主文
原告の被告通商産業省重工業局長に対する請求を棄却する。
原告の被告福岡県計量検定所長に対する訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
 原告は「被告通商産業省重工業局長か昭和三八年八月二〇日付三八重局第一二七七号をもつて各都道府県知事宛に発した別紙記載内容の通達を取消す。被告福岡県計量検定所長か昭和三八年一〇月四日付三八福計発第三四七号をもつて原告に対してしたホワイト六折スケールの製造中止勧告を取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告らは「本件訴えをいすれも却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決およひ本案につき「原告の請求をいすれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 原告主張の請求の原因
一 原告は商品名を「ホワイト六折スケール」と称する合成樹脂製六つ折函数尺を製造、販売していたところ、被告通商産業省重工業局長は右函数尺に関し昭和三八年八月二〇日付三八重局第一二七七号をもつて各都道府県知事宛に別紙記載内容の通達を発した(右通達中計量法とは昭和四一年七月一日法律第一一二号による改正前のものを指す。以下同し。)。
二 被告福岡県計量検定所長は、右通達の趣旨に基つき、昭和三八年一〇月四日付三八福計発第三四七号をもつて原告に対し右函数尺の製造中止の勧告をした。三 そこて、原告は昭和三八年九月二七日付をもつて右通達に対する不服申立書を通商産業大臣に提出したところ、同大臣はこれを異議申立てとみなし、同年一一月三〇日右「異議申立ては認められない」旨の決定をなし、その通知書は同月二一日原告に送達された。
四 しかしなから、右通達およひ勧告は計量法の解釈を誤つたものてあり、違法てある。
 なお、右通達、勧告は形式こそ通達、勧告てあるか、実質的には原告の製造、販売にかかる前記函数尺か計量法第一二条の計量器に該当し、しかも非法定計量単位による目盛を併記しているのて、これを販売または販売のため所持することは同法第一〇条に違反する旨の有権的判断を示して、同法第二三一条(第六三条違反)、第二三五条(第一〇条違反)の罰則をもつて、その製造、販売を禁止しようとする行政処分てある。そして、原告は、各都道府県計量検定所長か右通達に基つきこそつて右函数尺の販売業者に対しその取扱い中止方を勧告したため、その販売予約の注文を相次いて解約され、莫大な損害を被つた。
 したかつて、右通達、勧告は、行政争訟の対象とするに足り、原告かその取消を求める法律上の利益かある。
 よつて、右通達およひ勧告の取消を求めるものてある。
第三 被告らの主張
(本案前の抗弁)
 原告主張の前記通達は、国の行政機関の間における所管事務についての指示にすきないものてあつて、直接私人の権利義務に影響を与える公権力の行使にあたらないから、原告かこれによりその権利ないし利益を侵害されるものてはない。
 また、原告主張の前記勧告は、計量法違反として処罰されること等をおもんはかり、事前の防止措置として事実上なされたものてあつて、直接原告の権制義務に影響を与える公権力の行使にあたらないから、原告かこれによりその権利を侵害されるものてはない。
(請求原因に対する答弁)
 原告主張の請求原因一ないし三の事実は認める。たたし原告主張の通達は、被告局長か原告の製造、販売にかかる前記函数尺の販売について行政庁としてなんらかの措置を必要とするか否かについて判断の資料を得るため、各知事に対し右函数尺に関する一応の見解を表明して、その販売の実体調査およひその結果の報告をなすへく指示したものてあつて、右函数尺の販売の取締りを命令したものてはない。同四の原告の主張は争う。
(抗弁―通達、勧告の適法性)
 右函数尺は、その構造、機能から客観的に観察して社会通念上計量するための器具てあり、計量法第一二条第一号ヘの畳尺に該当すると認められるところ、右函数尺には非法定計量単位の寸およひインチの目盛か併記されているから、これを販売しまたは販売のために所持することは、商品に非法定計量単位を表示して用いることをも禁止した同法第一〇条第一項に違反するものてある。すなわち、 同法第一二条の計量器とは、その構造、機能から客観的に観察して社会通念上当該器具か物象の状態の量を計るための器具と一般に思料されるものをいい、また、同法第一〇条第一項は売買等の取引において非法定計量単位を計量に用いることのみならす、商品に非法定計量単位を表示して用いること、すなわち、尺、インチ等の表示を商品に付することをも禁止しているものと解すへきてあるから、非法定計量単位を併記した計量器を販売しまたは販売のため所持することは、右条項に違反するものといわなけれはならない。
 しかるところ、右函数尺は、その構造、機能から客観的に観察して社会通念上計量するための器具てあることは明らかてあり、同法第一二条第一号への畳尺に該当し、また、右函数尺にはセンチメートルのほか寸およひインチの各目盛か併記されていることも明らかてあるから、右函数尺を販売しまたは販売のために所持することは、同法第一〇条に違反するものといわなけれはならない。
 してみれは、右通達はなんら計量法の解釈を誤つた違法はなく、また同趣旨よりなされた右勧告にも違法はない。
第四 原告の反論
一 右函数尺は、換算に使用するためのものてあつて、計量に使用するための器具てはないから、計量法第一二条の計量器てはない。すなわち、
 従前、木材の取引単位は石(容積単位)か使用され、また、木材の長さの単位には寸、尺、間か使用されていた。そこて、木材取引業者は、右単位による取引に慣れていたのて、昭和二六年六月七日法律第二〇七号による計量法においてメートル法以外の尺貫法・ヤート・ホント法か非法定計量単位とされ、これに伴い木材の寸法等の表示もメートル法によることとなつても、木材のせり売等の取引にあたつては、必す一度尺貫法による単位に換算したうえて指値をするのか実情てある。右函数尺は、そのようなときに換算を迅速に行なうために使用する器具てあり、計量するための器具てはない。
 右函数尺の用途か右のようなものてあるため、計量器の材料として親しまないセルロイト類似の合成樹脂(スチロール樹脂)を用いたのてあり、単位の表記、全長の表記も付さなかつたのてある。
 もつとも、右函数尺にはカーソル線(指線)かついていないか、それは右函数尺の使用目的か前示のようなものてあり、カーソル線をつけなけれはならない程の精密性か要求されないからつけなかつたまててあり、また、右函数尺にセンチメートル、寸、インチの各実寸に近い目盛線を付したのは、実寸に近いほと単位を誤認するおそれか少なく、便利なためてあり、さらに、右函数尺の構造を別紙図面(一)のようなものにせす、同図面(二)のようなものとしたのは、商品としての美観、安定感を考慮したことによるものてある。
二 右函数尺の素材は、セルロイト類似の合成樹脂(スチロール樹脂)てあり、膨脹率か大きく計量器の材料に親しまないものてあるから、右函数尺は、計量することのてきる性質を具備しているものてはなく、したかつて、計量器ということはてきない。
 現に、当局ては、文房具のセルロイト製定規は、センチメートル、ミリメートルにほほ一致する目盛か記されているものも、その材質、精度、標記等から計量器てはないとの見解をとつている。
三 右函数尺にはセンチメートル、寸、インチの各実寸に近い目盛線か付されているか、その旨の長さの単位およひ全長の表記はなく、これのみをもつてしては長さを計ることかてきないから、右函数尺を計量器ということはてきない。
 ちなみに、通商産業省通商機械局長は、昭和二七年四月一四日付都道府県知事宛通達二七機第六七二号をもつて「単に目盛線のみてあつて、長さの単位の表記のないものは長さ計てはない取扱いをするものと解されたい」旨の通達を発している。四 右函数尺には「これは函数尺てす。計量器てはありませんから取引証明には使えません。」との注意書か明記されており、取引およひ証明の計量に用いるものてはないことは一見して明らかてあるから、右函数尺は計量法第一二条の計量器にあたらない。すなわち、 計量法は、計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もつて経済の発展およひ文化の向上に寄与することを目的とする法律てある(同法第一条)から、同法の強制力の及ふのは取引または証明を行なう場合に限られるのてあつて、取引上または証明上の計量以外の計量に用いるための器具等は計量法第一二条の計量器にあたらないと解すへきところ、右函数尺には前記のとおりの注意書か明記されており、取引上または証明上の計量に用いるものてないことは明らかてあるから、右函数尺は計量法第一二条の計量器ということはてきない。五 右函数尺か計量法第一二条の計量器にあたるとしても、右函数尺には非法定計量単位の目盛の併記はない。
六 右函数尺か非法定計量単位の目盛の併記された計量器てあるとしても、それを販売しまたは販売のため所持するたけては計量法第一〇条違反になるものてはない。
七 右函数尺を販売しまたは販売のため所持することか形式上計量法第一〇条に違反するとしても、同条は計量法施行法第三条との関連において憲法第二一条第一項(表現の自由)に違反する無効なものてあるから、右函数尺の販売または販売のための所持を違法ということはてきない。すなわち、
 計量単位としてメートル法か尺貫法、ヤートホント法より優れていることは否定しえないか、わか国ては古来尺貫法か使用され、尺貫法か国民生活に定着しているのてあるから、メートル法を実施するにしても、従来の国民生活の安定を考慮し、これとの調和を図りつつ、その方策を企画実施すへきてあり、そうすることか文化主義、人間主義を理念とする憲法の趣旨にも合致する。
 しかるに、計量法は尺貫法の慣行による国民生活の安定については一切考慮せす、たた尺貫法を非法定計量単位とし、その違反に対しては刑罰をもつて禁止するというものてあつて、非法定計量単位の使用を禁止した同法第一〇条は同法施行法第三条との関連において憲法第二一条第一項(表現の自由)に違反する無効なものというへきてある。
第五 原告の反論に対する被告の再反論
一 原告の主張する右函数尺の使用目的は、単なる原告の主観的製造目的にすきない。
 当該器具の使用目的か計量のためのものか否かは、当該器具か社会通念上物象の状態の量を計るための器具と一般に思料されるか否かによるのてあつて、製造業者の単なる主観的製造目的によつて定まるものてはない。
二 計量器か否かは、その構造、機能から客観的に観察して社会通念上計量のための器具と認められるか否かによつて判断すへきものてあり、計量器の材料として適当てないものか使用されているからといつて、その故に当該器具か計量器てはないとされるものてはないから、右函数尺か合成樹脂製のものてあることを理由に右函数尺か計量器てはないとする原告の主張は理由かない。
三 右函数尺に単位およひ全長の表記かないといつても、そこに記されている目盛はセンチメートル、寸、インチの各実寸に極めて近いものてあつて、その長さの単位およひ全長の表記かなくとも普通経験的にその目盛かいかなる単位全長を表示するものかは容易に識別することか可能てあり、また、たとえ経験上識別することか不可能としても、一度調へることにより以後は継続的に使用することかてきるから、単位およひ全長の表記かないことを理由に右函数尺か計量器てないとする原告の主張は理由かない。
 なお、原告主張の通商産業省通商機械局長の昭和二七年四月一四日付二七機第六七二号通達は、文房具のセルロイト製定規等のようにその主たる用途か計量てないものは長さ計の製造事業の許可の区分上長さ計てはない取扱いをするというものてあつて、原告主張のように一般に目盛線のみて単位の表記のないものをすへて長さ計てはない取扱いにする趣旨のものてはない。このことは、その後同局長か都道府県知事宛に発した通達て「文房具としてのセルロイト製定規およひセルロイト製角度定規てあつて、全長または単位の標記のないものは、計量法第一二条にいう計量器とはみなさないものと解されたい。」としていることからも明らかてある。四 右函数尺か前記のとおりその構造、機能から計量器と判断される以上、右函数尺に「これは函数尺てす。計量器てはありませんから取引証明には使えません。」との注意書か記されるいるからといつて、右函数尺か計量器てないということはてきないから、この点に関する原告の主張は理由かない。
 なお、原告は、右に関連して、取引上たまは証明上の計量に用いられない計量器は計量法の規制対象てない旨主張するか、同法は計量器てあれは取引上または証明上の計量に用いられるものてあると否とにかかわらす、製造許可(同法第一三条)、販売登録(同法第四七条)、譲渡制限(同法第六三条)等の規制対象としているのてあり、取引上または証明上の計量に用いられるものてあることは、使用制限(同法第六八条)、定期検査、受検義務(同法第一三九条)等の加重要件となるにすきないのてあつて原告の右主張は誤りてある。
第六 証拠関係(省略)
理由
(本案前の抗弁について)
一 被告局長に対する訴えについて
 当事者間に争いのない事実およひ成立に争いのない乙第一号証によれは、被告局長に対する訴えにおいて原告か取消を求めている通達というのは、被告局長から各都道府県知事宛に発せられた「計量法違反事件について(照会)」と題する書面によるものてあつて、その内容は、原告の製造にかかる本件函数尺か計量法第一二条の計量器にあたり、同法の各種規制を受けるものてあること、右函数尺には非法定計量単位の目盛か併記されているのて、その販売およひ販売のための所持は非法定計量単位の使用を禁止した同法第一〇条に違反するものてあることをそれそれ明示し、知事に対しその趣旨にそつて右函数尺に関する事務を処理するよう指示するとともに、あわせて右函数尺の販売の実体調査とその結果の報告を命したものと認められる。そして、計量法の施行事務は通商産業省の所管事務に属し、同省重工業局か計量に関する事務を掌り(通商産業省設置法第三条第四号、第一〇条第四号)、また、知事は国の委任を受け、国の機関として計量器の販売等の事業の登録等の事務を処理する関係にあるのて(地方自治法第一四八条第二項、別表三(九四))、被告局長は右事務につき知事に対し指揮監督権を有するものてあるから、右書面は、被告局長か右権限に基ついてその所掌事務につき国の機関たる知事に対し右函数尺につき計量法第一〇条、第一二条の解釈を示し、前示のことくそれにそつた事務処理を指示するとともに右函数尺の販売の実体調査とその結果の報告を命したものてある。
 ところて、通達そのものの取消を求める訴訟か許されるかとうかは問題の存するところてある(最高裁判所昭和三九年(行ツ)第八七号昭和四三年一二月二四日判決、民集第二二巻第一三号三一四七頁参照)。
 元来、通達は、上級行政機関かその所掌事務について関係下級行政機関およひその職員に対しその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものてあつて(国家行政組織法第一四条第二項)、行政組織の内部的規律にすきないものてあることからすれは、国民との関係についていう限り、通達そのものは、たとえそれか国民の権利、義務ないし法律上の利益に関係のあることからを内容とするものてあつても、一般的には、いまた個人の具体的な権利、義務ないし法律上の利益に変動を生せしめるものてはないから、これを具体的な法律上の紛争かあるものとして司法審査の対象とすることはてきないものといわなけれはならない。そして、このように解したとしても、通常は通達に基ついてなされた具体的な行政処分の適否についての訴訟によつて国民の利益を保護することか充分可能てあるから、国民の権利救済に欠けるところはないというへきてある。
 しかし、現実の行政事務の運営において通達かはたしている役割・機能の重要性およひその影響力も無視しえないのてあつて、こうした点をも併せ考えると、通達てあつてもその内容か国民の具体的な権利、義務ないし法律上の利益に重大なかかわりをもち、かつ、その影響か単に行政組織の内部関係にととまらす外部にも及ひ、国民の具体的な権利、義務ないしは法律上の利益に変動をきたし、通達そのものを争わせなけれはその権利救済を全からしめることかてきないような特殊例外的な場合には、行政訴訟の制度か国民の権利救済のための制度てあることに鑑みれは、通達を単に行政組織の内部的規律としてのみ扱い、行政訴訟の対象となしえないものとすることは妥当てなく、むしろ通達によつて具体的な不利益を受ける国民から通達そのものを訴訟の対象としてその取済を求めることも許されると解するのか相当てある。
 このような観点から本件訴えの対象とされた前記通達についてみると、右通達は前示認定のとおりの形式およひ内容のものてあり、前掲乙第一号証およひ証人A、同B、同Cの各証言によれは、本件函数尺についてはかねてより計量法違反物件としてその製造、販売に対しなんらかの行政措置を講すへきてはないかとの疑義かあり、右通達はこうした疑義からなされた照会に対するものとして発せられたものてあることか認められ、このような通達か発せられた経緯およひその内容よりすれは、右通達は原告の製造にかかる右函数尺の販売およひ販売のための所持を規制することをも目的としているものと解されるところ、証人Bの証言およひ弁論の全趣旨よりすれは、計量に関する事務はすくれて専門技術的要素か多く、現実の行政事務は通達によつて運営、執行され、計量法規の解釈、運用、取扱基準等に関して発せられる通達には下級行政機関のみならす計量器製造業者およひその販売業者らも多大の関心を示し、行政機関においても行政事務の円滑な運営をはかるうえからこれら業者に対しその通達の紹介、説明等をなし、業者らは発せられた通達に従うのか実情てあり、計量に関する行政において通達のはたしている現実的役割・機能は極めて大きいことか認められるうえ、現に、原告本人尋問の結果によれは、右通達か発せられたのち、各関係機関において右函数尺の販売取扱業者らに対し販売中止勧告等の行政措置かなされ、原告は右業者らから右函数尺の買入れを解約されるに至つたことか認められるから、これらの点をも併せ考えると、右通達か右函数尺の製造業者てある原告の権利・利益に重大な影響を及ほすものてあることは明らかてあり、かつ、右のような解約という事態を防止しうる措置として原告のなしうる最も適切な法的手段としては、右業者らに対する行政措置の根拠とされた右通達そのものの取消を求めるほかはないといわなけれはならない。しかも、本件においては、原告は計量器の製造事業の許可を受けた計量器製造業者てはないから、原告か右通達に基ついて許可の取消、事業の停止等の具体的な行政処分を受けることはなく、せいせい製造中止の勧告を受ける程度にととまり、右通達に基つく具体的な行政処分を受けるのは個々の計量器販売業者てあり、これらの業者に対する登録の取消または事業停止(計量法第五九条)といつた具体的処分をまつて、その処分に対してのみ不服の申立てをすることかてきるとすれは、結局、その処分を受けた個々の販売業者のみか右の処分を争うことを通して右通達の適否を争うことかてきるにととまり、これらの業者か敢えて右通達に反する行為をなし、右のような不利益処分を受けて争うことかないかきり、右函数尺の製造業者てある原告としては実際に右通達による不利益を受けなからそれを争う方法かないということては甚た不合理な結果をきたすといわさるを得ない。以上の諸関係を考慮すれは、右通達は抗告訴訟の対象たりうる行政庁の公権力の行政にあたると解するのか相当てあり、また、原告には右通達の取消を求める適格かあるというへきてある。
 右につき、被告局長は、右通達は原告の製造、販売にかかる右函数尺の販売について行政庁としてなんらの措置を必要とする否かについて判断の資料を得るため、各知事に対し右函数尺に関する一応の見解を表明して、その販売の実体調査およひその結果の報告をなすへく指示したものにすきない旨主張する。 しかし、前記認定のような右通達の内容ならひにその発せられた経緯からすれは、右通達か単に右函数尺の販売の実体調査とその結果の報告のためにのみ発せられたものとは到底いえないし、現に前示認定のとおり右通達に則つて右函数尺の販売取扱業者らに対し販売中止勧告等の行政措置かなされ、また、原告に対しても被告所長から右通達に基ついて製造中止の勧告かなされている(この点は当事者間に争いかない。)のてあるから、被告局長の右主張は採用てきない。 よつて、被告局長の右本案前の主張は採用てきない。
二 被告所長に対する訴えについて
 成立に争いのない甲第一号証およひ証人B、同Cの各証言によれは、被告所長に対する訴えにおいて原告か取消を求めている勧告は、被告所長か原告に対し原告の協力のもとに右函数尺の製造およひ販売の中止を要請したものて、いわゆる行政指導としてなされたものにすきないことか認められる。
 そうとすれは、他に特段の事情の認められない本件においては、右勧告はなんら原告の権利、義務ないしは法律上の利益に影響を及ほすものてはなく、右勧告の取消を求めなけれは原告の権利救済をはかることかてきないという関係にもないから、右勧告は抗告訴訟の対象たりうる行政庁の公権力の行使と認めることはてきない。
 原告は、右勧告は計量法第二三一条(第六三条違反)、第二三五条(第一〇条違反)の罰則をもつて右函数尺の製造およひ販売を禁止しようとするものてあるから行政処分てある旨主張するか、右条項は勧告を受けた者か勧告に従わないことに対し刑罰を科するとするものてはなく、勧告とは関係なく同法第六三条、第一〇条違反に対し罰則を定めたものにすきないから、原告の右主張は採用てきない。
 したかつて、右勧告の取消を求める本件訴えは不適法てあるといわさるをえす、却下を免れないというへきてある。
(本案について)
一 原告か商品名を「ホワイト六折スケール」と称する合成樹脂製六つ折函数尺を製造、販売していたところ、被告局長か右函数尺に関し昭和三八年八月二〇日付三八重局第一二七七号をもつて各都道府県知事宛に別紙記載内容の通達を発したこと、そこて、原告か昭和三八年九月二七日付をもつて右通達に対する不服申立書を通商産業大臣に提出したところ、同大臣はこれを異議申立てとみなし、同年一一月三〇日右「異議申立ては認められない」旨の決定をなし、その通知書か同月二一日原告に送達されたことは当事者間に争いかない。
二 原告は、右通達は計量法の解釈を誤つた違法かあると主張するのて、以下この点について判断する。
 計量に関する制度は、社会生活における基本的な制度てあつて、単に経済取引はかりてなく、家庭・産業・学術・教育なとの国民生活のあらゆる分野に多大の影響を及ほすものてあるから、合理的かつ統一的な計量制度を確立することは、社会生活の便宜と安全を図り、かつ、経済の発展と文化の向上を期するうえて必要不可欠のものてある。計量法は、かような社会的要請から計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もつて経済の発展およひ文化の向上に資することを目的として制定されたものてあり(同法第一条)、その目的の達成のために、計量基準として計量単位を定め(同法第三条、第五条)、法定計量単位以外の計量単位を取引上または証明上の計量に用いることのみならすそれを物象の状態の量の表示として用いることをも原則として禁止し(同法第一〇条)、取引上または証明上における雑多な計量単位の使用を防き、計量単位の単純明確化を期するとともに、適正な計量の実施を確保する見地から、計量器の定義を定め(同法第一二条)、その製造、修理、販売の事業につき許可ないし登録の制度を採用し(同法第一三条、第三五条、第四七条)、製造、修理された計量器についての譲渡等につき検定制度を定め(同法第六三条)、検定に合格しない計量器についての譲渡等を禁止(同法第六六条)する等、正確な計量器の供給を図る措置を講している。
 したかつて、右のような計量法の目的およひ趣旨よりすれは、同法第一二条にいう計量するための器具、機械または装置とは、その素材、構造、形状、外観等から客観的に観察し、社会通念上物象の状態の量を計ることのてきる機能・性質を具備しているものてあつて、その使用目的か主として計量するためのものと認められるものをいうと解するのか相当てあり、そのようなものてあれは、製作者の主観的意図の如何を問わす右の計量器にあたり、その製造、販売については同法第一三条、第四七条その他計量法の定める規制を受けなけれはならす、また、そのような計量器に非法定計量単位か表示されているときは、その販売または販売のための所持は、非法定計量単位を物象の状態の量の表示として用いること自体をも禁止した同法第一〇条第一項本文に違反するものと解するのか相当てある。
 そこて、本件函数尺か右計量器にあたるかについてみるに、成立に争いのない甲第二四号証およひ検甲第一号証によれは、右函数尺は、表面にセンチメートルとかね尺の寸、裏面にインチの各目盛か別紙図面(三)のとおり併記された長さ約一メートルのスチロール樹脂製六つ折尺様のものてあり、その素材、形状、構造、外観等に照らし、社会通念上、長さを計ることのてきる機能・性質を具備し、主として計量(長さを計る)のために使用する目的をもつものと認められるから、右函数尺は同法第一二条にいう計量器てあり、同条第一号ヘの畳尺に該当するものというへきてある。
 そして、右函数尺には前示認定のとおり非法定計量単位てあるかね尺の寸およひインチの各目盛か併記されているから、その販売または販売のための所持は、非法定計量単位を物象の状態の量の表示として用いることをも含め禁止している同法第一〇条第一項本文に違反するものと解するのか相当てある。
 してみれは、右と同趣旨の内容の右通達には計量法の解釈を誤つた違法はないといわなけれはならない。
三 原告は、右通達か計量法の解釈を誤つたものてあることを各種の観点から理由つけているのて、以下原告の主張について検討する。
(一) 原告は、右函数尺は計量するためのものてはなく、主として木材取引業者らか換算に使用するためのものてある旨主張する。
 しかし、前示のとおり、当該器具か計量するためのものてあるか否かは、当該器具の構造、形状、外観、機能等から客観的に観察し、社会通念に照らして判断すへきものてあって、製造業者の主観的な製造目的如何によるへきものてはないと解するのか相当てあるから、右函数尺か前示認定のとおりの構造、形状、外観等を具備するものてある以上、原告の主観的な製造目的如何にかかわらす、右函数尺は社会通念上計量のためのものというへきてある。
 したかつて、原告の右主張は採用てきない。
(二) 原告は、右函数尺の素材かセルロイト類似の合成樹脂(スチロール樹脂)てあつて、膨脹率か大きく計量器の材料に親しまないものてあるから、右函数尺は計量することのてきる性質を具備しているものてはなく、計量器とはいえない旨主張する。
 右函数尺かスチロール樹脂製のものてあることは前示認定のとおりてあり、スチロール樹脂は膨脹係数か大きく、計量器検定検査規則の定める基準膨脹係数以下のものてはないから、その意味ては右函数尺か計量器の材料として不適当てあることは原告主張のとおりてある。
 しかし、計量法第一二条の計量器にあたるか否かは、前示のとおり、その素材、構造、形状、外観等から客観的に観察し、社会通念上計量することのてきる機能・性質を具備していると認めうるか否かによつて判断すへきものてあつて、右検定規則の基準にあたらない材料によるものてあつても、その構造等から客観的に観察し、社会通念に照らし一般的に計量可能と認められるものてあれは、同法第一二条の計量器といいうるのてあつて、当該器具に使用された材料か右検定規則の基準を保有するか否かは、検定の合否には関係しても、同法第一二条の計量器か否かの判断にあたつては関係ないものというへきてある。
 したかつて、原告の右主張は採用てきない。
(三) 原告は、右函数尺には目盛線のみ記され、長さの単位およひ全長の表記かなく、これのみをもつてしては長さを計ることかてきないから、右函数尺は計量器てはない旨主張する。
 検甲第一号証によれは、右函数尺には長さの単位およひ全長の表記はないか、その表面に1ないし99およひ1ないし30の、その裏面に1ないし36の数字の表記かあるほか、前示のとおりセンチメートル、かね尺の寸およひインチの各目盛か記されてあり、長さの単位およひ全長の表記かなくても、一般通常人において自己の知識、経験により、また、他の物件との比較により、右目盛かいかなる単位、全長を表示しているか容易に識別することかてき、これを使用して長さを計ることかてきるから、右函数尺を計量器というをさまたけるものてはないというへきてある。
 したかつて、原告の右主張は採用てきない。
(四) 原告は、右函数尺には「これは函数尺てす。取引、証明には使用てきません。」との注意書か明記され、取引上およひ証明上の計量に用いるものてないことは一見して明らかてあるから、右函数尺は計量法第一二条の計量器てはない旨主張する。
 しかし、計量法かその第一二条において計量器の定義に関する規定を設けた趣旨は、その製造、販売等の事業について許可ないし登録の制度を採用し(同法第一三条、第四七条等)、検定制度を規定(同法第六三条)する等して正確な計量器の供給を図り、もつて適正な計量の実施を確保するとの見地よりいてたものというへきてあるから、前示のとおり、当該器具の素材、構造、形状、外観等から客観的に観察し、社会通念上計量するための器具と認められるものは同法第一二条の計量器と解するを相当とし、そのような器具てあれは、たとえ当該器具に「これは函数尺てす。取引証明には使用てきません。」との注意書か付記されていても、同法第一二条の計量器というへきてある。すなわち、右のような注意書の有無は、同法第一二条の計量器に該当するか否かを判定するうえて、決定的な要因となるものてはないのてある。
 したかつて、原告の右主張は採用てきない。
(五) 原告は右函数尺には非法定計量単位の目盛の併記はない旨主張する。
 しかし、前示認定のとおり、右函数尺にはセンチメートルの目盛のほか、その表面にかね尺の寸、その裏面にインチの各目盛か表記され、右寸、インチはいすれも非法定計量単位てあるから、原告の右主張は採用てきない。
(六) 原告は、右函数尺か非法定計量単位の目盛の併記された計量器てあるとしても、それを販売または販売のため所持するたけては計量法第一〇条違反にならない旨主張する。
 計量法第一〇条第一項本文(第一〇条中第一項本文以外は本件においては問題にならない。)は、長さ、質量等の物象の状態の量について「法定計量単位以外の計量単位は、取引上又は証明上の計量(物象の状態の量の表示を含む。)に用いてはならない」旨規定し、右の「取引」とは、同法第一一条第一項において、有償てあると無償てあるとを問わす、物または役務の給付を目的とする業務上の行為をいうと定義され、また、「計量」とは、同法第二条において、長さ、質量等物象の状態の量を計ることをいうと定義されているか、非法定計量単位の目盛の併記された計量器を販売し、または販売のため所持することか右第一〇条第一項本文に違反するか否かは、右条文の規定からはかならすしも明瞭とはいい難いところてある。
 しかし、同法か計量基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もつて経済の発展およひ文化の向上に資することを目的とするものてあること(同法第一条)、同法第一〇条か、右の目的を達成すへく、取引上または証明上における雑多な計量単位の使用を規制し、計量単位の単純明確化を図るための規定てあること、同条第一項本文かそのかつこ書において「物象の状態の量の表示を含む」とし、売買、贈与等の取引において非法定計量単位を計量に用いることのみならす、非法定計量単位を取引上または証明上物象の状態の量の表示として用いることをも含め禁止していること等よりすれは、同条第一項本文は、非法定計量単位の目盛の付記された計量器を販売することまたは販売するために所持することをも禁止しているものと解するのか相当てあるから、右函数尺か前示認定のとおり非法定計量単位の目盛の併記のある計量器と認められる以上、その販売または販売のための所持は同条第一項本文に違反するものというへきてある。
 したかつて、原告の右主張は採用てきない。
(七) 原告は、計量法第一〇条は計量法施行法第三条との関連において憲法第二一条第一項(表現の自由)に違反し無効てある旨主張する。
 原告の右主張の趣旨はかならすしも明らかてはない。しかし、ある計量単位を取引上または証明上の計量(量の表示を含む。)に使用するということは、内心の思想(厳格な意味ての思想に限らす、思つていること、感していることのすへてを含む。)を外部に発表することとなんら関係のないことてあるから、非法定計量単位を取引上または証明上の計量(量の表示を含む。)に使用することを禁止しても、憲法第二一条第一項の規定する表現の自由を侵したことになる余地かない。
 したかつて、原告の右憲法の主張はその前提を欠くものてあつて、採用てきない。
(結論)
 以上の次第てあるから、原告の被告局長に対する訴えは、その理由かないから失当として棄却することとし、また、被告所長に対する訴えは、不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高津環 佐藤繁 海保寛)
(別紙)
一 原告の製造している「ホワイト六折スケール」と称する合成樹脂製六つ折函数尺は、計量法第一二条に規定する計量器てある。
二 右計量器には非法定計量単位による目盛か併記されているのて、これを販売し、または販売のため所持することは計量法第一〇条に違反する。
別紙図面
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