主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の求める裁判
一、原告
1 被告が、昭和四〇年八月二三日原告に対してなした別紙第一目録記載の源泉徴収にかかる所得税の告知処分および不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 被告が、右同日原告に対してなした別紙第二目録甲欄記載の源泉徴収にかかる所得税の告知処分および不納付加算税の賦課決定処分のうち、被告の昭和四五年三月三〇日の訂正により同目録乙欄記載のように減額された部分をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
 主文同旨
第二、請求の原因
一、原告の性格および組織ならびに運営の実情
 原告は盛岡市およびその周辺に居住、勤務もしくは、通学している音楽愛好家によつて組織された自主的民主的な団体で、その目的とするところは日本民族の進歩的音楽の伝統を受けつぎ、発展させ、海外諸民族の民主的遺産に学び芸術家、知識人ならびに進歩的諸勢力と協力して、自らの成長と社会の進歩に役立つ民族的民主的大衆的な音楽文化を創造育成し、日本文化の発展に寄与するとともに、サークルの自主的な活動および会員相互の交流を発展させ、よい音楽の普及と向上を図り、働くものの人間性を高め、その連帯性を強化することにある。
 右の目的を達成するため、原告は定期的な音楽会(例会といわれている)、例会の合評会、音楽講座、座談会、レコードコンサート、合唱、フオークダンス、リクリエーシヨン、他文化団体との提携、音楽関係の資料の収集、機関誌ニユースの発行等多種多様な活動も行なつているが、その中心となるのは例会である。
 これらの諸活動はサークルを基礎にして行なわれており、会員はいずれかのサークルに所属して労音運動に参加し、また、前記した諸活動に必要な費用を分担するため、毎月定められた会費を醵出している。会員はサークルの諸活動の機会等に、原告のすべての活動について前述した目的に即して討議をして意見を集約し、その集約された意見は活動全体に反映されている。
 このことは組織的にも保障されている。すなわち、サークルでは総会に向けて運動方針の検討、その他の準備をし、サークル員のなかから代議員を選出し、代議員と役員によつて総会が開催され、総会において運動方針の決定、役員の選出等が行なわれている。総会で選出された役員は委員会を構成し、総会で決定された運動方針の具体化にあたつているが、随時サークルの要望、意見を汲み入れて活動している。
二、原告の事務局員について
 原告には事務局という組織が存在する。
 事務局は委員会によつて会員の中から選出される事務局員によつて構成されている。事務局員は例会の会場使用のための事務処理、出演者に対し会員やサークルの希望を伝える仕事、会員やサークル相互の交流、サークル活動を行なうための諸集会場の斡旋等の日常の実務を行ないながら、一方では会員やサークルから持ち込まれるサークル活動の問題、音楽上の諸問題等の相談に応じるなどして、原告の目的を達成するための活動を自発的自主的に行なつている。
 原告に右のような組織が存在しているのは、委員長をはじめとする役員は勤労者であつて、原則的には昼間は原告の活動に参加することができないが、原告の活動は昼夜を問わずに行なわなければならないので、どうしても原告の活動に専念する者が必要であるためである。
三、被告の課税処分
 ところが、被告は、昭和四〇年八月二三日付で原告が事務局員に対して給与を支払つているとした上で、原告に源泉徴収義務ありとして別紙第一目録および同第二目録甲欄記載のとおり源泉徴収にかかる所得税の告知処分および不納付加算税の賦課決定処分を行なつた。
四、原告の訴願前置手続など
 しかしながら、右の課税処分はいずれも違法であるので原告は、昭和四〇年九月二二日被告に対して異議申立をしたが、被告は同年一二月一八日これを棄却した。そこで、原告はさらに昭和四一年一月一七日仙台国税局長に対して審査請求をしたところ、仙台国税局長は、同年六月一日付で右審査請求を棄却した(原告には同月三日到達した)。
 なお被告は昭和四五年三月三〇日前記三記載の各処分のうち別紙第二目録甲欄記載の処分を同目録乙欄のように減額する訂正を行なつた。
五、本件源泉徴収にかかる所得税の告知処分および不納付加算税の賦課決定処分はいずれも違法である。
1、原告は所得税法による源泉徴収を行なう義務がない。
 原告はそれが音楽愛好者達の集団であるという意味においては団体であるが、その団体を構成する会員個人から独立した存在ではなく、あくまでも会員個人と統一的に理解されなければならない。したがつて、原告がその規約に代表者の定めがある故をもつて会員個人から独立した独自の源泉徴収を行なう義務のある法人とみなすことは所得税法(昭和二二年法律二七号をいう。以下旧所得税法という。)一条七項に違反する。
2、原告は事務局員に対し給与の支払をしていない。
 したがつて原告に源泉徴収の義務はないし、この納付義務を課することは旧所得税法三八条に違反する。
 原告事務局員の受領するいわゆる「給料」は原告との間における雇傭関係から発生するものではなく、規約にもとづき会の運営に関する実務を担当する会員に対する原告会員等の活動保障費である(前記のとおり、事務局員は会員であつて、会員としての活動の一環として事務局の実務を処理しているのであるが、その活動は夜遅くまで行なわれるので、その活動を物質的に保障するため、会員が毎月もちよる会費のなかから、活動保障費が支払われているのである。したがつて、原告と事務局員の間には雇傭契約ないしこれに準ずる契約というものはなくしたがつて「労務の対価」として活動保障費が支払われているのではないから、それは所得税法上の雑所得とみるべきである。)。
 原告は例会をはじめとする種々の活動を維持するために当然必要とする費用の財源を原告等の会員が醵出する会費や入会金によつてまかなつている。その費用の中には例会活動費(会場費、出演費、付帯設備費等)はいうまでもなく、宣伝活動費、組織活動費(旅費、会議費等)や事務局費も含まれている。
 事務局員の活動保障費は右事務局費の一部分であり、原告活動費の一部であるのがその実態である。
 したがつて、被告がいわゆる「給料」とみなして源泉徴収の対象としている原告事務局員の活動保障費は実態面からみても原告による給与ならびに賞与支払とみなされるべきものではなく、これを原告による給与ならびに賞与支払とみなして原告に源泉徴収義務および納付義務を認める本件各処分は違法である。
第三、被告の答弁および主張
一、(答弁)
 原告の主張第一項の事実のうち、原告が目的を持つた団体であること、原告が定期的な音楽会の開催、機関誌の発行をしていること、原告の会員が毎月会費を醵出していること、原告において総会が開催されており総会において運動方針の決定、役員の選出が行なわれていること、役員によつて委員会を構成すること、委員会は総会で決定された運動方針の具体化にあたつていることはいずれも認めるが、その余の事実は不知。
 同第二項の事実は不知。
 同第三項および第四項の事実はいずれも認める。
 同第五項の主張はすべて争う。
二、被告が本件各処分をなすに至つた経緯
1、原告は法人格のない社団で代表者の定めのあるものであるから、旧所得税法一条七項によつて、同法五章の規定による源泉徴収を行なう義務がある者に係る規定の適用については、法人とみなされる。
2、しかして、原告が居住者に対し給与所得の支払いをなす場合には、旧所得税法三八条によつて所得税の源泉徴収をなし、これを納付すべき義務がある。3、ところが原告は、原告の事務局に勤務している職員に対して、給与および賞与(以下「給与等」という。)を支払つているにかかわらず、旧所得税法六〇条(同法施行規則六四条、同法施行細則二四条および三七条)の規定による給与等の支払いをなす旨の申告書の提出もせず、源泉徴収所得税の納付もしていなかつた。4、そこで被告は、原告に対し、「所得税の源泉徴収についてのお尋ね」と題する書面で給与等の支払状況を照会したが、これに対する回答が得られなかつたので、さらに書面で右照会に対する回答を促したが、いずれも回答が得られなかつた。
 このように文書照会についての協力が得られなかつたので、被告は原告の支払つた給与等に対する源泉徴収所得税についての指導、調査のために職員を原告事務所に臨場させたところ、原告はこの指導および調査に応じなかつたばかりでなく、給与支払いに関する帳簿書類の提示をしなかつた。
5、右のような事情にあつたので、被告は、やむを得ず次に述べるように原告が支払いをした給与等の額を推計して、昭和四二年法律一四号による一部改正前の国税通則法(以下単に「国税通則法」という。)三六条の規定により別紙第三別表記載のとおり納税の告知処分をなした。(国税通則法の施行前たる昭和三七年一~三月分については昭和三七年法律四四号による改正前の所得税法四三条による納税の告知処分をなしたものである。)
 すなわち、被告は外部調査により知り得た、原告が盛岡社会保険事務所に届出た健康保険、厚生年金保険、被保険者報酬月額算定基礎届に記載した報酬月額および社会保険事務所備付の健康保険、厚生年金保険、被保険者原票の標準報酬を基礎に、原告が各事務局員に対し、支払いをした給与等の金額(健康保険法二条、三条一、二項、八条による届出の毎年五、六、七月分報酬額については、その額によりおよび他の月分については右報酬額に基づいて推計した。)を推計するとともに賞与については、原告が右届出書に添付して提出した報酬種類別内訳表等に基づいて支給金額、支給時期を推計して別紙第三別表記載のとおり源泉所得税を計算して告知処分をした。
6、原告は被告がなした納税の告知処分について、昭和四〇年九月二二日付で異議申立てを行なつた。そこで被告は異議申立てに対する調査のため、再三原告事務所に職員を臨場させたが、関係帳簿類の提示もなく協力が得られなかつた。
 このような事情にあつたので、被告は、やむを得ず外部調査等に基づいて推計してなした原処分を維持して同年一二月一八日付で異議申立てを棄却決定したものである。
7、原告は、さらに昭和四一年一月一七日付で仙台国税局長に対し審査請求をなした。この審査請求についての調査のため協議官が原告事務所に臨場したが、この際も関係帳簿書類等の提示がなく、前記同様協力が得られなかつたので、外部調査に基づいて審査の結果同年六月一日付で原処分を維持して棄却の裁決を行なつた。8、なお、右裁決後、原処分の一部(別紙第二目録甲欄記載の各処分)について訂正を要する事実が判明したので昭和四五年三月三〇日付で、右同目録乙欄記載(その内訳は別紙第四別表記載のとおり)のとおり正当額に訂正の措置をとつた。(別紙第四別表における「支給金額」は、原告が盛岡社会保険事務所に対して届出た健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬月額算定基礎届(添付書類を含む)あるいは健康保険・厚生年金保険被保険者原票に記載されている給与等の金額から、健康保険法(昭和四一年法律六三号による一部改正前のもの、以下同じ)七二条および厚生年金保険法(昭和四〇年法律一〇四号による一部改正前のもの、以下同じ。)八二条の規定により被保険者たる事務局員が負担する健康保険料および厚生年金保険料ならびに失業保険法(昭和四〇年法律一三〇号による一部改正前のもの、以下同じ。)三二条により被保険者たる事務局員が負担する失業保険料の金額を控除した後の金額である。右健康保険料および厚生年金保険料は、健康保険法三一条三項および厚生年金保険法二条二項により、その年一〇月から翌年九月までの保険料についてその年五月から七月までの報酬を平均して算出される標準報酬を基とし、失業保険料は、失業保険法三一条により各月分の賃金を基としてそれぞれ計算したものである。)
三、本件各処分の計算関係等について
1、給与所得金額、源泉徴収所得税および不納付加算税の計算について 被告は、原告が健康保険法、厚生年金保険法にもとづき原告の事務局員の健康保険および厚生年金保険の給付を受けるため、盛岡社会保険事務所に対して届出した健康保険、厚生年金保険、被保険者報酬月額算定基礎届に記載した各事務局員の報酬(給料)の月額を基礎として原告が支給した各月別の給与の額を認定(推計)した(なお、別紙第四別表において支給金額および税額欄の外書の金額は賞与の額である)。
 そして、右各人別、月別給与額に対し、それぞれの年分の旧所得税法三八条一項五号に規定する別表第三「給与所得税源泉徴収額表」(以下単に「源泉徴収税額表」という。)月額表甲表の乙欄に掲げる税額を計算し、また、賞与の支給のある月の税額計算は各事務局員に支給した賞与の額に同項七号に規定する別表第四「賞与に対する所得税源泉徴収額の算出率の表」(以下単に「賞与に対する税率表」という。)の乙欄に掲げる給与の額に応じた賞与の金額に乗ずべき率を乗じて各人別の税額を計算し、各人別の給与額に対する税額と賞与に対する税額との合計額とし、それぞれ各人の各月分の合計額により前述のとおり納税の告知処分をなしたものである。
 不納付加算税の計算については、国税通則法六七条一項の規定を適用し、各月分の納税の告知に係る税額(国税通則法九〇条三項の規定により、各月分の告知税額の一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算し、賦課決定したものである。
 なお、昭和三七年の全部の月および昭和三八年、三九年の一部の月に不納付加算税の計算がなされていないのは、国税通則法九一条四項により算出税額の全額を切り捨てたものである。
2、「源泉徴収税額表」および「賞与に対する税率表」の適用について 被告は、原告が納付すべき旧所得税法三八条の源泉徴収所得税額を別紙第三別表記載の各事務局員が支払いを受けた各月別の給与の支給額および賞与の額に対し、源泉徴収税額表、月額表、甲表および賞与に対する税率表により計算したものである。
 その具体的源泉徴収すべき所得税額の計算は、各事務局員の月別報酬(給料)の額から支払いすべき社会保険料のうち本人負担分相当額を控除し、前述源泉徴収税額表甲表「その月の社会保険料控除後の給与の金額」に掲げる金額に応じた乙欄に掲げる税額により計算したものである。
 賞与の支給のあつた月の源泉徴収すべき所得税額の計算は、前述賞与に対する税率表により各事務局員に対する賞与の支給のあつた前月の給与の額から社会保険料控除後の給与の金額に応じた賞与の金額に乗ずべき率を支給した賞与の額に乗じて算出した税額とその月の給与に対する前述税額との合計額をもつて計算したものである。
3、別紙第四別表源泉徴収税額表等の計算根基について、
(一) 昭和三七年一月~三月の税額等の計算について
<略>
 この税額等の計算は、原告の事務局員Aがその月に支払いを受けた給与の額に旧所得税法(昭和三六年法律三五号による一部改正によるもの)三八条一項五号により前述甲表、乙欄に掲げる税額を計算し、右Aの各月分の合計額により計算したものである。
(二) 昭和三七年四月~同三八年三月の税額等の計算について
<略>
 この税額等の計算は1、に述べた原告の各事務局員がその月に支払いを受けた給与の額に旧所得税法(昭和三七年法律第四四号による一部改正によるもの)三八条一項五号により前記甲表、乙欄に掲げる税額を計算し、各事務局員の各月分の合計額により計算したものである。
 また別紙第四別表において賞与の支給のある昭和三七年六月および同年一二月については、事務局員Aが支払いを受けた賞与について同項七号により前記別表第四乙欄に掲げる賞与の支給のあつた前月の社会保険料控除後の給与の金額に応じた賞与の金額に乗ずべき率を支給を受けた賞与の額に乗じて算出した税額と当該月の給料に対する税額との合計額により算出したものである。
 なお各月について不納付加算税の計算がなされていないのは、国税通則法九一条四項により算出加算税額の全額を切り捨てたものである。
(三) 昭和三八年四月~同三九年三月の税額等の計算について
<略>
 この税額等の計算は、1に述べた原告の各事務局員がその月に支払いを受けた給与の額に旧所得税法(昭和三八年法律六六号による一部改正によるもの)三八条一項五号により前記甲表、乙欄に掲げる税額を計算し、各事務局員の各月分の合計額により計算したものであり、賞与の支給のある昭和三八年一二月については、同項七号により(二)で述べたと同様の方法により、各事務局員が支払いを受けた賞与について前記別表第四乙欄に掲げる前月の社会保険料控除後の給与の金額に応じた率を乗じて計算した税額と当該月の給料に対する税額との合計額により計算したものである。
 不納付加算税については、国税通則法六七条一項の規定を適用し、各月分の納税の告知にかかる税額(国税通則法九〇条三項の規定により一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算したものである。
 なお、昭和三九年一月から三月までについて不納付加算税の計算がなされていないのは、国税通則法九一条四項により算出加算税額の全額を切り捨てたものである。
(四) 昭和三九年四月~同年一二月の税額等の計算について
 この税額等の計算は、1に述べた原告の各事務局員がその月に支払いを受けた給与の額に旧所得税法(昭和三九年法律二〇号による一部改正によるもの)三八条一項五号により前記甲表、乙欄に掲げる税額を計算し、各事務局員の各月分の合計額により前記のとおり計算したものである。
 また、賞与の支給のある昭和三九年一二月については、同項七号により、前記(二)で述べたと同様の方法により、各事務局員が支払いを受けた賞与について前記別表第四、乙欄に掲げる前月の社会保険料控除後の給与の金額に応じた率を乗じて計算した税額と当該月の給料に対する税額との合計額により計算したものである。
 不納付加算税については、国税通則法の規定により前述の場合と同様の方法により各月分の納税の告知にかかる税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算したものである。
四、請求の原因第五項に対する反論
 本件処分には原告主張のような違法はない。
1、前記のとおり、原告は法人格のない社団で代表者の定めのあるものであり、個々の会員とは別個独立の存在であるから、原告には旧所得税法一条七項の適用がない旨の原告の主張は根拠がない。
2、原告はこれまで給与等の支払いをしていないから、源泉徴収義務はなく、事務局員の得ている収入は、会員がもちよる会費の中から支払われている活動保障費であり、所得税上雑所得である旨主張する。しかしながら次に述べるとおり事務局員は原告と雇傭関係にあり、原告から給与および賞与を支給されているものである。(一) 原告は前記のとおり、原告の事務局員を使用する事業主の立場から盛岡社会保険事務所に事務局員の健康保険および厚生年金保険の適用を受ける手続をとつている。ところで健康保険法上原告は事業主としてその使用する者の異動、報酬等について報告し、または文書を提出するなど健康保険に必要な事務を行なう義務がある(同法八条参照)ところ、原告は連年右に関する届出書を提出するなどしてその事務を行なつてきている。
 しかして同法において報酬とは事業に使用される者が労務の対価として受ける給料等およびこれに準ずるものをいうと規定されており(同法二条参照)、したがつて前記事実からすれば原告は同法にいう「事業主」であり、原告の事務局員は事業主たる原告に「使用される者」であり、原告が事務局員に支払う「報酬」は労務の対価として支払う「給料等」であることが明らかであり、原告はこれを認めてその旨の届出をしていることが窺われる。なお、右の「事業主」あるいは「使用される者」とは、事業上の使用関係が存することをいうのであつて、事業主との間に実体的な使用関係にある者を「使用される者」といい、民法上における雇傭関係の存否は同法にいう使用関係を認定するにあたつての一つの参考事項であるにすぎないと解すべきであり、また、同法二条に規定する報酬とは「基本給(本俸)、勤務地手当、家族手当、能率給、役付手当、通勤手当、日直手当、住宅手当等その名称のいかんを問わず労務の対価として受けるすべてのもの」と解すべきである。
 そしてこれを旧所得税法九条についてみるに、給与等とは「雇傭関係にもとづいて一定の労務に服するか、または雇傭契約という明白な形式をとらないが、雇傭に準ずる関係にもとづいて一定の労務に服し、かつ対価の支払時期および金額が特定している場合の俸給、給料、賃金、年金、賞与等」と解すべきであるから、原告が盛岡社会保険事務所に届出た報酬は、右所得税法の規定による給与等と額において相違の生ずることは認められるが(健康保険法二条但書参照)まさに旧所得税法所定の給与等にあたるものである。(なお、厚生年金保険法に規定する加入、保険料、報酬については、健康保険法に規定するものと、ほぼ同旨である。)(二) さらに原告の規約によれば、原告は原告の主たる活動である定期的な音楽会の開催を契機として、入会金および前納制である会費を会員から納入させ、毎年四月一日から翌年三月三一日までの会計年度をもつて最高決議機関である総会の議決により、予算の決定および決算の承認を得ている。したがつて会員から直接事務局員に対し給与等に該る金額が支払われているが如き原告の主張は失当である。要するに、会員から原告に納入された入会金と会費は事実上原告に帰属し、原告の管理するところとなり、会場使用料、事務局員の給与等の経費に充てられているものであるから、その名称のいかんを問わず、事務局員に支払われる活動保障費相当額は、所得税上の給与所得にあたるものである。
 以上の次第で、本件課税処分を違法とする原告の主張は、とうてい容認しがたいものである。
第四、証拠関係(省略)
理由
一、請求の原因第三項(被告の課税処分)および第四項(原告の訴願前置手続など)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二、原告は本件各課税処分は違法である旨主張するので以下判断する。1、請求の原因第五項1について
 原告は、「原告は音楽愛好者の集団という意味では団体であるが、会員個人から独立した存在ではなく、原告と会員個人とは統一的に理解されるべきであるから原告には旧所得税法一条七項の適用がなく、したがつて源泉徴収を行なう義務がない」旨主張する。
 しかしながら、原告がいわゆる「法人格のない社団」であつて代表者の定めのあるものであることは、当裁判所昭和三九年(行ウ)第七号、同四一年(行ウ)第二号課税処分取消請求事件の審理によつて当裁判所に顕著な事実であるから、原告は旧所得税法一条七項の規定により、同法上の源泉徴収を行なう義務を負う者であることが明白である。
 右に反する原告の主張は採用することができない。
2、請求の原因第五項2の主張について
 原告は、「原告は事務局員に対し給与の支払をしていない。被告が主張するいわゆる給料は原告の実務を担当する会員に対する活動保障費であり、それは所得税法上雑所得とみるべきである。」旨主張する。
 しかして所得税法上給与とは「雇傭契約またはこれに準ずる関係に基づいて使用者に従属して提供した労務の対価として使用者から支払を受ける給付(俸給、給料、賃金、賞与等その名称のいかんを問わない)である」と解すべきところ(旧所得税法九条一項五号参照)、いずれも成立に争いのない甲一号証、乙一号証の一および二、同三号証の一ないし四、同八号証の一ないし三、同一一および一二号証、証人A、同Bの証言によると、次の事実を認めることができる。
(一) 原告はその創立当初(昭和三六年一二月)から事務局を設置し、これに事務局長と事務局員数名を配置し、原告の運営に関する実務を担当させている。(二) 事務局長および事務局員(以下事務局員らという)は、原告の総会において原告の会員の中から選出される(もつとも本人の承諾を要する)が、いわゆる専従職員として他の職業にはつかず、もつぱら原告の業務(原告の例会の準備、会員から徴収した会費の保管、関係団体との連絡等)に従事し、その業務の執行にあたつては原告の総会の決定した方針および原告の運営委員会の決定に従つている。(三) 事務局員らは原告から毎月一回活動保障費という名目で一定の金員の支払を受けている(なお昭和三七年ないし四〇年項は毎年六月と一二月に合わせて二カ月分程度の賞与の支払も受けている)が、右金員は年に一度行なわれる原告の総会においてあらかじめ事務局員らに支払うべき金員として予算に計上され原告において会員から徴収し管理している会費の中から支払われている。
(四) 事務局員らは支払いを受けた金員のうちの多くの部分を自分とその家族の生活費にあてている。(したがつて右金員は事務局員らが原告の業務を執行するについての必要経費というよりは事務局員らとその家族の生活を保障するために支給されているものである。)
(五) 原告は創立以来自己を事業主とし、事務局員らを被保険者として健康保険および厚生年金保険に加入し、毎年健康保険法に定められた事業主として行なうべき義務を履行している。
 以上の事実が認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。
 右事実を総合勘案すれば、原告と事務局員らとの間には、明白に雇傭契約とはいえないまでも、これに準ずる関係が存在し、事務局員らは右関係に基づき、原告に従属して一定の労務を提供し、その対価として原告から一定の「給料」および「賞与」の支払を受けているものと認めるのが相当である。原告は右の点に関し、原告と事務局員らとの間には雇傭契約ないしこれに準ずる契約が締結されていないから、原告から事務局員らに支払われている金員は雇傭関係から発生するものではない(したがつて労務の対価として支払われているものではない)旨主張する。しかしながら、雇傭契約という明白な形式がとられていなくとも当事者間に雇傭契約に準ずる関係が存在し、これに基づいて当事者の一方が他方に対し従属して労務を提供し、その対価として他方が金員を支払つている関係が認められれば、右金員は旧所得税法九条一項五号に規定される給与と解すべきことは前示のとおりであり、雇傭契約等契約の存否は右給与支払関係の存在を認定するにあたつての一資料にすぎないものと解すべく本件において原告と事務局員らとの間には前記認定のような関係があるから、原告の右主張はとうてい採用することができない。
 してみると原告が事務局員らに対し活動保障費の名目で支払つた金員は所得税法上「雑所得」とみるべきでなく、旧所得税法九条一項五号に規定する「給与」に該当するものと解すべきである。
三、そこで次に本件各課税処分の課税要件の存否について判断する。
 前掲各証拠のほか、いずれも成立に争いのない乙七号証、同九号証の一ないし七、同一〇号証、同一三号証、証人C、同Dの各証言によると、原告は別紙第四別表記載のとおり原告の事務局員Aほか三名に対し、各支給年月欄記載の月に各支給金額欄記載の給与および賞与をそれぞれ支払つていること、それにもかかわらず原告は旧所得税法六〇条による申告書の提出をせず、かつ所得税の源泉徴収とその納付をしていないことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。 以上によれば原告は旧所得税法に基づき別紙第一目録および同第二目録乙欄記載(以上の内訳は別紙第四別表記載のとおり)の各所得税および不納付加算税を納付すべき義務があるというべきである。
 そして前掲各証拠によれば被告が昭和四〇年八月二三日になした本件各賦課処分(そのうち別紙第二目録甲欄記載の各処分については、その後同目録乙欄記載のように減額訂正された範囲内で)は適正な課税標準の範囲内で適正な税率を適用して得られる税額を賦課したものと認められるので、結局被告の原告に対する本件各賦課処分はいずれも適法である。
四、よつて原告の本訴請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判官 石川良雄 片岡正彦 鈴木勝利)
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