主文
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
「被告が原告に対し、昭和四四年七月二五日高岡所第七〇一、同第七〇二号をもつてなした、昭和四二年分、同四一年分各所得税更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分中、営業経費のうち日産サニー富山西販売株式会社の株式取得のため要した負債利子(昭和四二年分金一二〇万六〇〇〇円、昭和四一年分金一一四万三〇〇〇円)否認に伴う各所得金額、所得税額の更正ならびにこれに関連する過少申告加算税の賦課決定各処分は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。
(被告)
主文同旨の判決。
第二 当事者の主張
(原告の請求の原因)
一 原告は、従来から引続きEの商号を用いて、自動車の販売・修理を業とし、訴外富山マツダ株式会社の副特約代理店として、主として同社の製品を取扱つてきたところ、たまたま、昭和四一年三月ころ訴外日産自動車株式会社が乗用自動車サニーを新発売するについて富山県一円の代理店を求めたのに対し、原告は富山県特約代理店に指名される運びになつた。
日産自動車株式会社の製品特約販売契約書によれば、特約代理店は同社以外の者の製造にかかる自動車その他の物を取扱つてはならず、また、自己以外の者の販売した同社製品のアフター・サービスを義務付けられるなど、かなり厳しい条項が掲げられているにかかわらず、原告が敢えて従来の富山マツダ株式会社との関係を断ち切つてまで日産自動車の特約代理店の指定を獲得しようとした所以は、従来の浮動的な業態に不安を抱いていて、固定した恒常的な収入を得る途を求めていたことにあつた。
ところが、その後明らかにされたところによれば、富山県全区の特約代理店の資格要件として資本金四〇〇〇万円以上の会社であることが定められてあつたが、この資本金の調達に困難があつたため、富山県を二分割し、そのうちの西部地方のみの特約代理店となることとし、資本金二〇〇〇万円の日産サニー富山西販売株式会社(その後商号変更により日産サニー富山販売株式会社となる。以下、訴外会社という)を設立し、原告は資本金の六五パーセントに当る金一三〇〇万円を出資してその代表取締役となつたものであり、その払込金は全額訴外富山銀行新湊支店からの借入金によつて賄われ、爾来、原告は新設された訴外会社の翼下に入つて、引続き自動車修理業を営んで安定した業態を続けている。
二 原告は、昭和四一、同四二年分所得税申告に当り、右借入金の利子昭和四一年分金一一四万三〇〇〇円、昭和四二年分金一二〇万六〇〇〇円を、原告個人の経営にかかる前記Eの業態改善のための必要経費として、総収入金額からその全額を控除して提出したところ、被告は、右負債利子を所得税法三七条一項の規定による営業所得の必要経費と認めることを否認し、原告に対し、昭和四四年七月二五日高岡所第七〇二、同七〇一号をもつて、昭和四一年分については営業所得の金額を金一一四万三〇〇〇円増加し、昭和四二年分については営業所得の金額を金一二〇万六〇〇〇円増加して、各所得税の更正処分およびこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分をなし、右決定の通知書は当時原告に送達された。
三 原告は、右処分に不服があるとして昭和四四年八月六日被告に対し異議を申立てたところ、被告は同年一一月四日付をもつて異議申立を棄却する旨の決定をした。
そこで原告は、同年一一月二〇日訴外金沢国税局長に対し審査請求をしたが、金沢国税不服審判所長は昭和四五年一二月二一日付をもつて審査請求を棄却する裁決をなし、同月二三日その旨原告に通知された。
四 しかしながら、原告が前記借入金一三〇〇万円をもつて訴外会社の株式を取得したのは、第一項にも述べたとおり、あくまで、原告がこれによつて日産自動車株式会社の系列に入ることにより、原告の個人企業である自動車修理業の安定と向上に資することにあつたのであるから、原告にとり訴外会社の株式取得は、実質的には原告個人企業の設備の改善、販売員の増員であり、正しく個人企業のための資本的支出に他ならない。従つて、右借入金の利子は所得税法三七条一項に規定する事業所得計算上の必要経費に該当するにもかかわらず、被告はこの事実を誤認して、原告がなした必要経費としての申告を否認し、前記各更正処分とこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分をなしたものである。
五 よつて、被告がなした原告の昭和四一、同四二年分所得税の各更正処分のうち前記負債利子の経費性否認に伴う増加部分および各過少申告加算税の賦課決定処分のすべては違法として取消されるべきであるから、被告に対し請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。(被告の答弁および主張)
一 請求原因第一項のうち、原告が自動車の販売・修理を業としていることおよび訴外会社の設立にあたり借入金によつて金一三〇〇万円を出資して同社の代表取締役になつたことは認めるが、その余の事実は不知。
同第二、第三項の各事実は認める。
同第四項のうち、被告が負債利子をEの事業所得計算上の必要経費とみることを否認し、所得税を更正し、これに伴つて過少申告加算税の賦課決定処分をした事実は認めるが、その余は争う。
二 原告は、昭和四一年分および同四二年分所得税について、昭和四二年三月一五日および同四三年三月一五日別表課税処分表の「確定申告額」欄に記載したとおりの確定申告書を被告に提出したが、被告は、右申告にかかる事業所得金額等が、その調査したところと異なるので、国税通則法二四条の規定により、原告に対し別表課税処分表の「更正および賦課決定額」欄に記載のとおり更正するとともに、同法六五条一項の規定により過少申告加算税を賦課決定し、昭和四四年七月二五日付でその旨原告に通知した。
三 被告が、原告主張の株式(出資)を取得するために要した負債の利子を、所得税法三七条一項に規定する事業所得計算上の必要経費と認めることを否認した理由は、次に述べるとおりである。
1 所得税法は、あらゆる源泉から生ずる所得を課税対象としながら、その課税標準の計算については、所得を源泉形態の同一のもの毎に一〇種類に区分して、区分された各種所得ごとに各別の方法により所得金額の計算を行うものとし、ある種の所得については赤字が生じても損益通算を行わないものとし(同法六九条一項)、ある種の所得については総合課税を行わないものとする(同法二二条一項)とともに、所得計算上収入金額から控除される経費についても、如何なる経費がどの区分所得の収入金額に対応するものとしてそれから控除するかを法定する、いわゆる区分計算の計算構造をとつている。
この区分計算の計算構造がとられたのは、個人の所得の源泉形態の如何によつて担税力に差異があるので、担税力に応じた公平課税を実現しようとの理念に立脚するものに他ならない。従つて、所得の区分を厳格に法定した所得税法の所得区分を納税者の主観的事情によつて変更する余地はなく、ある経費がどの区分所得の収入金題から控除されるかについても、同法の区分所得の所得金額の計算に関する規定を無視することは許されず、また、ある収入は一つの区分所得の収入金額に算入されるだけであると同時にある経費も一つの区分所得の経費に算入できるだけであつて、右収入や経費の選択的算入ないし選択的控除は許されないこととなつている。2 これを原告の主張に即して、個人事業の売上収入の増加を目的として関係会社の株式へ投資した場合について考えるに、それが原告の主観においては個人事業の付随業務であるときでも、同法二四条一項はこのような場合の利益または利息の配当を除外していないから、右投資による配当収入は配当所得であり、配当所得の金額の計算上経費に算入すべき金額については、同条二項に「・・・・・・株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子(・・・・・・中略・・・・・・)でその年中に支払うものがある場合は、当該収入金額から、その支払う負債の利子の額のうちその年においてその元本を有していた期間に対応する部分の金額・・・・・・」と規定されているが、ここに「配当所得を生ずべき元本」とは、納税者が主観的に配当所得を生ずることを期待した元本の意味ではないのであつて、株式を取得するための負債の利子は配当所得の金額の計算上からだけ控除すべき経費として法定されているのであるから(例外として、株式等の継続的売買や買集めの場合がある。同法九条一項一一号、二四条二項括弧内)、株式保有が専ら事業所得の総収入金額の増加に寄与するものであるという事情があつても、配当所得の経費に算入すべきである。
事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額については、同法三七条一項が規定しており、事業所得の総収入金額を得るために通常必要であると認められる経費だけが必要経費になるとされている。
原告主張のように、本件負債利子が事業所得計算上の必要経費に算入されるとすると、このような負債利子も同法二四条二項から除外されないで、配当所得の経費にもなると同時に事業所得の必要経費にもなり、その何れとするかは納税者の選択に任すことになる。また、配当所得の収入金額よりもそれから控除できる負債利子の額が超過する場合、超過する部分を事業所得の必要経費に算入することを許さざるを得ないこととなり、その結果は、配当所得の赤字は他の所得の黒字と通算できないこととした同法六九条一項の規定の趣旨を没却せしめることとなる。このような解釈を所得税法が許容しているとは到底考えられないところである。3 次に、一歩譲つて、原告主張の趣旨が、本件負債をもつて取得した株式が、形式上は株式であつても、実質的には配当を期待して取得したものでなく、専ら個人事業上の必要に基づいて取得したものであるから、同法二四条二項にいう株式に該当しないとの趣旨であるとしても、前述のとおり、同項は事業上の必要に基づいて取得した株式を除外していないし、一方、事業所得の必要経費は事業所得の収入を得るために通常かつ一般的に必要であると客観的に認められる支出に限るものであるところ、関係会社の株式を保有することが事業収入の増加に寄与するという事情が仮りにあるとしても、それは通常一般的には株式投資の結果として生じた反射的な間接的投資効果にすぎないと客観的に認められる関係にあるから、その株式を取得するために要した負債の利子が事業所得の必要経費に算入されるとの見解は肯認できない。また、このような負債の利子を同法二四条二項の負債の利子から除外するとする縮少解釈をとつた場合、このような株式について現に配当があつたときに、この負債利子を配当所得の収入金額から控除しないこととしなければならないが、その理由に窮することとなるのであつて、この点からも右縮少解釈の見解は到底とり得ないものである。
4 原告は、訴外会社の設立にあたり、全額借入金によつて株式金一三〇〇万円を取得し、訴外会社の代表取締役に就任したが、訴外会社設立の目的は日産自動車株式会社の富山県西部地区における特約代理店の指定を受け、同社の製造する自動車、部分品等の販売等を行うためのものであり、その株式投資効果は、原告が代表取締役として訴外会社の経営に手腕を発揮し、健全な法人の事業活動から得られる利益処分による役員賞与、株主配当金および役員報酬等によつて結実すべきものである。
5 上述したところから明らかなとおり、訴外会社の設立、株式投資により、たまたま原告が従来から引続き経営している個人事業にとつても自動車修理等の訴外会社からの受注が確保されるなどの利益の享受があつたとしても、その利益はあくまで株式投資の結果として生じた反射的、間接的な投資効果にすぎず、訴外会社を設立し、それに出資した行為は原告個人の事業活動の一環とは認め難い。してみると、原告が当該株式を取得するために要した負債の利子昭和四一年分金一一四万三〇〇〇円、昭和四二年分金一二〇万六〇〇〇円は、所得税法三七条一項に規定する事業所得計算上の必要経費とは認められず、むしろ、これは同法二四条二項に規定する配当所得計算上の負債の利子として控除されるべきものである。そして、本件負債利子を配当所得計算上控除されるべきものとすると、訴外会社は本件係争年度において利益の配当がなされていないため、原告の配当所得の計算上、株式の取得に要した負債の利子を控除すると、配当所得の金額に損失(赤字)が生じるが、この損失額は同法六九条一項の規定により損益通算の対象から除外されているので、他の所得の金額から控除されないことになる。
以上の次第であるから、被告が原告に対してなした昭和四一年分、同四二年分各所得税の更正処分およびこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分はすべて適法で、原告主張の如き取消事由は存しない。
(原告の答弁および反論)
一 前項二の被告主張事実は認める。
二 前項三の被告の主張に対し、次のとおり反論する。
1 被告は、所得税法が公平課税の原則に基づき区分計算の計算構造を採ることを理由として、必要経費についても、所得の区分計算と経費との対応の形式的厳格性を強調する。
しかし、納税義務を具体的に定める場合には、応能負担の原則に基づき担税力ある者を対象としなければならず、そのためには、実質的に経済力の獲得増加が何人に帰属しているかによつて定められなければならないとされている(実質課税の原則)。この実質課税の原則の内容としては、実質所得者に対する所得の帰属の判定の原則の他に、所得概念の経済的・実質的把握あるいは行為の経済的結果に対する税法的評価を含めて観念されており、このことは、広く税法の解釈・適用および事実認定のすべてに関する一般的・基本的原則とされているのであつて、それが被告のいう公平課税の実現に奉仕するものである。この観点から所得の性格を検討すると、所得の中には、事業所得のように反覆・継続した経済行為に基づくものと、譲渡所得のように偶発的・一時的行為に基づくものとがあり、前者についてはその損益を一体として把握しようとする総体的対応の考え方が、後者については収入の生じた行為または原因ごとにその費用を控除する個別対応の考え方が妥当するのであつて、所得税法もこの考え方を基礎にしているものと考えられる。そこで、事業所得の内容を分解すれば、あるいは譲渡所得、あるいは利子所得あるいは配当所得に、該当するものがあつても、それが営利性・継続性をもち、社会的・客観的に事業として認められる程度に達していれば、それらの収益を一括してこれを事業所得とし、この所得を産み出すために要した相当因果関係内の経費はその必要経費として、事業の損益を一体的に把握するのが同法二七条の正当な解釈態度といわなければならない。かくして、はじめて同じく事業所得の一環として支出された長期取引のための差入保証金、工場増設、株式取得等のための借入金利子などの取扱いが公平に処理され、また、法人の場合との好ましくない差異も取除かれることとなる。2 被告は、原告の本件負債利子は所得税法二四条二項に規定する配当所得計算上の負債の利子として控除されるべきであるとし、若し、これを原告主張の如く同法三七条一項に規定する事業所得計算上の必要経費に算入されるとすれば、配当所得やそのための負債利子につき、納税者の主観的事情によつて法定の所得区分に変更を認める余地を残し、収入や経費の選択的算入ないし選択的控除を許すこととなつて、所得税法の採る前記区分計算の構造に悖る結果となる旨、あるいは、配当所得の赤字につき損益通算を否定した同法六九条一項の規定の趣旨を没却せしめる結果となる旨主張する。
しかし、同法二四条二項の規定は、所得税の課税標準である総所得を定めるに当つて、配当所得がある場合にはその元本を取得するために要した負債の利子はその配当金額から控除するというだけに止まり、株式その他の元本を取得するために要した負債の利子はすべて同規定によつて処理すべき旨を定めたものではないのであつて、本件係争年度の場合、訴外会社の配当は全くないのであるから、同規定の発動の余地は全くない。さらに、原告は、納税者の主観的事情によつて所得区分がなされたり、収入や経費の納税者による選択的算入や選択的控除が許されるような解釈の余地を認めるものではなく、所得区分については経済的・実質的に判断してそのあるべき所に位置づけるべきであり、また、ある経費が何れの区分所得の経費に算入されるべきかについても合理的・客観的に決定されるべきであると主張しているものである。
そもそも、原告が訴外会社の株式を取得した経済的・実質的な理由は、既述のとおり単に訴外会社が設立されるに当つてその株式を取得したものではなく、また、訴外会社の利益配当、剰余金分配等の利益を得ることを目的としたり、株式の値上りを見込んで投機したものでもなく、実に原告の個人事業を有利にする目的のための事業投資の一形態として訴外会社を設立、出資してその株主となつたものである。ところで、均しく出資についての所得の中にも、これを経済的に観察すれば二つの類型が存在するものであつて、一つは事業に係る出資についての所得であり、他は事業に係わりのない出資についての所得である。その所得を所得税法二一条一項一号の規定による区分に従つて類別すれば、前者は事業所得となり、後者は配当所得となる。そして、その株式取得のための借入れた負債利子は、前者の場合は必要経費となり、後者の場合は所得赤字となる。この ような区別の生ずる所以は、所得税法が各種所得を区分するに当つて、所得の源泉の一つとして行為と物の結合した営業活動すなわち事業なる種目を設け、その活動から生ずる収入を事業所得なる項目にまとめ、これを産み出すための支出を経費として控除して所得金額を算出する建前を採つたためであつて、事業から生ずる収入の中には形式的には山林所得、利子所得、配当所得あるいは譲渡所得に該当するものがあつても、直ちにそれらの所得として扱うことなく、まず事実に係るものだけを取り出して事業所得とし、事業に係わりのない収入はそれぞれの所得ごとに所得金額の計算をする定めとなつたことによるものである。従つて、被告の主張する損益通算のできない配当所得とは、事業に係わりがないため事業所得の中にまとめることの出来ない配当についての所得であつて、事業に係わりのあるため事業所得の中にまとめることのできる配当についての所得は事業所得としてこれにまとめ、もし、それについての損失、赤字があれば、必要経費として控除して事業所得の金額を算定すべきであつて、損益通算を定めた同法六九条一項の規定の適用を受けることはない。
以上によつて明らかなとおり、原告の訴外会社への投資は原告個人事業の事業活動の一環に他ならないから、右出資に対する配当があれば、それは所得税法二七条一項所定の事業所得であり、右出資のために借受けた本件負債利子は、同法三七条一項所定の「総収入金額を得るため直接に要した費用」または少くとも「これらの所得を生ずべき義務について生じた費用」として、事業所得計算上の必要経費に該当すると解するのが相当である。そして、これは原告独自の見解ではなく、税務行政の実際において、事業を営む者が事業に関連して取引先などから受取る物は一時所得(同法三四条)ではなく事業所得に該当するとし、事業を営む者がその収益や経費の補償として受取る物も事業所得か不動産所得(同法二六条)に該当し、一時所得に該当しない取扱いであり、その反面として、事業を営む者が事業に関連して取引先などに物を交付した費用は、一時所得の損失ではなく事業所得の経費に該当し、事業を営む者がその収益や経費の補償として支弁するものは、一時所得や不動産所得の赤字ではなく事業所得の経費に該当することに照応するものである。3 被告は、原告の経営する個人事業(E)の売上増加を来したとしても、それは株式投資の結果として生じた間接的効果とみるべきである旨主張する。しかし、Eが日産サニー車の修理を行うようになつたのは、たまたま原告が訴外会社の株式を保有していたためではなく、原告は出来れば個人として日産自動車株式会社の富山県総特約販売店となり、その修理を受持ちたい希望であつたが、請求原因第一項に既述のとおりの事情から訴外会社を設立し、株式の過半数を取得してその代表取締役となつたことによるものである。そして、日産自動車株式会社と訴外会社との製品販売契約書によれば、訴外会社は買受人に製品を引渡す時に日産自動車株式会社の発行する保険証券を交付し、その販売した製品については勿論、日産自動車株式会社その他自己以外の者の販売した製品についても又、保険証券を呈示するその使用者の要求に応じて日産自動車株式会社の定める製品の保証およびアフター・サービスの義務を履行するものとし、訴外会社がこの義務を履行した場合において、日産自動車株式会社の定める保証の範囲内で同社はその費用を訴外会社に支払うことに定められ、Eは訴外会社の指定サービス工場として、新湊市およびその周辺一帯のサービス義務を受持つているものである。
右のとおり、訴外会社設立の直接の目的は、日産サニー車の修理により原告の営むEの事業の拡大と安定にあつたものであり、Eの受注確保、売上増加を来したことは訴外会社設立の結果として生じた反射的利益や間接的効果とみるべきではなく、はじめから志向された目的の遂行の効果であり、訴外会社の設立はあくまで手段であつて、訴外会社の設立に伴い結果として原告に裨益したものではない。被告の右主張は本末を顛倒するものである。
4 最後に、法律の解釈については「疑わしい場合は国民の利益に解すべし」との一般的命題が存するところ、右命題は所得税法の解釈についてもそのまま妥当する。また、法律の規定する要件事実は時代の推移に関連して事情の新たな発展があるところ、所得税法においても法の予想しない新たな事情が生じた場合には、同法の規定する所得の分類に関しても、右発展に照し経済的・実質的に解決して、そのあるべき所得区分に位置づけて所得金額を計算することこそ法の正当な解釈態度というべきである。
この観点から本件をみるに、被告は前記のとおり、本件負債利子は配当所得計算上の負債利子として控除されるべきである旨主張するが、もともと、配当所得とは、資本金払込に応じ得る経済力を有する者または譲渡能力を有する者が、株式を所有することによつて直接その法人から利益もしくは利息の配当、剰余金の分配等を得る目的で株式を取得し、これにより受ける配当、剰余金等を指称するものであつた。しかるに、配当そのものを目的とすることなく、事業所得を伸ばす手段としていわゆるトンネル会社を作つてその株式を取得したり、提携先の事業者と協力して株式持合をするために会社を設立して互いに株式を所有したりする事例が多く見られるようになつた。この場合、その株式取得のための資金は融資に依ることが一般であり、株主の関心は配当金の有無、多寡ではなく自己の事業所得の伸展の大小であり、配当金はあつてもそれは不労所得ではない。原告は訴外会社の株式を取得してその役員となつたことにより、その営む個人事業Eが従来取扱つて来たすべての自動車会社との関係を断ち切られ、専ら訴外会社との関係のみしか保有しえなくなつた。このようなことは通常の株式取得の場合にはありえないことであり、従つて、原告の本件の株式取得をもつて一般の株式取得と同列に律しえないことは容易に理解しえられるのである。繰返し述べたとおり、原告の本件株式取得は原告の個人事業伸展のための投資を直接の目的としたものであり、工場増設のための固定資産の取得と何ら異るところはなく、かつ、右株式は原告の事業所得以外の所得の基因たる資産とならず、訴外会社の製品を取扱う業者以外には投資価値は差当り認められず、期間損益の算出も可能であるから、前記解釈基準に照しても、その所得の区分については事業所得に該当し、本件負債利子は事業所得算出上の必要経費として計上すべきが相当である。被告は体件負債利子を配当所得計算上の負債利子から除外する縮少解釈をとれば、当該株式について現に配当があつた場合にもこの負債利子を配当所得の収入金額から控除しないこととしなければならないが、その理由に窮することにたるとも主張するが、原告の右主張によれば、当該株式について配当があつた場合には、これを事業所得の中の配当収入として加えるだけのことであつて、何らその理由に窮することはない。そして、以上のように解することにより、当該株式につき配当がある場合とない場合を通じて無理なく統一的に処理できるのであつて、結局、本件負債利子を事業所得計算上の必要経費とすることを否認した被告には所得税法の解釈を誤つた違法があるというべきである。第三 証拠関係(省略)
理由
一 原告が、Eの商号により自動車の販売、修理を業とするものであり、訴外会社の設立にあたり借入金によつて金一三〇〇万円を出資して同社の株式を取得するとともに代表取締役となつたこと、原告が、昭和四一年、同四二年分各所得税の申告にあたり、右借入金の利子昭和四一年分金一一四万三〇〇〇円、昭和四二年分金一二〇万六〇〇〇円を、右Eの業態改善のための必要経費として、総収入金額からその金額を控除して申告したところ、被告は右負債利子を事業所得の必要経費と認めることを否認して、原告主張のとおり両年度分所得税を増額する更正処分とこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分をなし、その内容が別紙課税処分表記載のとおりであつたことおよび原告主張のとおりの経過で右処分に対する異議申立と異議申立棄却決定ならびに審査請求と審査請求棄却裁決がなされてその旨原告に通知されたことは何れも当事者間に争いがない。
二 本件の争点は、本件負債利子を所得税法二四条二項に規定する配当所得計算上の負債利子に該当するとみるか、または同法三七条一項に規定する事業所得計算上の必要経費に該当するとみるべきかにあるから、以下この点について判断する。1 被告は、所得税法が区分計算の計算構造を採ることを理由として、同法の規定する所得や経費の概念および所得と経費の対応関係についても形式的に厳格な解釈、適用が必要であるから、本件負債利子は配当所得計算上の負債利子と解するのが相当であり、従つて、この見解に立脚してなされた本件各更正処分とこれに伴う各過少申告加算税の賦課処分は適法である旨主張する。
しかしながら、所得税法において区分所得の計算構造が採用された理由には、納税者の担税力に差異があるところから、所得の特別控除または税額控除などにより所得の性質に即応した措置を規定する必要があること、あるいは、同法が高度の累進税率を採ることから各種所得の負担の公平を図る必要があることに基づく面があり、その意味では公平課税の実現を期したものとも解されるが、他面には、複雑な所得計算の実務上からこの計算構造を採ることが便宜であるとの面もあるのであるから、被告主張のような形式的な解釈、適用がすべての場合直ちに公平課税の理念を実現する理由に、なるとは解し難いのであつて、その形式的な適用が、実質的にみて課税の公平、適正を欠く結果となると客観的に認められるときは、実質課税の原則に基づき右形式的な解釈、適用を修正すべき必要のある場合もありうるものというべきである。
従つて、本件負債利子を配当所得計算上の負債利子とみるかあるいは、事業所得計算上の必要経費とみるかについても、実質的、経済的観点から訴外会社とEの実体および両者の関係の実態を観察し、さらに、その関連において、本件負債利子発生の基因となつた借入金の使途を検討し、それが直接に如何なる機能や作用を営むものであつたかを検討することによつて決定さるべきものといわなければならない。2 そこで、証拠についてしらべるに、成立に争いのない甲第三号証、第五、第六号証、乙第一号証、証人A、同Bの各証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
原告は、終戦後間もなく、富山県新湊市においてEの商号で各種自動車の修理、販売業をはじめ、その傍ら訴外東洋工業株式会社の特約店たる訴外株式会社富山マツダ自動車の副特約代理店となりマツダ製車種の修理、販売にも従事していたが、昭和四一年ころ右特約店において直接営業所を設置して販売事業に進出する状勢であるとの噂が出たので、Eの将来に不安の念を抱いていたところ、たまたま、訴外日産自動車株式会社が大衆車サニーを売出すにつき富山県一円の特約店を求めていることを知り、Eの将来の安定を期するためには右特約店の指名を受けるほかはないとの判断から指名獲得のための交渉をなすに至つたこと、そのようなことから、当時原告としては、特約店の指名はEにおいて得たい考えであつたところ、右交渉過程において、日産自動車株式会社から特約店たる資格要件として、資本金四〇〇〇万円以上の株式会社であることの条件が示されたが、資金調達の都合もあつて同社と折衝した結果、取敢えず資本金二〇〇〇万円で富山県西部地区を担当する会社で発足することを許容され、併せて、新会社の資本は原告において指導権をとりうる資本構成とすべきことが要求されたので、富山県下の同業者らとも相談のうえ、原告はEの資産や実弟Bの不動産などを担保として富山銀行から金一三〇〇万円の融資を受けこれを新会社に出資して株式一万三〇〇〇株を取得し(但し、うち四九五〇株は実弟B名義、五〇株は同人の妻F名義)、残り七〇〇万円については、原告の同業者で同じくマツダの副特約店もあつた訴外狩野モータースことCほか三名および従来Eの敷地所有者で長年原告と親交があり、指名獲得にも尽力してくれた訴外Dの協力を得て右全額の出資を受け、昭和四一年四月訴外会社(商号、日産サニー富山西販売株式会社)を設立してその代表取締役となるとともに、日産自動車株式会社との間に製品特約販売契約を締結して訴外会社が特約店の指名を受けたこと、右契約によれば、訴外会社は他社製自動車等の取扱いを禁止される反面、日産製自動車等の保証、アフター・サービスが義務付けられ、営業所、店舗、サービス工場等を設置すべきものとされ、かつ、日産自動車株式会社の承認を得たときまたはその要求があつたときは副特約店または指定サービス工場を設置すべきものとされており、これにより、訴外会社は本社をEの営業所内に置き、射水郡大島村に直営工場を設置したほか、Eを新湊地区一帯担当の副特約店兼指定サービス工場となし、Eの従業員数名を迎え入れて営業を開始したこと、その後訴外会社は、本件各係争年度には利益配当こそ出来なかつたけれども徐々に業績を伸展し、昭和四五年一〇月には資本金を四〇〇〇万円に増額して富山県一円を担当する特約店となり、同時に商号を日産サニー富山販売株式会社と変更し、本社を富山市田中町に移転し、従業員も逐次増員して現在一六〇名位を擁し、直営工場も県下に五ケ所を設置する運びとなり、昭和四五年には株式に対する利益配当も可能となり、役員報酬の支給もするなど極めて順調な発展をなしたこと、一方、Eは訴外会社設立とともに前記マツダの副特約店たる資格を取消され(なお、訴外会社の出資者でマツダの副特約店である前記狩野モータースほか三名については右資格の取消はなされなかつた)、従業員も減少するなど、従前に比してその規模は縮少されるに至つたけれども、前記のとおり訴外会社の副特約店として日産製車種を取扱うこととなり、車種の単一による販売、修理等の事業の効率化、事業の計画的実施等により、訴外会社の発展に伴い従前に増して業績の安定と向上を得ることとなり、原告の所期の目的は達成されつつあること、以上の各事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
3 右の事実によれば、原告主張のとおり、訴外会社が設立されるに至つた動機は、原告がその経営するEの業績の安定、向上を図るにあつたものであり、訴外会社とEの関係の現状も、後者が前者の副特約店であり、かつ、Eの経営者たる原告が訴外会社の代表取締役であるという形式的関係に止まらず、経済的、実質的にも極めて密接な関係にあることはこれを肯認することができる。
しかしながら、訴外会社の資本構成についてみても、その相当割合を第三者の出資に仰いでおり、これら出資者の大部分は依然マツダの副特約店として営業を継続している独立した事業経営者であつて、それらの人が何れも従前から原告と親密な間柄にあつた者であるとしても、その事業や地位を捨ててまで訴外会社や原告といわゆる運命共同体的地位に甘んじる者とも解し難いのであるから、原告は訴外会社の経営者として右出資者に対する関係においても健全な経営により企業利益をあげるべき負担を受けているものと認められるのであり、その他、訴外会社とEの各本店、営業所、工場あるいは従業員など経営上の人的、物的組織および現在における両者の利益配当、役員報酬等の実状に照して考えても、訴外会社とEはそれぞれ独立した存在として運営されているものと認められるのであつて、結局、両者は法律的には勿論のこと、経済的、実質的にも別個独立した企業の実体を有するものといわなければならない。
原告は、事業経営上の必要からいわゆるトンネル会社が設立される事例等をあげて、訴外会社がEの営業上の必要に基づき設立されたもので、原告の訴外会社への出資およびそのための借入金もEの事業活動の一環にほかならない旨強調するので考えるに、なるほど、世上には個人や法人が営業利益をあげる手段、租税通脱の目的その他の理由から、設立登記のみをなして法人の実体を有しないいわゆる虚無会社を設立したり、設立された会社につき全額出資をしながら株式名義を他人名義に分散したいわゆる一人会社の実体を有する会社を設立し、企業利益を実質上独占するなどの事例も見られるのであつて、このような場合には、実質課税の原則に則り利益が実質的に帰属する主体を把えて課税するのを相当とするが、訴外会社とEの関係はこれらの場合と同一に律しえないものであることは前記事実によつて明らかなところである。従つて、本件負債利子の基因となつた借入金は、経済的、実質的に観察しても、直接には訴外会社の設立、活動とそれに伴う収益のために機能するものであつたと認めざるを得ず、たとえ訴外会社設立の目的が原告個人事業なるEの業績の安定、向上にあつたとしても、それは単に原告の主観的動機に止まり、また、Eが現に原告所期の目的を達成しつつあるとしても、それは被告主張のとおり訴外会社の設立、活動に伴う間接的効果と認めるのを相当とする。
4 次に、原告は、事業所得における事業とは、営利性、反覆性、継続性をもつて統一された人的、物的組織の結合体で、社会的、客観的に事業と認められる程度に達したものを指称し、所得税法は、まずこの意味における事業に関連する所得をまとめて事業所得なる項目を定めて一括し、その所得を産み出すために要した相当因果関係内の経費を、事業所得計算上の必要経費とし総体的対応の考え方により事業損益を一体的に把握する所得計算方式を採用しているのであり、この反覆、継続した経済行為に基づく所得の中には、形式的にみれば配当所得、利子所得あるいは譲渡所得等に該当するものも存在するが、実質的に右意味の事業に関連するかぎり、それら所得は事業所得に該当するとともに、その所得を産み出す基因となつた負債の利子は事業所得計算上の必要経費に該当するのであつて、このように解することにより、事業所得の一環として支出された長期取引のための差入保証金、工場増設、株式取得等のための借入金利子などの取扱いが公平に処理され、また、法人の場合との好ましくない差異も取除かれることとなる旨主張するので、以下この点につき検討を加える。
所得税法は、事業所得における事業の範囲に関し、同法二七条一項で「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)」と規定し、これを承けて所得税法施行令六三条は、その一号ないし一一号において各種事業の類型を具体的に定めるとともに、その一二号において「前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」と規定している。ところで、右事業の概念は全く所得税法自身の解釈にまつべきものであるが、時代の推移と変遷に応じて各種、各態様の事業が複雑な機構で形成される現実に適合させ、適正かつ公平な課税の理念を実現するためには、所得税関係法令の規定も右課税理念に則して解釈されるべきことはいうまでもない。そして、所得税法が区分規定する各種所得のうち、雑所得(同法三五条)を除くその余の九種の所得は、それぞれ独立、固有の概念内容を有するものと解すべきであり、関係法令の規定の趣旨と右課税理念に則りその概念内容を解釈、決定すると同時に各種個人所得の性質を決定することにより、右所得を法定された区分所得のあるべき位置に位置づけることこそ租税法律主義の要請に沿うものである。これを事業所得についてみれば、事業に関連して生ずる所得のすべてが事業所得となるものではなく、所得の源泉が事業以外のものであるとして所得税法に特別に規定されているもの、例えば、事業用資金を銀行預金したことにより生ずる預金利子(利子所得に該当する。同法二三条)、株式の売買業から生ずる継続売買にかかる株式の配当金(配当所得に該当する。同法二四条)、不動産等の貸付業から生ずる所得(不動産所得に該当する。同法二六条)が事業所得に該当しないのは勿論のこと、事業には関連していても事業とは直接の結びつきがなく、事業の遂行上必然的に生じたものでないものは事業所得以外の他の所得として区分されるものと解するのが相当である。しかるに、これを原告の主張のように、まず「事業に関連する」所得をすべて事業所得に該当するものとし、そのうえで、その余の所得をそれぞれの区分所得に位置づけるべきものとすれば、事業所得の内容は拡大され、かつ不明確となるもので、租税法律主義に悸る結果となるので原告の右主張は独自の見解として採用することができない。また、一歩譲つて、原告の右主張を前提として考えても、前記のとおり訴外会社とEは経済的、実質的にも別個、独立の企業であり、訴外会社の企業収益をEの事業所得と認めることはできないから、本件負債利子をEの事業所得計算上の必要経費とみるべき理由はない。
その他原告の主張するところは、すべて訴外会社がEの事業活動の一環であることを前提とするものであつて、いずれも理由がないというべきである。5 次に、原告はもともと配当所得とは、資本金払込に応じうる経済力を有する者または譲渡能力を有する者が、株式を所有することにより直接その法人から配当等の利益を得る目的で株式を取得し、これにより受ける配当等を指称するものであつて、本件の場合の如く、借入金によつて株式を取得し、しかも訴外会社からの配当等の利益を得ることを目的としたりまた株式の値上りを見込んで投機したものでもない場合は一般の配当所得とは同列に律しえない旨および所得税法二四条二項の規定は、配当所得がある場合の規定であつて、本件係争年度には配当所得がないのであるから、同規定を適用する余地はない旨主張する。
しかして、本件各係争年度において、訴外会社に配当がなされなかつたことは前認定のとおりであるところ、所得税法は、他の所得と異り、配当所得金額計算上の損失につき損益通算を行わないこととしている(同法六九条一項)。
そこで、所得税法が配当所得につき損益通算を否定した趣旨について考えるに、もともと株式に対する投資には、経常的に生ずる配当収入を得る目的と株式自体の値上りを期待してなされる二面の性格を有するものであるから、観念的には株式取得のための負債利子のうちには配当所得に対応する部分と株式譲渡による所得に対応する部分とが考えられるので、右負債利子の全額を配当所得から控除するのは正当でないことおよび配当のない株式を負債によつて取得する者には大なる担税力があるとみなされることにあると解される。ところで、原告が訴外会社の株式を取得した動機は前記のとおりEの業績の安定、向上にあつたとしても、訴外会社の業績の向上に伴い配当が実施されることになれば、原告は法律上その配当を取得する権利を有するものであり、事実、訴外会社はその後配当を実施するに至り、原告はその配当を取得しているのであり、しかも、訴外会社の株式は市場性の有無にかかわらず業績の向上とともに株式の価格も騰貴していることは明らかなところである。さらに、原告が訴外会社の株式を取得するにつき借入金によつたとはいえ、その借入をするに際してはEの資産や実弟B所有の不動産を担保としているところからすると、原告は相当の経済的能力および信用を有していたと認められ、結局、それは担税力を有することの徴表にほかならないものと解せられる。
右のとおり、配当所得について損益通算を否定した所得税法の規定には相当の理由があり、原告の本件株式取得を一般の株式取得の場合と異別に解すべき特別の事情も認め難いのであるから、本件係争年度において訴外会社に配当がなかつたことを理由として、原告の負担した本件負債利子を配当所得計算上の負債利子とすることを否定し、ひいてはこれをEの事業所得計算上の必要経費に該当するものとすべき理由はない。
6 しかして、右説示によれば、原告の本件負債利子は配当所得上の損失(赤字)として補填されないまま残ることとなる。ところで、正規の会計原則においては、一会計期間において生じた総収益から、同一会計期間内に生じた総費用を控除することにより、当期の純利益を決定すべきであるとの建前から収益と費用とを対応せしめて把握し、期間損益を公平に分配すべきものとされており(費用収益対応の原則)、この原則が、所得税法と同じく「所得」を課税対象とする法人税法において貫ぬかれていることと対比して考えれば、一見不公平な感がないではない。しかしながら、同じく所得を課税対象とする同一租税体系に属する租税とはいえ、法人税法は利潤追求を目的とし消費生活を予定しない純経済主体としての法人を対象とするところから、その所得を発生源泉別に区分することなく、一事業年度の益金の額から損金の額を控除して課税所得金額を計算すること(法人税法二二条一項)が可能かつ適切であるのに対し、所得税法は消費生活と経済生活の統一体としての自然人を対象とする点において、法人の所得とはその概念構成において自ら別個な考慮が払われざるを得ないし、また、前記会計上の計算原則も種々な面で修正されざるを得ないのであつて、所得税法が所得をその発生源泉別に一〇種類に区分し、その区分所得ごとに所得金額を計算し、損益通算、損失の繰越控除等を行つて総所得金額を算出し、それから各種所得控除を行つて課税総所得金額を算出することとしているのも、つまるところはその故に他ならない。
してみれば、前記のような法人税法と所得税法における所得の計算上に相異が生じたとしても、それは自然人と法人との本質的相異に基づくものであり、これを原告主張の如く、所得税法における事業所得の概念を拡張解釈することによつて本件負債利子をEの事業所得計算上の必要経費に性格づけることは所得税法の解釈を逸脱したものというべく、それは結局、国の租税政策とそれに基づく立法技術に属する問題といわなければならない。
7 以上を要するに、訴外会社とEは経済的、実質的にも別個、独立の企業の実体を有し、原告の本件借入金は訴外会社の設立、出資のために使用され、訴外会社の活動とそれに伴う収益のために機能するものであるから、訴外会社が配当を実施すれば、それによる原告の所得は配当所得に該当してEの事業所得には該当せず、また、訴外会社の配当の有無にかかわらず、本件負債利子は配当所得計算上の負債利子に該当してEの事業所得計算上の必要経費には該当しないものというべきである。
三 以上の次第で、被告が本件負債利子をEの事業所得計算上の必要経費と認めることを否認し、原告に対してなした昭和四一年、同四二年分所得税の各更正処分とこれに伴う各過少申告加算税の賦課処分は適法であり、これを違法とする原告の主張はすべて理由がない。
よつて、右各処分の取消を求める原告の本訴請求は失当としていずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 土田 勇 矢野清美 佐野久美子)
(別表省略)
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