主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
当事者双方の申立、主張、証拠関係は、別紙要約書記載のとおりである。理 由
一 請求の原因一の項(一)から(四)までの事実は、当事者間に争いがない。二 ところで、本件住所変更届は、特許法施行規則第九条第一項(同規則第一条第三項参照)の規定に基づいてされたものと解されるところ、この規定は、特許出願事件について、特許庁が出願人に対する書類等の送達を確実にし、行政事務処理の円滑化に資するとともに、反面、出願人においては、当該出願事件に関する特許庁からの書類の送達等を確実に受けることができ、ひいて、法律上の諸般の利益を十分に享受しうるようにするために、住所を変更した出願人に対し、その届出を義務づけたものと解される。そして、出願人は、この住所変更届を提出する場合、右法条にもとづいて住所変更の事実の届出をするとともに、その届出をする関係行政庁に対し、右諸利益の享受を期待しまたは求めているものといつて差支えない。したがつて、これを拒否し、その住所変更届を受理しないとした行為は、出願人の権利、利益を害することになるから、行政不服審査法第一条第一項にいわゆる「公権力の行使に当たる行為」に該当するものというのが相当である。そうすると、原告としては、この住所変更届の不受理の処分に対して、取消訴訟を提起することができるとともに、行政不服審査法に基づく異議の申立をすることができるところ、原告は、本訴においては、その異議申立を棄却する旨の決定(以下「裁決」という。)の取消を求めるものである。
 しかしながら、本件訴は、つぎの理由により、訴の利益を欠き不適法なものである。すなわち、原告は、出願人たる原告に対し拒絶査定書謄本の送達がなく、同査定は未確定であるとし、出願審査手続がいまだ係属中であることを前提として、本件住所変更届の不受理処分の違法を主張し、裁決の取消を訴求する。ところが、成立に争いのない甲第三号証(特許願書)、乙第一号証(拒絶査定)、同第二号証(書留郵便物受領証原符)と証人Aの証言および原告本人尋問の結果とを総合すると、被告は、当時の原告の住所である大阪府北河内郡<以下略>に宛てて、拒絶査定書謄本を、昭和四三年六月一八日東京中央郵便局引受(番号第二五四号)をもつて書留郵便に付して、発送し、これは、今日まで返戻されていないことが認められ、この認定を左右する証拠はない。そうであるとすると、拒絶査定書謄本は、特許法第一〇九条で準用する民事訴訟法第一七二条、第一七三条の規定により、書留郵便に付し発送の時に、同謄本が現実に原告の手元に届いたかどうかを問わずに、原告に送達されたものと見做されることになり、この日から、特許法第一二一条第一項所定の拒絶査定に対する不服の審判請求期間三〇日が進行し、その期間内に審判請求がされなかつたことの明らかな本件においては、同期間の経過により、右拒絶査定は確定し、原告の本件特許出願についての審査手続は終了したものといわなければならない。
 右のとおり、本件拒絶査定がすでに適法な送達を経て確定し、本件出願についての審査手続が終了している以上、仮に原告が本件裁決の取消を得ても、被告に対し、右出願についての審査審判手続の進行を求めるに由ないことは明らかであるから、原告は、本件住所変更届の不受理処分を争い右裁決の取消を求めるについて、法律上の利益を有するものとはいうことができない。また、他に、右裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益を認めるに足りる資料もない。したがつて、原告の本訴請求は、訴の利益を欠くものといわなければならない。
三 よつて、原告の本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 荒木秀一 野沢明 清永利亮)
(別紙)
 要約書
第一 当事者双方の申立
一 原告
1 被告が、原告の行政不服審査法に基づいてした異議申立につき、昭和四六年二月四日付四五特総第三、一四九号をもつてした「本件異議申立を棄却する。」旨の決定は、これを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
二 被告
(本案前)
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
(本案につき)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二 原告の請求の原因
一 本件裁決の存在
(一) 原告は、昭和四〇年二月一七日、特許庁長官に対し、発明の名称「滑らない舗床盤体」につき特許出願をし、これは、昭和四〇年特許願第九、〇五九号をもつて受理された。
(二) 原告は、この出願に関し、特許庁審査官Bから、昭和四二年一〇月二八日付拒絶理由通知書の送達を受けたので、同年一二月二一日、特許庁に対し、意見書と手続補正書を提出し、次いで、昭和四五年七月一七日、特許庁に対し、原告の前住所大阪府松原市<以下略>を同年七月六日現住所に変更した旨の住所変更届を提出した。
(三) しかるに、被告は、原告に対し、昭和四五年九月四日付で、この住所変更届は、拒絶査定の確定後にされたものであることを理由に、受理しない旨告知して来た。
(四) そこで、原告は、昭和四五年一〇月六日、被告に対し、本願の拒絶査定書謄本は送達されていないから、拒絶査定が確定するいわれがないことを理由に、住所変更届の不受理処分に対し、行政不服審査法に基づいて異議の申立をしたところ、被告は、昭和四六年二月四日付四五特総第三、一四九号をもつて、この異議申立を棄却する旨の決定をし、この決定書正本は、同月九日原告に送達された。その決定の理由は、「本願の拒絶査定書謄本は、書留郵便物(東京中央郵便局受付昭和四三年六月一八日同局引受番号第一〇そ二五四号)に付して原告宛発送してあり、本件裁決時まで、この書留郵便物は、特許庁に還付されていない。しかも、一般に、この種郵便物は、宛先が大阪府の場合、おそくとも三・四日中には原告に送達されたものと推定される。原告の住所変更届は、特許法第一二一条第一項の拒絶査定不服審判請求期間の経過後すなわち拒絶査定の確定後の提出にかかるものであるから、本件異議申立は理由がない。」というのである。
二 取消の事由
 しかし、原告は、前記裁決にいう書留郵便物を受領していないから、被告のいう拒絶査定が確定するいわれはない。原告は、昭和四〇年特許願第九、〇五九号の発明を自ら実施する企てがあつて出願したものであるから、早く特許査定されるように、あらゆる努力をすることは、出願人一般の意図するところというべく、原告もその例外ではない。原告は、別件につき、既に拒絶査定に対する審判請求をしたことによつて、登録になつた例もあるので、原告としては、拒絶査定書の謄本が送達になれば、直ちに審判請求をすることは必定である。なお、原告は、前記一の(二)の意見書と手続補正書を提出した後、相当日数経過しても、特許庁からなんらの通知もなかつたので、昭和四三年五月初めころ、大阪通産局特許室に同室長を訪ね、本願の審査の進み具合について特許庁へ問い合わせることを依頼し、約一か月後に、その回答を求めるべく同室長を訪ねたところ、目下審査中であるとのことであつた。ところが、昭和四五年七月に、本件住所変更届の件で特許庁へ赴いた際、本願は、既に昭和四三年五月二八日に拒絶査定になつていることを知らされたのである。このように、原告は、拒絶査定になつたことを知らずに、住所変更届を特許庁に提出したのであつて、拒絶査定書謄本の送達を受けていないのであるから、被告のいう拒絶査定が確定するいわれはなく、これが確定したことを前提とする本件裁決は、取り消されるべきである。
第三 被告の答弁
一 請求原因第一項(一)から(四)までの事実は認める。第二項の事実は否認する。
二 原告が、被告によつて受理されなかつた住所変更届は、通常の場合においては特許法施行規則第九条の規定による届出と解されるところ、この届出は、特許出願中の者が、その出願案件に関して、被告から必要な書類の送達を受け易いために、また、被告から見れば、出願人に必要な書類を確実に送達し得るために、住所の変更があつた場合、出願人に義務としてその変更の届出を命じているものであつて、その義務の効果は、住所変更があつたのにかかわらず、この届出をしない者に対しては、
変更前の住所を正当な住所として取扱うことを肯定し、それによる不利益は、出願人において受忍しなければならないというところにある。
三 ところで、行政不服審査法第一条第二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為」とは、法の認めた行政庁の優越的な地位に基づき行政庁が法の執行としてする権力的意思活動であつて、行政法上の法律的行為あるいは準法律的行為である性質を有するいわゆる行政処分ないし行政庁が一方的に行う事実行為的処分で、相手方の権利自由の侵害の可能性をもつものと解される。ところが、原告の本件住所変更届は、昭和四五年七月一七日特許庁に提出されたものであるが、原告が出願した昭和四〇年特許願第九、〇五九号特許出願については、これより先昭和四三年五月二八日既に、拒絶査定がされており、その拒絶査定書の謄本は、被告の指定する職員により、原告(願書記載の住所大阪府北河内郡<以下略>)に宛てて同年六月一八日書留郵便に付され発送されているのである。特許法第一九〇条による民事訴訟法の準用および同条の読み替え規定に従うと、民事訴訟法第一七二条は、「前条ノ規定ニ依リテ送達ヲ為スコト能ハサル場合及審査ニ関スル書類ヲ送達スヘキ場合ニ於テハ特許庁長官ノ指定スル職員書類ヲ書留郵便ニ付シテ之ヲ発送スルコトヲ得」と読み替えられるのであり、同法第一七三条によると、第一七二条により書留郵便に付して書類を発送した場合には、その発送の時に送達があつたものと見做されることとなる。したがつて、法律的には、拒絶査定書謄本が現実に原告の手元に届いたかどうかを問わずに、拒絶査定書謄本は、原告に対し、前記発送の日に送達されたものとされるのである。そうすると、原告が特許法第一二一条により前記送達の日から起算する法定期間内に拒絶査定に対する審判の請求をしなかつたのであるから、前記拒絶査定は、確定し、該出願事件は終了したものである。原告の本件住所変更届は、出願事件の終了後にされたものであるから、これを特許庁において受理したところで、なんら原告に利益をもたらさず、また、これを受理しないことにしても原告に対しては、なんらの不利益をも及ぼさないものである。このように見て来ると、本件住所変更届は、特許法施行規則第九条にいう届出にはあたらないし、被告が昭和四五年九月四日付でした住所変更届を受理しないとした通知も、被告が行政上の親切としてした事実上の行為であつて、誤つて「処分」という用語を用いたとしても、行政不服審査法にいわゆる行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為にはあたらない。したがつて、被告としては、元来、原告のした異議申立を不適法なものとして却下の決定をすべきところ、棄却の決定をしたのであつて、この決定を取り消したところで原告には、なんらの利益をもたらさない。よつて、原告の本訴は、訴の利益を欠くものとして、却下されるべきである。四 仮りに、本訴が適法であるとしても、原告の主張するところは、異議棄却決定(裁決)固有の違法を主張するものではないから、行政事件訴訟法第一〇条第二項により、本訴請求は、棄却されるべきである。
第四 被告の主張に対する原告の反論
 被告の主張する特許法第一九〇条で準用する民事訴訟法第一七三条にいわゆる「見做す」とは、実際にないことを仮りにあるものとする意味であり、書類を受領した場合、その送達を、受領の時ではなく発送の時にあつたものとするのであるから、原告において、現実に拒絶査定書謄本を受領しなかつた以上、この仮定は破られるものとしなければ公平に反する。
第五 証拠関係(省略)
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