月七日魚躬商事株式会社なる商号で、絨氈、海産物、ゴム製品、雑貨の販売を目的として、資本金七万五〇〇〇円で設立され、同三五年二月一日商号を株式会社室町会館に、目的をビル管理業ならびに不動産業にそれぞれ変更したものであるが、設立当初から休業状態を続け、昭和三五年一〇月三一日に至つて初めて被告に営業再開届を提出したものであり、しかも原告がその株式の大部分を所有するなど実質的には原告の一人会社であつて、公表帳簿上本件土地以外には何らの資産もなく、また事業は全く行つていなかつたのであるから、訴外会社は本件土地を取得する資金もなかつたし、その必要も全くなかつた。2 訴外会社は、本件土地の取得時期である昭和二二年五月二二日には未だ設立されていなかつた。仮に、原告が当時設立予定の訴外会社のために代金な立替えて本件土地を購入したとすれば、それは訴外会社の発起人たる原告が設立中の訴外会社のため、会社の成立を条件として財産取得を約束したものであるから、商法一六八条一項六号の「財産引受」に当るというべきところ、これが有効であるためには、目的たる財産、その価額および譲渡人の氏名を原始定款に記載することが要件であるにもかかわらず、右原始定款には何らその旨の記載がないから、財産引受は無効であり、このことは何人からでも、何人に対しても主張しうる。また、会社成立後に訴外会社が原告から本件土地を購入したとしても、本件土地につき商法二四六条所定の「事後設立」手続がとられた事実もない。
なお、訴外会社成立後、原告と訴外会社との間に本件土地の買入代金の返済について何ら具体的なとりきめがなされていない点および訴外会社の貸借対照表等に原告の立替金(本件土地買入代金)を借入金等として計上した事実もない点からみても、本件土地が訴外会社の所有でなかつたことは明らかである。
3 訴外会社の設立時における資本金は七万五〇〇〇円という少額であつたから、本件土地(買入価額三六万円)を購入することは不可能であつた。また、訴外会社は昭和二三年五月三〇日に一二五万円に、ついで同年七月五日に五〇万円に資本金を増資しているが、その際、仮に本件土地を「現物出資」したとすれば、商法二八〇条ノ二、一項三号、同条ノ八所定の手続がなされなければならないが、いずれの増資手続に際しても右手続がなされた事実はない。
4 訴外会社は本件土地上に、訴外魚躬絨氈株式会社(以下絨氈会社という)にその所有名義の建物を建築させ、同会社に本件土地を賃貸していたという形式をとつているが、訴外会社において右会社から地代を収納したことも、本件土地に対する公租公課を負担したこともない。地代を収納し公租公課を負担していたのは原告であつた。原告は訴外会社が本件土地の公租公課を支払つている旨主張しているが、訴外会社の帳簿によれば、右は貸借対照表上「固定資産税」として資産の部に計上されており、このことは、訴外会社が右税金を負担しておらず、本来原告の負担すべき税金を単に立替え払いしたにすぎないものであることを示している。なお、固定資産税の領収書名義が訴外会社名義であつたとしても、実質的所有者および固定資産税の実質的負担者が訴外会社であることを証明するものではない。5 訴外会社が被告に提出した営業再開届に添付した昭和三五年九日一日現在の貸借対照表が作成されるまでの、訴外会社の貸借対照表その他備付帳簿には全く本件土地についての記載がなかつたのに、訴外会社は右貸借対照表において、突然本件土地を会社資産として計上したのである。従来本件土地は訴外会社の所有に属していなかつたからこそ訴外会社の貸借対照表等に記載されていなかつたのである。税務署に対する一片の届出に添付した貸借対照表に本件土地を訴外会社の所有として記載したからといつて、本件土地が訴外会社の所有となるわけではない。6 原告は昭和三五年に至り、金融のために本件土地を売却しようと考えたが、当時、本件土地を原告個人の所有として他に譲渡する方法をとると、譲渡所得に対する原告個人の所得税を免れ得ないので、所得税法上非課税とされていた有価証券譲渡の方法(当時の所得税法六条五号)によることとし、昭和三五年一〇月三一日付で訴外会社の営業再開届を提出するとともに、本件土地を訴外会社の資産として貸借対照表に計上し、原告の所有する訴外会社の全株式を譲渡するという方法で本件土地をCに譲渡した。右の事実は、当時訴外三井不動産株式会社から本件土地につき、一坪当り一二五万円(総額一億九七〇〇万円)で買受けたい旨の申込みがあつたにもかかわらず、原告が株式売買の方法を持出したため、売買交渉が不成立になつた事実からも十分推認できる。
7 本件土地に関する原告とCとの売買取引交渉の経過からみても、本件土地が原告の所有であつたことは明らかである。すなわち、昭和三五年一〇月二四日付のCとの売買予約の契約書においては、売主は一応訴外会社とされているが、当時同社の代表取締役はもちろん、取締役の地位をも辞任していた原告が連帯保証人として 名を連ねているし、そのころ作成された原告から訴外三井不動産株式会社に対する 「念書」においては、原告自ら本件土地につき「土地所有者」として右書面を作成 しており、その内容には「会社名義所有」と記載し、訴外会社の所有名義は仮装に 外ならない旨明記している。
 8 形式上は株式売買の方法をとつたが、実質は原告とCとの間の本件土地売買で あつたことは、 昭和三五年一一月一七日付の本件土地についての売買予約による所 有権移転請求権保全の仮登記のための委任状に、その登記権利者をC個人名にして あることからも明らかである。しかして、Cは、昭和三七年三月一五日本件土地を 訴外朝日土地興業株式会社へ転売したが、右譲渡による所得を個人所得としてその 旨の確定申告書をその所轄である麻布税務署長に提出し、受理されている。
 9 原告は昭和二二年当時、本件土地以外にも東京都内などで土地建物を購入し、 絨氈会社(その前身である株式会社日本絨氈製作所又は魚躬絨氈紡織株式会社)名 義に登記し、別紙(五)記載のとおりその後数年間に逐次これらを処分し利益を得 ている事実があり、多分に投機的不動産売買の意図があつたと認められる。 以上の各事実によつて、本件土地についての登記名義が訴外会社にあつたにせよ、 その使用、収益、処分の権限が原告に属していたことは明らかであるというべきと ころ、所得税法は課税する際の基本原則として「実質課税の原則」(当時の同法三 条の二、現行法一二条)について規定している。この原則は登記名義がいずれにあ るかという形式ないし外観にとらわれることなく、実質的な所得の帰属者に対して 課税がなされるべきことを規定したものであるから、本件においても原告に対し て、その譲渡所得に関し、税が賦課されることは当然である。 なお、訴外会社は、前記のとおり昭和三五年一〇月三一日事業再開届を提出し、そ れに添付した同年九月一日現在の貸借対照表において初めて本件土地を会社資産と して計上し、次いで同年九月一日訴外会社株式の名義を一部原告の家族名義に変更 し、新株式名義者は名義変更された株式の贈与を受けたとして、昭和三七年一二月 四日贈与税の申告をした。しかし、右贈与税申告の実相は、当時訴外会社に対する 法人税の賦課決定処分に対する審査請求の審理中であつたため、訴外会社が原告の 一人会社であつたことや、本件土地の売却を株式の譲渡に仮託した事実を隠蔽しよ うと企図してなされた虚偽の事実に基づくものであることは明白である。贈与税の 申告期限が贈与のなされた年の翌年の二月末日まで(当時施行の相続税法)であつ たにもかかわらず、右申告が申告期限を著しく(一年一〇月)徒過して提出された ことからも、右事実は容易に推認しうる。すなわち、右贈与税申告は虚偽の事実に 基づく申告であるから、右申告の事実をもつて、原告が本件土地の実質的所有者で あり、これの譲渡を訴外会社株式の譲渡に仮装してなしたとする被告の認定を否定 する根拠とはなし得ない。 二 しかして、原告に対する課税原因および税額決定の根拠は次のとおりである。
 1 原告は昭和三五年一二月一日、Cに対し本件土地を代金一億三〇〇〇万円で譲 渡した。もつとも、税を免れる目的で外形的には右Cに対し訴外会社の全株式一万 株(額面五〇円)を一株につき一万三〇〇〇円で譲渡する形式をとつたが、前記の とおり、右株式の売買は結局原告所有の本件土地の売買に外ならないと認められる から、原告に対しその譲渡益にかかる所得税および再評価税の賦課処分をなした。
 2 原告は本件土地の所有権をAから金三六万円で、その地上の借地権をBから金 一一五万円で買い受けたのであるから、本件土地の取得価額は金一五一万円であ る。3 再評価税関係税額決定の根拠を示すと次のとおりである。
(一) 資産再評価法三条による基準日(昭和二八年一月一日)において原告が所有していた本件土地(借地権を含む)が、基準日以後の昭和三五年一二月一日に譲渡されたのであるから、被告税務署長は、同法九条(個人の土地等減価償却資産以外の再評価)の規定により右基準日に本件土地の再評価が行われたものとみなし、同法三七条(課税の対象)、四二条(個人の資産についての課税標準)および四四条(税率)の各規定を適用し、
再評価額は一五八二万円
再評価差額は一四三一万円
特別控除額は一五万円
再評価税額は八四万九六〇〇円
と決定した。
(二) つぎに、原告は本件土地を譲渡したにもかかわらず、資産再評価法四七条に定められた申告期限はもちろん期限後三ヵ月内に申告書を提出しなかつたから、被告は同法八〇条を適用し、(一)により追徴されるべき再評価税額八四万九六〇〇円(ただし千円未満を切捨て計算)に百分の二五の割合を乗じた額の無申告加算税二一万二二五〇円を徴収する決定をした。
(三) さらに、原告は本件土地の譲渡を株式の譲渡に仮託し、再評価税額の計算の基礎となる事実の全部を隠蔽仮装して申告を行わなかつたので、被告は資産再評価法八二条二項を適用し、(一)により追徴されるべき再評価税額八四万九六〇〇円(ただし千円未満は切捨て計算)に百分の五〇の割合を乗じた額の重加算税四二万四五〇〇円を徴収する決定をした。
(以上につき別紙(二)および(三)を参照)
4 所得税関係税額決定の根拠を示すと次のとおりである。
(一) 原告は、昭和三五年一二月一日、本件土地をCに対し一億二九五〇万円(株式としての譲渡価額一億三〇〇〇万円から資本金相当額の株式代金五〇万金を控除した額)で譲渡したと認められるから、右譲渡価額から前記3の(一)の再評価額一五八二万円を控除し、さらに特別控除一五万円を控除した額の二分の一に相当する五六七六万五〇〇〇円が課税の対象となる譲渡所得金額となる。故に被告は右譲渡所得五六七六万五〇〇〇円を追加し、原告の所得金額および所得税額を再計算し原告の昭和三五年分の所得税額を三四〇八万九一四〇円、追徴税額を三三九一万一五二〇円と再更正した。(別紙(四)を参照)
(二) 原告は本件土地の譲渡を株式の譲渡に仮託し、所得税額の計算の基礎となるべき事実を隠蔽仮装して所得税を免れようとしたものであるから、旧所得税法第五七条を適用して、(一)により追徴されるべき所得税額三三九一万一五二〇円(ただし千円未満は切捨て計算)に百分の五〇の割合を乗じた額の重加算税一六九五万六五〇〇円を徴収する決定をした。
(被告の主張に対する原告の答弁および主張)
一 被告の主張一の本件土地は原告個人の所有に属していた旨の主張は否認する。右主張事実のうち、本件土地の所有権が登記簿上Aから訴外会社に直接移転した旨の登記手続がとられたことは認めるが、その余の事実は否認する。
訴外会社は昭和二二年八月一四日訴外Bから本件土地を買受け、同日、同人の同意を得て中間省略の方法によつて、元所有者であり登記名義人であつた訴外Aから直接訴外会社へ所有権を移転する旨の登記手続を了して、本件土地を取得したものであるところ、本件土地の所有権の帰属は、もつぱら公簿、契約書等の書類上形式的に表示された名義人を標準としてのみこれを決するものではないが、所有権の表示として重要な意義を有する登記名義人が訴外会社とされている以上、本件土地の所有権は訴外会社に移転されたものと認むべきである。本件土地はその後訴外会社の財務諸表に記載され、訴外会社所有物として取引されている事実および原告から訴外会社の株式を買受けたCが訴外会社の経営者となつてからも、同会社がその所有者として本件土地を他に譲渡している事実等の事情に照しても、本件土地が訴外会社の所有に属することは明らかである。
しかして、訴外会社が本件土地を買入れたのは、本件土地上に訴外会社社屋を建築し、そこで絨氈会社の製造にかかる絨氈等を販売しようと企図したためである。同会社は昭和二〇年一一月下旬ころアメリカ駐留軍第八軍から住宅用絨氈四五〇〇戸分の製造の指令(第一回受注)を受け、同二二年四月までにその全部を納品したが、同二一年一〇月ころに同じく絨氈六五〇〇戸分の指令(第二回受注)を受けたので、同二二年ころから工場の大拡張、従業員の増加をはかつて、右受注および国内需要に応えるために企業の拡張をはかつたのであつて、被告が主張するような個人所得の脱漏の発覚や相続財産の捕捉をおそれて法人名義にするという租税回避の思想は、戦後昭和二四、五年の税制改革後にあらわれたものにすぎず、本件土地等を買受けた昭和二二年ころといえば、戦後経済生活の極度に混乱しているときであつて、租税回避の意図をもちうる余裕のない時代であつた。積極的に企業拡張をはかつている原告にとつて租税回避などという姑息な考えなど毫末もありえず、また、当時働きざかりの原告が相続財産の捕捉を免れようなどと考えるはずもなかつた。
1 被告の主張一1の事実中、訴外会社が被告主張のとおり設立されたこと、会社商号および目的を変更したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は昭和二二年五月初めころ、訴外D他五名とともに発起人となつて設立手続を開始し、被告主張のとおり訴外会社を設立したが、その際、取締役に訴外D、同Eおよび原告が、代表取締役に原告がそれぞれ選任された。当時、絨氈会社はアメリカ駐留軍からの前記第二回受注を完遂するために、従来の個人企業を法人組織にすると共に、その規模を飛躍的に発展させようとしていたが、原告は製造部門としての絨氈会社に対してその製品の販売部門を担当するために訴外会社の設立を企図し、前記のとおり設立の運びとなつた。そして訴外会社は本件土地上に建物建築の許可申請をしたところ、本件土地が東京都心部であり、復興計画地区であつたために、右申請は許可されなかつたので、訴外会社は本件土地を絨氈会社に貸与したが、同会社は駐留軍直納品を製造していたため本件土地上に建物建築が許可された。ところが、同会社に対する駐留軍からの第二回受注分の原料の引渡が遅れたばかりではなく、駐留軍は昭和二三年春に至つて、右第二回注文を全部取消してしまつた。そのため、絨氈会社は企業規模を極度に縮少せざるを得なくなり、また、右会社製品の販売に当るべく営業開始の直前であつた訴外会社においても、この後しばらくの間休業を余儀なくされたのである。
2 同2、3の事実はいずれも否認する。
訴外会社は昭和二二年八月一四日、Bから本件土地を買受けたのであるから、訴外会社がいわゆる「財産引受」、「事後設立」または「現物出資」等の手続をとる必要は全くなかつた。したがつて被告の主張は失当である。
なお、本件土地の買入れならびに買入れ後の利用等については、昭和二二年八月上旬ころ開催された株主総会において全員一致の決議により承認を得ていたものであり、更に、同年秋に開催された株主総会において、訴外会社の事業の推移、本件土地の買入れならびに利用等につき報告をして、全員一致の決議により承認を得ていたものである。
3 同4の事実は否認する。
 訴外会社は本件土地の公租公課を支払い、かつこれを利用し、形式上はもとより実 質的にもこれを支配していた。
 4 同5の事実中、営業再開届に添付された昭和三五年九月一日現在の貸借対照表 が作成されるまでは、貸借対照表その他備付帳簿に本件土地に関する記載がなかつ た点は認める。 しかし、訴外会社が、同年一〇月本件土地を同社所有物として計上し被告に届出て いることからも、本件土地が訴外会社の所有に帰していたことは明らかである。た とえそれまで右のような計理上の処理がなされていなかつたとしても、それは訴外 会社が実際に事業を開始することができなかつたためと、一般に同族会社において は必ずしも商法等に定める正確な帳簿等を備えておらず、訴外会社もこの例にもれ ず中小同族会社にありがちな計理処理をしていたためであるから、本件土地を当初 訴外会社の帳簿等に登載していなかつたことの故をもつて、訴外会社への本件土地 の帰属が否定されるいわれはない。5 同6の事実は否認する。 本件土地は訴外会社の所有資産であるから、原告の所有する訴外会社の株式を譲渡 すると、 当時の所得税法六条五号によつて有価証券の譲渡による所得については非 課税であつたから、このような方法は適法な処置である。 なお、三井不動産から被告主張のような申込みがなされた点については不知。
 6 同7の事実は否認する。
 7 同8の事実は否認する。ただし、C個人の申告に関する事実は不知。
 8 同9の事実は否認する。 別紙(五)記載の不動産のうち、1の建物は、第二回受注後、絨氈会社および訴外 会社の設立事務を行い、その営業を行うために買入れたものであり、2の建物は、 右会社事務および出張社員等の宿舎として絨氈会社が買入れたものであり、3およ び4の建物は、東京在住社員の社宅としで買入れこれに居住していたものであり、 5の建物は、売主が強硬に買入れるよう申入れ、原告も事情をよく知らずに登記し たが、これを買入れる意思はなかつたので、社員をしてこれを返還せしめ、6の建 物および借地は、ここに工場その他の設備を設営するはずであつたが、その後の事 業計画の変更により売却されたものであり、7の建物は、本件土地上の建物であつ て、昭和二三年ころ建築され、その後、ここにおいて営業されていたのであり、8 の建物は、さきに売主との間に金銭貸借があつたが、その返済ができないため、売 主が絨氈会社の事情不案内のまま登記したものである。 以上のとおり、本件土地の実質的な所有者は訴外会社であつたから、被告の主張は 失当である。 なお、被告は、訴外会社株式の贈与にかかる贈与税の申告について虚偽の事実に基 づく申告である旨主張するけれども、右主張の事実は否認する。二
 1 被告の主張二1の事実は否認する。
原告とCとが売買したのは訴外会社の株式であつて、本件土地ではない。原告は昭和三五年一二月一日、原告の有した訴外会社株券八七〇〇株を一億一三一〇万円でCに対し譲渡したのである。
2 同2の事実は否認する。
3 同3の事実について、仮に本件土地が原告の所有に属していたと認められる場合には、被告主張のとおりの再評価額、再評価差額、再評価税額、無申告加算税額および重加算税額となることは認める。
4 同4の事実について、仮に本件土地が原告の所有に属していたと認められる場合には、被告主張のとおりの譲渡所得金額、所得税額、追徴税額および重加算税額となることは認める。(原告の予備的主張)
一 被告の本件課税処分は次に述べるとおり、「一時不再理の原則」に違反し(何ら事情の変更がない)、「信義則」にもとり、著しく「禁反言の原則」に反する不当なものである。
1 原告は昭和三五年八月末頃、被告が従来から設けている税金相談日に被告を訪れ、係員に本件に関する一切の書類を示し、事情を告げて指導を受けたところ、係員は訴外会社設立の理由、本件土地買入れの経緯、登記簿の記載、本件土地の利用状況、財務諸表への記載の脱漏はこれを記載すれば足りることを告げ、右係員より企業再開届の提出等についての指導を受け、また本件土地は形式的にも実質的にも訴外会社に帰属するのでその旨の取扱いをなしうることなどの指導を受けた。2 そして、被告は、本件土地の転売利益に対する課税処分取消請求に関する、原告訴外会社、被告魚津税務署長間の当庁昭和三八年(行)第四号事件(およびその控訴事件-以下別件訴訟という)において、(一)訴外会社の本件土地購入の目的は、これを訴外会社の社屋敷地とするためであつたこと、(二)ところが、絨氈会社の営業不振のため訴外会社も営業するに至らなかつたこと、(三)本件土地の所有権の帰属は、専ら公簿、契約書等の書類上形式的に表示された名義人を標準としてのみこれを決するものではないが、所有権の表示として重要な意義を有する登記名義人が訴外会社とされている以上、本件土地の所有権は訴外会社に移転されたものと認むべきであるのみならず、その後、訴外会社の財務諸表に記載され、訴外会社所有物として取引されていること、原告から訴外会社株式を買受けたCが訴外会社の経営者となつてからも、本件土地が訴外会社の所有物として売却されていること等の事実を根拠として、本件土地の所有権が実質的に訴外会社に帰属していたと主張した。
ところが、被告は別件訴訟において敗訴するや、右別件訴訟における主張と全く相反する認定をして、原告に対し本件課税処分を行ない、被告みずからの課税処置および訴訟活動の不手際(被告は右別件訴訟において本訴原告に対し訴訟告知等により参加を求めるか、事案を明らかにするため原告の協力を求める等、十分な訴訟活動をして真相を明らかにする努力をする必要があつたのにこれを怠つた)の責任をすべて原告に転稼しようとするものである。
3 更に被告は昭和四一年三月一〇日、別件訴訟について控訴取下書を提出すると同時に、原告に対して本件更正決定処分をなしたものであるが、訴訟係属中に請求を認諾し、訴もしくは控訴を取下げることは訴訟物を任意処分したと同一の結果になるのであるから、許されるべきことではない。被告は別件一審判決以外に何ら不利な事態、証拠も存しないのであるから、控訴を継続し、最終的な判断を仰ぐべきであつた。以上のとおり、被告は適法ではない控訴の取下をしておいて、それまで被告が協力を求めて来た原告に対し本件課税処分をしたのは、余りにも信義に反するというべきである。
二 申告納税方式による国税についてする更正は法定申告期限から三年の除斥期間に服する(国税通則法七〇条一項)ものであるところ、本件において原告の法定申告期間は昭和三六年三月一五日であるから、これにより三年を徒過した後になされた本件更正決定は違法な処分である。
(原告の予備的主張に対する被告の答弁および反論)
一 原告の再主張一1の事実中、昭和三五年ころ被告の設けた税務相談日に係員が原告に対し企業再開届の提出方について指導したことは認めるが、その余の事実は争う。
同2、3の事実は否認する。
1 被告の税務相談の実体は次のとおりであつた。
一般に休業中の法人でも、毎期所得金額を零とする確定申告の提出を義務づけられているところ、昭和三五年八月当時休業中であつた訴外会社は、右の確定申告書を提出していなかつたため、被告において申告するよう慫慂中であつた。そのころ、原告が被告を訪れて事業再開による申告手続等について、納税相談をしたので、当時の担当係長訴外Fは一般的な無申告法人に対する指導をしたに過ぎない。同人は原告に対し、「休業中の法人については、資産の異動がなければ設立当時の貸借対照表が、異動があれば異動後の貸借対照表を申告書に添付して提出すること、事実をありのまま申告することおよび資産の計上方法については異動後の資産が事実会社のものであれば実際の取得価額で計上し、立替金も計上したらよい」旨抽象的一般論を述べたに止まり、当時、原告が申立てた資産内容につき調査したこともなく、ただ原告の申立てに基づいて一般的な申告指導をしたに過ぎないのである。原告が主張するように完全な資料の提供、説明を受けた事実はない。当時は別件訴訟提起前であり、もし、相談を受けた際、本件のような譲渡の実体が判明していたとすれば、指導の方法も異なつていたはずである。
2 ところで、被告がかつて訴外会社に対して課税したのは結局原告等の責めらるべき仮装行為に起因するもので、その結果事実認定を誤つたために生じた処分であり、右誤認を発見後直ちに被告は右課税処分を取消し、右別件訴訟進展中に判明した事実およびその後の調査により明らかとなつた事実に基づいて原告を納税義務者と認めて、本件課税処分を行つたのであつて、租税法律主義の当然の帰結である。なお、被告は現在では別件訴訟において準備書面により主張した原告引用にかかる各主張事実は、いずれも誤つた主張であつたと考えている。
3 原告の「一事不再理の原則」に違反する旨の主張および「禁反言の原則」に反する旨の主張について、被告は次のとおり反論する。
(一) 本件は別件訴訟において敗訴後、訴外会社に対する課税処分を取消し、改めて原告に対し従来の取扱いが誤まりであつたことを告げた後課税処分をしたものであるが、違法な取扱いはすみやかに是正しなければならないものであり、租税法律主義ないし法の命ずるところに従つて法の許容する範囲内で是正したものである。誤つた処分を是正して本来あるべき姿にかえして納税せしめることこそ強い公益上の要請なのであるから、「一事不再理の原則」の適用はないというべきである。
(二) 税務署において課税のための実地調査をした場合、税務署は調査資料に基づいて具体的な指導を行なうが、一般的な納税相談については抽象的な指導に止まるのである。実地に調査していない事案については、納税者の申立てた事情によつてのみしか状況判断ができないのであるから、税務署において的確な判断をすることができず、納税者から提供された資料または申立ての範囲内においてのみ判断しうる抽象的な指導しかなし得ないからである。しかして、本件についてなした納税相談は正にこの一般的納税相談に該当するものであつて、実体は休業法人についての一般的な申告指導をしたに過ぎないのである。
このような一般的、抽象的な申告指導は、単なる意見もしくは意向の表示に止まり、かつ、税務署において実地に調査する等積極的に関与したものでもなく受動的なものに過ぎない。しかも、口頭による納税相談の性質は納税者の便宜をはかるための事実上の行政作用に過ぎず、行政処分ではなく納税者に何らの法的効果を生ぜしめるものでもない。したがつて、このような場合は「禁反言の原則」の適用はないと解すべきである。
しかも、法律上、課税処分は典型的な覊束行為とされているのであつて、客観的な課税要件を充足する限り租税の賦果徴収を止めることは許されず、厳格な法の遵守が要請されるのであるから、仮に禁反言の法理の適用を認めると違法な結果を生ずることになる場合には、右法理は排除されるべきである。
二 同二の事実社否認する。
原告は本件土地の所有者でありながら、これをCに売却する際、所定の所得税を免れるために、登記名義が財産穏匿目的でたまたま訴外会社になつていたことを奇貨とし、当時の所得税法が有価証券の譲渡による所得を非課税としていたことを悪用して、株式譲渡という偽りの方法を以て、納付すべき所得税を免れているのであるから、その除斥期間は国税通則法七〇条二項四号により五年間であり、右期間内になした本件更正決定は適法である。
第三 証拠(省略)
理由
一 請求原因第一、二項の事実については当事者間に争いがない。
二 ところで、本件課税処分について、原告は本件土地は形式的にも実質的にも訴外株式会社室町会館(訴外会社)の所有に属していた旨主張するのに対し、被告は右土地は実質的には原告に帰属していたものであるから、原告に対する本件課税処分は適法である旨主張するので、以下この点について検討する。
訴外会社が昭和二二年八月七日魚躬商事株式会社の商号により絨氈、海産物、ゴム製品、雑貨の販売を目的として、資本金七万五〇〇〇円で設立され、昭和三五年二月一日商号を株式会社室町会館に、目的をビル管理業ならびに不動産業にそれぞれ変更したことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第九号証の一ないし二三、乙第一号証、第二、第三号証の各一、二、第五、第六号証の各一、二、第七号証の一、第八号証、第一二号証、第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二二号証、原告本人尋問の結果によつて原本の存在および真正な成立が認められる甲第一ないし第四号証(第一、二号証の原本の存在は争いがない)、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一ないし三(第一一号証の一のうち印鑑証明部分および確定日付の部分は成立に争いがない)、証人Fの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四、第一八号証、原本の存在および原告本人の署名部分については原告の自署によるものであることは当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと認められる乙第七号証の二、大蔵事務官作成部分の成立については当事者間に争いがなく、その余の部分は証人Gの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一、証人Hの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の二(但し大蔵事務官作成部分は争いがない)および第二四号証、証人Iの証言によつて原本の存在および真正な成立が認められる乙第一一号証に、証人H、同G、、同F、同J、同K、同Iの各証言および原告本人尋問の結果の一部と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 原告は主宰していた絨氈会社(個人経営の日本絨氈製作所を昭和二二年四月二六日魚躬絨氈紡織株式会社組織にし、その後昭和三六年九月一日魚躬絨氈株式会社に商号変更した)が昭和二〇年一一月および同二一年一〇月の二回にわたり、アメリカ駐留軍第八軍から住宅用絨氈の大量の製造指令を受けたところから、工場の拡張、従業員の増加をはかるとともに、その販売部門を担当する別会社の設立を企図し、昭和二二年八月七日、訴外会社を設立し、原告自らその代表取締役に就任したのであるが、昭和二三年春になつて駐留軍は絨氈会社に対する前記第二回目の注文を取消すに至つたため、訴外会社(登記簿上の本店所在地は原告の住所地である滑川市<以下略>、昭和三四年一一月二八日に東京都中央区<以下略>に移転登記)は設立以来会社の従業員もなく、何ら事業を行うことなく休業状態を続けることになつた。
(2) ところで、原告は訴外会社設立前の昭和二二年五月二二日当時懇意にしていた訴外Bの斡旋によつて、本件土地を訴外Aから金三六万円で、また本件土地上に存する借地権については右Bから同年七月三一日金一一五万円でそれぞれ買受け、原告においてその頃右代金を支払つたうえ、税金対策上、同年八月一四日訴外会社名義に所有権移転登記を了した。
(3) 原告が支払つた本件土地の売買代金については、訴外会社設立後、同会社と原告との間において返済方法につき何ら具体的な取決めはなされていないし、また、本件土地に関して訴外会社の原始定款中に現物出資(商法一六八条一項五号)あるいは財産引受(同法同条同項六号)として処理すべき旨の記載もない。更に、訴外会社設立後二年内に事後設立手続(同法二四六条)がとられた形跡もなく、昭和二三年五月三〇日になされた三五万円への増資手続、昭和三五年二月六日の五〇万円への増資手続のいずれの場合にも増資に伴なう現物出資の手続(同法二八〇条の二、一項三号、同法二八〇条の八)がとられていない。
(4) しかして、原告は本件土地の上に建物を建築するに際し、当時、右土地が復興計画地区で建築制限があつたため、駐留軍用絨氈の製造に当つていた絨氈会社の名義であれば、容易に建築が許可されると考え、右会社名義で建物を建築することとし、古材に一部新しい材料を加えて、建坪延一八〇坪の二階建建物を建築し、この建物を絨氈会社の所有名義とした。したがつて、形式上は訴外会社所有土地上に絨氈会社所有の建物が建築されているのであるから、絨氈会社は訴外会社の土地を使用していることになるにもかかわらず、訴外会社において絨氈会社から地代を収納したことはないし、絨氈会社も右建物の所有および地代の支払について備付帳簿に何らの記載がなかつた。のみならず、原告は訴外会社が休業状態を続けている間に、右建物を富山会館と称して貸事務所に使用していたが、右賃料収入については絨氈会社又は訴外会社のいずれの会計にも計上されず、もつぱら原告個人の収入とされていた。
(5) また、本件土地に対する固定資産税については、訴外会社名義で納付されているけれども、右税金を実質的に負担したのは原告もしくは絨氈会社であつた。(6) ところで、訴外会社は昭和三五年一〇月三一日付で魚津税務署に営業再開届を提出したが、これに添付した同年九月一日現在の貸借対照表に初めて本件土地を訴外会社の資産として計上し、それ以前は訴外会社の財産目録、貸借対照表その他備付帳簿に本件土地に関する記載を全くしていなかつた。
(7) 原告は昭和三三年ころ、本件土地上に地上一〇階、地下二階の貸ビルを建築することを計画し、株式会社熊谷組との間で建築請負契約を締結するところまで具体的な交渉をしていたが、貸事務所に居住する賃借人の立退き問題等のため右工事の着工が延びている間に、本件土地売買の話が生じたため貸ビル建築に至らなかつたが、ビル建築についての実質的契約者は原告であつた。
(8) そして、昭和三五年に入つてから、絨氈会社の資金繰りが苦しくなつたことと、訴外Cの勧めもあつて、原告は本件土地を同人に売却することにしたが、その売却益に対する所得税が相当の高額になることが予想されたので、原告とCとの間で検討の結果、本件土地がたまたま訴外会社名義となつているところから、これを原告およびその親族らが所有する訴外会社の株式を全部譲渡する方法をとれば、右株式の移動に伴つて、会社資産たる本件土地の所有権も移動し、しかも、外形的には有価証券の譲渡に過ぎないから、当時の所得税法六条五号によつて、その譲渡所得に対する課税を免れうることに思い至り、実質的には本件土地の売買であるのに、形式的には訴外会社の株式全部の譲渡という方法をとることとした。右譲渡に際しては、原告所有の株式八七〇〇株および原告の親族らが有する株式一三〇〇株合計一万株(額面五〇円)を一株当り一万三〇〇〇円、合計一億三〇〇〇万円で売渡したが、その価格は本件土地の時価から割出したものであつた。そこで、原告は同年九月ころ魚津税務署において税務相談を受けたうえ、同年一〇月三一日付で同税務署に訴外会社の営業再開届を提出すると共に、それに添付の貸借対照表に初めて本件土地を一九五万円の資産として計上し、同年一二月一日頃右Cとの間で訴外会社株式の売買契約を締結した。なお、右届出および契約締結当時、訴外会社の代表取締役はLとなつているけれども、同人は単に名義を貸しただけで右契約等には何ら関与しなかつた。これよりさき同年一〇月二四日、原告はCと仮契約のうえ、Cの転売交渉先である三井不動産株式会社に宛て、本件土地の所有者として転売につき何ら異議を申述べない旨の念書を差入れていた。
(9) 右売買に際し、絨氈会社名義の地上建物は訴外Mに三〇〇〇万円で売却され、右金員については原告個人名義の通知預金または当座預金にしたうえ、当時、財政状態の逼迫していた絨氈会社の運転資金として使用され、本件土地代金一億三〇〇〇万円は原告個人名義で二口の定期預金とされた。
(10) 原告から全株式の譲渡を受けて、訴外会社の一人株主となつたCは右会社の代表取締役に就任し、昭和三六年七月一八日、本件土地を訴外朝日土地興業株式会社に対し二億八八〇〇万円で売却したが、右譲渡所得についてCは昭和三七年三月一五日、同人の個人所得として東京国税局麻布税務署に所得税確定申告をしたところ、同税務署はこれを受理した。
以上認定の事実に反する乙第一九号証の一、第二〇号証、証人N、同O、同Pの各証言および原告本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照してたやすく信用できず、他にこれを動かすに足る証拠はない。
そこで、本件土地がCに譲渡された際の所得の帰属主体について考えてみるに、所得税法一二条(当時の同法三条の二)は実質課税の原則について規定し、法形式上の名義人が外見上の単なる名義人で、他に実際に収益を享受する者がある場合には実質的な所得の帰属者に対して課税すべきであるとして、租税負担の公平を図つているのであるから、本件についても、右の原則に従つて、本件土地の登記名義、売渡の形式等にとらわれることなく、実質的に本件土地を使用、収益し、処分すべき権限がいずれに存したか等を総合勘案して、本件土地の譲渡所得の帰属主体を決すべきものと解する。ところで前記認定の事実によれば、原告は自ら本件土地の代金を支払つてこれを購入した後、訴外会社設立後形式的には会社名義に登記したものの、原告の支払つた代金を返済したり、あるいは商法上規定された手続をとつて実質的にも訴外会社の所有とすべき何らの方法も講じないし、本件土地を株式譲渡の形式でCに譲渡する直前になつて、魚津税務署に提出した営業再開届添付の貸借対照表に初めて本件土地を会社資産として計上したに過ぎず、本件土地は購入の当初から譲渡に至るまで実質的に訴外会社の所有となつたことはないことおよびこの間本件土地を使用、収益していたのはもつぱら原告であり、訴外会社は単に名義のみの会社であつたこと、更に、Cに対する株式譲渡の実質は本件土地の譲渡であつて譲渡所得を免れるためにとられた方法であるが、株式譲渡によつて得た収入はすべて原告個人に帰属していることが認められるので、本件土地の譲渡による収益を実質的に享受したのは、本件土地の登記名義人である訴外会社ではなく、原告であつたというべきである。
三 そこで、原告の予備的主張について判断する。(一) 原告は、本件課税処分が一事不再理の原則に違反し、信義則にもとり、著しく禁反言の原則に反する旨主張するので、まずこの点について判断する。
前記認定の事実によれば、訴外会社は昭和二二年八月七日設立以来休業状態を続け、名義だけの会社として存続して来たものであるところ、前掲乙第一号証、第五号証の一、二、第六号証の一、二、第一八号証、第一九号証の一に証人Fの証言および原告本人尋問の結果の一部を総合すると、原告は昭和三五年九月ころ、Cとの間において本件土地の売買につき具体的な交渉が進められたので、魚津税務署を訪れ、同職員に訴外会社の営業再開についての申告方法を指導してほしい旨相談したが、その際、原告は何らの資料も持参せず、単に営業再開手続の方法のみを相談したに過ぎなかつたこと、そのため、相談を受けた当時の法人税係長Fは一般的な無申告法人に対する指導として会社設立当時の貸借対照表およびその後移動があれば移動後の貸借対照表を添付のうえ、営業再開届を提出するよう指導したこと、その結果同年一〇月三一日付で本件土地を会社資産として計上した貸借対照表添付の営業再開届が同税務署宛に提出されたこと、ところで、被告は当初本件土地の所有権が訴外会社に帰属すると誤つた判断をして昭和三六年一一月三〇日付で訴外会社に対し課税処分をしたので、右処分について訴外会社から被告に対し別件訴訟(当庁昭和三八年(行)第四号法人税再調査決定等取消請求事件)が提起され審理の結果、昭和四〇年三月二六日、本件土地は実質上原告より買受けたCが朝日土地興業株式会社に転売したものであるとして取消判決を受け、被告は一旦控訴したが、右控訴を昭和四一年三月一〇日取下げたため、右取消判決が確定したこと、原告は別件訴訟において被告申請の証人として、証言したり、又被告税務署員の質問調査に応じたり等して被告側に協力していたこと、ところが被告は右の控訴取下げと同時に原告に対し本件課税処分をなしたので、原告において本件訴訟を提起するに至つたこと、以上の事実が認められる。
右認定事実に反する乙第一九号証の一、原告本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照してたやすく措信できない。
ところで、禁反言の法理、信義誠実の原則など主として私法の分野で発展した諸原則が租税法の分野にも妥当するか否かについては議論の存するところであるが、これらの原則はあらゆる分野における法に内在する一種の条理の表現とみるべきもので、租税法律主義の原則も、租税法における解釈原理としての信義誠実の原則等の適用を否定すべき根拠とはならないと考えられる。したがつて、課税庁を信頼して行為した納税者の利益が、課税庁側の右諸原則違反の行為によつて害され、これを保護すべき特別の事情がある場合には、租税法律主義、租税負担の公平等の諸原則との較量のうえで、禁反言の法理、信義誠実の原則等の適用を決すべきであると解するを相当とする。
そこで、これを本件についてみるに、前掲証人Fの証言によれば、当時魚津税務署が行つていた納税相談の実態は、多くは相談者のほぼ一方的な申立に基づき、その申立の範囲内で税務署の判断を示すだけで具体的な調査はしないので、指導内容も一般的、抽象的なものに止まることが認められるところ、本件全証拠によるも、原告が魚津税務署職員の助言、指導に基づき、訴外会社の営業再開届を提出するに至るまでの経緯において、右のような一般的、抽象的指導の範囲を越えてより具体的、詳細な指導を受ける等その他原告を保護すべき特別の事情は何ら認められないので、これらの点について禁反言の法理の適用ありとする原告の主張は理由がない。
また、原告は、被告が当初訴外会社に本件土地の譲渡所得に対する課税をなし、原告に協力を求めながら、後になつて、原告に対して課税処分をなすに至つたのは信義則に違背する旨主張する。なるほど、前記認定のとおり、原告に対する本件課税処分に至る一連の経緯のうちには、被告側の不手際が存することは否めないけれども、被告は別件訴訟において取消判決を受けたものであるところ、右一審判決に対する控訴の取下げによつて確定した取消判決の趣旨を尊重し、かつ、別件訴訟の進行過程およびその後の調査において明らかになつた事実を検討のうえ、右取消判決を正当と判断し、これに従つて改めて原告に対し本件課税処分をなしたものであり、別件訴訟と本件訴訟における被告の主張の相違等も、すべて右のような経緯に基づくものであることが窺われるから、これらの事実をもつて、直ちに信義則違反の事実があつたとするのは当らない。なお、前掲各証拠によれば、被告は国税通則法七〇条二項四号に規定する五年間の除斥期間満了直前である昭和四一年三月一〇日に別件訴訟において控訴を取下げ、これによつて右取消判決を確定させると共に、原告に対し本件課税処分をなすに至つたことが認められるが、控訴の取下を禁止すべき法律上の根拠はないし、取下後直ちに本件課税処分をなしたからといつて、批難するには当らない。
なお、本件において一事不再理の原則の適用の余地はない。よつて、この点に関する原告の主張も理由がない。
(二) 次に原告は、本件再更正決定は法定の申告期限から三年の除斥期間経過後になされた違法な処分である旨主張するので、この点について判断する。前記認定の各事実によれば、原告は本件土地の実質的所有者であるところ、これをCに売却するに際し、実質的には本件土地の売買であるにもかかわらず、当時の所得税法六条五号によつて非課税の取扱いを受けることを意図し、訴外会社の株式譲渡という方法に仮装して、本件土地を譲渡し、よつて正当に納付すべき所得税を免れていることは明らかであるから、国税通則法七〇条二項四号所定の「偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れ」たものに該当し、更正の除斥期間は右規定に従い、法定申告期限の翌日を起算日として五年であると解すべきである。したがつて、右除斥期間内になされた本件再更正決定は適法であり、この点に関する原告の主張も理由がない。
四 してみると、本件土地の所有権は原告に帰属するものであり、その売却利益も当然原告に帰属するものであるというべきところ、右譲渡益にかかる昭和三五年分の所得金額、所得税額、追徴所得税額、重加算税額、同年分の再評価額、再評価差額、再評価税額、右追徴税額にかかる無申告加算税額、重加算税額については、すべて被告主張のとおりであることは当事者間に争いがないので、被告のなした本件課税処分はすべて適法であるというべきである。
よつて、原告の本訴請求は理由がないので、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 土田 勇 矢野清美 佐野久美子)
別紙(一)
東京都中央区<以下略>
宅地 五二一・四八平方米(一五七坪七合五勺)
別紙(二)
<略>
別紙(三)
<略>
別紙(四)
<略>
別紙(五)
<略>
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket