主文
一、被告は、原告aに対し金六、六三〇円、同bに対し金七、三二〇円、およびこれらに対する昭和三七年一一月三〇日から右各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
二、その余の原告らの各請求を棄却する。
三、訴訟費用のうち、原告aおよび同bと被告との間に生じた分は全部を被告の負担とし、その余の原告らと被告との間に生じた分は全部その余の原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告ら
(一)、被告は被告らに対し、それぞれ別紙目録旅費請求金額欄記載の金員ならびにこれに対する昭和三七年一一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二)、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに保証を条件とする仮執行の宣言
二、被 告
(本案前の申立)
本件訴えを却下する。
(本案の申立)
(一)、原告らの請求はいずれもこれを棄却する。
(二)、訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第二、原告らの請求原因
一、原告らはいずれも地方公務員たる教育職員として、別紙目録身分欄記載のとおり山口県下の公立小、中学校に勤務しかつ同身分欄記載のとおりの職名ならび職務の等級にあつて被告より所定の給与を受けている者である。
二、原告らは別紙目録記載の年月日にそれぞれ旅行命令権者たる各所属学校長から同目録旅行命令欄記載のとおりの旅行命令を受け、同目録旅行事実欄記載のとおり旅行した。
三、被告が地方自治法二〇四条一項、三項に則つて制定した昭和二九年山口県条例第六〇号「一般職の職員等の旅費に関する条例」(以下、旅費条例という)三条には、職員が旅行命令権者の命令により出張した場合には被告は当該職員に対して旅費を支給する旨規定されており、同条例六条は、旅費の種類として鉄道賃、船賃、車賃、日当、宿泊料等を定め、その旅費額計算方法はそれぞれ同条例一六条(鉄道賃)、一七条(船賃)、一九条(車賃)、二〇条(日当)、二一条(宿泊料)等に各規定されている。
 ところで、右旅費額の計算方法は行政職給料表の職務の等級による区分に従つているところ、昭和二六年山口県条例第二号「一般職の職員の給与に関する条例」四条三項に記載されている行政職給料表は職務の等級によつて給与基準を区分しており、昭和三七年山口県規則第四三号「一般職の職員の給与に関する条例施行規則」二条の二によつて、教育職給料表(三)の適用を受ける原告らのごとき教育職職員の職務の等級を右行政職の職務の等級に換算すると左のとおりになる(上欄は行政職給料表、下欄は教育職給料表(三)を示す)。
一等級 一等級二〇号給以上
二等級 一等級一九号給以下
三等級 二等級一六号給以上
四等級 二等級一五号給から一二号給まで
五等級 二等級一一号給以下三等級一五号給以上
六等級 三等級一四号給以下
 しかして、昭和三二年山口県規則九〇号の五「一般職の職員等の旅費に関する条例施行規則」附則二項によれば、教育職給料表(三)の三等級一一号給以上はすべて行政職給料表の四等級に格上げして換算すべきものとされており、前記旅費額のうち、運賃については、昭和三二年山口県条例一九号附則四項により、県内旅行の場合運賃の等級種別が二階級区分のときは二等とする旨規定していたが、昭和三七年山口県条例二五号二条により右附則四項は削除されて以後本件条例一六条以下に規定されたところによることとなつた。
四、よつて、原告らは被告に対し、本件条例、同規則ならびに附則により算出した別紙目録旅費合計欄記載の金額のうち、同目録旅費内金受領額欄記載の金額を差引いた残額である同目録旅費請求金額欄記載の各旅費の支払を求める。第三、被告の本案前の抗弁
 本訴は、左記のとおり訴願前置の要件を欠く不適法な訴えである。
 本訴請求は、地方自治法二〇六条(昭和三七年法律第一六一号改正前のもの)一項所定の「給与その他の給付に関し異議のある」場合に該当するが、右のごとき請求は右条項によつて当該地方公共団体の長(本件の場合市町村長)に異議の申立をなしてその決定を得た上、右決定につき知事に対し訴願を提起し、その裁決に不服がある場合にかぎつて裁判所への出訴が認められているのである。ところが原告らは右のごとき訴願前置の手続を経ていないから、本訴は不適法として却下を免れない。
第四、被告の本案の答弁
一、請求原因第一項の事実の認否は別紙目録中身分欄下の被告の答弁欄記載のとおりである。
二、同第二項の、各原告らが勤務していた学校長よりそれぞれ旅行命令を受けた事実、および各原告らがそれぞれ右旅行命令に従つて旅行した事実の認否は、別紙目録中旅行命令および旅行事実欄下の被告の答弁欄記載のとおりである。三、同第三項は認める。
 もつとも、旅費条例は昭和三一年山口県条例三〇号、同三二年山口県条例一九号、同三三年山口県条例四八号、同三五年山口県条例三八号、同三七年山口県条例二五号で逐次一部改正がなされてきた。また、原告ら引用の昭和三二年山口県規則九〇号の五「一般職の職員等の旅費に関する条例施行規則」は、同二九年山口県規則七六号が同三一年山口県規則六四号で一部改正されたものであるが、その後同三三年山口県規則一一八号、同三四年山口県規則六〇号、同三五年山口県規則九二号、同三六年山口県規則五二の二号、同三七年山口県規則四三号で逐次一部改正がなされてきている。
第五、被告の本案の抗弁
一、被告において旅行命令および旅行事実を認めた分については、別紙目録の抗弁の欄記載のとおりの年月日にそれぞれ記載の金額を弁済した。
二、かりに抗弁第一項の旅行を除くその余の旅行につき、原告ら主張のとおり原告らが所属学校長の旅行命令にもとづいて旅行した事実が認められるとしても、右旅行命令は、左記のとおり無効である。
1、(旅行命令権限の所在)原告らは山口県下の市町村立小中学校の教職員であるから、その身分は地方公務員であり、原告らの職務に関する監督権は各市町村の教育委員会に属する(地方教育行政の組織および運営に関する法律二三条、四三条一項)。従つて、原告らに対し旅行を命令する権限は、本来各市町村の教育委員会に属し(同法二三条五号、八号、一九号)、教育委員会は右権限に属する事務を市町村教育長に委任し、教育長から更に委任を受けた各学校長が右権限を行使している(同法二六条一、二項)。
2、(右権限の範囲)ところで、上級庁がその権限の一部を下級庁に委任した場合、下級庁が受任の範囲を逸脱してなした行政行為は無効である。しかして、山口県における小中学校の教職員の旅費は次のように配分支給される。すなわち、被告は年度始めに成立した予算にもとづき、定時または随時に旅費予算を県教育委員会管理課長に配分し、右管理課長がこれを県下各教育事務所長(現在山口県下には一〇教育事務所がある)に対し、当該教育事務所管内の小中学校の旅費総額を内示すると、各教育事務所長は管内各市町村教育委員会に各当該年度の旅費額を示達し、右委員会はこれを管内小中学校に配分して各学校長にその旨を通知する。そこで各学校長は、右配分された旅費総額の限度において所属教職員に対し旅行を命ずる権限を取得することとなる。
3、(内規によつて旅費が支給される旅行命令)学校教職員は、その職務の性質上研修ないし各種研究会等への参加を多く必要とし、それへの出席のため校長に対しこれが旅行の希望を申し出でるので、校長はなるべく右希望をいれてその機会の提供に努力するのであるが、各学校に配分された前記旅費総額には前記のとおり一定の限度がある。そこで、山口県下の市町村立小中学校はその不足を補うために、各学校において旅費支給に関する内規(各年度始めに職員会議において明示して全員の同意を得たものもあれば、全職員の申し合せ程度のものあるいは長年の慣習によるものもある)を定め、附属団体たるP・T・A、後援会等の予算のうち研修費、研究費、選手派遣費等の名目のものならびに市町村から補助金等と、県から配分される旅費総額を適宜な名目で架空の旅行命令を用いて申請してその交付を受けたものとを一括プールしておき、前記内規に従つて原告らの旅行に対し公平に支給していたが、その額は旅費条例、同規則ならびに附則により算出した額よりも少額であるのが実情であつた。しかしながら、右のような内規によつてその旅費が支給される旅行の中には、性質上公務に属するものと、属さないもの(たとえば、その実態・目的において校内の懇親目的の旅行、教職員体育大会、弔問等公務と考ええないもの、公務上の必要でなく原告らの希望によつて研修会等に参加するために出張として取扱つたもの、外部団体等の行事に原告らがそれぞれその構成員として参加したもの)があるが、性質上公務である旅行のみが旅費条例所定の旅行命令の対象となりうるのであつて、その余の旅行は右旅行命令の対象とはならず、右旅行により支給される旅費は地方公務員法三八条にもとづき校長の許可を得て受領する報酬にすぎないものであるところ、各学校に配分された旅費総額は、右旅費条例所定の旅行命令にもとづく旅行のみに対してはその旅費を支給するに足りるものであつた。右二種類の旅行を区別することなく各学校においてなされる旅行命令は、旅費条例所定の旅行命令とは本質的に異つているものであつて、このことは各学校において旅費条例所定の旅行命令簿と各学校で任意に作成した旅行命令簿が備つていることからも明らかである。原告らは、前記内規に従つて支給される旅費のすべてを旅費条例所定の旅費と混同し、学校長の旅行命令と配分された当該学校の旅費総額(予算)との関係を無視ないし看過している。しかして地方自治法二〇四条の二、地方公務員法二四条六項によれば、地方公務員に対する旅費の支給は条例にもとづいて支給されなければならない旨規定され、また地方公共団体の行政行為は、すべて予算に拘束され、すべての歳入歳出は予算にこれを計上し予算をこえた支出を伴う一切の行為は禁止されている(地方自治法二三四条以下)のであるから、各学校に配分された旅費総額の範囲をこえてなされた学校長の旅行命令は旅費条例にいう旅行命令にあたらないというべきである。
 以上のとおりであるから、各学校が配分された旅費総額の範囲をこえてなした旅行命令は、委任された権限の範囲をこえるものであつて、無効といわざるをえず、被告は原告らに対し右旅費支払義務はない。
4、(原告cのみに対する特別事情)原告c(旅行番号三五の一ないし二八)は、同人のそれぞれの旅行当時自らが所属学校長であつて、予算の範囲内で旅行命令を発令しなければならない立場にありながらこれに反してあらかじめ示達された予算額では不足するのを知りながら自ら旅行命令を発したものであつて、右原告の旅行命令は無効である。かりにそうでないとしても、右原告の本訴請求は信義誠実の原則に反し許されない。
三、原告らは、左記のとおり本件旅費請求権を放棄した。
1、被告において、旅行命令および旅行事実を認めた分のうち、原告d(旅行番号二四の二ないし五)、同e(旅行番号二九の七)同c(旅行番号三五の一八)については各原告らは旅行命令を受けたそのたびに当該学校長に対し、あらかじめ「旅費条例所定の金額より少額の旅費を受領したが、その差額の請求権は放棄する」旨の黙示の意思表示をした。
2、被告において、旅行命令および旅行事実を否認した部分については、かりに右事実が認められるとしても、原告らは所属学校長から旅行命令を受けたそのたびにそれぞれ旅費請求権を放棄する旨の黙示の意思表示をなした。すなわち、普通地方公共団体は年度予算主義をとり、毎年四月一日から翌年三月三一日までを一会計年度とし、年度内に発生した債務の支払(歳出)は翌年度の五月三一日までにしなければならず、右出納閉鎖期日後はもはやその支払をなしえないものとされている(地方自治法二四一条、同法施行令一四六条一号)。原告らは右の事情を熟知しておりながら、旅費条例所定の旅費請求手続をすることなく右各出納閉鎖期日を徒過したものであつて、原告らは本件旅費請求権をそれぞれ旅行命令受領の時に黙示の意思表示によつて放棄していたとみるべきである。
四、原告らのごとき教職員が本訴請求のような旅行をしても、これに対し旅費条例に基づく旅費を請求しない旨の事実たる慣習(民法九二条)があつた。
 すなわち、旅費条例所定の旅行命令による場合を除く旅行に対して、被告から右条例所定の旅費が支給されないことは、ひとり被告山口県のみならず、全国都道府県において共通した取扱いであり、地方自治法、地方公務員法、労働基準法等の関係法令の制定以来現在まで右取扱いが行われ、被告山口県の予算にもかかる旅費の計上がなされておらず、原告らも右事情を熟知しているので本訴以前に各所属学校長ないし被告に対し、本件旅行命令にもとづく旅費につきその一部を除き他は全て請求していないのである。かような経過は、教職員の本訴請求のような出張については、これに関して旅費条例にもとづく旅費を支給ないしは請求しない旨の事実たる慣習が存在し、当事者はこれによつていたものであるから、原告らの請求は失当である。
五、本件旅行命令のうち、前記のとおり性質上公務であると考えられる旅行についてだけ旅費条例所定の旅行命令の対象となりうるものであつて、その余の旅行は旅行命令の対象とすることができない性質のものであるが、山口県下市町村立学校においては、いずれも旅費支給に関する内規を作成し、これを各年度始めに職員会議において明示して教職員の同意を得るかあるいは同様の慣習を教職員全員が了解していたかのいずれかであつた。しかして、前記のとおり、各市町村立学校は、適宜な名目で架空の旅行命令を用いて県から旅費予算の交付を受けて、これをP・T・A会費、体育会会費等から支出される金額と一括して保管し、前記内規に従つて原告らに支給していたのである。従つて、性質上公務に該当する旅行をなした原告らも、その余の旅行について右内規にもとづく旅費を受領している以上、公務のための旅行についてのみ旅費条例所定の旅費を請求することはクリーン・ハンドの原則にてらして許されない。
六、原告らの本訴請求中、別紙目録の被告の主張欄に時効と記載してある分については、それぞれ同欄記載の年月日に、左記のとおり消滅時効が完成しているからこれを援用する。
1、原告らは地方公務員であるが、地方公務員法五八条によれば、労働基準法一一五条の時効に関する規定が地方公務員に対して適用除外となつていないので、原告らに対して右労働基準法一一五条が適用されることとなる。
2、もつとも、会計法三〇条によれば、国に対する権利で金銭の給付を目的とするもので他の法律に規定のないものは五年間の消滅時効による旨規定され、地方自治法二三三条(昭和三八年法九九号による改正前のもの)は、普通地方公共団体の支払金の時効については政府の支払金の時効による、としているから、地方自治法上の地方公共団体の給付債務は前記会計法三〇条が適用されることとなるのであるが、地方公務員については前記1項のとおり労働基準法が、会計法三〇条にいう「他の法律」に該当し、結局原告らに対しては労働基準法一一五条の時効が適用される。
3、ところで、労働基準法一一五条所定の「この法律の規定による請求権」は、同法によつて直接に規定されているものに限らず、同法にもとづく労働協約その他により間接的に規定された一切の請求権を含むものとみるべきであり、同法六八条は帰郷旅費について規定しているが、労働者の旅費請求権は帰郷旅費にとどまらず勤務に伴う旅費もあり、その旅費請求権は同法一一五条所定の請求権に該当する。旅費は民法一七四条三号(運送費)および同四号(立替金)の性質を有するが、労働者保護の立場から賃金と同様消滅時効を二年間としているのである。4、原告らの旅費請求権はそれぞれ旅行終了と同時に発生し、この時から右請求権を行使しうる状態にあるから、旅行終了の翌日をもつて消滅時効の起算日とすべきであり、前記1、2、3項のとおりその時効期間は二年であるから、別紙目録の被告の主張欄に時効と記載してある分については、それぞれ同欄記載の年月日に消滅時効が完成した
七、かりに以上の主張がすべて理由がないとしても、原告らの本訴請求は旅費条例所定の手続を履践しない請求であるから被告においてこれに応ずる義務はない。
 すなわち、旅行命令にもとづく旅行終了と同時に発生する旅費請求権は抽象的なものにすぎず、被告に対して旅費の支払いを求めうる具体的請求権は、旅費条例所定の旅行命令簿に所要事項を記入のうえ被告の支払担当者(山口県出納長または分室出納員)に対してこれを提示してその請求をした時に発生するのであつて、原告らはかかる手続をしていないからいまだその請求権は具体化していない。被告としては、旅行命令権者たる各市町村教育委員会の委任を受けた各学校長がなした旅行命令について、その旅費の支払義務のみを負担させられているのであるから、原告らが前記手続を履践しない以上旅行事実を知りえず、従つてその支払義務はない。第六、被告の本案前の抗弁に対する原告らの答弁
 被告の主張は争う。
 訴願前置主義は、行政事件訴訟特例法(昭和二三年法律八一号)一、二条によれば、行政庁の違法な処分の取消または変更に係る訴訟すなわち抗告訴訟に限り適用されるのであり、また地方自治法(昭和三七年法律一六一号改正前のもの)二〇六条所定の「給付に関し異議」のある場合とは、右改正後地方自治法二〇六条所定のごとく「給付に関する処分に不服」のある場合であつて行政庁の処分に対する訴願の意であるが、本訴は、地方公共団体たる被告に対する原告らの給付請求であるから抗告訴訟ではなく当事者訴訟である。従つて本訴に訴願前置の適用のないことは明らかである。
第七、被告の本案の抗弁に対する原告らの答弁
一、抗弁第一項の事実(弁済)はすべて否認する。
二、抗弁第二項は争う。
 1、(旅行命令権の所在)旅費条例に定める旅行命令権者が本来的に原告ら所属学校の学校長であることは次の理由により明らかである。すなわち、教育事業に関係する機関には、教育事項を担当して教育活動を行う教育機関と教育行政事項を担当して教育行政活動を行う教育行政機関があるが、文部大臣、文部省、地方教育委員会およびその事務局は教育行政機関であり(地方教育行政の組織ならびに運営に関する法律二条、四八条)、各種学校等は教育機関となつている(同法二三〇条)。ところで、原告らの主張する各旅行は、教育機関の教育活動として行う教育事項であるから、その命令は教育委員会がなすべきものではなく教育機関たる学校の校長の権限事項である。また、旅行命令簿の様式を定めた規則の別表第一の命令権者の欄には筆頭に副知事の記載があり、順次主務部長、主務課長等受任者の記載があるのに対し、原告らのような学校教職員について用いられている旅行命令簿該当欄には筆頭に校長の記載があるのみであつて、このことは本来的な旅行命令権者が学校長であることを示すものである。
2、(予算超過の旅行命令の効力)予算を超過する旅行命令であつても右命令に重大かつ明白な瑕疵がないかぎり無効とはいえない。本件において、現実の予算配付は、毎年第一回目が六月ないし七月頃、第二回目が翌年二月ないし三月頃、追加配付が次年度の四月ないし五月頃であるが、第一回目の配分は内示されるに過ぎないから、当該年度の旅費予算総額は結局翌年度の四月か五月に至つて追加配分額が配付されないと確定しないから、旅行命令が発せられた当時は果して予算超過になるのかどうかは不明確である。このような不確定な状態で、予算超過の旅行命令を無効とすることは行政行為の安定性を害するものであり、予算額が必ずしも原告らに明らかでなく、しかも原告らは所属学校内の旅行命令をすべて知悉しているわけではないから、どの時点の命令から予算を超過するか明白ではない。従つて、予算を超過したという一事をもつてその旅行命令に重大かつ明白な瑕疵があつたとはいいがたい。
3、(旅行の内容)旅費条例所定の旅行の要件は、内容が公務であることを要するのみ(旅費条例一条一項)であるが、原告らの主張する旅行はすべて教育活動あるいは教育行政の円滑化のために行つたものであるから公務である。被告は、原告ら主張の旅行中には、旅費条例所定の旅行とそうでない旅行がある旨主張するが、その主張にかかる区別の基準はきわめて不明確といわざるをえない。
 また被告は旅費条例所定以外の旅行命令により支給される旅費は地方公務員法三八条にもとづく報酬にすぎないと主張するが、同条は公務員の職務外の活動を対象としているのであつて、公務員の職務として行われた本件各旅行に適用される余地はない。
4、(原告cに対する特別事情)原告cの旅行命令はいずれも校務処理の必要上みずからの裁量にもとづいてなされたもので有効である。また、旅行当時、右原告は当該年度の旅費予算を知りえなかつた。
三、抗弁第三項1、2の事実(旅費請求権の放棄)は否認する。
 かりに右事実が認められるとしても、公法上の請求権たる本件旅費請求権を事前にかつ包括的に放棄することは公序良俗に反し無効である。
四、抗弁第四項の事実(事実たる慣習の存在)は否認する。
五、抗弁第五項は争う。
六、同第六項も争う。
 本件旅費請求権の消滅時効期間は次のとおり五年である。すなわち、もともと旅費請求権は、費用償還請求権の性質を有するから、労動基準法一一五条所定の賃金、災害補償その他の請求権にあたらないのであつて、民法一六七条により消滅時効期間は一〇年間とされる性質のものである。賃金や諸手当については、相殺禁止(労働基準法二四条)、附加金の支払(同法一一四条)、不払いに対する制裁(同法一一七条以下)等により労働者を保護し、他方同法一一五条により民法一七四条所定の給料債権の時効期間一年間を二年間に延長しているのであるから、前記のごとき性質を有する旅費請求権について、その時効期間について労働基準法一一五条を適用して労働者に不利益を与えうるものではない。ところで、地方自治法(昭和三八年法律九九号により改正前のもの)二三三条によれば、普通地方公共団体の支払金の時効については政府の支払金の時効によると規定されており、右政府の支払金の時効期間は会計法三〇条により五年間とされているのであるから、本件旅費請求権の消滅時効期間は五年間であり、したがつて、原告らの旅費請求権の時効は完成していない。
七、抗弁第七項は争う。
 請求の様式あるいは書式のごときは、本来訓示的なものであり、効力要件ではないから、これに若干の相違があるからといつてただちに請求権が否定されるべきではない。実際の請求手続も各学校によつて異り、一般職の職員等の旅費に関する条例施行規則(昭和二九年山口県規則七六号)別表第二の二号様式で請求している学校もあれば、同規則別表第二の四号様式で請求している学校もあり、また請求書も出さず別表第一の命令簿だけで請求している学校もあれば、右命令簿なしで請求している学校さえある。結局、右規則の趣旨は、旅費条例に定める旅費請求権の要素(時、目的地、用務、日数等)を明らかにする点にあり、原告らは、別紙目録においてこれらの要素を明示して請求しているから手続的に何らの瑕疵はない。第八、証拠関係(省略)
理由
一、被告の本案前の抗弁について
 被告は、本訴請求が地方自治法二〇六条(昭和三七年法律一六一号改正前のもの)一項所定の給付に関し異議のある場合に該当するにもかかわらず、同条項の訴願前置の要件を欠くから、不適法な訴えであると主張するのでこの点につき判断するに、原告らが一般職の地方公務員であることは当事者間に争いがないところ、前記地方自治法二〇六条によれば、給与その他の給付に関し異議のある場合は同条所定の訴願を経たのちに裁判所に出訴しうるものとされており、地方公務員法四九条によれば、意に反する不利益な処分を受けた場合は、同条所定の審査請求をなしうるとされているが、右地方自治法二〇六条所定の「給付に関し異議のある場合」ないし右地方公務員法四九条所定の「不利益な処分」とは、抗告訴訟の対象となる行政処分をいうものと解すべきであるから、本訴請求のごとき行政処分に対する不服ではなく当事者訴訟たる旅費額の給付を求める訴えは、同法所定の訴願前置の手続を経る必要はないものといわなければならない。よつて、被告の本案前の抗弁は理由がなく採用できない。
二、原告らの身分について
 原告らの別紙目録身分欄記載事項のうち、勤務校、職名ならびに原告f(旅行番号二、以下原告名下のかつこ内数字は旅行番号を示す)ほか後記原告ら二九名を除くその余の原告らの各職務の等級については当事者間に争いがなく、乙第八号証、第一五号証の各原告名下の印影が各原告の印章によるものであることは原告g、同e各本人尋問の結果により認められるので少くとも職務の等級欄の部分については真正に成立したものと推定すべき乙第八号証、第一五号証およびこれと証人hの証言、原告i、同j、同b、同(昭和四二年四月二八日本訴取下)k各本人尋問の結果により各原告名下の印影が各原告の印章によるものであることが認められるので少くとも職務の等級欄の部分は真正に成立したと推定すべき乙第七号証、第九号証、第一〇号証、第一二号証、第一三号証の一、二、第一七、第一八号証、第一九号証の一、二、第七七号証の一ないし三、第八〇号証の一ないし三によれば、職務の等級はそれぞれ原告l(七の一五)は二等級一五号給、同m(八の一ないし六)は同級九号給、同n(九の八、九)は同級一二号給、同g(一五の二)は同級二三号給、同o(一九の一)は同級一六号給、同p(二一の一ないし三)は同級一九号給、同d(二四の一ないし三)は同級一七号給、同e(二九の七)は同級一四号給、同q(三一の一ないし八)は同級三一号給、同c(三五の二五ないし二八)は一等級二一号給、同r(三六の一ないし八)は二等級一五号給であることが認められる。また、原告s、同t本人尋問の結果によれば、右各原告(一三の一ないし三、三三の五)の職務の等級はそれぞれ二等級一三号給、同級一七号給と認めることができ、原告f(二)、同u(四)、同i(五の四、五)、同v(六の一、二)同l(七の一六ないし一九)同n(九の一ないし五、七)、同w(一〇)、同x(一一の二)、同b(一二の一ないし三)、同y(一七の一ないし七)、同z(一八の一、二)、同p1(二二の一)、同p2(二六の一、二)、同p3(二八の一ないし九)、同p4(三〇の一ないし六)、同j(三二の一ないし四)、同p5(三四の一ないし五)についての各職務の等級については弁論の全趣旨により右各原告らの別紙目録身分欄中の職務の等級に対する被告の答弁欄記載の等級のとおりに認めることができる。
三、旅行命令および旅行事実
 原告g(五一の一ないし四)、同o(一九の一)、同p(二一の四)、同p6(二三の一)、同d(二四の二ないし五)、同e(二九の七)、同q(三一の一)、同c(三五の四、六、一八)、同r(三六の三、四、六、七)に関するそれぞれ別紙目録旅行命令欄、旅行事実欄記載の各旅行命令および旅行事実については当事者間に争いがない(もつとも、そのうちの一部につき当事者の主張に若干のくい違いがあるが、当該各原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる検甲第一四号証の四ないし六、八、二〇、三四、同第一六号証の六、同第一九号証の七、同第二〇号証の三によつて原告ら主張のとおり認められる)。検甲第二号証の一一、同第八号証の二ないし一〇、同第九号証の一ないし五、同第一〇号証の二ないし一九、三一ないし三八、同第一一号証の二ないし一〇、同第一二号証の一ないし六、同第一三号証の二ないし一〇、同第一四号証の二ないし二三、二七ないし二九、三一、三三ないし三六、同第一六号証の二ないし四、六、七、同第一七号証の二ないし九、同第一八号証の四ないし六、同第一九号証の二、四、六ないし九、同第二〇号証の一ないし四、同第二一号証の二ないし八、証人p7、同p8、同p9、同p10、同p11、同hの各証言、原告a、同i、同l、同b、同s、同p12同g、同e、同p4、同j、同t、同p13(昭和四二年六月八日本訴取下)、同m、同n各本人尋問の結果によれば、原告v(六の三)ほか後記一〇名を除くその余の各原告らが、それぞれ別紙目録旅行命令欄記載の旅行命令(但し、原告l(七の一五)については、同原告本人尋問の結果により旅行命令発令日は昭和三七年二月七日、同a(三の一)分の帰校日は同三六年五月二三日と認めることができる。)により同目録旅行事実欄記載の各旅行をしたことを認めることができ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。しかしながら、原告v(六の三)、同n(九の七)、同p14(一六の二)、同o(一九の二)、同p15(二〇の三)、同p1(二二の二、三)、同p6(二三の二)、同d(二四の六)、についてのそれぞれ別紙目録旅行命令および旅行事実は、本件全証拠によるもこれを認めることができない。また、原告s(一三の三)の旅行については、成立に争いのない乙第八二号証の一、二によれば、同原告はその主張にかかる年月日に日直勤務日として装港小学校において勤務していたことが認められ、同原告も右旅行は同年五月ころのものであるかのごとき供述をしているのであるから、同原告に対する別紙目録中当該旅行命令欄および旅行事実欄記載の事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
四、旅費額
 原告らが一般職に属する学校職員たる地方公務員であることは当事者間に争いがないところ、公務のために旅行する一般職の地方公務員に対し支給する旅費については、昭和二九年山口県条例第六〇号一般職の職員等の旅費に関する条例(以下、旅費条例という)により規定されてきたが、同条例はその後逐次一部改正がなされ、原告らの本件各旅行に対しては、昭和三三年一二月二二日山口県条例四八号、同三五年六月二八日山口県条例三八号による一部改正後の旅費条例が適用されることとなり、旅費条例三条によれば、職員が旅行命令権者の命令により旅行した場合には当該職員に旅費が支給されることとされ、同条例六条は旅費の種類として鉄道賃、船賃、車賃、日当、宿泊料等を定め、その旅費額算出方法につき鉄道賃は同条例一六条に、船賃は同一七条に、車賃は同一九条に、日当は同二〇条に、宿泊料は同二一条にそれぞれ規定されている。ところが、右条例にもとづく旅費額算出方法は、昭和二六年山口県条例二号「一般職の職員等の給与に関する条例」四条三項所定の行政職給料表による職務の等級を基礎としているが、原告らは昭和三二年一〇月一日山口県人事委員会規則四号「給料表の適用範囲に関する規則」九条により教育職給料表(三)の適用を受けるので、同二九年山口県規則「一般職の職員等の旅費に関する条例施行規則」(その後同規則は昭和三一年一一月一日山口県規則六四号、同三二年一一月三〇日同規則九〇号の五、同三三年一二月二六日同規則一一八号、同三四年七月二八日同規則六〇号、同三五年一二月二日同規則九二号、同三六年九月一日同規則五二号の二、をもつて逐次一部改正された)二条の二によりこれを行政職給料表による職務の等級に換算すると、原告らの請求原因第三項記載のとおりとなるところ、前記昭和三二年山口県規則九〇号の五付則二項によれば、昭和三二年一二月一日以後の本件旅行については、教育職給料表(三)の三等級一一号給以上は行政職給料表の四等級に匹敵する旅客運賃を支給することとされている。以上のとおりであるから、結局原告らに支給される旅費は大略次のごとくとなる(職務の等級は教育職給料表(三)による)。
(一)、鉄道賃のうち、
1、(旅客運賃)山口県内旅行はすべて二等運賃、同県外旅行は、三等級一一号給以上は一等運賃、三等級一〇号給以下は二等運賃を支給する。
2、(急行料金)路程が片道一〇〇キロメートル以上の場合に、山口県内旅行はすべて二等の急行料金、同県外旅行は、旅客運賃の等級別と同等級の急行料金を支給する。
(二)、船賃
 旅客運賃の等級を三階級に区分する船舶による旅行の場合は、三等級一一号給以上は二等運賃、三等級一〇号給以下は三等運賃を支給し、二階級に区分する船舶による旅行の場合は、三等級一一号給以上は上等運賃、三等級一〇号給以下は下級運賃を支給する。
(三)、車賃
 全路程を通算して路程一キロメートルにつき六円の割合による車賃を支給する。(四)、日当
 旅行中の日数に応じ一日につき、一等級のうち二〇号給以上は三八〇円、一等級のうち一九号給以下は三三〇円、二等級のうち一六号給以上は二九〇円、二等級一五号給以下同級一二号給以上は二六〇円、二等級一一号給以下は二三〇円を支給し、鉄道一〇〇キロメートル未満、水路二五キロメートル未満または陸路二五キロメートル未満の旅行の場合は、日当額は右額の各二分の一に相当する額を支給する。
(五)、宿泊料
 旅行中の夜数に応じ一夜当り、一等級のうち二〇号給以上は甲地方一、九五〇円、乙地方一、五六〇円、同級のうち一九号給以下は甲地方一、七二〇円、乙地方一、三七〇円、二等級のうち一六号給以上は甲地方一、四七〇円乙地方一、一七〇円、二等級一五号給以下同級一二号給以上は甲地方一、三四〇円、乙地方一、〇八〇円、二等級一一号給以下は甲地方一、二二〇円、乙地方九八〇円を支給する(甲地方とは、一般職の職員の給与に関する法律(昭和二五年法律九五号、但し昭和三二年法律一五四号による改正前のもの)一二条の規定による勤務手当の支給地域の区分が四級地とされていた地域をいい、乙地方とは、その他の地域をいう)。
 但し、原告p16(一)に対する旅行命令は昭和三五年五月一九日に発せられたが、右当時の鉄道賃および船賃は、山口県外旅行の場合二等級一二号給以上が一等運賃を各支給することとされ、その余の旅費額は前記と同一基準で支給することとされていた。
 ところで、旅行命令権者の発する旅行命令は、旅費条例所定の旅費をもつて所定の旅行をなすべきことを内容とするものであるから、右旅費請求権は当該旅行命令の発令により発生すると解すべきところ、以上の旅費計算上必要な路程の計算は、旅費条例八条により同条所定の路程表によつて算出することとされ、在勤地内の旅行については、同条例二六条に特例が定められているが、原告i(五の一、四)、同j(三二の二、五)の各旅行は、いずれも在勤地内でかつ右旅行距離は八キロメートル未満であつて旅費の支給されない右特例の場合にあたるから、右各原告らの当該旅費の請求は失当である。その余の原告らの各旅行については、成立につき争いのない検甲第二二号証ないし四、証人p17、同p18、同h、同p11の各証言、前記a、同i、同l、同b、同s、同p12、同g、同e、同p4、同j、同t、同p13、同m、同n各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、各旅行の路程ないし費用は、原告ら主張の別紙目録の鉄道賃、船賃、車賃、日当、宿泊料欄記載のとおりとなることが認められる(但し、原告x(一一の二)の旅費のうち、日当は一日当り二三〇円、宿泊料は一日当り九八〇円、同y(一七の一ないし七)の旅費のうち、各日当は一日当り二六〇円、同r(三六の一ないし八)の旅費のうち、各日当は一日当り二六〇円、宿泊料は一日、一、〇八〇円であることが認められる。)。
五、被告の弁済の抗弁について
 被告は、原告g(一五の一ないし四)、同o(一九の一)、同p(二一の四)、同p6(二三の一)、同d(二四の二ないし五)、同e(二九の七)、同q(三一の一)、同c(三五の四、六、一八)、同r(三六の三、四、六、七)の各旅行につき、それぞれ別紙目録各抗弁欄記載のとおりの年月日に同記載の旅費条例所定旅費の全額ないし一部を弁済した旨主張するのでこの点につき判断するに、証人p7の証言により真正に成立したと認められる乙第二二号証、証人p11の証言により真正に成立したと認められる乙第二四号証、原告t本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一八号証、証人p9、同p19、同p18、同p7、同p20、同p21、同h、同p8、同p11の各証言、原告t、同l、同a各本人尋問の結果および分離前の昭和三八年(ワ)第九六号事件原告p22本人尋問の結果を総合すれば次の事実を認めることができる。山口県の各年度の県費負担教職員の当初旅費予算は当該年度中の六月ごろまでに各学校宛に配分されて支給されてきたが、各学校は右旅費予算を受領するに際し、それぞれ配分された予算額の範囲内では原告ら教職員の行うべき出張旅行の旅費のすべてをまかなうに不足することから、後記説示のとおり山口県旅費予算およびP・T・A会費からの補助金等を当該学校用旅費として一括保管しておき、各旅行に対し旅費条例所定の旅費より少い基準によつて右保管旅費から漸次分配することとしていたので、それぞれ年度毎に配分された旅費予算額を受領する方法として、各学校は山口県に対し右予算額に相当するような実際の一部の旅行命令ないし架空の旅行命令による旅行につき条例所定の旅費を請求して右予算額を受領してきたこと、被告においても右事情を熟知しており、このように各学校からなされた旅費請求手続は、当該年度予算を年度始めに配分するための便法にすぎず、したがつて被告も右手続においては、請求された個別的旅費を支給する意思を有しているものではなかつたことおよび、被告が弁済したと主張している前記各旅費もまた右のような旅費請求手続により交付されたものであることを認めることができる。右認定をくつがえすに足る証拠はない。そうすると、被告の旅費額の交付は、旅費予算の配分の方便としてなされたものというほかなく、本件の個別的各旅費に対する弁済とは認めがたい。
六、予算超過の旅行命令について
 被告は、旅行命令権者は予算の範囲内で旅行命令をなしうるにすぎないのみならず、学校長は予算の範囲内での旅行命令権限を教育委員会から委任されているにすぎないから、右制限を超えた命令はいずれにしても無効である旨主張するので、まず旅行命令権限の所在について検討するに、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、単に地教法という)二三条、四三条一項によれば、原告らのごとき市町村立小中学校の教員の職務に関する一般的な服務監督権は各市町村の教育委員会に属するものとされているが、本件旅行命令(ただし、研修旅行命令のうち後記旅行命令を除く)はいずれも、その性質上各学校がそれぞれの教育環境状況のもとにその必要性等を考慮して発令されるもので、各学校固有の教育事務の一環として行われるのであつて学校教育法二八条三項、同法施行規則二二の二、三項所定の校務分掌命令の性質をもつものといえるから、右各条により右旅行命令権限は各学校長がこれを有しているものと解すべきである。しかし、又、地方公務員法三九条二項、地教法二三条八号、四五条一項によれば、都道府県ないし市町村教育委員会は教職員に対する研修を実施するものとされ、右研修について何らの制限が設けられていないから、右委員会は原告らに対する研修を主催、実施し、これに参加させる機能を有しているものというべきこととなる。したがつて、本件研修旅行命令のうち、右委員会の実施する研修のために各学校長の発した旅行命令については、各学校長が右委員会からその発令を委任されていたものとみられるのであるが、(地教法二六条一、二項参照)右旅行命令がかりに「予算の範囲内」という右委任の範囲を逸脱したものであつても、左記に説示する如く、「予算の範囲」超過の本件旅行命令といえどもこれを無効なものとは断じがたいのであるから結局、被告の右主張は失当である。
 そこで、各学校長の発した旅行命令が予算を超過した場合の効力につき考える。地方自治法二〇四条の二、地方公務員法二四条六項によれば、地方公務員に対する旅費の支給は条例にもとづいて支給すべきこととされ、旅費条例四条によれば、旅行命令権者は旅行命令を旅費予算額の範囲内で発令しなければならないとされている。しかしながら、もともと予算じたいは、予算の執行者に対しその支出権限を与えるとともに、予算額以上の支出行為を制限するものであつて、その拘束力は当該予算執行者のみを対象として予算執行者以外の者に対しその拘束力を及ぼすものではないが、前記のとおり、旅費条例は旅費予算額の範囲内でのみ旅行命令を発すべき旨規定しているのであるから、右予算額を超過した旅行命令は条例に違反する違法な行政行為というほかないのであるが、その違法が重大かつ明白である場合の外は、これを法律上当然無効となすべきではない。本件においてこれを見るに、前記説示のとおり、各学校の予算額は毎年度初めに当初予算が示達されるが、成立に争いのない甲第五号証の二、四、六、第六号証の二等によればその後にも年度末に僅少ではあるが追加予算が決定配付されることが認められるのであつて、結局当該年度の予算合計額は正確には年度末において確定するのであるから、本件各旅行命令のうちいかなる時点の命令から右予算合計額が超過するに至るかについては旅行命令当時においては必ずしも明確とはいえないのである。また、原告ら教職員にとつてみれば、学校内の全旅行命令の数、旅費累計額を容易に知りうべき事情にないことは弁論の全趣旨にてらし容易に推認しうるところであるから、当該年度の示達予算額の総額が総出張旅費をまかなうに足りないことはわかつていても、果して当該旅行命令が予算の範囲内であるか否かは必ずしも判然としていない状態であつたといいうる。このような事実関係のもとにおいては、かりに本件旅行命令が予算額を超過していたとしても、当該命令発令当時にしかく明白な瑕疵が存しないのであるから、本件旅行命令は法律上当然無効とは断じがたい。
 ところで、被告は原告cのみに対する抗弁として、同原告は旅行命令権者たる学校長の地位にあつて予算が不足するのを知りながら自らに対し本件各旅行命令を発したものであるから、右原告に対する旅行命令は無効である旨主張する。
 そこで審究するに、原告cが本件旅行命令発令当時、島中小学校長の職務にあり、前記説示のとおり旅費予算は毎年度各学校宛に配分支給されてきたところ、成立に争いのない甲第五号証の三、四および証人p20の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二一号証の一によれば、昭和三六年度の島中小学校分の旅費予算は合計四万五、一五二円と内示されたことが認められるが、同原告に対する旅行命令のうち、どの旅行命令から予算不足の状態になつたかについては、同校勤務の教職員で本件原告となつていない者についての旅行命令が明らかにされていないため、本件全証拠によるもこれを確知することができない。従つて、かりに、旅行命令権者たる右原告自身の予算超過の旅行命令はこれを無効と解すべきものとしても、結局どの時点からの旅行命令がその対象となるかが明確でないから、被告の右抗弁も採用するによしない。
 次に、被告は、旅費条例所定の旅費が公務の旅行に対し支給されるものであつて公務でない旅行に対しては右旅費を支払う義務がないと主張するので判断するに、右条例所定の旅費は公務のためにする旅行に対してのみ支給されるべきであることはいうまでもないが、証人p21の証言によれば、公務のための旅行とそれ以外の旅行とを区別する基準はさほどに客観的に明確でなく各学校長の判断に委ねられていたものと認められ、本件において各学校長と原告らの関係はいわゆる特別権力関係にあつて、各学校長がどの教職員にいかなる旅行命令を発するかを決定するにあたつては、当該旅行の公務としての重要性、他の校務への影響、旅行者の希望等学校内外の諸般の事情を考慮する必要があるから、当該旅行が社会通念上明らかに公務としての性格を欠き著しく裁量権を逸脱した明白な瑕疵が認められる場合を除いて、旅行命令は旅行命令権者たる当該学校長の自由裁量行為というべきである。しかして、本件各旅行命令が社会通念上明らかに公務としての性格を欠くものとは認めがたい(なお、前記証人p9、同p7、同p18、同h、同p21、同p20の各証言および前記原告p22本人尋問の結果によれば、原告ら所属の各学校では、乙第二号証の一(旅行命令簿)および検甲第一号証の一(出張命令簿)のごとき二種類の様式の旅行命令簿を備え、前者の命令簿によつて旅費条例所定の旅費を請求し、後者の命令簿は各学校内で後記説示の内規によつてその旅費を支給する際のいわば控え簿であるが、前者の命令簿は内規によつて旅費が支給される旅行命令の一部ないし架空の旅行命令を便宜記載したものであることが認められるから、両命令簿によつて公務のための旅行とそれ以外の旅行とを区別したものとは認められない)。よつて、本件旅行命令が無効であるとの被告の主張は理由がない。七、事実たる慣習および旅費請求権の放棄について
 前記乙第二二、第二四、第八一号証、成立に争いのない乙第七八号証の三、証人p9、p19、p21、p20、p7、p11、p8、p18、hの各証言、前記l、p13、g、a、e、i、p4、m、s、t、分離前の昭和三八年(ワ)第九六号事件原告p22、同p23、同p24の各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。
 山口県から県下各小中学校に配付される教職員の旅費予算額は、その額が僅少なため、旅費条例所定の基準額によつて旅費を支給するとすれば、固有の校務処理上必要不可欠の出張旅行をまかなえる程度で、研修旅行(教育という仕事の性質上、教職員自らの研修は必要な事柄であつたから、教職員自身もそのための各種研修会、研究会、講習会、講演会等への出席すなわち研修旅行を希望し、校長もまたその必要を認めていた。)やその他校務上有益なさまざまの出張旅行をまかなうことができない状況であつたためこの欠陥を補なうべく、戦後から本訴提起時ころまで引きつづき各学校に共通の現象として、旅費について次のような処理が行われてきた。すなわち、先づ、すでに説示した如く、各年度毎に県から配付される旅費予算額を受領する便法として、各学校は、右予算額に相当する旅費額(条例所定の基準によつて計算したもの。)の旅行命令を、実際に発令された旅行命令のうちから摘出し、あるいは右旅費額に相応する架空の旅行命令を作出し、県に対してこれら旅行命令にもとづく旅費の請求手続をしてこれが旅費を受領し(このような便法は県の関係機関の指導にもとづくものであつた。)、これとPTAないし後援会費から研修旅費その他の名目で援助をうける補助金とを一括して、これを教職員旅費の財源とする。一方、右財源の量を勘案した各学校ごとに、旅費条例所定の基準より低い基準の旅費額を定めた内規を作成し、校長は固有の校務に必要不可欠の出張のほか、研修旅行その他校務上有益とみられるさまざまの出張に対し広く旅行命令(たとえば、本件旅行命令中にも、教職員の懇親を目的とする研修旅行、教職員体育大会への参加、外部団体の行事への参加、等のための旅行命令がみられる。)を発し、かつ、この旅行に対してはすべて右旅費内規にもとづく低い基準の旅費を支給することによつて、教職員の研修旅行その他の希望にも応えながら、広く校務を処理してきた。このような旅費内規は、校長が年度はじめにその原案を作成し、教職員会議その他の機会に各教職員に提示されたもののほか、従前からあつたのをそのまま承継したものもあつたが、いずれにしても、各教職員とも支給される旅費額が条例所定のそれよりも少くなるので不満ではあつたが、研修旅行等の機会をできるだけ多く得たいとの希望とも相まつて、少い配付予算額を前提とするかぎり、この処置はやむをえないものとして結局、右旅費内規に明示ないし黙示の同意を与え、もつて個個の具体的出張旅行にあたつては、旅費内規による旅費額を受領し、これと条例所定額との差額を請求することなくこれを放棄する、という取扱いをしてきた。
 右認定事実によれば、右のような旅費運用方法すなわち、研修旅行その他広く旅行命令を発することを前提としての旅費内規による旅費支給、つまりこれと条例所定額との差額の請求権の放棄は、本件旅行命令発令前すでに永年の慣行により民法九二条所定の事実たる慣習を形成していたものと認めるのが相当である。(右法条は、公務員の旅費請求権の放棄という公法上の関係についても類推適用しうるものと解すべきである)もちろん、右のような慣習は、配付予算が少いがために考案された苦肉の策のもたらしたものともいえるもので、行政的には、決して放置してよいものではなく、配付予算の増額は別途考慮されるべき問題としても、予算を勘案した旅行命令の適正化によつて条例所定の旅費額が支給されることが望まれることは山口県人事委員会の指摘するとおりであろう(成立に争いない甲第一号証参照)けれども、だからといつて、法律的には、このような慣習をも当然無効のものとはいえない。けだし、本件旅費請求権は公法上の権利とはいつても俸給などとは異り、これが放棄を認めても公益を害するような性質のものではないのであるから、個個の旅行命令の発令に際しこれを放棄することは許されるものというべきだからである。
 右の次第であつて、原告らの本件旅行以前に、右のような慣習が存在したのであるから、本件旅行命令については特に右慣習によらない旨の反対の意思表示をしないかぎり、原告らは右慣習による意思を有したものと認められるところ、原告a、b各本人尋問の結果によれば、右原告両名は、年度始めに各所属校長から提示された旅費内規の作成に対し、それぞれ反対の意向を明示し、かつ、各所属校長に対し予め条例所定の旅費額の支給を要求していた事実が認められるから、同人らは本件各旅行については右慣習による意思を有しなかつたものと認められる。したがつて、原告a、bの両名については、民法九二条を適用することはできない。
 ところで、成立に争いのない甲第一号証によれば、原告r、p12、v、fが本件旅行命令の発令前に原告aほか訴外の五〇〇名余の教職員と共に山口県人事委員会に対してなした多項目の措置要求のうちには、条例所定の旅費額を支給すべき旨の一項目を含んでいたことが認められるから、この事実から推すと、同人らもまた本件旅行については右慣習によらない旨の反対の意思表示をなしていたものと推認されないでもない。しかしながら、前記説示のとおり、各学校の旅費内規については、各教職員とも支給される旅費額が条例所定のそれよりも少なくなる点に不満であつたが、研修旅行等の機会をできるかぎり多く得たいとの希望等から、旅費予算が増額されない事情のもとでは、右内規による旅費支給の処置もやむをえないものとしてこれに同意していたのであり、また、条例所定の旅費額を支給すべき旨の前記措置要求後においても右内規による取扱いに従つていたものであり、証人p7、p18の各証言、原告p12、iの各本人尋問の結果に照しても、右原告ら四名が特にその例外であつたとは認められないことなどに鑑みれば、右原告らのなした前記措置要求も、結局のところ、旅費予算の増額を要求しているのであつて、条例所定の旅費の要求は右配付予算の増額要求を意図する一手段であつたと認めるのが相当である。換言すれば、右措置要求は、旅費内規による従前の旅費運用方法に対して現実に、無条件に反対の意思表示を表明したものとみるべきではなく、(すなわち、右原告らは研修旅行等の機会がなくなろうとも条例所定旅費を要求するとまで考えていたとは認めがたい。)右のごとき運用方法を余儀なくせしめているところの配付予算額の不足の是正を求める点にその真意が存したと認めるのが相当であるから、右措置要求の一事をもつて、本件旅行命令につき特に前記慣習によらない旨の意思表示をしていたものと推認することはできないものというべきである。 また、その他の原告が特に右慣習によらない旨の反対の意思表示をしたことを認めるに足る証拠はない。すなわち、当該各原告本人尋問の結果によれば、右原告らのうち旅費内規による少ない旅費額について不満であつた者もあるが、結局同人らは配付予算額が少ないからやむをえないものとして、あえて反対の意向を示さなかつたことが認められる。もつとも、原告eは、旅費内規によつて旅費を受領する際、係員に金額につき異議を留め、あるいは所属学校長に対し正当旅費を支払うべきことを申出た旨を供述しているが、当該学校教頭たる証人hの証言によれば、同原告は同証人に対し前記旅費運用方法じたいに反対の意思を表明していなかつたことが認められ、右事実および同原告の旅行回数(一七回)、旅行内容(研修旅行を含む広範な内容)等諸般の事情を総合すると、同原告が右慣習によらない旨の意思を有していたものとは認めがたいのである。
 したがつて、原告a、同bを除くその余の原告らは、右慣習による意思を有したものと認めるべきであるから、民法九二条により右慣習に従い、本件旅行について旅費内規による旅費額と条例所定の旅費額との差額の請求権はこれを放棄したものといわなければならない。
八、クリーン・ハンドの主張について
 本件請求がクリーン・ハンドの原則にてらし許されないとする被告の主張は、本件旅行中に、公務のための旅行とそれ以外の旅行とが含まれていることを前提としているが、既に説示したとおり、原告a、同bらの本件旅行はすべて公務の旅行といわざるをえないのであるから、右抗弁は主張じたい失当である。
九、旅費の請求方式について
 被告は、旅費条例所定の旅費請求様式によらない請求には応ずる義務がない旨主張するところ、前記旅費条例施行規則四条により旅費請求書の種類、記載事項および様式が定められているが、前記のとおり旅費請求権は旅行命令によつて発生するものであつて、右施行規則は単に、事務処理上請求方法を統一したにすぎないものとみるべきであるから、右被告の主張も原告a、同bの請求を拒みうべき理由とはならない。
(結論)
 以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告a(三の一、二)の合計金六、六三〇円、同b(一二の一ないし三)の合計金七、三二〇円およびこれらに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和三七年一一月三〇日から右各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は正当であるからこれを認容し、その余の原告の各請求はすべて失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法九二条、九三条、九五条を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととして主文のとおり判決する。
(裁判官 荻田健治郎 小川喜久夫 遠藤賢治)
(別紙目録省略)
判例本文

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