主文
一、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金七、〇一五円およびこれに対する昭和四四年四月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。二、原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し金七、〇一五円およびこれに対する昭和四三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は本訴、反訴を通じてこれを二分し、その一を原告(反訴被告)、その余を被告(反訴原告)の負担とする。
事実
(当事者の申立)
第一 原告(反訴被告)
一、本訴について
 主文第一項と同旨および訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とするとの判決を求めた。
二、予備的反訴について
 被告(反訴原告)の請求を棄却する。訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とするとの判決を求めた。
第二 被告(反訴原告)
一、本訴について
 原告(反訴被告)の請求を棄却する。訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とするとの判決を求めた。
二、予備的反訴について
 主文第二項と同旨および訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とするとの判決を求めた。
(当事者の主張)
第一 本訴について
一、請求原因
1、原告(反訴被告。以下単に原告という。)は白老町が設置した小学校の教員であり、市町村立学校職員給与負担法一条の規定により被告(反訴原告。以下単に被告という。)から給与を受けている。
2、原告は昭和四四年二月中正常に勤務したにもかかわらず、被告において原告の同月分の給料から金七、〇一五円を控除して支給した。
3、よつて被告に対し右給与不足分金七、〇一五円およびこれに対する訴状送達の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。二、請求原因に対する答弁
 請求原因事実は全て認める。
三、抗弁
 被告が原告の昭和四四年二月分の給与から金七、〇一五円を控除したのは次の理由による。
1、原告は昭和四三年一一月六日午後一時から同月九日の勤務時間終了までの間(勤務時間の合計二四時間)勤務場所を離脱し、本来の勤務に従事しなかつた。2、よつて昭和四三年一一月分の給与のうち右勤務時間分の給与金七、〇一五円が過払となつたため、北海道学校職員の給与に関する条例(昭和二七年北海道条例第七八号)一三条に基づき、右過払分を原告の同四四年二月分の給与から控除したものである。
3、なお昭和四四年二月分から減額したのは次の事情による。
 即ち被告が昭和四三年一一月分から減額しなかつたのは、給与の減額については北海道教育委員会教育長の通達(昭和四一年一〇月三日付)があり、右通達に基づいて事務を処理しているため欠勤相当額を当月分から減額することは事実上可能であつても行なつていない。また同年一二月分および同四四年一月分から減額しなかつたのは、同四三年一一月下旬白老小学校長から原告の不承認職場離脱の報告を受けた白老町教育委員会教育長において部下職員から被処分者を出すことは避けたいとの判断から、事後にでも原告から年次有給休暇願を提出させて穏便に処理しようと考え、冬季休業のあけた同四四年一月二〇日に原告に会い年次有給休暇願を提出するよう指示した。しかし原告がこれに応じなかつたため、同月二五日白老町教育委員会を開いて協議した結果原告の処分を内申することに決定した。同月二七日同教育長は北海道教育庁胆振教育局長に給与減額報告書を提出し、その結果同年二月分の給与から減額されるに至つたものである。
 なお原告の二月分の給与は本俸金五万一、一〇〇円、扶養手当金二、〇〇〇円、暫定手当金二四八円合計金五万三、三四八円、控除額は共済長期掛金二、二九九円、同短期掛金一、六三五円、住民税一、四〇〇円合計金五、三三四円、差引支給額金四万八、〇一四円であつた。
 ところで右減額は昭和四三年一一月の過払給与の返還請求権を自働債権とし、同四四年二月の給与債権を受働債権として相殺したものであるが、このような相殺は職員に対して支給さるべき給与と現実に支給された給与との間の過不足を調整し清算するにすぎないもので、地方公務員法二五条二項は、このような相殺までをも禁止する趣旨ではない。
 仮にそうでないとしても、本件は同項にいう「条例により特に認められた場合」に該当する。即ち、「北海道職員の給与に関する条例・北海道職員の給与の支給に関する規則等の運用について(通知)」と題する北海道人事委員会事務局長名通知によれば、その第九給与減額の項で過払分を翌月以降の給与から差引くと規定しており、本件はこれに基づいて相殺したものであるから適法である。
四、抗弁に対する答弁および原告の主張
 抗弁事実1、2項は認める。同3項のうち、教育長が昭和四四年一月二〇日原告に対し年次有給休暇願を提出するよう指示し原告がこれに応じなかつた事実および原告の二月分の給与の明細については認め、その余は不知。
 被告の主張するような相殺は許されない。即ち
1、地方公務員法二五条二項に規定する全額払の原則の趣旨は、同項で規定する通貨払の原則、直接払の原則と共に賃金をその生活の主要財源とする労働者に対して毎月の賃金が確実に渡ることを保障したものであり、使用者たる地方公共団体の一方的恣意的な賃金控除により労働者が期待していた賃金の全額を現実に入手できなくなることによる生活上の経済的不安を防止する点にある。
 右の要請は当事者間の相互の債権関係を簡易に決済するという単なる技術的な要請からくる相殺制度に優先するのは当然で相殺は許されない。
 もし被告の主張するような調整ないし清算的な相殺が許され、しかも地方公共団体が相殺事由発生後恣意的に選択した月の給与から一方的に減額しうるとすれば、労働者の経済生活は全く不安定な状態におかれることになり、このようなことは前記法条の到底許容しうるところではない。
2、また被告の主張する北海道人事委員会事務局長通知は、あくまで条例の運用についての通知にとどまり、地方公務員法二五条二項にいう「条例」には該当しない。
3、仮に調整ないし清算的相殺は許されるとしても、前記弊害および地方公務員法二五条二項の立法趣旨からして、おのずから一定の時期的制限が存在するのは当然である。
 即ちその月に発生した給与減額分については可能な限り当該月の給与から減額すべきであるし、それが事実上不可能な場合にはその後最初に到来した減額可能な給与からなすべきことが当然要求されるものであり、しかもそのような場合に限つて相殺は許容されると解すべきである。
 ところで本件の場合、原告の給与支給日は毎月二一日であり、他方原告が勤務場所を離れたのは昭和四三年一一月六日から九日までである。従つてもし仮に減額しうるものとしても、当然一一月分の給与から減額することが可能であつたにもかかわらず、翌年の二月分の給与で相殺したものであるから、このような相殺の許されないことは明らかである。
五、再抗弁
1、原告が勤務場所を離脱したのは、昭和四三年一一月八日から一〇日にかけて帯広市で開催された北海道教職員組合第一八次、北海道高等学校教職員組合連合会第一二次、北海道私立学校教職員組合第二次、北海道地区大学教職員組合第二次合同教育研究集会(以下本件教研集会という)に参加するためであるが、右教研集会は教育公務員特例法(以下教特法という)一九条および二〇条に規定する「研修」であり、原告は右教研集会に参加するため白老小学校長に対し白老町職員の職務に専念する義務の特例に関する条例二条一号によりいわゆる職務専念義務の免除の申出をした。
2、ところが校長は、原告の右申出に対し承認、不承認の明確な意思表示をすることなく、その取扱いについては後日話合いの上決定するという態度を示した。3、ところで地方公務員法三九条一項と教特法一九条の規定の対比からも明らかなように、教育公務員の研修の特色は一般公務員のように勤務能率の発揮および増進のための手段としてのものではなく、教育という特殊な専門的職責を遂行するための「研究と修養」という点にあり、そこでは教育という職責遂行に不可欠の条件としての研修が明確にされているのである。またその研修は他律的なものではなく、自主的な研究活動を主体とするものでなければならないことは規定の文言からも明らかである。右規定により認められ保障されている自主的研修は、各個の教師が個々的に行なう場合のみならず専門職たる教師の組織的集団である職員団体が主催して行なう研修に、自主的に参加する場合をも当然のこととして含んでいるのであり、従つてその参加について職務専念義務の免除の取扱いを受け得ることも当然である。そして教特法二〇条二項の承認は、同条一・三項および一九条一・二項の規定を前提としており、それとの関連で本条項を理解するとき「授業に支障のない限り」校長は承認する義務を課せられていると解される。
4、また、校長は右の承認ができない場合には、承認できないことの合理的理由と共に事前に不承認の意思を明確に告知すべきである。
 しかるに本件では、前述のように原告の承認願に対して校長は明確な意思表示をせず、原告は給料を減額された翌年二月の段階に至りはじめて不承認として手続が進められていたことを知つたのである。
5、そうすると、原告の申出を承認しないことを前提としてなされた措置は無効といわざるを得ない。
 そして職務専念義務免除の申出に対しては、それを承認するかしないかのいずれかであつて、いずれでもない中間的措置はありえない。従つて承認しない措置が無効とされた場合には、当然のこととしてそれを承認するのが正しい措置であつたということにならざるを得ず、無効の判断もこの趣旨を前提として包含するものといわざるを得ない。このような意味で、職務専念義務免除の申出を承認しない措置が無効とされた場合、それ以上承認の有無を論議する必要性はないものと考えられる。従つて被告の過払給与返還請求権は発生しない。
六、再抗弁に対する答弁および被告の主張
1、再抗弁事実1項は認める。2項は否認。3ないし5項は争う。
2、原告の職務専念義務免除の申請に対し、白老小学校長は昭和四三年一一月五日次の理由で不承認の処分をした。
 即ち、職員団体は「勤務条件の維持改善を図ること」を目的とするが、その活動はこれに限定されるわけではなく、構成員の資質の向上を目的とする教育研究活動を行うこともその従たる目的として許容される。しかし、このような教育研究活動といえども職員団体が主催して行なう以上、その名称および内容の如何を問わず職員団体の活動の一環であり、従つて原告の本件教研集会への参加も職員団体の活動に従事することにほかならない。そこで右校長は原告の参加を職員団体の活動の一態様ととらえ、地方公務員法五五条の二の六項およびこれに基づく学校職員に係る職員団体のための職員の行為の制限に関する条例(昭和四一年北海道条例第三七号)の規定に基づいて不承認の処分をした。
 また、研修をも含めて、教職員の職務専念を免除するかどうかは、服務監督権者たる校長の裁量行為であり、本件のように、特別権力関係に立つ純然たる行政庁内部の問題であつて本来校長の裁量権の範囲内の行為についてはその裁量を誤まつても当不当の問題を生ずるだけで違法の問題は生じない。
 しかも本件においては、校長は原告に対し年次有給休暇を利用して出席するように説得しており、その参加自体を否定しているのではないから、裁量権の濫用はおろか裁量権の不当行使にもあたらない。
第二 予備的反訴について
一、請求原因
1、原告は昭和四三年一一月六日午後から九日の勤務時間終了まで勤務場所を離脱し、本来の勤務に従事しなかつた。
2、原告は同年一一月二一日右期間(勤務時間合計二四時間)中の給与相当分金七、〇一五円をも含めて一一月分の給与を受領した。
3、よつて原告は法律上の原因なくして被告の損失において右金額を利得し、かつ原告は法律上の原因のないことを知つて受領したものであるから、被告は原告に対し右金七、〇一五円およびこれに対する受益後の昭和四三年一一月二二日から完済まで民法所定年五分の割合による利息金の支払を求める。
二、請求原因に対する答弁
 請求原因事実1・2項は認める。3項のうち、原告が法律上の原因のないことを知つていたとの事実は否認し、その余は争う。
三、抗弁
1、本件における再抗弁事実と同じ。
2、仮に右1の主張が認められないとしても、被告は当該給与支払債務の存在しないことをその当時から知つていたにもかかわらず、右一一月分の給与全額を支給したものであるから非債弁済にあたり、返還を請求することはできない。四、抗弁に対する答弁および被告の主張
 抗弁事実1項については、本訴における再抗弁に対する答弁および被告の主張と同じ。同2項は否認する。
(証拠)(省略)
理由
第一 本訴について
一、請求原因事実は全て当事者間に争がない。
二、抗弁事実のうち、原告が昭和四三年一一月六日午後一時から同月九日の勤務時間終了までの合計二四時間勤務場所を離脱し、本来の勤務に従事しなかつたことおよび被告が右勤務時間分の給与相当額である金七、〇一五円を原告の同四四年二月分の給与から減額した事実は、いずれも当事者間に争がない。
三、被告は、右減額は昭和四三年一一月の右二四時間の過払給与の返還請求権を自働債権とし、同四四年二月分の給与債権を受働債権として相殺したものであると主張するので右相殺の可否について検討する。
 原告は地方公務員であり、したがつて原告の給与の支給については地方公務員法二五条二項が適用されるところ、同項は労働基準法二四条一項本文の規定と同様に、職員にとつて生活の糧である給与の全額を現実に職員の手に直接交付することを保障することによつて、その生活上の不安を防止しようとする趣旨の規定であり、地方公共団体において自己の有する反対債権に基づき恣意的に相殺を主張して給与から控除することは、同項に規定する全額払の原則に反するもので原則として許されないところである。
 しかしながら、給与支給事務の処理に当り、計算手続における過誤、違算があつたとか、あるいは減額事由が支払期日に接着して生じたりもしくは支払期日後に生じたような場合など、事実上過払を生ずることは避けがたいところであり、そのような場合にこれを清算するためその後に支払時期が到来する給与から控除して調整をすることは、形式的には一般の相殺と異ならないけれども、その実質をみれば適正な給与額を支払うための技術的な調整にすぎず、結果においては本来支払われるべき給与を正当に支払つたことになるのであるから、給与と全く無関係な債権による相殺の場合と同一視することはできない。しかしながら、前記地方公務員法二五条二項の趣旨からすれば、そのような相殺は賃金支給事務上の便宜から清算調整の手段として例外的に許されるものにすぎないと考えられるので、過払のあつた時期からみて給与の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされることが必要であり、しかもその金額は多額にわたることなく、その方法においてもあらかじめ相手方に予告するなど勤労者の生活の安定をおびやかすおそれのない場合に限つて許されるものと解すべきである。
 ところで本件についてこれをみるに、まず原告が勤務場所を離脱したのは昭和四三年一一月上旬であり、これに対し被告が相殺をしたのは翌四四年二月分の給与に至つてである。そして、公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される乙第一二、第一四号証に原告本人尋問の結果を綜合すれば、白老町教育委員会教育長は昭和四三年一一月下旬白老小学校長から本件の問題について報告を受けながら、懲戒処分者を出すことを避け事態を穏便に処理したいと考えるのみで時日を経過し、昭和四一年一〇月三日付北海道教育委員会教育長通達2によれば、当月分(昭和四三年一一月分)の給与の減額に関し翌月の一〇日までに北海道教育庁胆振教育局長に報告しなければならないのにこれをせず、昭和四四年一月二〇日に至つてはじめて原告と交渉をもつたものであり、原告に対する説得もそれが一度限りであつたこと、その後同月二七日右胆振教育局長に対し給与減額報告書を提出したことが認められ、他に右認定に反する証拠は存しない(懲戒処分の内申をするについては、右の程度の時日を経過することに格別の問題はないであろうが、そのために、懲戒処分とは別個のものである過払給与の相殺が遅滞してもやむをえないということにはならないのであつて、両者を関連させて検討しようとするときは、原告に対する説得、懲戒処分の内申の方を早めなければならない。)。また本件は、多数人が一度に勤務場所を離脱した場合のように各人についての事実関係の調査を必要とする事案とは異なり、その対象は原告一人であつて事実関係も比較的明らかであり、その事実の調査に時日を要した形跡はないし、原告本人尋問の結果によれば、給与から減額をするについて原告に対し減額を予告するといつた措置は何らとられておらず、昭和四四年二月分の給与から一方的に控除したものと認められる。
 右のような諸事情を考慮すると、被告のした本件相殺は、先にのべた地方公務員法二五条二項の例外的措置として許容される場合に該当するということはできない。
 次に被告は、「北海道職員の給与に関する条例・北海道職員の給与の支給に関する規則等の運用について」と題する北海道人事委員会事務局長名の通知を根拠として、翌月分以降の給与から減額調整できると主張するが、右はあくまで条例運用についての通知にとどまり、条例そのものではないから、これをもつて地方公務員法二五条二項にいう「条例により特に認められた場合」に該当するといえないことは明らかである。
五、そうだとすれば、原告のその余の主張について判断するまでもなく被告は原告に対し、昭和四四年二月分の未払給与金七、〇一五円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四四年四月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第二 予備的反訴について
一、請求原因1、2の各事実は当事者間に争がない。
二、そこで原告の抗弁について検討する。
1、原告が昭和四三年一一月八日から一〇日までの三日間帯広市で開催された本件教研集会に参加したこと、同年一一月五日右集会に参加するため所属長たる白老小学校長に対しいわゆる職務専念義務の免除の申請をしたことは当事者間に争がない。
 原告は、右申請に対し校長において承認不承認の明確な意思表示をせず、その取扱いについては後日話合いの上決定するという態度を示したと主張し、原告本人、証人Aおよび同Bの各供述中には右主張に沿う部分があるけれども、証人Cの証言および前記乙第一二号証、公務員が職務上作成したと認められるので真正な公文書と推定される乙第一三号証の一ないし四によれば、白老小学校長Cは日頃胆振教育局長などから、本件のような組合主催の研究集会への参加には職務専念義務免除の承認を与えないよう指導されており、原告の右承認申請に対しては当初から承認する意思のないことを明言していたこと、同年一一月五日同校長と原告とが右承認をめぐつて約四〇分程話し合つた際、同校長は承認できない旨をくり返し、年次有給休暇を利用して参加するよう説得したが、原告において研修権を主張して応じなかつたため、話合は平行線をたどつたが、同校長としては不承認の意思は明確にした上で原告の説得に努めたものであること、同校長は右話合の直後申請書に不承認と記載したうえ押印し、この書面は翌一一月六日同小学校教頭に見せて確認してもらつていること、右一一月六日原告が本件教研集会へ出席するための挨拶に校長室へ赴いた際も、C校長は昨日の話合いのとおりである旨告げて不承認を前提とした趣旨の発言をしていること、その後原告が本件教研集会から帰つた後、原告および校長のいずれからも右承認願の取扱いについて協議したりあるいは協議しようとした形跡はないこと、同校長は昭和四三年一一月七日夜から四国へ出張し、帰校した一一月二〇日の直後頃に白老町教育委員会に対して原告の不承認職場離脱の事実を報告していることが認められ、右事実を総合すれば、かえつて同校長は昭和四三年一一月五日原告の申請に対して不承認の意思を表示したものと認めるのが相当であり、したがつて前記原告本人および同人から聞いたことを内容とする証人A、同Bの前記各供述部分はにわかに措信することができない。なお、証人Cの供述によれば、同校長が一一月五日の原告との話合いの中で今後の研究課題である趣旨の発言をした事実は認められるけれども、右は話合いの過程において出たものにすぎないし、また本件の申請自体の取扱いを今後の研究課題にしようというものではなく、承認事務を取扱う校長として、この種の問題は道教育委員会対北教組といつた上部のレベルで解決すべき性質の問題であるとの趣旨で述べたものと認められるから、前認定の妨げとなるものではないし、他に原告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。
 したがつて、原告の承認申請に対して校長が明確な意思表示をせず後日話合いの上決定するという態度を示したとの事実を前提とし、事前に不承認の意思を明確に告知すべきであるのにこれをしなかつたことを無効原因の一とする原告の主張は、その前提を欠くものといわなければならない。
2、また、校長が不承認の処分をするにつき、特にその理由を告知すべきことを要求した規定はないから、不承認の理由を告知しなかつたからといつて処分が違法であるとはいえない。そうだとすれば、原告の、処分理由の告知がないとの無効原因の主張は失当である。
3、次に原告は、本件教研集会が教特法一九条、二〇条の研修にあたるから、校長の不承認とした措置は無効であると主張する。
 教特法は第三章において教育公務員の研修について特に独立の章を設け、教育公務員の職務の重要性ないし特殊性を考慮して、研修をその職責遂行のための不可欠の要素として考えていることおよび任命権者の行なう研修と並んで教育公務員各自の自主的な研修を重視していることは原告主張のとおりである。しかし教特法二〇条二項によれば、教員が勤務場所を離れて研修を行なおうとするときは本属長の承認を必要とする旨規定されており、本属長は、教員の申請にかかる行為が授業に支障がないかどうかおよびそれが研修であるかどうかの二点について判断した上承認不承認を決すべきものと解されるのであつて、およそ研修という名目の申出であれば授業に支障のない限り全て承認しなければならないということはできないと考えられる。
 そして、ある行政処分が無効であるというためには、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵が存在することが必要であり、瑕疵が明白であるというためには、処分の要件の存在を肯定した処分庁の認定の誤認であることが処分成立の当初から外形上客観的に明白であることを要するものと解されるところ、証人Cの証言および原告本人尋問の結果によれば、本件において校長は原告の参加しようとした本件教研集会の目的、内容等を綜合して判断した結果これを不承認としたものと認められるし、また本件教研集会が教特法二〇条二項の研修といえるか否かはその実体によると解せられるところ、甲第一号証の一、二によれば、本件教研集会の組織化の重点の一として教育研究活動と組合活動を一体的に発展させることがうたわれ、第二〇分科会の研究テーマの中には、職員団体の活動と目されるものがかなり存在することが窺われるのであつて、そうであるとすれば、本件不承認処分について先に述べた意味での明白な瑕疵があるということはできず、したがつて原告の前記無効原因の主張も採用することができない。
4、また、原告は、被告において給与支払債務の存在しないことを知りながら支給したものであるから、その返還を請求することはできないと主張する。
 町立小学校教員の給与の支給についての支出命令権は、北海道財務規則一二条、北海道教育委員会行政組織規則二二条により道知事から各地方教育局長に委任されているところ、不当利得の対象とされている昭和四三年一一月分の給与を支給した同月二一日当時、原告の給与の支出権者である胆振地方教育局長において支払義務の存在しない事実を知つていたと認めるに足りる証拠はなく、かえつて前記乙第一四号証によれば、胆振地方教育局長に対して原告の不承認職場離脱の事実が報告されたのは昭和四四年一月二七日であると認められ、他に右認定に反する証拠はない。そうだとすると、原告の右主張は採用できない。
三、次に被告は、原告が悪意の受益者であると主張するので考えるに、C校長が、原告の前記承認申請に対し不承認の意思を表示したものと認められること先に判示したとおりであるから、原告においても当然これを認識していたものと認めるのが相当であり、そうである以上原告は悪意の受益者であるといわざるをえない。四、よつて原告は被告に対し金七、〇一五円およびこれに対する受益後である昭和四三年一一月二二日から完済まで民法所定年五分の割合による利息金を支払う義務がある。
第三 結論
 以上のとおり、原告の本訴請求および被告の予備的反訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松原直幹 稲守孝夫 大津千明)
判例本文

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